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3巻試し読み

3-3

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【掲示板 雑談スレッドNo.94】

144:kcjs5Rdce
突然なんだが、最近イベント多くね?

145:Gc3d6SWds
本当に突然だなw イベントって運営の?

146:kcDew2a8r
多分そっちのイベントじゃない、突発っぽいやつの方じゃないか?

147:kcjs5Rdce
>>146そう、そっち。なんかソロで行動してると色々ぶつかる

148:CkdjeC1es
あー、私、おっきいトラに
「子供が攫われた、助けてほしい」って言われて協力した

149:CksjwWa77
なに!? まさかもっふもふですか?

150:CkdjeC1es
>>149はい、まさにもっふもふでした
助けた子供ももっふもふでした

151:kfmdXCsw5
いいなー、そんなイベントあるんだ

152:Bc3sWw7x4
ソロとか、2〜3人ぐらいで行動してるとよくぶち当たるぞ、試してみ

153:Tf2sZe54A
そそ、大人数だと何故か出会わないんだよね

154:D1s2sDw81
こっちは小さい鳥をかごに入れている変な連中がいてさ、
こっちを見たらいきなり攻撃してきた

155:F5d3rF6rD
嘘乙。このゲームPKないじゃん

156:Ffd32ds5e8
いや、そいつらプレイヤーじゃないんじゃ……

157:lfdJt6fEd
>>155決め付け乙。156の言うとおりNPCだったよ
で、返り討ちにしたんだが

158:kdEd1ws5a
色々あるんだね、久々にソロで行動してみるかな

159:D1s2sDw81
その後、馬鹿でかい親鳥がきて、かごから子供? を出したら感謝してた
報酬くれたし

160:G35cRed7A
報酬?

161:D1s2sDw81
火の魔剣……の弱くなったやつ

162:v23dFr8Gf
マジ!?

163:C23dRGkzs
おいおい、魔剣くれるのかよ!?

164:D1s2sDw81
そのままじゃ壊れかけで使えなかったけどね
懇意にしてるプレイヤーの鍛冶屋が居なきゃ

165:57Bf2vThY
修理してもらえたん?

166:D1s2sDw81
鍛冶屋の言葉を借りれば修理じゃなくて復元だってさ

167:BVf21CdrF
ちょっとソロでフィールド歩いてくる

168:BokerD8w1
ソロはソロできついから準備はしっかりしていけよー

169:N23vG57Tg
PTで行動する魅力が減っちまったか? これは

170:GokerDs5Rf
二人か三人で行動すりゃいいじゃん、フルメンバーじゃなくてさ

171:H23BofSdE
その復元された魔剣はどんな感じ?

172:Bgf3V8Rks
ギルドメンバーに声かけてみよう〜

173:D1s2sDw81
>>171 「死者の挑戦状」のやつに比べると数段落ちるね、
でもサブウェポンと考えると十分かな

174:54F1vTg77
報酬付きのに出会えると美味しいな

175:Hnb32nUdQ
イベントっぽい前兆いくつかあったけど面倒だから無視してた
失敗した〜!

176:Vfd23rCXx
面倒くさがると損をするってMMOのお約束じゃない?

177:Gfv23cEs8
ちなみに、トラ、鳥って出てるけど、他にどんなのが居た?

178:Ca53sWx8R
熊とか、キツネには出会ったな

179:Gr25cDAQ1
ハリネズミとか、もぐらなら

180:Gv2fRg8t7
信じてもらえないかもだけど、ワイバーン……

181:ju5Kd21aw
ワイバーン!?

182:B32dSx8Ed
ワイバーン!? SSはないの!?

183:Gv2fRg8t7
はいSS。一切加工してないよ

184:Fd32SXz8E
これ、他のゲームじゃないよね?

185:FEd692vGf
SSの下にちゃんと日付とワンモアの刻印が入ってるね

186:Il2Of2d1E
乗りてええええ!

187:Hg32V8r7T
これ、写した人は乗せてもらえたの?

188:Gv2fRg8t7
うん、子供を無事取り返せたときに、お礼で短時間だけ乗せてもらえた
これ、乗ったときのSS

189:GH25D7CGT
うおおお、羨ましい!

190:14d3e8sTY
いいなー、羨まし過ぎる

191:47dWz32sR
ワイバーンとか、後々出てくるのかな、正式に

192:GD236v9Rc
そりゃ出てくるっしょ! これだけ作りこんであるんだぜ?

193:Fd2evjrt8
ペットシステムも無いよね、妖精がいるけどさ

194:Vd321rGF7
テイマーになってワイバーン調教して乗りたいな、これは

195:Gf2r39c54
でもさ、このいろんな動物達の子供を攫ってる奴らって何なの?

196:Dc2fg5ty8
悪党

197:L23dXCw87
かわいいを汚すのは悪です!

198:Za2q3Sq84
悪だな

199:Mfv21dMf8
いや、悪ではあるんだろうが、詳しい特徴とか、な……?

200:521dcVf7R
そういえば、黒いマントに逆さ十字の刺繍が入っているよね

201:AQ7545xDe
ああ、言われてみれば服装は別々だけど、そこは共通か?

202:kfjrlLg24
俺のときは一人だけ黒いマントがいたな、刺繍はわかんないけど

203:51dCf8Vr5
プレイヤーで黒いマント愛用してる人は誤解うけないかこれ?

204:Xs62r3DE7
連中は常に徒党組んでるし、
こっち見かけるとすぐ抜刀するからそこまでは誤解されない……

205:zQzXs27Fz
だといいけどね、黒マント人気が落ちそうだなおい

206:Vdf5re3df
何かのイベントの前兆なのかね?

207:Bf5cx3Eds
一定数助けられないと失敗判定で何も起きずに消えるとか?

208:D839Tg21B
ここの運営ならやりかねないな、例の解放者20人バトルがあるし、
そっちに目を向けさせて

209:G23Grf74G
そして裏でこそこそとですか? うわ、さすがここの運営汚い

210:L81vRdb8C
ここはそんなもん

211:Bd312Cf7E
だよね〜

212:Csz27RtdK
あいかわらずだぜ

213:5713FbK7L
真っ黒いよな〜

214:21F8VNR5a
話が逸れ出してるけど……
『黒マントに逆さ十字の連中には注意、殲滅対象』でOKなの?

215:3dNlTQl67
問題ないとおもう

216:7Az1x7Re5
むしろ倒さないとマズいと思う

217:T52dOi8cW
人を攻撃するのは抵抗あるな……

218:Bg63e9FV8
んなこと言ってられないぞ? 向こうは容赦なく攻撃してくるし

219:UY54Rf7Cn
だよね、一回経験すれば分かると思う

220:P2u3i21pt7
それに、そいつらの持っている動物達は攫われた対象であるって
ほぼ確定だし

221:BV536sRd8
向こうの目的は何なんだろうな

222:63FcW8sZ7
もしかして、テイマースキル持ちなんじゃないの? 
で、子供攫って戦力に

223:Bed85e7Xw
万が一そうだったら、なおさらぶっ倒さないとやべえな

224:Be563dCe8
否定できないねー、今後は注意して見つけたら倒そうっと

225:Bn32DCxws
きな臭い話になってまいりました

226:67H14Vh8L
このゲームの開発と運営は絶対腹の中が真っ黒だよ

227:Y563dEx8Q
何を今更

228:Bgf32sX8R
何を今更

229:V32rDc89E
今更だよなー

230:Za852eDfr
たまたまここ見に来てたけど、いい情報もらえてラッキーだった

231:Bfc36JtyT
この話、拡散した方がいいんじゃねーの? 
みんなが掲示板見る訳じゃないし

232:561vIs8Az
だね、ギルド通じて呼びかけてみる

233:H2b3veS74
俺も呼びかけるわ

234:X52e1dOy8
じゃ、その方向で動きましょうか


 ――PvP大会会場前――

いよいよ二十人の解放者によるPvP大会が明後日に迫る中、ネクシアに作られたコロシアムの前は、多くの人の熱気に包まれていた。それは何故か。
「入場チケットの購入、および賭けチケットの締め切りは目前です、欲しい方はお急ぎを!」
NPCの売り子が威勢のいい声を上げている。賭けチケットは、どのPTが優勝するかチケットを購入して賭け、当選者で全購入金額を頭割りする仕組みである。胴元の運営には一グローも入らないが、今回はお祭りに近いためか、儲けるつもりは無いようだ。
ちなみに一人一枚限定で、お値段は入場チケットが三〇〇グロー、賭けチケットが二五〇〇グローと、賭けの方はかなり高い。
が、それでもそこそこ売れているのだから、賭けというものは恐ろしい。ちなみに賭けチケットにはPTリーダーの名前と、PT人数のみが明記されている。
二名PT ティーン
三名PT グラッド
四名PT アヤメ
五名PT シルバー
六名PT ランダ
このような感じである。一番人気がグラッドPT、次点がシルバー、対抗がアヤメ、ティーンとランダが穴扱いとなっていた。
「いよいよグラッドが公式で雪辱せつじょくを果たすんじゃねーの?」
「いや、それならシルバーの方が果たしたいだろう」
「俺は弓の不遇時代から努力してきたアヤメさんを推すね!」
「ティーンやランダも弱い訳じゃないんだがな、他の面子メンツが悪過ぎるだろ」
野次馬の評価はこんなものである。そしてそれは、大雑把ながらも正当な評価だった。ただ、PT人数別の強化のされ具合は戦闘開始まで分からないし、ましてや戦闘の結果など蓋を開けなければわからない。穴のティーンやランダの賭けチケットを買う人も、ちらほら見受けられた。
「で、結局大会から逃げたチキンは誰なんだろうな?」
この話が出るのもお約束である。
「チキンって訳じゃないだろうけどな。あのダンジョンのソロを最初にクリアした訳だし」
「そうそう、一番最初にやる奴が一番偉いんだぜ? それをチキンとか言う方がチキンだって」
「何だとてめえ!」
ソロの解放者の名が載るはずだった枠には、「出場拒否」の文字が書かれていた。結局その正体は誰にも分からず、謎のままだった。
多くのプレイヤーが予想を立てたが、結局は決め手にかけている。今回の出場拒否によって、唯一の証拠である「解放者」の称号すら消しさられてしまった。よって、特定できる証拠はほぼ完全に消え去っている。
「チキンとかはさておいてさ、これだけの商品をもらえるチャンス、お前らは蹴れるか?」
棄権者の話で盛り上がっていた人達は、この質問に首を振る。
「魔剣だろ、蘇生薬だろ、特殊防具だろ? 俺だったら蹴れないね」
「私も無理、蘇生薬が欲しいし」
「無理だろ。逆に言えば、それを蹴ってまで目立ちたくないって、ある意味レアなプレイだ」
MMOプレイヤーは基本的に強さを欲する。無双プレイ、PvP、レア探し……いずれの目的にも、結局は力が必要だ。そういう遊び方をしたいから、皆がレベルアップを繰り返して、武器を探し、防具を作る。
そしてそれを極めた先に待っているのは、同じ道を選んだ者とのぶつかり合いだ。出し抜くためにも、相手より強くなければならない。近々PvPの公式大会も開かれる予定になっており、優勝賞金は現金三〇〇〇万グローと発表されている。ここまでになると現実リアルよりもよっぽど熱い競争が発生し始め、たかがゲーム、などとはとても言えなくなってくる。
そもそも、「たかが」などという言葉は、ゲームに限らず何事にも真剣に取り組むことができない人間が言うものだ。一つを極めることがどれだけ厳しいものか。それを全く理解していないからこそ言える台詞だろう。遊びだろうが仕事だろうが、生半可な努力ではトップにはたどり着けないのである。
今回の解放者によるPvP大会は、その公式大会の前哨戦を兼ねているというのが大方のプレイヤーの認識だった。公式大会にエントリーする人は既に一〇〇〇名を超えており、今回の大会で少しでも上位陣の動きを盗みたいという思惑も観客達からは見て取れる。
そういったプレイヤー達が集まったことにより、コロシアムの前は異様な熱気に包まれているのだ。VRではあるが、そこには間違いなく生きた人間が集まっていた。
大会開始まであと二日。しかしアースにとっては全く関係のない話である。



 6

自分は北の砦街から新しく出来た駅馬車に乗り、風景をのんびりと楽しんでいた。妖精国の後、やや遅れて実装されたこの駅馬車には、どうしても乗ってみたかった。
この駅馬車の目的地は東の砦街。代金は四〇〇〇グローとそれなりにお高いが、高速で移動できてモンスターとやりあわずに済むというメリットは大きい。
「なあ、あんた、ちょっといいか?」
駅馬車は乗り合いなので、当然知らない誰かと一緒に乗ることも十分にありえる。この駅馬車には自分の他に二人が乗っていた。その男女一組の男性の方が声をかけてきたのだ。
「あんたが色々有名なアースさんかい?」
初期に色々やってしまったからなと思い出し、この問いかけに自分は苦笑する。
お陰で散々掲示板などで名前を上げられたし、自分の知らない場所でも、悪評を多分に含んだ噂話があっただろう。だからこそ、あんなPvP大会に出てこれ以上余計な噂を積み立てたくなかった。もう名前なんか売れなくてよいのだから。
「まあ、そのアースだ。だがあえて言おう。人に名前を聞くときはまず、自分から名乗らなきゃな?」
この反論に「うっ」と言葉が詰まる男性。すると、もう一人の女性も口を開く。
「全くこの馬鹿は。ごめんなさいアースさん。私はリラ、この馬鹿はグレイト。ま、名前だけが立派で中身は小さいアホだけどね。ちなみにナニも極小……」
「ば、馬鹿、よせ、そんなことまで言う必要は一切ないだろうが!?」
なにやら危ない発言をしようとしたリラの口を、グレイトが慌ててふさぐ。リラは口をふさがれて、もごもごと発言を止めた。
「なるほど、二人はリアルでも知り合いってことか」
そしてそれなりに深い仲、と。
「ええ、まあこの馬鹿の保護者やってると思っていただければいいわ。おそらくグレイトは貴方に、今回のPvP出場を拒否したプレイヤーは貴方なのだろう、と聞きたいのでしょうね」
やれやれ、この質問は本当に多い。そしてなまじ事実なだけに面倒くさい。
「ま、それについては自分じゃないと言わせてもらうよ。確かに俺があの『死者の挑戦状』にソロで挑んだことは、事実ではある」
これを聞いたグレイトは、目を輝かせる。
「そして、地下一〇階層へたどり着いたのも事実だ。が、自分にはあのボスを倒すことはできなかった。その理由は分かるだろ?」
そうして彼らの肩を指差す。そこには彼らの契約妖精が居る。グレイトは水のリス、リラは土のペンギンみたいな小さい子だ。
「ぼろ負けして、その後あのボスを倒す動画を見たときは、本気でキレそうになったよ。ふざけんなー! ってね」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「ほらグレイト、だから言ったじゃない。アースさんは妖精が居ないことでも有名でしょ。あのボスは妖精の攻撃を当てれば大幅に弱くなる設計よ? それを妖精無しで倒すなんて無茶よ」
リラがこちらの言いたいことを上手くグレイトに伝えてくれる。
そう、そういう考え方が普通なのだ。なのに「あいつならやりかねない」なんて噂が絶えないのは、フェアリークィーンとの一戦の印象がまだ抜けきっていないからだろうな。
「リラの言う通りだ。動画を見て思ったな。試行錯誤してぼろぼろになるまで粘って負けたのに、妖精の攻撃が一発刺さった途端にあの弱体化は詐欺だろう! って。リアルで怒鳴ってしまったよ」
そう言ってから、降参するように軽く両手を上げてみせる。
「そっか……アースさんならやり遂げてもおかしくなかったんだけどな。ちなみにどれぐらいボスのHPを減らせたのか教えてもらっても?」
こんな質問をしてきたグレイトが知りたいのは、もし勝ってたらどうなってたか、てことかな。コンシューマーゲームでもあるだろう、負けることが前提でストーリーが続く「負けイベント」ってヤツが。そして時には制作スタッフの遊び心で、その負けるべき戦闘に勝つとストーリーが変わるというパターンがある。そのためには、キャラの強化、アイテムを駆使、装備を本当に限界まで高めないといけないが。
「あー、何に興味を持ったのかは分かる。えーっと……確か六割まで減らしたのは確認しているが、そこからは必死で戦って……負けたからそれ以上は分からん、すまないね」
この発言にリラが固まっている。どした?
「実は、私も最初はどこまで妖精の援護無しでやれるか試したんです。ですが一割も減らせずぼろぼろにされちゃって、急いでこの子に攻撃してもらって弱体化させて、なんとか勝ったのですが……あの状態を六割まで減らしたんですか……」
グレイトもそんなリラの様子が気になるようで、彼女にへらへらと問いかけた。
「そんなに大変だったのか? 俺は挑戦してないから分からないけど」
すると、リラがグレイトをキッと睨む。
「PvPで一回も私に勝ててないグレイトが挑んだら、三〇秒も持たずに殺されるわよ、あのボスに」
殺気にも似たリラの威圧に、グレイトだけではなく、自分まで少し気圧けおされてしまった。
「ま、まあまあ落ちつけ。ここで睨んでも仕方がないぞ」
リラに声をかけて、こちらの存在を思い出させる。
「あ……ご、ごめんなさい。この馬鹿が、自分はやったことも無いくせに、ヒトの挑戦を軽く見ていたようだったので、つい。東の砦街についてからPvPで叩きのめせばよかったですよね」
リラの発言にグレイトの顔が青くなり、自分はやや引いてしまう。ああ、この子も怒らせたらやばいタイプだ、触らぬ神にたたり無しでいくか……
「ちょ、ちょっと待てよ! 軽くなんて見てない、ただの質問だろうが!?」
グレイトは必死で弁解を始める……が。
「あんなへらへらした顔で質問しておいて……着いたら覚悟しなさいね」
ああ、リラが笑っている……が、般若はんにゃの笑みだなアレは。心の中でグレイトに手を合わせておく。
「お、街が見えてきたぞ」
こんなやり取りをしているうちに、ずいぶんと馬車は進んでいたらしい。東の砦街がもう視界に入り始めていた。
自分の運命を想像して「ぎゃあああ」と絶叫するグレイト、そのグレイトを「うるさい!」とグーでぶん殴るリラ、そして自分を乗せて、馬車は東の砦街へ入っていく。

駅馬車が東の砦街に到着すると、自分を含む三人の乗客は馬車を降り、街の門番の方へ歩き出す。入国許可を得て、東の砦街に入るためである。某ゲームなら駅馬車のまま直接街の中に突っ込めたりするのだが、こちらではもちろんそうはいかなかった。
「ようこそ、東の砦街へ。お手数ですが、入国許可証を提示願います」
門番としては妙に年をとった老兵が、許可証の提示を求めてきたので、グレイトとリラは許可証を取り出した。自分も代わりとなる妖精女王の指輪を見せる……と、指輪を見た途端、老兵は固まった。フリーズでもしたか?
「し、失礼しました、そちらのお二方は問題ございません。どうぞお通りください」
そう言われ、グレイトとリラは街に通される。あれ? 何故自分は止められた? そんな疑問を抱えていると老兵が小さく耳打ちをしてきた。「お時間を少々頂けますか?」と。

    ◆ ◆ ◆

そしてここは兵士の駐屯場。仮眠施設などもあるようだが、あまり周りをじろじろ見るような下品な真似はすまい。む、なんか既視感が。ちなみに老兵は近くの同僚に「少々すまないが、ほんの少しだけ交替を頼む」と言って、自分をここまで連れてきていた。
「お時間を取らせてしまい申し訳ありません、貴方がアース様ですな。……実は私は元々、南の砦街の責任者でした」
ああ、以前娘さんが自分に無体な振る舞いをしようとして、その責任を取らされて降格した人か。道理で門番の中で一人だけ妙に年をとっている訳だ。
「あの件で女王陛下にみっちり仕置きを受けましてな……今更遅過ぎることではございますが、我が娘の愚かな行為により多大なご迷惑をおかけしたこと、真に申し訳ありません」
──む? 普通に良い人……妖精みたいなのだが。
「それについてはもう怒りや恨みを抱えている訳ではありませんので、ご安心を」
この言葉通り、実際もう殆ど忘れていた。過ぎた事柄で多大な憎しみを持ち続けると、何もかも上手くいかなくなるということは、経験が教えてくれる。もちろん完全に忘れてもいけない。同じことを繰り返しては、ただの愚か者になってしまう。
「女王陛下直々じきじきの調べが入り、我が娘のしでかし続けてきたことが明るみになるに連れ……甘やかし過ぎていたことを痛感致しました。妻を失った悲しみで、忘れ形見の娘を溺愛できあいし、何も見えなくなっておりました。お恥ずかしい限りです」
目の前の老兵が語るところによると、なんでもあのバカ娘は、子飼いの私兵達に便宜を図るよう街の人々に命令していたらしい。しかもそれだけでは飽き足らず、飲食代金の支払いも無理やり大幅に負けさせたり、街の人達に喧嘩を吹っかけては怪我をさせたりしていたようで、かなりの恨みを買っていた。だからあのとき、バカ娘が来たというだけで皆が俺を隠した訳だ。
その上、たまにモンスター達が襲撃してくると、途端にどこかに隠れてしまっていたらしい。弓や魔法をそこそこ扱える街の人が前線の支援に行くことが時々あったそうだが、そこでバカ娘とその私兵の姿を見たことは一回も無かったという。
普段は無法者のように暴れて、肝心なときには一切役に立たない。それでも領主の娘であることと、私兵の数が数だったため、南の砦街の市民は下手にバカ娘達に歯向かうこともできなかった。
「何で皆で力を合わせて戦わないんだ?」と疑問を持つ人もいるかもしれないが、そうするには誰かが一番前に立ってきっかけを作らねばならないのだ。簡単に人を殺せる手段を持つ相手だけに、誰だって真っ先に死ぬような貧乏くじは引きたくない。
また、中央政府への密書なども、ことごとく私兵が握り潰していたらしい。そういう部分だけは有能だったようだ。
「女王陛下の仕置きの後、それらの証拠を添えて事実を知らされたとき……私は逆上し、娘に初めて剣を向け……女王陛下に止められました。『ここで殺して済むほど、汝の娘とその私兵達の罪は軽くない。つぐなわせねばならぬ』とのお言葉まで頂き……私は志願して、最下級兵からやり直すこととなりました」
それが、私がここに居る理由です。そして改めて、我が娘がご迷惑をおかけしたことをお詫び致します――と、老兵は頭を下げた。

それから、駐屯場から東の砦街への門に戻り、入場手続きを行い、ようやく東の砦街へと足を踏み入れることができた。
それにしても、南に居たときのやり取りには、そういう裏があった訳か……やれやれ、どこの世界にも悪事だけは有能な奴ってのが居るものだな。
そういや、娘達は西の砦街に送り込んだとクィーンは言っていたが、あいつら改心するのかねぇ。まあ、しなかったら今度こそ、首の上下が永遠にお別れか。
南の砦街の皆はどうしているだろうか。もう少ししたらあの宿屋でまた酒を一緒に飲みたいものだ。
少々あのときのことを思い出しながら、街中に歩を進める。まずは宿屋探しだ。
入る前からちょっとした出来事はあったが、何はともあれ宿屋を確保して、そこを拠点に動こう。妖精国の経済は「たっぷり稼いでたっぷり使う」で回っている。今はそれなりに手持ちがあるとはいえ、依頼を受けてどんどんお金を稼いでいかなければ。
数人の衛兵に道を聞きつつ、なんとか「ひまわり亭」という宿屋を見つけることができた。東の砦街はこの宿屋を拠点に依頼をこなすこととしよう。そう思って早速、依頼が張ってある要請板の前に行ったのだが……
「ずいぶんと……少ないな。こっちではあまり冒険者の需要がないのか?」
南と比べると依頼の件数が明らかに少ない。大雑把に数えて八分の一ぐらいだろうか。残っている依頼もウォーゴブリンズ部隊の殲滅せんめつや、ウォーディアーの群れの駆除など、明らかに三人以上のPTでやるような内容だ。ソロの自分が手を出すには厳しいものがある。
「ああ貴方、こっちにくるのは初めてなのね。最初はもっとたくさん依頼があったんだけど、人族の冒険者さんがいっぱい訪れるようになってからは、ものすごい勢いで依頼が達成されてねぇ。どこの宿屋でも依頼の数はそんなものよ」
女将おかみさんはそう言って笑っている。
ううむ、依頼が少ないのは平和って意味だから良いことなのだが、冒険者としてはちょっと厳しい。収入のあてが無いってことだからな。
要請板の前でうんうん唸っている自分を見かねてか、女将さんがこう声をかけてきた。
「じゃあ、手ごろな依頼が入るまで、うちで下働きでもする?」
冒険者の仕事というにはいささか疑問が残るかもしれないが、街中の雑事に対する依頼なら普通にあるものだ。それでもいいかと考えて、自分は頷いたのだった。

    ◆ ◆ ◆

「はい、これを七番テーブルのお客さんに持っていって!」
「了解!」
あれから、こっちの世界での夜を迎えていた。ただいま、ひまわり亭の酒場が最も忙しい時間帯でございます。給仕役としてアルバイトをする日が再び来るとは、思ってもいなかった。
「次は一二番テーブルだよ! 急がないとお客さんにドヤされるよ!」
女将さんの威勢のいい声が響く。自分も遅れないように素早くお酒と料理を運ぶ。戦闘に比べたらはるかに楽なので疲労なんて全くないが、まあ、それは自分が男だからかもしれない。というのも、他の女性の給仕さんは、酔っ払いに絡まれたり、軽くボディタッチをされたりしているからだ。だが彼女達も、それに対してしっかり反撃していたり、追加注文を引き出したりするからあなどれない。
「はい、ちょっとすみませんね、はい後ろ通りまーす!」
大声を出しつつ酔っ払いのおっさん達の間を通る。って、俺もおっさんだよ……酒を飲んでいるときの自分もこういう感じなのかと、変なところで再確認。自分は確かに酒が弱いが、付き合いもあったし、全く飲んだことが無い訳ではないからね。
「はい、新入り、これを四番テーブルにだよ!」
「合点承知!」
大して疲れはしないが、次から次に来る注文をどんどんさばかねばならないので、忙しさはリアルと全く変わらない。本当にゲームかこれ? と突っ込みたくなってくるぞ。
この忙しさは、閉店間際まで続くことになった。

「はいお疲れさん!」
次第に客が一人減り二人減り、宿泊客も二階三階の部屋に戻っていって静かになり始める。そして酒場の掃除も終わった後、ようやくひと息つけた。
「ずいぶんとお客さんが入っていましたが、毎日こんな感じなのですか?」
ひまわり亭の女将さんに質問してみる。
「いやいや、今日みたいな混雑は七日に一回ぐらいさ! 普段はこれの半分ぐらいだよ。その忙しい日に助っ人が居てくれて助かったさ!」
女将さんはそう言って笑っていた、そうか、七日に一回ならまあいいか。休日の前夜に少しハメをはずしていたようなものと考えればいいだろう。飲食業にとっては稼ぎ時だった訳だ。
「はいお給金。まあ冒険者としては少ないだろうけど、その分食費や宿泊費は取らないから、割り切っておくれ!」
女将さんに四〇〇グローを手渡された。確かに収入としては少ないが、宿代が浮くのだから十分だ。どの道、東の砦街にしばらくは居たいし、最悪その間はこのひまわり亭の下働きをやっていても良い。そう考えれば別に悪い話ではない。
「いや、女将さん、十分だ。じゃ、今日はこれで寝ますよ」
そう告げて先に上がらせてもらう。「いい夢見なよ!」なんて女将さんの声が後ろから聞こえてきた。
これもまた、ワンモアのプレイスタイルの一つとして設計されているのだろうか? やがてはプレイヤー自身が家を持てるようになり、その家をお店として運用し、あるいは従業員として働くプレイスタイルというのも、将来的にはアリなのかも知れないな。
そんなことを考えつつ、ログアウトした。
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