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第9章〜転生王子の休日(ピクニック編)

トーマの行方

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 結局ヒスイに姿を消してもらう形をとってもらい、エリザベスとヒスイと一緒にトーマの所に向かうことになった。
 申し訳ないけど、他の皆はお留守番だ。いくら何でも引率しながらってのは無理だもんなぁ……。

 【ザクロ残念そうでしたわね】
 「仕方ないよ」
 ヒスイの言葉にため息を吐く。
 ザクロは最後まで来たがっていたが、今回はヒスイの同行が妥当だろう。
 なにせ今日のザクロは、お奉行様だ。暴走してお白州でも開かれたら困ってしまう。ピカピカの甲羅を見せてキメてるザクロなんて、言葉のわからない人にしてみたらただただ謎だもんな。
 ヒスイなら姿を消したまま部屋の様子を探ることも出来るし。

 ふいに前を歩くエリザベスから、ため息が聞こえた。
 「どうしたの?」
 トーマの事で不安に思っているのだろうか?
 エリザベスはトテトテと歩きながら、小さな声で話し始めた。
 【実はね、ディアロスがあなたの召喚獣だって解ってホッとしたの。トーマ……伝承の獣に無我夢中だったから】
 やはりエリザベスにはディアロスだとわかったんだ。確かに、すでに俺の召喚獣だから、トーマの召喚獣にはなり得ないもんな。

 「トーマに……教える?」
 俺は念のため聞いてみた。
 言葉を話すことは出来ないだろうが、ジェスチャーでコンタクトをとることはできる。教えようと思えば教えられはずだ。
 するとエリザベスは、こちらを振り返ってジトリと睨む。
 【教えるわけないでしょ。トーマがディアロスにますます夢中になっちゃうじゃない】
 ですよねぇ。
 そうだろうとは思ったが、確認出来て少しホッとする。

 【それにね。トーマは……私の言いたいこと全然理解してくれないのよ】
 やさぐれ気味にボソリと呟くエリザベスに、俺の口から乾いた笑いが出た。
 初めて馬車で、トーマがエリザベスを召喚した時のことを思い出したのだ。エリザベス怒ってたのに、トーマ「元気だね」とかのほほんと言ってたもんな。
 まぁ言葉のわかる俺でさえ、召喚獣の言動理解できない時あるし。意思の疎通って難しい。

 「エリザベスは、やっぱり他の召喚獣増えるの嫌?」
 俺がうかがいながら聞くと、エリザベスはツンと上を向いた。
 【言っとくけど、私トーマの召喚獣が増えるの嫌なわけじゃないわよ】
 「え、そうなの?」
 意外。俺の部屋であんなに怒ってたから、てっきりそうなのかと思っていた。

 【トーマの動物好きは解ってるし。いっぱい召喚獣欲しいって、希望があるのもわかってるわ。私そんなに理解ない召喚獣じゃないの】
 そう言って、フンと鼻息を吐く。それからエリザベスはピタリと止まると、くるっと振り返った。

 【私が怒ってるのはね!私に何も説明してくれないことよ!】
 そう言ってダンダンダンと足踏みした。
 あ、そうか。
 何かストンと納得するものが胸に落ちた。
 エリザベスには、自分がトーマの一番の理解者であると言う自負があるんだ。だからこそ内緒にされてることが、信用されてないみたいで嫌なんだな。
 ツンデレだけど、トーマの事をよく思ってる嫁みたい。

 【これで本当に私に無断で召喚獣契約しようとしてるんなら、蹴り上げて…踏むっ!】
 低い声でのたまうウサギに、俺の口元が引きつる。
 踏むが追加されたよ。嫁は嫁でも、鬼嫁的な……。これで本当に契約なら、トーマどうなっちゃうのか……。

 【こうなったら絶対現場おさえるんだから!ほら!早く行くわよ!】
 ダンダンと足音を立てて俺を急かす。
 止まったのはエリザベスさんなんですけどね。
 
 それにしても……と辺りを見渡す。
 寮内の部屋だとは聞いていたが、3年の自室があるフロアに来ちゃったな。てっきり寮内の別の部屋か、自室でも1年生の部屋かと思っていたのだが……。
 じゃあ、トーマが通っている場所って、3年の部屋?確かにお風呂一緒に作ったこともあり、2年より3年に知り合いの多い俺たちだけど。
 でも、物怖じしないレイならともかく、トーマにそんなに親しい3年の先輩がいたとは知らなかった。

 「本当にこの階の部屋なの?」
 確認のため問うと、エリザベスは迷いない足取りで前を見据えながら頷いた。
 【間違いないわ】
 うーん、マクベアー先輩かな?……いや、違うか。マクベアー先輩の部屋は何回か行ったことあるが、今の進行方向とは逆だ。

 通りがかる3年の先輩たちが、チラチラとこちらを見ている。
 ………こっそり向かっているはずなんだけど。どうしたって3年のフロアに1年って目立つよなぁ。
 あ、あの4人グループこっち見てヒソヒソと話してんだけど。3年に知り合いがいるとは言え全員じゃない。こんなとこで絡まれたくないなぁ。
 声かけられませんようにと、ドキドキしながら横を通り過ぎる。
 
 するとヒソヒソ話す内容が耳に入ってきた。
 「風呂監督のフィル・テイラが、何でこの階に?」
 「3年の誰かに用があるんじゃないか?」
 「ナガミミウサギに案内されてるみたいだな」
 「何にしろ…………ほのぼのする」
 その言葉に他の3人が同時に頷く。

 ほのぼのされてた……。
 結局声をかけられることなく、にこにこと微笑まれて見送られる。
 暖かい視線が居心地悪い。マクベアー先輩の所に行くときは、カイルとか寮長と一緒だったからな。
 ウサギと一緒に初めてのおつかい的な雰囲気に見えるんだろうか?
 
 【あ、あそこよ!あの部屋!!】
 そんな時、エリザベスが1つの扉を差し示す。
 あの部屋か……。3年の誰かの自室なんだろうが……。
 「ヒスイ、中の様子探ってもらえる?」
 【少々お待ちください】
 耳元で声がして、離れていくのがわかる。
 俺とエリザベスは少し離れた位置にある柱の影に隠れ、様子をうかがった。

 トーマが突然出てきたら、見つからない様にしないと。
 部屋の方を見ていると、今度は見知った先輩2人が声をかけてきた。
 「何やってるんだ?」
 親切はありがたい。しかし明らかに潜んでるんだから、声かけないでほしい。
 「あ……その……」
 「ベイルに用があるのか?」
 「呼んでやろうか?」
 意外にも部屋の住人の情報が手に入った。
 
 「ベイル先輩?」
 ベイル先輩って……体は大きいけど気が小さいあのベイル先輩か?歓迎会では寮長を呼んできてくれて、結果的にあれで事態収拾したので、とても感謝している。
 だが、気弱な性格からか、同級生や後輩の寮長にいつもビクビクしているんだよなぁ。

 「あの部屋ってベイル先輩の部屋ですか?」
 俺が驚いたように聞くと、先輩方は不思議そうな顔をする。
 「知っていたんじゃないのか?」
 「あ!いえ、知ってますよ。もちろん。僕の友達がベイル先輩の部屋に行ってるので、友達をここで待っているんです」
 「あー、じゃあアレか」
 「ベイル、手先器用だからなぁ」
 納得したように笑う先輩方に、俺は首を傾げる。
 「アレって……」

 【トーマさんが部屋から出てきますわ!】
 先輩たちに聞きかけた時、ヒスイが戻ってきた。俺はハッとして、慌てて柱の影に隠れる。それからキョトンとする先輩方に小声でお礼を言った。
 「先輩たちありがとうございました。あの、僕、友達驚かしたいので……」
 扉と先輩を交互に見ながら言うと、隠れた意味を理解して笑いながら頷いた。静かに去っていく先輩方に、息を吐く。
 これで大丈夫だろう。

 「トーマいた?中で何やってたの?」
 【いましたわ。縫い物をしていました。ちょうど片付けて帰るようだったので、こちらに来たんです】
 「そうか、ありがとヒスイ」
 微笑んでお礼を言うと、扉を見ながら小さく唸る。
 縫い物?何だろう。ますます謎になった。

 すると、キィと音を立てて扉が開いた。トーマが袋を抱え、部屋から出てくる。
 「ありがとうございました。本当に助かりました」
 一緒に扉まで出てきたベイル先輩は、トーマに頭を下げられ照れたように額をかく。
 「い、いや。俺は別に何も……。あ、あとで感想でも聞かせてくれ」
 「はい」
 にっこりと微笑んでトーマが頷く。

 「何かベイル先輩に縫い物を習っていたみたいだね。やっぱり気のしすぎだったんだよ」
 小声でエリザベスを見ると、頷きかけていたエリザベスがピタリと止まった。視線は扉に向けられている。
 「どうしたの?」
 視線を扉に戻して、アッと口が開いた。

 【トーマさん、また来てね】
 1匹のウサギがトーマに前足を差し伸べる。トーマはそれに気づいて、嬉しそうに握手をした。

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