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第2章

狭い場所で、戦闘開始!

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地点を確保する意味は、ダンジョンから脱出するための目印にするためだ。
ゲームとかではよくあるだろう?ボスを倒した後その場から一気に脱出する魔法。
来た道をいちいち戻るのは面倒だし、ビーのアクロバット飛行を味わうのは御免だし、何よりそう、時間を有効に活用するためだ。
徒歩40分の道のりをタクシーで5分。それならば俺は金を払ってタクシーに乗る。この場合タクシーに乗るための金を消費するわけではなく、時間を金で買うと考える。そうして大人は汚くなって…いや、そうじゃない。

「時間って大事だよねー、と」

魔石を設置した理由を歩きながら説明すると、ブロライトは目を輝かせ、クレイストンは理解できないと目を瞬かせた。
この驚きっぷりを見ると、この世界にダンジョン脱出の為のワープゲート的なものは存在しないらしい。やらかした後で説明が面倒だったが、これは慣れてもらうしかない。

ちなみに目印の位置を地点(ポイント)するにも理由がある。探査(サーチ)でここが入り口ですよと知らせるためだ。脳内に展開する地図でビーコンのように点滅し、転移門(ゲート)を魔法で作ればその目印に向けて瞬間移動できるという。これはSF映画の知識を利用させてもらった。せっかく持っている空間術を利用しない手は無い。

ただし、転移門(ゲート)は一方通行の一回こっきり。しかも俺が同行しないと移動が出来ない。様々な場所に地点(ポイント)すればいいが、そのぶん魔石を作らなければならない。意外に不便っちゃ不便。

「タケル!貴殿は凄まじいな!誰も思いつかぬだろうことを赤子の手を捻るように思いつき、屁のかっぱのように実現してしまう!」
「うん、称賛は嬉しいが例えが悪いな」
「素材採取を生業としているものは皆そのような素晴らしき技を持つのか?」
「いや、他の素材採取家の仕事を俺は知らない。俺のは全部自己流」

この世界に一人落とされ、誰にも何も聞けず全て己の判断でやってきた。
そんな俺を手助けし、親切にしてくれたトルミ村やベルカイムの住人のおかげで今の俺はある。感謝は忘れませんよ。天狗になって身を滅ぼして行った前世の知人達を反面教師とし、俺は謙虚に今日という日を着実に生きていくのだ。

「旦那、ここいらは少しだがイルドラが残っていると思うぜ」

ザンボ氏が鉄鉱石が混じるイルドラ石の層をツルハシで叩く。
何の変哲もないただの岩の壁に過ぎない場所を示したが、クレイもブロライトも首をかしげていた。俺も魔法の力が無ければただの壁にしか見えない。

「調査(スキャン)」


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鉄鉱石 ランクE

イルドラ石 ランク圏外

銀鉱石 ランク圏外


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壁を掘り続ければいくつかの塊が出てくるだろう。しかし、ランクが低い。他の種類の鉱石もいくつかあるようだが、取引できるようなものは無い。

「鉱脈としては少し反応が弱いな。もう少し先に行こう」
「ほっほう、旦那さすがだな。確かにこの場はあらかた採掘済みだ。試したようですまん」
「別にいいさ。ランクFの素材採取家なんて信用できるわけがないからな」

プライドある素材採取家ならばこんな試すようなことをされたら不愉快になるかもしれない。が、俺には素材採取に関してプライドなど微塵も無い。だって全部魔法の恩恵なんだもの。

「ピュッ」
「…む」
「タケル、ザンボ、後ろに回れ。壁を背にしろ」

道なりに小一時間ほど進むと、頭上のビーが警戒警報を発令。と、同時にブロライトとクレイも異変を察知したようだ。二人とも凄いな。

「何か来るのか?」
「ヒイイッ!先日来た時、ここはまだモンスターが出てこなかったのに!」

ザンボ氏を俺の背後に隠し、無詠唱で探査(サーチ)を展開。100mくらい先のうねった角に黒点滅有り。真っ直ぐこちらを目指しているようだ。

「クレイ、ブロライト、種類はわからないが5匹こっちに向かっている」
「うむ、わたしも同じ見解じゃ。足音が複数あってわからぬが、これは…虫系のモンスターかもしれぬ」

ただでさえ狭い坑道内でクレイの槍は荷物になる。よって、クレイは鉄の剣を手に構えた。

「俺は狭い範囲内で動き回るのは不得意だ。ブロライト、任せられるか」
「任されよう!タケル、以前にわたしにかけてくれた盾(シールド)を今一度貰いたい!」
「了解。灯光(ライト)も光量を増やすぞ」

少し広がった場所に移動し、隊形を整える。正面にブロライト、続いてクレイ、ビーは俺の頭で警戒態勢。俺はザンボ氏と共に戦闘の邪魔にならないよう壁を背にして待機。ついでにブロライトが暴れて落盤とか困るから、ここらへん強化しとくか。

「全員に盾(シールド)展開、坑道の壁には結界(バリア)展開しておく。ブロライト、暴れまくっても落盤にはならないからな」
「それはありがたい!!」
「来るぞ!」


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ポイズンスパイダー ランクD

体液が全て猛毒の獰猛なモンスター。暗く湿った場所を好み、群れで行動する。尻から飛ばす粘着力の高い糸にも毒性が宿るが、乾燥させれば毒気は抜け強固なロープになる。
備考:食用には不向き。眉間の瞳が弱点。体液は錬金術に使用可能。

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黒い身体に紫と赤と黄色の毒々しい、いかにも毒持ってます的な風体の大蜘蛛がカサカサとやってきた。うわい気持ちわりー。こんなの食いたいとも思わないって。

「ポイズンスパイダーか!厄介じゃな!」
「ひいいいいいい!!」

ザンボ氏の悲鳴が坑道内に響き渡った。ドワーフの3倍は大きい蜘蛛だもんなあ。そりゃ悲鳴くらい上げるよな。
ジャンビーヤを両手に構えたブロライトも多少怖気づく。猛毒にまみれた手足により、ほんのかすり傷すら命に関わる蜘蛛の攻撃。おまけに狭い立地でブロライトの本来の素早い動きは半減してしまう。しかも相手は5匹。

「先手必勝ってやつだな。ブロライト、今から蜘蛛の動きを止めるから、眉間の目を狙ってくれ」
「う、動きを止める??」

蜘蛛は尻をこちらに向け、糸を出す気まんまんだ。この高速で飛び出す糸で獲物を捕らえ、巣にお持ち帰りをしてゆっくりいただくらしい。この糸っていうのも素材として欲しいが、倒してから糸線を取り出せばいいだろう。
どんなに素早くても動きを遅くしてしまえばいいんだ。

「行くぞー。行動停滞(ストップモーション)展開、ついでに状態異常防御(プロテクト・シールド)展開」

完全に行動を止めることは出来ないが、魔力が少ない相手には効果抜群。蜘蛛たちは一瞬にしてその場で動けなくなる。状態異常防御(プロテクト・シールド)は予防措置。魔法で解毒が出来るかわからないからだ。

「タケル!蜘蛛どもが止まっておるぞ!」
「今のうちに攻撃宜しく!あんまり長く持たないからな!」
「てえええーーーーいっ!」

ずしゃっ
ぐちゃっ
ばきっ

アクロバティックなブロライトの戦い方は何度見ても格好いい。動きは派手だが無駄な動きが一切無い。魅せる戦闘っていうのだろうか。バク転横転後方抱え込み2回宙返り3回ひねりなんのその。
蜘蛛も負けじと応戦しているが、自分の身体が思うように動かない事態に相当困惑しているようだ。牙を剥いて襲い掛かるがブロライトはひらりとかわして眉間を貫く。蜘蛛は絶鳴を上げる間もなく事切れた。

盾(シールド)効果のおかげで飛び散る体液をも防いでいる状況に、クレイが呆然と見つめている。そういえばまともに俺の支援魔法見るの初めてだっけ。自分で特攻するよりも、戦闘が得意なブロライトに行ってもらう方が安全確実。もちろん、ブロライトの類稀なる身体能力も不可欠だか、それにちょろっと協力するかたちでバフ(魔法で能力向上などをかける)を撒くのが俺の戦い方。

単独なら勿論俺自身で戦うが、複数で動いている場合俺は完全に邪魔になる。連携して戦うなんて真似、やったことがないからだ。こういうのは戦闘のプロに任せたほうが良い。

素早い動きであっという間に5匹の蜘蛛を絶命させたブロライトは、飛び跳ねて喜んでいる。こういうところは可愛いんだよ。

「凄いのう、凄いのう!タケルのおかげでわたしは何の憂いも無く飛び回ることが出来る!」
「盾(シールド)に頼りすぎるとブロライト本来の動きを忘れてしまうから、そこは気をつけてくれな」
「そうじゃな!」

もともとブロライトは盾(シールド)など無くても回避運動が優れている。念の為と展開するのは、モンスターの返り血を浴びて臭くなって欲しくないから…という何とも利己的な理由だったりするのです。あの子モンスターの返り血や返り臓物、気にしないで浴びるんですよ。
いやもちろん、ブロライト嬢の綺麗な肌に傷をつけてもらいたくないという理由もありましてね。

「ひいいぃぃ…」
「ピュピュ〜?」
「ザンボさん、もう大丈夫」
「ひっ?えっ?…え?ポイズンスパイダーが5匹も居たんですよ?なのにこんな早く」

ザンボ氏がやっと顔を上げると、絶命した大蜘蛛が5匹。飛び跳ねるブロライトが一人。クレイはクレイで何か言いたそうに俺を睨んでいる。
震える身体でやっと状況を判断したザンボ氏は、手を叩いて喜んだ。

「うおおおお!なんともー!」
「凄いよなあ。さすがエルフ」
「ふぉおおおお!なんとなんとー!」
「はいそれじゃあ回収」

大蜘蛛の遺体を鞄の中にするすると入れていく。生き物は入れられないが、命を失ったものなら入れることが出来る。これは専門の解体業者に任せないと毒が怖い。
ブロライトは心得たとばかりに巨大な蜘蛛を掴み、俺に手渡す。クレイもそれを見習い、2匹同時に掴んで差し出してきた。

「これはブロライトの報酬でいいかな」
「ぬっ?何を申す。貴殿らの援護が無ければ勝利は困難であった。三等分で良いじゃろう」
「俺はただ見ていただけに過ぎぬ。タケルが良いと言うのだから、遠慮なく貰っておくがいい」

報酬の分配は揉め事の1つだと聞いていた。パーティーを組んで強敵に挑むのは良いが、誰がとどめを刺したのか誰が一番多く切りつけたのだとか主張するのが当たり前。信頼しあう仲間同士ならばそんな事も無いだろうが、やはり人間、報酬に関してはシビアらしい。

そういう面倒なことが嫌だから俺はソロで動いていた。今回3人での行動に不安があったのは、報酬面でのことだけだった。

「クレイストンの恐ろしさに一瞬怯んだものもおるのじゃ。何もしておらんわけではなかろう?」
「…俺はそんなに恐ろしいのか?毒蜘蛛よりも?」

なんと言うか、今更だけどこの二人いいな。
ここで俺が俺がと主張してくるようなヤツは絶対に行動を共に出来ない。

「それじゃあ坑道内で退治したモンスター、全部ひっくるめて三等分にしよう。いちいち数を数えるのが面倒だからそれでいいよな」
「構わんぞ!」
「俺も出来うる限り多く退治したいものだ」

毒蜘蛛が流した体液を清潔(クリーン)で跡形も無く消してやる。下手に残って誰かが触れたら大変だからな。
重さの変わらない鞄を抱えなおし、先へ進む。何かが吹っ切れたザンボ氏が先頭に立ち、意気揚々と坑道の説明をしてくれた。

今進んでいる北坑道、通称玄武道は比較的新しい坑道とはいえ10年の歴史がある。ドワーフ達は身体こそ小さいが腕力は人並以上あり、ツルハシやノミ以外にも特性の採掘用魔道具を使って広く長く作る。俺やクレイのようにでかい身長でも背を屈めるほどではない造りなのは、多種多様な種族が訪れても不便の無いようにしたから。
リュハイ鉱山で鉱石採取をする冒険者も数多おり、広く門戸を開いている。そのほうが町の活性化にもつながり、儲かるらしい。

「鉱石は採取してもらえるし、滞在費なんかで金は落ちるしで一石二鳥なわけか」
「よくわかっているじゃないか旦那」
「ところで気づかなかったんだが、湯屋ってあるのか?宿には小さい風呂しか無くてな」
「湯屋かい?うーん、女用の風呂屋はあると思うが、男は風呂に入らないから」

うげへ。

「何で湯屋なんだい?」
「俺は風呂に入るのが好きなんだ。クレイもだよな?」
「左様」
「風呂が好きな種族も居るわけだろう?せっかくはるばる来たドワーフの都市だっていうのに、湯屋がひとつも無いのは残念かなと思ってさ」

種族専用の宿も受付もあるのに、湯屋だけ無いのが不満なのだ。

「うううーむ、湯屋かあ」
「多種族を広く受け入れたいなら、湯屋は必要だと思う」
「そういやあ冒険者どもの中にも居たな。湯屋はないのかと聞いてくるヤツが」

習慣ではないが、あるのなら利用したいと思うものも居るだろう。
ベルカイムですら湯屋を利用するものが居たのだから、需要はあるはず。


そんな己の欲望をしれっと提案し、俺たちは順調に奥へと進んだ。


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