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第8章〜転生王子は授業中

隠し事

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 「な……何で知ってるの?」
 俺が口元引きつらせて笑うと、カイルは半眼で俺を見つめ静かに言った。
 「召喚学で何があったか、全て聞きました」
 「え……だ、誰に?」
 俺は少しだけ眉をひそめる。
 あの時近くにいたのは生徒ばかりで、カイルに知らせに行くことができた者などいただろうか。

 するとカイルの背から闇の妖精が2匹出てきた。そしてカイルの両肩に1匹ずつ乗る。
 いつもはカイルに潜んでいるので、俺でさえあまり姿を見ないのだが……。

 【フィル様お久しぶりです!】
 可愛い敬礼ポーズで挨拶したのはキミー。カイルについている闇の妖精で5つ子兄弟の1人。兄弟の中でも明るく社交的な女の子だ。
 隣にいるのはキム。無口な男の子でほとんど喋った声を聞いたことがない。キムはゆっくりした動作でお辞儀した。

 「ま……まさか」
 俺はプルプルと指をさした。
 【はい!私たちカイルのお願いで召喚学に潜入しておりましたぁ!】
 キミーは再度敬礼する。
 つまりカイルは……受講はできないけど心配なので、闇の妖精を潜入させていたと言うわけか!
 マジかー……。
 「教室にいたなんて、全然気がつかなかったんだけど……」
 俺が脱力して言うと、カイルは自嘲気味に笑った。
 「何事も無ければ、教えることはなかったんですけどね…」
 カイルにとっても、これは不本意な事態であるらしい。
 「俺と一緒にいたの?」
 するとキミーはチッチッチと舌を鳴らした。
 【近いけどちょっと違いまぁーす!】
 楽しそうに言って、キムに合図を出す。キムがふらりと動き、レイの影に入り込んだ。そしてまたひょっこり出てくる。

 【フィル様には精霊様がついていらっしゃいますからねー。すぐ気付かれちゃうと思ったんで、レイさんに潜んでました】
 キミーの説明に目を見開く。
 こ、こわーっ!そんなの気付かないはずだ。キミーたちがカイルに知らせに出た時は、教室はパニックだっただろうし。わかるわけない。

 しかし信用のない俺も悲しいが、影を潜入に使われるとは……レイも可哀想に。
 俺が同情の眼差しで見ると、レイは不思議そうに首を傾げる。
 「え、何だその目。て言うか、お前ら何の話してんの?聞いてて、話が読めないんだけど」
 本当のことを話していいものだろうか。
 「あー……カイルがレイに……ちょっとね」
 「ちょっ、フィル様!その言い方反対に誤解招きます!」
 濁した俺のセリフに、カイルは慌てる。

 「え、俺っ?俺がどうした?」
 レイは動揺してか、ソファから立ち上がるとカイルと俺を交互に見た。
 「フィル様、普段はしませんよ。召喚学の間だけですっ!レイはきっとフィル様の近くにいると思ったので。レイにだって承諾得ましたし」
 「なぁ!何の話っ?!」
 レイがわけがわからんと、カイルの肩を掴む。
 
 「え……あれ?レイ承諾してたの?カイルが授業の間、闇の妖精をレイの影に潜ませること」
 レイの口がパッカリと開いた。
 「んなっ!聞いてねーよっ!」
 するとカイルはキョトンとしてレイを見る。
 「レイには言っただろう。フィル様が心配だから、影から授業を見させてもらうって」
 「その説明でわかるか!そう言う意味じゃないと思ったよっ!」
 そう言って近くの椅子にどっかり座る。
 確かに。その言い方じゃ別の意味に取られるわ……。

 「でも、そうか……見計らったみたいに現れたのって、そう言う理由だったんだ?」
 俺は腕を組んでふーむと唸る。
 「何かあれば、すぐ知らせるようにしていたんです。ですけど……座学だけだからって言う考えが甘すぎた」
 カイルは「ああぁぁ」と嘆きながら頭を抱える。

 【フィル様のエナ草びっくりしたよねぇ。葉はいっぱいで、花の色いっぱいだったよね、キム】
 キミーは歌いながら、キムを連れて机に置いた皆のエナ草の間をくるくると回る。
 【エナ草の葉はエナの量〜♪エナの花はエナの性質〜♪】
 授業内容しっかり聞いてるなぁ……。
 「こんなことになるんだったら俺も召喚学受講すれば良かった」
 ぶつぶつと呟きガックリと頭を下げ、鬱々とした空気を振りまいている。
 いや、あそこにカイルがいても、エナ草だけは想定外だったと思うよ……。

 「あ、ねぇ、君達。2匹でカイルに知らせに行ったの?」
 俺が気分を変えるため明るく質問すると、くるくる回るのをやめてキミーが戻ってきた。
 【キムを残して私が大急ぎでカイルの元へ行きましたぁ!すごーく大変だったんですよ!】
 胸をはるキミーに、俺は頭をかいた。
 「あはは……ごめんね。俺もあんなになるとは……」
 俺が苦笑いすると、カイルの恨めしげな視線を感じた。
 だから、そんな目で見られても困ってしまう。不可抗力なんだってば。

 「あ、あのぉ……フィル。誰と喋ってるの?」
 トーマが俺の服の裾を、控えめに引っ張った。どうやら話しかけるタイミングを計っていたらしい。
 「あぁ、キミーとキムだよ。カイルと一緒にいる闇の妖精」
 俺が何の気なしにキミーとキムを指差すと、トーマとレイとライラは指差した辺りをジッと見た。

 「……フィル、見えるのか?」
 「……て言うか、普通に会話してるわよね?」
 レイとライラにおそるおそる言われて、俺はハッとした。
 あ……普通に話しちゃってた。
 「あ、いや、そのぉ……」
 俺は視線を彷徨わせるが、それは今更な気がした。観念してコクリと頷く。

 「えーっ本当にっ?!」
 トーマは驚愕し、レイは呆然とする。
 「エナ草といい、お前何なの。やっぱりその髪の子って不思議な力でもあるの?」
 その言葉に俺はブンブンと頭を振った。
 「ち、違う違う僕は普通!……と思うけど……どうなんだろう???」
 自分自身でもわからなくなって、首を傾げる。
 「いや、普通ではないだろう」
 レイにマジマジと言われ、トーマとライラが深く頷く。アリスとカイルも微かに頷いていて、少なからずしょんぼりした。

 「カイルももしかして、姿が見えて声も聞こえるの?」
 トーマの質問に、カイルは少し躊躇したがコクリと頷いた。
 「俺の場合小さい頃からそばにいたから、闇の妖精限定だけどな」
 「そう言うこともあるのね」
 ライラが感心したように言って、レイは思い出すように顎に手をやった。
 「そういや前に、妖精と仲が良いって言ってたっけ。だけどそんなに意思疎通が出来てるとは思わなかったな」

 「じゃ、じゃあ、獣の声も聞こえたりする?」
 トーマはカイルに向かって身を乗り出すように聞いた。前々から獣の声が聞きたいと言っているトーマにとって、一番知りたいことなのかもしれない。
 「闇の妖精伝えにな」
 「本当っ?!フィルは?」
 トーマに期待するように見られ、一瞬カイルとアリスが何か言おうとしたが、それを視線で止めた。
 もうここまで話したなら、言っちゃっても違いはないだろう。
 俺は少し苦笑して頷く。
 「うん。僕の場合は妖精伝えじゃなくて、直接なんだけどね」
 「直接?!直接獣と話せるってこと?」
 皆は口をポカンと開けて、目を瞬かせた。

 「じゃ……じゃあ、今までよく話しかけてるなぁと思ったのは、会話してたのか?」
 俺やっぱり話しかけすぎなのか?
 「う、うん」
 「何でっ?どうして妖精や獣の声聞こえるのっ?」
 ライラに詰問され、俺は困ったように眉を下げた。
 「わかんない。声聞こえるのが当たり前だったし……」

 ライラは衝撃に目を見開いていた。
 「妖精は純粋な人に見えるって聞くけど。妖精の声まで聞こえて、獣まで?どんだけ純粋少年なのっ!?それとも神子の力?」
 いや、そう言われても俺だってわからない。神子の力かどうかだって確認のしようが無いし。

 トーマは羨ましい顔で、座ったまま足をジタジタと動かした。
 「いーなぁぁっ!僕一番欲しい能力だよ。ねぇ、フィル。今度エリザベスの気持ち聞いてくれる?」
 トーマなら当然言ってくると思っていた。多少は仕方ないか。
 俺は微笑んでコクリと頷いた。
 「いいよ」
 「やった!いっぱい聞きたいことあるんだ!」
 その明るい声に俺は一抹の不安を覚える。
 ん?いっぱい?
 「ど、どのくらい?」
 「100個くらいっ!」
 元気に即答したトーマに、カイルは青ざめながら言った。
 「俺も妖精伝えに聞いてやるから、せめて10個ずつに絞ってくれ……」

 トーマが不承不承頷く中、レイは何だか腑に落ちたような表情で頷いていた。
 「妖精に獣か……。神子の力かは置いといて。フィルならありえることなのかもな。精霊を召喚獣にしてるくらいだし。きっと、規格外なんだ」
 規格外って……。
 レイの言葉に異議を唱えかけて、ふとライラが固まっている事に気が付いた。
 ん?どうしたんだ?
 首を傾げかけてハッとする。
 あーっ!そうだ、この中じゃライラだけ、精霊を召喚獣にしてるって知らないんだっ!

 「はぁぁぁ?!精霊?!嘘でしょ?子供が精霊召喚獣に?え、精霊召喚獣にしててあのエナの量なの?アリス知ってた?」
 バッとアリスに詰め寄り、アリスはその勢いに言葉を詰まらせる。
 ライラはプチパニックになったみたいに頭を抱えた。そんなライラの姿も珍しい。
 「あの…えと、うん」
 かろうじて頷くアリスを見て、周りを見回す。驚いているのが自分だけと気が付いて、眉を寄せた。
 「まさか……知らなかったの私だけ?」
 ズルいと言いたげに頬を膨らませる。

 「アリスは幼馴染だし。レイたちが知ったのだってたまたまだぞ」
 「精霊召喚獣にしてる子供なんて、滅多にいないでしょう?広まって騒ぎにしたくなかったのよ」
 カイルやアリスが庇ってくれたが、それでもライラは納得しきれないようだった。
 「だけど…私は、友達だと思ってるのに。他にも隠し事あったりする?」
 チロリと上目遣いで見られて、その言葉にギクリとした。
 まだありますとは言えない。

 「あー……」
 俺は後ろめたさから思わず言い淀む。すると意外なところから助け舟が出た。
 「そんな事別にいいだろ。友達にだって隠し事くらいある」
 レイが睨むと、ライラは何か言いたそうに口を開いたが、そのまま口をつぐんだ。
 レイがそんな事を言うとは思わなかった。それに2人が言い合えば、ライラの方が優勢な事が多いのに、ライラが黙ってしまうのも意外だ。

 「フィルも気にすんなよ。話したくなったら話せばいいんだよ」
 明るく言うレイに、俺は少しホッとして頷く。
 仲良くなればなるほど、隠し事していることが後ろめたくなる時があった。でもそう言ってくれて、少しだけ気が楽になる。いつか全部話せる時があるのだろうか。
 「ありがと」
 微笑んだ俺にレイはニカッと笑う。そして照れからなのか、少しおちゃらけたように鼻をこすった。
 「まぁ、俺も隠し事あるしさ。お前だけ話させるのも悪いから、ひとつ話しちゃうと……。何と!俺とライラは幼馴染なんだ!」
 レイがドヤ顔で手を広げて叫ぶ。場に沈黙が降りた。

 「どうした?ビックリしたか?」
 「あ……いや……」
 レイ以外が顔を見合わせて口ごもる。
 何と言ったらいいものか。
 「知ってる……って言うか、そうだろうなーって解ってた」
 トーマが言いにくそうに、レイに告げる。
 「え?!」

 「だって、女の子好きなレイがライラに対して普通だし」
 「それでも何か仲良さそうだしね」
 「気心知れた感じするしな」
 トーマとアリスとカイルがそう言うたびに、広げたレイの手が下がっていく。

 最後の希望とばかりにこっちを見られて、グッと俺の喉が鳴った。
 「ぼ、僕はビックリしたなぁっ!」
 先ほど助けてもらった手前、恩を仇で返すわけにはいかない。
 俺がオーバーめにそう言うと、レイはクッと唇を噛んだ。
 「そんな隠し事嬉しくないっ!」

 え、えーっ!優しい隠し事でしょう?

 
 
 
 
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