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第3章

青天の霹靂

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ベルカイムの職人街に大量のイルドラ石が届けられた。
ドワーフ族が管理するリュハイ鉱山が再び供給をはじめ、近々生産ラインが元に戻るとの一報に職人達が手放しで喜んだ。鉱石が不足していた為生産が間に合わなかった冒険者用の武具も販売が開始され、職人街は朝早くから夜遅くまでトンカチの音が鳴り止まなかった。

グルサス親方は無事に品評会用の剣を作成出来たようだ。俺も見せてもらった。
白銀に青が入る美しい刀身の見事な剣だった。俺に遠慮することなくイルドライトをこれでもかと使ったらしく、渾身の作品が出来上がったとペンドラスス工房一同涙を流して喜んだ。俺もついでに胴上げされた。ドワーフの馬鹿力はんぱない。

どんな結果になろうとも、この作品を生み出せただけでも本望だと、生きていて良かったと親方は言った。
だけどこっそり調査(スキャン)した結果、親方が作り出した渾身の剣はランクAの結果が出た。イルドライトの魔素が影響しているらしく、強度も鋭さも一級品。これなら絶対に良い評価が貰えるはず。参加賞くらいだったら評価するヤツが間違っているんだ。

親方が王都での品評会を終えてベルカイムに戻ってきてから鋏を作ってもらう。俺の手の型を取ってからデザインを決めるらしい。今から楽しみでならない。
蟹用フォークって作ってくれるだろうか…。




「召喚状?」

ドワーフ王国からベルカイムに戻って半月。
午後のひと時をギルドの酒場でのんびり中、ウェイドが仰々しい封蝋が施された白い手紙を差し出してきた。この世界で白い紙というのは高級品の扱いだ。その高級品で認められた手紙とな。

「これで召喚獣でも呼ぶの?」
「その召喚では無い。封蝋を見る限り、ルセウヴァッハ家の紋だな」
「えーと?」
「領主の呼び出しだ」

なるほど。
召喚状なんて貰ったことが無いからわからなかった。リヴァイアサンとか呼べるのかと期待したじゃないか。
貴族からの呼び出しってこんな仰々しいんだ。ギルドマスターのおっさんが領主からの呼び出しは無視するなと言っていたっけ。どうしよう面倒くさい。

「明日から腹が痛くなる予定が」
「くだらん言い訳などするな。なあに、ベルミナントは貴族と言えども鼻持ちならぬ男ではない」

同席していたクレイが俺の後頭部をベシンと叩く。最近このひと俺に対して容赦無くなってきた。信頼の証だろうが、そのツッコミ、ビーの頭突きより痛いんだからな。

俺とクレイは無事にチームを立ち上げることとなった。その名もチーム『蒼黒の団』。誰だ中2くさいって言ったヤツ。名づけたのは俺じゃないクレイだ。俺提案の『素材集める会』は即効却下されたんだから仕方ないだろうが。

栄誉の竜王をチームリーダーに、チームメンバー俺。以上。
他にも是非チームに入れてくれとたくさんの候補者が出たが、そもそも俺もクレイもソロで気楽に動いていたのだ。チームの煩わしさはわかっている。気の置けない仲間ならともかく、見ず知らずの、明らかに報酬だけ目当てのヤツは論外だ。

ブロライトが戻ったらチームメンバーにならないか誘ってみるつもりだ。
しかし現状では前衛であるクレイと支援補助系である俺しかいない。ブロライトもばりばりの前衛職。ビーもどちらかと言えば前衛。パーティーバランスが最悪だ。せめて回復職が一人居ればよいのだが、早々見つかるわけも無い。

今のところ最強の盾にもなるクレイが居るから命の危機を感じるほどではないが、いつなんどき怪我をするかわからない。回復(ヒール)は使えるがやはり専門知識に乏しい俺としては、是非とも、是非とも可愛いナースが仲間にならないかなとかなんとか思うわけだよ。出来れば獣人希望。だってケモノ耳ナースは男子の憧れ夢希望。

「む?俺の名が連名になっておる」
「タケルがチームを組んだと領主の耳に入ってな。それならばチームごと招いてしまおうという計らいらしい」

召喚状に記載されていた『ギルディアス・クレイストン殿 タケル殿』。県知事職にもあたる領主様が俺に何の用なんだと、ウェイドに促されるまま封蝋を開けた。


++++++++++++++++++

蒼黒の団
ギルディアス・クレイストン殿 タケル殿

スタヴロウ平野における貴殿らの活躍を称え褒美を取らす

以下の日程に領主屋敷に来られたし

++++++++++++++++++


何コレ強制令状?
この日に来てくれると嬉しいな、じゃないの?この日に来なさい?随分と高圧的だな。
しかし今更ゴブリン討伐の褒美とか言われても、あれもう一ヶ月以上前のことなんだけど。

「うーん?褒美を取らせるってのはただの言い訳のような」
「ふん、ドラゴンの幼生を見せて欲しいと素直に書けば良いものを。これだから貴族は回りくどいのだ」

なるほどな。
ビーが居なければ俺に用なんて無いはずだ。

「ピュー?」
「取り上げたりしないよな?竜騎士じゃないからお呼びで無いとか言われないよな?」

ドラゴンが神聖な生き物だということは理解している。未だにビーを見かけると拝んでくるベルカイム民が居るくらいだ。そりゃ国が保護するのが自然の流れかもしれないが、ビーは俺がボルさんから預かった特殊なドラゴン。古代竜(エンシェント・ドラゴン)だぞ?国の預かりとなるとボルさんとの約束を果たせない。ビーに色々な世界を見せろと言われたようなものだから、その約束は守りたい。

「そんなこと言うものか。領主はそこまでの強制力が無い。特にドラゴンに関してはドラゴンの意思を最優先させるのが慣わしだ」
「それならいいけど。もしも取り上げられることになったら逃げてやる」
「それだけは止めてくれ。そうならないようにギルドも支援させてもらうから」

俺にだって多少強みが出来た。俺がギルドに納める素材の数々は群を抜いている。おかげでベルカイムで取引される回復薬は評判を呼び、王都の騎士団がわざわざ発注をかけるほどになっているのだ。勿論、他の素材採取家の仕事を邪魔しないよう気を付けている。
俺が専門としているのはあくまでも地味依頼。薬草・野草・きのこ等の食材採取だ。モンスターの素材採取や鉱石採取などは受注していない。個人的には売っているが。それでもギルドにとって俺は必要とされているわけだ。

「うむ。領主がビーを取り上げる魂胆だとしたら俺も共にベルカイムを出る」
「海の近くで刺身を食うってのはどうだ」
「ピュイ!」
「お前達はまたそんなゲテモノを食うつもりか」

失敬な。刺身の何がゲテモノだ。
チームを組んだ以上チームメンバーに迷惑はかけたくないが、止むを得ない事情というものもある。だが俺も覚悟の上だ。もしも反対にクレイが遠出しなければならない事情が出来たら、俺も付いていくことにする。未だ見ぬ世界を見られるしな。

とにもかくにも明日の昼、領主の屋敷に行くことが決まった。ギルドに集合し、そこから馬車で迎えが来るらしい。馬車で迎えとか絶対に目立つから止めて欲しいんだけど、せっかくの好意を無碍にするなと。好意も時には有り方迷惑ってんだよ。
貴族の屋敷を訪れるのに普段着で良いのか悩んだが、別に余所行きの格好をすることはないと思い直す。だって俺、冒険者だもの。無法者で荒くれで無知で無礼って言われている最低ランク冒険者だもの。特別なことなんてする必要ないよな。

「………褒美ってなんだろな」
「報奨金だろう」
「金はいらんのだけど」
「そのようなこと言うでないぞ。あくまでも、領主の好意は受けるものだ」
「貴族の風呂を見るのが褒美ってのは?」
「ふざけたことを申すな!」

ローマ風呂みたいなのかなとか猫足バスタブなのかなとか夢は膨らむじゃないか。もしも何でも好きなものを、と言われたら風呂を見せて欲しいと強請ろう。出来れば入りたい。入らせて貰えるだろうか。



翌朝、俺とクレイの身体と装備に清潔(クリーン)をかけて綺麗にする。特別な服など着なくても清潔にしていればいい。身体検査で鞄を取り上げられたとしても、自動的に戻ってくるから心配することは無い。そもそも良識ある人間ならそんな失礼なことしないだろう。こんなでかい都市を統治している人間が、愚か者だとは思えない。

ギルドの前で時間前に待機していると、大通りを我が物顔でやってくる巨大馬車。黒塗りに金の装飾された無駄にゴテゴテビカビカしちゃっている馬車だった。しかし馬車を引く二頭の白馬は一角馬だった。いいな、あれ。

領主の屋敷に招かれるということは冒険者にとって憧れらしい。何で憧れになるのかと疑問に思えば、領主の後ろ盾が貰えるかもしれないからだと。後ろ盾っていうことは保証人とかパトロンのようなもの。無法者の冒険者も保証人が居れば信用面が強くなる。その代わり、保証人に迷惑がかからないよう気をつけなければならない。

サスペンションの無い馬車は地面の凹凸がダイレクトに伝わる。ヴォズラオを目指すさいに馬車を利用したが、これは慣れるまでが大変だ。俺の身体は疲れにくいし頑丈だが、常に視界が揺れている状態というのは精神的に疲労する。

「ここからが貴族街だ」
「おお。初めて来た」
「招かれない限り来ることは無いからな」

街の最奥に位置する貴族街は中央大通りから伸びる一本道で繋がっている。だが強固な門が立ちふさがっており、特別な許可が無い限り一般市民が入ることは出来ない。
御者が門の警備に許可証のような紙を見せると、警備は窓から俺たちの姿を確認して頷く。クレイも頷いていたから知り合いなのだろうか。よくわからんが俺も頷いておいた。

門の向こう側は印象が全く違う。道は綺麗に整備され馬車の揺れが軽減された。街灯が均等に並び、建物はヒビ1つ入っていない。屋敷の一つ一つが広大で、どれもこれも綺麗な緑の芝生と無駄に豪奢な噴水が見えた。屋敷に繋がる門の前にはゴツイ警備員が配備されている。

「ベルカイムに貴族は何人居るんだ?」
「領主だけだ」
「えっ」
「ここいらの屋敷は領主の家族や親戚だ」
「えっ」

親戚連中がこんな立派なお屋敷に住んでいるわけ?何コレすっげぇ無駄、って思ったら駄目なのだろうか。貴族街って言うからあっちこっちに貴族が居るのかと思えば、貴族は領主だけ?

そりゃそうか。ベルカイムのあるルセウヴァッハ領を治めるのはルセウヴァッハ領主のみ。領主は確か伯爵だっけ。領主以外の貴族がごろごろいちゃおかしいわけか。
上流階級の人たちをひっくるめて貴族って呼ぶのかもしれないな。

「領主の家族や親戚っていうのは、統治に関わっているのか?」
「そうだな。関わっているものもおる」
「関わっていない人は何してんの」
「商会を纏めているものや…何か事業をやっているとは思うが、全てでは無いな」

ううむ、それが貴族とその親戚というものなのだろうか。
窓の外に見えるのは、庭先で優雅にお茶会を開いている金持ち達。女性は膨らんだスカートのドレス、男性は燕尾服を着ている。まるで映画の撮影を見ているようだ。あれが貴族、いや貴族の親戚。ややこしいな。

「クレイストン様、タケル様、到着致しました」

ギルドを出てから一時間ほど、やっと馬車が到着した。屋敷の門というところを通過してから15分もかかった。どんだけ広い屋敷に住んでいるんだ。

「ケツが痛い気がする」
「ピュー…」

馬車は大きいと言えども俺たち二人の身体は規格外。クレイは身体を伸ばし骨をゴキゴキ鳴らしている。俺も思い切り伸びをした。
馬車を降りて目に飛び込んできたのは広大すぎる庭園。豊富な水を噴き上げる噴水。咲き乱れた花。整った植木。そして、白亜の大豪邸。

「城か!!」
「ルセウヴァッハ邸だ」

イギリスのヴィクトリアン・ハウスを髣髴とさせる豪華な屋敷。ていうか城って言うんじゃないのこれ。端から端まで何メートルあるんだ?地上3階建て。中央にある塔らしきものは更に高い。領主の財源が豊富なのか、それとも由緒正しい家柄なのか、ただの見栄か。

重い扉の向こうから現れたのは、黒いタキシードを纏った老齢の紳士。執事?本物の執事!ちょっと興奮する。

「ようこそおいで下さいました」

深々と頭を下げたアルフレッド、否、老齢の執事は颯爽と俺たちを先導する。真っ直ぐな背筋に迷いの無い歩き方は流石執事。いや本物の執事を初めて見たから比べようが無いが、矍鑠とした佇まいにこっちが緊張してしまう。ドワーフ王国の謁見の間より緊張する。ちまこい王様相手に緊張とか無駄だったからな。

屋敷の中は美術館のようだった。どこもかしこもピカピカで、高価そうな調度品がさあ見てくれと言わんばかりに整然と並んでいる。毛足の長い真っ赤な絨毯は足音を消し、このまま横になって眠れそうなほどだ。高い天井にはゲンナリするほど立派なシャンデリア。掃除大変そうだなーと見上げ、蜘蛛の巣一つ無いことに驚いた。流石貴族の屋敷は清潔だと内心喜ぶ。

「こちらで暫くお待ち下さい」

これまた豪華な作りの扉を開いた先に広い部屋。壁には何かのカミサマが描かれ、立派な裸体とふるちんを晒している。隠せ葉っぱとかで。
金糸で刺繍されたソファーに座るよう促され、遠慮がちに腰掛ける。ギシリとも言わない頑丈なソファー。クッションふっかふか。

扉からそそそと現われたるは黒いドレスに白エプロンの。

生 メ イ ド !!

メイド喫茶に通う趣味は無いが興味はあったメイドさん。お帰りなさいゴシュジンサマは全ての男子の憧れではないだろうか。いや別に萌え萌えニャンをやりたいとは言わないニャン。
その生メイドさんが3人現れ静かにお茶の用意をする。陶器の美しい茶器に注がれる茶色の液体。…これそば茶じゃね?皿に盛られた美味しそうな。…大判焼き?
ハロッズにスコーンとは言わないが、ちょっとイメージ違うんじゃないかこれ。

「巷で評判の焼き菓子です。どうぞお召し上がりください」

うん。
有難いけどこの大判焼き、提案したの俺だから。今でも屋台村に寄ると持って行けと言われ無料でいただけるから。
クレイは言われるまま大判焼きをぽいぽいと口に入れ、もそもそと美味そうに食った。こういう場合マナーとか気にしなくていいのかな。
前世で紅茶好きな顧客に教えて貰った午後の紅茶の楽しみ方。確かアフタヌーンティーには正式なマナーがあって、左手でソーサーを持って右手でカップを持つ。カップの絵柄も褒めるんだっけ?…これ何の絵だ?花?枝?蔦??

「ピューイッ」

ローブの下からビーが警戒しながら出てきた。大判焼きが食いたいのだろう。ビーの姿を見たメイドさんが目を大きく開く。うんうん、いいんだよ褒めても。うちの子可愛いから。

「そば茶は苦手だよな。魔……水飲むか?」
「ピュッ」

うっかりと魔素水と言いそうになったが堪える。ビー愛用の皿に魔素水が入った状態で取り出し、床に置いてやる。ついでに大判焼きもちぎって与えた。ビーは尻尾をふりふりしながら食べはじめた。

「竜騎士の扱う飛竜(ワイバーン)は肉食だが、ビーは何でも食えるようだな」
「俺が食うものは食えると思う。刺身とか」
「…何故生で食おうとするのだ。そもそもなにゆえカニを食おうと考えた」
「馬鹿言え蟹だぞ?最高のご馳走じゃないか」
「よほど腹が減っていたのだな」
「違います。蟹が美味いことを知っていたのです」
「お前の先祖はなにゆえ蟹を食おうとしたのだ」

そんなん知らんがな。
クラゲだってナマコだってウニだって食ってきたのだ。しかも美味いということを知っている。そりゃ見た目はグロテスクかもしれないが、そこは先駆者に感謝したい。最初に蟹を食った人は、死ぬほど腹が減っていたのだろう。動いているものならなんでも食ってやろうと思い、蟹を発見したのだ。有難う勇者。
俺の嗜好なんて理解しなくてもいい。そのうち蟹すいとんを実行してやる。あの肉が美味いとわかれば、クレイも蟹狩りに参戦してくれるはず。

「ピュ」
「ん?」

誰か来るようだ。
毛足の長い絨毯は足音を消してしまうが、ビーは気配を鋭く察知する。領主のお出ましかなと居住まいを正していると。

「ここね!ドラゴンがいるのは!」

ばたーんと。
扉を一気に開け放ったのは、ピンクのドレスにふりふりのリボンをつけた少女。…と表現するにはだいぶ成熟した女性。カールさせた茶色い髪をふり、気の強そうな目を更に吊り上げる。綺麗な女性だとは思うが、挨拶も無しに騒ぎ立てるなんて、少々失礼ではないかな。

「見つけたわ!それがドラゴンの子供ね!」

お嬢様??らしき女性がズカズカと部屋に入り、ビーを指差す。ビーは大判焼きを口に目いっぱい詰め込んでいる最中だったので顔がまるまるとしていた。お前それ面白いぞ。

「もっと賢そうな顔をしているかと思ったけどまあまあね。許してあげるわ」

あまりにもとっさのことで呆れていた俺たちを、お嬢様らしき女性が高慢に見下ろす。初対面なのに挨拶も無いわけ?何でそんなに偉そうなの?
一応相手は貴族の親戚だかなんだかわからないが貴族関連だと思うから、マナーとして立ち上がろうと腰を上げる。ビーは慌てて俺のローブの中に避難してしまった。

「ちょっと!隠さないで頂戴!それはわたくしのドラゴンよ!」




はあ?







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special thanx 
アーさん



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