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第3章

人を見て法を説け

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ブラック・ノウビー・ヴォルディアスは幼生ながら戦闘能力は俺よりも優れている。
戦闘センスと言うのだろうか。俺がいちいち指示をしなくても思ったとおりに動いてくれるのだ。ただやはり判断が遅い時があるので今は補助的に指示をしているだけに過ぎない。
成長すれば親御さんであるボルさんのように巨大になり、雄々しくなり、世界を支える神様とやらになるのだろう。
それがいつになるのかわからない。だがそれまでビーの保護者は俺だし、今は大切な家族だ。ほんとうちの子まじ可愛い。

で、誰が誰のドラゴンだって?


お嬢様の名前はティアリス・マルケ・ルセウヴァッハ。数えで14歳。14歳!出るとこ出て引っ込むところ引っ込んだ14歳だこと。14歳ならあのふりふりピンクドレスも納得だ。

この世界、マデウスでの成人は18歳。18歳でも十分子供だと思うが、早いものは15歳で婚姻を結ぶ。15歳で結婚とか考えられないよな…。若くて16歳で子持ち?うわあ。

「ドラゴンをペットにするなんて鼻が高いでしょう?お友達に自慢することが出来るわ。黒っていうのが美しくないから嫌だけれども、そこは許してあげないといけないわよね」

はぁ?

席を立とうとした中腰のままという間抜けた格好でお嬢様の勝手な言い分を聞く。
このお嬢様どうしちゃったの?誰がビーをあげると言いました?

「あのですね」
「誰が発言を許しましたか。野蛮な冒険者などと席を共にするだけでも汚らわしくて耐え難いと言うのに」

絹のハンカチで鼻を押さえるお嬢様。汚らわしいと言われても、たぶん貴方が今着ている裾の汚れたドレスより清潔ですよワタシたち。いきなり現れていきなりビーを寄越せだからなあ。失礼通り越してどうしちゃったのこの子、としか思えない。それともこれって不愉快だイイイイって怒るべき?でも相手は14歳。

「早く寄越しなさい。わたくしのドラゴンを」
「無理です」
「……何を言っているのかわからないわ」

貴方が何をトチ狂っているのかわかりません。
貴族ってこういう人種なのか。全ての貴族がコレだったら流石に国が崩壊するだろうから一部であり特殊事例であると信じたい。子供の我儘にしては貫きっぷりが尋常じゃない。誰かに貰えると言われたのだろうか。

「こいつは俺が卵から孵した大切な家族です。おいそれと渡すわけにはいきません」

ローブの下で隠れているビーは俺の腹に強くしがみ付く。ビーは人が話す言葉を理解している。俺が不愉快に思っているのを察しているのだろう。

「冒険者風情が何を言うのかしら。ドラゴンは高貴な生き物なのよ?わたくしのような由緒正しい育ちのものが持つべきだわ」
「持つとか持たないとか、ドラゴンはモノじゃありません。俺の家族です」
「ピュイ」
「まあ!今鳴いたわね!早く寄越しなさいよ!」

どうしよう。
このお嬢様何かの病気なのかな。言葉が通じないし思い込み激しいし超自己中で周り一切見えていない。
さてさて、こういう話の通じない相手はどう対処するべきかな。

「お嬢様お嬢様、少し宜しいですか?冷静になって俺の話を聞いていただきたいのですが」

腰を降ろしてお嬢様を見上げる。丁寧にゆっくり話をし、相手の目をじっと見つめる。

「な…なによ」

お嬢様は明らかにうろたえ、半歩下がった。
相手は子供なのだ。言葉が通じない宇宙人ではない。
俺が腹を立ててどうする。

「お嬢様は何故ドラゴンが貰えると思ったのですか?お教えください」

へらっと笑って見せるとお嬢様の頬がポッと色よく染まった。よし、掴みはばっちし。

「……ベルナードが言っていたの。ドラゴンを飼っている冒険者が居ると。わたくしはドラゴンを見たことが無いから是非にでも見たいといったのよ」
「はい。ベルナードさんに教えていただいたのですね?」
「そうよ。ベルナードはわたくしがお父様におねだりすればドラゴンを譲ってもらえるかもしれないと言っていたわ。だからわたくしはお父様におねだりしたの。だけどお父様はお許しくださらなかったわ。そのドラゴンは冒険者に懐いていて放すこと等出来ないって」

不快そうに話していたお嬢様だったが、話を続けるうちに顔色が変わっていく。自分が暴走したことに気づき始めたらしい。

「お嬢様、何故お父様が反対されたのにドラゴンを貰えると思ったのですか?」
「ベルナードが教えてくれたの。お父様がドラゴンを連れた冒険者を屋敷に招いたと。きっとわたくしにドラゴンを譲るためだと言っていたから…でも…」

ドラゴンを連れた冒険者である俺はそれを拒否した。
話が違うとカッとなり。

「お父様が否やと申されたことを、なにゆえ覆ると思ったのですか?」
「……ベルナードが」

全ての元凶はお前かベルナード。ていうか誰だベルナード。

「お嬢様、申し訳ありません。ベルナード氏が期待をされたかもしれませんが、俺はこいつを手放すことはありません。それに、ドラゴンは賢い生き物です。誰についていくか強制することは出来ません。竜騎士が契約を結ぶ飛竜ですら、生涯に選ぶ相手はたった一人と聞き及んでおります」

そうだよな?とクレイを見上げると。クレイは深く頷いた。

「左様。竜はどのような種類であっても人に屈することは決して無い。竜騎士(ドラゴンナイト)が跨る飛竜(ワイバーン)とて主人を運ぶ下僕ではないのだ。互いを認め合い、信頼し合っているからこそ、その背に相棒を乗せることを許すのだ」

魂の繋がりがないと触らせることすらしない生き物だ、と。
クレイはお嬢様を諭すように静かに説明した。お嬢様は悔しげに口を噤むが、諦めたように肩を落としてしまった。

「ビー、お前をどこかにやったりしないから少し出てこられるか」
「ピュイ」

ローブをべろりとめくると、背中側に回ってシャーと威嚇するビー。
お嬢様はパッと顔を明るくさせ、ローブの下を覗きこんできた。

「ビー…という名前なの?」
「そうです。可愛いでしょう?」
「ええ、ええ、とっても愛らしいわ!ドラゴンってもっと大きくてもっと勇ましいものだと思っていたの」

隣に居るラプトルさんのような?

「ふん、俺を見るでない」
「照れんな照れんな」

ビーが成長したらクレイなんか可愛く見えるほどだ。出来るならこの可愛いまま成長しないで欲しいと願ってしまうが、ボルさんのような雄々しい姿も見てみたいと思ってしまう。
健康で丈夫に育ってくれればなんだっていいけどな。

「ビーは人の言葉を理解しています」
「まあ!そうなの?知らなかったわ」
「ですから、先ほどまでのお嬢様のお言葉も全て」

理解しているんですよ。
言葉を濁して伝えると、お嬢様の顔が青ざめた。やはりこのお嬢様、ただの我儘な令嬢だけじゃないらしい。話せばわかると言うか、思い込みが凄い激しい性分なだけかもしれない。
それとも必死にならざるを得ない理由があるのか。

「……わたくし、貴方にもドラゴンにも酷いことを言ってしまったわ。どうしましょう」
「冒険者が野蛮で汚らしいものだと、そのナントカさんに言われたんじゃないですか?」
「ええそうよ。ベルナードは何でも知っているの。冒険者は粗野で無知だからわたくしの言葉が通じないのだと言われたわ」

このやろうベルナード。逢ったことは無いがお前が一番迷惑だ。

「良く考えてみればお父様のお客様に対して大変失礼なことをしてしまったのね。どんな相手でも敬意を見せろと言われていたのに」
「粗野で無知な冒険者、というのが一般的な認識なのかもしれませんが、実際はそんなことないんですよ?」

確かに口は悪いし不潔だしズル賢いし嘘もつく。だが命を賭ける職業なのだ。命を代償にして危険な外に出て日銭を稼ぐ。そうして日々の糧を稼いで税を納める。その納めた税で暮らしているのが貴族や王族。

「……そうね。貴方のような冒険者も居るのね。わたくし、本当は怖かったの。だってどうしてもドラゴンが欲しかったの」
「ドラゴンが格好いいからですか?」
「ふふっ、そうよ。とても素敵だと思うわ。だけどそうじゃないの。わたくし、わたくし…お母様に…どうしてもお母様に…」

綺麗な琥珀色の瞳が涙で滲む。
クソ生意気なお嬢様の登場かと思ったら、実は世間知らずの思い込み激しい子だった。ベルマークだかベルナードだかの洗脳のせいで間違った方に暴走してしまったようだが、もしかしたら高貴な身分のお方はそういう教育がされているのかもしれない。お嬢様はちょっとかなり失礼だったけど。

上に立つ人間というのは常に真っ直ぐ立っていなくてはならない。何があってもフラついたりコケたりすることは許されない。正しいと思ったことを信じて貫かねば、付いてく者が困惑するからだ。だから自分を、自分の考えを強く信じる傾向にある。
その考えが間違っているともわからぬまま。

「ティアリス!何をしておるのだ!」

ばたーんと。
再び力強く開かれた扉。そんなに強く開けたら綺麗な扉が壊れると思うんだが。
怒気を荒げる青年は金髪碧眼の映画俳優。いや、映画俳優よりも美麗なお顔。さらりとした長髪を後ろで1つにまとめ、白い礼服を着た姿はまるで御伽噺の王子様。こんな顔の男が存在するのかこんちくしょう。同じ性別を持つ者としてイケメンにふつふつとジェラスィが。

「お父様っ…」

うわまじか、このイケメンお父様なのか!若ぇ!幾つだお父様!
え。お嬢様がお父様と呼ぶってことは、このイケメンが領主様?領主様若ぇよ!

「お前はまた勝手な真似をして!なんてはしたない!」
「ごめんなさいお父様…」

気の毒だと思うが、これも教育ですお嬢様。今回の相手が俺だったから良かったものの、本当の荒くれ冒険者相手だったら今頃抜刀されています。アイツら凄い気が短いからな。
イケメン、いや領主様はお嬢様を部屋の外に出し、潔く頭を下げた。俺相手に。

「娘が申し訳ない真似をした。許してくれ。クレイストンも」
「気にするなベルミナント。ティアリス嬢は美しく成長なされた」

クレイが領主様の顔を上げさせると、領主様は苦く笑う。そんな顔もイケてやがんなコノヤロー。

「美しく装っただけで中身は伴っていない。あのような真似、淑女がするなどと」
「まあまあ、良いではないか。確かに淑女とは言いがたいかもしれぬが、何も言えぬ人形になるよりましであろう」
「お前はそうやってティアリスを甘やかす」

気さくに会話をしているということは、クレイは領主様と懇意の中。そんなこと言ってなかったくせに。
イケメン領主は場違いじゃないかな俺、と目を泳がせている冒険者に視線を移した。

「貴殿が素材採取専門家であるな」
「専門と言えるほど知識が豊富なわけじゃありませんが」
「謙遜するな。ロドルがお前の腕は他のどんな採取家よりも素晴らしいと言っていたぞ」

あの巨人のおっさんがねえ。
未だに俺のこと怪しんでいるくせによく言うよ。

「俺がベルカイムの領主、ベルミナント・ルセウヴァッハだ」
「タケルです。宜しくお願いします」

迷うことなくシェイクハンド。マツゲ長いなこのやろー。
イケメンさんは仄かに香る体臭すらお花の匂い。ブロライト、頼むからこういうのを見習ってくれ。
領主は俺の手を握りながら俺を見上げる。領主の背も高かったが、俺はその更に上を行く。俺を見下ろせるのはギルドマスターとクレイといった巨人(タイタン)族とリザードマンくらい。人間でここまでデカいっていうのは珍しいらしい。俺ですら珍しいと思うからな。

「大きいな」
「お蔭様で?」
「巨人(タイタン)族が」
「混ざってません」
「…眠いのか?」
「こういう顔なんです」

なるほどクレイが言うとおり、話せる男のようだ。
もしもお嬢様のようにガーッと一方的に来られたらどう応戦したものかと考えていたが、その心配は杞憂に終わった。
シミひとつ無い完璧な美肌を惜しみなく晒し、にっこりとイケメンスマイル。

「ようこそ、ルセウヴァッハ邸へ」


イケメンは何をしてもイケメンなんだなあと。





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