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6巻試し読み

6-2

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翌日、ログインしたらゼタンがいなかった。恐らく用事があって外出しているのだろう。自分も街の様子を窺うため、宿屋から出る。
(とりあえず、今のところは何とか落ち着いているか……誰かがドラゴンの情報を流したってこともなさそうだ)
斥候能力持ちなのは自分だけではないし、グリフォンとかの空を飛べる子に頼んでゲヘナクロス陣営の様子を見た人は他にもいるはずだ。ただその情報をむやみやたらとばら撒く人がいなかっただけなんだろう。
(掲示板の様子を確認してみるか)
道端みちばたにあるベンチに座って、攻略系の掲示板を覗いてみた。

【戦争関連スレッドNo.4】

47:名無しの冒険者ID:25v7f2dc2
前スレの情報にあった灰色ドラゴンって、
調べても結局そのまま該当する前例が少ねえよな?

48:名無しの冒険者ID:v23h7f5rc
ああ、魔法防御に優れたドラゴンが灰色になってるゲームも
あったらしいけど、詳しくは知らね

49:名無しの冒険者ID:bkdmd412E
それがそのまま当てはまるともかぎらねーし

50:名無しの冒険者ID:vb2b7Tf1e
結局ぶっつけ本番で確かめるしかない感じ?

51:名無しの冒険者ID:v7vJFc1e2
だろーな、まあついにドラゴン素材が取れるチャンスだろ

52:名無しの冒険者ID:cx4v7YX21
そっちだよな、ドラゴンに捨てる部分はない

53:名無しの冒険者ID:2v7JFGe1c
鯛じゃねーんだぞw

54:名無しの冒険者ID:7XWQ41x4Wa
でもマジで捨てる部分はないだろ、鱗に骨に皮に肉……

55:名無しの冒険者ID:74b22kGbt
ガチでこのチャンスを生かしてかき集めねーとな

56:名無しの冒険者ID:Oh5g7vRvg
戦争起きてラッキーだよな、ドラゴン素材を運んできてくれたし

57:名無しの冒険者ID:vb7KNBg1R
だな、これで大幅に戦力強化できそうじゃん

58:名無しの冒険者ID:7vcNg1dWd
そして妖精国からの褒賞もでるんだろーから二度美味しい

59:名無しの冒険者ID:n1fgJf12e
俺も生産者としても色々試したいからタップリ持ってこいよー

60:名無しの冒険者ID:c732aQxe5
任せろ

61:名無しの冒険者ID:7v32g1SD
グリフォン素材も気になるし、今回のイベント美味しいな

62:名無しの冒険者ID:4x32dWEdf
例の素材急復活ってこのためだったんじゃね?

63:名無しの冒険者ID:7gD42cvrv
ありうるな

64:名無しの冒険者ID:7vf8c268c
戦争発生しても装備がないから参加できませ〜ん、じゃつまらんしな〜

65:名無しの冒険者ID:2v32d2cF5
とにかく、ドラゴンやらグリフォンがどんぐらいいるか分からんけど、
倒して素材をがっぽり稼ぎたいね

66:名無しの冒険者ID:2v1Hd1ecv
ドラゴン素材が取れれば等分安泰だろう

67:名無しの冒険者ID:v7Pfg2bIr
やっぱりドラゴン系の装備はロマンだろ〜

68:名無しの冒険者ID:vc7v23ECe
てか、当分だろ>>66w 等分って分けちゃうのかよw

69:名無しの冒険者ID:v5b7HJG1r
あと二日か、早く始まらんかなー

70:名無しの冒険者ID:1f32fVCea
裁縫スキル持ちとしては早くいじりたい素材ですねー

71:名無しの冒険者 ID:G2f7hRrwe
早く始まってくれねえかな、もう待ちきれないんだが
鱗集めて鎧にしたいぜ

72:名無しの冒険者 ID:f2d47HE1r
俺はやっぱり剣だな。骨とかで作れそうだ
切れ味はそこそこだが重量で押しつぶすってやつが

73:名無しの冒険者 ID:f5gGE54we
あとは盾か?
ドラゴンの鱗を表面に張り付けて防御力を高める、
とかできそうだね

74:名無しの冒険者 ID:F5d7gwekr
そういうお約束のやつがやっと作れる&装備できるんだよな
長かったな

75:名無しの冒険者 ID:JHk5gf7EZ
奪い合いになるかもね
全員にまんべんなく行き渡るってのはまずなさそうだし

76:名無しの冒険者 ID:Gfg2h5dEf
取れなかった人は買ってもらうってことで一つ

77:名無しの冒険者 ID:HGgf57hER
それはドロップ運が低い俺への予言かよw


やはりついにドラゴンが出てくるということで、倒した後の素材運用の話が中心になっていた。取らぬ狸のなんとやら、にならなきゃいいがな……
直接対峙した経験がある自分にしてみれば、ドラゴンはただただ恐ろしいとしか表現できない存在だ。あのときはこちらも半ばプッツンしていたから、その勢いで戦えたのであって、普段の心境なら即座に全力で逃げ出していたところだ。まあ今回は上位プレイヤーもたくさん参戦すると思うし、ドラゴンの相手はそういう戦うことが好きな人達に任せておこう。
だが、今回の戦争で浮かれているのはプレイヤーだけだ。街を見ると、絶望に沈む人、決死の表情の人、真剣な表情で準備を整えるために走り回る人などばかりで、早く戦争が始まれ、なんて考えている人は見当たらない。お店の人は、義勇兵に「どうか生き延びてください」「御武運を!」と言って見送るし、義勇兵側である色々な種族の皆さんも「戦争後、また来ますよ」「死に急ぐつもりはありませんから」と返している。さすがにそんな空気の中では、早く戦争が始まってほしいなどと実際に口に出すプレイヤーはいなかった。
自分の準備は既に終わっている。十分な数の矢、食料、ポーション。武器の手入れも終えていて、いつでも出撃できる状態だ。ぴりぴりした空気が蔓延しているのを確認できたし、これ以上街を見回っても仕方がない……帰るか。
そうして宿の部屋に着くと、ゼタンが戻ってきていた。
「ただいま」
「よう、お前も出かけていたか」
そう言ったゼタンは、いわゆる「マンガ肉」を食っていた。なるほど、そいつを手に入れるために出ていたのか。
「一つ食うか?」
「いいのか?」
「かまわんぞ」
ということで、一つお相伴しょうばんにあずかった。
「ほう、美味いなこいつは」
「ああ、そうだろ。これは知り合いが趣味でやっている焼き方でな。他ではまず口にできん」
それはそれは、よい物を食べさせてもらいました。
「やはり開戦が間近に迫っているとあって、どこもかしこも張り詰めた空気だな」
「それはそうだろう、妖精全体が久しく戦争を経験していない。ましてや相手が相手だ……生きて帰れる奴がどれぐらいいるか……」
ゼタンは目を閉じて首を振る。俺達プレイヤーと違い、この世界で生きている彼らは力尽きてすぐに手当てを受けられなければ、もう復活できない。そして戦争では、必ず助けてもらえると期待してはいけない……まして相手になるのはドラゴンだ。踏み潰されたり丸呑みにされたり、文字通り粉々にされたら、いくら魔法であっても手当てのしようがない。それにドラゴンは、喰らえば即死どころか消滅という言い方がしっくりくる、ブレスなんて攻撃方法まで持っているのである。
「一人でも多く、生きて帰れるといいな」
「……全くだな」
そう言って、ゼタンはまた肉にかぶりついた。
「ああ、そうだった。ゼタン、すまないがこの弓にちょっとお前の力を注いでもらえんか?」
重い空気を無理やり払って、【双種子そうしゅ しの弓】をアイテムボックスから取り出す。
「変わった形……だが弱々しい弓だな。で、力を注ぐってのはどうやればいいんだ?」
「弓に触れて、力を少し分け与えるように考えてくれればいい……はず」
言い方がはっきりしないのは、自分では弓に力を送ることができなかったからだ。持ち主は適用外なのかもしれない。
「どれ、貸してみろ……ふむ、こうか? ……お、なんだか少しだけ力が抜けて、弓に移った感じがするな。これでいいのか?」
返された弓を確認すると、【双新芽そうしん めの弓】に名前が変わっていた。攻撃力Atkが16から19に上がっていたが、特殊能力などの追加や説明の変更はない。
「ありがとう、弓がまた一歩進化したみたいだ」
「随分と変わった能力を持つ弓だな……まあ、お前なら悪用はしないだろうが」
雨龍さんにやってもらったときと変化の仕方が違うのは、やはり龍と妖精の差なのか? どの道、この弓はまだ装備自体できないので、検証のしようがないのだが。

更にその翌日。皆、昨日までに戦争への備えを終えたのか、ほとんどの家が窓も扉も閉ざし、義勇兵以外はほとんど出歩いていない。砦街は、あの妖精の国とは思えない寂しく重苦しい空気に支配されていた。
「寂しい限りだな」
部屋の窓から外を見ていた自分は、カーテンを元に戻してため息を一つついた。
「さっさとこの馬鹿馬鹿しい戦争を終わらせて、普段のにぎやかな日常を取り戻したいぜ」
ゼタンが相槌を打つ。
そのとき、ドアがコンコンとノックされた。
「はい、どうしました?」
「私です。アース様にお客様がいらっしゃいましたので、お知らせに参りました」
どうやらノックしたのは宿の女将さんのようだ。
「分かりました、すぐに行きます」
相手が誰か分からないが、あまり待たせるのは失礼だ。ゼタンに「ちょっと行って来る」と告げてから、女将さんの案内を受けて階下に行き、「客人」と対面する。
「久しぶりだな」
そこには、燃えるようなくれない色の髪を持つ一人の男性がいた。妖精国を離れた直後に出会った、あの男性だ。
「それではごゆっくり」
女将さんはそう言うと、頭を下げて離れていく。
「うむ。女将、分かっているとは思うが、人払いを頼むぞ」
「分かっております。戦争が近いこともあって、誰も彼も部屋の中に閉じこもっておりますけれど……」
それから女将さんも十分に遠ざかったことを確認して、男性はようやく口を開いた。
「さて、まずは自己紹介だが――」
「レッド・ドラゴンの王様が直々に……この小市民に何の御用でしょうか」
「――いつ気が付いた?」
「妖精国を出国して、初めて出会ったときです」
ここはあえて率直に返答してみた。回りくどい問答は面倒だという理由もあったが。
「私の人化の術はまだ甘い、か?」
「いいえ、そうではなく、その髪の毛の色。その紅には見覚えがあります。かつて見たレッド・ドラゴンの鱗と同じです」
赤い髪を持つ人は、この世界ではよく見かける。だが、こんな透き通るような見事な紅はあのレッド・ドラゴンの鱗以外では見たことがない。
「そうか、色に出てしまったのか」
やや肩を落とすレッド・ドラゴンの王様。だがグリーン・ドラゴンが人化したときの髪の色も緑色だったし、恐らく元の色が反映されてしまうものなのだろう。
「もっと訓練をせねばならぬか」
「いやいや。今はもっと大事なことがあるでしょう」
話が進まないので、いい加減流れをぶった切る。
「そうだな、人化の訓練などいずれすればよい。お前の斥候で得られた情報を基に、フェアリークィーンは正式にドラゴン族に援軍要請を出した。我らはこれに応え、大騒ぎにならぬよう人化の術を持つグリーン・ドラゴン達を主軸とした援軍部隊を編成し、一時間ほど前に妖精国に到着した。もちろんフェアリークィーンとの挨拶は済ませてある」
ドラゴン族も今回はさすがに動くか。
「斥候を果たしたお前には直接教えておこうと思って、こうして出向いたのだ。あの憎きゲヘナクロスの邪教連中が抱え込んでいるドラゴンの数は、恐らく合計三二匹だと思われる。その理由は、お前が助け出してくれた我が娘を含めて孵化ふか直前の卵が三一個と、生まれた直後のひな二匹が消えていたからだ」
思わず自分の右目がピクッと反応してしまった。三二匹も連れ去られていたのか……!?
「我々は新しい命を種族全体で世話をするのだが、係が交代するタイミングを知っていたのか、奴らはほんの僅かな時間で世話場に忍び込み、大事な我々の子供達を盗んでいったのだ」
当時の状況を思い出したのか、王様はギリッと歯軋はぎしりをする。
「盗みに気が付いた我らは即座に奴らを追った。だが卵を盾にされては、ブレスも吐けず爪を突き立てられもせず……グリーン・ドラゴンが人の姿になって、大半の盗人は殺し得たが、幾つかは外に持ち去られてしまった」
そういえば自分がたまたま王の娘を助けたあの出来事の前後、そういう救助イベントが何度も発生していたと掲示板に報告があったな。その原因は全てゲヘナクロスの連中にあったのか。
「灰色となったドラゴンは、もう完全に奴らの統制下にあるだろう。彼らはもはやドラゴンの外見をした奴らの奴隷に過ぎん……赤にも、青にも、黄色にも、緑にも、白にも、黒にもなれん。ドラゴンとしての誇りも意志も持てぬが故に、外見も色が抜けた『灰色』なのだ……」
それはつまり――
「解放してやるには、殺す他ない。そうしなければ、我らの子は命令を聞いてただただ殺すだけの道具であり続ける。確かに我らも生物を殺す。しかしそれは生きるため、食べるために必要だからであり、必要以上の命を奪う真似はせぬ。力がある生物は、その振るい方を考えねばならんのだ。以前お前に倒してもらったエメルのように、力の振るい方を間違えてしまった同族は殺すというのが我等の法でもある」
しばし、沈黙が訪れた。
「つまり……今回の戦争では、三二匹全てのドラゴンを確実に……殺さねばならない。そして、これだけのことを引き起こしたゲヘナクロスの愚か者達は――」
その沈黙を破った自分の言葉の続きを、レッド・ドラゴンの王様が引き受ける。
「――皆殺しにする。グリーン・ドラゴンと私しか人化の術を扱えぬ故、他のドラゴン達は此度の戦争には参加しないが、戦争を終えた後は、我らドラゴン族全ての力をもってゲヘナクロスの大本を消し飛ばす。そのための手はずも、フェアリークィーンと話をつけてある」
因果応報、か。ゲヘナクロスはこの世界には不要だな……神の教えを信じる国として大人しくやっていけばよかったのに、妄想に取り付かれて取り返しのつかないことをやってしまった以上、彼らは自らが犯した愚かな行為に相応の責任を取らねばならない。
「同じ人族から見てもゲヘナクロスの考えには賛同できません。殲滅作戦に反対する理由は全くないですね」
あいつらの存在など百害あって一利なしだ。滅んでもらったほうがこの世界にとってもよっぽどよいだろう。
「攻め込んできているのは数匹とされていた最初の段階では、大半が別の場所にいるかもしれないためにドラゴン族全体を動かすことができなかったのだが……お前がはっきりとした報告を送ってくれたお陰で、我が同胞が必要以上に爪を血で染める事態は食い止めることができそうだ」
そっちはそっちで苦労してるな……いや、苦労していない者なんてまずいないか。
「できるだけ多くの者を死なせないように我々も努力はするが、灰色となったドラゴンはかなり強い……多くの死者が出るのは避けられないだろう。心してかかってほしい」
意志がないのに、弱体化しているわけではないのか……!? ならばドラゴン族に援軍を要請していなかったら……
「ここでの話は、他言無用に願いたい。教えてもパニックになるだけだ。ドラゴンは我々が食い止める……それを信じてほしいとしか言えぬ」
レッド・ドラゴンの王様は苦い顔でそう言う。
「了解です……最後に、一つだけお願いが」
「なんだ?」
話も大体終わりだろうと目星をつけて、自分は【双新芽の弓】を取り出す。
「以前王様にいただいたこの弓、どうも多くの人達に力を注いでもらうことで進化するらしいのです。なので少々王様のお力を注いでいただけたら、と」
弓を受け取ったレッド・ドラゴンの王様は「ふうむ?」と訝しげに弓を眺めた後で「こうか?」と呟き、弓にほんの少し力を込めた。
「これでいいのか? どうもこの弓は、お前以外には力を見せないようにしている節があるぞ」
受け取った弓を確認してみる。


【双子の若木弓わかぎ ゆみ
所有者の格が足りないため、装備不可能。
効果:Atk+25
特殊効果:「貫通力強化(弱)」「雷光招来(発生確率低)」「砂塵招来(発生確率低)」
     「矢が光状になる」


攻撃力が上昇して、雷光と砂塵の発生確率が「激低」から「低」に変化、そして矢が光になる、という効果が追加されているな。全体的に底上げされたのはありがたいが、まだ装備できないのは変わらない。一度使ってみたいのだがな。
「では、戦の準備を仕上げるためにそろそろ失礼する。死ぬなよ」
「ええ」
そうしてレッド・ドラゴンの王様は去っていった。いよいよ開戦である……

そして翌日が開戦の日となった。
砦街の門に妖精の軍隊と義勇兵が集結する。これから平原に本陣を築くのだ。妖精族限定魔法であるウォール系魔法で壁を作り、それを妖精族の職人が補強することで瞬時に拠点が作れる。そんな方法がとれるので、妖精や義勇兵はぎりぎりまで堅牢な外壁の内側にいられた。
「これより、対ゲヘナクロス防衛戦を開始いたします! 念のため申し上げますが、この戦いに負けた時点で我々の国、妖精国はこの世界より永遠に消滅することになります!」
フェアリークィーンの演説に対する反応は、騒ぐプレイヤー、決死の覚悟を固める妖精、負けてなるかと気を引き締めるノンプレイヤーキャラNPCの義勇兵達の三種に分かれる。
「ここで食い止めねば、我々妖精は奴隷に組み込まれ、ゲヘナクロスの勢力はより強大になるでしょう……そうなれば、他国の皆様方も危機に追いやられることになります! ここで敗北するわけには参りません! なんとしても勝利しないと、この世界はやがてゲヘナクロスに呑み込まれてしまいます」
ただの戦争イベントだと考えている者が多かったのか、国家消滅の可能性を示唆されてプレイヤー達のざわめきが大きくなる。掲示板を覗いてみると、「マジで!?」「妖精国消滅とか今後の新規の人どうすんの」「壮大なネタフリだろ、さすがに国家消滅はないわ」「いや、ここの運営ならやりかねん」などなど、様々な意見が壮絶に飛び交っていた。
当人が必死になればなるほど、周りの人間の目には滑稽こっけいに映るものだ。
この世界で生きている人達、つまりはAI達はこの世界でしか生きられないのだから必死になる。だが自分達プレイヤーは「現実世界」という、ワンモアの世界の人からすれば「空想世界」へと逃げられるわけで……そう考えると、こうした反応の違いに人間の恐ろしい一面を見た気がする。
「義勇兵として共に戦ってくださる人族、龍族、エルフ族、ダークエルフ族、獣人族、魔族の皆様に感謝を。それでは、大事なものを守るために避けられぬ戦いを始めましょうか……開門!!」
フェアリークィーンの声と共に、砦街の大きな門が開いていく。いよいよ戦争が始まる。だからといって、全員が一気に前線に出るわけではない。また前線に出た後は、一時間程度で簡易砦に一度引き揚げて休息を取れるようローテーションを組んである。
また立場が違う存在であるプレイヤーは、戦術に組み込めないと判断されたのか遊軍扱いとなっていて、状況を見て各自の判断で動けとの手紙が全員に届いていた。
「我に続け、憎きゲヘナクロスを打ち倒すぞ!!」
勇ましい声を上げたのは、レッド・ドラゴンの王様。その声におおー!! と大声で応えたのはグリーン・ドラゴンの皆さんか。
本陣を作るまでの盾になるつもりなのだろう。
「できる限り急ぎなさい!!」
フェアリークィーンの声に反応するように幾つもの土の壁が生まれて、その壁を妖精の職人が素早く更に頑丈にしていく。
壁が四方を囲み、やぐらなどが次々と組み立てられる。そしてその櫓に登って前線を見ると、灰色の鱗をしたドラゴンが複数、こちらに向かっていた。それを止めるために駆け出していくドラゴンの人型チーム。同時にプレイヤーも、倒さなければ素材が取れないとばかりに、うおおおお!! と威勢よく我先に駆け出した。
さて、自分は今、インスタント食品のように出来上がった砦の中にある、一番最初に建てられた櫓の上にいる。観察者として、斥候時にも使った「目」を生かしてほしいとフェアリークィーンから手紙で頼まれていたのだ。
時間は戦争が始まってからの三〇分限定。自分だけでなくエルフと妖精も一人ずついる。両者とも目が非常に良いそうで、複数人で確認したならまず間違いない情報ということになる。
「今のところ、前線は五分と五分といったところか」
「やはり厳しいわね。ゲヘナクロスはまだドラゴンを数匹動かしただけなのに、五分五分というのはかなりまずいわ」
「向こうは様子見をしているんだろうけど、ゲヘナクロスの軍が横から攻撃を仕かけ始めたらこの状況は崩壊するよ」
一緒に戦場の様子を見ているエルフと妖精の二人が言う通り、こっちはレッド・ドラゴンの王様&グリーン・ドラゴン軍団、プレイヤーの遊軍、エルフの弓兵部隊とそれなりの戦力が集中しているのに、ゲヘナクロス側は灰色ドラゴンを四匹ほど前線に送ってきただけだ。それで互角というのが今の状況である。
昨日レッド・ドラゴンの王様が教えてくれたように三二匹のドラゴンが向こうにいるとするならば、四匹ぐらい様子見で潰しても、ゲヘナクロス側は痛くもかゆくもない。逆にこちらは、ドラゴンと戦い続けるとなると心身共にかなり消耗する。ある程度戦って、こちらが疲労したところでたたみかけるという狙いか……悔しいが有効な手段だ。
「エルフの弓兵部隊が放つ矢も、あれだけ的確にドラゴンに当たっているのに……」
「目や口の中に矢を当ててもダメージはあまりないみたいね。さすがはドラゴンと言わざるを得ないわ……」
「そのドラゴンの前進を止めている、あの紅の髪の人が指揮する緑髪の人達は本当にすごいよ。彼らがいなかったらまともに戦えなかったかもしれないね」
プレイヤー達も積極的に斧や大太刀や大剣といったでかい武器で殴りかかっていくが、有効な一撃は今のところ与えられずにいるようだ。自分達が見た戦場の状況報告は、下の本陣にいるフェアリークィーンにすぐ届くようになっている。報告に対しては、そのまま監視を続けてください、とだけ返答があった。
「あともう少しでこちらの本陣は完成か?」
「とりあえず、といったところだけど……ね」
「エルフの人達に協力してもらって、より強力に地面と壁を結びつけてもらえれば、とりあえず形にはなるね。でも、あのドラゴン達のタックルを受けたらそんなには持たないと思う……」
砦の様子を確認した後、自分達三人は再び前線に目を向ける。そのとき、僅かながら右手方向に弓を持った兵士達が近づいてきているのが見えた。一緒に見ていた二人も気が付いたようで、下のフェアリークィーンにすぐさま報告を入れる。
「獣人強襲部隊にお願いします、我が軍右に迫りつつある敵弓兵部隊を叩いてください! 観察者の三名は彼らのサポートを!」
報告を受けたフェアリークィーンがすぐさま指示を飛ばす。獣人部隊にお願いしたのは、彼らが素早さを旨とするからだろう。実際、猫族系統で編成された獣人部隊はスルスルと滑るような速さで敵の弓兵部隊に近づいていく。
【そのまま前進、前方に敵の弓兵部隊が存在。我らの前線部隊に弓を構えていることから、強襲部隊の存在にはまだ気が付いていない様子】
【了解】
念話がすぐできるようにと魔族の人達から提供された魔法のカードを通じて、上から見た状況を獣人強襲部隊のリーダーに告げる。このカードのお陰で、いちいち名前を知らなくともこうやって直接通信ができ、とても助かっていた。
獣人強襲部隊は体のしなやかさを生かして、点在する小さな岩などに身を隠しつつ迅速に敵に近寄る。
【今だ、噛み砕け】
【取りかかる】
そうして近寄ることに成功した獣人強襲部隊は、今まさに前線に矢を放とうとしていた弓兵部隊に容赦なく喰らい付く。天性のアサシンというべき猫系統の獣人達は容赦なくゲヘナクロスの弓兵部隊を切り崩し、全滅させた。
【お見事、一度砦まで撤収を】
【了解、引く】
獣人強襲部隊が引き揚げたとき、ようやく灰色ドラゴンの一匹が砕け散った。だがまだまだ序盤……ゲヘナクロスもようやく本腰を入れたのか、ドラゴンを追加で三匹送り、それに人間の軍隊も同行させている。
さて、本番はここかららしい。



【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv40 〈剛蹴〉Lv16 〈百里眼〉Lv11(←1UP) 〈製作の指先〉Lv89
〈小盾〉Lv20 〈隠蔽〉Lv49 〈武術身体能力強化〉Lv18 〈義賊頭〉Lv13
〈スネークソード〉Lv24 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv44 〈上級鍛冶〉Lv42 〈上級薬剤〉Lv17 〈上級料理〉Lv39
ExP30
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人




 4

【観察役より本部へ伝令、ゲヘナクロスはドラゴン三匹、騎士、槍兵、騎兵、弓兵を新たに投入した模様、こちらも早急に追加の兵を。それから最前線にて戦い続けている勇敢なエルフ弓兵達の被害が拡大中、ドラゴンが吐く魔法弾により軽傷、重傷者複数! 残念ながら死者も発生しているため、怪我を負っているエルフ達を一度下がらせて治療を!】
現時点において、最前線の状態は決してよいとは言えない。ドラゴンに噛み砕かれたり、爪で引き裂かれたりしたプレイヤーに複数の死者が出ており、後方から攻撃していたエルフの弓兵達も魔法弾によって手傷を負っていた。魔法弾は地面や物にぶつかると炸裂するファイヤーボールのようで、直撃を回避しても被害が出てしまう。体力HP防御力Defが高いタンクタイプのプレイヤーや、魔法防御力が高い魔法使いならば何とか魔法弾に耐えられるかもしれないが、それ以外の人達が直撃を受けた場合は即死間違いなしだ。実際、避けそこなったエルフが数人……完全に死亡したのを見届けていた。倒れた仲間を助けたくても、誰もドラゴンから目を離すことができず、そのせいで治療もままならない。
【分かりました、すぐに援軍を出します】
フェアリークィーンの返事を受け取ると、すぐに前線に行っている人達にカードを通して声をかける。
【これより援軍が向かう、それまで耐えてほしい!】
だが人が増えて混み入ったところに魔法弾が降り注いだら、どれだけ恐ろしいことになることか。一気に戦線をずたずたにされる可能性もある。
魔法弾のいい的になってしまうのを避けるためには、味方同士で十分に間隔を確保しないといけない。とはいえ、相手が戦力を増員してきた以上、こちらも追加の兵を送らなければ、弓兵に徐々に削られ、槍兵のリーチに追いやられ、騎士の壁に押しつぶされる。そうなれば、ゲヘナクロスとしてはドラゴンの脅威を維持しつつ蹂躙すればよいという、簡単な展開になってしまう。
(このままでは分が悪すぎる。ドラゴンを戦術に組み込まれるだけでここまで厳しくなるか!)
自分が打つべき手を考えている間に、こちらの第二陣が出陣していく。構成の中心となっているのは、獣人連合の騎兵である。また、グリフォンに乗った空戦部隊も同時に出陣した。グリフォンの機動力は非常に高く、あっという間に最前線へ飛んでいく。そして更に……
「ぴいいいいいい〜〜〜〜〜!!」
妖精国の神鳥であるピカーシャも一羽出陣するようだ。あの子は自分と一緒に旅をした子ではないな。体の色が、あの子よりもっと濃い。
「ピカーシャが出てきたわね」
「うん、ゲヘナクロスにドラゴンがいるならば、妖精国にはピカーシャがいる! ピカーシャなら負けない!」
隣で見ていたエルフの言葉に、更にその隣の妖精が強く頷く。確かにピカーシャなら並の兵士一〇〇人分以上の働きをするだろう。現にピカーシャの鳴き声が戦場に響き渡った後、ゲヘナクロスのほうから警戒の気配を感じる。今や明らかに、ゲヘナクロスの灰色ドラゴンや兵士達の動きが変わっていた。ヴァーチャルリアリティVRの世界ではあるが、それが気配の変化となって感じられたのだろう。
獣人連合の騎兵、空兵、そしてピカーシャで結成された妖精国の援軍が、ドラゴンやゲヘナクロスの兵達に襲いかかる。
空兵はグリフォンの機動力を生かしてドラゴン達を挑発し、ドラゴンの注意を空に向けさせた。そうしてドラゴンの集中力が削れたところで、横から回り込んだ騎兵が敵後列のゲヘナクロスの弓兵に突撃を仕かけて吹き飛ばす。当然ゲヘナクロスの槍兵は弓兵を助けようとするが、一人のプレイヤーが、戦場の混乱に乗じて敵のど真ん中に突っ込んで派手な大立ち回りを演じ、そうした動きを阻害していた。
そのプレイヤーが操る槍の穂先は炎をまとっており、ゲヘナクロスの槍兵は一人、また一人と炎の穂先に突かれ、払われ、燃やされて、命のともし火を容赦なく消されていく。
「あの人、『炎槍舞えんそう ぶ』さんだ! 義勇兵として来てくれたんだ!」
観察者仲間の妖精が大声を上げる。あの人がそうなのか。言われてみれば確かに、突きや払いといった槍の動きに合わせて炎が残す軌跡は美しく、あれはまさに一つの舞だな……こんな人が味方だと、非常に心強い。
空兵のおとり戦法、騎兵の突撃、炎槍舞さんの無双により、状況は当初の不利ムードが徐々に覆されつつあった。
そうなれば今度はドラゴン族の皆さんの攻撃力が発揮され、注意散漫になった灰色ドラゴンの体に次々と武器を突き刺し、はっきりと分かるダメージを与えていく。
続けてピカーシャが、悲鳴を上げたドラゴンに全速力で走り寄り、巨躯を生かしたタックルを仕かけて横転させる。その下敷きとなったゲヘナクロスの騎士達はぺしゃんこになり、そのままお陀仏だぶつだ。
今の戦況を整理すると、妖精国側で白兵戦を行っているのはドラゴン族軍団と攻略組プレイヤー達。その上空で囮役をこなしつつ矢を放って援護するのがグリフォン空兵。エルフの弓兵部隊は治療のために無傷な人と軽傷者を残して一旦引いたが、空兵部隊が放つ矢もあるのでゲヘナクロスに降らせる矢の数が極端に低下したということはない。騎兵部隊は敵軍弓兵を強襲した後に素早く後方へ撤収済みで、再突撃のチャンスを窺っている。ちなみに炎槍舞さんも騎兵が引くタイミングで一緒に拾ってもらい、無事に自陣への帰還に成功したようだ……やるな。
ゲヘナクロス側は、灰色ドラゴンと騎士が最前線に出てきている。だがその後ろにいた槍兵部隊は炎槍舞さんの無双によってずたずたにされ、更にその後ろにいた弓兵部隊は妖精国の騎兵部隊による強襲攻撃に蹂躙されて跡形もなくなった。弓兵が消えたためにグリフォン空兵への対抗策は時たま灰色ドラゴンが吐く魔法弾のみに限定されていて、非常に効率が悪い。
前線でも、人型になっているとはいえレッド・ドラゴンやグリーン・ドラゴンの実力にゲヘナクロス側の人間騎士が勝るわけもなく、一合で切り捨てられる者が大半だ。たまに一撃耐える奴もいるが、その代償に盾をあっけなく割られてしまい、守りを失ったところをばっさりと斬り殺される。
さすがの灰色ドラゴンも疲労を隠せなくなり、最初から戦場に出ていた三匹は明らかに動きが鈍った。その隙を、最前線で戦う百戦錬磨のプレイヤー軍団は逃さない。一点集中とばかりに斧を振るい、剣をつき立てる姿が見える。そうした猛攻に耐え切れず、灰色ドラゴンの一体がとうとう地に伏した。これで討伐されたのは二匹目だ。
つまり現時点では妖精国が優位に立っている。
だが当然、疲労はゲヘナクロス側だけではなく、こちら側にも出ていた。先陣を切ったドラゴン族軍団の動きが全体的に悪化し始めたので、素早く本部に伝える。彼らは失うわけにいかない戦力であり、ここは一旦引かせて休ませるべきだ。フェアリークィーンもどうやら同じ意見のようで、早速指示が下る。
【最前線で戦闘中の義勇兵の皆さんは、一度撤収を! 繰り返します、一度撤収を! 空兵部隊、騎兵部隊は撤収を支援してください! ピカーシャさん、殿しんがりをお願いします!】
【了解した!】
【おーけー】
【任せろ、俺達が育ててきた馬の力を見せようではないか!】
【ぴぃい!】
撤退を支援するため、騎兵部隊が猛チャージをかけて追ってくる敵兵の勢いをくじくと、灰色ドラゴンには空兵部隊が肉迫して決死の覚悟でその注意を惹く。そしてピカーシャは重戦車よろしくゲヘナクロスの騎士達をタックルで突き飛ばし、転んだ奴は容赦なく踏みつけていく。
こうして生まれた値千金あたいせん きんの時間を利用して、最前線で戦い続けてきたドラゴン族軍団とプレイヤー軍団は一気に引き揚げた。撤収阻止に失敗したゲヘナクロス側も、本陣まで戻って部隊の再編成に入るようだ。
こうして緒戦の攻防は、かろうじて妖精国が優位という結果になった。
それでも、ゲヘナクロス側の戦力を多少削っただけに過ぎず、妖精国に楽勝ムードは全くない。最初はドラゴン素材が取れると騒いでいたプレイヤー達も、ドラゴンの強さを実感したのか大騒ぎする者はいない。
まだまだ序盤、苦しい戦いが続くことは誰もが理解していた。ただ士気が落ちていないことだけが救いだった。


【スキル一覧】
〈風震狩弓〉Lv40 〈剛蹴〉Lv16 〈百里眼〉Lv12(←1UP) 〈製作の指先〉Lv89
〈小盾〉Lv20 〈隠蔽〉Lv49 〈武術身体能力強化〉Lv18 〈義賊頭〉Lv13
〈スネークソード〉Lv24 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv44 〈上級鍛冶〉Lv42 〈上級薬剤〉Lv17 〈上級料理〉Lv39
ExP30
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人難の相
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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