トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
14 / 391
5巻試し読み

5-2

しおりを挟む


「アレがよつたけか……」
関所を無事通過し、しばらく歩くと街が目に入ってきた。
ちなみに、雨龍さんの正体は前もって関所に伝わっていたらしく、お役人が総員で頭を下げる騒ぎになるところだった。龍の国にあって龍という存在は王並みのお偉いさんになるようだ。
「どれも同じくらいの大きさだったこれまでの街と違ってな、四が武からは大幅に広くなっておる。そのぶん、人も仕事も多い。お主のように色々と物事をこなせる人間なら、むやみやたらと戦闘をせずとも、次の街への通行を奉行所に認められるようになるのも十分に可能じゃ」
雨龍さんがそう教えてくれる。
「なるほど……先に来た人は、とにかくモンスターを倒しまくって奉行所に認められたと聞いていましたが」
掲示板などで知った情報をぶつけてみた。
「それはそれで、治安維持行為として認められておるのじゃ。奴らは数が増えると強い個体をかしらにして街に攻め入ることがあるからのう、先手を打って問題を潰したことになるわけよ。特に強い奴を倒せば、それだけ安全にもなるじゃろう」
なるほどね、だから大物のモンスターを倒した人達は、あっさりと関所を通過することができたわけか……
「ぴゅぴゅ」
そのとき、頭に乗せている鳥の妖精ピカーシャの鳴き声が聞こえ、反射的に警戒態勢に入る。どうやら、イノシシタイプのモンスターが一匹、こっちに向かってきているようだ。ここには雨龍さんがいるが、今は龍の力を完全に封印しているから、その存在に気がついていないのだろう。
「ピカーシャ、ありがとうな。さっさと始末して街に入るか」
【チェーン・ウィップ】を取り出し、待ち構える。それはなんとなく鞭と蹴りで戦いたい気分だったからで、深い意味はない。
突進してくるイノシシに、鞭で《拘束》をかけて動きを封じる。そして〈上級鞭術〉のアーツである《引き寄せ》を発動。《引き寄せ》はコンボ専用のアーツで、《拘束》した相手を瞬時に自分の目の前まで引っ張れるという効果を持つ。間合いをある程度空けて戦う槍などを相手にするときに有効だ。
引き寄せたイノシシに対して、すかさず蹴り系スキルのアーツ、《ハイパワーフルシュート》を発動し、空中に蹴り上げる。
「ピギッ!?」
後はもちろん《大跳躍》で高くジャンプし、《フライ》で稼いだ滞空時間を生かして空中コンボエリアルに持ち込む。数回ほど牙を模した刃を付けてある【ファング・レッグブレード】による蹴りをイノシシにぶち込み、《エコーラッシュ》を仕掛けてその威力を反響させ、フィニッシュ。《拘束》対象が消滅した【チェーン・ウィップ】を回収しつつ、くるりと回って着地した。エリアル攻撃にはやはりロマンがある。
「ほうほう、そんな戦い方もできるのかえ」
ニンマリとこちらを見てくる雨龍さん。
「たまにはこういう動きをしておかないと、体がにぶるので」
適当な理由を答えておいて、再び街に向かって歩き出す。こうして、ようやく四が武に到着した。

四が武に入ると、確かに今までの街よりも道が広くなっており、たくさんの人が行きかっている。道の左右にはお店が多く並び、食べ物や薬の店、宿屋などがいくつもあった。
「まるでお祭りみたいだな」
これが自分の感想であった。
「これぐらいの大きさは、この先の街では普通じゃて。早めに慣れることじゃな」
雨龍さんがそんなアドバイスをくれる。まあ、しばらく街を歩けば自然と慣れてくるだろう。人間なんてそんなものだ。
「とりあえず今日から泊まる宿屋を探すか」
それなら、道行く人に聞くよりこの辺の商売人に聞くのがいい。
そう決めて、一番近い蕎麦屋そば やに入る。ここなら食事のついでに宿も探せるだろう。
「宿屋を探すのではないのかえ?」
蕎麦屋に入る自分を見て雨龍さんが不思議そうに声をかけてくるが、とりあえず入ろうと手招きをした。
「はい、らっしゃい!」
威勢のいい声で出迎えてくれたのはオヤジさんだ。
「らっしゃい、どうぞ!」
店員と思われる若い男性が、自分達がついた机の上にお品書きを置いていく。ふむ、お勧めになっている天ぷら蕎麦にしよう。
あめさんは決まった?」
街中で気軽に雨龍さんの名は出せないので、関所をくぐった後、雨さんと呼ぶように話し合っておいたのである。
「お主は何にするつもりじゃ?」
どうやら決まっていなかったらしい。自分はお勧めメニューにすると伝えると、雨龍さんはお品書きを閉じながら「ならわらわも同じものにするかの」と言ってきた。
「ではオヤジさん、お勧めを三人前、お願いします!」
「三人前?」と首をひねるオヤジさん。そこで自分はピカーシャを手の上に乗せ、この子の分です、と説明して納得してもらう。「そんな小さな体に入るのか?」との当然の疑問には、「自分より食べます」と答えておく。ピカーシャが自分の手をつんつんつついて、そんなことはないと抗議してくるが、事実だろうが……
しばらくのんびり待った後、「お待たせしました、天ぷら蕎麦三人前です!」と店員さんがお盆を持ってきた。
そして出された蕎麦を食べ終えて、お勘定を済ませた自分は、店から出る前にオヤジさんに声をかけた。
「どうしやした?」
オヤジさんが来てくれたところで、三が武の宿で預かった判子はんこを見せる。
「この判子と関わりがある宿をご存じないでしょうか?」
判子を見たオヤジさんは、アゴをさすった後に呟く。
「コイツは……間違いねえな、あそこの宿だろう……」
どうやら思い当たる節があるようだ。
「この店を出て目の前の道を右に行って、後はとにかくまっすぐ進むと、結構でかい建物が見えてきやす。その建物に入って、そこの番頭さんにこの判子を見せりゃええと思いますぜ」
街が大きい分、旅人だって多く集まるだろうから、宿屋も相当大きいんだろうな。
オヤジさんに頭を下げてお礼を言い、店を出る。
「ありがとうございやした!」
出て行く自分達の後ろから、オヤジさんの声が聞こえた。代金は一人前七八〇グローだった。ちなみに雨龍さんは自分の食べた分は自分でちゃんと出している。
「宿屋の場所も分かったことだし、さっさと落ち着きますか」
「そうするかの、宿で落ち着いたら、後のことを考えようかの」
雨龍さんの質問に頷きつつ、道を歩く。人通りは多いが、歩くのに苦労するほどではない。さすがに最大サイズのピカーシャが歩いてたら大迷惑になるけど。
蕎麦屋のオヤジさんが言った通り、しばらく行くとかなり大きめの建物が見えてきた。
「うーむ、今まで見てきた中でも大きいな」
「ぴゅ」
「わらわもこうして入るのは初めてじゃ」
いよいよ四が武での拠点となる見込みの宿屋の前に到着したが、その大きさにちょっと引いてしまった。立派な門、奥行きのある庭。一体ドコのお城ですか? と問いたくなるスケールである。しかし、突っ立っていても仕方がないので入ろうとしたところ、門の奥から四名ほどの男性従業員が出てきて止められた。
「申し訳ありません、当方は特殊な宿でして……お引き取りを」
ああ、俗に言う「お偉いさん御用達」ってことなのか? そう考えながら、懐に手を入れて例の判子を取り出す。
「この判子を番頭さんにお見せしてください。三が武の女将さんから渡された物でして、これを見ていただければ分かっていただけると思います」
そうすると、四人の内の一人が判子を手に取り、色々な方向から細かく確認し始める。
「――本物か?」
「わからん」
「一応確認をとるか?」
「こんな旅人がこの判子を預かるなんて可能性があるのか? またこの前来たような者達と同じではないか?」
なんとも不穏な雰囲気でぼそぼそっと話し合う従業員さん達。小さい声で喋っているけど、ばっちり聞こえてしまっているんですがね……
「精巧に作った偽物の可能性が高いだろうな、性懲しょうこりもない」
「十分にありうるな、人族の器用な職人が作ったのかもしれぬ。またひっかかるとたかをくくっておるのか」
「番頭様のお手をわずらわせても仕方ないのでは? ここは我々で」
「うむ」
あれま、そういう反応になりますか……こっちが聞いていたのを知ってか知らずか、向き直って判子をこちらに軽く投げてくる従業員さん達。ゆっくり曲線を描いた判子を、自分は慌ててキャッチする。
「この宿に泊まりたいがために小細工を重ねたようだが、無駄な努力だったな。早々に立ち去れ! これ以上手間をかけさせるなら、詐欺の罪で奉行所に訴え出るぞ!」
なぜこんなことを言われるのだろうか? 偽物とか言っていたが。とにかくこんな物言いをされるのなら、ここに居るべきではない。雨龍さんに目配せして、素早く後ろを向いた。長居は無用だ。
「ふん、そんな詐欺を働く己の薄汚さを恥じろ。そっちの女も、いい年をしておるくせに」
そんな声が後ろから聞こえたような気がした。
気がした、と表現したのには理由がある。というのも、直前まで空は雲ひとつない晴天だったというのに、突如一筋の雷光が落ちてきてとてつもない音がとどろき渡ったせいで、実際には何も聞こえなかったからだ。衝撃で地面は激しく揺れ、自分は立っていられずついしゃがみこんでしまう。一体、何が起こった!?
「――たわけはおのれらのほうよ。この者はそんな悪事は働かぬのにな」
非常に冷たい声色で、雨龍さんがボソッと呟いたのが聞こえた……直感が、「今は後ろを振り返ってはいけない」と教えてくれる。それに従い、地面の揺れが収まってから立ち上がり、ゆっくりと前だけを見てその場を立ち去った。
体全体に冷や汗と脂汗あぶらあせがじわりとにじみ出てくるほどの恐怖を感じる。
後ろが騒がしいのが非常に気になるが、直感が「まだ振り向くな、死ぬぞ」と教えてくれているので、振り向けない。しばらくはそのまま前だけを向いて歩き続け、死の気配が収まったところでへなへなと地面に座り込んだ。
ヴァーチャルリアリティVRの世界とはいえ、ここまで真に迫る恐怖を味わうとは。ホラー映画なんて目じゃない。
「どうしたのかえ?」
いつもの声色に戻った雨龍さんが声をかけてくるが……
「さ、さっき突然降って来た雷で腰が抜けた……」
こう取りつくろうのが精一杯だった。
「なんじゃ、情けないのう。お主は男ではないか、そんなことでは強くなれぬぞ? うん?」
雨龍さんはくすくすと笑うが、自分は本気で怖かった。恐らく口を滑らした従業員は……死んでこそいないかもしれないが、再起不能だろう。現実世界でも、落雷を受ければ人なんて簡単に死ぬ。地震、雷、火事、、と恐ろしいものの内の四つとして挙げられているくらいだ。
あの従業員のせいで、とんだ宿探しになってしまった。
「と、とりあえず他の宿屋を探そうか……大きい宿屋はダメだ、あんな奴ばっかりの可能性がある」
雨龍さんも「同感じゃな。あんな、見かけは豪華でも心のすさんだ宿はごめんじゃ」と言ってくれたので、小さめで良さそうな宿屋を探す。
二〇分ほど探すと、ほどほどに良さそうな宿屋が見つかった。
「いらっしゃいませ、二名様でしょうか?」
宿に入ると、女将さんとおぼしき人が確認をしてくる。まあピカーシャが数に入らないのはしょうがないだろうな。「二名です」と告げて空きがあるかを聞くと、幸い「ある」との答えだった。
「すまぬが女将、風呂はあるのかえ?」
風呂を気にするとは、やはり雨龍さんも女性ということか。女将さんは笑顔で「さほど大きくはありませんが……」と前置きした上で、風呂があると雨龍さんに告げた。
「雨さん、ここでいいと思うが、どうだろうか?」
「そうじゃな、問題なかろう。女将、世話になるぞ」
何とか、四が武で拠点となる宿を確保できた。案内された個室に入り、そこでようやくひと息つく。
「やれやれ、えらい目にあったな」
それはあの従業員達も同じだろうが……同情する気などない。
「ふん、身から出たさびじゃ」
「ぴゅぴゅ!」
雨龍さんの意見に、ピカーシャも同意しているようだ。正直なところ、客商売をする者の態度ではなかったからな……今日の話が周りに広がったら、あの宿屋は潰れるんじゃないか?
「まあ、雨龍さんやピカーシャの言う通りか。幸いいい宿が見つかってよかったけど」
ただ、問題はこれだよな……と判子を取り出してみる。
「捨ててもよいのではないか?」
雨龍さんはそう言ってくるが、あの三が武の女将がそんな変な物を渡すかな? 少なくとも、自分に害を与えて得をするとは思えない。そんなことを考えていると、ピカーシャが一枚の紙をくわえてきた。
「ぴゅ」
そして自分の前にその紙を置いて、ツンツンとつつく。
「判子を押してみろっていうのか?」
自分の言葉に、ピカーシャはコクコクと小さく頷く。
「そうじゃな、朱肉もここに備え付けてあるし、押してみるのもよいかもしれんぞ」
雨龍さんに差し出された朱肉に判子を当て、紙に押してみる。浮かび上がった文字は……
天龍てんりゅう?」
よく見ると、「天」の字の中央に非常に小さな昇り龍が彫り込まれている。これはだいぶ注意しないと間違いなく見落としてしまう。
「こちらを騙すにしても、これは手が込みすぎてないか? 雨龍さんはどう見る?」
「ふむ……少なくとも三が武の女将には、わしらをはめるつもりはないようじゃのう」
結局、余計訳が分からなくなってしまった。まあ龍の国を出る前にもう一度三が武に立ち寄って、判子を返却すればよいという意見にまとまった。
その後は風呂を満喫し、ログアウト。四が武でもトラブルが多発しそうな予感でいっぱいだ。
ちなみに、風呂は当然男女別であった。

翌日。ログインすると、布団から起き上がってあくびをする。
「おう、お目覚めかえ」
視線を横に移すと、雨龍さんがのんびりお茶を飲んでいた。ピカーシャは自分が入っていた布団の上でうつらうつらと舟をこいでいる。
「さて、今日も頑張りますか……の前に」
会社のお昼休みを利用して、昨日のことについて調べようと掲示板などを大雑把に眺めてみた。「偽物」「判子」で検索してみると、残念ながらヒットした内容があった。
「昨日のごたごたが起きた原因について、分かったことがある。どうも、数日前にあの宿屋に泊まってみたいという好奇心を抑えられず、判子の偽物を作って入った者がいるらしいんだ」
何のことはない、あそこまで悪意を持たれた原因は、プレイヤー側にあったというわけだ……
「わらわも少々調べてみたぞ。お主の言った通りで間違いないようじゃな。そのときの門番従業員は、偽物を見破れなかったためにそれなりの罰を受けた様子じゃ。だから新しい門番達は神経を尖らせていて、疑わしきは全て通さぬという考えに凝り固まっていたようじゃて。それを考慮しても、浅慮であったことは否めぬがの」
原因はプレイヤー側にあり、という部分は変わらないのだが……
「ま、もう過ぎてしまったことだから仕方がない。それにある意味、こうなってよかったのかもしれない。雨龍さんの正体がああいう大きい宿屋の従業員にばれたら、それこそ異様なもてなしを受けることになるだろうし、それではかえって疲れないか?」
「その意見は否定できんのう」
お互いの顔を見合わせ、頷く。
「だからこの先では、ここのようなやや地味めでお風呂がある宿屋に泊まろうと思うのだが、どうだろうか」
「そうじゃな、わらわも目立ちたいわけでなし、それでよいぞ」
「ぴゅぴゅ」
起きてきたピカーシャも同意しているようだ。
「とりあえず、今後の方針はそうするということで」
「では朝餉あさげじゃ」
「ぴゅぴゅ」
部屋を出て、宿屋の食堂に向かう。出された料理はそこそこおいしく、不満は特になかった。しっかりと完食し、「ご馳走様でした」と言って手を合わせると、宿屋の女将さんが「はい、お粗末様でした」とこちらを見ながら応えてくれた。なんとも丁寧な人である。
それから女将さんに出かける旨を告げて、鍵を一旦預ける。
「とりあえずは、街を見て回るか、それとも外に出て軽く肩慣らしをするかってところなのだが」
「ぴゅ」
「外に出ようではないか。街のほうは、必要ならわらわが案内すれば済む」
二人に聞くとこんな返事だったので、外に出ることに。雨龍さんがこの街を知っているというのならば、そちらのほうがいいからな。
矢の準備もして、いざ外へ。モンスター関連の情報はあえて集めていないので、どんな奴がどこにいるかは分からない。のんびりムードはおしまいにして、ちゃんと警戒を始める。
「一応、わらわに襲い掛かってきた相手はこちらで迎撃する。ワザとこちらにぶつけるような真似はせぬと信じておるぞ?」
ああ、完全に自分に任せっきりというわけではないのか。手伝いはしてくれないが、こちらの負担を故意に増やすこともしない。もしかして、これって「双龍の試練」の延長戦……? いや、さすがに深読みしすぎか? だが、現にゴロウは砂龍さりゅうさんに連れて行かれているし……
「まあいいか……」
いちいち考え込むのも面倒だ。今はばっさり切り捨てることにする。「龍の儀式」を目指している限り、雨龍さんが自分に変なちょっかいをかけてくることはないだろう……年齢を聞いたりさえしなければ、だが。気を取り直して、〈遠視〉を発動してモンスターの姿を探す。
(この付近は街の近くということもあってか、モンスターはぽつぽつといる程度だな……)
イノシシや、たまにゴブリンがいるぐらいだった。街に入る前にイノシシとは戦っていたので、今回はゴブリンにしよう。
まずは久々に使う《ホークショット》で、ゴブリンを遠くから狙い撃つ。一射目でこちらに気がついて駆け出してきたが、次々と自分が射る矢によって、接近戦になる前に崩れ去った。
(単体の強さは三が武と大して変わりはないか。だが今まで出会ったことがないタイプのゴブリンがいてもおかしくはないし、慢心はいけない)
ゆっくりと進みつつ、〈遠視〉で獲物を探す。そして見つけ次第、即座に射殺していく。それを一時間ほど続けただろうか。
(とりあえず街の近辺ではこんなものか……明日からはもう少し奥に踏み込んでみるべきだな)
敵を見つけては遠距離から一方的に射殺したため、今日はこちらの被弾はゼロ。こういうパターンにはまると、飛び道具というのは非常に強力である。
とはいえ、たけにもいたハンタータイプのゴブリンや魔法使いタイプのゴブリンと出会わなかったおかげであり、今日はたまたま幸運だったと考えておくほうがよいだろう。
「弓の腕は十分にあるようじゃな」
すっかり存在を忘れていた雨龍さんに声をかけられ、ビクッと体が反応してしまったのはご愛嬌あいきょう――正直に白状すれば、素でびっくりしていたのだが。
「『双龍の試練』に比べれば十分に余裕がありましたから」
何とか動揺を隠して答える。
「確かにのう。さて、今日はそろそろ引き揚げてよいのではないか?」
言われてみれば、かなり集中していたので、軽く疲れているかもしれない。ここは雨龍さんの言う通り引き揚げておくべきだろう。無茶をしたところでいいことは何もない。
「そうですね、今日はここまでにしましょう」
頭に乗せたピカーシャにも確認した後、街へと帰還する。帰還途中でモンスターを数匹見かけたが、十分に距離があったため戦いは避けた。一旦帰るという思考に入ったら、その後は必要でない戦いに臨んでもいい結果は出ないと考えているからだ。
途中で厄介なモンスターに襲われることもなく、無事宿屋に到着した。本番は明日からだな。


【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv26(←1UP) 〈剛蹴〉Lv2(←1UP) 〈遠視〉Lv68(←2UP)
〈製作の指先〉Lv86 〈小盾〉Lv16 〈隠蔽〉Lv46 〈身体能力強化〉Lv73(←1UP)
〈義賊〉Lv47 〈上級鞭術〉Lv15 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv42 〈上級鍛冶〉Lv40 〈上級薬剤〉Lv15 〈上級料理〉Lv36
ExP25
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者:青のピカーシャ(アクア) 〈飛行可能〉〈騎乗可能〉〈戦闘可能〉〈魔法所持〉
    〈風呂好き〉〈???の可能性〉
同行者:雨龍 〈基本戦闘参加不能〉〈基本戦闘支援不能〉〈基本戦闘妨害不能〉
    〈人型変化可能〉 〈風呂好き〉〈特定質問による凶暴化〉




 2

(やっぱり後半戦はそんなに甘くはないよな)
昨日よりも街から足を延ばした途端、これまでより強いゴブリンが襲ってくるようになった。遭遇したのは、ハイ・ゴブリンファイター、ハイ・ゴブリンアーチャー、ハイゴブリンマジシャン、ハイ・ゴブリンプリーストである。本当に、どいつもコイツも厄介なのだ。
まずファイターはミドルシールドを所持していて、盾でしっかりと身を守りながら距離をつめてくる。ゴブリンは体が小さいため、前面に構えられるとゴブリンの体のほとんどが盾の裏に隠れてしまう。お陰で矢がまともに当たらない。なので貫通力に優れた【ツイスターアロー】で無理やりぶち抜くか、《ソニックハウンドアロー》の振動でダメージを与えるしかなく、どのみち矢やアーツを多用することに繋がってしまうので、消耗が激しい。
アーチャーはなんと長弓を使用してくるため、射程の点でこちらが負けている。お陰で手痛い先制攻撃を何度も受けることになってしまった。こちらの狩弓の射程に入ったら撃ち合いになるのだが、ハイ・ゴブリンが放ってくる矢の勢いはかなりのものである。回避能力、盾での防御、【ピカーシャの心羽根こころば ね】による回避率アップ効果などなど、どれが欠けても苦戦する相手で、距離がある状態での弓攻撃は厄介だと痛感させられた。
マジシャンは、プレイヤー側も愛用している火魔法を中心に各種属性魔法を放ってくる、魔法攻撃特化のゴブリンだ。魔法、特に爆発する系統は、小盾で防御してもダメージをかなり受ける。そのため回避に失敗すると大ダメージを受ける――はずなのだが、どうやら自分が装備しているドラゴンスケイルシリーズは属性防御能力があるようで、幸い致死の一撃とはならない。それでも痛いことに変わりはないので、必死に魔法を回避する必要があった。
プリーストは、とにかく回復能力が高い。その上、支援能力と妨害能力も備えている。味方の防御力を上げる、時間経過による回復能力をつけるなんてのは当たり前で、こちらに対し、[鈍足]にする、[毒]を与える、軽度の[麻痺]をつけるなどなど、「お前聖職者プリーストじゃないだろう!」と言いたくなるぐらいえげつない。
それぞれが単独でも厄介なのに、こいつらが三匹ぐらいでPTを組んでいるとなれば、もうソロの自分では絶対に勝ち目がない。単体でうろついている奴だけ相手にして、二匹以上で行動している場合は逃げの一手に徹した。
そりゃ、ピカーシャに本来の姿で大暴れしてもらえば無双できるのかもしれないが、それでは自分の経験や修練にはならない。スキル上げというデータ的な意味ではなく、多種多様の相手と戦う経験を重ねて、プレイヤースキルを鍛えなければいけない。だからピカーシャのみならず、武器や防具、そしてアーツの能力に頼り切りになるわけにはいかないのだ。
自分のように物理攻撃も魔法攻撃も生産も行っていると、システム的な成長の限界点がかなり低い。であるなら、本人の腕を高める必要がある。
「大丈夫かえ? かなり辛そうじゃが?」
ついて来ている雨龍さんが声をかけてきた。
「キツイな……だけど、その分強くなっているのは間違いないから、問題はないということにしておく……」
半分やせ我慢ながらも、そう返答する。しかし、矢の残りが少々心許こころもとなくなってきた。相手が強くなったためか安定した体勢で撃てないので、攻撃ミスがかなり目立つために消耗が激しい。帰るときは最悪、全てのモンスターからガン逃げする必要があるかもしれない。
そうして帰還のタイミングを考えながら歩くうち、立派に手入れされた木がいくつも植えられている林に辿り着いた。同時に、切り株もかなり目立つ。
「そこで止まれ! 何者だ!」
そんな声が聞こえてきた方向に振り向くと、数名のお役人が刺又さすまたを構えつつ、こちらに近づいてくる。
「ここの木は龍の国により保護指定されている! それ以上近づけば、強制的に排除するぞ!」
そうか、ここが例の、四が武特産木材の植林地だったのか。
「了解しました、ここから動きません! お役人様、失礼ながらこちらに来ていただけませんか?」
自分がそう叫ぶと、お役人達は警戒を続けながらゆっくりと歩いてくる。自分は攻撃する意思がないということを示すために、弓と鞭を地面に置く。
「敵意はないようだな。無断伐採者ではない、ということか?」
お役人の問いかけに対して、素直に頷く。
「私はあくまで修練のために、ゴブリンをはじめとしたモンスターと戦っているだけです。戦いながら歩いていた結果、偶然ここに来たのです」
お役人達はひそひそと小声で相談した後、こちらに向けていた刺又をゆっくりと下ろした。
「あいわかった。お主の素直な態度と、変に逃げ出さなかった対応をもって信用しよう。だが、近頃ここの良木を盗み出そうとする愚か者が多数うろついているという情報があるのだ。こちらが警戒する事情も察してほしい」
ここに来たのは偶然だったが、仕事の邪魔をしてしまったか……
「いえ、こちらこそお役人様のお仕事を妨害してしまい真に申し訳ありません。早々に立ち去ります」
「うむ、できればもうここには近寄るな、賊と間違えてしまうかもしれぬゆえな」
幸い大きな揉め事にならずに済んだのだから、さっさとここを立ち去ったほうがよいだろう。四が武では色々とプレイヤー側がしでかしてしまったようだし、これ以上騒ぎを起こすのは非常にまずい。お役人に頭を下げて街に帰還することにした。
また間違えて来ないためにも、しっかりと地図に立ち入り禁止区域と記しておく。一刻も早く遠ざかるべく、帰り道での戦闘も最小限に抑えた。
「やれやれ、本当にあちこちで問題が出てきているな」
「木材の買い占めに偽物騒ぎと……面倒じゃのう」
人のプレイに文句は言えないが……どう動くかで他の人にここまで影響を与えるゲームは珍しい。でもだからこそ、「もう一つの人生」とのサブタイトルに偽りなしということなのか? この先の展開は予想できないな……


【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv29(←3UP) 〈剛蹴〉Lv4(←2UP) 〈遠視〉Lv70(←2UP)
〈製作の指先〉Lv86 〈小盾〉Lv20(←4UP) 〈隠蔽〉Lv46 〈身体能力強化〉Lv74(←1UP)
〈義賊〉Lv49(←2UP) 〈上級鞭術〉Lv18(←3UP)
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv42 〈上級鍛冶〉Lv40 〈上級薬剤〉Lv15 〈上級料理〉Lv36
ExP28
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者:青のピカーシャ(アクア) 〈飛行可能〉〈騎乗可能〉〈戦闘可能〉〈魔法所持〉
    〈風呂好き〉〈???の可能性〉
同行者:雨龍 〈基本戦闘参加不能〉〈基本戦闘支援不能〉〈基本戦闘妨害不能〉
    〈人型変化可能〉 〈風呂好き〉〈特定質問による凶暴化〉



 3

「今日はどうするのじゃ?」
翌日のログイン直後、待ちかねていたように雨龍さんが活動方針を聞いてきた。
「そうですね……今日は街を回っておきたいです。少なくとも矢の補充は必要ですし」
昨日使ったのは一般的な【鉄の矢】ばかりだった。いちいち自作するのも面倒なので、武器屋辺りで買えばいい。昨日の戦闘はちょっと疲れたから、一日ぐらい空けてもいいだろう……
「では、案内してやろうかの」
素早く身支度を済ませた雨龍さんが立ち上がる。
「で、行き先は盛り場でよいのかの?」
「何でそうなるんですか!」

    ◆ ◆ ◆

「つまらんのー」
歩いている間、雨龍さんがまだぶつくさ不満を言う。なぜいきなり盛り場なんて言い出したのかと一応質問したら、「男の趣味の一つだろう?」との返答が。
そういった場はあくまで、相当裕福な人の暇つぶし用なんだよ……冒険者はいつ大金を消費するか分からないのだから、財布の紐はしっかり締めておくほうがいいに決まっている。
「お主の言い分は分かるのじゃが……」
自分だって伊達に年はとってないのだ。若い頃に一度、のるかそるかの賭けに乗って痛い目を見ている。勢い任せで大金を賭けられるような無謀さはもうない。
「行くなら雨さん一人で行ってくれよ……」
ジト目でそう言っておく。相手が龍だろうが魔王だろうが、譲れない部分は譲れない。譲っちゃいけない。
「一人で行ってもつまらんのじゃ」
いいんだよつまらなくて……盛り場にはまり込んで身を持ち崩した奴は、自分の周りにもごろごろいる。本当に魔物だよ、あれは。
「いい加減諦めてくれ。で、武具関連のお店はまだなのか?」
「もう少しじゃ、あの角を曲がれば見えるぞ」
案内はちゃんとやってくれていたらしい。雨龍さんの言う通り、角を曲がるとそれらしい建物が見えてきた。その横には、やや小さいが鍛冶屋もある。修理依頼を受けやすいよう、連携してあきないを行っているのかもしれない。
「いらっしゃいませ、当店に御用でしょうか?」
店に近づくと、掃除をしていた丁稚でっちさんが声をかけてきた。
「矢が欲しいのですが、ここでは取り扱っていますか?」
「はい、大丈夫ですよ。各種取り扱っております」
自分の問いに、こんな返答があった。それを聞いて安心し、店の暖簾のれんをくぐる。
「いらっしゃいませ、矢はこちらになっております」
外での丁稚さんとの会話を聞いていたのか、中にいた店員がすぐに案内してくれる。
「基本的な木、石、鉄製のものがございます。少々割高ですが、鋼鉄製の矢も扱っております」
お値段も最初の街ファストなどと変わらない。【鋼鉄の矢】に少々惹かれたが、今回は【鉄の矢】を購入することにした。三〇〇〇本ほど補充したので、しばらくは大丈夫だろう。【鋼鉄の矢】を扱うのは、もう少し腕を上げてから、だな。
「ありがとうございました」
丁稚さんに見送られて武具のお店を後にする。さてお次は……と考えたところで足が止まった。
「よく考えたら、欲しい物がないな」
調味料はまだまだ十分余裕があるし、ポーションも数は揃っている。防具はそもそも買う必要がなく……
「ならば今度こそ遊びに行こうではないか!」
遊びたいんですか雨龍さん。久々に自作のハリセンを取り出し、遠慮なくスッパーン! とひっぱたいておいた。
「ぴゅぴゅぴゅ」
ピカーシャの鳴き声が上から聞こえる。多分笑っていると思われる。
それならば、と雨龍さんが改めて提案したのは、のんびりと歩き回りながら出店を冷やかそうというものだった。

    ◆ ◆ ◆

「こういう散歩も悪くないですね」
いくつか食べ物を買ってつまみつつ、のんびりと出店を見て回る。街で生活している人、働いている人の顔をしっかりと見たのは、もしかしたらこの世界に来て初めてだったかもしれない。
「お、射的があるようじゃの」
雨龍さんの声に目を向けると、そこには確かに射的の露店があった。景品をコルク銃で撃つのではなく、弓矢で的を射るタイプだ。そういえばこういう店って、江戸時代からあったらしいな。
「やってみてほしいのう」
まあコレぐらいの遊びならば出費としては可愛いものだからいいか。
「じゃあ、雨さんもやってくれ。こっちだけ恥をかくのも嫌だし」
雨龍さんは、むう、と可愛らしく唸る。それから「二人で挑戦します」と露店の主人にひと声かけ、三〇〇グローずつ支払う。渡された矢は二本。弓はおもちゃみたいなものだから、やっぱり感覚がかなり違う……当たるかどうかは五分五分かな。
「んじゃ、がんばれよ」
露店の主人であるおっちゃんがそう声をかけてくれる。ちなみに的中した場合の景品は小さなイヤリングだ。ま、お遊びなんだし値打ち物が出されるわけがない。こういうのは空気を楽しむものだろう。
「では、行くかのう」
雨龍さんが弓を構えて……矢を放ったけど……すかっ。矢は的の下に落っこちた。
「むう、もう一回じゃ」
そう言って再び矢を放つが、またもハズレ。矢は左側にそれて落っこちていった。
「ははは、残念だったな」
主人のおっちゃんの言葉に、ちょっぴり悔しそうな雨龍さん。
「ほれ、次はお主の番じゃ、はようせい」
「にいちゃん、がんばれよ〜」
なぜかニヤニヤと自分を見てくる店主のおっちゃんをスルーして、弓を構える。
(うう〜ん、やっぱり普段と感覚が違う)
あんまり悩んでもしょうがないので、とりあえず一射目……へろへろ〜っと飛んだ矢は、ぎりぎり的に届かずに落ちた。
(うーん、あんまり引くと弓がいかれるかもしれないし……)
弁償なんてゴメンこうむる……遊びなんだからムキになってもしょうがないのだが、やっぱり普段から弓を使っている者としては悔しい一面もある。自分の感覚で引き方を修正しながら、弓が耐えられるぎりぎりと思われるぐらいにおもちゃの弓を引いて……二射目を放った。
ひゅん……とすっ。
と、的の下のほうではあるが何とか矢は届き、的に突き刺さった。
「おおっと、コレは参ったな〜、にいちゃん、やるねえ」
商品のイヤリングを取り出しながら声をかけてくる店主のおっちゃん。自分は一応、弓を使って戦うことが本職なので少し悪い気もするが……
「よしよし、ようやった!」
そんな風になぜか嬉しそうに雨龍さんが言っているので、深く考えないことにした。
貰ったイヤリングは自分が持っていてもしょうがないので、雨龍さんにプレゼントしておく。まあおもちゃなのだが、記念品にはなるかもしれない。こうして街中でのんびりした後、宿に戻ってログアウト。こういうプレイをする日もあってよいだろう。

前日のリフレッシュ効果に加えて、今日は現実リアルの仕事も上手く片付いたので調子がいい。
「一昨日とは逆の方向へ足を延ばしてみようか」
調子がいいときはその勢いに乗ったほうがいい。雨龍さんも特に文句はないようで、すんなり活動方針が決まった。早速街を出て、警戒しながら歩いていくと……僅かにがざがざと足音がする。ぱっと周りを見渡すが何もいない。
(――見えはしないが、間違いなく何かがいる、な)
《危険察知》には引っかからないが、〈遠視〉で音がしたと思われる方向を凝視すると、微妙ながら景色がゆがんでいる奇妙な場所を見つけた。
(隠れるモンスターはいちたけにもいたが……ゴブリンバージョンか)
間違いなく〈隠蔽〉をしているモンスター、ゆがんでいる輪郭の大きさからして、恐らくはゴブリン系統だろうと予想をつけて弓を構えた。《危険察知》に引っかからないのは、こちらのスキルLvよりゴブリン側の〈隠蔽〉のレベルが高いからだろう。気に入らないが仕方がない、とっとと引きずり出す。隠れている存在は、明らかにこっちに近づいてきている。その胴体部分に向けて矢を放った。
「ギェヒッ!?」
大当たりである。矢が突き刺さった痛みで〈隠蔽〉を解除したゴブリンが、転がりながら姿を現した。名前はハイ・ゴブリンアサシンか……偶然音に気がつくことができなかったら、恐らく背後をとられていただろうし、最悪一撃で即死させられた可能性もある。
(こういう手合いは一匹いれば……)
転がり出てきたゴブリンアサシンに確実にとどめを刺した後、〈遠視〉と《危険察知》を用いて慎重に周りを見渡す。相変わらず《危険察知》には何も引っかからないが……
(一、二、……四か。まずいな、《危険察知》が使い物にならなくなっただけで、これだけ状況把握能力が落ちるのか。仕方ない、今回はピカーシャに頼らなければやられてしまう……)
隠れる技術を自分も持っていたのに、それをモンスターが使ってくるという可能性を無意識に除外していた自分の失態。だが、気がつくことができた以上、手遅れではない。失敗は反省して今後に繋げればいいだけの話。
「ピカーシャ、二・五メートルモードに! 雨龍さん、すまないがピカーシャに乗って!」
一旦距離をとって、一匹ずつ始末するしかない。自分の頭から飛び降りたピカーシャは一瞬にして大きくなり、その背中へ自分と雨龍さんが飛び乗る。
「ぴゅー!」
「ほう、これはもふもふじゃのう」
ゴブリンとはいえアサシンに狙われているのに、のんきな雨龍さん。
「雨龍さん、落とされないでくださいよ!」
ピカーシャに頼んで、ゴブリン達のいないほうに向かって走り出す。少し走った後、向きを変えて敵が自分の左側に来るように位置取りを調整する。そう、ちょうど流鏑馬やぶさめのような形だ。
(一撃当たれば姿を現すはず。難易度は高いが、高速移動しながら攻撃するにはこの方法が一番有効だ)
しかしピカーシャは走っているので当然ながら揺れが生じ、狙いがなかなか定まらない。数本矢を射るがことごとく空を切る。それだけではなく、一本撃つごとに体がぐらぐらと揺れる。後ろに乗っている雨龍さんが支えてくれていなければ、間違いなく転落していただろう。
ゴブリンアサシン達は、こちらを襲うのは諦めて撤収する動きを見せ始めた。このままでは逃がしてしまう。あまり深追いするのはまずいが、せめてあと一匹は倒したい。だが、こんなに狙いが定まらない状態ではそれも無理か。
(やはり無茶だったか! ぶっつけ本番でやることじゃなかった……)
次々と矢を射掛けるが、ことごとく外れた上に、バランスがどんどん崩れていく。雨龍さんもこれ以上は支え切れそうにないし、ピカーシャも非常に走り辛そうだ。
「ピカーシャ、もういい、これ以上の追跡はやめよう。深追いすれば囲まれるだけだ」
そう告げると、ピカーシャはすぐさま反転し、街に向かって走り出した。こちらが撤収を始めたことを確認したのか、ゴブリンアサシン達も速度を落としつつ、そのまま引き揚げていく様子である。
「ピカーシャ、すまない……騎乗しながらの射撃がよもやここまで難しいとは……」
街へ帰る途中で、その背中の上からピカーシャに謝っておく。ピカーシャは戦闘の途中から走る速度を落として揺れを抑えてくれていたのだが、それでも結局は一発も矢を当てられなかったどころか、転落する寸前だった。雨龍さんがいなければどうなっていたことか。
「まあ仕方ないじゃろう、修行もなしにいきなりやってできるほど、簡単なものではないからのう……転げ落ちずに済んだこと、感謝せいよ」
雨龍さんの慰めと指摘が入る。まあ言われてみればその通りで、騎乗中の射撃技術なんて、それなりの修練を積まなければそうそう身につくものではないだろう。それを今のことで痛感させられた。
「じゃから、しばらくはこの鳥に乗せてもらったまま弓を扱ってみてはどうじゃ? 何事も経験と慣れの積み重ねじゃ、いい修行になると思うがの?」
「ぴゅいぴゅい」
確かにそれもありだな。人馬一体……という言葉をピカーシャで使っていいのかははなはだ疑問ではあるが、せっかく弓を使っている以上は修練する価値も十分にあるか。あのゴブリンアサシン達を見破る修練も兼ねることもできる、悪くないな。
ピカーシャも協力してくれる雰囲気を出している以上、この提案に乗ることにしよう。
「そうすることにしましょう、ピカーシャ、それでいいか?」
「ぴゅいぴゅい♪」
「よいぞよいぞ、向上心を忘れてはならぬ」
どうやらピカーシャも許してくれたようなので、明日からは騎乗しつつの弓攻撃がメインになりそうだ。この際だから、貪欲どんよくに可能性を広げよう。
今回は一が武周辺で暴れたときとは状況が違う。あのときのピカーシャは、攻撃する際はほぼ静止状態だったし、モンスター達もピカーシャに脅えて動きが鈍かったから矢を当てられた。だが今度はピカーシャはそれなりの速度で走り、モンスターもしっかり構えている。この状態で当てられることができたなら、かなりの強みになりそうだ。
狩りとしては散々な結果に終わってしまったが……新しい目標が出来た分、無駄にはならなかった。明日も頑張ろうか。


【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv31(←2UP) 〈剛蹴〉Lv4 〈遠視〉Lv71(←1UP) 〈製作の指先〉Lv86
〈小盾〉Lv20 〈隠蔽〉Lv46 〈身体能力強化〉Lv75(←1UP) 〈義賊〉Lv50(←1UP)
〈上級鞭術〉Lv18 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv42 〈上級鍛冶〉Lv40 〈上級薬剤〉Lv15 〈上級料理〉Lv36
ExP33
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
同行者:青のピカーシャ(アクア) 〈飛行可能〉〈騎乗可能〉〈戦闘可能〉〈魔法所持〉
    〈風呂好き〉〈???の可能性〉
同行者:雨龍 〈基本戦闘参加不能〉〈基本戦闘支援不能〉〈基本戦闘妨害不能〉
    〈人型変化可能〉 〈風呂好き〉〈特定質問による凶暴化〉
しおりを挟む