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第2章

そして凱旋、泣く師弟

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念願の天馬を手に入れたブロライトは、それを姉にあげるため一旦故郷に帰ることとなった。
ブロライトの故郷はエルフの隠れ郷。普通の人間はおいそれと近づくことが叶わず、ブロライトも一緒に来てくれとは言わなかった。

「タケルには大恩が出来た。わたしが生涯をかけても返せぬほどのでかい恩じゃ」
「あんまり気にしなくていいって。俺も蟹を貰えたし」

ブロライトは坑道内での活躍を間近で見たザンボ氏により特別措置がとられ、冒険者ランクがDに跳ね上がった。試験監督官の前で実演をすれば直ぐにCランク、Aランクも遠くはないらしい。まあ当然の結果だよな。ブロライトの実力はランクAに匹敵するだろうから。

「ほんに無欲じゃのう。ブロジェの弓もいらんのじゃろう?」
「弓なんて持ってても使えないからなあ」
「ううむ、ううむ、わたしの気が済まぬではないか!」

モンスターを討伐した報酬は一人100万レイブにもなった。それだけドワーフ王国が潤っている証拠なんだけど、それ以上に坑道に平穏が保たれたということで、追加で200万レイブ。いらないと断ったらザンボ氏が般若の顔してもらっておけと詰め寄るから有難く受け取った。
あの様子だとエウロパのグリットさんに報告されるだろうなあ。イヤだなあ面倒なことになるのは。
モンスターの素材は全部で40万レイブになった。これはこっそりと二人に分け与えた。俺にはイルドラ石や蟹があるのだから。

「それじゃあそのうち俺が乗れる馬を探してくれ。結局ヴォズラオで一角馬は売られていなかったわけだし」
「ピュイ」
「空飛ぶ馬は無しな?」

一角馬は扱っていたが、俺を乗せるほどの成馬は無く、幼いのと老いているのしか居なかった。ここで妥協して買うほど困っていなかったのでそのうち見つかればいいと諦めた。蟹討伐の報酬で強請れば良かったが、そもそも自分だけの馬を自分の稼いだ金で買う、ということがしたかった為断った。

「タケル、馬車が来たぞ」
「わかった。それじゃあブロライト、またな」
「ああ。タケル、クレイストン、必ず再び相見える!それまで首を洗って待っておくのじゃ!」

いやそれ敵に言う台詞じゃね?




***ヽ(゚∀゚ )ノ***




「おう、タケル!帰ったのか!」
「ただいまー」
「お帰りタケルさん、新鮮なベイベットの実が入っているよ」
「ただいまー、後で寄らせてもらう」
「タケル、よく無事で戻ったな!おーいお前ら、タケルが帰ってきたぞー!」

ベルカイムに到着して俺とクレイを待ち受けていたのは、街の顔見知り連中だった。
俺は滞在時、顔見知りになる人たちには欠かさず挨拶をし、一言二言声をかけるようにしていた。最初こそ警戒していた街の連中だったが、ギルド職員の評判も宜しい礼儀正しい冒険者は徐々に受け入れられた。
そうして今では採取で出かけて帰ってきても、必ず『お帰り』と言われるまでになった。

これは俺の日ごろの行いだけじゃない。ベルカイムの住人が心根の良いヤツらだからだ。一度心を開けば家族のように接してくれる。トルミ村の住人と同じく、皆優しい。
そりゃ中には明らかに嫉妬してくるヤツとかすれ違いざまに『調子に乗るなよ』とか言うヤツも居るが、そんなのほんの一部に過ぎない。弱い犬ほど良く吼えるものなのだ。逆に同情するよ、その狭い心に。

「クレイストンさん、お帰りなさい!タケルさんと一緒だったんですか?」
「お帰りクレイストンさん!」
「クレイストンさんだー!」

隣を歩くクレイも人気だ。ゴブリン討伐で一番活躍していた功労者だし、何より栄誉の竜王という二つ名を持った尊敬するランクA冒険者。見た目は恐ろしいが噛み付くわけではない。挨拶すれば丁寧に挨拶を返すし、礼儀も正しい。

「ピュ〜ィ」
「ビーちゃん帰ってきたー!ママー!ビーちゃんがー!」
「ビーちゃんだ!ビーちゃーん!」

女性達のアイドル、ビーちゃんも大人気です。アレなんだろちょっと悔しい。
今でこそ受け入れられているドラゴンのビーだが、最初は警戒されたものだ。勿論神聖な生き物だからおいそれと触れることは出来ないし、ビーが乗っている頭の持ち主はデカい俺。そりゃ話しかけづらいだろう。

それもこれも全て俺が平和に暮らしていくため、人に優しくをモットーに、面倒なことには首を突っ込まず、真摯に礼儀正しく過ごしてきた結果だ。
冒険者は憧れの存在でもある。だがしかし、その反面マナー知らずの無法者が多いのも特徴。マナーなんて教えてもらえないからな。ランクが上がるごとに鼻も高くなり、高くなった鼻はなかなか折れることが無い。いつしか偉ぶるようになり、相手に失礼な態度を取っていることすら忘れてしまう。
人間、そうはなりたくないよ。恨まれるようになったらお終いだ。めんどい。俺は人に優しく出来る人と仲良くやっていければそれでいい。

人に優しくしていれば、人は優しくしてくれるものだ。
見返りだけを求めるヤツには近寄らず、喧嘩を売ってくるヤツには相応の対処を。
平和に生活するための努力は続けていこう。



「こんちはー」

エウロパの扉を開くと、待ってましたとばかりにウサ耳女子のアリアンナが微笑んだ。可愛い。

「タケルさんお帰りなさい!カリストからの伝書虫が来たからそろそろかなって思っていました」

うむうむ、今日も長くて白い耳がぴぴぴと動いている。獣人の女性は揃いも揃って可愛い子が多いな。あのもっふりした可愛らしい尻尾を触らせて貰いたいが、セクハラで訴えられたくは無い。セクハラってこの世界でもあるよな?

「あら、クレイストンさんもご一緒でしたか。え?まさか…お二人はチームを作られたんですか?」
「いや、クレイが勝手についてき」
「そうだ。一時的ではあるが今のところ無期限だ」

俺の口をパシンと塞いだクレイがずいっと前のめりになる。

「凄い凄いっ!クレイストンさんがチームを作るなんて!しかもタケルさんとですか?うわわ、これはウェイドさんに報告しないと!」
「ももーももごもも、クレイ放せって!アリアンナちゃん!待って!俺はチームを作ったわけでは!無いんだけど!」

猪突猛進アリアンナちゃんは、まさしく飛ぶように奥の部屋に行ってしまった。
冒険者チームとはまさしくその名のとおりチームのことだ。各ランクの冒険者がチームを組んで依頼を受ける。最上位ランクの冒険者の依頼を受注できるため、低ランク冒険者は高ランク冒険者とチームを組みたがるものだ。俺にも何度か高ランク冒険者からチームを組まないかと誘われたことがあるが、やはり報酬面で揉めたくないので断っていた。

「クレイ」
「構わぬではないか。俺は目的も無くただ放浪している根無し草だ」
「いやでもあのなんといいますかねー」
「ふん、お前が常人より外れた未知なる存在であることは理解している」
「人を珍獣呼ばわりするの止めようか」
「理解しているが故、お前が何をやらかしても驚きはせぬ。お前の的外れた行動も監視出来る」
「なんか色々酷くない??」
「俺を撒くことは出来ぬぞ?何処に行こうとも、必ず追い詰めてやるからな」

なにそれ親の敵?!

クレイとチームを組む、か。それは薄々考えていたことだ。
俺は特に多くは望まないが、やはり未知なる世界や素材には魅力を感じる。その世界を見るには高位ランクの冒険者の力が必要になるだろう。俺自身が高位ランク冒険者になるつもりは毛頭無いから、クレイを利用するって意味では丁度良かったりする。何よりモンスターに詳しいのも有難い。

だがしかし、この生真面目オッサン、ちょっと融通利かないからなあ。

「お前の作る肉すいとんも美味いことだし」
「それが目的か!!」
「ぶははははっ、格式ばったチームなぞ作らぬでも良いからな」

ブッフーと鼻息荒く胸を張るクレイ。
素材採取家にとっては喉から手が出るほど魅力的な用心棒。俺が採取をしている間、ビーとクレイが警戒をしてくれる。遠出だって出来る。クレイの天下御免Aランクギルドリングがあるのだから。

奥の部屋からバタバタと足音。いやこれバタバタというよりズンズン。カウンターに置かれた花瓶がかちゃかちゃと震え。

「帰ったかタケル!!」

ハイ出ました巨人のおっさん。
ていうかギルドマスター、アンタ暇なわけ?こんなにホイホイ出てきていいわけ??

「クレイストンも無事に戻ったか。リュハイの鉱山に行ったと聞いたから、どうなることかと思っ」
「無事のお戻りほんと良かったです!さっき聞きましたがリュハイの鉱山って恐ろしいモンスターが出るんですってね!タケルさん貴方ちょっとむぼっ」
「おいおい、チームを組むって本当かよ!しかもクレイストンだって?!どうなってるタケッ」
「それは凄いですよタケルさん!クレイストンさんは孤高の竜騎士で誰ともチームを組まなっ」
「だったらおまえ、ランクアップ試験受けろ!せっかくなんだかっ」
「ええい黙れお前ら!俺が先に話をすると言っているだろうが!」

ギルドマスターに続いて受付主任のグリットと、事務主任のウェイドが畳み掛ける。狭くは無いカウンターが一気に狭くなった。
むっさ苦しいなあ…。




「こっちが依頼の品のイルドラ石。えっと、状態ランクはAって言われたから品質は間違いないと思う。これを塊でこれくらいだったよな?それから必要かわからないがザンボさんが絶対にこっちを勧めやがれって脅してきたイルドライト。こっちはたくさん貰ってきた」
「…………」
「イルドラ石の供給難とも聞いていたから追加でけっこうあるけど、これは他の職人が買ってくれたりする?無理ならギルドを通して売るが」
「……………」
「おーい。親方さーん、リブさーん」

ギルドでの質問攻めをなんとか無理やり終わらせ、チームについては改めて相談しようとクレイと別れた。クレイも海翁亭に泊まるらしく、夕飯を一緒にすることとした。

俺は急ぎ足で職人街に向かった。少しでも早く依頼の品を届けたいからだ。予定より早い帰還になった俺をリブは半べそで喜び迎え、まだ俺をいぶかしむグルサス親方の目の前に大量のイルドラ石を出してやった。
鞄から許容以上の石がごろごろ出てきたあと、例のイルドライトも出す。それは流石に二人の目に留まり、互いに手に持って凝視していた。

「もしかして期待に沿えなかった?」

しかしこれ以上の良質なものとなるとリュハイの鉱山では見つからないと思うし、とがっかりすると。

「凄いよ!!凄いッ!凄い!!」
「なんじゃこりゃあああ!なんっ、なんっ!!なんっじゃこりゃああ!!」

爆音が狭い小部屋を揺らした。相変わらず声、でけぇ。

「どうなっていやがる!こっちも、こっちもこっちも、最ッッ高のイルドラ石じゃねぇか!リブわかるか!こいつのすさまじさが!」
「馬鹿にすんなよ!この輝き、強度…最高品質だ!アタシはこれ以上のものを見たことないよ!」
「俺もだ!120年生きてきて、こんなすげぇのは初めてだ!どうなっていやがる!」

あー…そば茶うめぇ。
どうやら喜んでもらえたようだ。
親方さんって120歳なの?あらあ長生き。まだまだ長生きしそう。

「しかも幻の結晶、イルドッ…、ライト!」
「間違いないよね?間違いないんだよね!これがイルドライト!イルドラの魔鉱石!」
「とんでもねぇ代物だ!信じられねぇ!!」

ずんぐりむっくりしたおっさんと、猫耳かわいこちゃんが手を取り合って飛び跳ねている。珍妙な光景だがそれほど嬉しいのだと思えば俺も嬉しくなるな。

「タケルッ!タケル…ッ、ぐすっ、あ、アンタに依頼して本当に良かった!アンタに出会えて良かった!アタシは正直ここまでの成果は考えていなかったんだ。だけどどうだい!アタシの想像をっ…くそっ、ずびっ、うええっ…」
「リブ、リブ、泣いてんじゃねぇよ…」
「うええええぇ…親方だってえぇぇぇ」

今度は抱き合って泣いている。熱いな。熱い師弟だな。
期待以上の働きが出来たようだ。俺は鍛冶のことは何一つ知らない。鋼を熱して叩いて冷やして伸ばして?くらいの、本当に初歩的なことしか知らない。だから熟練の職人を納得させられるだけの品を用意できるか少し自信が無かった。
より良いものをと意識したが、良いものなんて人それぞれ価値観が違う。俺が、俺の調査(スキャン)先生がこれは良いと思っても、誰かにとっては無価値だったりするものだ。

カリストのザンボ氏が言っていた。この品で文句をつける職人が居たら、ドワーフ族全員を敵に回すと思え。職人の名前をチクれと太鼓判を押された。しかし、依頼主に納得してもらうまで安心は出来ない。

ふと気づくと、俺にも素材採取家としてのこだわりが出てきたような気がする。まだまだ知識はハンパだし知らないことのほうが多い。専門家とはとてもじゃないが胸を張ることは出来ない。
だが、依頼主により良いものを、という拘りは強い。対価が発生するのだ。それに見合ったものを採取するのは当たり前のこと。


そうか。
これが俺の素材採取家としてのプライドなのか。


「タケル、タケル、アンタは凄ぇよ。俺はアンタ以上の男を知らねぇ。俺の想像をブチ壊しちまった。ヴォズラオにすら辿り着けねぇかもしれねぇと思っていた俺を恥じる。すまなかった、許してくれ!」

潔く頭を下げた親方に溜飲が下がるどころか、キャラが違いすぎると返って慌てる。

「いやいや、そんな素直にデレられても困る」
「で、デレ?」
「俺は依頼に応えただけだ。それに、助けてくれた仲間も居る。俺だけの力じゃない」

一人きりの野営が騒がしくなり、モンスター討伐がラクになった。共に食事を囲む仲間が出来た。料理を作って感謝された。
楽しかったんだ。とても。

「ぼんどうに、ぼんどうにありがどうう〜〜〜」
「鼻水ダダ漏れだよリブさん。ほらちーんして」
「ぶびぃぃぃ…ぐすっ、ずびっ、だけどこんなにたくさんの石、アタシらは対価を支払えないよ?」
「言っただろ?俺だけの鋏を作ってくれって」
「だけど」
「それについてはまた後で注文をつけるとして」

イルドラ石とイルドライトを両手に取り、グルサス親方に差し出す。親方はそれを戸惑いながらも手にし、ニヤリと笑った。その瞳には力強い炎が宿っている。

「さあ作ってくれ。品評会で一等賞を取れるような最高の剣を!」

工房の借金返して皆の不満を取り除いて、俺専用の最強の鋏を作って貰うのだ!
メンテナンスいらずの何でも切れる鋏だぞ?理想の採取道具になるじゃないか!

グルサス親方印の最強鋏。きっと誰にでも自慢できる一品になるに違いない。
生活用品を作る職人を紹介してもらって、フライパンと卵焼き器とたこ焼き器とヤカンを作ってもらうのだ!


そしてついでに蟹フォーク!





第2章 終





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第2章終わりです。お疲れ様でした。

次回から第3章がはじまります。宜しくお願い致します。


想像以上の応援、感想のお言葉をいただいております。ありがとうございます。
誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

生臭いドラゴンが思いのほか人気なようで驚いております。
読んで下さる方の1日置きの僅かな楽しみになれたのなら幸いです。




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