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9巻試し読み

9-1

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今日も「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインした自分――アースは、ファストの街にあるベンチに座って、何か面白おもしろい話はないかと掲示板をながめていた。
新しいタイプの矢もとりあえず完成したので、材料をりに坑道通いするのはひと休み。なんとなく鍛冶屋関連の掲示板をのぞいてみたところ、鉱石を掘り出せなくなってしまった鉱脈がいくつか出始めたとの情報があった。本当に必要な人のために、自分は当分控えるつもりだ。
そんなことを考えつつ、いくつかの掲示板を順番に見ていくと、こんなスレッドが現在進行形で動いていた。

    ◆ ◆ ◆


【実況スレ31】

81:名もなき冒険者 ID:FG2d3rWdf
実況スレが動いてるな
何か面白いことでもあったのか?

82:名もなき冒険者 ID:g3g5HE1da
人魚のときみたいなインパクトはあるのか?

83:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
えー、今実況している者でござる
今回のターゲットは幼女でござる

84:名もなき冒険者 ID:G2s3rFGew
幼女に興味はないので帰りますね

85:名もなき冒険者 ID:o23hP1g11
ロリは趣味じゃないんだ、すまないね

86:名もなき冒険者 ID:Z21fd2qwE
詳しく

87:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
今ファストの街で、姿をした幼女がうろついているのでござる

88:名もなき冒険者 ID:g2iRYHfj8
うお、すっげー綺麗な髪の毛。炎みたいな紅だな

89:名もなき冒険者 ID:g3f65gWEr
この髪の毛の色からして、プレイヤーじゃないな

90:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
拙者も同意見でござる
さて、この幼女は30分ほど前にファストに入ってきた様子でござる

91:名もなき冒険者 ID:Kr2y85Rfx
それで今どこにいるの? この幼女ちゃんは

92:名もなき冒険者 ID:g3wf5gGwe
多くの露店が並ぶお馴染みの大通りを、ぽてぽてと可愛らしく歩いている
様子でござる

93:名もなき冒険者 ID:Kfd3g8RTt
これは見に行かざるをえない

94:名もなき冒険者 ID:fg32df8vd
んで、この幼女は一体何しに来たんだ? なんかのイベント?

95:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
その辺がはっきりしないのでござる
時たま、お兄ちゃんはどこ? と呟く声は聞こえてくるのでござるが

96:名もなき冒険者 ID:Das21fTGF
お兄ちゃん……だと!?

97:名もなき冒険者 ID:KJfg2hr5E
お兄ちゃんを見つけて、「妹さんを下さい!」と言えばクリアなイベントな
んですね、分かります

98:名もなき冒険者 ID:fdf28iTUe
それはただの危ない人だぞw

自分も実況者の表示してくれたスクリーンショットSSを見てみたが……髪はくれないのセミロングで、華美かびではなく上品な、赤を基調としたドレスのようなものを着ている女の子だ。
髪の色からして、自分にはこの子の正体についての心当たりがあり過ぎる……これは直接出向いてきちんと確認をしておかないと、ファストの街が物理的な意味で危ないことになるかもしれない。

    ◆ ◆ ◆


124:名もなき冒険者 ID:Fs2dfGewY
時に実況者よ、何で幼女が呟いている声の内容が分かるのか?

125:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
忍びたる者、〈聞き耳〉スキルを所持するのは当然のたしなみでござるよ?

126:名もなき冒険者 ID:f2w3rGwgE
普通に盗聴じゃねえかw あぶねえよ!w

127:名もなき冒険者 ID:Otg3hg6hr
つか、歩いているところを見たけど、めっちゃかわええ抱きしめたい!

128:名もなき冒険者 ID:WDw2t8Rqd
念のために言っておくが、触んじゃねえぞ? 分かってるな?

129:名もなき冒険者 ID:Gw2f8dwWm
着ている服がどう見てもドレスなんだよね
あれいいなー、着てみたい

130:名もなき冒険者 ID:GEd23f5WE
ローブの新しい形として、創作意欲が湧くね! ドレスローブとか

131:名もなき冒険者 ID:ew215rWef
それは是非作って欲しい〜! 少々高くても買うから!

こんなやり取りが交わされているところからすると、この紅の髪をした幼女はまだ露店が多くある大通りを歩いているようだ。
自分は小走りで大通りを目指した。あと少しで到着する。

    ◆ ◆ ◆


151:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
お!? ターゲットが突如、歩く速度を上げたでござる

152:名もなき冒険者 ID:gHe8ue32i
もしかして、「お兄ちゃん」とやらが近くにいるのか?

153:名もなき冒険者 ID:o32fP2g74
さて、どんな奴が「お兄ちゃん」なのか、しっかりと確かめないとな?

154:名もなき冒険者 ID:Ur2e7fwdF
ぬお!? 大通りから突如外れて、横道に入ったぞ!?
見失った、他の追跡者は!? てか足速いよ!

155:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
すまぬ、拙者も見失った! 急いで追いかけるでござる!

ここで自分は掲示板をそっと閉じた。
なぜならば、掲示板で話題に上がっていた幼女がかなりの腕力で、自分の足に抱きついている……というかしがみついているからである。やっぱりこの子は、そういうことか……
「お兄ちゃん、会いたかった」
そう、ゲヘナクロスとの戦争の前に偶然助けた、あのレッド・ドラゴンの子供だろう。親のレッド・ドラゴンが人化じんかの術を使えていたことから、その子供も使えるようになっていてもおかしくはないと予想がついたのだ。それに、紅の髪という忘れられない共通点もあるし。
「とりあえず、ここは騒がしいから少し移動しような。それと、しばらくの間はこれを頭から被っておいて」
紅の髪と美しいドレスがあまりにも目立ち過ぎるので、アイテムボックスに保管しておいた緑色の外套がいとうを幼女の頭の上から被せた。身長はごまかしが利かないが、これだけで随分と地味になる。
被せるだけに留めたのは、「ドラゴンの人化の術は人間の装備を身に着けると解除される」と、以前ドラゴンの王様から聞いていたからだ。「身に着ける」とは装備することを指しているのだろうと踏んでいたが、どうやら当たりだったようで、特に問題は起きない。
幼女に外套を被せた直後、いくつかの人影が自分たちの横を通り過ぎていった。間違いなく、掲示板で実況行為を行っていた忍者とその協力者だろう。彼らには申し訳ないが、下手を打つとレッド・ドラゴンのご両親がここにやってきて大暴れする未来が待っているので、実況はここで打ち切りにさせてもらうしかない。
とりあえず、幼女は自分が泊まっている宿に案内するか……外套を被せたままの状態で、宿屋まで一緒に向かう。傍目はためからは、ただの誘拐犯にしか見えないような気がするが、気にしたら負けだ。外套を被せているので前が見えづらい王女様の手をとって道を歩く。
「それにしても、お父さんやお母さんにはちゃんと言ってきたの? 人の街に行ってきますって」
おそらくは言っていないだろうが、一応念のために聞いておく。
「──いってない……」
ああ、やっぱりな。いくらドラゴン族が強いといっても、あのご両親が大事な娘さんを一人で人の街に行かせるとは思えなかった。以前迎えに来たとき、娘の無事を完全に確認できるまで本気の殺気を自分に向けてきた記憶は、はっきりと頭の中に残っている。
「お父さんか、お母さんに連絡はつくかな?」
自分はできるだけ穏やかな声を出すように注意を払い、レッド・ドラゴンの幼女に確認をする。
「う、うん……おかあさんになら……」
表情は、親に怒られるとびくびくしている子供そのものだ。だがレッド・ドラゴンの王女様が一人でいると知っていて、その親に連絡を取らないわけにはいかない。最悪、また人族に誘拐されたと勘違いされて、魔物の被害からの復興が進みつつあるファストの街を火の海にされては、たまったものではない。そうなる前になんとかしないと。
「じゃあ、お兄さんが君のお母さんと話せるようにしてもらえないかな? さすがにずーっと黙ったままでいるというわけにはいかないでしょ?」
幼女も観念したのか、ごそごそと手を動かし始めた。もう少しで宿屋に着くので、個室内で落ち着いて話せるだろう。
宿屋の主人には「随分とお早いお戻りですね?」と妙な視線を向けられてしまったが、この際それはどうでもいいか。自室に入り、幼女は被せていた外套を取って椅子に座らせた。
「お兄ちゃん、繋がるよ」
その直後、キン、と何かに繋がった感じが頭の中に伝わってくる。
『私に念話とは……貴方はどちら様ですか?』
やはり、娘が突然いなくなったことにいらだっているのか、声だけで恐怖を煽ってくるようなプレッシャーを感じる。だが黙っているわけにもいくまい。
『お久しぶりです、以前貴女あなたの娘さんを保護した人間です。実は、娘さんが人に変身して、一人で人間の街にやって来てしまったことを知り、大慌てで私が保護しました。この念話は保護した娘さんに繋いでもらっています』
面倒な話が始まりそうである。
『と、いうことは、娘は貴方の元に無事でいるのですね?』
まだ焦りが半分はみ出しているが、それでも比較的冷静になった声が頭に響く。
『はい、とりあえず人の目に触れぬよう宿に連れてきまして、大人しくしてもらっています』
自分がそう報告すると、ほっとしたような吐息が聞こえてきた。
『そうですか、以前に続き二度までもご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません』
とりあえず娘の無事が判明して落ち着いたのか、レッド・ドラゴンの母親の声も幾分柔らかくなってきた。とりあえずこれで、最低限のラインはクリアしただろう。
『いえ、たまたまですが、気がつくことができて何よりでした。とりあえずこのまま私が保護しておきますので、誰かをこちらの街の近くまで迎えに回してもらえないでしょうか?』
そのとき、念話に男性の声が交ざった。
『ならば私が行こう。妻はまだ人化の術を覚えていないから、目立ち過ぎる』
その声は、久々に聞くレッド・ドラゴンの王様のものだった。
『王様直々じきじきにですか? 娘さんの迎えに親である貴方が来るのはおかしいことではありませんが……王様が国を留守にしてもよろしいのですか?』
自分の質問に、王様からの答えは……
『いや、実はな? 我が娘を孫のように可愛がっておるブラック・ドラゴンのおさがいるのだが……王女様はどこに行かれたのだー!? と半狂乱状態でな……妻が抑えていなければ、今すぐにでも飛び立って見境みさかいなく人族の街に突っ込んでいきそうな勢いなのだ。今いる場所と無事であることが分かったと言っても、ではワシが全力で迎えに行きますぞ! と普段の冷静さが欠片もない』
おおう、それは非常にマズい。というか、街の人が誰一人として知らないところで、冗談抜きにファストが壊滅する危機に陥っていたとか、笑い話にもならないよ!? 
早めに動いて本当によかった。だができれば自分も、そんな状態になっているということを知りたくなかったな。
『ならば一刻も早く、ここにいるおてんば王女様をそちらに帰さないとマズいですね』
何とか自分がしぼり出した言葉に、「うむ」と同意する声が念話で聞こえてくる。
『実は今も背後でな、ブラック・ドラゴンの長と我が妻が取っ組み合いを始めたところだ。行かせてくだされ! とブラック・ドラゴンの長は叫んでおるが、人化ができぬブラック・ドラゴンでは悪目立ちし過ぎる。お前は、我々の本来の体躯が非常に大きいことを知っているだろう?』
ええ知っていますよ、かつて妖精国で見ましたから。ゲヘナクロスとの戦争のときにいた灰色ドラゴンよりも大きかったという記憶があります。あんなのが街の付近に現れたら、再び襲撃イベントが発生したのかと、とてつもない大騒ぎに発展してしまう。
『すみません、なぜか急に頭痛がしてきたのですが』
つい本音が漏れてしまった。
『私も同じだ、まさか普段はあれほど冷静なブラック・ドラゴンの長がここまで取り乱すとは思わなかった。我が娘よ、そこで聞いているな?』
突然話を振られたレッド・ドラゴンの王女様は、慌てつつも王様の声に応じた。
『は、はい、聞いています!』
その王女様に向かって、王様はこう言った。
『とりあえず、念話でブラック・ドラゴンの長にお前から声を掛けてやれ。それとな、今後は無断で我々の里から出るんじゃないぞ? お前がいなくなっただけでこれだけ大騒ぎになると、お前もよく分かっただろう?』
王様からのお言葉に、うなれる王女様。まあさすがに何も言わずにひょこっと外に出てきたというのはマズいから、こう言われてしまうのは当然だろう。
王女様も素直に聞き入れて、別に念話の回線を開いてブラック・ドラゴンの長に話し始めた。
『──やれやれ、やっと大人しくなったわ……とにかく、ブラック・ドラゴンの長が落ち着いている今の内に迎えに行くとするか。すまないが、こちらが到着するまで娘の面倒を頼む』
……との王様の言葉を最後に、自分はいったん念話を終了した。
王女様の方は、まだ念話が終わりそうにないな……とりあえずご飯を食べさせて、迎えが来るまでのんびりさせておけばいいか。
そうとなれば早速料理を作るべく、各種調理器具と狼の肉、ハーブの葉にレタスとレモンをアイテムボックスから取り出す。本格的に下準備をする時間はないので、作れるものも手抜き料理のレベルでしかないが……
まずは薄く切った狼の肉を焼く。このときに味付けと臭み抜きのため、塩と胡椒こしょうを少々振り掛ける。あまり濃い味になっては困るので、本当にうっすらと。ジャーっとお肉が焼ける音を聞いたレッド・ドラゴンの王女様は、こちらに目が釘付けだ。
お肉に火が通ったら、適量をレタスに載せ、手でちぎったハーブをぱらぱらとふりかけてからぐるっと巻き、仕上げにレモンの汁をぽたりと少量たらせば完成。


【狼肉のレタス巻き】
焼いた狼の肉をレタスで巻いた料理。手づかみでぱくっと食べられる手軽さが売り。
製作評価:7


フォークやらナイフやらを使うには王女様の手がまだ小さいので、手づかみで簡単に食べられる物にした。適当に作ったのに製作評価が高いのが気になるが、まあ特に難しい技術は要求されないものだからな。
「とりあえず、王様が迎えに来るまで軽く食事をして待とうか」
大皿いっぱいに作ったが、ドラゴンの食欲の前ではこの程度などおやつの範疇はんちゅうだろう。食べ物で釣るというのは悪いことかもしれないけれど、今回は勘弁かんべんしてもらおう。
「た、食べていいのですか!?」
グワッと身を乗り出してくるレッド・ドラゴンの王女様の姿に苦笑しながらも、どうぞ、と勧める。
「いただきますです!」
と言うが早いか、王女様は両手でレタス巻きを掴み取って口に運び出す。自分も一つ手にとって食べてみるが、即興で作った料理にしてはなかなか美味しい方だろう。
じっくりと味わって食べ終えてから皿に目を移すと、山ほど作っておいたはずの【狼肉のレタス巻き】が一つ残らず綺麗に消えていた。そして肝心の王女様は、その皿を寂しそうにじーっと見つめている。
「もうちょっと、食べたいのかな?」
自分がこう問いかけると、思いっきり首を縦に振る王女様。
やれやれ、尻尾があったら元気よくぶんぶんと左右に振っているんじゃないだろうか? あれ、ドラゴンは普通に尻尾があるよな……ドラゴンの尻尾が左右に元気よく……それだと、ただの破壊行為にしかならないよ。って、そんなあほなことを考えてどうするんだ。
とにかく今は、この可愛い王女様のお願いを聞いてあげることを優先しよう。幸いにして、先日狩った巨大狼のお肉はまだまだあるし。
再び自分が次々とレタス巻きを作り、出来上がった直後に皿の上から消えていくということがその後二〇分ぐらい続き……お腹がいっぱいになったのか、うつらうつらとし始める王女様。
「王様が迎えに来たら起こすから、しばらく寝てていいよ」
少し汚れてしまっていた王女様の口元を拭いてあげながら自分が言うと、ぽてぽてと宿屋にあるベッドにもぐり込んで、あっという間に寝息を立て始めた。
王様が到着の連絡をくれるまで、このままゆっくりと寝かせてあげようか。


【スキル一覧】
風迅狩弓ふうじん かり ゆみ〉Lv10 〈剛蹴ごうしゅう〉Lv23 〈百里眼ひゃくり がん〉Lv23 〈技量の指〉Lv4(←1UP) 〈小盾〉Lv22 
〈武術身体能力強化〉Lv37 〈スネークソード〉Lv40 〈人魚泳法〉Lv8 〈隠蔽いんぺい・改〉Lv3 
〈妖精招来〉Lv2 (強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3
控えスキル
〈上級木工〉Lv30 〈義賊頭ぎぞく がしら〉Lv18 〈上級薬剤〉Lv21 〈釣り〉Lv2 
〈料理の経験者〉Lv7(←6UP) 〈鍛冶の経験者〉Lv21 
ExP29
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
   託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定)  義賊 人魚を釣った人間
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人



 2

王様がやってくるまでの間、自分は色々な掲示板を眺めて時間を潰すことにした。到着次第、向こうから念話を繋げてくれるだろう。念話の仕組みは電話みたいなもので、こっちから繋げないのは番号が分からないから、といったところだ。
ふむ、鍛冶屋スレッドは、サーズの街近くの坑道がついにれたとの話題で盛り上がっているな。うーむ、こうなってしまうと、当分は金属武器や防具の値上げが深刻になりそうだ。装備の修理をするにも多少金属が必要になることが多いし、最新の金属を使った装備は、全般的に運用がやや厳しくなるかもしれないな。掲示板に書き込まれる内容も、これからどうするか、どう節約するかについてがメインだ。
木工のスレでは、新しい杖の話がしゅんのようだ。魔法系のスキルは〈魔術〉から始まり、経験を積んで〈魔法〉、〈上位魔法〉を経て、〈熟練魔法〉の域に到達する。現在そういう人がぼちぼち増えてきているようで、より強力かつ、マジックパワーMPコストを軽減してくれる杖の需要じゅようが高まっている様子がうかがえた。
上位になればなるほど強力な魔法が使えるようになるが、当然ながら強力なほどMPを多く消費する。中にはMPだけではなく、特定のアイテムを触媒しょくばいとして用いないと発動できないものまで出てきたらしい。触媒については所持数に限りがあるのは仕方ないにしても、せめてMPの負担は少しでも減らしたいのは当然だろう。
料理関係スレでは、さまざまな料理が説明文付きで紹介されているが……あんたらどこのコックさんですか? と言いたいレベルのものがずらりと並ぶ。フランス料理、中華料理、懐石かいせき料理にとどまらず、見たこともないような料理も多い。
デザートの種類も山ほどあって、ケーキだけでも四〇種類はあるな。ショートケーキとかチーズケーキとかは分かるが、あまりに手の込んだものはよく分からん……オペラケーキとか再現した人は誰だよ!? これ、リアルでも作るのが大変なケーキじゃなかったか? すご過ぎて参考にならないとはまさにこのことか。
人魚関連スレは……毎日誰かが来ている様子だな。いちいちSS付きで、やってきた人魚の紹介まで書かれている。注意事項で「人魚の許可なく触れるのは厳禁! 過去にそれをやって人魚さんがこちらに来なくなるということがありました」との一文もしっかりある。
また、サハギンの話もぽつぽつあるな。ふむ、〈妖精言語〉があれば話ができる、というか、こちらの意思を伝えて相手の意思も確認できるのか……住んでいる場所は、サーズの川の下流とある。後で行ってみるのも悪くないかもしれない。
雑談スレは……ありゃ、やっぱりレッド・ドラゴンの王女様のSSが貼られているな。王女様のファンが増えるのはいいけど、立場が立場だからな。普通の王女様ならほほえましいという感想で終わるのだが、下手を打つとブラック・ドラゴンがすっ飛んでくるということを知ってしまった今では、あんまり派手に目立ってほしくないというのが自分の本音だ。
そんな感じで掲示板を眺めつつ時間を潰していると、頭の中をノックされるような感覚が。
どうやら王様が近くまで来たようだ。
『聞こえるか?』
やはり王様だった。プレイヤー同士で行うウィスパーチャットのときは、こんな感覚はないからな。
『はい、聞こえています』
こちらの返事に、王様が、うむ、と声を出して確認している様子が窺える。
『とりあえずファストの街の北門付近まで来たのだが……私はここで待てばよいか? 以前、私の髪がとても目立つということを思い知らされたからな、あまり人の街の中には入りたくないのだ』
王様の意見に、自分も同意する。
あの燃えるような紅の髪が目立つのは、確かに仕方がない。その美しさが本当に見事だからだ。きらきらと紅にかがやいて、どうしても多くの人の目を引きつけてしまう。
『では、北門の外まで自分が王女様を背負ってお連れするということでよろしいでしょうか?』
『む? なぜ背負うのだ? 我が娘は普通に歩けるし、もう空も飛べるのだが』
王様が疑問に思ったようなので、今王女様はベッドの上ですやすやと寝ていると伝えた。気持ちよさそうに寝息を立てている彼女を、眠りから覚まさせるのは気が引ける。
『なるほど、そういうことであれば、承知したぞ』
王様からの許可も頂いたので、寝ている王女様に頭の上から緑色の外套を被せて背負う。あんまり急ぐと起こしてしまうかもしれないので、できるだけ静かにゆっくりと。
『よかった、何とか無事に背負えました。では、これから北門へ向かいます』
王様との念話は、王女様を無事にお届けするまで切るつもりはない。念話の維持を王様にお願いすると、この程度の距離なら数時間は平気で持つとのことだった。
『うむ、では待っている。一度ならず二度までも迷惑をかける』
王様の謝罪には、気にしないでください、と返す。
『王女様が元気に育っている姿を見られたのは、あのときに助けた甲斐かいがあるというものです。ですから、こちらとしても嬉しかったのですよ』
これに王様からも「そう言ってもらえると助かる」との返答。さて、できるだけ早くこの可愛い王女様をお返ししないとな。宿屋を出て、なるべく人がいない場所を静かに歩く。
外套で王女様の姿を隠してはいるが、小さな足などがその陰から見え隠れしており、見る人が見れば一発で幼女を背負っていると見抜くだろう。そして雑談掲示板ではその幼女のことが話題になっている今、その二つを結び付けられてもおかしくはないからだ。
(このままこっそりと。ただし歩き方は堂々と)
変にこそこそするより、堂々と歩いている方が怪しく見えないという。だから他のプレイヤーとすれ違っても、自分は背中を隠そうというそぶりは見せない。他のプレイヤーも自分が背負っている物が何なのか疑問に思うことがあるかもしれないが、堂々としていれば何かの配達クエストの途中なのかもしれないと勝手に考えてくれるだろう。
実際、宿屋を出てから今まで、自分に声を掛けてくるプレイヤーはいない。配達クエストは時間制限ありの場合も多いから、邪魔をしないようにと気を遣ってくれた部分もあるかもしれない。
そして北門まであと少し、というところで、ついに他のプレイヤーから声を掛けられた。
「ねーねー、随分と大きな物を背負っているようだけど、それなーに?」
声を掛けてきたのは女性プレイヤーだ。適当に流すか。
「配達クエストの途中で、依頼人の都合で中身は内緒にしてほしいとの条件付き。時間制限もあるので失礼するよ」
そのまま追及を回避して進もうとしたが……
「でも足が見えてるよね〜? 誘拐ゆうかい?」
チッ、目ざとく見つけたか。本当のところは誘拐の逆で保護なのだが、この手の人には何を言っても始まらんか……ならば巻き込んでやることにする。
「それなら、もう少しで依頼人と会えるから、ついてくるか? これが誘拐ではないと証明しよう」
この切り替えしは予想していなかったのか、目をぱちくりとして、一瞬思考停止した表情を浮かべる女性プレイヤー。
「うん、ならついていくわ。誘拐だって分かったら大声上げるからね」
どうぞご勝手に、ってところだな。それよりとにかく急がないと。ブラック・ドラゴンの長が突っ込んできて阿鼻叫喚あび きょう かんなファストの街とか見たくない。今は言い争う時間もないのだ。
余計な連れが一人できてしまったが、その後は無事に北門へとたどり着き、街の外に出た。
「北門の外には、何もないじゃない。せいぜいモンスターがいるだけ……まさかアンタ、ここでその子を相手にいかがわしいことをするんじゃないでしょうね? ピーーーとか、ピーーーとか!」
放送禁止用語がやかましいなぁ、王女様が起きたらどうするんだよ。せっかく気持ちよさそうに寝ているというのに。
そのとき、ゆっくりと一人の男性が自分たちに近寄ってきた。
「変なおまけがいるようだが……すまぬな、感謝する」
近づいてきたのは王様だ。今回の人化の術では、いかにも王族が着るようなきらびやかなコート姿になっている。
「うわ、すっごいイケメン……」
ついてきた女性プレイヤーがポツリと呟く。その正体が最強の竜であるレッド・ドラゴンだと知ったら、彼女はどのような反応をするだろうか。
「一応言っておくが既婚者だからな? 王様は」
自分はそう女性プレイヤーに伝えると、背負っていた王女様をいったん柔らかい草の上に下ろし、被せていた外套を取った。それから俗にお姫様抱っこと呼ばれる方法で再び持ち上げて、王様に近寄る。女性プレイヤーが自分の背負っていたものの正体を見て「あっ!?」と驚くが、知ったことではない。
「王様、王女様を間違いなくここにお返しいたします」
王様は自分の娘である王女様を、同じくお姫様抱っこの形でゆっくりと受け取る。
「我が娘が世話になった。報酬は後ほどでよいか?」
この王様の申し出に、自分は首を横に振る。
「報酬は、王女様の健康なお姿を見れたこととしておいてください」
王女様が一人でこっそりやってきてしまったことは王様の責任だ、と言い切るのには抵抗がある。今回はご馳走した料理もローコストで済んだので、サービスという形で済ませてしまっても問題はなかった。
「すまん」
それでも王様はもう一度頭を下げた。レッド・ドラゴンの王様に頭を下げさせるって、他のドラゴンが見たら驚くだろうな。
「それよりもお早くお帰りを。長老が暴走する前に」
そう、自分にとってはそっちの方が心配だ。早くドラゴンの里に帰っていただいて、孫大好きなおじいさんのような雰囲気を撒き散らすブラック・ドラゴンの長老を抑えてもらわないと、非常に困る。
「そうさせてもらおう。この礼はいずれ」
そう言うが早いか、王様は大地を蹴って空高く飛び上がり……そのまま飛び去っていった。おそらく相当な上空まで行ってから本来の姿に戻り、里に帰るのであろう。
とりあえず自分の仕事は無事に完了だな、さて、見送りも済んだことだし、宿屋に帰って今日はログアウトしよう。
「ちょっと!? どういうことなのか説明して!? あの幼女はお姫様だったの!?」
状況が分かるはずもない女性プレイヤーが、自分に詰め寄ってきた。
「詳しい話は明かせないが、あの子は間違いなく、この世界のとある場所にある国の王女様だよ。万が一あの子に何かあったら、ファストの街にとんでもない攻撃が仕掛けられていただろうね。これ以上は言えない」
それだけを女性プレイヤーに教えて、自分はさっさとその場を立ち去った。
ログアウトして雑談掲示板を確認したら、あの幼女は王女様だという可能性があるとの話題がすでに上がっており、王様が王女様をお姫様抱っこしているSSまで載せられていた。いつの間に撮っていたんだ……髪の毛の色が同じ紅だったので、親子だということだけはすんなりと理解されたようだが。

    ◆ ◆ ◆

可愛いドラゴンの王女様が無事に帰ってから、数日が経過した。掲示板の方も、今回はイベントの前座かもしれないとの結論に落ち着いたようだ。
自分は、さて今日は何をしようかと、ファストの街にあるベンチに腰掛けて予定を考えていた。
とりあえず生産の方は少しお休み。木工のスキルLvをもうちょっと上げた方がいいのだろうが、いまいち作りたい物のイメージが湧いてこないので今はやらない。料理の方は狼の肉を使い、野菜炒めと、味噌を絡めたおにぎりの具を作り、いつでも食べられる携帯食として所持することにした。


【狼肉味噌絡めおにぎり】
狼肉を炒めて味噌で味付けした具を包んだおにぎり。
効果:攻撃力Atk上昇(小)
製作評価:8


狼肉と味噌のバランスにこだわった結果、食べるとAtkが少しだけ上昇する食べ物が出来上がった。おにぎりなので素手でぱくっと食べられる点も便利だ。その分、今までに作ってきたステーキなどに比べると、空腹度の回復量は控えめになっている。
ちなみに野菜炒めの方は、ずっと前に作ったものと中身の変更などはない。
このままボーっとしているのも時間の無駄だし、サハギンの様子でも見に行こうかな……そんな予定を考えていたとき、懐かしい声が聞こえてきた。
「そこのおぬし、少々よいか? もしかしてアースではないかの?」
声が聞こえてきた方向に顔を向けると、そこには両手斧を背中に背負ったシルバーのおじいちゃんがいた。
「あれ、シルバーさんじゃないですか。妖精イベントのとき以来ですね、本当にお久しぶりです」
【ドラゴンスケイルライトアーマー一式】の頭部分と外套のフード部分を脱ぎ、フェンリルの頬当てを外してシルバーさんに素顔をさらす。
「もしやと思って声をかけてみたのじゃがな……久しいのう。あのときの戦いっぷりはよく覚えておるよ」
そう言うシルバーさんの隣には、以前と同じく街中などでは姿を隠しているようだが、相変わらず契約妖精のヴァルキリーがいるのだろう。
「シルバーさんの方もお元気そうで何よりです。それにしても、シルバーさんがファストにいるのは珍しいですね?」
白い豊かなひげを蓄えたおじいさんの外見を持つシルバーさんだが、立派な最前線プレイヤーでもある。てっきりサーズの方で山道ダンジョンの最奥を目指していると思ったのだが……
「なに、ちょっとばかりファストの露店を見て回っておったのじゃよ。山道ダンジョンの途中で道具をかなり使ってしもうてのう。今日は他のパーティPTメンバーに来れぬ者がおるから、休憩がてら消耗品の補充を済ますことにしたのじゃ。サーズで買うと少々高いからの、ファストやネクシアまで足を伸ばして買い付けに来たというわけでな」
うーむ、やっぱり現在の最前線だけあって、サーズの周りでは各薬草なども争奪戦が発生していておかしくはないし、それに釣られて少々お値段がお高くなるのかね? 一つ一つは一〇グロー程度の差でも、それがずーっと続けばかなりの額になる。急いでいるときや時間がないときはあっちで買うしかないだろうが、大量に補充したいのなら安い場所まで探しにきた方がいい。もちろん品質が同じぐらいであれば、という前提条件はつくが。
「それでシルバーさん、よいポーションは買えましたか?」
普段自分が見る露店の中に、ポーションなどの消耗品を扱う店は入っていない。よっぽど急いでいない限りは自分で作ってしまうからだ。だから現時点でのポーションの相場などを、実は自分はほとんど知らなかったりする。
「数はあまり買えなかったのう……最近は武器や防具も値上がり気味じゃし、資源が枯渇こかつしておるのかもしれんなぁ」
資源が有限である。このかせがある影響で、攻略の速度も極端に早くはならないというのが現時点での「ワンモア」の世界だ。このシステムで、運営がプレイヤーの攻略速度をコントロールしているような気もする。
「どこもそうですか……鍛冶の掲示板には、新しく出現したサーズの坑道でも鉱石が枯れてしまったとの情報がありましたよ」
この自分の言葉を聞いて、シルバーさんはううーむとうなる。
「それは困ったのう……あんまり武器をいためてしまうと、修理すら頼めなくなってしまいかねんの」
「ワンモア」のゲームシステムの一つとして、武器や防具が大きく破損してしまうほど、修理に使用する素材が多くなる。多少ったぐらいなら素材消耗なしで十分修理できるが、全体ががたがたになったり、大きくひん曲がったりといったレベルの損傷には、その武器を造るのに使った素材がそれなりに必要なのだ。
別の素材で代用も可能なものの、代用した素材と元の素材の差の分だけ、性能そのものが容赦なく落ちてしまう。最悪の場合になると製作評価まで下がり、取り返しがつかなくなることすらあるので、別素材代用修理は最終手段である。
「ええ、特に前衛の人で、ドラゴン素材と【グリンド鉱石】から作られた武器を使っている人は厳しいかもしれません」
だからといって、戦闘に入ったら武器の損耗をあまり気にしていられないというのもまた事実だ。特に両手武器使いは、武器を用いてガードせざるをえない場面もあるし、装備へのダメージを気にし過ぎて死亡してしまえば、今度はデスペナルティで装備品全ての耐久力を大幅に消耗してしまう。装備を守るという意味では、死亡する方が大きなマイナスだ。
「うむ、こちらのPTメンバーにもPTチャットで話を聞いたがの、顔なじみの鍛冶屋も修理に必要な素材の確保が厳しいと話しておると言うておったでのう。当分の間は攻略速度を落として、じっくりと行くしかないようじゃわい」
そうするしかないだろうな……ごり押し気味の作戦では受けるダメージも大きくなる。普段なら最前線プレイヤーは消耗した分の数倍以上もの大きなリターンをたたき出せるが、しかし今は、修理と補給すら十分に受けられるのかも怪しい状態に陥っている。たとえ金が山ほどあったとしても、物がなければ買うこと自体ができないのだ。
「厳しい話ですね……その上、山道ダンジョンのモンスターは鈍器持ちが多いですし」
現実世界リアルにおいて、フルプレートの騎士相手に剣では歯が立たず、切れないなら叩き潰せという考えのもとで、先端を重くしたメイスという武器が登場した。このゲームはそうした一面を受け継いでいるのか、鈍器による攻撃は防具の耐久力を削る割合がやや大きめになっている。
「できる限り遠距離から魔法などでダメージを与えた後に接近戦をやるのが基本じゃったが、これからはそれをより徹底せねばならんかの……でなければ、タンカーを務めてくれる者がおらんようになってしまうわい」
それしかないだろう。その分、魔法使いや弓使いの負担が増えるが、木材はまだ枯渇したとの話は伝わってきていない。矢は派手に損耗しても、補充は問題なく行える。
「そうですね、しばらくの間はそれが基本的な戦術になりそうですね」
いざというときに備えて、前衛の装備耐久力を温存しておく必要がある、か。なかなか厳しい話になりそうだ。
自分があごをさすりながらそう考えていると、シルバーさんが、「ちょっとすまんの」といって数歩離れた。どうやらウィスパーチャットがかかってきたようだ。
「ぬ、それはまことか!? 困ったのう」
仲間とやり取りをしていたと思われるシルバーさんだったが、つい声が大きくなってしまった様子である。そのまま話し合いが続くかと思いきや、彼はふとこちらを見た。そしてそのままこちらへと歩いてくる。
「アース、すまぬが、明日の大体このぐらいの時間はいておるかの? 実はメンバーに欠席者が出てな、我々のPTへの臨時参加を頼めないじゃろうか?」
何ですと!?


【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv10 〈剛蹴〉Lv23 〈百里眼〉Lv23 〈技量の指〉Lv5(←1UP) 〈小盾〉Lv22
〈武術身体能力強化〉Lv37 〈スネークソード〉Lv40 〈義賊頭〉Lv18 〈隠蔽・改〉Lv3 
〈妖精招来〉 Lv2(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3
控えスキル
〈上級木工〉Lv30 〈上級薬剤〉Lv21 〈人魚泳法〉Lv8 〈釣り〉Lv2 
〈料理の経験者〉Lv8(←1UP) 〈鍛冶の経験者〉Lv21 
ExP29
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 
   妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 
   託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定)  義賊 人魚を釣った人間
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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