トップ>小説>素材採取家の異世界旅行記
26 / 110
第3章

人間万事塞翁が馬

しおりを挟む



馬は駆けた。
風の如く、嵐の如く、乾いた大地を猛烈な速さで駆けた。
強靭な足腰に施された体力上昇と軽さと速さとなんやかんやの魔法効果は、二頭の一角馬をそれはそれは調子に乗らせた。

「おべっ、うげっ、もぐっ、どえっ、えべっ」
「駆けよ我が馬よ!駿神となりて雷の如く馳せろ!」
「ピュイイイィーーーっ!」

馬鹿馬鹿馬鹿アホこのやろう!なんで更に調子乗らせているんだ!
チート馬達はクレイの発破に鼻息ブフーでやる気ゲージはちきれんばかりに走っている。走っていると言うかこれもう急行特急並み。法則とか完全に無視。今更だけど自分に結界(バリア)とか盾(シールド)とかやっておけばよかった。風圧で顔がぐにょぐにょになる。やめてこれコントみたい。

「くお、くお、くおらあああ〜〜〜!」
「ふはははは!我が前に敵は無し!粉塵に帰してやるわ!!」
「こら聞け魔王!もうすぐ、うべっ、着くから、ちょっと、いろいろ、計画、オプッ」
「ふはははは!!」

駄目だこれ。
おっさん完全に魔王降臨させちゃっている。ああ、ああ、チート中のクルト(馬)が流石に戸惑っている。なんか乗せているおっさんがむくむく太って、いや巨大化しつつあるなんて迷惑極まりないだろう。なんかごめん。ほんとごめん。

出発から四半時も絶たないうちに出て来た砦。湖に隣接している丘の上に聳え立つ黒々とした砦に幾つもの篝火。悪党が徒党を組んでここにいますよと主張してくれている。わかりやすい。

「ビー、とめ、とめぐふっ、とめ!」
「ピュイイイイイイーーーーーッ!」

ビーの鳴き声で馬が慌てて足を止める。クレイはその勢いのまま格好良く飛び降りた。俺は間抜けに振り落とされ、顔面から砂地に突っ込んだ。許せん馬。

「ふううぅぅ…全身の血が沸き立つようだ…」
「気のせいだからそれ。一応理性は残しておいてくれな。悪党退治に魔王討伐なんて御免だ」
「煮え滾る膨大な力を直ぐにでも放ちたいぞ!」
「はいはい落ち着けって。ざっくりとした計画ならあるから、俺の合図と共にクレイは滅茶苦茶暴れてくれればいい。目的はエンガチョ。ただし、命までは奪うなよ?半分殺す感じで宜しく」

四肢を折っても死ぬことはないだろう。逃げ出さないようにすればそれでいい。
俺はな、聖人君子じゃないんだ。命あるものは皆等しく尊いなんて世迷言、この世界で言うつもりはない。両方の言い分を先ずは聞きましょう、なんて悠長なことしてやんない。理不尽な蹂躙にただ黙って涙を呑むなんて冗談じゃない。
俺には歯向かえる力があるんだ。
助けたいものを助けるだけ。

ただ、殺すと後々面倒なことになるから半分殺すだけ。

「砦を壊滅させるが良いか!」
「はいはい良い良い。俺は不正の証拠とか家財道具ごとまとめて鞄に入れるから、その作業が終わったらブチ壊せ」

隠している部屋だろうと何だろうと探査(サーチ)先生は教えてくれる。ただ悪党を懲らしめてめでたしめでたしとはいかない。ぐうの音も出ないよう、徹底的に追及出来る証拠を用意せねば。

日干しレンガで出来た外壁はもろい。ちょっと力を入れれば上階を支える柱なんてあっという間に折れるだろう。でもそれは最終手段。砦の崩壊に巻き込まれて圧死、ってのは嫌だ。

しかし、でっかい恐竜と俺が近づいているのに警戒すらしないなんて馬鹿なの?
見張りの一人や二人、外に立たせるべきなのに。村人たちが短時間でここに来るわけがないと高をくくっているのか?その油断が命取りだったな。

「ピュイ」
「うん?そうか、やっぱりここを根城にしていたんだな」

外周を見て貰ったビーからの報告を受け、確信する。ヤツらは奇襲返しなどと一切考えていないようだ。広間で暢気に宴会をしているらしい。無力な村人はただ泣き寝入りするものだと思い込んでいるのだろう。詰めが甘いんだよ。悪いことをするんなら、全ての可能性を考えろ。

「タケル、正面突破するか!」
「いやそれ駄目。悪党ってのは命令する立場にいるヤツほど真っ先に逃げ出すから。証拠もろとも逃げられたら追いかけるのめんどくさい」
「では如何するのだ!」

うーん。
こそこそと侵入できるのが一番だよな。それこそ隠密みたいに気配を隠し、姿を隠し、ひっそりと家探ししたい。

「ピュイ?」
「こういう時こそ魔法か。うーん…姿を消したいんだよ。気配を消すのはどうとでもなるとして、というか気配を察するような優秀なヤツが居たらもう気付かれているだろうし」

迷彩…じゃない、身体を隠す…消す?消す…。そうか!

「隠伏(フォシュ)!!」

ポッと灯った光の玉が一気に膨らみ、俺の身体を覆う。視界にガラスの膜のようなものが張り、自分の身体がふっと消えた。映画でこういう化け物が居たんだよな。

「なんと?!」
「うまいこと消えたか?」
「ああ…このような…信じられぬ」

少しだけ興奮が収まったクレイにも隠伏(フォシュ)の魔法をかけ、でかい図体を消し去る。己の身体が消え去る感覚に慣れないのか、クレイは尻尾をばたばたさせた。

「互いの姿は見えるようにしたから大丈夫だろ?」
「いやだがこれは!奇妙で!おぞましいぞ!」
「そんくらい我慢しろよ。ずっと消えているわけじゃないんだから」

便利な魔法だが一時的にしか使えない。これも集中力はんぱないからだ。
なんて例えればいいんだろう。小さな針穴に糸を通し続けるような、やりたくないのにやり続けなければならない感覚。慣れればなんてことはないのだろうが、慣れるまでやりたくないような。

ともかくこれで姿は完全に消えた。
ビーをローブの下に隠し、いざ侵入開始。

「ピューイ…」
「しーっ」

砦の門には鍵すらかかっていなかった。門番なのか見張りなのかわからない男が酒瓶を片手に泥酔。こりゃ祝杯か?村を一つ焼き払ってなにが祝いだこのやろう。念のため、クレイが当身を食らわせて気絶させる。他にも見張りっぽいヤツを見つけるたびに黙らせた。

レンガで組まれた内壁は意外と天井が高く、蝋燭が灯ったランプが等間隔に並んでおり、十分な明るさを保っているようだ。何のために造られた砦なのかはわからないが、随分と朽ちている。

煙と偉いやつは上に居るはず。広間っぽいところからバカ騒ぎが聞こえてくるから、もしかしたらエンガチョもそこで酒に溺れているかもしれない。ゴンザは何処だろう。人質を捕まえておくには牢屋だろうが、この砦に地下室はなさそうだ。

そろりそろりと階上を目指し、部屋を一つ一つ確認。めぼしい箪笥を片っ端から鞄に突っ込む。中身の確認はあとですればいい。

「………夜盗のような真似を」
「罪悪感なんて覚えるなよ。何処に不正の証拠を隠しているかわからないんだからな」
「正面から堂々と殴り込めばよかろうに」
「後で好きなだけ暴れてもらうから我慢しろ」

クレイはこそこそとする真似が嫌いなようだ。これも計画的犯行、じゃない、効率的行動?ともかく各部屋の家財道具の一切合切をいただいていく。
三階の奥にいかにもな部屋を発見。豪華な家具に絨毯。無駄に飾られたモンスターのはく製。天蓋付きのベッド。

「司令官っていうか、たぶん……エンガチョの部屋だな」

部屋の隅に商人が着るような衣装がかけられている。黒檀の大きな机の上には地図と、封蝋が解かれた手紙。壁にはものものしい金庫。
ここで確認するのは面倒だ。部屋の中のもの全部持って行ってしまおう。後で領主に確認を取ってもらえばいい。

俺がエンガチョの立場なら髪の毛真っ白になるくらいの暴挙だろう。気付いたら部屋の中、いや砦の中の目ぼしいすべての家財道具が忽然と消えているんだからな。ふはは。
回収した家財道具は村人たちの生活に役立ててもらおう。売って金にしてもいいな。この無駄に豪華な絵画とか彫刻とか、趣味は悪いが貴族らは好んで買うかもしれない。

広々とした部屋の家具を全て回収してしまうと、大掃除を終えた後の清々しさを感じた。
気が付いたら互いの身体にかけた隠伏(フォシュ)の魔法が消えていた。

「後はゴンザだな。流石に子供の気配だけを探ることは出来ないから…」
「隠したものに案内(あない)させれば良かろう」
「ん?…そうか、その手があったか」

クレイはゴンザを連れ去った張本人を脅して在処を吐かせようと考えているようだが、俺の考えは違う。
今のクレイは完全な魔王っていうかドラゴンだからな。しかも邪悪な。こんなモンスターみたいなのが出て行ったら恐ろしいほどのパニックになるだろう。勇猛果敢に立ち向かう戦士でもいれば話は変わるが、頭の切れるやつが居たとしたら俺は既に捕まっているはずだ。ということは、きっと傭兵と言っても金で雇われただけのチンピラ連中。そういうヤツはご主人様の命よりも自らの命と利益を第一に考える。魔王クレイの敵ではない。混乱に乗じてしれっと聞けばいい。

「ふひっ…ふひひ…」
「やめいその笑い方!」

悪には邪悪で返してやろう。今更命乞いも謝罪も受け入れない。村1つ燃やしてくれた。おまけに長い間搾取もしていた。神様の涙から生まれた花を乱用して暗殺しようとした。これだけ罪状があるんだ。情状酌量なんてあるわけがない。

黒幕がここにいるかはわからないが、もう二度とアシュス村に手は出さないという気持ちにさせるくらいは痛めつけるべきだな!



*** (*´Д`*)***



「っかー!うめぇなあ!」
「久しぶりの焼き討ちだったからな!こう、弱ぇヤツらが逃げ惑う姿は笑えるよな!」
「あいつらも馬鹿だよなぁ!エンガシュさんの言うことを聞いていりゃいいのによ!」
「でもどうなってんだ?あいつら、妙にこぎれいになりやがって…」
「知ったこっちゃねーよ!ぜーんぶ燃やしてやったからな!」

わっはっはっはっは

「エンガシュさん!でもアイツら花の在処を話さなかったじゃないすか!」
「そうですよ!どうするんですか!」

臭そうな男たちが一斉に上座を見る。そこにはぶっくり太った男が大ジョッキを片手に両足を机に乗せてふんぞり返っていた。絶対に仲良くなれそうにないタイプだ。
何あの不健康そうな身体。いいもんしか食ってないんだろうな。


--------------------------

エンガ・シャイトン 42歳

フィジアン領ドボル地区ダネア市アルトン在住。
ボゾル・シャイトンの長男。闇商人。

備考:ボゾル・シャイトンは領主エゼル・シャイトン男爵の従弟。
脂質異常症 高血圧 変形性膝関節症

--------------------------


ほほう。シャイトン男爵一族の関係者ってわけだな。これで完全に繋がった。
ルセウヴァッハ領主であるベルミナントの奥方、ミュリテリアを暗殺しようとしていたのはこいつなんだろう。若しくは、こいつかエゼル・シャイトン男爵本人。理由は完全に怨恨。自業自得なくせして逆恨みするんだから馬鹿だよな。大人しく謹慎しておけばいいのに、あと数年我慢出来ずに復讐をはじめたってわけだ。

「なあに、あのガキを絞めて場所を吐かせりゃいいだろう。あのガキが場所を知らなくても、ジジィどもを痛めつければころっと吐くさ」
「へへへへっ!違ぇねぇ!」
「イヴェル毒は王都で高く売れますぜ!これで俺たちは金持ちだ!」

猛毒を王都に持ち込むわけにはいかない。きっと悪党が悪いことに使いまくって王国転覆さえ出来てしまうだろう。
今が平和ならそれでいいじゃないか。余計な火種は持ち込むんじゃない。

「タケル、俺はもう我慢が出来ぬぞ!」
「あーはいはい、お待たせしました。それじゃ大々的に暴れるとしますか」

一生に一度くらいは言ってみたかった台詞そのいちを試す時が来たようだ。
きっと前世なら生涯縁が無かったであろうシチュエーションとその言葉。
気分は暴れん坊な将軍様だ興奮する!


「話は全て聞かせてもらったーーー!」


広間への扉をばたーんと開き、俺は高らかに叫んだ。


しおりを挟む