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第9章〜転生王子の休日(ピクニック編)

毛並み

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 「ヨーシ!綺麗になった」
 俺はニッコリと笑ってコクヨウの毛を撫でる。コクヨウは今、体長1メートルくらいの大きさになっていた。丁寧に櫛を入れた毛並みは、ツヤツヤとしている。
 ただいま召喚獣の毛並み整えタイムである。

 明後日は週の月曜にあたる日なのだが、先生方の都合で授業がなくなり、思いがけず休みになった。そこで明日、いつものメンバーでピクニックに出かけることにしたのだ。
 召喚獣にはいつも部屋でお留守番してもらっているし、たまには外でコクヨウ達を遊ばせてあげたいもんね。

 【明日出かけるからと、何故櫛でとかす必要がある?】
 顔だけ俺に振り返ってコクヨウが言う。
 「だって明日、皆に召喚獣の全員を紹介するんだしさ。綺麗な毛並みで紹介したいじゃないか」
 ライラはテンガにしか会っていないし。トーマやレイも全員いっぺんには会っていない。
 【我は気にせぬのだがな】
 わからないと言うように、息を吐く。
 
 【なら……私もやって頂きたかったですわ】
 ヒスイは窓辺に寄りかかり、自分で櫛をいれていた。拗ねたようにこちらをチラリと見る。
 「え、いやぁ、それは……」
 綺麗なお姉さんの髪とかすのは、いくらなんでもちょっと気恥ずかしい。
 頬を熱くする俺を見て、ヒスイはくすりと微笑んだ。

 それから話題を変えるように、質問をする。
 【久々のお出かけ楽しみですわ。湖に行くんですわよね?】
 「うん」
 いつか休みの日に、皆で出かけたかったので。果物を売ってくれたユーリに、学校から近く人のあまり来ない、手頃な場所を聞いておいたのだ。それなら町の外れにある湖畔が最適だと教えてもらった。

 「湖畔でピクニック、楽しみだなぁ」
 学校始まっていろいろあったから、連休でのんびりするんだぁ。
 コクヨウを撫でて、その手触りに満足しながら思い切り顔をうずめた。モフモフとした感触に、ふへへと笑う。
 小さいコクヨウも可愛いが、モフモフするなら少し大きくなったコクヨウが一番だ。

 【小さい体の時に櫛をいれた方が、楽なのではないか?】
 「そうだけど、大きい方がやりがいあるよね。こうやってすぐ顔をうずめられるし」
 俺はコクヨウに抱きつきながらグリグリと顔を動かした。それからコクヨウの胴にポフンと顎を乗せる。

 「それにコクヨウは、ホタルと違って櫛通りいいから、そんなに大変でもないよ」
 ホタルは転がるせいか、小石やゴミが毛に絡まっていることがあるのだが、コクヨウはそんなことがない。
 そう言えば出会った時も綺麗な毛並みだったなぁ。今は俺がお手入れしているので、さらにツヤツヤだけど。

 顎を乗せたまま小さいあくびが出た。
 至福とはこのことかもしれない。このまま抱き枕にして寝られるや。
 毛玉猫のホタルや光鶏のコハクもモフモフしているが、大きさの充実感はやっぱりコクヨウなんだよなぁ。

 そのホタルとコハクは、もうすでに櫛をとかし終え、毛がふわふわになっていた。  
 【フワフワです〜】
 【フワフワっ!】
 お互い触り心地がいいのか、顔をスリスリと合わせている。おかげでその辺りに、変な跡がついていた。
 あぁ、せっかく櫛で綺麗にしたのに。でも可愛いからいいか。
 思わずほっこりする。

 【てやんでぃ!】
 ん?なんだ?
 氷亀のザクロの声に、俺はそちらに顔を向ける。
 見ると袋鼠のテンガの前に、氷亀のザクロが仁王立ちしていた。
 いつも4本足で移動しているザクロだが、普通の亀より足がしっかりしているので2本足で立つこともある。
 だけど、何で仁王立ちしてるんだろう。

 【おうおう、隠そうったってそうはいかねぇ!】
 まるで時代劇のお奉行様みたいに、ザクロがテンガに詰め寄る。テンガはぶんぶんと頭を振った。
 【な、なな、何も隠してないっす!】
 明らかに隠し事がある口ぶりだ。
 2匹で何やってんだ……?

 不思議に思って俺が見ていると、ザクロは前足でテンガを指した。
 【フィル様の学校の紙に足跡を付けたのは……お前さんだな!】
 あぁ、そう言えば俺がノートとして使っている紙に、インクで足跡付いていたことあったなぁ。
 【な、何でわかったっすかっ?!】
 ガーン!とショックを受けたように、テンガがよろめく。
 いや、あれテンガの足跡だから誰だってわかると思うけど。と言うか、ちょっと可愛かったので、ノートの表紙にしてしまってるんだが。

 【太陽がすべてを照らすように!このザクロの甲羅は、すべてを照らす!】
 クルリと後ろを向いて、ピカピカな甲羅を見せる。先程俺が柔らかい布で磨きあげた甲羅だ。氷亀の甲羅は乳白色の水色なのだが、窓から入る太陽の光によってさらに輝いている。
 【うわっ!眩しいっすー!!】
 テンガが小さな手で目を覆う。

 【お前さんが隠しても、このピカピカの甲羅がお見通しでぃ!】
 ザクロは甲羅を見せながら、ドヤ顔で首だけ振り返った。
 テンガはブルブルと震えると、床に手をつく。
 【参ったっすー!】

 何だこの三文芝居……。

 甲羅をピカピカにしてもらって、嬉しかったのだろうが。まさかそれによって、ザクロ奉行が現れるとは思わなかった。

 そんな時、部屋の扉がノックされた。俺はコクヨウに乗せていた頭を上げ、「はーい」と返事をする。
 通常ならば返事をすると相手が誰だか名乗り、それから扉を開けるのだが……返事がない。
 「誰だろ?」
 俺が首を傾げると、コクヨウは小さく変化して大きくあくびをした。
 【獣の気配だな。殺気はないようだが】
 
 なら開けても平気か。
 コクヨウを抱っこして、ベッドへ乗せる。
 それから様子をうかがいながら扉を開けた。
 「あれ?」
 誰もいない。
 【ここよ】
 その声に視線を下に降ろすと、ナガミミウサギのエリザベスがこちらを見上げていた。
 エリザベスはトーマの召喚獣だ。ロップイヤーのように長く垂れた耳に、今日も可愛いリボンがついている。

 「あれ?トーマはどうしたの?トーマのお使い?」
 召喚獣はよほどのことがない限り、主人から離れることはない。だから主人であるトーマの命令で、俺の所に来たのかと思ったのだが……。
 エリザベスはプイッと横を向いた。
 【アイツの話はしないでっ!】

 何かあったのかな?ケンカ?
 「えーっと……とりあえず、僕に用があるんだよね?」
 首を傾げると、コクリと頷く。
 「じゃあ、とりあえず中に入って。話聞くから」
 俺は部屋の中に入れる為、扉を大きく開ける。エリザベスは入ってこようとしたが、何故かピタリと足を止めた。
 「どうしたの?」
 固まったエリザベスの視線の先では、コクヨウがジッと見つめている。

 姿は可愛い子狼だが、ディアロス闇の王だとわかるのだろう。エリザベスはピキンと固まってしまった。
 そう言えばどちらかを控えさせていたりして、直接は会ったことなかったっけ。
 俺はエリザベスの頭をそっと撫でた。
 「エリザベス大丈夫だから入って。コクヨウもジッと見ないの」
 【我の役割として、怪しい者か見極めねばならぬのでな】
 その言葉にビクッとしたエリザベスに、コクヨウはニヤリと笑って尻尾を振る。

 さっきは殺気が無いと言っていたくせに。からかってるな。
 コクヨウのからかいは、他の獣にとってはシャレにならないんだからやめてあげて欲しい。
 仕方ないなぁと息を吐いた。
 「ちょっとごめんね」
 エリザベスをよいしょと抱き上げる。コクヨウが怖いのか、大人しく丸まっていた。
 ウサギもフワフワで可愛いなぁ。
 そんな不謹慎なことを考えつつ、エリザベスを部屋の椅子の上に降ろす。
 
 「それで……僕に何の用事?」
 俺が聞くと、チラチラとコクヨウを気にしながらもエリザベスが口を開いた。
 【最近、トーマが怪しいの】

 ……怪しい?
 
 

 
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