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第3章

浮世の苦楽は壁一重

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「これはなんとも素晴らしいな!」
「ピュイイイィー!」

ベルカイムの北東。
ドルト街道を直進し、のどかな田園地帯に立つ一本杉を左折。正面に森が出てきたらそれがボワンルの森。森をひたすら突き進んでなだらかな丘を上がりきった先がフィジアン領。そこから真っ直ぐ道なりに進めばヴァノーネ地方に辿り着く。アシュス村のあるガレウス湖はその更に先。馬車で片道5日の行程だ。

馬車と徒歩では体力的に馬車のほうがラクだと思うが、サスペンションのない揺れまくる馬車に一日中乗り続けるのは体力が必要となる。歩く以上に疲れてしまう場合があるのだ。早馬を駆けらせれば半分の日数で行くことも可能かもしれない。しかし、馬は数刻で使い物にならなくなり、各地で交換しなければならない。

今回はなるべく早く用事を済ませたいので裏技を駆使。
速度上昇(クイック)と軽量(リダクション)をかけた二頭の一角馬は面白いほど早く駆けた。最初こそ戸惑いながら恐る恐るといった感じだったが、開き直ったが最後、それこそまさに風。
勢い良く吹き荒れる、春の嵐のような。

「ちょっ、おちっ、まっ、ふぃっ、おべっ、んごっ」
「こいつは凄いぞ!まるで空を駆けているようだ!」

空とか駆けたくなかったんですけど!!
やる気に満ち溢れた馬は鼻息ブフーいいながら、街道をひたすら走り続けた。乗せているものと自らの重さを感じさせない魔法のおかげで、体力もさほど減ることは無い。調子こいてコケなければいつまでも走れてしまう。

さっき乗馬をはじめた俺が猛スピードで走り続ける馬の背に慣れるわけが無い。バランスってどうやって取るの?何でクレイはあんなに安定しているんだ。
せっかくののどかな田園風景があっという間に流れていってしまう。勿体無い。電車の車窓並みだ。

「おちゅ、お、おち、おちちゅ」
「あの戦でこの馬があれば、万騎の力を得たものを!」
「落ち着けってええええええええ」
「ボワンルの森まで直ぐそこだぞ!なんと早いのだ!!」
「ちょっと待てえええええええええ」

駄目だクレイの目の色が違う。ちょっと魔王降臨しちゃっている。ビーも調子に乗って早さ競争をしているようだ。ドラゴンの飛ぶ早さに勝てるわけが無いのに、二頭の馬は負けるもんかと頑張る。頑張るな。

「クレイ、クレイ、おっさんこら待てえぇぇい!」
「誰がおっさんだ!!」
「森の手前で一度降りるぞ!これじゃ目立ちスブッ、すぎっ、る!」

土煙をもうもうと舞い上げ、調子こいて風のように走る巨大馬は恐ろしく目立つ。俺達一応隠密行動をしているつもりなんだよ。目立った動きを見せると奥方が危険に晒される。
きっと今は奥方をじわじわと殺そうと様子を見ている段階だ。相手の計画を狂わせるとどんな暴挙に出るのかわからない。俺の知らない魔道具(マジックアイテム)など使われたら成す術が無い。

ベルカイムを出るときすら『ちょっとそこまでお散歩』で誤魔化したのだ。グリットとウェイドにものすごい睨まれたが、溜まっていた指名依頼をまとめて受注することで許してもらった。誰だまたアリクイのうんこ10個頼んだヤツ!

「ピュイ!」

ビーが一声高く鳴くと、二頭は驚き速度を落とす。ビーの理性がまだ残っていて良かった。
ヒエラルキーの頂点に君臨する古代竜に逆らう真似など、いくら鼻息ブフーの馬でも出来なかったのだろう。駆け足が並足になっていく。
やっと普通の速度で歩いてくれるようになった頃、鬱蒼とした森が現れた。

「………一本杉って何処だった?」
「先ほど過ぎたぞ」
「ピュー」

一本杉まで1日以上かかるって聞いたんだけど?
森ってベルカイムから馬車で3日って聞いたんだけど?
もしかしたら俺のウカレスキップ無双よりもとんでもないかもしれない。一角馬…恐ろしい子。
しかしこれで時間は節約できた。想像のはるか上を飛び越えていったがまあいいことよ。ここから森を突っ切って丘を越えれば隣のフィジアン領だ。チート馬で片道3日くらいの予定だったが、もっと早くに着くかもしれない。

ベルカイムを出発してから数時間。陽はまだまだ上空を目指している最中。2、3時間くらいしか経過していないような気がする。
早すぎる移動というのも考え物だな。そりゃ時間は大切にしたいが、移り行く景色を楽しみたいとも思う。

鬱蒼とした森の歩道をゆっくりと歩く。木漏れ日が目に優しい。そうだよ、旅はこうやって少しのゆとりが必要なんだよ。

「うむ、これも美味いな」
「肉だけより歯ごたえがあっていいだろ」
「ピュイ〜」

馬上のままで腹ごしらえをする。ベルカイムで購入したサンドイッチだ。分厚い肉に野菜を挟んだ俺オリジナル。屋台村で売られているサンドイッチは肉だけというのが多かったので、新鮮な野菜を挟んでみました。野菜、だいじ。

「お前はただ魔力が膨大にあるだけでは無いようだな。領主の蔵書を読解する知識、人をその気にさせる話術、料理人より美味い飯を作り、あとは馬にも好かれておる」
「話術ってほどのものはないだろ」

あっちが喧嘩を吹っかけてきても落ち着いて話をすれば分かり合うことが出来る。時と場合と相手によるが、熱心になるのは相手が女性か子供か年配者のみ。分別のある大人は対象外。話してわからないヤツは喧嘩早っいから手が出た時点で正当防衛。こちらから喧嘩を吹っかける真似はしない。

「なんというか…俺の経験談でさ、顧客からのクレーム…ええと、愚痴とか文句?に対応するための心得とか学んでいたわけだ。興奮して怒鳴りつけてくる相手には穏やかに接する。何故そうなったのか原因をゆっくりと聞く。相手にもよるが時間をかければ大半が落ち着くもんだ」
「ほほう…。お前は商人であったのか」
「似たようなものかな。モノを売る専門だったから」

嗚呼、懐かしの営業職。
あの頃にもどり
たいとか絶対に思わないし思いたくも無い。あのノルマノルマノルマノルマの日常ほんと嫌だった。何度会社辞めると逃避行したことか。翌日には出社したけども。結局俺も社畜だった。
それが仕事だと割り切って涙を呑んだ。皆同じなのだ。辛いのは自分だけじゃないのだ。だから俺も頑張る、とか思えるほど単純でも素直でもない。辛いもんは辛いんだバカタレ。

「でもこれってスキルって言うのか?経験から学んだことだから、スキルとは違う気がするんだよ」
「タケル、お前は鑑定(アバルス)スキルを持っているのだろう?自分のスキルを把握することは出来ないのか?」

言われ、そういえばと思う。
ベルカイムに入る前の検査で少しだけ覗かせて貰った俺のステータス。ショッボイ感じの、何処にでもいそうな普通のステータスだった。あれは鑑定(アバルス)をした人の魔力が俺の魔力より劣っていたから、対象物の本質を見ることが出来なかったわけ。
自分のステータスなんて興味なかったからな。便利に使えればそれでいいじゃん、って感じで改めてどんな能力があるのか確認していなかった。

鑑定(アバルス)ではないが、出来るかもしれないな。
お願い調査(スキャン)先生、俺のステータスって俺自身とクレイに見せることって出来るんですか?



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ギルディアス・クレイストン 45歳

種族:ドラゴニュート
職業:聖竜騎士サン・ドラゴンナイト
所属:蒼黒の団
加護:古代竜の恩恵 魔導王の盟友
称号:栄誉の竜王
技能:武闘槍術 破者の咆哮 武者の威圧  
異能:狂戦士 気配感知 体力向上 各種免疫・耐性 鋼鉄皮膚

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「………」
「………」
「………45歳か」
「やかましいわ」

いや違いますよ調査(スキャン)先生、目の前の恐竜じゃなくて俺自身のこと。
それにしてもクレイ45歳か。目上ってのは理解していたが、まさかのお歳。リザードマンの見た目なんて皆同じに見えるから年齢なんかわからなかった。

「俺に異能力は備わっていなかったはずだが…これも古代竜の恩恵なのだろうか」
「そうなんじゃない?」
「また適当に答えおって」

ドラゴニュート以前のクレイのステータスなんて知らないから、とりあえずボルさんの出汁だし(魔素水)のおかげとしか言えない。…そうか魔素水ってボルさんの出汁なのか。今更だがアレ数え切れないくらい飲んだぞ。
それよりも俺のステータスだよ。青年に色々と貰ったが、今一度確認させてもらいたい。

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タケル・カミシロ 魔導王エテルマナ 19歳(28歳)

種族:古代竜の加護を受けし者
所属:蒼黒の団
加護:古代竜の加護 理の呪縛 栄誉の竜王の盟友 精霊の友 
技能:口八丁 話術 算術 臨機応変 ものぐさ
異能:世界言語 身体能力 各種免疫・耐性 探査能力 空間術 私物確保 魔力極限 具現化能力 知識理解力 意思疎通 神の幸運 第六感

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「………」
「………」
「ピュイ」
「………ものぐさスキルって何だよ!」
「言うべきところはそこじゃないだろう!!」

改めて確認した自分のステータス、なんか色々とついてた。あの青年に遠慮なく頼んだから青年も遠慮せずにくれたのだろう。
身体が疲れにくくて便利な魔法がたくさん使えるくらいにしか思っていなかった。

「…魔導王エテルマナ
「なにそれ」
「古い物語にあるのだ。世の全ての魔力を扱うものの頂点に立つ存在を、魔導王エテルマナと言うのだ。数万年前にこの世界を創造せし神のことをそう呼ぶ」
「へえー」
「…お前もその魔導王エテルマナらしいのだが」
「いや俺、神様なんかじゃないし」

神様みたいなヤツに無理やり殺されて無理やり別世界で旅しろって言われただけなんだよ。世界に革命を、なんて言われなかったし、とりあえず見て回れと。
あと口八丁って何かな。誰か説明してくれ。要領が良いってことなんだろうが、良いイメージが浮かばない。詐欺師みたいじゃないか。

「色々と突っ込みたいところはあるが、何より驚いたのがクレイの年齢」
「うるさい。リザードマンは長命の種族なのだ。俺などまだまだ若輩者だ」

クレイが若輩者だったら俺なんてヒヨコにも満たない卵じゃないか。
魔導王って響きが少し格好良いが関係ない。俺は俺だ。これからも地道に素材を採取して行くし、ランクF冒険者として頑張るだけ。頭角を現すつもりは毛頭無い。目立つの嫌い。
恩恵とやらがたくさん付与されているようだが、細かいことはわからないから放置。探査先生と調査先生のお力をお借りし、便利な鞄と共に生きていくぞ。


少しの贅沢と少しの努力。
人に優しく賢く生きれば、この世界はなんとも面白い。
ノルマに縛られ生きるのに窮屈だったあの世界も懐かしいが、チョコレートと煎餅と炭酸飲料とバラエティ番組と映画とマンガとゲームと醤油が無くてもなんとかなる。あれば嬉しいけど。


青年よ。



お前のおかげで苦労もするが、俺は概ね楽しんでいるからな。







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ホロレチュチュなアニメとガイコツのギルマス以外にもたくさん魔導王っていた。
そこらへん変更するかもしれないです。未定。
かっこいい名づけ苦手です。

ステータスは難しく考えなくていいです。なんか恩恵いっぱいあるー程度で。
口八丁・話術スキルの恩恵もあり、タケルの熱弁に耳を傾ける補正あり。

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