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5巻試し読み

5-3

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ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ……ビッターン!
「ぐが……」
それから数日間は、雨龍さんの指導の下、ピカーシャに全力の八割程度で走ってもらいつつ、騎乗状態で弓攻撃を行う特訓をしている……のだが、またピカーシャから落下してしまった。
あと、Lvが50になった〈義賊〉のスキルは、ExPを10消費して上位の〈義賊頭ぎぞく がしら〉に進化させた。それによって常時発動パッシブアーツが増えたのだが、その説明はいずれ。
「い、痛い……」
ピカーシャから落ちた衝撃でヒットポイントHPが三割ほど減っていたので、自作のポーションを飲んで回復する。
「ダメじゃダメじゃ! バランスがとれておらぬ! そんなことでは落ちて当然じゃぞ!」
雨龍さんの厳しい指導が飛ぶ。どうにも弓を構えるとき、重心がやや後ろに動くようで、ふとした衝撃で簡単にピカーシャから転がり落ちてしまう。
「ぴゅい〜……」
ピカーシャも心配そうに自分を見てくるのだが……
「も、もう一回だ」
そう言って、再び背中に乗せてもらう。乗馬の経験でもあれば、もっと早く感覚を掴むことができるのかもしれないが、今はとにかく、乗って、構えて、転がり落ちて、修正する、その繰り返し。周りから見たら実に無様ぶざまなんだろうが、そんなことを気にしていたらこの技術をモノにできない。恥は先払いしておくほうが結果として上手くいく、というのがこれまでの人生経験から自分が得た答えである。
「しっかり構えんか! そんな弱い矢で獲物は狩れぬぞ!」
そして上手くいかずに苦戦する自分を見て、雨龍さんが指導を始めてくれたのだが……
「もっとよく狙わんか! そんなことでは命中なぞせぬぞ!」
鬼教官と化した雨龍さんからひたすら叱責が飛んでくる。どれもこれも、問題点を正確に指摘しているため、反論の余地がない。むしろここで反論しようものなら「上官に口答えできると思っているのか!」なんて言葉が飛んできても全く違和感がない。
びったーん! ごろんごろん…… ぼてっ ドシャッ!
などなど、ピカーシャから落下した各種サウンドエフェクトSEを延々と自分の体で奏で続ける。リアルだったらもう死んでいるか、全身ぼろぼろになっていただろう。ピカーシャも速度を出して走っているためによく揺れる。その状態を体に覚えさせて矢を放つタイミングを会得しなくてはいけないのだ。だが、今日も大きな成果は得られなかった。
本日の修練が終わりとなり、ピカーシャは速度を落としてゆっくりと歩く。なぜかぷにっぷにっぷにっ、と一歩ごとにピカーシャの足元から気の抜ける音が聞こえる。何か変な物を踏んだのかもしれない。
「なかなか上手くはいかぬがのう、だが誰も最初はそういうものじゃ、投げ出さぬことが重要じゃぞ?」
確かに、乗馬の経験が一切ない自分が、特訓を始めてからたったの数日ですぐに技術を身につけられたら、他の人はたまったものじゃないな。簡単に諦めずに根気よくやらないといけないのはゲームでも一緒だ。
そういえば、どこかのゲーム製作者が言っていたな……最近のゲームプレイヤーには根気がない人が増えていて、ちょっと詰まるとすぐに投げ出して売ったりする人が増えたと……そんな人達の仲間入りはしたくない。
「分かっているよ、雨龍さん……可能性を自分から捨てるのはもったいない」
投げ出したい気持ちがないわけではないのだが……そういう気分になっているときこそ踏ん張り所である。ましてや、雨龍さんが指導してくれていなければ悪いところに気がつけない可能性もある。せっかく手助けしてくれる人がいるのに諦めてしまうのは下策だ。それに、ゲームとはいえ自らの体を使って体感しているに等しいVRの世界だから、ここでの修練がリアルの思わぬところで役に立つ可能性もある。
「とはいえ、まあ初日に比べればマシにはなってきておるぞ」
初日は走るピカーシャから振り落とされないようにするのが精一杯で、やっと弓を構えた途端にすってんころりん。雨龍さんが苦笑して、ピカーシャに心配されるほどの見事な落下シーンを決めてしまっていた。今は曲がりなりにも矢を放てるようになった分、マシになったのは事実だろう。だが、当然ながら本番の狩りで使えるレベルではない。
「ともかく毎日の積み重ねじゃ、よいな? 諦めた時点で永遠に可能性は閉じるということを忘れるでないぞ」
リアルで似たようなことを言われたような……本当にこの世界は、もう一つの人生に近づいてきているのではないだろうか。実際、たかがゲーム、という見方は既にかなりのプレイヤーができなくなったようだ。近頃では、ノンプレイヤーキャラNPC、というかワンモアこの世界の住人とPTを組んでみたという報告を専門にする掲示板も生まれている。
「ぴゅいぴゅい」
自分を慰めるようにひと鳴きして、すりすりと頬ずりをしてくるピカーシャ。こういう気遣いはなかなかありがたい……これのおかげで明日も頑張ろうと思えるし、投げ出さずに済んでいるのだろう。今日は宿屋に戻って、また明日だ――とシリアスに決めたいのに、ピカーシャの変な足音で気が抜けてしまう。後で足の裏を見てみないと。

【向こうの世界の人と仲良くなるための掲示板No.3】

1:名無しの冒険者 ID:423cvDe2d
この掲示板はワンモアの世界の人々と仲良くしようという人が
集まる掲示板です

2:名無しの冒険者 ID:v2c8g7fgr
注意点。
1つ目、きちんと礼儀を持って接しよう
2つ目、NPCではなく、ちゃんと一人の人間だと認めよう
3つ目、PTを組んで戦闘を行ったとき、見捨てるような行為は厳禁
4つ目、彼らは力尽きると5分間のうちに蘇生しないと永久に死亡する
5つ目、彼らには彼らの生活サイクルがある。呼べば来る道具ではない

3:名無しの冒険者 ID:2cv7bFceI
スレ立て&テンプレ作成お疲れ

4:名無しの冒険者 ID:c5vc7gSDc
おつー

5:名無しの冒険者 ID:c25c7gDSe
で、みんなどうよ? 仲良くなれた?

6:名無しの冒険者 ID:c2xc7gRxc
こっちはぼちぼちかな……何とか多少は信頼を得てきたかなぁ

7:名無しの冒険者 ID:2x7vUYrvc2
最初はバリバリに警戒されるからな〜

8:名無しの冒険者 ID:xSG25e5xc
彼らは戦闘中にやられるとほぼ死亡が確定するし……

9:名無しの冒険者 ID:23s7BTydE
5分って長いようでいて、実際の戦闘中では短いよな

10:名無しの冒険者 ID:35jnRTUto
必死で蘇生したよ……
幸い、あっちの人用の蘇生薬は薬屋で買えるからな

11:名無しの冒険者 ID:Az2qCrtTb
俺達の蘇生方法は未だないけどなw

12:名無しの冒険者 ID:LOk2ioPga
俺達はまだいいじゃん。
あっちの人は死亡=完全終了だぜ?

13:名無しの冒険者 ID:238nDqsxa
冒険に出るリスクが段違いに高いよな、向こうの人達って

14:名無しの冒険者 ID:JKh2kVe7r
だから気楽に誘うわけにいかんのがなぁ

15:名無しの冒険者 ID:V5d3dcDew
そこらへんは分かるんだけど、どうにも警戒されてるのはなぜ?

16:名無しの冒険者 ID:VC2x7gEcg
さあ?

17:名無しの冒険者 ID:2cJHk5v21
俺もそれは思った

18:名無しの冒険者 ID:4f5dGGd4w
龍の国が来てから、警戒される割合が一気に高まってない?

19:名無しの冒険者 ID:Ok2hKtfZ1
あ、やっぱりそう思う? 龍の国実装後から

20:名無しの冒険者 ID:f5HUI1vgr
誰かが何かやったんじゃ?

21:名無しの冒険者 ID:g5fdDdfRw
……ありうる

22:名無しの冒険者 ID:Ih52tr7fb
ちょっとまてよ、そいつが何やったか知らないけど、俺達無関係ジャン?

23:名無しの冒険者 ID:23h9j5Tvw
だよなー

24:名無しの冒険者 ID:7j14kTg1r
そうだよな

25:名無しの冒険者 ID:2h7jWswvh
いや、もしかしたら向こうの人達専用の情報のやり取りがあるんじゃ?

26:名無しの冒険者 ID:2g7bMJgh4
ああ、それはあってもおかしくないか

27:名無しの冒険者 ID:32g87kTvr
データの共有とかはあるかも

28:名無しの冒険者 ID:5v1h4hREf8
向こう専用のやり取りの可能性は否定できないな

29:名無しの冒険者 ID:5hWf8t4cv
お前ら、考えをちょっと変えてみろ

30:名無しの冒険者 ID:2gf7nJr12
あん?

31:名無しの冒険者 ID:Az2c7rEgf
考えを変えるって?

32:名無しの冒険者 ID:Bv5t8gEx7
ああ、なんとなく分かった
俺達を外国人、向こうを日本として考えてみようってことか?

33:名無しの冒険者 ID:lbf2h7TfY
鋭い奴がいて助かる
外国人が日本に来て、何か大きな迷惑行為を何回かやったとするだろ? 
そうすると当然、その国の人ってだけで警戒をするようになっていくだろ

34:名無しの冒険者 ID:32v9hJ1ed
そういうことか、分かった

35:名無しの冒険者 ID:2d7hH41wC
おいおい、そうすると色々まずいんじゃねえ?

36:名無しの冒険者 ID:kcmvgf1e2
手遅れではないだろうけど……
龍の国で木材の買い占めやったプレイヤーとかいたらしいし

37:名無しの冒険者 ID:2b7nGdf1e
その木材は本来、龍の国の人も使うんだろ?
お金を出して買ったとはいえ、そりゃ恨まれるわ

38:名無しの冒険者 ID:Az5df7Qx5
まさにもう一つの世界だな……
プレイヤーはプレイヤーとして、見えない連帯責任を背負わされてる
ってことになるのか?

39:名無しの冒険者 ID:5c6gfEDii
ありうる

40:名無しの冒険者 ID:kxmed5f7E
ここの運営ならやるな、それは

41:名無しの冒険者 ID:cv5g45ec4
攻略組ってこういうこと考えてんの?

42:名無しの冒険者 ID:Pj2b8Otvc
分からん

43:名無しの冒険者 ID:3g9h7Rcqa
多分考えてない……奴が多数かと

44:名無しの冒険者 ID:Ph2g7Pg21
実際、固定PTばっかりだと身内がよければー、ってなっていくことが
多いっぽい

45:名無しの冒険者 ID:5d6gRFdse
実際あっちの人とPT組むのって、
俺達みたいにのんびりでもいいかーって人がメインじゃね?

46:名無しの冒険者 ID:FV2dfHt77
PT組めると、下手なプレイヤーよりはるかに強いんだがなぁ

47:名無しの冒険者 ID:Az3fd7QWa
そりゃそうでしょ、やられたら死だぜ?
こっちと違ってガチに決まっている

48:名無しの冒険者 ID:g5v7m8fg3
ライトノベルにあるようなデスゲームか

49:名無しの冒険者 ID:2c45He1ce
そうじゃない、あちらの人にとっては俺達が幻の存在で、
あちらの世界がリアル

50:名無しの冒険者 ID:X23ds7vcY
だから力尽きたら死、ってことか

51:名無しの冒険者 ID:2ov87rDCe
PTの一人死なせちゃったとき、NPCの子達が大泣きしてた……
軽いトラウマになったよ

52:名無しの冒険者 ID:82x\g3sd5
死に別れだもんな……

53:名無しの冒険者 ID:N21j7vRcw
俺達だって、立場が逆なら泣くよな

54:名無しの冒険者 ID:oGTvb1rcr
泣かないかもしれないが、気持ちは理解できる

55:名無しの冒険者 ID:S5c7rDc22
まあ分かるからこそ、ここにいるんだけどな

56:名無しの冒険者 ID:x2bT21yXe
分からない奴は来ない板だからな

57:名無しの冒険者 ID:bg1rtYf1e
全くです

58:名無しの冒険者 ID:Az2d7dEWx
蘇生薬でできる限り蘇生を

59:名無しの冒険者 ID:krV54e7ce
そもそも無茶させんな

60:名無しの冒険者 ID:5x7cFW12x
罠とか不意打ちとかもあるから……

61:名無しの冒険者 ID:Zc547cExc
幸いなことに、薬をかければいいからね……

62:名無しの冒険者 ID:7gh2fSDed
蘇生に失敗して、灰になるなんてことはないからなぁ

63:名無しの冒険者 ID:g4d7cExve
おっさんが一人いるぞw

64:名無しの冒険者 ID:Qas5c7EWx
すぐに分かるお前さんもだろw

65:名無しの冒険者 ID:7vJ2c5dCe
はいはい

66:名無しの冒険者 ID:Az5d7dEWc
それは一旦おいといて

67:名無しの冒険者 ID:6c7b5d5d5
なんだっけ?
とにかく最近特に警戒されてるってところから脱線したんだっけ

68:名無しの冒険者 ID:XC2w65xVe
たぶんそう

69:名無しの冒険者 ID:Bc57rtCTT
とは言ってもなぁ

70:名無しの冒険者 ID:d24g5ecxB
簡単に信用を取り戻せたら苦労しないよね

71:名無しの冒険者 ID:F21h7fGHe
得るのに10年、失うときは一瞬、それが信用

72:名無しの冒険者 ID:AsdxeSa7A
うわ、重い

73:名無しの冒険者 ID:H2tIv4dc8
でも事実だな

74:名無しの冒険者 ID:63xVswAZS
ぶっちゃけ、こっちの世界の人でもいい奴はいる、
って分かってもらうってところが限度じゃない?

75:名無しの冒険者 ID:47REd12wX7
その辺だろうな……
皆が皆あっちの人達と友好を深めたいわけでもないだろうし……

76:名無しの冒険者 ID:1cGe41dTed
自分の用事が済ませられれば十分って人も多いからな

77:名無しの冒険者 ID:BG1d5cVGHr
壮大な落とし穴がありそうで怖いんですが

78:名無しの冒険者 ID:a5x7eV1we
バカやめろ、それはフラグだ!

79:名無しの冒険者 ID:VB17eCvwe
その後、78の姿を見たものはいない

80:名無しの冒険者 ID:a5x7eV1we
俺かよ!?

81:名無しの冒険者 ID:2x7Kf2v7r
はいはい、漫才はいいから……実際どうするよ

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477:名無しの冒険者 ID:Ug2v7Ed1e
結局いい案は出ないな……

478:名無しの冒険者 ID:cvSx1dWAz
ぽんぽん出るわけない

479:名無しの冒険者 ID:5Fv547rVc
結局は個人個人が地道な行動をしていって、
自分の周りにいる人達だけでも考えを変えていく、って感じだよな

480:名無しの冒険者 ID:xP2f7c4e1
だよなぁ、一発逆転なんて存在しないテーマだし

481:名無しの冒険者 ID:Ug2f7Te1c
戦争起きないよね??

482:名無しの冒険者 ID:DC41t7hWC
戦争?

483:名無しの冒険者 ID:21c832r32
戦争って?

484:名無しの冒険者 ID:Ug2f7Te1c
こっちの世界の人お断りなんて展開……

485:名無しの冒険者 ID:C2e2d4cve
……え

486:名無しの冒険者 ID:H102cv4Jr
それはさすがに……

487:名無しの冒険者 ID:G1d85cexR
やべ、否定できない

488:名無しの冒険者 ID:fg5dGe1xr
いや、まてよ!? それじゃサービスが終わっちまうだろ!?

489:名無しの冒険者 ID:F412g3ds7
じゃあ100%否定できるか?

490:名無しの冒険者 ID:Ov5v7Kb1r
ここの運営、資金の出所が不明なんだよな……

491:名無しの冒険者 ID:c7cHd2gve
もしプレイヤーが消えてサービスがいつ終わっても問題ないとしたら

492:名無しの冒険者 ID:V21hj7vDd
おいおい、それこそまさかだろ

493:名無しの冒険者 ID:G1e23dEAQ
ゲームサービス終わったら何が残るんだよ

494:名無しの冒険者 ID:Nbv1hBVce
学習したAI達とそのデータ……

495:名無しの冒険者 ID:Yh2v7dRrf
あ……

496:名無しの冒険者 ID:Zx27eFc1e
深く考えるとやばくね?

497:名無しの冒険者 ID:C5rt7vedf
……やばいな

498:名無しの冒険者 ID:Jf5f7Lv1r
ここのAI達が蓄積したデータを色々と転用したら……

499:名無しの冒険者 ID:Ub52f7rTc
あれ? ガチで今すぐに終わったとしても運営は痛くもかゆくもない!?

500:名無しの冒険者 ID:V1f7g4gEe
やな方向に真実味がでてきちゃったぞ、おい

501:名無しの冒険者 ID:7c32hYf2C
じゃあ、俺達だけでも何とか仲良くなってないと

502:名無しの冒険者 ID:jcyur54v3
ああ、マジでまずいかもしれない

503:名無しの冒険者 ID:Kb1rWESw7
この話を広めておく?

504:名無しの冒険者 ID:Nbv2f6cEq
一応やっとくべき?

505:名無しの冒険者 ID:F2132edc7
どうだろ……

506:名無しの冒険者 ID:2xcGd1vGR
そんなことあるわけねーだろ、で一蹴されないか

507:名無しの冒険者 ID:H12cf1vr5
されるよねえ……

508:名無しの冒険者 ID:Az57cEwx1
とりあえず、雑談板に貼っとく?

509:名無しの冒険者 ID:cf1238eDx
それが限度だろうね

510:名無しの冒険者 ID:Ub21c7rc
攻略板の話題とは別口……だろうし

511:名無しの冒険者 ID:1Lvb6c89e
あそこは特例のアイテムがもらえる、とかじゃないとダメだろうし

512:名無しの冒険者 ID:Uv27Eds1w
アイテムとかそういうのが目的じゃないからなコレは

513:名無しの冒険者 ID:POP7cEcxe
そこが悩ましい……

514:名無しの冒険者 ID:FD7c2rTGc
妄想乙、と言われても割り切って行動していく、しかないね

515:名無しの冒険者 ID:Ofv7fdEey
それが結論か……

516:名無しの冒険者 ID:Dcx417rCe
「もう一つの世界」の名に偽りなしか


 ――???――

私は九つのうちの七番目の存在として生まれた。六番目を姉とするよう設定され、今まで生きてきた。
大きく強靭な体。空を飛び、魔法を扱える能力。モンスターと戦っても傷一つ負わず、私が圧倒してしまう。もっとも、姉を含めた他の八つの存在も強いのだけど。
街を歩けば多くの人々が手を振ってくる。自分が特殊な立ち位置にいることはすぐに理解できたので、時々声をかける……私の声は人の言葉にはならないけれど。
ふらふらっと草原を散歩していたときに、死にかけた人を救ったこともそれなりにあった。助けた中には熊もいたな……あの子も今は強くなった……私ほどじゃないけれどね。
時々、その大きな背中に乗せてくれ、と言われることもあった。乗せてくれと頼んできた人の中にはこの国の王も含まれていた。だけど私たちは、よほど大事なときか、気に入った人でない限り背中に乗せることはしなかった。
乗せること自体は問題ないのだ。彼らが五人ぐらい乗ったところで、私には何でもないのだから。
でも、だからって、便利な移動手段という一方的な見方をされるはイヤだった。ある王は「お前達は我々に養ってもらっているのだから、協力しろ!」とふんぞり返っていたっけ。冗談じゃない、出されたご飯は無駄にしないように食べているだけで、ないならないで、私達は自分で狩りに行けばどうにでもなる。
結局その王は、私達九人の内の誰にも乗ることができなかったっけ。私もだけれど、他の八人も容赦なく突っついたり、弾き飛ばしたりして拒絶してた。顔を真っ赤にして魔法を撃ってきたりもしたけど、それで本気? と言いたくなるほど弱かったなぁ。水魔法で作った極薄のベールを壁代わりにしただけで、ぜーんぶ私には届かなかった。他の八人もそれぞれの方法で寄せ付けなかったし。
そんな風に、力ずくで私達を従えようとする王はその後にも何回も出てきた。逆に、きちんと私達と触れ合おうとする王もいた。力ずくには力ずくで、触れ合いには触れ合いで返答をし続けて……もうどれぐらい経ったんだっけ? 自分の歳なんかもう忘れちゃったな〜……もう立派なおばあちゃんになってるんだよね、きっと。でも私の体は衰えるどころかもっと丈夫になって、しなやかさも兼ね備えた。乗せた人を包んで落とさないようにする技術も、もう完璧だ。
街では知っている顔を見なくなり、逆に知らない顔が増えてゆく。時間が経っているってことなんだよね。親しかった子のお葬式に並んだことだってもう数え切れない。そのときに「神鳥のお見送り」なんて言われるのは鬱陶うっとうしいのだけれど……それでも、最後までしっかりと見送りたいから顔を出した。聞けば姉さん達もそういうところは一緒だったみたい。
そんなことをいっぱい繰り返して……更にいっぱいお日様が昇って月が昇って……あるとき私達九人はこの国の女王に呼び出された。
「貴方達九羽の内のどなたかに、背中にある人を乗せてこの城下町まで連れてくるお仕事をお願いしたいのです」
なんて言われて、訳がわからず顔を見合わせる私達。
「その方は、私を打ち破ったあの方です……」
この女王の言葉を聞いた瞬間に私は興味を引かれた。そう思った瞬間、私は一番最初に立候補した。
ずっと気になっていた。あの子は私を見て、どういう反応をするんだろう、どう接してくるのだろう? って。友達のうりぼうから聞いた話では、あの人は乱暴者じゃなく、ゆっくり毛皮を撫でたりしてくれるし、不思議と優しい感じがする人らしい。
「分かりました、では貴女にお願いします」
女王のひと言で決定した。後ろを振り向いてみれば、八つの存在はよろしく頼むとの意思を送ってきた。
そうしてその子が来ると予想される日が来て、私は待機室でのんびりと待っていた。もうどれぐらい長い時間を過ごしてきたのか分からない私にとって、待つというのは日常。なのに不思議とそわそわする……ううん、この気持ちは何だろう。
やがて、いっぱいの人達が城下町に入ろうと門の外に並び出した。へぇ、顔が結構違うんだね、羽とかもないようだし……本当にこの国とは全く別の子達なんだ。
門を潜ると、「ついに来たぜー!」とか「やっほー!」とか「新天地〜!」とか叫ぶ子も結構いて、微笑ましかったなぁ。まるで近所の子供を見ている気分になったっけ。
そんな新しい子達をのんびり眺めていると、この国を管理している人の部下が、私のいる待機室に入ってきた。
「例の方がいらっしゃいました、お願いします」
そっか、来たんだ。案内されていそいそと外に出ると、行列を作っている人達の後ろに一人、周りの視線を集めている子がいる……あの子が乗せるべき人かな。
私が姿を現したことで、私にも視線がいっぱい向けられる。まあ私にとってみれば見られるというのはいつものことだけど。
「この子は妖精の中でもごく一部の者だけが乗ることを許されている鳥で、ピカーシャと呼ばれております。この子も我ら妖精一族の一員でありまして、乗ることができれば空を飛び、高速で移動することが可能です。アース様はぜひ、このピカーシャにて城下街へお向かいください」
そう、ここの責任者さんがあの子に伝えている。私も挨拶のつもりで「よろしくね♪」と言った。ただその声は「ぴゅ〜い♪」としかならないのだけれど。ゆっくり近づいてきたその子は、私の体の前のほうを軽く撫でてきた……あう、ちょっと恥ずかしいよう。
お返しとばかりに顔を擦り付けてみると、向こうも頬ずりで返してきた……この子はなかなか可愛いね。
「では、遠慮なく乗らせていただきます。ピカーシャ、よろしく頼む」
うんうん、きちんと挨拶をする点も高評価だね! 思う存分、空の旅を提供してあげる!
私の体に驚いたりもしていたようだけれど、空の旅をしている間、ものすごくはしゃいでいて可愛い! 積極的に立候補して、よかった。

    ◆ ◆ ◆

あれが始まりだったね……でももう少ししたらしばらくお別れかな。
姉さまから思念を通して、妖精の国が少しずついくさの準備をしているって聞いている。どこと戦うんだろう? この子達でもなさそうだし、ドラゴンや龍とも、昔はともかく今はだいぶ友好的だし……あの緑の下種げすドラゴンのような使いも来ていないのに。どうして争うのかな?
私からしてみれば、争いなんかしなくたって、みんなほんの一瞬で……死んじゃうのに。そんなに生き急いでどうするの? 悲しくないの? 私には分からないな……
とにかく今は、一緒の布団で眠ろう。時間はあまり残っていないから。
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