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9巻試し読み

9-3

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「と、街の方ではかなりの騒ぎになっていたな」
北の砦街から馬車を使い、内陸街を経由して城下町にたどり着くまで馬車に揺られること四五分。城下町に着いた後は徒歩でフェンリル邸を訪れたとき、ゼタンは庭でのんびりと日向ひなたぼっこをしていた。もちろん今回は、以前のように門番の皆さんから殺気を向けられることもなかった。
自分は寝転がっているゼタンのそばに行き、軽く挨拶あいさつを済ませた後で、近頃話題に上がっているマーダー・ラビットの話を始めたのだった。
「やれやれ、いつの時代も突然変異した魔物が現れる可能性があるとはいえ、また面倒なのが出て来たもんだな」
自分の話を聞いたゼタンは、顔をぽりぽりとかきながら感想を漏らす。ゼタンの体の状態はかなり回復しており、補助器具などなくても一般生活を送るのに十分な体力を取り戻している、と本人が教えてくれた。実際にこうやって話をしていても、ゼタンが苦痛に表情をゆがめる姿は一回も見ていない。
「昔の俺なら早速倒しに行くところだが……もうこの体じゃ、魔物を相手にしたら、間違いなくこっちが狩られるだけだってのが分かっちまってるからなぁ。今後のことは、これから出てくるだろう若い連中に任せるしかねえってのが少々歯がゆいぜ」
そんなことを言いつつ、首をふるふると左右に振るゼタン。ゲヘナクロスとの戦争前の彼だったらば、さっくりとマーダー・ラビットを倒せたことだろう。熊の巨体を生かした体当たりや噛み付きだけでも脅威だし、モンスターとして出てくる熊よりも戦闘技術を持っている。戦争中も二足歩行と四足歩行を使い分けて、腕でなぎ払ったりタックルをしたりと、ものすごい勢いで敵兵を倒していたからな……
「あんな戦争を乗り越えて折角拾った命なんだ、無茶をやって無駄にしてしまうようなことだけはめてくれよ?」
少し心配になって自分がゼタンにそう告げると、ゼタンはにやっと笑った。
「分かっているさ。もう魔物との戦闘は絶対にやらねえよ。今俺がやっているのは新米たちの指導が中心だしな。立ち回りや野営の心がけ、こういう行動をすると死ぬことになるといった情報を、実体験を絡めて教えてやってるのさ。『荒髪あらがみ』の名が効いているのか、まあ素直に聞いてくれる奴は多いな」
なるほど、引退した先輩が後輩のために指導するってのはどこも変わらないか。
「つまり今のゼタンは教官ってことになるのか?」
自分が確認すると、ゼタンは「ま、真似事って感じだろうがな」と笑う。
「そういえば、ちょっと質問いいか? ゼタンは一体どこで、後輩にそういうことを教えているんだ?」
ふと自分の頭に浮かんだ疑問がこれだ。この世界には、ゲームや小説によくあるような冒険者ギルドなどといった、冒険者の総元締めを果たす機関が存在しない。あるのはプレイヤー同士で作る共同体としてのギルドだけだ。
もし総元締めとしての冒険者ギルドなどがあれば、当然新米冒険者に授業を受けさせるスペースもあるだろうが、そのへんはどうなっているのだろうか。
「ああ、そこに気がついたか。それならば、ちょっとその場所を見に行くか? 疑問も解けるだろうよ」
ゼタンがそう言うので、自分はついていくことにした。どういう場所なのか興味が湧いたのだ。
「そうかそうか、ならいくか。なに、ここからは歩いてすぐの距離だ」
先導するゼタンに続いて、二人で屋敷から出ていく。門番の方はゼタンを「「いってらっしゃいませ!!」」と送り出していた。
そして歩くこと三分。到着した場所には、大きな建物と広い運動場があった。大きめの自動車教習所ぐらいの規模だ。
「戦争の褒賞でこの土地を買ってな、後輩たちにものを教える施設を建てたんだ。養成所でも学校でも、好きに呼んでくれればいいぜ」
そう言いつつ、ゼタンは建物の中へと入っていく。自分も続いて中に入ると市役所のような受付が設置されていて、「おや? ゼタン様、今日はお休みのはずでは?」と、掃除をしていた黒髪ショートヘアをした、高校生ぐらいの容姿を持つ女性の妖精さんが首をかしげる。おそらく事務員さんか……紫の目が印象的だな。
「なに、前の戦争を生き延びた戦友ダチが、俺のところを訪ねてきてくれたんでね。今俺がやっていることを自慢したくなってよ」
そう言って笑うゼタン。事務員さんも「そうでしたか」と納得がいった様子だ。
「そうだ、紹介しておこう。人族のアースだ。俺の戦友ダチだから、これからここに来た場合は顔パスで通してやってくれ。アース、すまねえがフードをとって、素顔をこいつに見せてやってくれねえか? こいつは事務と門番を兼ねているんでな」
ゼタンがそう言ってきたので、自分はフードやら頬当てやらを取って素顔を晒した。
「はい、アース様です……ねって、アース様!? 妖精国の隠れアイドルじゃないですか! うわー! うわあー! 会えて感激です!!」
ナニその隠れアイドルって。って、そういえばずっと前に、クィーンがそんなようなことを言っていたっけ。
更に今見たら称号が追加されているし……
「オイオイ、舞い上がっているところ悪いんだが、まあそのアース本人なんだ。こいつはあんまり騒ぎ立てられることを好まないからな、ここに来たって言いふらすんじゃないぞ?」
ゼタンが状況を察して、事務員さんに釘を刺してくれる。
「す、すみません! まさか直接会える日が来るとは思っていなくって。絶対に言いません!」
事務員さんも徐々に落ち着きを取り戻してきたようだ。自分は外した装備を元に戻しておく。
「そういうことでお願いします。それではお邪魔じゃまさせていただきますね」
事務員さんに「是非握手してください!」と懇願こんがんされたので、篭手こてを解除して素手で握手する。やたら念入りにもみゅもにゅとされたのは多少気になったが、そこはスルーしておこう。
「とりあえず始めに基本的なことを座学で教えてから、実際の動き方を身に付けさせるって流れだな」
今は授業中らしく、部屋の中には板書を行っている教官がいて、生徒はそれを真剣に見ている。ちょうど日本の学校と同じような感じだ。生徒の髪の毛は随分カラフルだけど。
板書の内容をチラッと見たが、どうやら薬草の簡単な見分け方と、扱い方についてのようだ。ポーションが尽きてしまったときの応急手段という内容らしい。
「教師も昔のツテを使って、引退した仲間を引き込んだ。仕事がなかったから助かった、なんて言って引き受けてくれたよ。それぞれの得意分野を担当して、座学をやってもらっている。俺はここを作ったってことで一応一番上のおさになってる」
そう言いながらゼタンは、座学を行っている各部屋を案内してくれる。それにしてもゼタンが校長か……しばらく来なかった間に、こちらの様子も随分と変わったものだ。
それからしばらく時間をかけて、教室をひと通り案内してもらった。各種武器の特性と扱いを教える部屋、魔法を教える部屋、生産を教える部屋など、大まかに分ければ三種類。そこから更に細かく武器ごと、魔法属性ごと、生産内容ごとに分かれていく。そのため教室の数もかなり多かった。
「どうだ? これが今の俺がやっている仕事ってわけだ」
案内を終えて、ゼタンは校長室にてドヤ顔っぽい表情を浮かべているが、そんな表情をするのも無理はない。体一つで身を立てて、ここまで大きなものを作り出せる存在はごく一部だ。
「すばらしいな、自分にはできそうにないことを、ゼタンはここで成したんだな」
だから自分も素直に賛辞を送る。人にものを教えるというのは非常に難しい。十教えて一理解してもらえれば上出来だ、なんて言葉を聞いたこともある。天才は十教えると十二理解するらしいが……教えたことに加えて、更にその先にあるであろう物事まで想像して一気に理解してしまうからなんだと。
「正直に告白すれば、まだまだだがな。最初は、自分が冒険で得た知識を後輩に教えればいいと思ってたんだが……教えるってことがこんなに難しいとは思わなくてな。大慌てで知り合いをたくさん引き込んで部門別に振り分けて、ようやく座学などが回るようになってきたってところだ。毎日大変だが、やりがいはあるぜ」
大変だろうな、自分も親戚の子に勉強を教えたことがあるが、分かってもらうためには根気よく教えねばならない。一人二人相手でそうなのだから、一気に数十人を相手にするというのは計り知れないほどの疲労を伴うだろう。
ましてやここで教えているのは、命に直結することだ。教育の結果如何いかんで、バカと利口の差ではなく、生か死かというくつがえしがたい大きな差が生まれてしまう。プレイヤーは死亡してもデスペナルティを受ければ復帰できるが、こちらの世界の住人の場合、死=全ての終わりである。
「教育ってのは並大抵の努力ではできないようだな……だが、ゼタンの学校が教える知識があるかないかで、生存率が大きく変わるのは間違いない。今後も厄介なモンスターが現れる可能性がある以上、少しでも知識を身に付けておかないと早死にするだろうし」
自分の言葉にゼタンも頷く。「知は力なり」という言葉もある。「知」とは何も頭の中の知識に限った話ではない。どのように武器を振るうべきなのか、どのようなときにどの魔法を扱うべきなのか、どんな物を作ると役に立つのか……生に関わる全てが知となる。
だからこそ知となりうる情報は大事であり、時としてそれは黄金よりも価値がある。知っていると知らないとで、大きな差が生まれることもあるのが世の中なのだ。たまにそのことが理解できずに、「何で情報に金がかかるんだ」なんてズレたことを言う人もいるが。
「そういえば、ここの授業を受ける生徒たちからは、どれぐらいを対価として取っているんだ?」
情報はタダではないし、そもそもこの場所を維持するのにだってお金がかかる。お金を儲けたいとかではなく、今後も教える場所を守って行くためにも、お金はどうしても必要になるはずだ。
「ああ、六日間の座学や訓練に一日休みを挟むスケジュールで、二五〇〇グローだ。これには昼飯代も含まれている。それを四回やるのが最短のコースだな。最短コースでもそれなりにためになることを教えるが、最長になると四八回、つまり一年かけてこなすコースも用意してある。そちらになると長く時間が取れる分、実地での訓練や戦闘も入ってくる。もちろん教師が複数同行して指示を与えるが、魔物と直接戦わせるとなると、どうしても長期間限定になっちまうんだ」
安く短期間で最低限の物事を学ぶ最短コース、じっくり多くのことが学べる最長コースか。日本と違って義務教育なんてないから、そういうコース分けも生まれてくる。人によって金銭面の問題もあるだろうし、要求する知識量にも違いがあるだろうからな。
「まあコース分けはされているが、ここで覚えたことは放浪妖精として生きていくための必須知識だからな。皆必死で勉強するし、訓練する。ここに来るような奴の中には、早死にしたいバカはいない」
安全な街を離れる上に、命を対価とする戦闘行為まで行う生活をする以上、一攫千金いっかく せん きんとまでは行かなくてもそれなりには成功したいだろう。普通に生きていくのであれば、街中の仕事をこなした方が安全かつ確実だ。しかし成功すれば、このゼタンみたいな生活が可能になる。大きな学校を建てて校長として振舞ふるまうゼタンの姿は、多くの新米の目標になっていることだろう。
そのまま校長室の中でゼタンと雑談を交わしていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「ゼタン様、アース様。お二人にお昼の食事をお持ちしました」
声からして、さっき握手をした事務員さんのようだ。ゼタンが「入れ」と声をかけると、「失礼します」と断りを入れてから、事務員さんが手押し車を押しながら部屋に入ってきた。
「本日のお昼はパスタ料理となっております」
そう言って、事務員さんは自分たちの前に湯気が立ち上る熱々のパスタ料理を置いてくれた。使われている具は野菜が中心で、肉は少なめのようだ。
「こちらの方針でな、街にいるときは肉は控えめにして、野菜や果物をできるだけ多く食えと教えている。野営が多いとどうしても、野菜を食えない時間が長くなるからな。肉は魔物を倒して調理できれば何とかなるが、野菜は持ち歩くしかない。野菜を食わないと体の調子が落ちてくることは、重々思い知らされているんだ」
そんなところまで気を配っているのか……しかし、野菜を食べないと体の調子が落ちてくるというのは、リアルの我々と同じではないか。そんなところまで再現しているこの世界が、ちょっと恐ろしい。
「なるほどな、それはいい指示だと思うぞ」
自分もゼタンの方針に賛成する。大航海時代に恐れられた壊血病かいけつ びょうとまではいかないだろうが、それでも心がけるかそうでないかで差が出るだろう。ちなみに壊血病とはビタミンCの欠乏により起こる病気で、皮膚や歯茎などから血が出るようになり、怪我も治りにくくなっていき、やがては死に至る。
「さすがだな、アース。お前はその辺も分かっているんだな。中にはもっと肉を食いたいと言う生徒もいるんだが、半ば脅すようにして食わせている。病気にはならないまでも、普段から肉ばっかり食っていたせいか、戦闘ですぐにへばってしまって、魔物にあっさりと殺された仲間を結構見てきたからな……」
ゼタンはそんなようなことを、実体験として知っていたのか。思い返せば、ゼタンは肉より野菜や果物ばかりを食べていたな。
「さて、メシが終わったら、午後の訓練の様子も是非見ていってくれ」
時間を確認するとまだ午後一〇時半前であり、ログアウトするにはまだ早い。見ていく時間はあるだろう。
「分かった、どういう訓練をしているのか気になるよ」
出されたお昼ご飯を綺麗に食べ終えた自分は、ゼタンと一緒に運動場へと降りてきた。
運動場にはすでに、お昼休みも済ませた生徒がずらりと並んでいる。妖精だけあって、人型やら動物型やらのみならず、ペガサスやグリフォンといった幻想型まで、外見のバリエーションに富んでいる。
「それではこれから、大型の魔物と出遭ったことを想定した戦闘訓練に入る。今日はゼタン校長と、校長のご友人が見学なさっている。お前たち、普段よりも気合を入れて戦え!!」
「「「「はい!!」」」」
人型の妖精は武器を片手に、動物型や幻想型は体自体が武器なのでそのまま、標的である三体のゴーレムの前に行く。
「負けたら死ぬ覚悟を持って、全力で戦え! 手を抜いた修練など時間の無駄になるだけだ! そして無駄にした時間の分だけ、お前たちの放浪妖精としての寿命は確実に縮まるぞ!」
戦闘訓練担当の教官の声が飛ぶと同時に、生徒の前に用意されていた三体のゴーレムが起動する。立ち上がるとその大きさは三メートルぐらいだろうか。そのゴーレムに対峙するのは、たくさんの生徒たち。
「では訓練開始!」
そうして生徒たちとゴーレムの戦いが始まる。ゴーレムの手足には衝撃緩衝材のような物がついているが、それでもゴーレムのパンチやキックをもろに食らった前衛の生徒たちは、容赦なく吹っ飛ばされる。
「もっと相手の動きをよく見ろ! 実際の戦闘だったら、直撃を受けた時点でお前は死んでいるぞ!!」
教官はそう言って、吹き飛ばされてしまった生徒をしかりつける。回復魔法が使える別の生徒が大急ぎで回復させて、その前衛は戦線に復帰していく。
「しかし大きいゴーレムが相手か……ゼタン、今訓練を行っている面子は、長期コースを選択した生徒たちか?」
戦闘訓練教官が上げる声の合間に、自分はゼタンに質問する。
「ああそうだ。更に付け加えるなら、あと少しで外に出て、実際の魔物と戦わせる経験を積ませる予定の連中だ。今日はデカブツと戦わせているが、少し前に小さめの奴とも戦わせた。いろんなパターンのゴーレムと戦わせて経験を積ませている真っ最中なんだ。相応に痛みも伴うが、いちいち痛がって動きを止めているようじゃ、すぐに死んでしまうからな。そっちにも慣れさせなきゃいけねえ」
よっぽど酷い痛みや怪我でない限り、ポーションや回復魔法で治癒できる。そもそも街の外に出る以上、怪我をするぐらいの覚悟はなければダメだ、と言うゼタンをはじめとした教官からのメッセージが、この訓練には含まれているのだろう。
そのまま生徒たちの戦いを見学していたが、二〇分ほどで生徒たち全員が仮想敵であるゴーレムの前にぶっ倒れてしまった。
「ありゃりゃ、生徒の皆さんは全滅しちゃったか」
自分がぽろっと漏らすと、それが聞こえたのか、大声を発していた教官が振り返って言う。
「ご覧の通り、まだまだひよっこですよ。ゴーレムは三体しかおらず、生徒は一〇〇人以上いたというのに。せめて一体ぐらいは行動不能にできないと、外の魔物と戦わせるには不安が残ります。マーダー・ラビットという新種が現れたことも確認されましたからな」
そう言い残し、教官は生徒を回復するために近寄っていく。そうだな、外に出ればいきなり強敵が現れて襲い掛かってくる可能性は常にあるんだ。これぐらいの経験を今から積んでおく方が、結果として長生きできるだろう……うーんうーんと唸っている生徒たちに、それを今すぐ納得してもらうことは無理だろうけど。
「こりゃ、ゴーレムを相手に勝利するまでには時間が掛かりそうだな。一応前衛後衛の役割は考えてんだが、まだそこ止まりだ。やばいときはいったん引いたり、瞬間的に他のヤツが引きつけたりして守ってやるって考えはまだ生まれねえか。そういう動きは座学じゃ教えられねえ……実際に自分で考えて実行するようになんなきゃ、将来性がねえからな」
ふむ、そういう教育か。教えるばかりではなく、生徒たち自身に考えさせて、どうすればいいか答えを探させる。そしてそれを実行できるように促していく、というわけだ。
例えばタンカー役が危険になったとき、武器でガードすることができるアタッカー役が前に出て一、二回カバーに回るだけでも随分違う。その僅かな時間が、タンカー役がポーションを体にふりかけたり、回復魔法を受けたりするタイミングになるのだから。
「後衛もダメだなぁ。攻撃を受けてから回復魔法を詠唱してたんじゃ遅いぜ。前衛の動きと敵の動きから予測して、危険になる前に魔法が届くようにしねえと……攻撃魔法の使い手も、火力にばっかり目が行き過ぎてやがったな。相手の行動を阻害して前衛を援護する、って考えにたどり着いてる奴はまだ数名か」
ゼタンのダメ出しは続く。特に攻撃魔法は威力があるものを扱いたくなるのだろうが、上手い魔法使いは攻撃と妨害魔法を使い分ける。氷で動きを鈍らせる、風魔法の中にある雷で瞬間的に動けなくする、土魔法で相手の足場を崩す、なんてのが基本的なところか。
だが、先ほどゴーレムと戦っていた生徒の大半は、直接ダメージが大きい魔法ばっかりを使っていた。早く一体を倒せば楽になる、と考えたのかもしれないが、ゴーレムはそんなに甘くなかったということだろう。
「ちなみに、あのゴーレムの設定はどうなってるんだ?」
参考までに、どれ位の強さを模しているのかをゼタンに聞いてみた。
「今回は人族の街の東にいるマーダーベアレベルだな。これぐらいの人数差があれば、どれか一体ぐらいは戦闘不能にできるかと思ったんだが、こいつらはまだ訓練が足りてねえ。外での実地訓練には出せねえな」
そうか、マーダーベアレベルか……プレイヤーのPTを何度も全滅させてきたモンスターだが、それはあくまで六人PTの話。プレイヤーが一〇〇人でマーダーベア三体にかかれば、楽勝で倒せるだろう。
ゼタンと話をしているうちに、生徒たちも全員復帰したようだ。ゴーレムも戦闘状態を解除されているので大人しい。
そして教官が大声を出す。
「お前たちはまだまだ訓練が足りん! よって実地訓練を延期する! これはお前たちを死なせないためである!」
生徒たちもがっくりと膝を突く。まあ、実地訓練まで行って、実際にモンスターを倒せるようになれば彼らの夢が近づくだけに、延期されるのは相当こたえるだろう。
「教官、一つだけ質問があります」
うな垂れる生徒が多い中、一人の生徒が前に出てきた。外見はゼタンと同じく熊の妖精だ。
「発言を許可する、言ってみなさい」
教官の声が幾分柔らかくなったのは、生徒が発言しやすいようにするためだな。変に硬い調子のままで言うと、「実は発言しちゃいけないんじゃ」との疑惑を相手に持たせることになる。
「あのゴーレム、本当に倒すことができるのでしょうか? 今までの訓練に耐えて、入学前よりはるかに強くなった私たちが、束になっても全滅させられただけに……」
うーむ、その気持ちは分からなくもないが……戦いを見ていた自分としては、まだ君たちに甘い部分が多いんだよという意見なんだよね。実際ここにいる生徒たちをマーダーベアの生息地に連れて行ったら、一日で半数が死ぬんじゃないだろうか。
「今再確認したが、ゴーレムに異常はなかった。与えたダメージは、ゴーレム1が最大HPの四割。ゴーレム2が一割、ゴーレム3が五割との報告が上がってきた。ダメージの蓄積ちくせきりょう計算にも異常はない」
生徒の質問に対し、教官が結果を教える。ダメージはいくらか通ってはいたが、倒しきれるほどではなかったことを知り、熊の生徒も「分かりました、ありがとうございます」と言って引き下がった。
「お前たちには足りないものがたくさんある! もう一度連携というものを見直せ! 今から話し合いの時間をしばらく設けた後に、もう一度だけ戦うチャンスをやる! それでもダメだった場合は本当に実地訓練を延期する!」
教官からの言葉を受けて、大慌てで話し合いを始める生徒たち。皆真剣そのもので、あそこが悪かったとかここはこうするべきだとか、話し合いに熱が入る。
「これも予定の内かな?」
ゼタンに聞いてみると、その顔がにやりと笑う。
「想像に任せるぜ。なんならお前一人であのゴーレムと戦って倒すことで、生徒たちの度肝を抜いてくれてもいい。そのフードがあれば、お前がアースだとは分からないだろうしな。どうだ?」
ゼタンも冗談半分で言っていることが分かるので、自分は軽く手のひらをひらひらさせて断る。
「まあしょうがねえか。だが俺たちが戦って倒しても『教官は強いから』ってことで納得されちまって、度肝を抜けねえんだよな」
ああ、そういうことか。ううーん、ここは友のために一肌脱ぐ方がいいのだろうか?
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