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8-3

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ネクシア&サーズ救援隊として集まった冒険者は……ネクシア側一二人、サーズ側一〇人だけであった。無理もない。防衛戦に参加した人達の大半に、余力など残されていなかったから。逆に言えば、この二二人は余力を残せるだけのツワモノか、要領よく立ち回ったか、回復力が高いか……である。
「苦しい状況の中、ご協力ありがとうございます」
ファストの代表者が、集まった人達に対して頭を下げる。
「ただいま特別な馬車を用意中ですが、あと一五分ほどかかります。その間に各自道具の補充、武具の修理を済ませてください。一五分後にネクシア救援者は南門から、サーズ救援者は西門から出発します。なお、一分以上の遅刻は待ちません。緊急時ゆえ、余裕のないことをご理解ください」
そう告げられた冒険者達は、すぐさま行動を開始した。自分をはじめ、倉庫に直行する人も多い。
「では南門で」
「ああ、遅れんじゃねーぞ」
グラッド達といったん別れて、大急ぎで各種ポーションの補充や【強化オイル】の調合を終える。これで五分経過。
【双咆】の調整を終えたところで八分経過。
必要な物を持って南門に到着した時点で一〇分経過。
その場でドラゴンの肉、ご飯、玉葱たまねぎ、各種調味料を取り出し、《料理促進》を生かしてハイスピードでおにぎり用の具を作って、次々とおにぎりに仕立てていく。一人三個として、ネクシアに行く仲間分の合計三六個を握り終わると、一四分が経過した。ちなみにそれも【ドラゴンのおにぎり】なんてものものしい名前になってしまったので、【肉入りおにぎり】と大人しめに変更しておいた。
と同時に例の馬車が到着した。六人まで同時に乗れるでかいタイプが二台だ。
馬車を持っていた冒険者は皆、一心不乱におにぎりを握っている自分に対して「この状況下で何をやってんだこいつは?」と言いたげな目を向けていた。だが、自分が出来上がったおにぎりを持ち、馬車に乗ろうとしていた人に近づいていったタイミングで、ようやくこっちの意図を理解してくれたらしい。
「ここから更にきつい戦いになるのだから、腹ごしらえだけはしておいたほうがいいですよ」
そう言いながら一八個のおにぎりを渡した途端、その男の腹の虫が食べ物を催促さいそくし始めた。
「一人三個ずつ、ネクシアに向かう途中の馬車で分け合って食べてください」
ただただ頷いて、おにぎりの入った包みを持って馬車に乗り込む男の姿を見届けてから、自分も残りのおにぎりを手に、もう一つの馬車に乗り込んだ。そして一人の遅刻者も出ることなく、時間キッカリに二台の馬車は出発した。
「いきなり料理を始めるから、何をやっているのよと思っていたけど……」
「ああ、そういえばかなり空腹になってきていたな……ありがとさんだぜ」
「ポーションの補充は行ったが、糧食のことは頭から抜け落ちていたな」
「馬車のスピードからしてそう時間は掛からねえだろう、食える時に食っておくぞ?」
「恩に着るぞアース。この状況で温かいものを食えるとは思っていなかった」
といった風に、グラッド達にもなかなか好評だった。まあ、どちらかというと味よりも空腹を解消できたことへの感謝のほうが大きいみたいだが。
ちなみに馬車の中で、簡単ながらグラッドからPTメンバーの紹介を受けた。
紅一点こういっ てんの格闘家ゼラァ。重鎧と両手斧を装備してAtkとDefを最大限に重視した戦士ザッド。ローブ姿で杖を持ち、全属性を扱えるという魔法特化のガル。軽鎧と革鎧を組み合わせたものを着こんで弓を使い、回復魔法も多少使いこなせるジャグド。そして他にもう一人、軽鎧と槍を装備し、機動力を生かして多数の突き攻撃を得意とするゼッドがいるとのこと。この五人にグラッドを合わせた六人による固定PTでいつも活動しているらしい。
「ちなみに、なぜゼッドさんは今回欠席なんですか?」
「さっきのファスト防衛戦でゼッドの悪いくせが出やがった……オーガ達に突っ込みすぎてやられちまってよ」
グラッドが言うには、ゼッドは技量はあるのだが戦いが長引くとどんどんヒートアップしていって、最終的にバーサーカーのように見境がなくなってしまうんだとか。先ほどの防衛戦では相当数のオーガを道連れにはしたものの、つまり今はデスペナタイム中であり、戦闘に出られる状態じゃないってわけか。
「俺がいくら言ってもあの癖は治らないな。それさえなければ間違いなく一流なんだが……」
ザッドがボソッとそう教えてくれた。
「で、基本は俺、ザッド、ゼラァが前に出る。ガルは中衛、ジャグドとアースは後方から弓で支援をやってくれ。ジャグドは〈千里眼〉で状況の報告を忘れんな」
「分かってるっての、いつもどおりだろ? オーガのつるっぱげな頭に、髪の毛代わりの矢を生やしてやるさ」
グラッドの要望に、ジャグドは自信満々の態度で頷く。
「ガル、お前は広範囲高火力魔法の数々でオーガ達を消し炭にしちまえばいい」
「りょーかいりょーかい。誤爆や妨害だけはしないようにするさ〜」
ガルは飄々ひょうひょうとグラッドに応える。その表情にも、緊張を隠して無理やりつくろっている様子は窺えない。
「俺達は後衛に敵が流れないよう注意を引きつけつつ、ぶちのめすだけだ。ゼラァにザッド、やることはいつもと大して変わりねえ、ただザコの数が無駄に多いだけだ」
「分かっているわ、派手にガンガンぶっ飛ばしてやるだけよ」
「ああ、そうだな。この斧にできることは常に一つだけだ」
ぽんぽんと話が進んでいく。これが固定PTの強みだな……お互いの力がどんなものか熟知し合っているから、細かいことまで言わなくて済むし、まず誤解も生まれない。
「で、アース。臨時参加なのに責任の重い仕事を割り振ってしまうが、オーガリーダーが現れたときは例の道具で燃やせ。ガルの魔法を信用していないわけじゃねえが、ファストに現れたオーガリーダーは山道に出る奴らよりはようだ。だから着火させる手段は一つでも多いほうが間違いねえからな」
「了解、そのときだけは自分も前に出ます」
「俺が引きつけておくから、キッチリやれよ」
そこまで決まったところで、御者から「そろそろネクシア近辺に到着しますので、降りる準備をお願いします!」との声が届いた。残っていたおにぎりを各自腹に詰め込み、いつでも降りられる体勢をとる。そうして二台の馬車は止まり、乗っていた冒険者全員が降りると、すぐさまファストへと引き返していった。
「先ほどのおにぎりを提供してくれたのは貴方だろう?」
歩いてネクシアに向かう途中、別の馬車に乗ってきた龍人が自分に話しかけてきた。
「急いでいた故、糧食を忘れる失態を犯した。貴方の差し入れがなければ途中で空腹に悩まされたことは間違いない。感謝する」
これに自分も、「お気になさらず」と返答しておく。
そうしてネクシアへ冒険者が一丸となって進み――やがて目に入ってきたネクシアの街はいくつもの煙がのぼり、かなり追い詰められていると見受けられる状況だった。その上……
「グラッド、ち〜っとこいつはやべえぜぇ」
「どうした? さっさと教えろ」
ジャグドの声にグラッドが報告を促す。
「オレッチの〈千里眼〉で街の門を見たんだがよ、片方は完全に崩れ落ちているぜ〜? それにもう片方もぼろぼろになってらぁ。急がねえと、くっせえオーガの連中が街の中に殺到しちまいそうだわ」
この報告を聞いて、救援部隊の移動速度が一気に跳ね上がったのは言うまでもない。そして少しでもオーガ達の間に混乱を広げようということで、別の馬車で来た六人PTとはここで二手に別れた。戦力分断は危険な策だが、堅実な方法ではもう間に合わないだろうからと奇策を取らざるをえなかったのだ。
「前衛はこのまま蹴散らすぞ! ガル、派手な花火をオーガ達の真ん中にブチかませ!」
「ほいほいっと、んじゃ適当に《エクスプロージョン・レイン》でも数回ぶち込んどくよ〜」
「この状況から逆転しろってことね、ふふん、思いっきりぶん殴りまくれそうね!」
「ゼラァ、ゼッドの二の舞にだけはなるなよ……だが、思いっきりやっちまって構わねぇ、潰すぞ!」
グラッドは不敵に笑う。
「さって、アースといったっけ。俺達はオーガの数を確実に削ろうか?」
「了解、ガルさんの魔法が炸裂したら、こちらも攻撃を開始することにしましょう」
こうして、グラッドPTと共に挑むネクシア救援戦がスタートした。

「そんじゃ、いっぱつでっかいのを撃っておくよ〜……ほ〜らよっと!!」
ガルののんびりとした声と共に、いくつもの魔法がオーガ達で出来た壁の中に降り注いで、次々と爆発を引き起こす。初めて見るが、これが先ほど言っていた《エクスプロージョン・レイン》という魔法なのだろう。魔法使いとしてのガルの腕は相当に高いらしく、かなり離れた場所にまで爆炎が伸びている。これがトップクラスプレイヤーの力ってことか……
【グラッド、これでかなり注意を引けたと思うよっと。ここからの引きつけよっろしくう!】
【はっ、言われるまでもない!】
あちこちからオーガ達の戸惑う声が上がった。ガルの言葉通り、オーガ達はガルをターゲットに定めたらしく、殺意をむき出しにして突き進んでくる。
「アース、お客さんがわんさかきたぜ〜?」
「じゃあ、こちらも丁寧にお出迎えをしてあげないといけませんね」
前に突っ込んだグラッド達が発動した挑発アーツのお陰で、オーガの大半はそちらを目標にするが、ある程度はこちらに向かってくる。そこにジャグドと二人で次々と矢を放った。
ファストのときと違って前衛が居ないから誤射の心配がないし、敵はこちらへ一直線に向かってくるから、矢を当てるのは比較的楽だ。もちろん前衛が居ない分、倒すのに手間取ると押しつぶされてしまうのだが……ファストの戦いでテンションが上がり気味になっていた自分とジャグドは、オーガをどんどん射殺していく。ちなみに倒す数の割合は、自分が二に対してジャグドが三といったところか。
「ほいほいっと」
そこにガルの魔法による援護が入る。ガルはグラッドの周りのオーガ達を吹き飛ばしつつも、こちら側のサポートもしてくれるという縦横無尽ぷりを発揮していた。《アースクエイク》でオーガの進軍を遅らせたり、《エクスプロージョン》で吹き飛ばしたり、自分は見たことがない氷の魔法で足を凍結させたり、と実に多芸である。
「ガル、ナイス!」
足を止めたオーガなど、自分とジャグドにとってはいい的だ。すぐさま脳天に矢を打ち込んでやる。なんて戦いやすいんだ……単にAtkが高いとかそういう問題ではなく、場の支配が上手い。特にガルはこの戦場を上から見ているかのような視野の広さを持ち、足止め、攻撃、突破口を開くといった狙いを、たった一人でこなしている。
「グラッドもゼラァも張り切ってるな〜、ザッドはいつもどおりっぽいけどな〜」
「ま、六人で色々やってきたしな、オーガ相手なら数がいたってあんなモンだろ」
ガルとジャグドは戦いながらそんなことを口にする。自分はオーガを射殺すので精一杯なのだが、ジャグドにも周りが見えているのだろう。
「──それでも、間に合いそうにねえな」
ちらっとネクシアに目を向け、ジャグドが言った。
「こればっかりはしょうがないね〜、こちらの責任じゃないし〜」
魔法を放ちつつ、ガルもそう答える。周りを見る余裕のない自分は彼らの言葉の内容から想像するしかないのだが、ネクシアの防衛をしている人達がもう持たないのかもしれない。
オーガの相手をしながら、自分は更に詳しく二人に状況を聞く。
「それほどまでにマズい状況なのか!?」
「あー、やべえなぁ。残っていたもう片方の門が炎上している、っていやぁ分かるか?」
「それなら納得! グラッド達は!?」
「七割まで突破ってところだがよ。いくらあいつらでも間に合うかどうかは……さすがに無理か。よっぽど幸運に恵まれても、可能性は十に一つあるかどうかだろうぜ」
「ジャグドと同じ意見だね〜、いくらかはオーガの街中への進入を許すことになりそうだよ〜。あとは、ネクシア自体にどれだけ防衛に参加可能な人が生存しているかどうかだろーねえ」
状況が見えている二人の意見が一致しているとなると、そうなってしまうことはほぼ確定か? こちらはこちらで、向かってくるオーガ達の撃退で精一杯だ。もはや、グラッド達が僅かな幸運を拾ってくれるよう祈るしかないのだろうか――最悪の場合、ここは二人に任せて、自分は奥の手を使おう。
「ああ!? 今から追加の援軍!?」
突然、ジャグドが矢を撃ちながら怒鳴どなり声を上げた。何事だ?
「うるっせえって。こちとら僅か一二人で必死にオーガの勢いをいでいるんだっての。そもそも、さっきてめえのバーサーカー病が発症せずに今グラッド達の横に居られれば、何とかなる確率は上がってたっての! ファストの連中にも言っとけ、ネクシアの北門は崩壊寸前、今更救援を送っても間に合わねえ! 送るなら救援ではなく奪回のつもりで、まとまった数にしろってな!」
バーサーカー病と言っていたから、おそらくもう一人のPTメンバーのゼッドという人からウィスパーが飛んできたのだろう。もちろんウィスパーのやり取りで怒鳴る必要性はまったくないのだが、おそらくガルと自分に話の内容を教えるため、わざとそうしたのであろう。
そしてファストから救援部隊が来るという話になっているらしいが、確かにジャグドの言う通り、今からファストを出たのでは絶対に間に合わない。
「ああ!? ガルも普段見せない全力でやってるっての! それでも予想以上に数が多くてキツいって言ってんだろうが! ネクシアの連中がトロいのか、ファストよりも多くの敵が送り込まれたのかのどっちかだろ。オーガの侵入を防ぎきって北門を奪回できる確率なんて、幸運に幸運が重なったとしても一〇%ぐらいしかねえよ!」
ウィスパーはまだ続いているようだ。
「こっちも今はオーガのハゲ頭に矢を生やしてやる作業で忙しいんだっての! 今のガルにウィスすんじゃねえぞ!! あいつは今最大限に集中してるからな! ああ? だから初めに言っただろうが! ガルが普段見せない本気でやってるってよ!!」
色々聞こえてくるが、自分は決してジャグドの会話に耳を傾けているわけではない。目は常に襲い来るオーガを追っているし、頭はアーツの使いどころを考えるのに必死だ。ジャグドが叫ぶように喋ってくれるお陰で、何とか状況を把握できるのだ。
「俺達? 今は六人で行動してるっての。あと一人は誰だと? そんなの誰でもいいだろうが! 少なくとも勝手に暴走して死ぬバカより、はるかに仕事をしてくれる奴だ! ああ? そいつの名前だ? んなこと気にするより、そっちの兵力をまとめて送る手はずを整えろや!」
あのバカは後で叩き直す必要がありやがる――そう言ったきり、怒鳴り声が止んだ。ジャグドはウィスパーを切ったようで、また元のペースに戻ってオーガを射殺していく。
「アース、すまねえな。バカがアホなこと言ってきやがったから、つい怒鳴りつけちまった」
「そこは気にしなくていいが、ファストからの援軍は望めそうにないか……」
「残念ながら今すぐは無理だぜ。北門を取り返せるかどうかってところにかっこよく現れる援軍様はナシだ、俺達で何とかするしかねえ。あっちのPTは苦戦してんのか?」
矢を放ちながらジャグドと会話していると、ガルがこう口を挟んできた。
「比較的善戦してるけど、さすがにグラッド達のように突っ込むことはできてないね〜……あらよっと。オーガ達の攻撃目標を分散させてる、ぐらいに考えるしかないなぁ。北門奪回の戦力として数えちゃだめだね〜」
さすがにオーガ達の壁の中に突っ込んで切り裂いていくなんて芸当ができる人は、そうそう居るわけもなしか。グラッドはゲヘナクロス戦で総大将を討ち取った経験もあるし、大軍を向こうに回して突き進むのも初めてではない。まさに無双だな……
「オーガリーダーは!?」
「今んとこは居ねえな……少なくともグラッド達の進む方向には居ねえ」
自分の〈百里眼〉より上位の〈千里眼〉を持つジャグドがそう言うのなら、間違いないだろう。とりあえずオーガリーダーに足止めされる心配はしなくてもいいだろう。
そのとき、ズシーンという大きな音が戦場に響いた。これは……?
「あーあーあーあー、やっぱり間に合わねえなあ。オーガ達におあつらえ向きの大きな入り口が出来ちまったぜ」
さっきの音は……炎上していたという門の、まだ残っていた部分が完全に崩れ落ちた音だったのか。オーガ達が、ぐおおおおおおお! と歓喜の声を上げる。
「あっちゃー……ジャグド、中の様子はどう?」
「うっは、怪我人ばっかりだわ。衛兵は数人いるだけだな……どいつも肩で息をしてやがる。だめだな。最悪、完全にネクシアが落ちるぜ」
ジャグドの話を聞いたガルは、PT内で通じるチャットシステムを使ってグラッドに情報を提供し始める。
【グラッド、ジャグドが見たところ、門は完全に落ちたって。中の衛兵はぼろぼろで耐えれそうにないらしいよ〜】
【なんだと!? くそっ! こっちはまだ突破しきれねえってのによ!】
【一匹一匹は弱いけど、この数が相手ではどうしても思うように前へ進まないわ!】
【全滅させるだけなら時間さえあればそう難しくはないが……変身はファストで使ったから、起死回生も図れんな……】
チャット越しに焦りを見せるグラッド、ゼラァ、ザッド。
だがファストのときはファストのときで、変身していなければあのオーガリーダー達を倒しきれたかどうか分からない。あの判断は決して間違っていなかっただろう。この救援自体、本来ないはずの延長戦なのだから。
「ジャグド、一つだけ質問。このままだと、北門がオーガに突破されるまでにどれぐらいかかると見る?」
「衛兵の状態もはっきり言ってよくねえ。持って一分だな。一瞬でもおかしくない。こればっかりは俺達だけではどうしようもねえぞ」
それを聞いて覚悟を決めた自分は、質問を追加させてもらうことにした。
「ごめん、もう一つ。ここをジャグドとガルの二人で支えきれるか?」
「んあ? まあ数もそこそこ減ってきているからやれないことはねえと思うが、アースは逃げたいのか?」
そうか、やれないことはないか……
「相手が勝ったと思ったところで盤上をひっくり返してやる、ってのは実に面白いよな?」
「ああん? そりゃそうだろうがよ」
「だろう? ここは頼んだ、前に行ってきていいかい?」
「何か方法があるのかな〜?」
急に提案した自分を、ガルとジャグドの両名は怪訝けげんな顔で見てくる。
「ああ、手遅れになる前に、今から出すことにしたよ」
「手があるなら遠慮すんな。このままオーガに負けるってのは胸糞むなくそ悪いからよ」
「この状況をひっくり返す、ねぇ〜? できるんなら、面白そうだしやって見せてよ」
よし、二人の了解は得た。自分は弓矢を背負い、オーガの集団に向かって全力で駆け寄る。何せ制限時間が短いのだから、ぎりぎりまで発動を遅らせたい。
《ウィンドブースター》《大跳躍》《フライ》を組み合わせてオーガ達の上を飛ぶ。そうして《ウィンドブースター》の効果時間が切れたタイミングで、の発動準備を始めた。
そう、〈黄龍変身〉だ!
「龍の儀」以来となる発動により、自分の体躯はひと回り大きくなり、外套がアイテムボックスの中に強制収納された。
空中で変身を完了した自分は、地面にいるオーガに向けて落下しながら全力のパンチを振り下ろした。
金色に輝く腕の直撃を受けたオーガは、あっけなく即死。そして地面を叩いたことで発生した金色の衝撃波が、周りのオーガをも容赦なく塵に還す。
残り、一分五六秒……!
「うおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
人の咆哮はいつしか龍のそれになり、オーガ達は一瞬足を止める。ここからオーガ達の勢いを止めてみせようじゃないか……!



 5


──えるときには思いっきり吼えろ。戦うべきときには思いっきり戦え。他人の目を気にして恥ずかしいなどと考えるようでは、肝心要かんじん かなめのときにお前は何一つできず、何一つ守れないだろうな。お前がそれでいいと言うのなら構わんが。

──とある格闘家が弟子に向かって言った言葉より


金色の鱗に包まれた拳を振るうと、オーガがピンポン玉のように吹き飛ぶ。蹴りをくり出せば、オーガの体を切り裂いたりぶち抜いたりして消滅させる。その様子を見たオーガ達は自分を最優先排除対象と考えたのか、棍棒を振りかざして雪崩なだれのように襲い掛かってきた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
しかし既に人ではなくなっている自分は、振り下ろされた武器ごと相手を破壊する。拳を振るう度、蹴りを放つ度にそれは死刑宣告となり、金色の光を伴って即座に執行していった。
それでも次から次へと立ちはだかるオーガの集団。本当に数が多い。
「邪魔ダ! 我ガ前ヲ空ケヨ!!」
もたもたしている時間はない。ネクシアの北門は既に扉が完全に落ちていて、ぼろぼろの衛兵が必死で人の壁になっている状態だ。門への移動中の時間も無駄なくオーガを蹴散らさなければいけないが、かといって時間をかけていてはその隙に街の中に入られてしまう。そうなったら街の人が虐殺される。そんな事態は阻止しなければ。
マトメテ吹キ飛バシテクレルワ!」
変身中限定アーツ《龍雷りゅうらい》を発動。口から吐き出された雷光を、右側から左へとなぎ払うように動かす。これで前方一定範囲のオーガ達が消滅し、オーガのいない空間が扇状に出来上がった。自分はそこに走りこんで助走をつけ、門に向かって膝蹴ひざげりを放つ。これなら、移動しながらオーガ達の首から上を吹き飛ばしていける。
【うっは、こりゃすっげえな! さっきの言葉は誇張でも何でもねえってわけか!】
【グラッド、状況が変わったよ! アースが変身して、ものすごい勢いでネクシアの北門に接近してるから間に合うかも〜】
PTチャットで何か会話が行われているようだが、多数のオーガを相手にしている自分には殆ど会話の内容が届かない。
【アースの奴、変身を残していたのか! だが、いくらワーウルフでもそこまでの力があるのかよ?】
【グラッド、ありゃワーウルフとは完全に別物だわ。金色の光を撒き散らしながらオーガ達をなぎ倒してる。もう門の前にたどり着きそうだぜ?】
【あいつ、そんな奥の手をまだ使っていなかったのか! クィーンのときといい、今回といい……やってくれるじゃねーか!】
かなりの距離を稼いだはずだが、まだ街の門までには距離がある。平時ならすぐに進める距離が、今はとてつもなく遠い。このままでは間に合わないと考えた自分は、適当な、左右の手それぞれで持ち上げる。
(武器が使えないのであれば、敵を武器にしようか。オーガの体なら、いくらかは持つだろう)
オーガを左右の手に持ったまま、体をコマのように回転させて周りのオーガを吹き飛ばす。用が済んだ武器オーガを左右でぶっつけ合って潰した後に前進。少ししたら、再び武器オーガを捕まえて同じことを繰り返す。
そうしてようやく門の前にたどり着いた自分が見たものは、槍を地面に取り落とし、今まさに棍棒で頭を叩き割られようとしている衛兵さんの姿だった。
──その瞬間、自分は高速で相手に近寄ることができる変身中限定アーツ《虎龍脚こりゅう きゃく》で両者の間に割り込み、振り下ろされた棍棒を左手で受け止めた。突然現れた自分に、オーガは目を白黒させているが……
セロ」
右手で放ったアッパーカットによって吹き飛んだオーガは、そのまま空中で光となって消え去った。ふむ、綺麗きれいな花火に見えなくもない。
「あ、貴方は一体?」
あきらめの表情を浮かべていた衛兵さんが自分に話しかけてくるが、あいにく構っている時間はない。変身時間は残り一分二四秒。ひと言話す時間すら惜しい。門を目指して襲い掛かってくるオーガ達を逆に吹き飛ばし、叩きのめして光に還す。
「お、おお、援軍だ! 援軍が来たぞ!」
その光景を見たぼろぼろの衛兵さんは、どこにそんな力が残っていたんだと言いたくなるような大声で叫ぶ。するとどうだ。先ほどまで全滅を予感させていた悲痛な空気が、防衛して生存できるのではないかという期待に満ちていく。
「諦めるな、援軍が来たぞ!」「まだ死ぬときじゃない!」「街を守れ! 可能性が出てきたぞ!!」「力をしぼり出すんだ!」
背後からそんな声が聞こえてきた。自分がこういう声を聞き取れるのも、ギリギリながら門に到着して防衛に回れるようになったことで、心理的な余裕が出てきたからなのかもしれない。
【アース、聞こえるか!?】
【グラッドカ、ドウシタ?】
【何だその変な声は!? と、とにかくこちらももう少しで北門前に着く! それまで粘れるか!?】
【大丈夫ダ、ダガ早メニ来テクレ。変身時間ガ余リナイ】
【何だと! おい、ゼラァ、ザッド、急ぐぞ!!】
よし、グラッド、ゼラァ、ザッドが到着すれば状況は一気に改善するな。あの三人には、オーガの二〇〇や三〇〇はどうにでもできるだけの力がある。チラッと確認すると、残り時間は五一秒。
だがここで、ジャグドから報告が入った。
【やべえ、おいアース、お前のところにオーガリーダーが二匹ほど向かってやがる! グラッド、急ぎやがれ!】
来るか。残り一分を切った変身時間中にどうにかできるか……? 考えても仕方がない、制限時間が尽きるまで戦い抜くだけだ。
そして一五秒ぐらい後になって、オーガリーダーが二匹、オーガの中からヌッと現れた。
「くっ、ここに来てオーガリーダー……」
衛兵さんの一人が、オーガリーダーの姿を見て悲痛な声を出す。確かにこの状況でオーガリーダーは厳しいものがある……だが。
自分はおもむろに前に進んで、オーガリーダー二匹の首を左右の手で締め上げた。
「「「「「え?」」」」」
衛兵さん達の間の抜けた声が聞こえてきたが今は無視して、オーガリーダーの頭同士をガンガンガンガン!! とぶつけ合わせまくる。強靭なオーガリーダーでも、弱点の頭をこうやってぶつけられ続けてはたまったものではないだろう。実際、手に持った武器を満足に振り回すこともできず、ただうめき声を上げている。
だが自分はそんな可哀かわいそうな姿もお構いなし、念入りに念入りにがっつんがっつんとぶつけ合わせ続ける。周りのオーガ達もどうしたらいいのか分からないのか、まったく手を出してこない。
「仕上ゲダ。《雀龍炎ザクリュウ エン》」
最後に、オーガリーダー二匹の首を掴み上げたまま、これまた変身中限定アーツで燃やしてやった。そうしてオーガリーダーが自分の手の中から逃げられず塵になっていく中、棒立ち状態のオーガ達をなぎ払い、グラッド達三人が姿を見せた。
「な、何だその姿は……アース……テメェなのか?」
グラッドがそんなことを言ってくるが、変身時間は残り八秒。最後の技を使っておかないと……このままではネクシアの守りを改善できない。
「話ハ後ダ。ココヲ頼ム」
それだけグラッドに伝えて、自分はネクシアの北門から少しだけ街の中に入った。ジャグドが言っていた通り、あちこちでぼろぼろになった冒険者や衛兵が倒れていたり、座り込んだりしている。限界まで戦い抜き、ネクシアを守っていたのだろう。
自分は可能な限りぼろぼろになった人達を視界に収めて「味方だ」と認識した後で――心臓付近へと手を突っ込む。
「我ノ味方ヲイヤセ、《黄龍玉コウリュウ ギョク》ヨ」
そう呟いてから、自分の生命力の一部を具現化した赤く輝く欠片かけらを、思いっきり握り潰す。がくん! と体から力が抜ける感覚を味わう代わりに、倒れ込んでいた人、座り込んでいた人、そしてもしかしたら既に死亡していて消え去る寸前であった人――それら全ての、自分が「味方だ」と認識した人達全員に、金色の光が降り注いでいった。
「え?」「おお!? 体力が、体力が戻ってきたぞ!?」「魔力もかなり戻ったぞ、これならばすぐに魔法が使える!」「俺は死んだんじゃ……?」「状況はどうなった!? オーガ達は!? 街は!?」
あちこちから、そんな声が聞こえてきた。どうやら《黄龍玉》は上手く癒しの力を発揮してくれたようだ。
その直後、自分の体は突如縮み始める……変身可能な時間が終了したのだ。金色のオーラがあっという間に体から抜けていき、自分は外套を着込んだ普段の姿に戻った。これで一週間は再び変身することができない。
【ジャグド、今変身時間が終了した。状況はどうなった?】
【もう変身時間が終わったってのか!? 短すぎるだろ!? ……今の状況は、グラッド達がオーガを叩きのめしているから、もう北門が破られる心配はねえだろうな。それにオーガの数自体も、グラッド達やガルの魔法、それにアースの大暴れでガクッと減ったからな。ここから逆転されるなんて、オーガリーダーが五匹ぐらい同時に来やしねえ限りはありえねー。それにしても、マジでひっくり返しやがったな、オイ!】
そうか、何とかなったか……変身した意味は十分にあった。
【ネクシアの人達もいくらか回復させたから、ここからはこちらのターンとなりそうだ】
【なにい!? オイオイ、マジかよ……俺の目がおかしくなったわけじゃなかったんか! ボロボロだったはずの衛兵達がいきなり元気よく立ち上がって、グラッド達の横で戦い始めてるもんな】
グラッド達を支援しようと自分が北門の外に出ると、確かに衛兵さん達も懸命にオーガを倒していた。もちろん倒すスピードはグラッド達よりも遅いが、彼らが横に回り込もうとするオーガ達を始末し続けているお陰で、グラッド達はのびのびとオーガを叩きのめすことができていた。
【いいもの見せてもらったよ〜、本当にあの状況をひっくり返すとは思っていなかったけどね〜】
ガルの誉めるようでいて呆れたような声が、PTチャットを通じて聞こえてくる。
【戦いが終わったら色々聞くかんね〜?】
そう言ってくるガルだが、がっかりすることになるだろうな。何せこの変身は、手に入れるための答えどころか方法を知るだけでも失格になるから、話すことは許されていないのだ。
この後は特筆すべきこともこれといってない。どうやらこの場が今回最後にして最大の激戦区だったらしく、北門のオーガ達が完全に逃げ出したと確認された時点で安全宣言が出され、戦闘は終了した。ちなみに、サーズのほうはネクシアよりも先に排除が終わっていたそうで、無事であると放送で発表された。
こうして、突発的に起こったモンスター襲撃事件は、人間側の完全勝利で決着が付いたのだった。



【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv9(←4UP) 〈剛蹴〉Lv18 〈百里眼〉Lv21 〈製作の指先〉Lv98 〈小盾〉Lv20
〈隠蔽・改〉Lv1 〈武術身体能力強化〉Lv35(←2UP) 〈義賊頭〉Lv18
〈スネークソード〉Lv34 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3(←2UP)
控えスキル
〈上級木工〉Lv17 〈鍛冶の経験者〉Lv4 〈上級薬剤〉Lv20 〈上級料理〉Lv49
ExP31
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
   託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人




 6

ここはネクシアの中央役場にある来賓室らいひん しつ。居並ぶメンバーは、役場側が五名、ファストからネクシアへと救援に来た冒険者達が一二名だ。
「どのような言葉も陳腐ちんぷになってしまうかもしれませんが、まずは今回のお礼を言わせていただきます」
挨拶を述べた役場の代表者を含む向こうの五名は、こちらに深くお辞儀じぎをした。
「褒賞は追ってお支払いいたしますが、皆様の討伐されたモンスターの数が非常に多く、確認に日を要しています。もうしばらく時間がかかってしまうことを、ご理解願えますでしょうか」
グラッド、ゼラァ、ザッドの突撃、ガルの広範囲魔法、ジャグドの弓、そして自分の変身と、大暴れしたからな。それに、もう一つの六人PTも相当オーガをなぎ倒したようだ。
「また、今後ファスト、ネクシア、サーズ間で運行される予定である高速馬車の使用料金も、ここにいる皆様は永久無料にさせていただきます」
これは地味に思えてなかなか嬉しい話だった。こういう交通関連にかかるお金は、合計すると案外バカにならない。それが永久無料になるのは大きいな。
「何かご質問はございますか?」
代表者の言葉に、ゼラァが手を上げる。
「褒賞はネクシアでのみ受け取れるのかしら?」
代表者からは「いえ、今回の功労者の情報はファスト、ネクシア、サーズで共有しております。ですので、ファスト、ネクシア、サーズのいずれかであれば、どこの中央役場からでも受け取れるように手配します」とのお返事。
次にもう一つのPTの一人が手を上げた。
「褒賞は金で支払われるのかい?」
これに対しては「最初は武具も考えましたが、我々が用意できる武具よりも皆様がお持ちのもののほうが優秀ですので、基本的にはお金になります」との返答だった。
すると、「基本的には」という部分に数名が反応した。次はジャグドが手を上げる。
「もし物で貰うとしたら、どんな物があるんだか教えてもらえねえのかな?」
この言葉に数名がうんうんと頷く。
「そうですね……ハイレアクラスの高級ポーション、外套、指輪などのアクセサリー、【復活玉ふっかつ だま】といったところでしょうか」
すかさず「【復活玉】ってなんですか?」との質問が冒険者の誰かから飛んだ。
「【復活玉】は……実物をお見せしますが、このくらいの大きさの玉です」
その大きさは、ラムネの瓶の中に入っているあのガラス玉ぐらいであった。ちなみに、あれはビー玉ではなくエー玉である……どうでもいいか。
「この【復活玉】を、戦いが続いてボロボロになった武具に当てますと、完全に修復します」
つまり、鍛冶屋に行かなくても武具耐久力を回復できるってことか……とてもいいアイテムじゃないか。他の人もそう考えたようで、いくつ貰えるのかなどとしきりに質問を始めた。
そんな光景を見ながら、自分はちょっと考え事をしていた。《黄龍玉》を使った直後に変身が解けてから、体に違和感があるのだ。今だってこうして椅子に座って休息しているというのに、消耗したHPやMPの回復速度が普段より遅い。
黄龍のおじいちゃんは、あの技は己の生命力を削ると言っていた。もしそれがなくなったとき、自分はこの世界から完全に消滅する、とも。今になって、自分はその話を身を以て理解していた。回復方法はおそらく、ゆっくりと時間をかけて休むことしかないと思われる。
「大体の質問は出揃ったでしょうか?」
役場の代表者のこの声で、考えを中断する。あれだけザワついていた皆がもう質問する様子がないことから、結構長時間考え込んでしまっていたのかもしれないな。とりあえず自分としては、褒賞の大部分はお金で貰って、数個だけ【復活玉】を貰ってみればいいかな。
「褒賞はできるだけ早くお渡しできるよう努力いたします、この度は街の防衛に多大なご協力を頂き、改めて感謝申し上げます」
代表者がそう言ってもう一度深々と頭を下げ、この場は解散となった。

    ◆ ◆ ◆

「さて、色々話を聞かせてもらいたい」
グラッド達と共にネクシアにある大きめの宿屋の部屋に入ったところで、ジャグドにそう詰め寄られた。
「あの変身は何だ? こちらが知りうる限り、あんなものに該当する情報はないぞ?」
ああ、ずっと気になっていたのだろうな。だが。
「驚くのも無理はないし、あれを獲得したいだろうというのも理解できます。しかし、一切説明できないのです……申し訳ありませんが」
自分の返答はこれしかない、当然独り占めしたいからではない。
「──言うと何か不具合がある、ということか?」
立ち上がりかけたジャグドを制し、ザッドがそう問いかけてきた。自分はそれに頷いて答える。
「もちろん言えない理由はきちんとあります……答えから言うと、自分がどのようにしてあの変身能力を身に付けたかの情報を得た瞬間、知った側は問答無用で失格となって、永久に習得不可能になってしまうのです」
む、とザッドが押し黙る。そのザッドに代わって今度はゼラァが質問を飛ばしてきた。
「そんな無茶苦茶な話があるの?」
自分は「残念だがあるのです」と答える。
「うーん、適切な例えかどうかは微妙ですが……学校で受けるテストのように、問題の解き方を練習させてから類似問題で理解したかどうかを見るんじゃないんです。事前情報一切なしのぶっつけ本番でテストして、その中の行動次第で合格か否かを判断している様子でした。他の人に詳しく情報を教えてはいけない、と念押しもされましたし」
この自分の話を聞いて、次はガルが口を開く。
「どこの国で習得できるんだ……って聞くのもマズいかな〜?」
自分はうーん、とうなってから答える。
「おそらくアウトでしょうね。もしかするとアウトじゃないかもしれないにしろ、うかつなことを言うとそっちの習得の可能性をなくしてしまう以上、答えられません。Wikiに情報を載せないのもそのためなので」
どこに地雷が眠っているか分かったものではない。黄龍のおじいちゃんは「ある程度なら大丈夫」とは言っていたが、危険はあちこちにあるわけで……ならいっそのこと何も言わなければ、間違いも起こらない。可能性の芽を摘んでしまうことが一番いけない。
「よくもまあ、そんなものをテメエは探し当てやがったな」
グラッドの言葉には苦笑いすることしかできない。本当に狙ったわけではないからな。色々転がった結果、こうなったという感じだ。
「そう言われてしまっても仕方ありませんね。本当に偶然の産物なので」
やれやれだ――そんなイメージを抱かせるジェスチャーを取るのが、自分としては精一杯だった。
「じゃ、お前専用のユニーク変身ではねーってことか?」
ジャグドの質問にはすぐに頷いた。
「ええ、専用ではありません。まあ、そこにたどり着くまでが大変なんですけど……」
ジャグドは「よしよし、オレッチも探してみるか〜」と呟いている。黄龍のおじいちゃんも「お前だけの能力だ」とは言わなかったし、唯一無二ではないはずだ。ユニーク能力というならおそらく「人災の相」の称号のほうが該当するだろう。詳しい説明はまだ一切ないけど。
「グラッド、この変身を探すか?」
「いや、まずはサーズ南の山道ダンジョンを制覇するのが先だ。それからで構わん。アース、この話は俺達のPT以外には他言無用……のほうがいいんだろ?」
グラッドの言葉に、自分は再び頷く。あんまり広めると地雷が増えそうだからな。事前に知るとアウトという条件がどれだけ厳密か分からない以上、拡散しないほうがいいに決まっている。
「グラッド、ゼッドが部屋の鍵を開けてくれってウィスパーを飛ばしてきたわ」
どうやら、グラッドPTの最後の一人が、この部屋の前に来ているようだ。
「じゃ、自分はこの辺で失礼します。今回はPTに参加させてくれて助かりました」
「なあに、テメエとなら面白い。またやろうぜ?」
そんなグラッドの言葉に手を振って応え、部屋の外に出てPTから抜ける。
部屋の外には槍を背負った男がいた。この人がゼッドなのだろう。彼は、自分と入れ替わりにすっと部屋に入って扉を閉めた。これから今回の反省会でも開かれるのかもしれない。
ちらっと時計を確認すると、時刻はもう午前一時近くになっていた。すぐに宿屋の主人に個室を借りて、ログアウトした。
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