トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
4 / 372
2巻試し読み

2-1

しおりを挟む


今、自分ことアースは、VRMMO「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の中の、木材作業場にいる。これまで酷使こくししてきた自作の特殊武器――X弓の大幅なメンテナンス……というより改良を行うためである。狩りの合間に少しずつ細部の手入れはしていたのだが、一度全体的に見直さないといけないほどくたびれていた。
まずは部品ごとにばらす。そして弓の本体部分と弦を両方とも交換。本体部分は、第二の街「ネクシア」周辺で採れる木材の中でもいいものを選び抜いて、新しく製作し直した。
次に弓がX字に重なる部分の補強具を、鉄からライトメタル製に変更する。これで重量が軽減される上、強度も向上する。改良できる部分はどんどん改良すべきである。
土台そのものは変えないため、初めてX弓を作ったときほどの苦労はない。細々こまごまとした部分の調整も簡単にできる。後は間違えないよう注意を払いながら組み立て直すだけである。
こうして劣化していた部品を全て排除し、強化された部品を組み込むことで、外見こそ大幅な変化はないものの、性能が向上した。


【複合X式狩弓かりゆみ改】
弓を二本に増やしX字に合わせることで威力の増加を図った弓。
その異様な形から打ち出される矢の威力は驚嘆の一言。
ただし難易度は大幅に上がり、駆け出しには絶対扱えない。
部品が大幅に改良され、能力が向上した。
効果:攻撃力Atk+46
製作評価:7


これでまた当分は戦える。しばらくはこういった強化を繰り返す方がいいか。新しい弓の形なんて、そんなにほいほい浮かばないからなぁ。
弓の引き具合もなかなかよし、と。しかし……
「あのさ、そう視線が多いと落ち着かないんだけど?」
振り返りながら声をかける。
そこでは他の木工職人達はもとより、明らかに職人系スキルを持ってなさそうな人達までが、こちらを見ていたのである。
目が合うと、途端に視線をらす人達。
原因は言うまでもなく、先日のイベント「妖精達との舞踏会」でなぜか自分に出番が回ってきた、フェアリークィーンとの最終戦闘にある。
アレで目立ってしまった結果、出歩くだけで注目される。視線というものは意識するなと言われても感じてしまうもの。イベント前の自分は単独ソロプレイがメインだったので、〈盗賊〉スキルを多用し、隠れて戦うことや気配を殺すことに力を注いでいた。その反動か、なおさら視線を強く感じるのである。
まあ、あれだけのことをやったのだから、しばらくは目立ってしまうのも仕方がないか。
それにしても、弓の製作なんて見てて面白いかね〜?
それとも、「変なことやってるな〜」という物珍しさかなぁ。
こんな状況で、またクィーンが突然来ないことを祈る……まあ、来たのはこの前の一回きりだから心配しなくても大丈夫か。

ともかく用事は済んだので、作業場からは撤収しよう。〈隠蔽いんぺい〉スキルで隠れたい気分なのだが、今のところアレはスキレベルLvが上がってもMPマジックパワーの消費率が改善されず、乱用できない状態である。
視線が集まるからって、スキルをこうぽんぽん使っていいものではないのだ……分かってはいる、分かってはいるんだがなぁ。
イベントで目立つってのが、ここまで影響が大きいとは思わなかった。
あの戦いを記録した動画は運営によって専用ページで公開UPされ、閲覧数がすごいことになっている。それどころか一部分が加工されて公式プロモーションビデオPVのひとコマに使われてしまい、さらに目立つ結果に。そのおかげで、既にX弓が自分の目印になってきている感すらある。
これが有名税というやつか? 面倒なことこの上ないな〜。
それでも、料理を作って露店に置かないとならないし、素材を集めるために狩りもしたい。とりあえず狩りが先だな……そう考えて街の出口を目指す。今はラビットホーンを狩るのも難しいが。
なぜかと言うと、街から外に出ると、そこには「開始初日かよ!?」と叫びたくなるぐらい多くのプレイヤーがいたからだ。
ええ、そうです……自分に続けとばかりに弓を持ち、あちこちで矢を放っているプレイヤーでごった返していたのです。みんな苦労してるな、弓は序盤が一番きついからなぁ。
この様子だと間違いなく、訓練場にもいっぱいいそうだな。
弓はノンプレイヤーキャラNPCの店で買える粗末なものなのに、逆に防具は最新式というプレイヤーが多く、なんともちぐはぐだ。
特にアタッカータイプが牽制けんせいと魔法対策を兼ねて弓を選んだらしく、重鎧、軽鎧のプレイヤーが目立つ。この中の何人が弓をモノにできるかね?
とりあえず邪魔しないように立ち去りますか……
あと、むちを振るっている人もそれなりにいるな。
鞭はLv10になって《拘束》のアーツを覚えると、途端に活躍の場が増える。
頑張って鍛えて欲しいところだな。

    ◆ ◆ ◆

空いているエリアまで行って、ドレッドウルフやベアをいつも通りに〈隠蔽〉からの〈弓〉コンボで暗殺し、まとまった数のお肉を確保。まるで密猟だが、気にしたら負けだ。真っ向勝負なんてもう二度とやりたくない。
対戦PvPの申し込みも全て断っている。一回受けると悪循環になりそうで。
最強を目指しているわけでもないし、手の内も既にばれている部分が多い。自分には対戦なんかやる意義が薄いのですよ。こうやってひっそりと楽しめればそれでいい。
……そういえば、変な魔法覚えたっけな。他の人も今はいないし、実験するのには丁度いいか。
フェアリークィーンから強制的に装備させられた指輪によって《プリズムノヴァ》という魔法が解禁され、使えるようになっていた。
これはなにかのスキルかどうかも不明だ。
早速、ベア相手に試してみる。
先にベアのHPヒットポイントを八割以上削り、動きを制限しておく。それから発動……おっと、場所指定をする必要がある魔法なのか、じゃあベアを中心に発動。
発動した瞬間、自分のMPが四〇%ほど減ったかと思いきや、虹色の玉が隕石のように落下してきて、爆発した。
魔法の効果が終了した後に確認すると、ベアのHPはまだ五%ほど残っている。威力が低いのは、自分の魔法関連の能力が低いからか? そう思っていたのだが、哀れにもベアはみるみるうちに石像になっていった……これはどういうことだ?
それから休息を挟みながら、十体ほどのベアに何回も《プリズムノヴァ》を撃ってみた。その結果、「ダメージ率は低いが、ランダムで複数のステータス異常を発生させる魔法」と判明……またあのクィーン、とんでもない魔法をくれたものだ。こんなのを人前で使ったら、チート扱いは必至でしょうが……
本格的なピンチのとき以外は絶対封印だ、これ。無闇に撃っちゃダメだ。
ちなみに発生する異常は[毒][火傷][盲目][混乱][拘束][麻痺][石化]の七つのようだ。
[毒]や[火傷]はよく引き起こされるが、[麻痺]や[石化]は滅多に起こらない。まあ、[麻痺]や[石化]が発生しちゃったら、その場でほぼ決着がつくからなぁ。
一度使ったあと、再度使用出来るようになるまでの時間――クールタイムは二〇分。これだけ高い威力であることを考えれば、連射できないのは当然か。
こうして《プリズムノヴァ》の実験を終えた後、料理をするために街に帰還。したのだが……
「おい、そこの貴様。お前に用事がある」
こんな声が聞こえてきた。
誰だか知らないが、災難な人もいたもんだなぁ。声をかけられた人に、心の中で合掌する。
この手の高圧的な口調で話す人は、厄介なことが多いからな。
「貴様、こっちを向け。用事があると言っているだろうが!」
さっさと離れてログアウトしよう、関わるのも面倒だ。君子危うきに近寄らずといったところか。あまりにも強引過ぎる行為にはゲームマスターコールをすればサポートを得られるから、問題ないはず。
料理は明日にしよう、なんか一気に疲れが出てきてしまった。
「おい……貴様……」
ああうるさい、あんな声かけじゃ誰だって離れてくって分からんかね〜?
まあいい、とっとと宿屋に入ってログアウトだ。せっかく料理の材料とって来たのになぁ。

明けて翌日。
仕事から帰って即ログイン、今日は料理を頑張らないと。
肉を切って、煮込みと炒めと揚げを同時進行。【熊肉シチュー】【ウルフ肉入りの野菜炒め】【ウサギ肉のから揚げ】の売れ筋三点セットをとにかく量産していく。需要はいくらでもある。自分以外の料理スキル持ちの皆様も、毎日生産にいそしんでいるから、負けないようにせねばな……
複数の調理作業を同時進行しないとならない状況になってから、それもなんとかこなせるようになってしまった自分が怖い。慣れとは恐ろしいものだ。
まあ、煮込みは材料さえ用意すれば後は火加減に気を付けるだけでいいし、野菜炒めは大火力で一気に火を通せばサッと仕上げられる。弱火で時間をかけた炒め物なんて、まずいだけだからねえ。
から揚げも焦げないようにだけ注意しつつ、火力高めで一気に揚げる。
ある意味料理も戦いだ、それは間違いない。
「そしてでき上がりをおいしく食べる♪」
「いきなり来るな! そして食うな!」
ライトメタル素材にベア革コーティングを施し、「痛みは少なく音は大きく」を実現したハリセンで、闖入者ちんにゅうしゃの頭を遠慮なくひっぱたく。パーーン! と良い音が周りに響き渡った。
来たのはもちろん、フェアリークィーンである。しかしコイツ、本当に女王か? まあ、服は地味なワンピースをチョイスしてきたところだけは評価する。
「そいつは商品だ! 勝手に食うんじゃない!」
確かに揚げたてのから揚げの匂いと湯気は食欲を誘うが。
「だって、妖精の国の料理って大半が甘くって……欲求不満〜」
そう言われてもな。王ってのは大抵がんじがらめの中で生きるものだろうに。
国一番の地位を持ち、国に一番奉仕しなければならない、国一番の奴隷。それが国王である。
一方の国民は税金を納めねばならないが、それさえ果たせば国のために戦う義務は無く、自由に動き回ることができる。
たとえば三角形を描いて、頂点に王、底辺に国民を書いてみよう。一見すると王は国民の上にいるように見えるが、見る向きを逆にしてみると、実は国民を一人で持ち上げねばならない立場、という嫌な事実がよく分かると思う。
「だからって人間の活動エリアにほいほい来るんじゃないっての……」
ただでさえ美人な上にイベントから日が経っていないから、コイツがここにいるって他のプレイヤーにばれると、非常に面倒なことになる。昨日もそういう厄介な人の声を聞いたところだし。
「おい、貴様!」
そう、こんな風に……って、え?
「貴様だ貴様! 昨日はよくも無視してくれたな!」
……最悪だ。自分だったのか、声をかけられていたのは。
またか、また面倒ごとがやって来るのか!? 自分はただゆったりと、この世界を楽しめれば良いだけなのに。
「で、何事ですか?」
正直無視したい。でも料理がまだ全部仕上がっていないし、クィーンを置いては逃げられない。
料理の火加減などに注意を払いつつ営業スマイルを炸裂させて、外見だけは取りつくろう。
「ふん、まあ良い。こちらはギルド『アポロンの弓』所属のネイザーだ。我々はしいたげられている弓使いを救済するという、崇高すうこうな目的を持っている!」
あ、この時点で、相手がどうしようもないおばかさんだと分かった。こんなのに名前を使われてしまったアポロン神に同情するわ……自分が正義だと思い込んでいる奴は面倒すぎる。
クィーンは俺の陰から冷ややかな視線を送っているようだ。
ネイザーとやらの演説はまだ終わらない。
「故に! 貴様のようにどこのギルドにも加入を拒まれ、泣き崩れているであろう同志を放っておけぬ。我が直々にほどこしを与えようと、このような場所までやってきたのだ!」
もはや自分はこいつの話を聞き流していた。クィーンが退屈そうなので、から揚げを三つほど渡しておく。おいしそうに食べる姿を見ると、ささくれた気持ちも少しは和らぐ。
ちなみにだが、ギルド加入のお誘いは既に三〇件以上もらっており、ログインできる時間の関係でやむなくお断りしている状態である。そもそも入るなら、ツヴァイ達のとこへいくのが一番良い。
「われわれにも慈悲は有る! 貴様にも末席を用意してやる! 感謝しながら我らがギルドへ来るが良い!」
……これはそろそろできたな。から揚げも数が揃った。じゃ、さっさと露店を出しますかね。
あ、忘れてた。
「お断りします。じゃ、失礼」
さっと断りの言葉を一つ残し、「ゑ?」と呆然としているネイザーは放置。いつもの場所へ、できたての料理を運ぶ。
話の九割は聞いてなかったけど、アレで勧誘してるつもりかねえ? しつこくしてこないなら、あとは放置でいいや。時間がもったいない。
「もっと」
……べし。
「もうダメ」
クィーン、いったいどれだけ食うんだよ!? から揚げっていったって、一つ一つは結構大きい。それをもう四つも食ったのに……ああ、そういえばこのから揚げを作るきっかけとなったあのプレイヤーは、まだ食費に苦労しているのかな、あの大きな羊妖精相手に。
露店を出して商品を並べると、やっとひと息つけた。だというのに、クィーンはまだ傍に居る。
「そろそろ帰れ」
そうクィーンに言ってみたのだが……
「や」
返事はこの一言。おいおい……お前さんは本来、ここでうろうろしてていい存在じゃなかろうに。
イベントのときの格好じゃないからか、幸いにして周りが気付いた様子はないけれど……コイツはなんだかんだ言って美人。やっぱりオーラというかそういうものがあって、目立つんだよね。
オドオドしていても仕方がないので、逆に堂々と街を歩く。
こういうとき、きょろきょろしているとかえって目立ってしまう。堂々としている方が周りに溶け込めるのだ。
「で、食べ物を調達したいのか?」
一応、クィーンの目的を聞いておく。甘いものに飽きたというなら、何とかしてやれば素直に帰るだろう。
「う〜ん、そうね。少し手に入れておきたいところかしら」
仕方がないのでそれから三〇分ぐらいかけて、色々なプレイヤーの露店を歩き回ることにした。同じ肉を使った料理でも人によってやはり味付けが違うので、良い勉強になった。
ついでに、ケチらないでクィーンのお持ち帰り用の料理も買う。
「とりあえずこれだけあれば、当分は食えるだろ?」
肉や野菜の料理を三〇種類以上もかき集めた。
大きな川や海が見つかっていないので、魚料理はない。魚がいたとしても、〈釣り〉スキルがまだ存在していない。
「うん、これでまた向こうで頑張れそう」
やれやれ、予定外の出費になっちまったが、まあ良いだろう。
クイーンの帰る姿は目立つので、街の外れに来た。
「無駄だろうが、言っておく。あんまりぽんぽんこっちに来るなよ、目立つからな」
釘を刺してもすぐ抜けそうだが、言わないよりは……
「それじゃあまたね〜」
聞いているのかいないのか、そう言い残して、クィーンはテレポートしていく。
居場所がばれるなんて、厄介な指輪をくれたもんだよ……ため息を一つついて、鍛冶場へ向かう。そろそろブレードシューズの改良をしないといけない時期だ。


【スキル一覧】
風塵狩弓ふうじん かり ゆみ〉Lv1 〈蹴撃しゅうげき〉Lv12 〈遠視〉Lv47 〈製作の指先〉Lv45 〈料理〉Lv50(←1UP)
隠蔽いんぺい〉Lv38(←1UP) 〈身体能力強化〉Lv16 〈盗賊〉Lv33 〈鞭術べんじゅつ〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv28(←2UP) 〈鍛冶〉Lv30 〈薬剤〉Lv40
ExP17
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者



 2

「よいしょ、こらしょっと! よいしょ、こらしょっと!」
またネクシア付近の坑道にて鉱石掘りに励む。なんせライトメタルの消費が激しすぎて、何度も掘りに来ないと足りない。ブレードシューズの改良、というか大幅な改造にも使うためだ。
「ほうほう……」
「こういう形と発想ですか……」
「これで蹴ったんですか……えぐいですね」
「ですが良い参考にはなりますぞ……」
おそらく鍛冶屋仲間なのだろうが、自分の足元をじろじろと見てくる集団がある。ぼそぼそと声も漏れ聞こえてるし……
「何事ですか……?」
ワザとあきれた声色で、その集団に声をかける。
「いやいや、お気になさらず」
「声が届いてるんですよ、正直集中できませんので……」
まったくこっちの意図を汲んでくれない反応に、苦虫を噛みつぶしたような気分で返答する。
あのフェアリークィーンとの一戦以降、俺の装備をやたらと見てくるプレイヤーが非常に増えてしまった。見た目がかなり変ということもあるのだろうが、弓使いのトップなんて思われてしまっているらしく、参考にしたいという人が多い。
人の噂も七十五日とは言うが、噂は特に十日目辺りが盛り上がるものだ。
この点も、ため息が増える理由の一つだ。目立つために戦ったんじゃなかったんだがなぁ。ちょっと予想をひっくり返して見せようじゃないか、という一心だったのだが。
ともかく鉱石掘りを終了し、鍛冶場に向かった。その間中、ずっと人の目に晒され続けるって本当にきつい。芸能人とかテレビに出ている人って、すごいわ。
「ああ、もうちょっとよく見せて〜!」という声がしたが、「お気になさらず」と言っていたのだから無視した。
いちいち見せていたら、いつまでたってもこっちの作業ができない。自分でアレコレ研究してこその製作だろうに……
それとも、「これで蹴ったのか」という声も聞こえていたことからすると、蹴り使いが増えてきたのだろうか? で、このブレードシューズと似たような武器の注文を受けたが、どうやって作れば良いのか見当が付かず、参考にしたかったとか?
どの道、自分の力で頑張ってくれとしか言いようがない。こっちは製作の依頼を受けるほどの時間は取れないからなぁ……

それから、最初の街「ファスト」の鍛冶場へ。相変わらずここに居る親方に挨拶をして、早速鉱石をインゴットにする作業を始める。
今日は近くで小さい火の妖精がいっぱい飛んでいる。生産のときに妖精が多くうろついていると、良い物ができやすい気がする。自分の妖精を持っている人はそんなことに左右されないと思うので、妖精を持っていない自分としては、羨ましい限りだが……
それはともかく、とにかく炉に鉱石を突っ込み、熱で溶かして不純物を排除し、インゴットをどんどん作っていく。
ライトメタルと鋼鉄はよく使うので、いくらでも数を得たい。しばらく時間をかけてインゴットを生産していった。
ようやくインゴットの数が揃い、ブレードシューズの製作に取り掛か……ろうとするところなのだが……
「あの……なんでこんなにぎっちり周りに居るんでしょうか……?」
親方も含めた多くの鍛冶屋プレイヤーが、自分の手元を覗き込んでいる。その姿を外から見たら、とてつもなくマヌケに見えそうだ。
「まあしょうがない、お前さんは今注目のプレイヤーだからな!」
そう、親方に言われてしまう。ううむ、結局はこの状況を受け入れろというわけか……有名になんてなるもんじゃない!
仕方がないので、「もうちょっとだけ離れてくださいな」と言って、ブレードシューズ第二作の製作に取り掛かる。
靴部分は既に前回苦労して作った型があるので、それを流用する。ただ鉄より軽いライトメタルがメインになったため、靴を覆う装甲部分を全体的に増やせる。
結果的に、より強固な仕上がりとなり、安定性が増した。ここまでは予定通り。
靴底につけるスパイク……いや率直に言えばパイルは鋼鉄で作る。それにやじりの製作で培ったツイスト式のねじりを加える。これでただの杭よりも攻撃力が増すはずだ。より残虐になってしまうが、この際良しとしよう。
そしていよいよ肝心のブレードだが、ここは大きく変更する。前回は靴の側面につけていたが、今回はその部分はカットする。なんせ蹴り方が限定されてしまうし、何より整備が面倒だ。
ではどうするか。まずつま先に牙を模した上向きの刃を四本、そして足の甲部分にツイストさせた杭を三本、あえて間隔を空けて備え付ける。
つまり、つま先で相手を蹴ると、牙が食い込み、杭がえぐるという形状を設計してみた。この形ならどう蹴ってもいいし、今まで以上に刃を長く鋭くすることも可能になる。攻撃力がさらに上がるだろう。
また、牙型ブレードは簡単に交換できるように、はめ込み式を採用。これによって、蹴りまくって切れ味が落ちてもすぐに交換できる柔軟性が生まれた。ここもこれまでとは違う点だ。
前回のブレードシューズは無駄が多かったが、良いデータを提供してくれた。挑戦した意味は十二分にあったといえよう。
さて、完成形が見えたら後は作るだけだ。
杭をツイスト式にするのに手こずったが、こつこつ製作していく。
まずは靴の裏に七本、上に三本、それを両足分で合計二〇本ほど杭を作る。鋼鉄製だからさらに手間が掛かるが、これも自分だけの一点もののためだ。
周りの人達が騒がしいが、相手にしていると終わらないから全力でスルー。ちなみに足裏の杭は長さ二センチほど、足の甲の方は五センチの長さにした。
次は牙型のブレードにとりかかる。前方は全部、後ろは半分ぐらいまで刃にする。牙を模すため、一本一本がやや太くなるが、力が掛かる部分なのでやむを得ないだろう、簡単にぽっきりとってしまうようでは「牙」じゃない。
牙のはめ込み部分は、根元を差し込んで上に引き上げると固定できるように作成。その前方の隙間に固定具を差し込める場所も作ることで、より固定性を高くする。牙の長さは五センチほどだが、本物の牙のように少しっているため、刃の長さはもう少しある。
ハンマーをふるって各部位をいくつも作り、できの悪いものはねていく。
結局一時間以上かかってようやく、全部の部品が完成した。あとは本体となる靴にそれぞれを装着していくだけ。新しい試みとなる牙型ブレードは特に不安だったが、無事に装着できた。


【ファング・レッグブレード】
ライトメタル製と鋼鉄製の刃を持つ装着具。
レザー製の靴か軽鎧の靴に装着することで蹴りの威力を上げられる。
靴に装着しないと何の意味もない。また、〈蹴り〉スキルが30以上ないと扱うことはできない。
効果:追加Atk+29 追加守備力Def+10
特殊効果:「〈蹴り〉系による反射ダメージ軽減」「攻撃時、稀に[裂傷]付与」「重量増加」
製作評価:6

何とか形になったようだ。周りからは「おお〜……」なんて声が上がっている。「また変なもの作ってるなー」って意見の方が気楽で良いんだけどなぁ。
ともかくこの装着具で、〈蹴り〉の攻撃力がかなり上がる。試作のレッグブレードは追加Atk+12だったから、大幅な増加となった。
しかしやっぱり一般的な武器からは離れている部分が多いから、一つ作るだけでひと苦労だ。材料の浪費と時間の消費が激しいのは、やむを得まい。
早速装着し、軽く使い心地を試す。鉄で覆われた部分は前作より増えているが、ライトメタルを使用したので総重量は大して変わらない。むしろ少し軽いぐらいだ。何度か〈蹴り〉を試してみても、重さによる違和感などはない。
試作品と違い、色んな蹴り方でも杭や牙が突き刺さる設計になったため、良い感じといって差し支えないだろう。これからはコイツが蹴り技の相棒だな。
さて、今まで使ってきた試作品の扱いについてだが……ここに置いていくわけにはいかないな、皆に研究材料扱いされてしまう。後日インゴットに戻すにしても、差し当たりアイテムボックスに入れておこう。
今まで頑張ってくれたのだ。用が済んだから、はいゴミ箱行き……ではあまりにも寂しい。コイツにもねぎらいの言葉の一つぐらいかけてから別れよう、かつての愛弓のように。

翌日ログインするとメールが一件届いており、その内容は「マントできたよ〜」であった。そういえば前に注文していたのだ。ようやく完成してくれたかと、早速受け取りに向かう。
「はい、これが完成品です。材料持ち込みだから五〇〇〇グローね」
そう言って完成品を見せてくる革職人プレイヤー。
「おお、これは良い物だな。感謝する」
少々言い方がアレになってしまったが、代金を手渡してマントを受け取る。


【ベアーマント】
主にベアの毛皮を使用して製作されたマント。背面からの攻撃を軽減する効果がある。
効果:Def+15
特殊効果:「背面攻撃軽減(中)」
製作評価:9 

なんと製作評価が9もある。これ本当に五〇〇〇グローでいいのか? と確認したが、構わないとのこと。それならばありがたく使わせてもらおう。さて、早速狩りに行こうかと考えたところで、もう一件メールが届いた。
「差出人は……アヤメ? ……記憶にないなぁ?」
頭をひねりつつ一応本文を確認する。間違いだったら間違いだったで、すぐに破棄すれば良いだけだ。そこには、次の文章がしたためてあった。

狷輿海離瓠璽襪納採蘆廚靴泙后『アポロンの弓』ギルドマスターを務めるアヤメと申します。
この度、ネイザーを中心とした我がギルドの恥部が大変なご迷惑をおかけしたことを確認し、
大慌てでこのメールを送らせていただきました。
きちんとお詫びをさせて頂きたく、恐縮ながらどうかこちらに連絡を頂ければ幸いです

うあ、内部抗争っていうか、揉めてるって感じなのか……無視する方が簡単といえば簡単だけど、それはそれで色々面倒になるような気もするし……行くしかないか。
そう覚悟を決めて、ウィスパーチャットを起動させる。ウィスパー先は「アヤメ」っと……
【あー、突然のウィスパーに対する許可を感謝する。そちらはアヤメさんかな。メールを確認したのだが】
一応確認する。
【あ、貴方がアースさんですね。この度は大変申し訳ありません。『アポロンの弓』ギルドマスターのアヤメと申します。今お時間は宜しいでしょうか?】
時間は大丈夫だな。面倒は早めに潰すに限る。
【かまいません、場所の指定をお願いします。ただしギルドルームはなしでお願いします】
ギルドルームの中は声などが外に漏れない密室になっているからな。まだ彼女を信用したわけじゃない。
【分かりました……では、こちらでお願いします】
場所を示す地図がメールで送られてきたので、ウィスパーチャットを終了させた。あまり待たせるわけにはいかないし、さっさと移動しますかね。
指定された場所は、あるNPCが住む一軒家の二階だった。人が滅多に来ないから、話をするには良いな。
到着すると、既に男性が三人いた……アレ? アヤメって名前からして、てっきり女性だと思っていたのだが……? 首を傾げつつ「『アポロンの弓』ギルドの関係者ですか?」と声をかけると、真ん中に座っていた人が立ち上がる。
「はじめまして、私がギルドマスターのアヤメです。よろしくお願いします」
挨拶をしてきたその人は、分かりやすく言えばタカ○ヅカの男装の麗人。びっくりした。
「我がギルドの恥部を晒すのは心苦しいのですが、お話しします……」
自分が席に着くと、アヤメさんはそう前置きをして、事のあらましを話し始めた。
そもそも『アポロンの弓』は、ネイザーの言っていたような弓使いの救済組織などではなく、弓使いで集まってゆっくり遊ぼうと考えたアヤメさんが、テスト版オープンβのときに設立したギルドだったらしい。
「ギルド設立の資金はどうしたのですか?」と質問したところ、オープンβベータ中にギルドを作って「ワンモア・フリーライフ・オンライン」を盛り上げましょう、みたいなイベントがあったらしく、格安でできたとのこと。
気心の知れた弓使い数名でスタートし、正式にサービスが公開されたら増えるであろう弓使いを迎えて弓の指導をしながら遊ぼう、という流れだったという。
「そして正式スタートを迎えたのですが……」
ここでアヤメさんはため息をつく。
「Wikiによる情報で弓使いの芽が多く摘まれた上に、初日にあった自分のトラブルが原因で、か……」
苦い記憶がよみがえる。自分はログインそうそう、モヒカンPTパーティ(雰囲気から勝手にそう呼んでいたのだが)に絡まれて、弓はダメだのなんだのと嫌がらせを受けてしまったのだ。
あんな人前でざまに言われてしまったのが痛すぎたのだろう。アレを見た人は、弓を背負っているだけで差別されかねないと考えてしまう。プレイヤー間で差別されるのは辛いものがある。ただでさえ弓は扱いが難しいと事前情報があったのに、なおさら弓離れは進んだはずだ。
自分は開き直って弓を背負い続けたが、それを他の人に強要する権利なんてない。
「それでも、弓を使うプレイヤーさんはちらほらと居ました。私達はそういった人に声をかけて、入っても良いよと言う人達をギルドに招き、できるだけ人目につかないように注意しながら活動していました。弓への風当たりが弱まるまでは、それも仕方がないと考えていました。そんなとき、ある動画が上がってきたんです……大剣使いと弓使いのPvPの動画が」
また自分がらみか……知らず知らずのうちにフラグが立っていたということかな。
ポーションの在庫が枯渇していたあのとき、きちんと並んで待っている人がたくさんいるのに割り込みした上、俺の店にあるポーションを全て自分達に売れと強要してきた、横暴極まりないモヒカンPTパーティ。挙句の果てにPvPをふっかけてきたから、最後の土産に戦ってやったんだよな。奴等は弓なんて弱いと油断していたから、十分勝ち目はあるとふんだのだが……
「あの動画に、私達は沸きました。弱いと言われ続けた弓で前衛職筆頭である大剣使いを倒す戦術。相手の弱点を的確に撃ち抜くことによる追加効果。弓も十分これから先やっていけると確信できる一戦でした」
弱点に攻撃を当てて優位にしていたことも、見る人が見れば分かるか……なんせ顔面に突き刺さった矢に蹴りを入れてトドメをさしたんだから。そういえば、あの頃から自分の戦い方ってエグいな。
「あの動画の後、私達の存在を知って入ってくる人が増えました。そうして気が付けば、二〇〇人を超えるギルドメンバーがいることになっていたのです」
この一言に、自分はつい大声を上げてしまった。
「に、二〇〇人ですか!? 大型ギルドでもせいぜい一〇〇人ちょっとですよ……?」
ギルドの大きさのものさしとして、二〇人程までが小規模、五〇人から一〇〇人程までが中規模、そしてそれ以上が大規模のギルドと考えられている。そんな中で二〇〇人を超えるというのは……
「はい、妖精イベントが始まる前までは、弓使いのほぼ全てが私のギルドにいたと思います。アースさんは数少ない例外でした。私達は狩りをするときはサブ武器として剣や杖などを持ち、人気ひとけがないときに弓に持ち替えてスキルLvを上げていたのです」
だから、あのPvPと妖精イベント最終戦で弓の人気が急騰したとき以外、自分以外の弓使いを見かけることがなかったのか……? そう考えると、アヤメさんの言うことは筋が通る。
「……正直、私達はアースさんが羨ましかった。何を言われようと弓を背負って弓で戦っている。私達には……真似ができませんでした。色眼鏡で見られることを、私達は恐れていました。弓に対する愛着はもちろんありましたが、それを堂々とさらけ出す勇気が持てなかったのです。その頃からだったのでしょう、ネイザーを柱とした一派が生まれたのは」
そこまで話し終えると、アヤメさんは深く息を吐き出す。左右に座る人達は何も言わない。この人達はおそらく、アヤメさんの腹心みたいな存在か。
疲れてきたようなので、常備しているポーションジュースをアヤメさんに渡す。するとお金を出そうとしたので、「今回はいい」と押し切った。
「ありがとうございます……話が長くなってごめんなさい。ネイザー達は貴方を利用しようと決めました。あの男こそがこのギルドに必要だと。そして貴方がフェアリークィーンに一対一で勝利を収めたときに、何が何でもギルドに引き込もうと考えたのでしょう。私が全てを知ったのは、既に彼らが行動を始めた後でした。結果として貴方に対する強引な勧誘を止めることができず、本当に申し訳ありません……」
そう言って、アヤメさんは頭を下げてきた。左右に居た男性二人も「申し訳なかった」と頭を深く下げる。
「そういうことでしたか。お話は分かりましたし、謝罪も受け入れます。貴方達を責めることもしませんのでご安心ください……ただ、ネイザー達一派はどうなりましたか?」
さくっと断ったから自分は大して気にしていないし、『アポロンの弓』ギルドがあんな勧誘をとしていたわけでないと分かった以上、ネチネチと責める必要はない。だが、ネイザー達の動向だけは確認しておきたい。
「……彼らには当分、罰則を科します。狩りは止めませんが、勧誘能力はギルドマスターの能力を用いて凍結させました。もちろんネイザーは副ギルドマスターから一般ギルドメンバーへ降格済みです。また、ギルド追放はしません。追放するよりもギルドの中で相応の罰を受けさせる方が、ギルドとしての責任を果たすことになると考えるからです。以上がネイザー一派への制裁となりますが……」
ああ、安易に追放という方法はとらなかったのか。なら文句はないな。
「結構です、こちらに異論は一切ありません」
この一言に、アヤメさんをはじめ左右の男性二人も、明らかにほっとした表情を浮かべた。こういう問題は厄介だからな……気持ちはよく分かる。
「最後に一つ、宜しいでしょうか? あのフェアリークィーンとの一戦は本当にお見事でした。貴方の勝利が決定したとき、私達は本当に興奮しました。弓にも十分に将来性がある、と確信することができました。これからも弓使いの先達として、ぜひ活躍して頂きたいです」
アヤメさんのこの言葉を最後に話は終了し、彼女達と別れた。
とりあえず、状況は理解できた。やはりあのクィーンとの一戦が色々な所に影響を及ぼしている。もうしばらくは勧誘が止まりそうにないな……
運営も、拡張アップデートや第二陣プレイヤーの参戦も近いとほのめかしているし、気を抜いている暇はなさそうだ。
今日も訓練を兼ねて狩りに出るとするか……先達の自覚は欠片かけらもないけれど。


【スキル一覧】
〈風塵狩弓〉Lv1 〈蹴撃〉Lv12 〈遠視〉Lv47 〈製作の指先〉Lv47(←2UP) 〈料理〉Lv50
〈隠蔽〉Lv38 〈身体能力強化〉Lv17(←1UP) 〈盗賊〉Lv33 〈鞭術〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv28 〈鍛冶〉Lv33(←3UP) 〈薬剤〉Lv40
ExP17
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者
しおりを挟む