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……案外早かったな。自分がVRMMOに触れられる日が来るのも。
自分の名前は田中大地たなか だい ち、今年で三十八歳になった。
この歳になってもゲームはやめられない。親にはいい加減やめろと言われるが、別にそれに対して腹を立てるつもりは無い。そう言いたくなるのもわかるほど、自分がゲームに入れ込んでいることは間違いないからだ。
ゲームはすばらしい。三十八歳だろうが、ゲームの世界に入ってしまえば若々しいキャラにもなりきれるし、VRMMOなら現実リアルの限界以上の力で思いっきり走ったり、空高く飛び跳ねたり出来るのだ。
何でそんなことがすばらしいの? と言う人もいるだろうが、歳を食うと、どうしても体が鈍くなってくるのを実感する。プロ野球選手だって、遅くとも三十代中盤で引退するのが大半だ。一部例外もいるが……
十代のときには、今のように体がにぶるなんて思いもしなかったが……これが現実か。自分もおっさんになったと、イヤでも教えられる。

さて、前置きが長くなってしまったが、これからやるVRMMOは、バイクのヘルメットのような物をかぶってヴァーチャル世界に接続するタイプのものだ。「ワンモア・フリーライフ・オンライン」というド直球過ぎるタイトルで、その名の通りもう一つの人生を楽しむという趣旨のようだ。一昨日おとといテスト版オープンβが終わり、あと十分ぐらいで正式スタートする。
ゲームはスキルLvレベル制で、スキルのLvを上げることによってキャラクターが成長し、強化されていく。
スキルは最初に十個選択出来る。そして成長すると他のスキルも「ある程度」獲得出来るようになる。要するに、スキルLvが一定まで上がると、経験値ExPポイントとかのポイントがもらえ、それを消費することで新しいスキルが得られるというシステムのようだ……βベータ組の情報によればだが。
だからむやみやたらと無計画にスキルを選んでしまうと、全部中途半端な育ち方をして器用貧乏になりかねない。この辺は、MMORPGのお約束だ。
魔王討伐とか、そういうグランドクエストは存在していないらしく、もう一つの人生を好きに生きてみろってコンセプト。モンスターとのバトルに終始するプレイも出来るし、自由にアイテムを開発する「生産」をメインにしたプレイも出来る。ただただ雑談に花を咲かせるもよし。
さて、そろそろ開始時刻だ。MMORPGのお約束、アクセス過多による初日超絶サーバー停止オンラインは勘弁して欲しい所である。早速ヘルメットをかぶり、いざ。

……結果から言うと、すんなり始めることが出来た。運営もサーバーをケチったりはしなかったようだ。
まずはこの世界での体となる「アバター」のキャラクターを作ろうか。とりあえずキャラネームは……「アース」でいいや、本名が大地だしな。安直だが、どうせかっこいい名前なんて浮かばないのは自分自身よく理解している。
キャラクターの外見は十九歳ぐらいにしておこうか。身長は一七六センチぐらいかな。黒目と黒髪は譲れない。
外見はちょっと格好悪くするか。美人、美男子の条件は顔立ちの対称性シンメトリー度合いが高いことって聞いたことがあるから、ほんの少しずらしておこう。鼻もあまり高くしないでおこうかね。性別はもちろん男……というか勝手に決まる。性別を偽ると肉体アバターと精神の食い違いで混乱するとのこと。特に胸や下半身の誤差が決定的にNGらしい。
現実リアル世界リアルでは三十八歳だが、心まで老けたわけじゃないし、ゲームの中では若々しくいこう。何もせっかく自由に動けるゲームの中にまで、おっさん臭さを持ち込む必要などないのだから。リアルで動かなくなりつつあるこの体に、心まで引っ張られて老いていくのはつまらない。仮想空間だからこそ、若い心、若い体でプレイしても良いはずだ。

……よし、こんなところだろうか。我ながらぱっとしない。俗に言うモブキャラみたいな? まあ、引き立て役っぽい感じに仕上がった。美女や美男のエディットなんか他の人に任せるが吉だ。自分は主役になるタイプじゃない。
次は大事なスキル選択……なんだが。今までのゲーム情報を踏まえて、β版で不遇、というかゴミ扱いだったスキルをメインにしよう。そうすればガツガツプレイしたがる人からは敬遠されて、ほどほどにのんびりゲームをやれそうだ。
三十八歳という歳から想像できるだろうが、リアルでは会社員として仕事がきちんと週五日である。今日と明日は休みをもらっているからともかく、普段はせいぜい一日に二、三時間ぐらいしかログイン出来そうにないので、大半は単独ソロプレイになるだろう。ソロプレイならネタに走ろうが、他人に迷惑をかける心配はまず無い。
選択内容は……

〈弓〉〈蹴り〉〈遠視〉〈風魔術かぜまじゅつ〉〈製作の指先〉〈料理〉〈木工〉〈薬剤〉〈隠蔽いんぺい〉〈身体能力向上〉

以上十個。
情報によると、この中での不遇扱いスキルは……〈弓〉〈蹴り〉〈風魔術〉〈薬剤〉〈隠蔽〉〈身体能力向上〉の六つだ。
〈弓〉はとにかく当たらないらしい。点でしか相手を捉えることが出来ないからだろう。更に矢を消費するので、コストパフォーマンスがかなり悪いことも不人気に拍車をかける。更に更に威力も片手剣の七五%ぐらいしかないとか。そりゃ選ぶ価値は低いな……遠距離攻撃するにしても、多少の追尾ホーミング能力がある上に面で攻撃できる魔法の方が手っ取り早いだろう。
〈蹴り〉は、アーツ(つまり必殺技みたいなものだ)が無いらしい。他のスキルならスキルLvが10を超えると何かしらの技が使えるのだが、〈蹴り〉をLv30まで上げたβプレイヤーいわく、「30まで上げたのに何も出ねえ、クソスキルだろ」とのこと(ちなみに、〈殴り〉スキルの方には普通にアーツがあったようだ)。これが事実なのかどうか確かめてみたいし、仲間の支援を得られないソロである以上、近接戦闘能力をある程度持っていないと敵に近づかれたときに危険すぎる。
〈風魔術〉は、Lvが上がると得られる支援バフアーツの《速度上昇》などはそれなりに使えるものの、攻撃に使うには他の属性(全部で火、水、風、土、光、闇の六つがある)に劣り、回復に使おうにも水や光の半分どころか四分の一の効果も無い中途半端っぷり。
〈薬剤〉はポーションPOTを作るスキルで、普通のMMOなら歓迎されるんだが。このゲームではNPCノンプレイヤーキャラから簡単に、安く、大量にポーションが買えるので、わざわざ自分で作り出すのがバカバカしくなるようだ。また、ポーションは一度使用してから再度使用出来るようになるまでの時間――クールタイムが短めなので、連続使用が出来る。だから効能がちょっとくらい良いポーションを無理に自分で作らなくとも、NPCから買ったポーションを連続使用すれば、時間当たりの回復量としては大して違いがないのだとか。あくまでβでの話ではあるが。

〈隠蔽〉は、隠れる効果自体は優秀なんだが、コストがひどいらしい。一秒ごとにMPマジックパワーが最大値の一%ずつ減っていく。更に、一〇秒後には二%、二〇秒後には四%、と一〇秒ごとにコストが倍に跳ね上がるようだ。また、匂いや音、熱などで相手を感知するモンスターには無意味とのこと。
〈身体能力向上〉は、走ったり武器を使ったり製作したり……といったいろんな行動にプラス補整を掛けるらしい。が、広く浅くという半端ぶりらしく、何かに特化したスキルを取る方がはるかに強い! とのことだ。まあ全部に補整がかかるなら、補整量を低くしないとぶっ壊れバランスになってしまうから当然か。自分は何か一つに集中するより色々やりたいから、あえてこれを習得する。

とりあえずコレでキャラ作成はOK。
ちなみに、このゲームをやることはリアルの知人には一切言ってない。いや、友人がいないわけじゃないんだが……みんな酒飲みで酒が入ると鬼になり、無理矢理飲ませてくるので、ゲームをする時間が減る可能性がある。どうしてあれだけ飲んで翌日ケロッとしていられるんだか……
ま、ゲームの知り合いは一期一会いちご いち えでもいいし。弓なんかを背負ってると「使えねー武器でよくやるぜ」とかディスられそうだが、それぐらいは覚悟の上だ。MMORPGの宿命の一つだろう。中にはいい人もいるだろうし。
そしてプレイスタイルは……まずはレンジャーを目指そう。ゲームシステム自体には職業ジョブなんて一切無いが。
森に潜み、素早く動いて危ないときは隠れ、獲物を射殺いころし、料理して食い、自分で弓と矢を制作してコストパフォーマンスを上げる。そして森にある薬草を集めてポーション製作。
理想はそんな感じか。では、もう一つの人生とやらを楽しむこととしようか。いざゲームの世界へログイン! 

「ワンモア・フリーライフ・オンラインへようこそ!」

    ◆ ◆ ◆

「見事なぐらいにぎっしりだな……VRとはいえ、コレはMMO初日のお約束だなぁ」
ログイン直後、無意識につぶやく。
さまざまなところで、
PTパーティ組んでガッツリLv上げませんかー? 前衛さん特に募集中!」
「岩場の方に行くメンバーを募集中、混む前に場所押さえよーぜー!」
などのLv上げ(厳密にはスキル上げだけど)PT募集の声が飛び交っている。β経験者はアバターの動かし方やアーツの中身などのツボをきっちり押さえたスキル編成にしているんだろうし、ものすごい勢いでスキルLvを上げていきそうだ。
またその一方で……
「新規のプレイヤーさん、装備良いのあるよー!」
「戦闘に行く前に装備はいかがっすかー?」
といった生産者の皆さんの声も飛び交う。早くも露店を出しているのはやっぱりオープンβ組だろうなぁ。大通りにぎっしりと露店が並ぶのも、MMOの名物だ。
しかしぎゅうぎゅう詰めになるぐらいの人がいるにもかかわらず、弓を背負っているプレイヤーは見かけなかった。やっぱり情報の影響って強いものだな。

などと考えていると、もう一つの面倒な名物にまで、いきなり出会ってしまった。
「おい、そこの弓背負ってるザコ、こっちむけよ」
そう、どこにでもいる、人を見下すおにーさま達である。正直一番かかわりたくない手合いなんだがなぁ……無視すると尚更うっとうしいし。
「自分ですかね……」
うんざりとした顔を出来るだけ隠して振り向く。
「そんなクズ武器なんかじゃやっていけねーぜ? さっさとゲームやめちまえば?」
「てか、顔もモブっぽいし、ダセェな。さっさと死ねよ」
ぎゃーぎゃーぴーぴーわめき続ける。こういうのの相手は時間の無駄でしかないんだよねぇ……初日から運が悪いなぁ。
そしてこれだけ人がいっぱい周りにいれば、当然悪目立ちするハメになる。言いがかりをつけてきた連中五人はいまだに悪口を続行中。ぎゃははは、なんてどこの北斗の○の世紀末のモヒカンさんですか? と言いたくなる笑い方だ。
だがまぁ、すぐに向こうも言い飽きたんだろう。
「ま、おめえみたいなザコはがたがたぶるぶる震えて街のすみっこに引っ込んでな!」
そう言い残してモヒカンPT(実際はそんな髪型してないが、イメージとしてはその表現がぴったり)は去っていった。おかげで弓がクズ武器というイメージは周囲に更に広がったようだ。
……自分にとっては好都合だが。
これで基本的に放置されることになるだろう。どの道ソロがメインのつもりだったし、PTは知り合いが出来たら組めば良い。コレだけ〈弓〉の悪評が広まった状況でそれでも声を掛けてくる人なら、人間的な意味でハズレではないだろうし。
とはいえ、こんな大通りでじろじろと見られ続ける趣味なんかかけらも持ち合わせていないので、さっさと移動を開始。目的地はトレーニングエリア。名前のまんま、訓練場である。
少々蛇足だがこの訓練場、β時代には無かったらしい。βテスター達が、安心して剣を振ったり魔法を詠唱したりできる場所が欲しいと運営に要望を送った成果のようだ。この点は実にβ組グッジョブと言いたい。
訓練場には動かないターゲットと、ある程度ランダムに動くターゲットが用意されている。射撃系(弓はもちろん、投擲とうてき、魔法も含む)には弓道に使うようなまとが。近接系(剣とか斧とか槍とか素手とかね)にはわら人形が。
さすがに外のモンスター相手での訓練と比べると成長は遅いけれど、ここでスキルLvを5までは上げられるらしい。
そして武器の扱い方、魔法の詠唱などをサポートしてくれるNPCもいる。なので、初めてのVRMMO参加者でも序盤でいきなりつまずくことはなさそうだ。きちんとNPCの話を聞いていれば、だが。話を聞いているようで聞いていない人ってのは、結構いるもんだ。
NPCから諸々レクチャーを受けた後、早速弓矢の練習をする。渡された訓練場専用武具は、弾数∞(無限)となっていた。非常にありがたい設定である。
そして記念すべき……でもないが第一射目――
「撃つ、撃たない以前の問題だった……」
弓を引いて構えたまでは良いが、しっかり支えられなかったためか矢がポロリと落ちて、失敗ファンブル扱いになってしまった。正直かなり落ち込んだのと恥ずかしかったのは、ここだけの秘密である。
気を取り直し、構えては撃つ、構えては撃つをとにかく何回も繰り返した結果……情報にあった通り「非常に当たらない」のを痛感することになった。
矢の飛ぶ方向を教えてくれるガイドラインなどは一切無く、現実のようにしっかりと矢の行き先をイメージして構えなければならないのだ。コレでは練習もままならず、クズ武器扱いされるのも至極納得である。

一〇〇回ほど射的を行ったが、かろうじて的に命中したのはたったの二本。そもそも的に届かず、途中で力なく落ちた矢はおそらく七〇本を超えている。落ちた瞬間に消えるため大雑把な数を数えただけだが、大きく間違ってはいないだろう。
とにかく、的と弓矢だけに意識を集中し、射続けた。既に〈弓〉スキルのLvは5に届いていたが、肝心のプレイヤー自体の操作スキルがぼろぼろでは、たとえ〈弓〉スキルがLv99であっても何の意味も無い。ひたすら構えて撃つ、構えて撃つ、構えて撃つ。
最終的に、動かない的になら八割、ランダムに動く的にも六割ぐらいの確率でしっかりと命中させられるようになった。ただ、矢の威力はひょろっとした感じで頼りない。かろうじて、最弱モンスターになら戦いを挑めるぐらいだろうか。
ひとまず練習用の弓矢を返却。次は〈風魔術〉の練習を行うことにした。魔法は杖などの媒体を持って使うのが基本だが、威力や射程を犠牲にするなら何も持たずに詠唱し、撃つことも可能だという。
媒体としては、杖が最優秀で、魔術書、魔術手まじゅつしゅ(コレはグローブ扱いになる)、魔術指輪の順となるらしい。魔法メインのプレイヤーなら杖か魔術書、魔法戦士型なら魔術手か魔術指輪を装備といったところか。ただし杖以外はかなり貴重品で、腕の良い細工師や織物師であってもそうそう作れないという話である。NPCからの情報だから、実際はどこまで正しいのかはわからないが。
NPCに杖を借り、〈風魔術〉最下級呪文を唱える。
「《ウィンドニードル》!」
小さな風の針が出現し、的に当たるのが見えた。各属性の魔法には《カッター》系の単体攻撃魔法と、複数の相手を巻き込める《ツイスト》系があり、とりあえず両方を使えるようになると魔法の初心者脱却といった感じである。
魔法は弓矢よりはるかに命中率が良かった。自分が弓矢を使いこなせていないだけとも言えるが。
とりあえず〈風魔術〉もLv5にしてから杖をNPCへと返却、次は〈蹴り〉を鍛えようか。
この訓練場には戦士系統の人も結構来ているようだ。片手剣や両手剣、そして槍などを構えてわら人形に攻撃を仕掛けている人達に交じって、とりあえずローキックを見よう見まねで放つ。幸いそれなりの形になっているためか、〈蹴り〉のスキルLvもさくさく上がる。
ついでにミドルキックやかかと落としも試してみる。リアルだとかかと落としなんてとても出来ないのだが、そこはさすがゲーム、ちゃんとイメージすればかかと落としも可能だった。
上から足を叩きつけるかかと落としは、やや高い位置にある部位、たとえば頭部を攻撃できる。人型モンスター相手に試すのも良いだろうな。
〈蹴り〉スキルは弓矢や魔法の半分ぐらいの時間でそうそうにLv5となった。体術系統は上がりやすい仕組みなのだろうか。
そして〈身体能力向上〉もLv3まで上がっていた。別のスキル訓練による経験値が反映されたということだろう。
ともかく、この世界での体の動かし方や魔法など、初心者として覚えることは、最低限習得した。あとは実戦を繰り返してスキルLvとプレイヤー操作スキルを上げていくだけである。
かなり熱中していたようで、リアルでは既に三時間が経過していた。晩御飯と風呂の準備をするため、街の宿屋の一室を借りていったんログアウトをする。
こうやって宿屋に泊まってログアウトするのが、この「ワンモア」では一番安全なログアウト方法だ。他のMMOみたいにどこにいても一瞬でログアウトできるログアウトボタンは無い。
安全な手段を使わずにログアウトすると、アバターがそのまま一定時間残される。もちろん無防備極まりなく、フィールドの外ならばモンスターに殺されるだろう。それに街中でも無事でいられる保証は、どこにも無い。これは説明書にも記載されている。
ちなみに、宿屋に泊まって代金を支払ったそのとき、この世界で流通しているお金の単位が「グロー」であるということを知った……遅いぞ自分。



    ◆ ◆ ◆

それからログアウトして食事を取って風呂に入って……再ログイン。
さて、とりあえずフィールドに出る前に最低限の準備はしないと。きちんと装備を確認。


【駆け出しの弓】
駆け出し冒険者にお似合いの弓。弱いので早めに交換を。
効果:攻撃力Atk+2 耐久力無制限


【駆け出しの防護服】
駆け出し用の上下一体服。〈防具マスタリー〉判定無し。
効果:守備力Def+5 耐久力無制限


【木の矢】
木製の弱い矢。
数量:二〇〇本


と、武器防具はこんな感じ。
装備品は「耐久力」がゼロになったら、容赦なく大破ブレイクして[ロスト]、つまり完全に消滅する。弓と服の耐久力が無制限なのは、この[ロスト]を発生させないための対策なんだろうな。装備を全て[ロスト]してしまうと、道具が不要の体術使い以外は詰むことになる。
服の方の説明にあった〈防具マスタリー〉とは、防具を上手く着こなす能力を得るスキルであり、布、皮鎧、軽鎧、重鎧の四種類が存在する。
たとえば〈布防具マスタリー〉は魔法防御力を上昇させたり、回避能力を増加させたりする。〈皮鎧〉なら動いたときに出る音を抑えるので隠密性が高くなるし、〈軽鎧〉と〈重鎧〉は鎧の重量を軽減してくれる。防具そのものはマスタリーが無くても着られるし、防御力はきちんと発揮されるが、特に重鎧なんて着込んでしまうとその重さで動きが思いっきり制限されてしまい、動かないまと状態になる。防御力がいくら高くても、動けないんじゃ何の意味もない。
話がずれたついでに、スキルに〈料理〉がある意味も話しておこう。このゲームにはきちんと「満腹度」があり、更に「渇水度」まである。満腹度が完全に尽きてしまうとHPが、渇水度ならMPが減りだす。
コレを防ぐには、単純に飲み食いすればいい。〈料理〉スキルがあれば、自分で好きに調理が出来るというわけだ。スキルが無い者は金を払って飲み食いする。とりあえず、最初は自分もパンと水をNPCから購入しておく。どちらも一つたった五グローなので、ケチる必要はまったく無い。
また、HPがゼロになったときに発生する「デスペナルティ」の内容は、ステータスが三〇分半減、装備品の耐久力が全箇所マイナス三三%だ。
説明が長引いた間に、街の外にあるフィールドエリアまでたどりついた。さて狩るかねー……と思った自分は甘ちゃんだった。
「今日は初日だってこと……甘く見積もってたなぁ……」
目の前の草原エリアは、たくさんのプレイヤーで溢れていた。
「そこに湧いたぞ、斬れー!」
「そいつは俺達の獲物だああ!」
「そこどいて、そいつ殺せ(ry」
「さっさと次湧けよ! 戦い足りねえんだよこっちは!」
とまあ、修羅場しゅら ばという一言がふさわしい盛況っぷり。これもまた名物といえば名物。こりゃ今日は無理かなぁと腕組みをしながら観戦モードに入っていると……
「ま〜数日はこんな感じでしょうねえ〜」
何とも間延びした女性の声が後ろから掛かった。弓を背負ってる自分に話しかけてくるなんて貴重レアな人だな。せっかくなので話でもしてみますか。
「でしょうね、皆殺気さっき立ってるようですし」
「まったくですね〜、夜が来る前に少しでも狩りたいんでしょうね〜」
ん? 夜? 
「あの、質問良いですか? きちんと昼夜って概念があるんですか?」
「あら〜? もう一回昼夜が過ぎてますけど〜?」
「訓練場に入りびたっていて、その後すぐログアウトしたからわからなくて」
「そ〜でしたか〜」
彼女の説明によると、この世界は昼間三時間、夜二時間で昼夜を繰り返す設定になっているとのこと。夜の戦闘は視界が狭まる、厄介なモンスターが現れる、といったお約束の設定があるらしい。
対策は、〈光魔術〉Lv10の《ライト》、〈火魔術〉Lv15の《トーチ》、〈闇魔術〉Lv30の《ナイトサイト》のどれかを使うか、〈遠視〉スキルのLvを上げることだそうだ。レンジャー稼業のために選択した〈遠視〉だったが、暗視効果も兼ねていたようである。
「そうなると、夜まではこの状態が続くんですかね」
「多分そうですよ〜」
コレはどうしようもないな、誰の責任というわけでもないし。ならば……戦闘以外のことをすれば良いじゃないか。
「わざわざ教えてくださってありがとうございます」
「い〜え〜、私はミリーと言います〜、フレンドになっておきます〜?」
何ともまぁ、のんびりした子だな……まあ可能なら交友関係は広げておくべきだし、いいか。
「こっちはアースと言います、よろしく」
「こちらこそ〜」
フレンド登録を済ませると、彼女は「私は戻ります〜」とのんびり街に入っていった。
自分はフィールドエリアで薬草集めである。狩りをしている人達からは出来るだけ距離をとり、邪魔をしないよう心がけつつ、〈遠視〉スキルを発動し、【薬草(?)】と表示された草をかき集める。「(?)」となっている理由は……
「未鑑定状態……なのかい……」
トル○コやシレ○などのゲームのように、拾った直後は何のアイテムかわからないのである。とはいえ、いきなり最初のフィールドにふざけたバッドステータスを引き起こす毒草を配置するわけない……よねえ?
そう願いつつ、夕暮れを迎えるまで草という草をとにかくかき集めた。

    ◆ ◆ ◆

夜。多くのプレイヤーが街に戻り、モンスターがドロップしたアイテムの換金や食事をしている中、自分は階段の隅にしゃがみこんで、集めた草を鑑定していた。
最初は失敗判定が続き、何の草なのかわからないままいくつも[ロスト]したが、やがて少しずつ草の正体がわかるようになった。
その理由は、〈薬剤〉がLv3になったこと。
どうやら、アイテムを作るだけではなく見極めることもこのスキルに関係するらしく、〈薬剤〉Lvが1から2になると、【薬草】だけは判別が付くようになった。
そしてLv3で【毒消し草】と【毒草】が鑑定できるようになったのだが……こんなものが二枚だけ混じっていた。

【窒息草】
コレを食べた者、瞬間的にすべての呼吸が止まり絶命する。絶対に食べてはいけない! 
種類:薬剤アイテム


「超○の種」みたいなアイテムがもう出てきたよ! ナニ考えてるんだ運営! と、つい怒鳴どなりたくなった自分を、多分誰も責めはしないだろう。
とにかく素材が取れたので次は製作である。ポーション屋に向かい、携帯できる初心者薬剤製作セットを購入。お値段は四〇〇グローなり。初期資産が一五〇〇グローで、食費が一〇グロー、宿代が一〇グローだったので、手持ちが一〇八〇グローにまで減っている。
ポーションの作り方は大体予想通り。薬草をすりつぶす→薬水とよく混ぜ合わせ熱を加える→はい完成。一番簡単なアイテムだから、こんなもんなのだろう。より高品質のポーションを作るときはもっと手間が掛かりそうだ。
製作した肝心のポーションはこんな感じ。


【コモンヒーリングポーション】
すべての回復アイテムの基本。
効果:HPを11%回復する


このゲームでは、一回製作が成功したアイテムは、材料さえきちんとそろっていれば、次からは工程を省略して一括でいくつでも作れる。そうすると一つ一つの性能は落ちるのだが。
とりあえず手持ちの薬草は全部ポーションにして、ついでに毒消しポーションも作れるだけ作っておいた。毒消し草で作ったポーションはこれ。


【コモンアンチポイズンポーション】
一番弱い毒消しポーション。毒が強い場合は解毒成功率が落ちる。
効果:状態異常[毒]を治療する


〈製作の指先〉スキルも地道に上がる。【毒草】と【窒息草】はそのまま。スキルLvが足りなくて、現時点では製作に挑む資格自体が無いようだ。
以前述べた通りポーションはNPCからいくらでも安く買えるため、買い取り希望者なんているはずもない。なので最初から持っていたポーションはさっさとNPCに全部売却、自作のポーションはNPCのものよりたった一%ではあるが性能がいいため手元に残す。もちろん毒消しポーションも。序盤は特に念を入れておいた方がいい。
〈薬剤〉スキルのLvも上がったし、今日はコレぐらいでいいか。そう思い、宿屋に入ってログアウト、リアルでもそのまま就寝した。
やりこむ連中は徹夜だろうな、なんてどうでもいいことを考えつつ。


【スキル一覧】
〈弓〉Lv5 〈蹴り〉Lv5 〈遠視〉Lv4 〈風魔術〉Lv5 〈製作の指先〉Lv3
〈料理〉Lv1 〈木工〉Lv1 〈薬剤〉Lv7 〈隠蔽〉Lv1 〈身体能力向上〉Lv5 



 2

翌日。朝飯を食べ、掃除、洗濯を済ませてログイン。家事は男女関係なく出来た方がいいぜ? 
昼間は薬草集めてポーション作って売る作業。フィールドにまだ結構な人が居たからなんだが。それでも明らかに犲´瓩鯡椹悗稿阿はあるから、狩りを始めるのは次の夜が明けていてからで構わないだろうと考えた。
薬草をすりつぶすゴリゴリって音に、何となく癒される気がする。この音は手作業じゃないと聞けないから、一括と手作業を半々の割合でポーションを作った。ポーション一つで六グローになるので、ちまちまと小銭を稼げている。ちなみに作業道具は劣化しない仕様だ。
稼いだお金で〈木工〉と〈料理〉用の製作道具を購入。詳細は使うときに話そう。
そんな作業を済ますと、ゲーム世界は夜に入ったのでいったんログアウトして昼飯。きちんと食べるのは大事なことだ。
そしてログインして、夜明けを待つ。夜は視界が悪いと前に話したが、どうやら毒持ちモンスターも湧くとか何とか。解毒剤を持ち歩かずに視界の低下による不意打ち&毒&焦りのトリプルコンボを食らって死に戻りリスタートするハメになったと、革鎧着用のシーフっぽいヤツが周りに話していた。〈光魔術〉持ちでも《ライト》が使えるLv10までいってる人はまだ少ない。暗くなる前に街へ戻って夜をやり過ごすのが、プレイヤー全体の基本となっているようだ。
夜明けを迎えてから、フィールドに出発。予想通り次の狩場を目指すPTが大半だったようで、もう人はまばらだ。コレならば〈弓〉で遠距離攻撃しても、横取りだ何だと揉め事にはならないだろう。
早速、ちょうど良い所に最弱のモンスター、ラビットホーンが。名前のまんま、小さな一本角を備えたウサギ型モンスターだ。
しかし一応モンスターなので、ナメるとやられかねない。もちろん、かの有名な、首を食いちぎってくるクリティカルヒットの恐怖は無いと思うけれど……とどうでもいいネタを頭に浮かべつつ、弓を構える。
念のため相手の背後から攻撃を仕掛ける。弓はその特性上、すばやい連続攻撃なんかは到底出来ないので、一発目がとても大事である。しっかりと構えて……
っ……」 
ヒュオン! と良い風斬り音を立てて、ラビットホーンに矢が飛んでいく。コレなら当たる! と思った瞬間……ラビットホーンは飛び跳ねて回避した。
「んな!?」
背後から撃ったのに回避されるのか!? と軽くパニック。ラビットホーンは戦闘態勢をとり、こっちに向かって勢い良く走り出す。
だが弓の射程ぎりぎりから狙ったので、もう一回ぐらいなら矢を放つ時間がある。出来るだけ迅速に構えて……ヒュッ! 
「ピギッ!?」
狙ったのは顔だったのだが、ややずれてしまい、足に命中していた。やはり焦ると正確性が落ちるようだ。足に矢を受けても、ラビットホーンは速度を緩めない。
「ピー!!」
そう声を張り上げて跳躍。小さいなりにその存在をしっかりと示す角を、こちらに向けて突っ込んでくる。初期装備だけに当たれば小さくないダメージをこうむるだろう……だが。
「〈蹴り〉」
アッパーカットのように振り上げた足で、ラビットホーンの顔面にキックをプレゼントした。
「ぷ、ぷぎゅるるるる……」
何とも哀愁あいしゅう漂う声を上げつつ、地面に落ちていくラビットホーン。
日本語に訳すと「ひ、ひどいぃぃぃ……」と言っていたのかも。だが情けはかけん。
地面に落ちたラビットホーンはまだHPが残っていたので、そのままサッカーのフリーキックよろしく思い切り蹴り飛ばす。
「ぷぎゅ〜〜〜〜……」 
……カシャーン、と遠くで音がした。
吹っ飛んでいった先でHPがゼロになり、体が砕け散ったらしい。ドロップアイテム欄に【ラビットホーンの肉】【ラビットホーンの皮】の二つが表記されていた。これじゃ弓使いじゃなくて〈蹴り〉使いだろ! 突っ込みどころ満載な戦闘になってしまった……などと考えていると背後から突然、
「GOOOOOOOOOOOOOAL!」
なんてふざけた声を掛けられたので、即座に振り返る。
「コレはサッカーじゃねえよ!?」
つい怒鳴り返す。見るとそこでは、重鎧を着込んだ両手剣の戦士が大笑いしていた。
「いやいや、いいもん見れ……あっはっはっはっは!」
「なんでそんなに笑い転げてるんだかまったくわからん!」
そいつは笑いが落ち着いた所で、「俺はツヴァイというんだが」と、かぶとをはずして素顔をこちらに見せながら簡単に自己紹介してきた。なかなかのイケメンだ。両目は赤、髪の毛も赤か。自分も名乗っておく。
「んで、何がそこまで面白かったんだ?」
ツヴァイ曰く、自分もラビットホーンとはそれなりに戦ったが、あんな間の抜けたラビットホーンの声は初めて聞いたらしい。とどめのフリーキックもどきによって吹っ飛びながら声を上げていくラビットホーンが実に面白かったと。そして最後に……
「面白いことは正義である!」
「アンタはお笑い芸人かっ!」
周辺に響き渡ったツッコミ。念のためだが、面白い〜とのたまいやがったのがツヴァイ。後者が自分である。何が悲しくてこんな三文芝居みたいな真似をせにゃならんのよ、と心の中で嘆く。しかもここはフィールドのど真ん中。絶対誰かに見られている。
「ミリーのお嬢さんに言われて見に来たが、なかなか面白いな」
あの子のフレンドだったんかい。「見世物のつもりはまったくないんだが……」と思わずボヤく。
「せっかくだし、フレンド登録いいよな?」
ツヴァイの申し出に対し、「構わないぞ」と返す。
「ただしお笑い芸人の相棒にはならんからな」
ついでにそう付け加えておく。即座にピクッと肩を震わせて、「な、ナンノコトデショウカ?」と変な片言の日本語になるツヴァイ……ダメだコイツ、見た目で強そうだとわかるが、笑いを取るためならどんな悪ふざけでもやるタイプだ。フレンド登録は早まっただろうか、と不安になる。
「と、とりあえずそのうちPTパーティで遊ぼうぜ?」
取りつくろうような台詞せりふが飛んできたが、いじり倒す趣味も無いので、そのときはよろしく頼むと返答しておく。
ツヴァイが街に向かうのを見届けた後、ふと気が付く。
「モンスター一匹倒すのにどれだけ時間が掛かるんだよ自分は……」
ツヴァイとのやり取りを含むとはいえ、それなりの時間が経過したのは事実である。滑り出しから先が思いやられると、「頭が痛い」のを通り越して、「頭痛が痛い」という変な表現が頭に浮かぶのであった。


【スキル一覧】
〈弓〉Lv5 〈蹴り〉Lv6 〈遠視〉Lv6 〈風魔術〉Lv5 〈製作の指先〉Lv6
〈料理〉Lv1 〈木工〉Lv1 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv1 〈身体能力向上〉Lv8
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