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クィーンの扱いは変わりません(呆)

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「お休み中の所失礼します、アース様はいらっしゃいますか?」

 装備を再び着込んでから、ヘテラさんとたわいない話で歓談していた所にリビングメイドさんがやって来た。なんだか慌てている様な気もするがどうしたんだろう? 顔がないから表情から読み取ると言う事が出来ないんだよね。

「私はここに。如何しました?」

 自分が声をかけると、リビングメイドさんは一礼した後にこう続けた。

「誠に申し訳ありませんが、少々魔王様とフェアリークィーン様の間がややこしい事になっております。こんな事をお客人であるアース様に頼まなければならないのはお恥ずかしい限りなのですが、お二人の争いを収める為の協力をお願いできないかと。どうもお二人の間がややこしくなったのは、アース様の存在が関わっている様でして」

 ──あのポンコツ女王、今度は何をやらかした? しばらくの間はこれと言った問題なんかを聞かなかったのに、こんな場所で何かをやってしまったってのか。今回は国際的な話し合いのはずだろうに、何をやってるんだ。失言か? それとも暴力沙汰か? どっちにしろ、ここは行かねばなるまい。クィーンは半分以上どうでもいいが、妖精国に住む妖精の皆さんに問題が起きたら困る。

「分かりました、伺いましょう。それで、魔王様とフェアリークィーン様は今どちらに?」「魔王様の執務室内でございます。行ったり来たりとなってしまって誠に申し訳ないのですが──」

 また同じ場所にUターンか。まあ仕方がない……とりあえずハリセンの用意だけは忘れないようにしておくか。そうしてリビングメイドに先導されながらヘテラさんと一緒に魔王様の執務室に再びやってきた訳なのだが、何というか表現しがたい圧迫感を感じた。少々息苦しいと感じているのも気のせいではないだろう。一体どんなやり取りが行われているんだ……リビングメイドさんがドアを何度かノックするが、なぜか返答がない。まさか、すでに中では血みどろの戦いが勃発しているのか!?

「魔王様、アース様をお連れしましたのでどうか入室の許可を」

 リビングメイドさんがそう言いながらドアを再びノックするが、まだ何の反応もな……いや、あった。「分かった、通せ」と魔王様の声がした。しかしその声はとても冷たく、とがった氷を連想させる声。殺意を向けられていると言う訳でもないのに、ゾッとした。これが魔王様の本性なのか? しかしだからと言ってここで回れ右をして執務室の前から立ち去る訳にもいくまい。リビングメイドさんとヘテラさんと共に無言でうなずき合った後、一言「失礼します」と声をかけてから執務室の中へと一人で入ると突然クィーンがこんな一言を──

「だから! アース様は私の将来の伴侶で──」

 条件反射で、フェアリークィーンのどたまを思いっきり振りかぶったハリセンでひっぱたいた。スパカーンと良い音が魔王様の執務室に響く。なれなれしくしないと言う事は以前に決めた事だが、さすがに今回はそんな悠長なことは言っていられん。いつ自分がお前の伴侶候補になった。

「いったーい!」

 クィーンが大きな声を上げるが、そんな事には構うつもりは全くない。先ほどのトンデモ発言を目の前にいる魔王様が本気にされたら困る。

「いつ自分が、どこで、自分がお前の伴侶となると決めたっ! そんな嘘八百を他の人に向かって大きな声で叫ぶんじゃない!」

 こういった物事は大人の対応なんかしていたら、いつの間にかおかしい方向に突き進みかねない。だからここはどんな相手であろうと大きな声ではっきりとした否定を行わなければならない。曖昧な言葉は、周囲に勝手な判断を招くことになるだけだ。そうなったら修正は不可能となるからな……周囲の認識ってのは適当に流してると後でとんでもない事になるバケモノだ。

「はっはっは、やはりそうか。アース殿の情報はこちらも集めたが、その中にクィーン殿の伴侶となる予定と言う物は一切なかったからな。正直こちらとしてもアース殿は手放したくない人材だ。出来る事なら魔族領にちょくちょく訪れてほしい所だが、もしクィーン殿と結婚等されてしまっては、それも望めなくなるからな」

 魔王様は魔王様で、ちょくちょく魔王領に来てほしいときたか。そうして徐々に外堀を埋めていくつもりかね? これはある意味魔王領の方も注意しないといけなくなったか……まあ為政者側とすれば、使える人材は一人でも多く確保しておきたいと考えてもおかしくはない所ではある。だが、それにこちらが従うか否かはこっちの考え次第。強硬手段をとる様なら……なんて未来を迎える様な事にはならないでほしいのだが。

「うう、久々に会えたって言うのにひどい。私の事が嫌いなの?」

 一方でしょげながら自分が振るったハリセンによって崩れた髪の毛をどこからか取り出した櫛で整え直すクィーン。嫌いという訳ではない、ないんだが。勝手に人の知らない所でこちらを伴侶扱いするのを止めてくれって点をお願いしたいんだよね、切実に。気が付いたら妖精城に自分とクィーンが並んでいる肖像画とかがかかっていたらシャレにならないんだってば。

「嫌いではないが、勝手に人を伴侶にするのを止めて貰えないか。今も未来もそんな運命は無いから」

 確かに美人ではあるのだが……万が一クィーンが現実に居たと仮定して、更に女王じゃなかったとしても百歩譲って喧嘩友達止まりだろう。とてもじゃないが結婚とかありえない。そう言う未来予想図を描けないんだよね、クィーンとは。その一方で頭上に鎮座してるアクアはこの光景を見て、「ぴゅぴゅぴゅ……」と鳴いている。いや、鳴いていると言うよりは笑っているんだろうな。漫才っぽかったし。

「それで、なんで魔王様と女王陛下で伴侶云々のに話になったのですか? 今回クィーン様が訪れた理由はおそらくゲヘナクロスの一件における協力に対しての正式なお礼の為でしょうに。そこからどうはなしが転がってこんな展開に」

 質問を飛ばして見た所、そのお答えはと言うと──最初はゲヘナクロスの一件に関する妖精側のお礼、そして今後はより綿密に連携を取っていくと言う形で条約のような物もまとまり、その後は場所ここに移して歓談が始まった。その話の中で魔王様が自分の事をポロリとこぼした挙句に自分の所に引き込みたいと言う感じの言葉を喋ってしまったらしい。そして、クィーンがそれに過剰反応を示して──こうなったと。

「で、自分を勝手に将来の伴侶と言い出したと言う事ですか」

 冷たい視線をクィーンに向けると、クィーンが耳をへにょんと垂れさせながら頷く。困ったもんだ。

「はっはっは、そう責めてやるな。可愛い所もあるではないか」

 魔王様は笑顔だが、その笑顔もちょっと黒い。こちらもこちらで何か考えているな?

「魔王様、申し訳ありませんが先程のお話に合った魔王様からのお申し出もお断りさせていただきますよ? 魔王領に住まう人々や魔王様が嫌いという訳ではございませんが、ここに根を下ろすつもりもありませんので」

 なので、何かをしゃべられる前に先んじて少し前に振られた話をきっぱりとお断りしておいた。魔王様の表情が、自分の言葉を聞いたとたんに渋い表情に変化し、その一方でクィーンの表情が笑みに変わる。お前さんはもうちょっとポーカーフェイスを身につけなさい。

「気が変わったらいつでも来て欲しい。いつでも君の花嫁になる準備はしておこう」

 この魔王様の発言に、クィーンだけではなくアクアやルエットまで殺気立つ。こういう時の連携はバッチリだね君達……魔王様も煽らないでほしいのに。胃が痛くなりそうだ。もうさっさと城から帰ってしまいたい。そうは行かないんだろうけどさ。やっぱりお城何て外から見るのが一番だよ、中に入れば疲れるだけだわ。
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