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8巻試し読み

8-2

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カツン。スミスハンマーを横に置く。今日もマスクの生産が終わった。
──ノーラから頼まれた分も作り終わったところで、マスク作りの日々を過ごすのに飽きが来ていた。毎日毎日同じものを作り続けるのは、現実世界リアルでの仕事の工場勤務だけで十分だ。
幸いにもマスクを売る露店はちらほらと出てきていて、もう自分が作るのをやめても問題はない。実際、自分が作ったものよりそっちのほうが質がいいんだ……Defは+8とかになっていたし、特殊効果の「被クリティカル発生率低下」が「弱」じゃなくて「中」になっていたりとか。自分のは七〇〇〇グローあたりで出していたが、そういう高性能マスクは二万グローを超える(ツヴァイ達の分を五〇〇〇グローにしたのは友達価格である)。
とりあえず露店を設置し、但し書きに「売り切れた時点で私のマスク店は閉店となります、以後は他のお店でお求めください」と残しておく。
流通するグローの総量はゲーム開始時と比べると大幅に増えていて、駆け出しの人でもなければ二万グローもぽんと出せる金額になりつつある。だから専門の人が高品質の品を提供し始めたなら、自分はさっさと撤退したほうがいい。変にねばっても売れ残るだけだし。
マスクを作ったことでそこそこ生産スキルは上がったし、スキルLv上げ第一で稼ごうとは考えていなかった当初の予定からすれば、ここまででも十分すぎる成果を得たと言える。
最後に、ノーラにマスクを渡してもう終了にしよう。フレンドリストを確認すると、今のところログインしていなかった。他のゲームならばメールでアイテムを送ればいいところだが、ここにはまだその機能がない。妙なところで不便なのは故意なのだろう。あまりに全ての面で便利過ぎると、かえって世界が小さく、つまらなくなるから。
とりあえずノーラがログインするまでひまを潰すかと思って街を歩くと、以前の大過剰密集トレイン事件の指名手配ビラから、三人のうちの一人の顔が消えていた。これはもしかして……
こういうときは事情を知ってそうな人から直接話を聞くのが早い。ちょうどビラを張り出していたお店の人に声をかけてみる。
「申し訳ありません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、いかが致しましたか?」
「こちらのビラ、一人は顔が消えたようですが……もしかして逮捕に成功したんでしょうか?」
質問を聞いた店員さんは、「ええ、そうなんですよ! これで少しは安心できますよ」と答えてくれる。
「昨日の夜、犯人が妖精国に逃げようとしていたところを、衛兵さんと手伝いの龍人さんや冒険者さんが協力し合って見事に捕縛したって話ですよ! 犯人はサーズまでしょっぴかれて罪状に間違いがないかただされ、即座に処刑されたそうです。この調子で残りの二人も早く捕まってほしいところですよね!」
そうか、処刑されたから……顔が消えているんだな。処刑という結末を迎えたこのプレイヤーは、今はどうなっているんだろうか? アバター完全抹消? スキルロスト? 本人との付き合いなどなかったので話を聞くこともできない。
──それに、それを知ったところでどうする。それこそただのつまらない好奇心、野次馬根性と大差ない。とにかく悪事を行った人物がそれ相応の刑に処された、それだけ分かればいいではないか。無駄に首を突っ込む必要はどこにもない。
「そうですね、残りの二人も早く捕まってほしいものですね」
一般市民からしてみれば、大量殺人未遂をやらかしたこいつらは、ただの恐怖の象徴でしかない。本当に居るんだか分からない世紀末の恐怖の大王……これも今となっては古い話だが、そんなものよりもよっぽど身近な恐怖だろう。
そんな人間が自分のところに来やしないか、暴走して自分達に武器を振り下ろしてきやしないか……その恐怖は全員が捕まって、このビラが剥がされるときまで続くのだ。
それに衛兵さん達だってそれまで警戒状態を解けず、疲れるはずだ。早く元の状況に戻るためにも、早く解決してほしい。

お店の人に情報のお礼を言って離れたところで、ノーラがログインしていることを確認した。早速ウィスパーを入れる。
【ノーラ、ご注文のマスクが用意できた。今から渡しに行っても問題ないかな?】
【あ、出来たの! じゃあ昨日と同じくうちのギルドエリアでお願いね!】
了解、と答えてウィスパーを切る。少々小走りでギルドエリアを目指し、中に入る。
「こんばんは、ノーラ」
「こんばんは。じゃあ早速で申し訳ないんだけど見せてもらえないかな?」
ノーラの要望に応えてマスクを出す。今回はカザミネ用に作ったような手の込んだものではなく、普通の形状だ。
「一応今着けてみてほしい。重量をできるだけ軽くしたが、しっくり来ないなら調整を入れる」
言われた通りにすぐノーラはマスクを装着し、使い心地を確かめる。
「うん、ありがと。これぐらいの重さなら動きを妨害されることはなさそうね」
調整がうまくいっていて何よりだった。
「なら、問題はないようなので、そのまま使ってくれればいいよ。マスクを売る露店もちらほらと出てきているし、これで自分がマスクを作るのはお終いかな」
〈上級木工〉のスキルLvを上げる手段をまた考えなくてはならないな。
「あーうん、確かにマスクを売るお店が増えてきているわね。稼ぎ時と見ているのかけっこうなお値段がするけど、まあまだ気楽に払える範疇はんちゅうだわ。サーズの山道ダンジョンで戦っているような人達からすればの話だけど」
だろうな、きつい場所には相応のリターンがなきゃいけない。キストラップだけじゃなく、落下死の恐怖が常に付きまとう山道ダンジョンだが、行く人が減ったという話は聞かない。危険度の高さ相応に美味おいしいのだろうな、金銭的にもスキルLv上げ的にも。
「ノーラはこれからサーズに行くのか?」
「そうね、マスクも貰ったし。ああ、代金はこれ……」
ノーラから代金を受け取ろうとした瞬間――カンカンカンカーン! カンカンカンカーン! とかねの鳴り響く音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
「何事!?」
自分とノーラが同時に叫び、そしてお互いに顔を見合わせる。

──緊急警報、緊急警報! 中央役場より対象者全員に対し、強制的に音声を流しています! この警報はファスト、ネクシア、サーズに存在する全ての人に対する警報です。繰り返します、ファスト、ネクシア、サーズに存在する全ての人に対する警報です! 我々中央役場でも全ての状況を把握できておりませんが、現在ファスト、ネクシア、サーズの街に対して攻撃を仕掛けようとモンスターの大集団が侵攻中であることが確認されました! 各街の全衛兵は直ちに防衛状態に移行してください! 住民の皆さんは至急家の中に入り、できるだけ防御を固めてください! 冒険者の皆様は、実力に自信があるのであれば防衛に参加を、自信がなければ宿屋などに入り、出歩かないでください! 全ての街道はモンスターが迎撃されるまでの間、衛兵、ならびに協力する冒険者専用と致します!――

「──突発イベントかしら?」
「──街襲撃イベントはある意味、MMORPGでのお約束だが……どうする?」
「どうするって、ここに引っ込んでいるわけにはいかないでしょ? あたしも、君も」
「もっともだな。じゃあノーラ、ここでパーティPTを組んでおこう」
「そうね。ツヴァイ達はサーズの防衛に回るって、ギルドチャットで伝えてきたわ」
「了解した。倉庫に行けるのは今のうちだけだと思うが、行く必要はあるか?」
「ないわね」
ノーラと臨時PTを組むと、早速前線に出るために動き始めた。ギルドエリアから出ると、走り回っている衛兵を見つけ、防衛戦に参加したいという意思を告げる。
「そうか、ではこちらに来てくれ! 人手不足で手薄になっているんだ!」
そのまま先導されて、戦場へと向かう。唐突に始まった襲撃……ただのイベントなのか、それともまたゲヘナクロス教国のようなアホが動き出したのか……?

    ◆ ◆ ◆

案内された先はファストの街の北門だった。
ファストは東に龍の国、南にネクシア、西にサーズがあり、それぞれの門を崩してバリケードを築いてしまうと後々の通行への影響が大きい。しかしここ北門の先はまだこれといってどこかに繋がっているわけでもなく、人通りも少ないため、最悪の場合はバリケードにすることも辞さないそうだ。その代わりに、他より人数を割けないという事情らしい。衛兵さんはそう教えてくれた。
実際、北門に居るのは大半が冒険者だ。人族、龍人族、妖精族に加えて、数名のエルフも見かける。目が届く範囲でそれぞれの武器を確認すると、衛兵さんは槍と剣、龍人さんは大半が大太刀でたまに斧使いがちらほら、妖精さんは弓や片手剣と杖、エルフさんは全員が弓だった。前衛が七に対して後衛が三、といった割合だろうか。
「じゃあ、あたしはアタッカーとヒーラー兼任で前線に行くから」
「了解。自分は基本的に中衛から後衛のスタンスだから、ここに居るよ。あまりPTを組んだ意味がないなぁ」
「味方が予想より大勢だったからね……まあ、とりあえず後でね」
ノーラと軽く会話を交わしてから、戦闘準備に入る。愛用の【双咆そうほう】を構え、矢の状態を確認し、軽く首を回して緊張をほぐす。集中するにはガムでもあればいいんだがなぁ。
と、敵モンスターの偵察に出ていたと思われる一人の盗賊風の男性が、衛兵の隊長に報告している様子が窺えた。衛兵の隊長はその情報を整理した後、北門の守りに就いている全員にこう告げた。
「勇気ある斥候せっこうの活躍により、敵主力は多数のオーガであると判明した! そしてそのオーガをまとめているのは、上位モンスターのオーガリーダーと見られる! オーガは筋力、腕力に物を言わせる戦闘が得意だが、それに付き合う必要はない! 奴らの間合いの外から槍で突くなり矢を射るなりするように! 防御を得意とする者は積極的に前に出て、オーガ達の足を止めよ! オーガリーダーは自然治癒力の高い難敵ではあるが、五匹程度しかおらぬらしい。また、火で肌を焼けばその治癒スピードも大幅に鈍くなる! 火の魔法を扱える者はオーガリーダー用に魔力を温存するようにしておいてほしい!」
山道のダンジョンに生息するはずのオーガが、なぜこっちに来るんだ? イベントだからといってしまえばそれまでではあるが。わざとトレインさせるには無理がある存在だから、指名手配犯の残り二人がヤケを起こしたというセンは消えたし。
いや、今そんなことを考えても仕方ない。戦闘に入る前に、PTチャットでノーラに質問をしておこう。
【ノーラ、戦闘直前にすまない。オーガの弱点は大体人間と同じと考えていいのか?】
【そうね、顔を狙えばいいわ。自信があるなら首でもいいけど……逆に、体は筋肉のかたまりだから、突き刺すよりも斧なんかでぶん殴るほうが有効みたい。前にツヴァイが両手剣で突きを入れたことがあるんだけど、ほとんど刺さらなかったわ】
【了解、いい情報をありがとう】
【お互い頑張りましょ】
ツヴァイの突きでも効かないとなると、弓を使う自分では顔への攻撃以外でダメージを与えるのは難しいと考えたほうがいいだろう。幸い前衛の人数は多いのだから距離は取れる。しっかり狙ってヘッドショットを喰らわしていかないとな。
それから二分ぐらい経った頃だろうか。ズシンズシンと足音が聞こえてきた。その大きさから、相当数のオーガが襲いかかってきていると容易に予想できる。〈百里眼〉で確認してしまえば一発なのだが、どうせこっちに来るのだ。無駄なマジックパワーMPの消耗は避けるに限る。
「総員、迎撃準備! 無駄に命を散らす必要はないが、奴らを街に入れてはならんぞ!」
隊長の声で、北門防衛に就く皆が一斉に武器を構えた。もちろん自分も、初手は広範囲攻撃で足止めすべく、弓のアーツ《スコールアロー》の発動準備を終えている。後はオーガ達が射程内に入ったところでブチかますだけだ。
「後衛部隊は、敵の先頭部隊にそれぞれの方法でキツイ一撃をくれてやれ! 前衛部隊はその一撃で向こうがひるんでいる間に前進し、各自討ち取れ! 傷を受けたら早めに退避し、回復の支援を受けよ! 前衛が崩れれば後衛が、そして街が危険にさらされる! よいか、死なずに持ちこたえよ!」
隊長からの指示が次々と飛び、あちこちから「オウ!」とか、「了解!」などと声が聞こえる。そしてこの間にも足音はより大きくなってきて……やがてついに敵が姿を見せ始めた。次から次へと、これでもかと言うように林の中からぞろぞろ溢れ出してくる。
その光景はまるで黄土色の壁が迫ってくるようにも見えた。オーガ達は上半身裸で、それぞれ棍棒やハンマーなどを持っている。人ならば両手でないと扱えないほどのサイズのそれらを片手で軽々と振り回している時点で、オーガの並外れた筋力がよく分かる。
「後衛部隊は、最初の一撃だけは私の合図で仕掛けよ。その後は各自遠慮なく攻撃を加えて構わぬ!」
この隊長の声を聞いたからかは分からないが、オーガ達は一斉に街に向けて走り始めた。足音がより一層強く響き渡り、地面は小さな地震が引き起こされたかのように揺れて、映画のワンシーンを思わせる迫力があった。
「後衛部隊、攻撃放てえ!」
「《アースクエイク》!」「《エクスプロージョン》!」「《ソニックハウンドアロー》!」「《スコールアロー》!」「《ハイ・トルネード》!」「《ファイアウェーブ》!」「《グラヴィティエリア》!」「《アイシクルパレッド》!」「《フレイムランスガトリング》!」「《ニードルレイン》!」
様々な魔法とアーツが乱れ飛び、敵の先頭部隊を吹き飛ばして光の塵へと変える。しかし、そんなことなどお構いなしにオーガの集団はこっちに迫ってくる。
「前衛部隊、前進せよ! 各自オーガの足を止めろ! 後衛部隊は味方を巻き込む攻撃は控えよ! 魔法は奥の集団に向け、弓は前衛の支援を行え!」
そこからこちらの前衛とオーガ達との押し合いが始まった。オーガの一撃をまともに食らって吹っ飛ぶ人もいれば、逆にオーガを吹き飛ばす人もいる。魔法使いはそんな衝突が起こっている場所の少し奥に魔法を放ってダメージを積み重ね、自分を含めた弓部隊はオーガの顔を狙って次々と矢を射る。自分の命中率は三、四割といったところか。肩や胸に当たって簡単に弾き返されるのがもう三割で、残りは完全に外している。激しく動いているので狙いが定まりにくいが、泣き言を言っていてもしょうがないので、とにかく手数でカバーする。
「傷ついた者は下がれ! 治癒能力持ちの者は急いで治療を行え!」
めまぐるしい戦闘が広範囲にわたって行われているため、隊長は指揮を下すタイミングにかなり苦慮している様子だった。おそらく彼としても、ここまで大掛かりな戦闘を体験したことはそうそうなかったのだろう……ちっ、また矢が外れた。
(こんな状況で不謹慎ふきん しんだが、少し実験をしてみるか)
【双咆】にMPをささげて、八割の力で矢を放つ。矢を放ったときに出た派手な音で周りの弓使いの人達を驚かせてしまったが、これならオーガの体部分にも深々と突き刺さった。
「そんなに大きな音が出るのなら、撃つ前にひと言言ってくれよ!」
近くに居たエルフの男性に怒られてしまった。すまない! と返答して次の矢を放つ。MPの消費を考えると乱発はできないが、どうしても止めたいオーガが出てきたときには使える攻撃だろう。ぶっつけ本番では不安があったからな……
それにしてもこの【双咆】、全体から見れば二流から三流の間に過ぎない自分が作ってこの性能である。素材と会話できるような一流職人に作ってもらっていたら、一体どんな品になったのだろうか?
こちら側の猛攻を受け、オーガは次々と倒れていくが、黄土色の壁はまだまだ健在。残念ながらこちらの前衛にも死亡者が出ている。そんな一進一退の状況に更なる一手を打ってきたのは……オーガ側だった。
「オーガリーダーが一匹、前に出てきたぞー!!」
前衛からの絶叫に近い報告で、全軍にざわめきが走る。そして次の報告で、特に自分の居る後衛側が一斉に焦ることになった。
「後衛全員に注意! オーガリーダーが馬鹿でかい岩を持ち上げて投げようとしている! お前達を狙っている可能性が高いぞ!」
前衛が崩れないのは、後衛がちょっかいを掛けているからだと判断したのだろうか。だとすると、オーガリーダーはオーガよりはるかに頭がよいようだ。
「後衛は散開せよ!」
隊長が指示を飛ばすが、後衛組はかなりぎっちりと並んでしまっている状態なので、そうするには少々時間が必要だ。そして結局は回避行動を終える前に、数人まとめて簡単にプレスされるぐらい大きな岩が、容赦なく飛んできたのだった。
(させるか!)
飛んでくる岩を確認した直後、自分はとっさにMPをガツンと捧げて全力で【双咆】のげんを引く。それから十分にひきつけて――《ソニックハウンドアロー》を放った。
ウオオオオオォォォーーーーンン!!!! と派手な龍の咆哮ほうこうが響き渡り、放たれた矢は岩の中央をぶち抜いた。そこに《ソニックハウンドアロー》による空気振動の効果も加わって、岩はだいぶ砕けてくれた。
一方、発射の反動を受けた自分は、地面にめり込むような形になってダメージをくらい、ヒットポイントHPが三五%ぐらい一気に減ってしまった。また他にも数名が降り注いだ岩の破片によっても軽傷を負っていた。だが、即死者を出すよりマシだと考えて取った行動なので、今回は許してほしいものだ。幸い回復魔法が使える魔法使いが近場に居て、皆すぐに治療してもらえた。
「力任せとはいえ、後衛に直接攻撃してくるなんて……困ったわ」
妖精の魔法使いが漏らした言葉は、後衛組全体の本音だろう。前衛に防御を任せて大ダメージを与え続けるという後衛の得意技が、一気に難しくなってしまった。そんな状況下で、防衛戦はまだまだ続く。
「前衛へ、先ほどの岩攻撃への対処は成功した! 後衛の被害は幸いにして大きくない! だが後衛からはオーガリーダーの姿を視認しにくい。前衛で気がついた者が居れば、大声を上げて警告を発してほしい!」
指揮官がそう通達すると、すぐさま了解の意思を伝える声が前衛の人達から返ってきた。前衛も後衛も持ちつ持たれつ、どちらが偉い、とかはなく、どちらも偉いのである。勝利を得るためにはどちらが欠けてもいけない。お互い最大限の協力をし合うほうが、結果はよくなる。軍隊のような組織だった訓練はしていなくても、冒険者はPTを組んで行動することでそれを理解しているのだ。
「後衛は今のうちに散開し、岩攻撃を回避できるだけの間合いを空けよ! あのような大岩に潰されたら即死だぞ!!」
隊長に言われるまでもなく、後衛の皆は必死で散開し、ある程度の空間を確保した。もちろんその後は、魔法や矢による攻撃を再開する。先ほどの大岩へのお返しとばかりに、より高位の魔法が目立つのは気のせいではないだろう。
オーガ達がひしめき合う場所で火が舞い、氷が落ち、風が切り裂き、土が貫く。オーガ達は数が多すぎることが災いし、回避もできず次々と倒れては消えていく。
「後衛に負けるな! 俺達ももっと多くの首をねるんだ! 頭を潰せ、切り落とせ! そしてオーガの集団を押しつぶしちまえ!」
「「「「「おおおおおおっ!!!!!」」」」」
苛烈かれつになった魔法攻撃が前衛の士気を高めたようで、誰かの呼びかけをきっかけに、前衛はオーガの軍団を目に見えるくらいに押し始めた──しかし今の声には聞き覚えがあったな……どこで聞いたんだ? 声の主が妙に気になって、おなじみ《大跳躍》と《フライ》の上空跳躍コンボを使って戦場の最前線を見下ろしてみる。
ぶっ潰せ! と周りを鼓舞こぶしながら最前線で戦う黒い甲冑の男は、片手剣と盾を構えてオーガを次々とほふっていく。上手いな、あれは上位プレイヤーの一人に違いない。たまたまファストに滞在していたのか。それにしてもあの剣のえ……まさかあいつはグラッドか?
前衛の戦いぶりに見とれてばかりもいられないので、奮闘する前衛より少し奥を狙って上空から矢を射ることにする。【双咆】にMPを捧げてから、貫通力にひいでる【ツイスターアロー】の矢をつがえて弦を八割まで引き、アーツ《アローツイスター》を発動した。同時に【双咆】の特殊能力である「龍の軍隊」が久々に発動、四匹の小さな龍が矢に追随してオーガの集団を次々と貫いていき、かなりのダメージを与えられた。
それをチャンスと見た前衛が、次々とオーガを斬り裂いていく。それを確認した自分は地面に着地して、また元のようにオーガの頭の狙撃を始めた。アクロバットな攻撃を連発すると、すぐにMPが尽きる。【ピカーシャの心羽根こころば ね】などの強烈な装備があっても、そればかりはどうしようもない。何せ自分はMP自体が少ないのだから。
最初はたくさんのオーガで壁が出来ていた北門前だったが、後衛の魔法や弓矢に始まり、前衛の勢いづいた攻撃の影響もあっていつしか壁には亀裂きれつが入り、ほとんどが駆逐くちくされた。
時たま後衛にまで大きな岩が飛んでくることもあったが、散開していたおかげでそうそう当たるわけもなく、落ち着いて対処できた。
ここまで戦況が傾けば当然、向こうはボスが出てこざるをえなくなる。前衛から「オーガリーダーが前に出てきたぞ!」との声が響くと、戦場全体に緊張が走った。
多数の敵を倒してきた結果、前衛後衛共に疲労が蓄積ちくせきしているし、「リーダー」や「キング」の名を持つモンスターはその肩書きに負けない高い実力を備えている。
「後衛で火を扱える者は少し前へ! オーガリーダーの肌を焼いて再生能力を下げさせ、前衛を援護するのだ!」
隊長の指示に従い、数人が次々と前に出て炎を浴びせかける。向こうも盾やモーニングスターのようなトゲ付き鈍器で飛んでくる魔法を防ごうとする……が、さすがに数の暴力には負けて、五匹の内の二匹が被弾して炎上した。
「今だ、炎を受けたオーガリーダーに集中攻撃を加えよ! 肌が焼けただれている時間はそう長くない! 回復される前に討ち取るのだ! 炎に耐え切った奴には防御に優れる者が対応し、連携を分断せよ! 二匹討ち取れば勝ちが見えるぞ! 後衛の炎使いは引き続きオーガリーダーへ攻撃を! それ以外の属性を扱う魔法使いや弓使いは残りのオーガを始末するのだ!」
少なくなったとはいえ、オーガを完全に駆逐し終えたわけではない。その腕からくり出される一撃をもろにもらえば、重装備の人でも危険なのだ。未だこっちの士気が高いのが救いだが、決して油断はできない。後衛である自分達が少しでも数を減らしてやって、前衛の負担を軽減する必要があった。
氷、風、土の魔法、そして矢が次々と放たれる。前衛の奮闘も手伝って、敵は次々と減っていった。すると僅かながら、全体に心理的余裕が出てきた。治療を受けて前線に復帰するサイクルも慌てた印象が薄らいでいる。HPが七割ぐらいまで回復したら復帰せざるをえなかった戦闘序盤に対し、今は九割まで回復してから戻る感じだ。

やがて、戦場から逃げ出すオーガも出始めた。逃げ出した奴は深追いするなという隊長の指示に従い、自分達は襲い掛かってくる個体のみを倒し続けた。その結果、戦場に残ったオーガは、オーガリーダーの後ろで明らかに戦意をなくしている。オーガリーダーを全滅させれば、すぐさま逃げ出すだろう。
──だが、そのオーガリーダーは五匹とも健在であった。しかも最初に炎を食らって再生能力が低下したはずの二匹の内一匹は、なんとすっかり回復してしまっていた。前衛も炎の魔法使いも必死で攻撃を加えているが、効果的な一撃は出ていないようだ。
その上、こっちも炎の魔法を使う魔法使い達の大半が力なく座り込んでいる。理由はMP切れである。もちろんMP回復のポーションも飲んでいたにせよ、飲み過ぎれば[ポーション中毒]になり、命に関わる。回復を促進するスキルを使いながら少しでも休息を取り、自然回復を待つしかない状況なのだろう。とにかく彼らのMPが回復するまで、前衛がこらえ続けなければならない状態に追い込まれつつあった。
しかし、ここまで戦ってきた疲労で集中力が低下しているのか、一人、また一人とオーガリーダーの一撃で吹き飛ばされる前衛の姿が、MPを回復中の自分の目に嫌でも入ってくる。
それでも、アイテムや魔法で回復させてやれる範囲ならまだいい。即死して蘇生薬を投与されている者もいるし、更には受けたダメージがあまりにも重過ぎて、蘇生薬を投与してもらっても光となって消えていく者も残念ながら見受けられた。
プレイヤーの蘇生方法は未だ不明のままで、この蘇生薬投与を受けられるのはこっちの世界の人だけだ。しかも成功しても、プレイヤーの死に戻りと同じく蘇生直後は能力が下がるようで、戦闘には復帰できない。こうして、前衛の数は確実に削られていった。
「まだMPは戻らないか!?」
隊長もかなり焦って座り込んでいる魔法使い達に呼びかけるが、それに応えて立ち上がる者はごく僅か。そうして少しでも前衛を助けようとあがいても、オーガ相手に無双していたときとは状況が違い、徐々に嫌な空気が立ち込めてくる。
「くっ、せめて未だ肌を焼け爛れさせているあのオーガリーダーを屠ることができれば、展望が見えてくるのだが……!」
隊長は悔しそうにそう声を漏らす。衛兵のほとんどは戦闘不能状態になるか完全に死亡してしまっていて、生き残りはごく僅か。現時点で戦線を支えているのはプレイヤーと龍人である。
いよいよという状況になって、MPを回復した自分はアイテムボックスにしまっておいた【強化オイル】を使う決意をした。またこいつに頼ることになってしまうが、ここで押し込まれたらオーガ達に勢いがついて、北門からファストの街に入られてしまう。北門を崩すにも時間が足りない。
街の人々が蹂躙されるなんて展開は回避しないと、ここまで戦ってきた意味がないし、死んでしまった人も報われない。【強化オイル】を惜しむわけではないが、後衛担当の自分が前に出ることは連携的によくないし、爆発の衝撃で味方を吹き飛ばしてしまう可能性も高い。だが、もうそんなことは言っていられない。
再び《大跳躍》と《フライ》で浮かび上がってみると、元気な四匹に邪魔されて、肌を焼け爛れさせているオーガリーダーを倒せずにいる状況が見て取れた。自分は【強化オイル】を取り出すと、滑空する形で現場へ近寄っていく。急がなければ《フライ》の効果が切れて、オーガリーダーの上に墜落ついらくしてしまう、なんてこともありうる。
無事オーガリーダーの頭上に到着した自分は、大急ぎで声を張り上げた。
「今からこいつらを燃やすから、最前線の人は巻き込まれないように少し引いて盾を構えてくれ!」
準備が間に合うかどうかを確認することはできなかった。なぜなら、《フライ》の効果時間はあと数秒しか残されていなかったからだ。
焼け爛れているオーガリーダーには一本、それ以外のオーガリーダーには二本ずつ、【強化オイル】を投げつけた。その直後に滞空効果が切れて落下し始めたので、【双咆】の空撃ちによる空気の爆発を利用してオーガリーダーの頭上付近から無理やり退避する。
数秒後、自分は地面とキスするように墜落。HPの半分ほどを落下ダメージで持っていかれた。それでも、以前のゲヘナクロスとの戦争のときのように死ななかっただけ、はるかにマシだ。
後から聞いた話だと、ドゴンドゴン! とオーガリーダーの頭上や上半身で爆発が起きた後、一斉に炎上していったらしい。
簡単に鎮火されなかったのは、【強化オイル】が液体であったためのようだ。砕けたびんから溢れ出した中身のオイルがオーガリーダーに纏わり付いたところで、もう一つの中身である【爆裂鉱石】が着火。近くにいた前衛の人も爆風で少々吹き飛ばしてしまったらしいが、ともかくオイルを振り払えず、燃え続けたということだ。

ちなみに、そのときの自分が理解できたのは……鼻を押さえつつ立ち上がったところ、でかい火柱が上がると共に、オーガリーダーのものと思われる悲鳴が響いたことぐらいだった。

【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv4(←1UP) 〈剛蹴〉Lv18 〈百里眼〉Lv21 〈製作の指先〉Lv98 〈小盾〉Lv20
〈隠蔽・改〉Lv1 〈武術身体能力強化〉Lv33(←1UP) 〈義賊頭〉Lv18
〈スネークソード〉Lv34 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv1
控えスキル
〈上級木工〉Lv17(←1UP) 〈鍛冶の経験者〉Lv4(←1UP) 〈上級薬剤〉Lv20
〈上級料理〉Lv49
ExP31
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
   託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人



 3

「おお!? オーガリーダーが炎上したぞ! 今が好機だ、皆、全力で攻め立てよ!」
隊長の声が街の防衛者達に届く。
「変身できる奴は、ここで使ってブッ倒すのを手伝え! 俺が先陣を切ってやるからよぉ!」
続いて聞こえてきたグラッドの声に従って、プレイヤーの数名がワーウルフやビーストヒューマンに変身していった。
本音を言うなら、皆温存しておきたかったかもしれない。変身は時間制限があるからな……何せここの運営は、「やったか!?」→「げえっ、○○!」というどんでん返しの状況をよく作る。大幅に能力が強化される変身は、そういった状況に対する切り札になるはずだった。
だがここで押し切らなければ、状況がより悪くなるとグラッドは踏んだのだろう。そして、自分で言い出したからこそ、自ら先陣を切って周りを引っ張ろうと考えたに違いない。
グラッドと共に変身したプレイヤー数人は次々とオーガリーダーに襲い掛かり、剣や爪による攻撃を加えていく。オーガリーダーもそれらの攻撃に対抗しようと試みるが、グラッドの盾に阻まれたりワーウルフのスピードに追いつけず攻撃が空を切ったりと、戦闘はグラッド達が優勢で展開し始めた。そしてそんなグラッド達を見た衛兵と龍人の皆さんも、声を上げてもう一度オーガリーダーへの攻撃を再開する。
今回の敵と相性が悪い水系統の魔法使いは回復役に回り、他の属性魔法の使い手や弓使いはオーガリーダーの顔など前衛の攻撃が届きにくい場所に魔法攻撃と矢の雨を降らせていく。
そうして五分ぐらい戦った後、一番ダメージが溜まっていたと思われる一体の首へ、一本の剣が突き刺さった。その剣はそのまま容赦なくオーガリーダーの頭と胴体を切り離す。タフなオーガリーダーも、さすがに首を刎ねられては生きていられない。その巨体はドウッと音を立てて大地に沈み、光の粒子となって消失した。ついに一匹目が息絶えたのだ。
「オーガリーダーを一匹始末した! このままこいつらをブッ殺すぞ!」
再び前衛のほうからグラッドの声が上がると、皆も「「「「「おおっ!!」」」」」と応答する。
五匹の内の一匹が消えた今、ファスト防衛軍はオーガリーダー達を二匹ずつに分断することに成功していた。これなら背後にも回れるし、より手数を増やして攻めやすい。
その後ろに居るオーガ達には後衛がちょくちょく攻撃を飛ばし、前衛の背中を襲わせないよう牽制けんせいしていた。オーガ達が戦意を失ったとはいえ、それは一時的なものに過ぎず、こちらが隙を見せたら遠慮なく牙を剥いてくることは皆が重々承知だ。だからこそ、少し離れた場所から戦場を見られる後衛が、踏み込んでくるなら殺すという宣言を無言のうちに行っている。
分断されて前後挟み撃ちの形を取られてしまったオーガリーダーは、多くの攻撃を受けて確実に弱っていった。あらゆる武器や魔法による攻撃で体力を削られる一方、【強化オイル】の炎を受けたせいで頼みの回復力は機能していない。いくら肉体的にタフでも、攻撃を受け続ければいつかは倒れる。そうして、龍人の振るう大太刀により二匹目が真っ二つになって絶命。続いて三匹目が炎の魔法によって塵と化した。
「残り二匹だ!」
もう隊長の声に絶望感はない。実際、オーガリーダーが減るごとに攻撃のチャンスは増え、逆に被弾率は下がっていくのだから当然だ。取り囲まれた二匹もよく粘ったが、四匹目は衛兵さんの振るう槍の渾身こんしんのひと突きを心臓に受けて息絶え、最後の五匹目はワーウルフに変身していたプレイヤーの爪攻撃を首に食らい、ゆっくりと倒れて光に還った。
「やったか!?」
プレイヤーと思われる誰かが死亡フラグを立てたように思われたが、そのフラグは成立しなかったようだ。オーガリーダーの全滅を見たオーガ達は一目散に逃げ出し、戻ってくることはなかった。
それからしばらく斥候を出して周辺を調べ、オーガが完全にどこかへ消え去ったことが確認されて、ようやく戦闘終了&勝利宣言が出されたのである。
「今、情報が入った。ファストの全ての門の防衛に成功、我々の完全勝利だ!」
隊長のこの言葉を聞いた途端、勝利の雄叫おたけびを上げる者、やっと終わったかと座り込む者などなど、それぞれが緊張から解放された喜びを表して、北門前に穏やかな空気が漂い始めた。
「皆、よくやってくれた! 防衛に貢献してくれた皆は、記録水晶に記録済みだ! 後で役場から褒賞が出るはずなので、必ず受け取ってほしい!」
隊長はそう締めくくってから、指揮を取っていた高所から降りた。
そうして、自分が弓をしまいつつ腰に手を当ててふぅーっと大きく息を吐いていると、戦闘中【双咆】の音に抗議してきたエルフの男性が話しかけてきた。
「おつかれだな。しかしその弓、いちいちやかましい音が出るのはどうにかならないのかね?」
「おつかれです。色々訳ありでして、どうしてあんな音が出てしまうのかは分かっていないんですよ」
なぜ七割以上の力で弓を引くと銃声のような騒音が出るのかが分かれば、対処方法も考えようがあるのだが。
「エルフの森に飽きて飛び出してきたが、弓一つとってもまだまだ知らない物が多いな!」
やはり、彼の出身はそこなのか。
「森の生活よりも、刺激的な外の世界を楽しみたいというわけですか」
自分の質問に、「そうそう、それだ」とエルフの男性は頷く。
「無駄に長生きなものだから、退屈で仕方がない。外を回って見聞を広めるというのは実に楽しいな! 年老いるまで生きていられたら、それまでの冒険を一つの本としてつづるつもりだ」
それを読んでみたい気もするが……エルフは場合によっては数千年生きるという。こっちの寿命が持たんな。
「そうそう、あまり見所はないかもしれないが、いつかエルフの森に行くことがあったら、是非のんびりしていってくれ。エルフの森に飽きたら、ダークエルフの谷を訪れてみるのもいいだろうな。ただし、ひとつだけ……忠告がある」
忠告? と自分が首をかしげると、エルフの男性は「ああ、そうだ」と前置きをしてから話を続ける。
「森の大いなる守護樹すらよりも変にプライドが高い、ハイエルフという連中が居るんだ。奴らにはまず話が通じないと思ったほうがいい。我々エルフやダークエルフにも高圧的に出るが、他の種族に対してはもはや差別主義者だ。万が一エルフの森で出会ってしまったら、適当におだてて行ってしまうのを待つことをお勧めするよ。まあ彼らも、自分達のテリトリーから滅多に出てこないがね……」
それでも一応の忠告をしておくよ、とエルフの男性は言う。それに、自分は頭を下げて感謝の意を示した。エルフの男性は最後に「また出会ったら、そのときは一緒に食事でもしよう。君の顔は覚えておくよ」と言って街の中に立ち去っていった。
そして自分も帰るかと街方面に足を向けたところ、再び呼び止められる。
「おいお前……ツラ貸してくれよ」
足を止め、声が聞こえてきた方向をゆっくり振り向くと、黒い鎧に赤いマントを装備したグラッドと、そのPTメンバーだと思われる人達が立っていた。
「自分に何か御用ですか?」
もしかして、【強化オイル】で吹き飛ばしたことに対する抗議か? だがそんな心配をよそに、グラッドは兜を脱いで自分の素顔をさらした後で、こう問いかけてきた。
「たぶんそうじゃねーかと思ったんだがよ、あんた、アースじゃないのか? フェアリークィーンをブッ倒した……」
ふーむ、懐かしいな。あのときと同じ【強化オイル】を使ったところからばれたのかもしれない。まあ逃げる必要もないので、こっちも兜をアイテムボックスに戻して、外套のフードを取る。それから頬当ても外して、素顔を見せた。
「確かに自分はアースですが……グラッドさんとは、こうやって会話をするのは初めてになるのかな。あの妖精イベントのときは、近くにいたとはいえ、会話らしい会話は一切しなかったですから」
自分が戦う直前にクィーンに負けて打ちのめされた彼を、こっちとしても少々心配したものだ。今はこうやって仲間を見つけて冒険している姿を見て、自分は少しほっとしていた。
「そういや、そうかもな……だが、妖精を連れ歩いていない様子に加えて、あの爆炎を見てほぼ間違いないと思ってよ。あの手のアイテムを作る職人は多いが、あそこまで大きく炎上させる性能のものは、まだ作り手も使い手も多くはねぇからな」
そうなのか。確かに自爆する可能性もあるし、前衛にせよ後衛にせよ両手がふさがっていることがほとんどで手が空くことはあまりないから、扱いにくいだろうな。
「──それに、お前がフェアリークィーンをブッ倒したときの動画は何度も見返した……声を聞き違えることも、もうねぇぜ」
それはまた……
「ついでによ、個人的に聞いておきたいことが一つあってな。以前、『死者の挑戦状』とかいうダンジョンがあったのは覚えてんだろ?」
「もちろん。あそこでは散々罠も踏んで、痛い思いもしています」
あれは復活しないのかねえ……ローグライクなダンジョンも幾つかあると楽しいのだが。
「そして、あのダンジョンの隠し条件をクリアした六つのPTによるバトルロイヤルがあったことも、忘れてねえよな?」
「それも、もちろん覚えていますよ。見に行くことはできませんでしたが」
「そんときに、単独ソロクリアの条件を果たした人間が、出場を辞退しやがったんだが……あれはもしかして、てめえじゃねえのかよ?」
「さて、どうでしょうか? 正解と言うにも間違いと言うにも、証明する方法がありませんからね……」
やれやれ、随分と前のことを引っ張り出してきたものだ。だがまあ、ここは適当にとぼけておこうか。グラッドに言った通り、答えを証明する方法自体が消滅している。
「そうか……俺はてめえだと睨んでたんだがな」
「一流プレイヤーのグラッドさんにそこまで評価してもらえるのは嬉しいですけど」
掲示板で現時点の最強は誰かという話題になると、グラッドの名前がほぼ確実に上がる。加えて、(「ぜろ」のおまけコメント付きで)ツヴァイ、シルバーのおじいちゃん、弓ギルドのアヤメさん、「炎槍舞えんそう ぶ」ランダさんあたりか。おそらくグラッドの後ろに居るメンバーも、グラッドに近い実力を持つ強豪プレイヤーなのだろう。
そんなことを思っていたとき、再び中央役場からの声が届いた。

──通達します。現時点をもって、ファストに押し寄せていた魔物達の完全排除を宣言します。町の皆様は普段通りの生活にお戻りください。防衛に協力してくださった各国の冒険者の皆様には、後日褒賞をお渡しします――

これを聞き、周りの人達が一様にほっとした表情を浮かべる。しかし、話にはまだ続きがあった。

――……そして、更なる報告があります。ファストは解放されましたが、ネクシアは門直前まで魔物達に押し込まれており、サーズも未だ戦闘続行中との情報が入っております! もしまだ余力が残っている冒険者様がおられましたら、どうか救援をお願いします! もちろん強制ではありませんが、魔物に街を破壊され、略奪されますと、復興自体が難しくなってしまいます! どうか、可能な限り救援に向かってください!――

なんだと!? サーズは滞在中のプレイヤーが多いから持ちこたえられるかもしれないが、ネクシアはそういうこともない分、押し切られてしまうかもしれない。
【ちょっと、アース君、今の放送を聞いた!?】
ノーラからPTチャットが入った。グラッドに対して「すまない、ちょっと失礼する」と断りを入れて、ノーラに対応する。
【ああ、聞こえていたよ】
【あたしはサーズに行こうと思うんだけど、アース君はどうするの?】
【自分はネクシアに行こうと考えているかな】
【そう、じゃあPTはここで解散ね……お互いもうひと頑張りしましょ】
【だな。じゃあまた今度】
ノーラとの話を終えて、PTを解除した。さて、こっちも行動を再開しないと。
「お待たせした。そして申し訳ないが、今からネクシアに行くのでここで失礼させてもらいます」
そう告げてグラッド達の前から立ち去ろうとしたのだが……グラッドはこう提案してきた。
「そうか……なら、ネクシア救出までの間だけ、こちらのPTに入ってみるか? 枠は一つ空いているぜ?」
なんと……?


【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv5(←1UP) 〈剛蹴〉Lv18 〈百里眼〉Lv21 〈製作の指先〉Lv98 〈小盾〉Lv20
〈隠蔽・改〉Lv1 〈武術身体能力強化〉Lv33 〈義賊頭〉Lv18 〈スネークソード〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv1
控えスキル
〈上級木工〉Lv17 〈鍛冶の経験者〉Lv4 〈上級薬剤〉Lv20 〈上級料理〉Lv49
ExP31
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
   託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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