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1巻試し読み

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……これを読みし者達へ告ぐ。
決しておごってはならぬ、驕ってはならぬ。
この文を見ることが出来たということはなんじらも冒険者であろう。
そして相応の実力もあるのであろう。だが、だからこそ驕ってはならぬ。
ここまで来られた戦闘能力は認めよう、だが、汝らの手にある武器は誰が作った? 
汝らがまとう防具は誰が作った? 
腹が減ったときに食べた食事は? 傷を負わされたときに飲んだポーションは? 
決して忘れてはならぬ、決して忘れてはならぬ。
汝らの強さを支えるそれらの武具や道具は他者が作ったものぞ。
金を出したから、材料を出したから手元にあって当然と、そう言い張る者もおるだろう……
だが、それは間違いである。
金は対価としては確実であろう。だが、決して金ではどうしようもないこともあるのだ。
結局どれだけ強くなろうとも、他者の手助けがなければ生きられぬのだ。
ここで息絶えることになるまで、わしはそれに気が付かなかった。
故にこの後に来る冒険者達へ警告としてこの遺言を残す。
よいか? 決して傲慢ごうまんになってはならぬ。
力をつけ、莫大な金を手に入れたからとて、人心をないがしろにすればわしのように……
みじめに看取られることもなく暗い穴倉で消えることになろうぞ。

         最初のダンジョン最奥にて見つかった名も無き冒険者の遺言より……

その日、ログインした自分は、目に入ってきた光景が信じられなかった。普段見かけることのない、明らかに強力な装備で身を固めた大勢の人達が街中に溢れ返っていたのだ。
「ポーションを売ってください〜!」
「ポーション余ってる人、いまなら三〇グローで買うよ!」
「頼む、ポーションを売ってくれ、戦闘に行けないんだ!」
話をまとめればとどのつまり、「ポーションを購入したい」ということである。でもなんでだ? ポーションはNPCからいくらでも買えるので、〈薬剤〉スキルはクズスキルだってことじゃなかったのか? 
とにかく情報を手に入れないと始まらない。
フレンドリストを起動。ミリーかツヴァイが居ると良いが……二人とも居た。
話題的に前衛職であるツヴァイに聞く方がよさそうだな。ミリーは魔法使い系だし、ポーションの話題にはあまり詳しくないかもしれない。
ツヴァイに向けてウィスパーチャット(個人会話)を起動して、話しかける。
【ツヴァイ、こちらはアースなんだが、今少し話を出来るか?】
【お、アースか! ようやく来てくれたな!】
ようやくってどういうことだ……とりあえず話を促すか。
【どういうことだ? 街中でポーション売ってくれってずいぶん騒がしいが】
【簡単に答えを言うぞ? NPCが突然、ポーションは売り切れたと言い出したんだ】
【なんだと!? 前線はいくらでも買えるっていう前提でやっていたんだろ?】
【その通りだ、で、それが突然売り切れ宣言だろ? いまや大混乱なんだよ】
うわあ、コレは厄介なことになった。言うまでもなく、回復は基本光か水の魔法で行うが、やはり予想外の被弾など魔法では追いつかない場合もある。そういったときにすぐに使えるポーションは、前衛はもちろん後衛にも必須だった。
それが突然売り切れ宣言されてしまったら、最前線で攻略していた人達にとっては致命的な話だ。
いくらなんでも攻撃を全部回避するなんて芸当を全員に要求するのは無茶だし、相手の攻撃を受け止める前提で戦うタンクタイプに対しては暴言でしかない。
【こりゃ、当分荒れるんじゃないか?】
【アース、何のん気なこと言ってるんだ、お前が一番やばいんだぞ!】
【あ、ヤッパリソウデスカ?】
【前に売っていたポーションジュースだっけか? あれ要求されまくるぞ】
【実はもう……売ってくれって要求メールが数えるのもばかばかしい状態になってきている】
【やっぱりか……とりあえずいつもの場所で少しでも売るしかないだろ】
やむを得ないのはわかる……引くことも出来んし、覚悟を決めるしかないか……攻略サイトを鵜呑うのみにしてしまった人は、絶対に〈薬剤〉スキルを取っていないだろうからな。
【アース、とりあえず俺もそっちに向かうからな?】
【なぜ売らないんだと暴力行為に訴えるヤツが出るからか?】
【その読みで正しい。じゃ、後でな】
……仕方無い、とにかく素材を持てるだけ持って行くか。だんだんと足取りが重くなるのを自覚しつつも、いつも製作を行っている場所へと向かう。〈料理〉スキルが30になっていたので途中で中級料理セットも購入。蒸し器とグリル機材が増えた。
買うべきものを買い込み、いつもの小道に入ったとたん、そこには居るわ居るわ……まさにおしくらまんじゅうのようにプレイヤーがひしめきあっていた。そして自分を見つけたとたんに……
「おお、ついに料理人が降臨された!」
「ポーションを作れる料理人キター!」
「金は出す、早くお願い!」
今の混沌状態を象徴するがごとくの大混乱。あまりに騒ぎが大きすぎるので、やむを得ず大声を出して注目を集める。
「コレだけ多くの人が居るんだ、購入制限をつけさせてもらう!」
何人居るのかわからないが、ある程度の人数に行き渡らないと、余計に混乱が大きくなるだろう。ある意味災害時と言い換えてもいい状態である以上、制限するしかない。
「ポーションは一人五つまでだ! 厳しいと思うだろうが素材も無限にあるわけではないから、納得して欲しい!」
手持ちの素材だって潤沢じゅんたくというほどじゃないし、〈薬剤〉スキルが無いと薬草を探すことすら出来ないので、素材集めをしてもらうことも不可能。
独り占めなんてしてしまえば、掲示板などでさらされて孤立すると、誰しも容易にわかるのだろう。反対意見は出なかった。
そうして話がまとまれば、あとはとにかく素材が尽きるまで作って作って作りまくるだけだ。ツヴァイが来てくれたおかげで、購入者の整列が円滑に進んだのは非常にありがたかった。
てか、ツヴァイはギルドマスターだったんだな。こういう状況下でも指示が早いわけだ。こういうのは経験が物を言うからな。自分は指示を出す立場になったことがないから助かった。
食材である果物を材料に使うとはいえ、〈料理〉スキルより〈薬剤〉スキルの影響が強いアイテムのため、〈料理〉では出来ない一括作成が可能になっている。ツヴァイが整列作業をやってくれているうちに、一括作成を駆使してポーションの数を揃えていく。
〈料理〉スキルが異常に高いためか、一括作成でも製品評価は6以下にならない。これならば品質のばらつきによる不満も出ずに済みそうだ。
ちなみにポーションジュース一本のお値段は四〇グローにさせてもらっている。前回の三〇グローはお試し価格だったし、今の状態で下手に安売りすると、かえって面倒なことになりかねない。それでもポーションが買えること、NPCのものより効果が高いこと、果物の味がついているので飲みやすく、渇水度を回復する付加効果もあることで、不満は一切出なかった。
今日は〈料理〉系統の作業は一切出来ないと考えよう。とにかく今はポーションを製作して、少しでも多く供給しなくては。
ポーションは一括作成が出来る分、〈料理〉の数を揃えるよりはかなりマシだ。手順も短いからさくさく作れる。そしてその分、素材である薬草などがものすごい勢いで減っていき……
「申し訳ない、薬草がついに切れた……今あるのだけで終わりだ」
とうとう売り切れを宣言せざるをえなくなってしまった。全力を尽くしたが、素材が無くなった以上どうしようもない。この後薬草をかき集めにフィールドへ出ないと……そんな考えを巡らしていたとき、とうとう危惧していたことが起こった。
ツヴァイが問題視していた、暴力に訴えるプレイヤーの登場である。彼等は列に無理やり割り込んできたかと思うと、開口一番こう言い出した。
「おい、ここにあるポーション全部よこせや。俺達が使ってやるよ」
そのあまりにも自分勝手な言い方に苛立ちを覚えてそちらを見てみると……初日、自分を弓使いだからザコだと罵った、あの世紀末モヒカンPTの五人がそこに居たのである。
「申し訳ありませんが売る物は何一つありません、帰り道はあちらです」
こっちの返答はコレ、コレ以外に無い。今まで順番待ちをして買ってくれた人達を馬鹿にしている行為だからだ。
「あぁ!? ザコの癖に、俺達にそんなこと言っていいのか!」
ふう……生粋きっすいの「馬鹿」だな。
「貴方達が何を言おうと、とにかく売る物はありません!」
ここで引いたら負けだ。ここで引いたらろくでもないことになるなんて、三十八年生きてりゃ嫌でもわかる。
それに多分、こいつらはせいぜい十代半ばだろう。MMOという多くの人が関わり合うゲームで、こんな幼稚な行動を取るのだから。
「てめえ、いい度胸だ。殺される準備は出来てんだろうな? あぁ!?」
三下さんしたの凄みにしか見えない……教える義理は一切無いが、一応は伝えておこうか。
「その言葉をそっくり返しますよ……後ろを見れば意味がわかるかと」
モヒカンPTが「はあ? 後ろになんかあったかぁ?」と、声を上げつつ振り向くと……そこは他のプレイヤーの殺気で満ち満ちていた。やっと気が付いたか、愚か者めが。長時間我慢していたのに、そこにぽっと割り込まれて、並んでいた人達が怒らないわけが無い。
「な、何だよてめえら……殺気立ちやがって」
その中には多数の最前線戦闘組も含まれており、数名は武器を構えている。自分達の言動がいかに愚かだったか、やっとわかっただろうか? 
「こんなザコ、守る価値もねえだろ!? 脅して奪えばいいじゃねえか!」
……前言撤回、何もわかっていなかったらしい。
確かに生産者は戦闘的な意味では決して強くはない。そりゃ戦闘以外のことにキャパシティを割り振っているから当然だ。しかし、戦闘以外のことになると一気に強みが出てくる。良い武具を作る武具職人。緊急時の選択肢を与えてくれる薬系統職人。空腹を癒して戦闘の継続を可能にする料理人。さまざまなアクセサリーを製作し、防具とは違った能力を付加出来る細工師などなど。
そして、生産職プレイヤーは横のつながりが強いことが多い。なぜならば、他の生産職が作った材料を必要としあうことがかなり多いから。そこに悪質プレイヤーとして噂が流れれば、武器も防具も道具も一切売ってもらえなくなる。NPC販売の武器や防具は質が格段に落ちるし、ドロップアイテムだけに期待して冒険を続けていくのは無理がある。
ゲームを長く深くやっている人ほど、生産職プレイヤーを蔑ろにしないだろう。特にこういった生産者がもたらす恩恵が大きいゲームでは死活問題になりかねない。
相手を負かす方法は、何も剣を振るうだけではないという良い見本である。このモヒカンPTはそこにまったく気が付いていないのだろう。軽く言葉で脅せば売るだろう、奪えるだろうと信じきった短絡思考である。これは頂けない。
「はぁ。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……救いようが無い馬鹿だ」
あえて汚い言葉を使って、わざと周りに聞こえるように本音をつぶやく。自分の言葉にうなずくプレイヤーは実に多かった。
「てめえ……どこまでも調子に乗りやがって……」
モヒカンPTのリーダーらしき男が、怒りを込めた声で凄む。そして自分の目の前にシステムウィンドウが展開され、次のような文章が浮かび上がってきた。そこに書かれていた文字は……
『ウォードから、デュエルの申請があります、受諾しますか?』
コイツ、自分で自分にとどめを刺したか。生産職の中でも、現時点で料理とポーションの生産を両方出来るのは自分ぐらいのはず。そんな相手にデュエルを挑むとは……
「いいだろ、言葉でも行動でもわからないなら、戦うしかないな……原始的だけれど」
YESやってやるよのキーを叩く。デュエルの観戦可能モードをオンに設定して。
「おい、何も受ける必要ないだろ!?」
状況を見守っていたツヴァイが声を上げる。まあ、受ける必要がまったく無いのは確かだ。生産職にハッキリと喧嘩けんかを売った時点で、この連中の完全敗北が決定しているし。
……だが。
「冥土の土産みやげには良いだろう?」
とだけ返事をしておく。
デュエルとは、一対一で戦う対人戦闘PvPの事である。他人の横槍を防ぐため、戦う二人は特殊な空間に転送される。なので周りの人達にも決着を見せるために、観戦可能にしておいたのだ。
周りの予想は、自分の負けで終わるだろうという見方が強いだろうな。相手は重鎧で防御を固めた両手剣戦士。こっちは革鎧の弓使い、まして普段は生産している姿ばかり見るプレイヤー。そりゃ、結果は火を見るより明らかと思うだろう。
だが、それをひっくり返してこそロマンがあるとは思わないか? 
モヒカンウォードはもう完全に勝ったつもりで、ニヤついた顔になっている……非常に好都合だ、完全に油断している。コレなら隙間が少ない重鎧であっても、弱点をブチ抜けるチャンスがある。そのまま油断していてもらおう。

5……4……3……

デュエル開始のカウントが刻々と進む。ウォードと自分の距離は大体一〇メートルくらい。大剣特有の突進系統アーツの存在を考えると……

2……1……GO! 

やはり、悠長に弓を引く時間は無かった。予想通りウォードは飛び出して距離を詰め、大剣のアーツを繰り出してきた。突進の勢いと大剣の重量を合わせて前方の相手を叩き斬るアーツか。
大剣には詳しくないから名前までは知らないし、そんなことを考える暇はない。だが名前は知らずとも、攻撃が速い分直線的にならざるを得ないとわかれば十分。要はウルフ達の突進とまったく変わらない。
ウルフの攻撃を避けるのと同じく、体を半身にずらすことで回避! 大剣の先が皮鎧の一部を切り裂いていく。
この攻防は、観戦している人の場所によっては、自分が何も出来ずに叩き斬られたとしか見えなかっただろう。「ああ……」とか「ダメか……」といった声が聞こえたような気がした。その声は次の一瞬で「ええ!?」という驚愕の声に変わっただろうが。
アーツは確かに攻撃力が高い。だが、回避されたら硬直という名の隙をさらすことになる。スキルのLvは自分よりはるかに高いようだが、その考えに至らずにいきなり大技のアーツを撃ったウォードは、ただのマヌケとしか言いようが無いな。
振り下ろされた大剣は地面に突き刺さり、持ち上げられるまでに一瞬間が空く。
そして……この一瞬には、自分にとって値千金あたいせん きんの価値がある! 
ウォードのあごにラビットホーンにも使ったアッパーキックをぶち込んで、顔面をカチ上げる。ダメージなんて大して与えていない……が、ダメージはおまけ。本命は弱点の一つである首を晒させることにある。
あごを打ち抜かれたことで後ろにのけぞりつつ、その弱点を晒すウォード。コイツが動けない僅かな時間を利用して、こっちは距離を取るのを兼ねて後ろに下がり、横に回転しつつ弓を一気に引く。そしてウォードののけぞりが解ける前に、首を目掛けて矢を放つ。
ドシュッ、と幸いにして矢は狙い通り首に刺さった。「ピンポイント・ヒット」発生を示す、肉を打ち抜く生々しい音。そして刺さったまま一定時間残り続ける矢。実にえぐい光景だが、装備やスキルなど色々とLvの差が大きい以上、こんなえげつない手段でやるしかないのだ。
「ぐ、ぐひぇ……がっかっ……」
首を貫かれた影響か、ウォードはしゃべることすら困難な様子で、矢を抜こうとその両手を首に持っていく。理屈ではなく、本能に近い行動だろう。コレなら魔法などの飛び道具の心配も無い。そしてそれは、致命的な隙を晒すのと同義であった。
「ぐひいぃ……!?」
ウォードの顔面に矢が突き立つ。言うまでもないが自分が放った矢である。
顔面にまで矢を突き立てられ、更に首に突き刺さった矢による継続ダメージも発生しているようだが、それでもまだウォードのHPは四〇%ほど残っている。遠慮なくヤツの顔にもう一発、矢を突き立てた。
「ぐああっ!?」
大声を出して苦しむウォード。首に刺さっていた矢がようやく消失したようで、声が出せるようになっている。これで彼の残りHPは大体五%ぐらいか。ならば、と走り寄ってとび蹴りをぶち込んだ……ウォードの顔に刺さっている矢を狙って。
狙いたがわず刺さっていた矢に命中。矢をめり込ませながら、蹴りそのものがウォードの顔面に突き刺さり、ウォードは光の粒子となって砕け散った。
『You  WIN』
そんな文字にも、味気ない気分しか残らなかった……

そしてデュエルエリアから元の世界に帰還。
脅えるモヒカンPT。楽勝の雑魚ざこだと思っていた弓使いにぼろ負けしたのだ。今までの強気が嘘のようだな。もうこれ以上時間をとられることが面倒になって、彼等に一言だけ発した。
「とっとと失せろ、そのつら、もう二度とここにいる人達に見せんな」
大慌てで走り去っていくモヒカンPT。あいつらはもう終わりだろう。悪評はどこの世界でも一瞬で広まるものだからな。ましてや、生産者にデュエル吹っかけて負けたという笑い話まで付いているんだ。もう挽回は出来ないだろう。
「時間を取って申し訳ありませんでした。とりあえず、ある分のポーションは販売いたします。その後薬草採取に走り回るので、お早めにお願いします」
まだざわめいている周りの人達にそう声を掛けたことで、止まっていた時間がようやく動き出した。
その後薬草を採取し、落ちる時間いっぱいまで再びポーションを作った。そのおかげで何とか買いに来ていた人全員に多少なりともポーションは行き渡り、安心してログアウト出来た。
余談ではあるが、モヒカンPTの五人はこれがきっかけとなり、完全に生産者プレイヤーから無視を決め込まれた。装備を買うどころか修理すらしてもらえず、道具は買えず薬も手に入らず、最終的には文字通り世界から引退まっさつというき目に遭ったそうである……

【スキル一覧】
〈弓〉Lv17 〈蹴り〉Lv16 〈遠視〉Lv12 〈風魔術〉Lv11 〈製作の指先〉Lv28
〈料理〉Lv31 〈木工〉Lv9 
〈薬剤〉Lv26 〈隠蔽〉Lv10 〈身体能力向上〉Lv20
ExP10



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デュエルから数日が経過し、ゲームの世界はちょっとだけ変わった。
〈薬剤〉が不遇スキルを脱したのである。正確に言えば正当な評価を受けることになった、だろうか。
そもそも、NPCから安く大量にアイテムが買えるという前提があるからこそ、〈薬剤〉は不遇スキルと言われていたのだ。
NPCにも売り切れが存在する。この事実一つだけで、プレイヤーが〈薬剤〉スキルを見直すきっかけには十分だった。そして見直されれば習得したい者が増えるのは世のことわり。自分のもとにも序盤はどうすればいいのか相談に訪ねて来るプレイヤーが増えた。この中には、前線組も多く含まれていた。
習得スキルの完成形をある程度崩してでも〈薬剤〉を取り、仲間にポーションを供給しようと考えたのだろう。自分はこれに応え、アイテムの収集、鑑定、最初のポーション作成までの流れを実演しつつ教えていった。
実際、自分ひとりでプレイヤー全員のポーションを作成して供給するなんて無理で当たり前。そう遠くないうちに、NPCが売る下級ポーションではやっていけない未来が来るだろうと予測も立てていた。
たとえばゲームバランスのアップデートで、ポーションを使用するためのクールタイムが増加なんてしてしまったら、とたんに厳しい展開になるはずである。
その日がいつ来てもいいように〈薬剤〉スキル持ちの人を増やし、質のいいポーションの供給を確保しておくべきだろう。

そして、時間が経過するごとに〈薬剤〉スキル持ちプレイヤーの数は順調に増加し、ポーションの需要と供給は確実に安定し始め、ポーション不足による混乱は沈静化していった。このポーション不足事件は、プレイヤー達から一種のグランドクエストのような扱いを受けた。〈薬剤〉スキルをクズ扱いしていたプレイヤーにとっては実に苦い記憶ともなったらしいが。
一方で自分はというと。ソロでやりたいがために不遇スキルの〈弓〉や〈蹴り〉を取り、放置されることを望んだというのに、あのデュエルの影響を受けて、当初の予想とは斜め上の評価を受けることになってしまった。
と言うのも、モヒカンPTの悪事を晒してやろうと考えたあるプレイヤーが、例の騒ぎの動画を撮っていたことが判明。デュエル開始から決着まで一連の動きを収めた動画を、公式HPの動画系掲示板に上げてしまったのである。
重鎧で防御をしっかりと固めて、大剣の強烈な一撃で相手をほふるのは、ワンモア世界の一つの現行スタンダードな戦法だった。それが不遇であるはずの〈蹴り〉で崩され、〈弓〉に弱点を撃ち抜かれるという内容は、戦闘職のプレイヤーにはかなりのインパクトがあったようだ。現時点で〈弓〉を使うプレイヤーは自分以外皆無。β時代に〈弓〉を使っていたプレイヤーからは、
「あんな風に矢を当てるなんてこと、そうそう出来ないよ」
「なぜあんな不遇武器で勝てるんだ……」
「あれは特殊な例、自分も経験があるがあんなの無理」
「アレを普通とは思わない方がいい……あの料理人強かったのか」
「これ見た人に言っとく、〈弓〉はめちゃくちゃムズいよ」
などと高く評価されてしまっていた。あくまで今回は、相手のプレイヤースキルが低かったから出来たことで、ちゃんと油断せずに堅実に攻めてくるプレイヤー相手だったらまず勝てないはずなんだが……悪目立ちしてしまいそうだ。
更に「〈弓〉を使うプレイヤー? あいつしか居ないじゃん」の法則で、動画ではキャラネームが伏せられていたものの、何の意味もなかったのは余談だが。
まあそういったこぼれ話を残しつつ、この世界は落ち着きを取り戻した。自分も料理とポーションジュースを自動販売露店に配置し、狩りに出る。ウルフ肉を使った新しい料理の開発のために、ウルフをしっかり狩っておかねばならない。弓の強化に木材も必要だし、薬草やハーブの収集もしたい。目標があるというのは良いことだ。
いやまあ、ぶっちゃけるとポーション不足事件で狩りなんかがぜんぜん出来なかった影響で、鬱憤うっぷんがたまってるだけなんだがね! 
いい加減、〈弓〉ももっとスキルLvを上げたいからなぁ。PTプレイで格上と戦うと成長が早いようだが、素材集めにも時間をきたい自分はこつこつやっていくしかない。欲をかくと失敗するもんだし、焦ってもしょうがないと自分に言い聞かせる。レンジャーへの道は遠いな。

それからしばらくの間、〈風魔術〉と〈蹴り〉の修練を中心に行っていた。そろそろ〈風魔術〉による攻撃手段を増やし、より効率的かつ素早い足の使い方を覚えておきたかった。
特に足の使い方は重要だった。ボクシングなどのパンチ限定の格闘技でさえも、そのパンチを打つ土台は足なのである。ボクサーの走り込みはスタミナに加えて、同時に足を鍛えているのだ。
それは〈弓〉にも通じている。最初は接近されたときに短剣などの武器に持ち替えるよりも素早く振るうことが出来て、距離が開けばまた矢を撃ち込めるよう手を空けておける方法として〈蹴り〉を選択したのだが……まさか、移動や弓を構えるときの安定度など、足に関わる行動にまで補整が掛かるとは思わなかった。
おかげで少々変則的な構え方でも矢を放てるようになっていた。威力こそ落ちるが、戦闘での汎用性が上がったので、これが生存能力の向上にも繋がってくれるといいが。
そして〈風魔術〉のスキルLvが15に到達し、ようやく新しい魔法を覚えたとき、ツヴァイからウィスパーチャットでこんなお誘いが届いた。
【アース、俺達と一回PTプレイをしてみないか?】
自分は弓使いだから足を引っ張らないか? と一応聞いておくと、
【他のメンバーも納得してるし、あんな勝ち方するお前は大丈夫だろ】
こう笑いながら言われてしまった。
話し合いの結果、集合するのは明後日ということで決まった。
【美味い飯に期待してるぜ!】
ツヴァイはそう言い残してウィスパーを切った。あんにゃろう、飯をたかるつもりか。良いだろう、ならこっちも……ああ、そうだ、新しいポーションを作っていくか。手札は多い方が間違いないからな。

そして当日。集合場所に行くと、既に五人ほど来ているのが見えた。アレ? 自分も五分前行動なのだが。
今までPTプレイをしてこなかったから説明の機会が無かったが、一つのPTは最大六名編成となっている。更にPT同士でより大きなレイドPTを組むことも出来る。使うのは大ボス相手のときぐらいだろうけど。
「お、アース、お前も早いな!」
ツヴァイが元気な声を掛けてくる。
「せっかく誘ってもらったのに、遅れちゃ申し訳ないからね……で、ツヴァイとミリー以外は初顔合わせになるかな」
自己紹介が必要かな、と思っていると、
「アースさんのことは皆さん知ってますから〜」
とミリーが言ってきた。ミリーは言動こそのんびりしているが、行動は素早かったりする。そして怒らせると色々地獄を見る、とツヴァイから聞いていた。
「じゃあ、アタシからね。アタシはノーラ。短剣を使った近接戦闘メインよ」
ショートヘアの黄色い目をした女性が自己紹介してくれた。身軽そうな所からして、手数で攻めるタイプか、もしくは不意打ちが得意な暗殺タイプか。
そんなことを考えていると。
【おい、アース、注意が一つある】
突然、すぐそこにいるのにわざわざウィスパーで話しかけてくるツヴァイ。
【彼女の体型には絶対に触れるな! ミリーとは別の意味で地獄になる!】
本気でおびえているツヴァイ。お前……やったのか。つまり、えーと、わかりやすいかどうかはともかくだが、彼女の体型は……つるーん・ぺたーん・すとーんである。身長は一七〇センチぐらいである……これ以上は彼女の名誉のため言わない。
「俺はレイジと言う。装備を見てもらえばわかるかもしれないが、片手斧と盾を使うタンカー役だな」
お次は体格が良い男性が自己紹介してくれた。しっかりとしたヒーターシールドを持って重量感漂う重鎧を着込み、やや大振りな片手斧を背負っている。攻撃に耐えて、相手が隙を見せたところに重い片手斧を一発叩き込むというスタイルのようだ。それを成立させるなら相当の使い手だな、頼りになりそうだ。兜をかぶっているため髪型や髪の色はわからないが、両目は紫か。
「最後は私ですね、カザミネと言います。バスタードソードを使う剣士です」
そう言ったのは、バスタードソードを背負った、部分的に金属が使われている軽鎧装備の男性剣士。バスタードソードとは、持ち手の部分を長くとり、片手でも両手でも扱うことを可能にした剣のことである。だが現実では、「片手剣としては重過ぎる、両手剣としては軽すぎる」と欠陥品的な性質が強く、評価はあまり良くなかったはず。ゲームならそういうこともないだろうが。
普段は片手剣として運用し、チャンスがあったら両手持ちで重い一撃を繰り出すのだろうか。ある意味、「刀」に近い運用かも知れん。名前といい、「刀」が実装されるのを待ちわびるプレイヤーかもしれないな。アップデート次第では十分あり得る選択肢だ。髪の毛はショートのグレー、目もグレーか。しかし随分と身長が小さいなぁ。
「了解、自己紹介感謝。しかし、前衛四人に魔法使いひとりに〈弓〉か。バランスがチョイ悪くないか?」
素直に感じたことを言っておく。
「ああ、それは大丈夫、ミリーは複数属性使いの魔法使いメイジだし、アタシも水魔術鍛えてるから回復はお手の物よ」
と、ノーラ。魔法戦士、というか魔法アサシン? 上手い言い方が思いつかないのだが、近接戦闘をこなしつつサポートも出来るってことか。非常に珍しいタイプだな……そういう面白いプレイヤーは歓迎だ。
「了解、そういうことなら……で、対象物エモノは何をやるんだ?」
これにはレイジが答えた。
「ああ、ギルマスのツヴァイが頼れる弓使いが来るって言うから、ワイルドベアに挑むことになっている」
ワイルドベアか……図体がでかいだけじゃなく、意外と素早さが高い厄介なモンスターだと聞いている。熊はもともと鈍重な生き物ではない。体重はあるがそれを支えるだけの筋力を保持しているし、知能も高い。それがモンスターとして襲ってくるのは脅威だな。ゲームならばこそだ、戦おうなんて気になるのは。
「じゃ、みんな準備は良いか? 移動するぞ」
ツヴァイが場をまとめ上げた所で移動を開始する。自分にとっては完全に未知のエリアに足を踏み入れることになるのか。一人では無謀だが、今回はPTプレイだ。しっかり〈遠視〉スキルでモンスターを警戒すれば問題は無い。料理人がいるからメシが期待できるなどと皆で盛り上がりつつ、狩場へと足を運ぶ。
余計な敵との遭遇は、自分が〈遠視〉スキルを使用してモンスターの居場所を報告することで回避。〈遠視〉スキル様様である。
しばらくかかってようやくワイルドベアの生息地に到着。〈遠視〉スキルでもワイルドベアを確認し、それをPTメンバーに告げる。
「〈遠視〉スキルは本当に便利ですね、これだけでも来て貰った甲斐がありますよ」
とはカザミネの言。格上モンスターによる不意打ちなんて悲惨な状況は、絶対に作りたくない。そんなことをされたら、PTが崩壊してもおかしくない。だからソロプレイのときよりも、念を入れて〈遠視〉スキルで観測手役スポッターを務めた。これはなかなかレンジャーらしい行動だったな。
「じゃ、補助魔法を掛けてくれ、その後、MPを〈瞑想〉で回復させてから仕掛けるぞ」
〈瞑想〉スキルとは、動かずに休息してMPを短時間で大きく回復させるスキルだ。
ツヴァイからの声に合わせて、ミリーとノーラが補助魔法を掛けていく。てか、ノーラはなぜ短剣使いなのに水魔術の腕が良いのやら。
補助魔法は一回掛ければ三〇分ぐらい効果が続くので、〈瞑想〉スキルによるMP回復を待っても問題は無い。ミリーとノーラがOKのサインを出した時点で、狩りの開始となった。
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