トップ>小説>素材採取家の異世界旅行記
11 / 109
第2章

念願叶って、発見です

しおりを挟む


天然の鍾乳洞だと説明されたそこは、玄武の寝床、という場所らしい。
天井から地面から立派な鍾乳石が伸びており、綺麗な水が湧いてちょっとした広い空間になっていた。ライトアップすれば観光名所にもなりそうな気がする。

こんな見事な自然が世界のあちこちにあるから珍しくもないのだろうが、俺にとっては未だに非日常。どのくらいの歴史があるのだろうと考えると見入ってしまう。
地図の中ほどに位置するその場所で俺たちは小休憩を取ることにした。空腹っぷりからするに、今は昼ごろだろう。

「お前はいつもこのような食事を取っておるのか…」
「うん」

半ば呆れ声でクレイに言われたが、もう今更いちいち驚かれることもなくなった。ブロライトは「そういうもの」として素直に受け入れてくれているし、ザンボ氏はただただ料理に舌鼓を打っている。

なんちゃってワンタン肉スープでございます。坑道内で火は炊けない為、俺の魔石が大活躍。巨大鍋に大量のスープを作り、肉のブロックをごんごん入れる。小麦粉を練って皮にしてから細切れにした肉を包んだものをごんごんぶちこみ、新鮮な野菜もちぎって入れる。きのこを忘れてはならない。調味料で味を調え、出来上がり。偽ワンタンを作るのに苦労したが、地味な繰り返し作業も嫌いじゃない。
繊細さ皆無の豪快な料理だが、これがまた美味いのだ。

「ピュイ〜ィ」

美味そうにスープを食べるビーを撫でながら俺もお代わりをする。ちなみにブロライトは丼皿に6杯、クレイは10杯。ザンボ氏は7杯食べて満足そうだ。

「はあーーー!食った食った!まさか玄武道の中でこんな美味い飯が食えるとは思わなかったぜ。ありがとうよ、タケルの旦那」

瞬く間になんちゃってワンタンは無くなった。俺にとっては毎度お馴染みの料理だったが、坑道内で温かい飯が食えると思っていなかった面々は言葉も発せず黙々と食い続けた。大量に作った飯が瞬く間に消えていく様は作り手としても嬉しい。

「喜んでもらえて何よりだ。やっぱりスープの素が美味いんだよな」
「旦那が作ったのかい?」
「いや、これはトルミ村の宿屋で作ってもらったんだ。他にも味がある」
「…なんじゃと。他にどんな味があるのじゃ」
「他にもあるというのか?」

やはり食に関することはどの種族でも等しく興味があるのだろう。固形のスープの素を見せどんな味がするのか説明する。
食べることは俺にとって娯楽になる。食べるために生きると言っても決して過言ではない。干し肉と硬いパンで済ませる食事はイヤなんだ。俺と同行してもらう以上、食事に関しては決して不自由させないからな。

大鍋一式を清潔(クリーン)で綺麗にし、鞄に入れる。忘れ物はないかなと辺りを見渡し、いざ奥へ再出発。
玄武の寝床を抜けると更に広い道になっていた。ポイズンスパイダーが数匹徒党を組んで襲ってきたり、ジャイアントバットなる肉食コウモリが襲ってきたり、スカルラットなるホネホネなネズミの集団が襲ってきたりと、忙しくなった。

反応の早いブロライトが先行逃げ切りでちぎって投げ、野生の勘鋭いクレイが的確に会心の一撃。俺とザンボ氏は体育座りで応援。無論、盾(シールド)や速度上昇(クイック)などのバフを撒いた。
はじめこそいちいち怯えていたザンボ氏だったが、今は慣れてしまい二人の素晴らしい戦いっぷりを興味深げに観戦する余裕すら出てきた。

ほんと、力強い用心棒だよなあ。俺より高い戦闘能力だけでもありがたいのに、報酬面で一切揉めないなんてさ。
俺としては鉱石が手に入ればいいから、モンスター討伐の報酬は二人にまる投げしてしまおう。今後も冒険者を続けるなら資金はたくさんあって困ることではないし、ブロライトは納得のいくペガサスを買うことが出来るはずだ。

「探査(サーチ)………イルドラの反応あった!」
「おお!やっと見つかったか!」

坑道の最奥、そろそろ行き止まりになる頃に壁の奥からイルドラ石の反応があった。
まだ採掘されていない壁だ。

「ザンボさん、この壁の向こうにあるみたいだ」
「うううむ、確かにイルドラの層が見える。だが採掘用の魔道具を持って来ていないからなあ」
「俺流の採掘の仕方で取ってもいいかな。地図を変えてしまうのは困る?」
「いや、採掘が目的なんだ。あんたが良ければどんな場所だろうと穴を開けて欲しいんだが…」

よし、許可もらったぞ。
壁に再度集中し、ガスや地下水が溜まっていないことを確認する。崩落の危険、無し。この先しばらくイルドラの層が続いているらしく、強い反応があった。ランクCくらいは期待してもいいかな。

「それじゃあ俺の出番な。ブロライト、クレイ、ザンボさん、俺の後ろに来てくれ」
「何をするのじゃ」
「ちょっと壁をぶち壊す」
「は?」

ボルさんのおうちに行くまでに鉱石採取は経験している。完全自己流だけど。

「盾(シールド)展開、剛炎(フラン)展開、待機。ビー、破片が散らばらないように風精霊に頼んでくれるか」
「ピュイーイ!」
「そーれいけ!」


どがーん


ビーの風精霊の防御術で破片は飛び散らず、薄い緑の膜に弾かれた。破片の中にも小さな鉱石があるのを目ざとく見つけ、それもいそいそと回収。続いてヴォズラオの雑貨屋で購入したツルハシを片手にごんごんと壁を叩き、状態の良い塊を取り出した。


--------------------------


イルドライト ランクA

イルドラ鉱石の結晶。武具に利用され、ドワーフ族が扱いに長けている。特殊な魔力によりその形と強度を変える石。微量な魔素を含んでいる。


--------------------------

ブルー・マラカイトという石に似ている。藍銅鉱だ。深く青いその結晶体はベルカイムの職人街でも見たが、こっちのほうが綺麗だ。青一色じゃなくて緑や水色、黄色もところどころに混じっている。

どうせなら綺麗な石のほうがいいのかな。強度を選ぶべきか?まあいい、状態が良いものを選べばグルサス親方をぎゃっふん言わせられるだろう。あのゲンコツみたいな顔が驚くところを見るのが今から楽しみだ。

爆破の衝撃であたり一面ほこりまみれになったが、それも晴れるとその壁の向こうが巨大なイルドラ石の層になっているのがわかる。層に沿って青い石がひしめき合う様は見事だ。

「すげえ!すげえよ旦那!イルドライトの巨大石群だ!」

えっ

「何これイルドラ石じゃないの?」
「イルドライトってんだ!すげえ石なんだぞ!」

そういえばランクAって出ていたな。イルドラ石は庶民の味方でありどの都市でも流通している鉱石だから、基本的にはランクDとかEになる。
はしゃぐザンボ氏は自分のツルハシで同じく壁を叩き、大きな塊を取り出した。片目にルーペをはめ、じっくりと観察。

「うーん、うんうんうんっ!最高の状態だ…。凄い、こんな透明度の高いイルドライトは初めて見た。こりゃ宝石にも加工できるぞ」

なんか凄いの見つけたみたい。

「これ、武具には出来ないのか?イルドラ石を頼まれたのに」
「何言うんだい!こいつはイルドラ石と加工方法は全く同じだ。だがこれは、俺たちの魔力に素直に反応する、更に加工がしやすい石なんだ」
「それじゃあ、これを持って帰っても怒られない?注文と違うって言われないかな」
「言うわけないだろう!こんな凄いもん持ってこられて断る職人がいるもんか!そんなヤツが居たらワシがぶん殴ってやる!」

よくわからないが、ともかくこれで良さそうだ。
依頼の品を忠実に採取するのが俺のモットーだったが、より良いものが見つかったのならそれでいい。

「はあー…わたしは石のことはよくわからぬが、これは見事じゃな。美しい」
「うむ。俺でさえ僅かな魔力を感じる。タケル、これは魔鉱石に近いのではないか?」

クレイに指摘され、そういえばと手にしたイルドライトを再度見つめる。俺にとって魔鉱石の基準はミスリル魔鉱石のみ。他の魔鉱石と比べられないから何とも言えないが、確かにほんの少しだけ魔素を感じる。石の中にもじょもじょした何かの反応、という程度だけど。
魔鉱石は魔素が凝縮されて作られる魔力の結晶。つまりこの坑道内にも魔素溜まりがあったということだ。

魔素が集まるところのモンスターは更に強さを増し。


「ピュイイイィ!ピュイ!ピュイーーイィ!」

突然、ビーがいつになくけたたましく鳴いた。ばさばさと飛び、何故か興奮している。
俺の髪を引っ張り後頭部をつつき顔面べろり。

「ぺぺっ!生臭いから!わかったから!落ち着け何があった!」
「ピュイ!ピュピュ!」
「ん?待望の?待望の何があるんだ。もっとゆっくり」
「ピュイイ!」

高々と響き渡るその鳴き声で、俺は我が耳を疑った。



ビーは今………


なんて言った?



「タケル、ビー、何があったのじゃ!」
「何か…察知したようだな。ブロライト」
「………うむ?得体の知れないなにかが来るようじゃ」

即座に警戒態勢を取る三人。ザンボ氏は心得たとばかりに壁を背にして体育座り。俺を手招くが、俺はそっちに行かない。

「二人とも、ここは俺に任せてくれないか…」
「ぬ?何を申す!ビーがこれほど慌てておるのじゃぞ?きっと今までにない強敵が来るに違いない!」
「いいや頼む、俺にやらせてくれ!」


だって

だって


「アイツだ!坑夫たちが見た恐ろしい悪魔ってぇのは、アイツだあああ!」

ザンボ氏の特大の悲鳴と共に現れたるは巨大な青い悪魔。
ごつごつとした外装と無数の足、恐ろしげな鋭い刃を振り回し、奇声を発して近づく。

「よっしゃ来ぉぉぉい!!」
「ピュイイイーーーーッ!」



待望の






蟹ィィィーーーーーッ!!






しおりを挟む