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4巻試し読み

4-1

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とても長かったメンテナンスがようやく終了し、今日の午後八時からいよいよ、VRMMO「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の新フィールドとなる「龍の国」が実装された。
アースこと自分がログインできたのは九時だった。
最初の街「ファスト」から東に向かい、出没する殺人系モンスターを周りの人達と一緒に張り倒しながら突き進んでいくと、龍の国への関所が見えてきた。
この時点で龍の国の街並みが予想できた。時代劇とかで見たことがあるような感じの建物だったからだ。きっと江戸時代がモチーフだな。そうなると、桜吹雪さくらふぶきを背負ったお奉行様とか、身分を隠したご老公とかがいるかもしれん、いろんな意味で油断できない。
関所のチェックはそう厳しくなく、すんなり通過できた。通行証として、【梅の通行手形】を支給されている。説明によると、【竹の通行手形】を得ると城がある中央の街に入れるようになり、【松の通行手形】で城に入るための試験を受けられるという。
今日は特別に、龍の国の中でプレイヤーが最初に入る街「いちたけ」に龍の国の王……いや、お殿様とそのお姫様が来て、冒険者に向けて挨拶することになっている。
一が武の会場はすでに人がぎゅうぎゅう詰め……開始時間の十時まであと二十分もあるのに……いい場所に陣取っている人達は、龍の国実装後、真っ先に駆けつけたんだろうな。
まあ我慢するかと気を取り直して待っていると、ウィスパーチャットが飛んできた。
【やっほー、お久しぶり、ロナだけど】
【ああ、ロナちゃんか。お久しぶり、どうした】
【ちゃ、ちゃん!? あ、あのね、ボクにはちゃん付けとかしなくていいから!】
【それは悪かった。で、どうしたんだい?】
ウィスパーの向こうからうーん、とうなる声が聞こえてくる。
【あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……】
【うん? 何かな】
【〈蹴り〉スキルって将来性あるのかな? 格闘家として、ぜひ実際に使っているアース君に聞いておきたいんだけど……】
あー……〈蹴り〉をはじめとするキック系統は現在、Wikiでも一番更新されていない戦闘系スキルだ。それは確かに不安になるだろうな。
【なら、龍の国の王様の挨拶が終わった後、パーティPTを組んで、キック系統の技を使った戦闘を軽く見せようか?】
【いいの!? ぜひ見たい!】
【じゃあ、また後でね】
【おっけー! 楽しみにしとく】
ま、こういうのもたまには良いか。ターゲットはワイルドベアさんにしておこうかな、今ならあの辺のエリアに人はまずいないし。
そんなことを考えていると、騒がしくなってきた。そろそろ時間か。壇上には立派な服を着た一人の男性が立っていて……その隣にいる女の子は、以前ファストで会ったりゅうちゃんじゃないか……
「遠路はるばる、龍の国へようこそ参られた、強き者達よ! 私がこの国の王であるりゅうという者だ。隣にいるのは我が娘だ」
「皆の者、よくぞ参られた! 我が父にして我らが王より紹介を受けた通り、わらわがこの国の王女である! 龍の国の掟により、結婚をするまで本名は親以外に名乗ることができぬ。済まぬが、そこは分かって欲しい。わらわ達は基本的に城にいるが、こもりきりではないため、街で出会うこともあろう。そのときは龍姫りゅうきと呼んで貰えれば良い」
龍ちゃん、頑張ってるなぁ。不慣れなことをしているというのが自分にはよく分かるので、つい噴き出しそうになる。と、不意に龍ちゃんがこちらを睨んできた。
【後で話がある。断りはせぬよな?】
わざわざウィスパーを飛ばすんじゃない、イベント中なのに。だが……
【断る! イベントに専念しなさい!】
龍ちゃんは恨めしそうにこちらを見るが、スルー。龍王様が「ごほん」と咳払いを一つすると、龍ちゃんは慌てて前に向き直った。可愛いなぁ。
「ぴゅぴゅ!」
ありゃ、自分の頭に乗っている青い鳥の妖精ピカーシャが、なんだかご機嫌斜め? 龍ちゃんとのウィスパーがばれたか?
ピカーシャをなだめていると、龍王様が挨拶を続ける。
「この国で、より皆の強さが磨かれ、直接城へ来ることができる猛者もさが誕生するのを楽しみにしておる。『龍の儀式』の突破者には更なる力が与えられるからのう、ぜひ成し遂げて欲しい。待っておるぞ!」
この言葉をもって、龍の国におけるプレイヤー達の冒険が開始されたのだった。

龍王様の挨拶後、一旦ファストに帰還して準備を整え、今はワイルドベアが生息しているエリアにいる。かつての強敵ライバルをサンドバッグ代わりにするとか、自分もかなり外道げどうだな……などと今更ながらに感じる。
「で、ロナがいるのは約束したから当然なんだが……なんでお前さんがここにいる」
「そんな冷たいこと言わんでくれぬかのう」
「相変わらずアース君の行動は読めないよ……」
この場にはなぜか龍ちゃんもいた。龍姫、なんて大層な名では絶対に呼ぶものか。ちなみに龍ちゃんは自分と同じく、外見を隠す外套がいとうまとっている……柄はずいぶん派手だが。
「まあ何の理由もないわけではないがの……まずは、今まで食べた料理の代金を払おうか」
そう言って、龍ちゃんはお金を出してくる。六〇〇〇グローか、まあ食べた量を考えれば妥当かな。ありがたく受け取っておく。
「確かに代金は受け取った。んじゃ、邪魔はしないでくれよ……本当なら今すぐに帰って欲しいのだけれど」
彼女の身分がはっきりした今、ほいほいうろつかれるのはな……フェアリークィーンの二の舞はごめんだぞ。
「大人しく見ておるわ、城の外に出ておるだけでもかなりの気分転換になるからの」
木によじ登り、枝に腰掛ける龍ちゃん。アレならまあいいか……
「では、モンスターをのには弓を使うが、その後は蹴りだけで戦うよ」
当初の目的を果たすべく、ロナに確認を取る。
それから早速、のんびりしているワイルドベアに向かって矢を放ったのだが……
「あ」
よりによってこのタイミングで、装備している【ドラゴン・ボウ】の特殊能力である《ドラゴン・ソウル》と 《ドラゴン・レギオン》が発動してしまった。哀れなワイルドベアは、追加攻撃として小さなドラゴンの幻影四匹に噛みつかれた上、そのうちの一匹に弱点を突かれたようで、その場で砕け散る。
「「……」」
「ほう」
無言だったのは自分とロナ、ひと言発したのが龍ちゃんである。
少しだけ、静かな時間が流れた。チチチチ……と小鳥の声がよく聞こえる。ぴゅ〜……と寝ぼけたピカーシャの鳴き声も。
「――何今の? ねえ! 何今の!?」
再起動したロナが自分の首元を掴んで、がっくんがっくん揺すってくる。頭に乗っていたピカーシャが急な揺れに驚き、あわてて飛び降りていた。
「おま……まて……」
舌を噛みそうなほど、頭が激しく前後している。現実でやられたら絶対むち打ち症になるぞ、これは。
ロナが落ち着きを取り戻すには、それから数分かかったのだった。

「で、その弓の詳しい能力とかは……聞いちゃだめだよね?」
ロナは弓の能力を知りたそうにしていたが、諦めたようだ。
「さすがに知り合いだからって、重要な情報を晒け出すわけにはいかない。〈蹴り〉についてだって、Wikiに情報があまり載らないのは、有用なのを知られたくないからだろう」
情報には大きな価値がある。知は力なり。これはまさしくあらゆる事象に通用しうる真理である。
「じゃあもう弓のことは置いておくとして、〈蹴り〉スキルって……そんなに使えるの?」
ロナの疑問に頷いて、肯定の意を表す。
「これからの戦いを見れば分かるだろうな。まあ、まずは見てもらった方が良いかな」
気を取り直して矢を放つ。今回は特殊能力は発動せず、飛んでいった矢が目標のワイルドベアに突き刺さる。
「グア!?」
こっちに気が付いたワイルドベアが突っ込んでくることを確認して、弓を背中にしまう。
「じゃあ、今から〈蹴り〉だけであいつを倒すからね」
体から少しだけ力を抜いて緊張をほぐし、突進してくるワイルドベアとの間合いを測る。
――今か。
突進をぎりぎりで回避し、そのわき腹に挨拶代わりの膝蹴ひざげりを入れる。
「グ!?」
ワイルドベアは突進してきた勢いが止まらず、すべるようにして急ブレーキをかけた。その無防備なケツに、とび蹴りを入れてあげる。蹴られたワイルドベアは怒り心頭とばかりに、振り返るなり立ち上がり、その強靭な腕を振り下ろすが……自分は《トライアングルシュート》を発動して、幻影を残しながら飛びのき、ワイルドベアの左のこめかみにとび蹴りをつきたてる。
「え!? 〈蹴り〉のアーツ!?」
ロナが驚いている。〈蹴り〉にアーツがあるということはほとんど広まっていない。知っている人はそれなりにいる筈なのだが、誰もWikiを更新しない。使い手同士の暗黙の了解なのかどうかは分からないが、そう言っても差し支えない状況だ。
ワイルドベアは首を二、三回振って蹴られた方向を見たが、自分はすでに《ハイパワーフルシュート》のモーションに入っていた。
思いっきり蹴り上げられて、派手に空に吹き飛ぶワイルドベア。ここから空中コンボエリアルにつなげたいが、大ジャンプするための《大跳躍》や《フライ》は蹴り技ではないので今回は自粛。ワイルドベアの落下予想地点に走り、《エコーキック》の準備に入る。《エコーキック》はチャージ、つまり力を溜めることによって攻撃力と攻撃回数が増えるという特性がある。
少しして、空から落ちてきた哀れなワイルドベアにしっかりと狙いを定めて……
「おおらぁっ!」
気合をこめてフルチャージの《エコーキック》をぶち込んだ。「ドゴン!」と最初の蹴りが入った後に、「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴガァン!」とエコー分の見えない打撃が打ち込まれる音が響く。そのまま受身も取れずに地面に落ちたワイルドベアの顔面を、全力で何回も念入りに踏み付けてトドメを刺した。とりあえずはこんなものかな。
「…………」
「ほうほう、やるものじゃの」
振り返れば、そこには無言のロナと拍手している龍ちゃん。
「おーい、ロナさんや、生きとるかーい?」
放心している様子のロナに近寄り、ほっぺたを軽くぺちぺちと叩く。
「あ、うん、戻ってきた……って、なんであんなに戦えるスキルが全く広まってないの!?」
ロナは戻ってきた途端に、興奮状態に入ったようだ。
「そう言われてもなぁ……あ、ロナ、このことは広めないでね。今は、蹴り使い同士による無言のお約束みたいな雰囲気があるからさ」
いつかは広まるにしても今はまだ広まってほしくない、といったところだろうか。
「うん、これは燃えてきた……しっかり〈蹴り〉スキルを鍛えるよ!」
おおう、ロナの瞳に炎が見える。こうしてまた一人、〈蹴り〉スキルの使い手が増えましたとさ。


【スキル一覧】
風震狩弓ふうしん かり ゆみ〉Lv10 〈蹴撃しゅうげき〉Lv48(←1UP) 〈遠視〉Lv56 〈製作の指先〉Lv78 
〈小盾〉Lv14(←5UP) 〈隠蔽いんぺい〉Lv41 〈身体能力強化〉Lv61(←2UP) 〈義賊〉Lv33
〈上級鞭術〉Lv5(←2UP)
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv39 〈上級鍛冶〉Lv36 〈薬剤〉Lv43  〈上級料理〉Lv15
ExP19
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者:青のピカーシャ(アクア)〈飛行可能〉〈騎乗可能〉〈戦闘可能〉〈魔法所持〉


 2

翌日、泊まっていた宿の女将さんから依頼を受けた。それを達成するために一が武の街中を散策する。実装されたばかりのためか、人が非常に多い。そして食べ物系の屋台もかなり多い。団子に始まり、寿司すし、和菓子、うどんに蕎麦そば、おでんなど色々である。なんで寿司が屋台で? と疑問に思う人もいるかもしれないが、江戸時代は屋台が中心だったのだ。
(せっかくだし、少しずつつまんでみるか)
それぞれの屋台で一番小さいサイズを頼んでいき、色々な味覚を楽しむ。日本人は明治時代まで殆ど肉食をしていないという説があるが、狸汁たぬきじるなどは食べられていたりする。ピカーシャも色々な料理を食べられてご機嫌きげんのようだ。
(次の蕎麦屋で最後にしよう、確か依頼の対象はあの店だったはず)
いい感じにおなかが膨れてきた。食べ歩きとしてはもう十分だ。屋台で食べた味からして、醤油しょうゆなども売っているはずだから、後で仕入れよう。
「いらっしゃい」
そう言って自分を出迎えたのは、ガタイはいいがあまり元気がなさそうな男だった。
「蕎麦を一つ」
「一六〇グローだよ」
「あいよ」
代金が一六〇グローなのは、多分江戸時代の二八にはち蕎麦の代金が一六文であったことにちなんだのだろう。ちなみに「二八蕎麦」の語源には二つ説がある。一つ目は配合が蕎麦粉が八につなぎが二であったという説。もう一つは値段が一六文、つまり二×八であったからという説だ。まあどうでもいいことだが。
一六〇グローを支払い、蕎麦が出てくるのを待つ。三〇秒ほど茹でて、いくつかの具を載せれば完成のようだ。長々と茹でるのなんて蕎麦じゃないからな。
「おまちどう」
出された蕎麦を遠慮なくすすりつつ、何気なく聞いてみた。
「店主、ちょっと質問良いですか?」
すると、蕎麦屋台の店主がピクッと反応する。
「『龍の儀式』って何なのかご存知ですか?」
そう問いかけると、店主はこちらに向き直った。
「――ああ。『龍の儀式』とは、龍族、つまりこの国で生まれた俺達なら生涯に二回、貴方のように外の世界から来た人達なら三回だけ挑戦できる、戦いの儀式のことです」
ふむ。
「それはどこで受けられるのでしょうか?」
店主は手を休めて、持っていた道具を置いてから話を続ける。
「では、説明しますね――外から来た人達は、まずは通行手形を【松】にすることが必要です。これは色々な仕事をこなし、実力を証明すればそのうち自然となります。ここは問題はないでしょう」
ずぞぞ〜……
「そして、【松】ランクの者だけが入れる龍城の前で、仲間達と共に龍神様と戦います。それが『龍の儀式』です。共に挑む仲間は六人までに絞る必要がありますが」
ごっくん。
「そして、その戦いに勝つか、龍神様に実力を認められると、龍族は『完全な龍に変化できる』ようになって、外からの訪問者は『龍の如き力を手に入れることができる』とされていますね」
ふむ。
「なるほど。ルールそのものは単純……それ故に真っ正面からやり合うしかなさそうですね」
あごを撫でる自分に、店主が続ける。
「ええ、龍神様には毒などは一切効きません。純粋に力でもって戦うしかありません」
ふうむ、プレイヤーにとってはそれが、この国における一つの到達点か。
「で、店主は挑んだことがあるんですか?」
途端に店主が嫌な顔になった。
「――少し話をしても良いですか? ちょいと昔のことですがね……」

    ◆ ◆ ◆

あるところに、力だけは人一倍ある若い龍人がいました。その龍人は有り余る力で暴れ回り、徒党を組んでは街を練り歩いて、決闘という名の喧嘩けんかを幾度となく繰り返しました。
そして更に問題だったのは、その龍人は一度も喧嘩に負けなかったことです。喧嘩に負けた相手が武器と人数を揃えて逆襲してきたことも度々ありましたが、全て返り討ちにしてしまいました。
それだけ暴れていれば、当然子供のやんちゃで済まされるわけもなく、幾度となくお奉行様の前に引っ張り出されました。
しかし、彼は百叩きの刑などを受けてもなんとも思わなかったのです。頑丈な体はそんな刑を受けたところで大した痛みを覚えず、平然としていたそうです。
やがて、こんな所でくすぶっているぐらいならば、ひとつ完全な龍になって他の連中を笑ってやろうという幼い考えで、「龍の儀式」に挑むことを決めました。自分の頑丈な体、相手を簡単に殴り飛ばせてしまう力があれば簡単だ――と考えたのですね。
そうしてその龍人は「龍の儀式」に一人で挑み……惨敗しました。いや、惨敗という表現ですら足りないでしょう。何せ龍神様の指に一回軽くつつかれただけで、頑丈だったはずの体は動かなくなってしまい、意識を失ったからです。
しばらくして意識を取り戻した後、龍神様はゆっくりと口を開き、こう仰らおっしゃれたそうです。
『……このたわけが。子供ゆえに周りから守られていることに気が付かず、のぼせ上った愚か者よ。お前の力など、所詮その程度でしかない。せるが良い、お前のような龍人など、殺す価値も無い』
龍神様の話が終わると同時に、その龍人は城の外に追い出されました。
完膚かんぷなきまでに圧倒されたことがショックで、それまであった自信は真っ二つに叩き折られていました。そして茫然自失となったままその場を去り……月日は流れ、いつの間にか蕎麦の屋台を引いて生計を立てるようになっておりました。

    ◆ ◆ ◆

「……という、ある龍人の昔話です。如何いかがでしたか?」
なるほど……その龍人というのは、おそらく目の前の店主さんのことなのだろう。「龍の儀式」に生半可なまはん かな力で向かっても、慢心をたたき折られるだけと言いたいんだろうな。
「そのお話を伺って、もう一つだけ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんです?」
自分はひと呼吸置いた後、話を切り出す。
「龍人の皆様は、『龍の儀式』を生涯の中で二回受けることが可能なのですよね? その龍人さんは、再び挑戦することはないのでしょうか?」
店主さんは、首をゆっくりと横に振った。
「おそらく挑戦することはないでしょうね。この話の龍人に限ったことでなく、ほとんどの龍人が一度しか挑戦しません」
そうか、ならしょうがないのかな……とも思ったのだが、うつむいている店主さんの目を見て、考えを変えた。
今の話をした直後だからか、その目には諦めのような感情が浮かんでいる。だがわずかながら、諦めきれないでいる気持ちも垣間見えた気がした。
――失礼だとは思うが、ひとつカマをかけてみますか。
「そういうものなら仕方ないですけど……せっかくお話を伺ったので、こちらからも一つお返しを。かなり前に自分の面倒を見てくださっていた先生から、『物事を諦める前に、本当にそれは諦めるべきことなのかを本気で自問自答しなさい』との言葉をいただいたことがあります。後になって、失敗してもいいから精一杯やっておけばよかったと思っても、手遅れなのだから、と」
自分の言葉を聞いた店主が、ビクッと体を震わせる。
「それは……」
やはり、どこか心残りなんだな。そうでなければ、こんな風に反応するわけがない。頭の中では分かっていても、心が納得していない……そんな状態なのだろう。
袖触れ合うも他生たしょうの縁、このまま知らんぷりをして離れると、こっちとしても心にしこりが残りそうだ。ここはもう一歩、踏み込んでみよう。
「大変失礼なのは承知していますが、お聞きします。その龍人……いや、ご主人は、『龍の儀式』に挑むことを、本当に心の底から諦めたのですか?」
店主は、「私は……」と言葉を発したきり固まってしまった。ならば、別のアプローチをしてみようか。かなり乱暴な手になるがね。
「では、一度だけ自分と決闘をしてみませんか? 勝ち負けなどは二の次で。言葉だけでなく実際にこぶしを合わせてみれば、何かが見えてくるかもしれません」
そんな自分の言葉に、店主がようやく硬直していた状態から立ち直った。
「お待ちください、失礼ながら貴方は人族ですよね? 龍人と決闘なんてしたら、怪我では済まないかもしれませんよ!? それに、どうしてここまで私に構うのです? 私に関わっても、何の得もないでしょうに」
店主さんに微笑みながら、自分はこう返す。
「いえ、実は自分にも、貴方のように動けなくなっていた時期がありましてね。そのときは、他の人のお陰で何とか立ち直れたんですよ。ですから、自分と似たような人を見ると、ちょっと放っておけなくなってしまうんです」
こうしてこの龍人と行うことになった決闘が、この国における行動方針を決めることになるとは……このときの自分は考えもしていなかった。

現実世界の自分には、物心ついたときからちょっとした夢があった。それは、幼稚園児が一度は憧れを持って口にするような夢。そして大きくなるにつれて、そんなものになれるわけがないと徐々に諦めていく夢。だが、自分はその夢を曲げずに持ち続けた。そんなことを、お互い無手むてで臨んだ決闘の最中に、うっすらと思い出していた。
小学校、中学校と時が流れても、夢に向かって努力することをおこたらずに過ごした。勉強を最重視し、その合間に体を鍛える学校生活を送っていたために、あまり友達付き合いは……まあお世辞せじにも良い方とは言えなかった。
そんな状態だったからイジメにもあったが、それは何とか跳ね返した。あまりにもイジメがひどくなったので、あえてクラスメイト達の前で首謀者をぶん殴って、はっきり抵抗の意志を示したのだ。もちろん殴ったことは教師に怒られ、内申点を下げられた。それでも、学年トップの成績を取って、いじめへの反撃とした。

――っと、鋭いパンチが飛んできた。でもこの程度の攻撃を喰らってやるわけにはいかない。そのパンチを少しだけ体をずらすことで回避し、カウンターとしてキックをぶち込む。そのキックを喰らって一歩引いた店主さんの足を払って転ばせ、追い打ちをかける。
最初は様子見だった店主さんも火がついてきたようで、こちらの追い打ちを回避した後にすぐ立ち上がって構え直す。先程までとは表情が違う。うっすらとではあるが、店主さんの顔には笑みが浮かんでいる。

やがて、やや荒れていた中学を卒業。高校は県内有数の進学校に合格した。
高校でも夢の実現に向かっての努力を欠かさなかったせいで、あまり遊ぶことはなかった。親は、中学のようにトップこそ取れなかったものの、上位の成績を取ってくる自分に満足していたようで、これと言って文句は聞かされなかった。そしてそのまま高校を卒業し、大学に行って進路を固める――という青写真が、この時点でほぼ出来上がっていた。

――決闘もそろそろ幕か。確かに龍人である店主さんの攻撃を受ければ、ひとたまりもないのかもしれない。だがモンスターとの戦いで腕を上げた自分には、十分見切れる範囲でしかなかった。自分の攻撃はすべて命中し、店主さんの攻撃はすべて外れ。そして自分が放った足払いをもろに受けた店主さんは地面に倒れこみ……それきり起き上がってこなかった。ハアハアと荒いながらも息はしているから、マズい状態になったわけではなさそうだ。

高校で誰かが言っていた。「世界とは非情なものさ」と。その非情さが、まさか自分に降りかかってくるとは、当時の自分は考えたこともなかった。
高校三年の夏休みの夜。受験勉強のために通っていた塾から帰るときに、それは起こった。歩行者用信号は青、左右の確認もしたのに……一台の車が、突如信号を無視して突っ込んできたのだ。そして自分はその車にねられた。どうも運転手はかなりの深酒をしていたらしく、注意力散漫になっていたという。当然、飲酒運転をはじめとした罪でその運転手は逮捕されたと、後で親から聞いた。
だが、当時の自分はそれどころではなかった。複数箇所の骨折ほか、いくつもの重大なダメージを体に負ってしまった。幸いにして緊急手術が成功し、自分は一命を取り留めた。
目を覚ましたときには、事故から一週間もの時間が経過していた。その直後は、いったいなぜ自分がこんなところで寝ているのかと、パニックにおちいりかけたものだ。
親や医者から説明を受けて状況を理解してからは、とにかく怪我を治すことに専念した。何とか完治すると、そこからは吐き気を催すほどキツいリハビリが待っていた。そして若さと気合で、何とかそのリハビリも乗り越えた自分を待っていたのは……
長年の夢に至る道が、事故によって砕かれている事実だった――
まさかのドクターストップ。人の目があるにもかかわらずあれだけ号泣したのは、人生で後にも先にもあのときだけだった。周りの人は「命があっただけマシだ」と言ったが、そんな言葉は何の慰めにもならなかった。
一気に抜け殻のようになってしまった自分であったが、だからと言って引きこもっても何にもならない。何とか退院して、高校もぎりぎりで卒業。もちろん大学受験にはろくな準備ができず、ほとんどぶっつけ本番で受けることになったが、幸いそれなりの大学に滑り込めた。
大学では一転して、勉強四割、遊び六割という生活を過ごした。最低限の単位を貰うための勉強はするが、それ以上に能動的に動く気力が湧かなかった。遊びの方も、下戸げこなのであまり飲みもせず、博打ばくちもあまり面白くなくて早々に止め(これはよかったと思っているが)、恋愛にのめり込む気にもならなかった。もっぱら、パソコンでMMORPGばかりするようになっていった。
そんな生活を続けていた大学生活二年目の頃、ふと鏡で自分の顔を見たことがある。夢を失って遊んでばかりいる自分の目は、ひどくにごっていた。

「降参です。まさかここまで一方的にやられるとは思いませんでした。鈍っているのを言い訳にすることができないぐらい完敗です」
ゆっくりと立ち上がりながら、蕎麦屋の店主が言う。
「拳を合わせてみて、何か見えましたか? 笑みを浮かべているようにも見えましたが」
自分の言葉に、店主さんは苦笑いを浮かべつつ、こう返答してきた。
「まだ、何とも言えません。今は、まだ。この気持ちが、この高ぶりが本当なのかどうか、真剣に考えてみようと思います」
――これで十分か。この蕎麦屋の店主をき付けるという依頼も、これで達成できただろうし……あとはこの人次第だ。
「分かりました。では、失礼いたします。いきなり決闘を申し込んだ非礼を、心よりお詫びいたします」
決闘前に比べて、ずいぶん良い表情になった店主を確認して、自分はその場を立ち去った。そう言えば自分も、今の職場の人にこんな風に(殴り合いこそしなかったが)やや強引な気合の入れ方をしてもらったお陰で、何とか立ち直れたんだっけな。あの店主は当時の自分に比べればはるかにましだったし、きっと大丈夫だろう。

    ◆ ◆ ◆

「完敗……ですね。ここまでなまりましたか」
無傷むしょうのゴロウ」とまで呼ばれた私も、蕎麦屋の店主に収まってからかなりの日数が過ぎ、腕が鈍っていたことは事実。とはいえ種族的には圧倒的に優位であるにもかかわらず、ここまで一方的に打ちのめされた以上は何の言い訳もできないでしょう。人族はこの世界では最弱とされているのですから……
話の流れ的には少々強引さを感じた申し込みでしたが、それにしても、それを断らずに決闘を受けてしまった自分自身がよく分かりません。「龍の儀式」を無残に失敗したときに、私の中の戦意は完全に折られたと思っていたのですが……

記憶が蘇ってきますね……そう、かつての私は、自分こそが最強であると思い上がっていました。子供同士でちょっとしたきっかけから喧嘩になり、相手を一方的に叩きのめしたとき、自分の力を自覚したまではよかったのですが――その後が非常によろしくなかった。
強き者であることが奨励されるこの国では、双方の同意さえあれば自由に決闘ができます。もちろん相手を殺してしまったりしてはいけません。決闘で死者が出ないよう、龍王様直臣じきしんの監視者がいると最近知りました。
当時の私は、喧嘩まがいの決闘を繰り返す日々を送っていました。成長に伴って体が大きくなるにつれ、無自覚のうちに横暴になり、周りに迷惑をかけることが増えていきました。何度おかみにご迷惑をかけたことか……当時の自分は反省などしないあくたれ坊主ぼうずでしたけれど。
そのうち、一が武を物足りなく感じるようになりました。決闘に応じる相手がいなくなり、相手を求めて、たけさんたけに足を延ばすようになったのですが……そこで猛者とされていた人達も簡単に打ち破ってしまいました。周りにはもう相手にする価値のある者はいないと、私はより横暴になりました。そんな思い違いもはなはだしい当時を思い出すだけで、今となっては苦いものがこみあげてきます。
更なる強敵を求め、私はよつたけいつたけむつたけにも進みました。
さすがにそこまで行けばかなりの猛者がごろごろいましたから、しばらくは満足していた記憶があります。ですが数か月後には、一が武と同じく、相手を簡単に叩きのめせるようになってしまいました。気が付けば、私が決闘を申し込んでも誰もが拒絶するようになりました。
いくら尚武しょうぶを身上とするこの国でも、決闘を無理強むり じいするのは下種げすとされます。そうしてまた私の悪い部分が暴れ始めました。理由もなくイラつき、外をただうろついている魔物でもない獣達を殴り飛ばしたりもしました。
そんなある日、非常に珍しいことに私に決闘を申し込んできた人がいました。その決闘は危なげなく私が勝利したのですが、相手は私に向かって叫ぶようにこんな言葉を叩きつけてきたのです。
「けっ、『龍の儀式』に挑む度胸がないから、こんなところで八つ当たりしてるんだろ!!」
激高した私は、倒れている相手に向かって蹴りを放ち、完全に気絶させてしまいました。そんな行為に、周りの人は眉をひそめたはずでしたが、当時の私にとってそんなことはどうでもよかったのです。
(そうだ、もう「龍の儀式」に挑んでも良いだろ。周りは雑魚ばかりになっちまって退屈でしょうがねえ。それに「龍の儀式」を乗り越えれば国の外に自由に出られるようになる! そうすりゃもっと強い連中とやり合える! 「龍の儀式」なんかさっさと通過して、俺はもっと強いやつを探しに行くべきなんだ!)
そんな短絡的な考えで、私は「龍の儀式」に挑むことにしたのです。今にして思えば、なんて愚かなことかと思いますが。

「そうですか、ではあなた様は『龍の儀式』を受けにいらしたということで、間違いございませんね?」
龍城の門番が丁寧に聞いてくださったというのに、「ああそうだ、とっとと案内してくれよ」などと、大変失礼な言葉づかいで返答したものです。
案内された先は、結界が張られた広い闘技場でした。そしてその闘技場の真ん中には、着飾った一人のおばあさんがいました。
「ほう……お主が挑戦者か」
「なんだよ、ババアが相手か……つまらないことになりそうだぜ。さっさと終わらせてやるか」
当時の私は、相手の外見を見て、服だけは立派だが中身は残念もいいところだ、などと考えてしまいました。「殺しさえしなけりゃおとがめはねえし、さっさとブッ飛ばして『龍の儀式』を終わらせちまって、その先にあるお楽しみを味わいに行こう」なんて風に。
「そうかそうか、わらわの姿がババアに見えたのか。くっくっくっく、それがお主の心根こころねじゃよ!」
おばあさんはそう告げると、一瞬にしてどでかい成龍に変身しました。元の姿はあくまで仮のものでしかなかったなんて、思いつきすらしませんでした。
「それでは、『龍の儀式』を開始することをここに宣言する。お主が力尽きる前に、わらわを倒すか、『龍の儀式』にふさわしき力を持つものであるとわらわに認めさせれば、合格とする。では、参れ」
相手のあまりの大きさに一瞬たじろいだ私でしたが、中身が変わらないならその見た目も張りぼてに過ぎないだろうと、短絡的に考えました。
そして全力で距離を詰め、龍の顔目がけてとび蹴りを放ちました。ですが、その蹴りが龍の顔に届く前に、目前に大きな指が迫りました。
こうしてカウンター攻撃を受けたと思われる前後から、記憶がありません。意識を取り戻した自分が理解できたのは、自分が大の字で地面に倒れていることと、今までの決闘ではいくら殴られようとびくともしなかった自慢の体が全く動かなくなっていることだけでした。
そんな私に、龍が呆れたような声でさげすみの言葉とともに、儀式の結果を告げてきました。
「これにて『龍の儀式』を終了とする。言うまでもないことだが、お主は失格だ。歴代の挑戦者の中でも最低の評価をつけざるを得んな。お主には生涯であと一度だけ『龍の儀式』に挑む機会が残されている。次はもっとまともに鍛え上げてから来い……心身共にな」
直後、私は龍城の門の前に飛ばされていました。門番さん達は、最初とは打って変わって非常に冷たい口調で声をかけてきました。
「よりによって、あのお方をババアなどとののしるとは。あのお方のお姿は見る者によって如何様いか ようにも変わるのだ。汚い老女に見えたというのであれば、それはお前の心根が汚いからよ。その意味をよく考えるがよい! さあ、一が武に帰るのだ、お前はここにいていい存在ではなくなったのだからな!」
そうして再び私は飛ばされ、気が付くと今度は一が武の隅っこの方にいました。
俺は最強じゃなかったのか? ならばなぜ俺はこんな所で、今まで叩きのめした奴らよりひどい恰好で倒れているんだ? 混乱して考えが纏まらないでいる中、何かが、私にだけはっきりと聞こえる音を立てて、ガラガラと崩壊していくのを感じました。何が崩れているのか、分からぬままに。

それから長い時が流れ、私は蕎麦の屋台を引いていました。あの日以降、一度も決闘をしていませんでした。そんなある日、人族をはじめとした他の種族にも国が開かれることが決まったという噂が聞こえてきました。そのときは、そんなことはもはや私にはあまり関係がなく、お客がちょっと増えるかな、と考えたくらいでした。
ですが、その考えは大きく変わることになりました。訪れた人族の方との決闘で、私はこうして完敗しました。ですが、久しぶりの決闘を終えた今、これまで忘れていた何かが見つかった気がしています。――この何かについて、じっくり考えてみるのも良いのかもしれません。あの人族が言っていた、『失敗してもいいから、あのときにやっておけばよかった』という後悔をしないためにも。

    ◆ ◆ ◆

蕎麦を食べた後は、龍の国をとりまくフィールドに足を延ばした。
最初に出迎えてくれたのは、街の側でのんびり草を食べつつ「モー」と鳴いている牛だ。軽く撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。こんなのどかな風景が広がっているが、実装されたばかりの昨夜は地獄絵図だったそうだ……
事の始まりは、誰かがここで、のんびりしている牛をぶっ叩いたことだった。牛→肉→ステーキ! と考えたらしく、肉を取って料理人のもとに持ち込もうとしたらしい。
で、そのプレイヤーは得物えものである片手剣を抜いて牛に斬りかかった。「モー! モー!」と鳴きながら逃げ出す牛を追いかけ、トドメを刺そうと剣を振り上げたとき、背中にドシン! と衝撃が走った。なんだと思って振り向くと、そこには数頭の怒れる牛が。
そこからは、襲われたプレイヤーを援護しようと他のプレイヤーが手を出す→手を出したプレイヤーも襲われる→牛はいくら殴っても倒れない→どこにいたのか追いかけてくる牛がどんどん増えていく、といった展開だったらしい。最終的に信じられない数の牛がフィールドを埋め尽くし、手を出したプレイヤーが全員すっ転がるまで追い回されたという。お姫様の名前を冠したとある伝説のゲームを連想させられる話だ。あっちはエリアチェンジで逃げられるが。

まあ、それはさておき。少し先に林が見えてきた。その林の中にはモンスターがうろついているという情報を得ている。ゴブリンに加えて、このゲームでは初お目見えとなるオーク、そしてカメレオンリザードというトカゲが出るらしい。特にカメレオンリザードはその名のごとく、隠れるハイド能力を持っているので要注意とされている。
(ま、《危険察知》の前では隠れ通せまい)
〈盗賊〉系スキルの能力《危険察知》の重要性は広く認知されており、PTに一人は使える人間を入れておくのが常識になりつつある。〈盗賊〉系スキルの習得や進化には大量の経験値ExPが必要であることもまた広く知られており、保有者は重宝される。ツヴァイ達のギルド『ブルーカラー』では、ノーラが〈盗賊〉持ちだったな。
ゆっくり進んでいくと、前方に反応が一つ。弓を構え、反応があった方向を〈遠視〉スキルで注意深く観察する。
……居た。周りの風景に溶け込んでいるが、違和感を覚えさせる物体が木に張り付いてごそごそ動いている。アイツがカメレオンリザードで間違いなさそうだ。大きさは全長二・五メートルぐらいだろうか。静かに弓を引き……矢を射る。
『オオーン……』
特殊能力が発動し、矢は竜の幻影に変化して、カメレオンリザードに喰らい付いた。リザードはまともに攻撃を受けたらしく、ぽとりと木から落下。こんなチャンスを逃す手はないので、更に矢を放つ。五本目の矢が突き刺さったところで、カメレオンリザードは力尽きた。隠密性を重視しているためか、生命力や防御力はそれほどでもないようだ。もしくは、【ドラゴン・ボウ】の威力がかなり高いために、あっさり倒せたのかもしれない。
倒した後、すぐに《危険察知》で周囲を確認する。自分のプレイスタイルが単独行動ソロである以上、油断は即、フルボッコにつながるので、こまめに周囲を警戒するのが癖になりつつある。
幸い、こちらに近寄ってくる影は確認できない。今のうちにカメレオンリザードの皮などを回収しておく。

それからしばらく林の中を散策したが、戦闘はそれ以降、一度も行っていない。理由は、見つけたモンスターが全て団体様だったからだ。
ゴブリン達は鎧に盾、槍に杖などを分散配備したPTを築いて行動しているのが当たり前だったし、オークは図体がでかいだけではなく扱う武具も大きいため、リーチや威力が恐ろしい。あんな連中にソロで喧嘩を売るつもりはない。〈遠視〉を使えば遠くからでも敵を確認できるのが非常にありがたかった。
そろそろソロをメインにするのは限界かもしれないと痛感する。ソロにこだわって、同行してくれているピカーシャを盾役にするのも嫌だし……難しいところだ。
実際目にすると、このゲームのオークはあなどっちゃいけない相手だと理解できた。ゲームによっては非常に弱い存在であるオークだが、このゲームではそうした例を完全に忘れた方が良さそうだ。しっかりと武器や防具を装備し、PTを組んで歩いている様子から、プレイヤーと比べても遜色ない戦力を持っていると考えるのが無難だ。妖精国で戦ったウォーゴブリンズも厄介だったが、それ以上かもしれない。
(とりあえずの偵察は済んだし、引き上げるか……道理で、PT募集が活発なわけだな)
実は最近の掲示板では、決まった時間に組む固有PTメンバーを募集する書き込みが特に多かった。それは龍の国実装前に登場した殺人系モンスターを狩るためだけでなく、龍の国ではPTでの行動を前提とすべきだという情報が流れていたからだろう。
モンスター達に気が付かれないように《盗賊の歩方》を発動して、静かに林を立ち去る。こうした移動にも便利な〈盗賊〉スキル。先行投資が間違っていなかったのは、自分としても嬉しいところだ。
一が武に戻ってくると、PTメンバー募集中の人達がひしめいていた。あの林で戦うなら確かにPT行動が必須だな。明日からは自分もPTを組んで挑戦してみよう。
ログアウトまでは一が武のお店を見て回った。調味料として、醤油、味噌、みりんなどを購入。食材店では米を手に入れた。どんぶりも大量に買ったので、これで丼物どんものを作ることができるぞ。ついでにはしも。まあその研究は明日以降に回そう、今から始めると間違いなく時間を忘れて熱中してしまうだろうから。
最後に屋台の料理を買い込んで、ピカーシャと一緒に食べる。今日はおでんをチョイスしてみた。出汁だしがよく具に染みており、なかなか美味しおいい。ピカーシャも気に入ったようだ。
食べ終わったら宿屋へ向かう。龍の国の宿屋は、ベッドではなく布団で、部屋に畳が敷かれているという凝った造りだ。畳に座ると落ち着くのは日本人だからだろうか?
自分の布団にもぐりこんでくるピカーシャを眺めつつ、ログアウトした。



【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv11(←1UP) 〈蹴撃〉Lv48 〈遠視〉Lv59(←3UP) 〈製作の指先〉Lv78  
〈小盾〉Lv14 〈隠蔽〉Lv41 〈身体能力強化〉Lv62(←1UP) 〈義賊〉Lv35(←2UP) 
〈上級鞭術〉Lv5 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv39 〈上級鍛冶〉Lv36 〈薬剤〉Lv43  〈上級料理〉Lv15
ExP19
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者:青のピカーシャ(アクア)〈飛行可能〉〈騎乗可能〉〈戦闘可能〉〈魔法所持〉
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