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第3章

賽は投げられた

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草木も眠る丑三つ時…。

か、どうかはわからないが、ともかく太陽が沈んで月が天空で自己主張はじめた時。
マデウスの月は地球の月に比べて少し青味がかっている。そしてデカい。重力とか引力とかそういうことを考えて止めた。魔法で傷が治る世界だ。地球の常識に当てはめて考えてはならない。
おされOLみたいにSNSアップするため写真パシャーするには絶好の夜だ。

「足元暗くなっているずら。気ィつけて歩くずら」

杖をつきながら歩く村長の後ろを静かに付いて行く。
イーヴェル草は月明かりで光輝くらしく、採取するには夜が良いらしい。しかもテラテラ色の毒沼化したガレウス湖の畔に沿って歩くから、うっかり毒水に足突っ込みそうで怖かった。秘密の場所がバレてしまうのが怖いのはわかるが、松明もランプも付けないままよく歩けるなと。

暫く緊張しながら歩き続けると岩場の道になった。ごつごつした岩を下るとさらさらとした砂地になる。そこから更に歩くと、燦然と輝く何かが現れた。

「あれは…?」
「あれが神の花ずら」

岩山の影に隠れた小さな洞穴。その穴に身を潜めるように咲き乱れる輝く花。百合の花に似ているが、ド派手な黄金色。幾つかの小さな実が生っている。

さてさて、さっそく…。


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イーヴェルの花 ランクS

ガレウス湖の畔に咲く神獣ホーヴヴァルプニルがこぼした涙より芽吹いた花。

備考:果実はイーヴェルの実と呼ばれ、調合次第で猛毒、イヴェル毒となる。採取のさいは根から土ごと掘ること。食用には適さない。


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「ホーバー……プニ?」
「ピュイーィ?」

聞き慣れない言葉が出て来た。ヘンな名前。
神獣、神のケモノってことはつまりが神様。その神様の涙とな。神話っぽいな。

「大昔、村のある地は恐ろしい悪魔が支配していたずら。わしらの先祖は悪魔に怯えながら暮らしていたずら。そったらある日、美しい神様がいらして人々をお救いくだされたずらよ。悪魔は神様に封印され、わしらは怯えることなく暮らしていけることができたずら。と、村に伝わる話にあるずら」

村長が花を撫でながら話をしてくれた。
神様が守ってくれた大地なのだから、我々が守り続けなければならない。だからこそアシュス村の住人は他の地に移り住もうと思わなかったのだ。律儀というか、信心深いというか。

恐ろしい悪魔って何だろう。俺としてはドワーフ王国のナントカのナントカっていう、クレイの見た目にびびって逃げたへなちょこ魔族を思い出すんだが、魔族なら魔族と言われているだろう。てことは、恐ろしい悪魔っていうのは獰猛なモンスター?
若しくは異常気象や天変地異。風邪やら頭痛やらが呪いと言われる世界なのだから、悪魔と呼ばれる自然災害とか。可能性はいろいろと考えられる。
蟹だったら狩るまでだ。

「そん神様が、この石像だと言われているんずらよ」

花を覆うように聳え立っていたのはただの岩山ではなく、月明かりに照らされ浮かび上がった巨大な馬の像だった。背に翼を羽ばたかせ、今にも動き出してしまいそうなほど躍動感のある天馬。

「へえー、馬の神様か」

ヘンな名前だが姿は雄々しいな。かっこいい。
この神様が流した涙が、イーヴェルの花と。綺麗な花だが果実には毒。まったく、迷惑な花を残してくれたものだ。

「アンタらはわしらの恩人ずら。好きなだけ花を持っていってくだせえずら」
「2、3株くらいでいいんだ。それで解毒薬を作れる」
「だどもそん毒がいろんなところに出回ったら困るずら?したら、こん花ぜんぶ持ってってくれてもかまわねえずら」

そりゃそうだが、いわくありげな神様の涙だろ?全部持っていったら祟られそうな気がする。
さて、一度ベルカイムに戻って花を届けないとならない。領主の奥方の部屋に設置させてもらった拠点ポイントを頼りに転移門ゲートを作れば、あっという間に帰れる。アシュス村にも拠点ポイントを作れば行き来は簡単。
それから醤油リダズの実の実用化を屋台村の代表に相談して、じゃがバタ醤油をいつでも食べられるように…。

「村長!そんちょ〜〜〜っ!ずら」

そんな壮大なる妄想を繰り広げている最中、慌てふためいた村人が駆けて来た。まだ体調が万全ではないのに走るだなんて。

「なんしたデンス!」
「村長!大変ずらよ!村が!村が!ずら!」

油断していたんだ。
目的のものが手に入ると浮足立っていた。

もっと冷静になって考えれば、予想出来るはずだったのに。




足の悪い村長を姫抱っこし、報告に来てくれた村人デンスケをクレイの背中に乗せ急いで村に戻る。
デンスケによると夜中だと言うのに例のエンガチョがやってきてイーヴェル花を催促したのだとか。村人は俺に言われた通り頑なに拒否。そりゃそうだ。腹は満たされ喉も潤った。とうぶんの食糧と水は俺とクレイが持ってきた。家も着るものも一新された今、目先の金銭は必要ない。
それに激怒したエンガチョが本性を現し、いつのまにか配備された素行の悪そうな連中が家々を焼き払ったのだとか。

「俺の!渾身の!新築戸建てが!!」
「なんたることを…!」

村に帰った俺の目に飛び込んできたのは、漆黒の闇夜に眩く光る炎の数々。
リニューアルオープンされたアシュス村は見るも無残な焼け野原。
冗談じゃない。冗談じゃないぞこのやろう!!俺の理想のクリーンヴィレッジを灰にしやがって!
そんなことより!

「おい!怪我したヤツとかいるか!」

さすがに村人全員の名前と顔は覚えていない。消火を終えた村中央の集会所に村人を集め、怪我人の確認。クレイと手分けして各自点呼を取らせる。点呼と言ってもいない者を探すだけだ。
清潔だった村人は皆もさもさ。スス臭いし服は灰まみれだし焼け焦げているし髪はくっちゃくちゃだし…。ああもう!なんてことしやがった!風呂に入れないだけで辛いってぇのに、更に臭くしてくれるなんて!

「大きなけがをしたもんはいねぇずら!」
「いないヤツは!」
「みんないるずら!」
「いねぇずら!ゴンザがどこにもいねぇずらよ!!」
「なんだってずら!」

村のガキ大将、ゴンザの姿が何処にも見えない。
俺のことを真っ先に慕ってくれた前歯の欠けた元気な子供。

「マタベ、マタベや、わしはぁ、見たずらんよぉい」
「ばっちゃ、なんを見たずら!」

村で最高齢でもあるオサエばっちゃんがヨボヨボしながらヨボヨボと教えてくれた。

「裏のぉ、裏のぉ、神様の水につながるぅ、あんのぉ、道さなぁ、エンガッシュンがぁ、子供連れてぇ、逃げてったんずらよぉ」
「ガレウス湖のほうに行ったんだな?」
「ごめんよぉ、ワシの足がよぉ、しゃしゃといごけたらよぉ、タケルさごめんよぉい」
「いいんだよいいんだよばっちゃん。教えてくれてありがとうな、無理すんなよ、座ってな」

こんな年寄りを心配させて無理させて、泣かせて。
俺の理想の清潔村を灰にしやがって。
しかもくだらねぇ野望だかなんだかで関係ない連中をだまして。

何よりも許せないのが、せっかく希望を持って生きようとしていた村の皆を一気に絶望へと叩き落としたことだ。
このままじゃ俺の壮大なるじゃがバタ醤油計画までも頓挫してしまう。そんなの許せない。

「タケル、これは許すことなど出来ぬぞ!」

熱血恐竜が吠えた。拳をぎりりと握りしめ、大地を忌々しげに踏みしめる。
俺だって腸煮えくり返っている。ここまで怒ることは滅多に無いんだからな。小学生の頃数週間かけて作ったサザビーを友人にうっかりごめーんで壊された時より腹が立つ。しかも仕方がないで済まされる問題じゃない。

ここまで自分の感情が怒りに満ちるなんてはじめてだ。

「…許してたまるかよ。温和な俺だって怒髪天だこん畜生」
「湖のほうに行ったと言うていたな。直ぐに追うか!」

当てもなく探すなんて時間がかかる。こういう時こそ便利な魔法に頼るべきだ。
俺の探査(サーチ)は特定の人物を探すまでは出来ないが、生物反応だけなら追える。こんな夜中に湖に居る怪しいものを探し出せばいい。
震える村人たちを置いていくのは心苦しいが、今は一刻を争う。子供を人質にしたということは連中も切羽詰まっているということだ。

ベルカイムで奥方暗殺未遂の容疑者が捕まったか、それとも情報が漏れたか。
いずれにしても、今は子供の身の安全が第一だ。

「村長さん、タロベさん、ゴンゾさん、俺たちは今からゴンザを探しに行く。動揺している皆にそう言ってくれ」
「ああ、わかったずら。だども危険ずらよ。エンガシュは怪しげな傭兵をたんと雇ってやがるずら」

鞄に手を突っ込みありったけの果物を出す。木箱三つぶんの大量の果実は、水分が多くて果肉も甘い桃に似ている。気に入って大人買いしていたのは言うまでもない。

「俺とクレイは必ずゴンザを助ける。だからこれでも食って、待っていてくれ」
「そったら、危ないずらよ!タケルさん!ずら」
「ランクAの冒険者がついているんだぞ?それにこのひと、怒るとめちゃくちゃ強くなるから大丈夫」
「内なる大いなる力を恐れている場合ではないな。任されよう!」

帰ってから村の修復をする。ここまで原型を留めていないとなると、一からの復興となるが仕方がない。俺のたくさんある魔力をありったけ使って再興してやる。
より住みやすく、清潔で、頑丈な家を建ててやるからな!



***( `д´)/***



「探査(サーチ)先生お願いします!」

湖の畔に立って集中し、広大なガレウス湖全域を探査(サーチ)する。想像以上の広さに集中力が途絶えそうになったが、いくつかの黒い点滅に混じって茶色の点滅。この色の点滅ははじめてだ。その点滅がひのふのみの…うん、数えるの面倒。明らかに100近くいる。村からは離れているが、湖の畔に沿って移動中。

「タケル、どうだ」
「ああ、ここから西のほう。100人近くたむろっている。途中で馬で逃げたんだな。距離がだいぶある」
「人数なぞ問題ではない。急ぐぞ!」
「えっ」
「何をしておる!早よう馬を!」
「えっ」
「加減なぞするでないぞ!」

チート馬に乗るわけ?いやまあ移動手段はそれしかないんだけどね、でもほらアイツら調子こくと見境なくなるじゃない?なんていうか俺としてはもっと穏やかに確実に移動したほうが俺の精神的に優しいかなとか思っちゃうんだけど走れば良くね??

「ピュイ!」
「タケル!愚図愚図しておる暇(いとま)は無い!」



うへえええええ。






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MGサザビーを甥っ子に壊されたのは実話。
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