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第3章

窮鳥懐に入れば猟師も殺さず

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「話は全て聞かせてもらったーーー!」


これこれこれこれ!!
一度言ってみたかったんだ!!
普通にサラリーマンやっていたらこんな台詞日常で絶対に使わないだろ?一度でいいから言ってみたいなって、ずっと思っていたんだよ。あと飛行機の中でのお医者様はいらっしゃいますか質問に「私です」って台詞も一生に一度は言ってみたい台詞ランキング2位。
まさか異世界に来てこの台詞を使うときが来るとは!

広間では泥酔しきった男どもが突然の俺登場、そしてでっかいドラゴニュートというか完全にドラゴンに見えるクレイの姿に目を丸くさせた。ちなみにクレイの身体は有に3mを超えている。そりゃ驚くだろう。油断しまくって酒かっくらってウカレぽんちになっていたところに巨大怪獣…いや、ドラゴンみたいなのが来ちゃったんだから。

「「「「ぎゃああああああ!!!!」」」

酒の酔いなど一気に醒めたのか、男達は蜘蛛の子を散らすように四方八方へと逃げ出した。が、この部屋への入り口はたった一箇所。そこには俺とクレイが居る。
逃げる前に話しさせてくれないかな。

「あっ、ちょっ、あのー、さっき、アシュスの村で」
「「「「モンスターだあああ!!!」」」」
「村焼いて、あの、聞け!お前ら聞け!子供連れ去っただろ!返せ!」
「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」

やばい完全にパニクっちゃっている。中には勇敢にも剣を構えようとする者がいるが、怖くてぶるぶる震えて狙いが定まっていない。

「に、に、逃げるな!アイツを倒せ!!」
「そりゃ無理ですよエンガシュさん!ありゃあ、ありゃあ、ブルードラゴンですぜ!」
「ブルードラゴン?!ランクSの凶悪な竜種じゃないか!」

完全に腰の抜けたエンガシュが男達に命じるが、男達も自分の命が一番なのだろう。部屋の中枢までのしのし入ってきたクレイの目を盗み、扉からほうほうの体で逃げ出すものが居る。末端はどうだっていい。どうせ金で雇われたチンピラだ。
クレイさん、完全にモンスターだと思われてますよ。

「力のあるものは居ないのかーーーー!!」

グアアアアアッ!

と、勢い良く咆哮したクレイの迫力は見事だった。完全に大魔王。ちょっとかっこいい。
クレイの雄叫び1つで男達は腰を抜かし、気を失い、漏らし、泣き喚いた。クレイは机を薙ぎ倒し酒樽を蹴散らし、存分に暴れている。よしよし今のうちだ。

「エンガシュさん!駄目だ!死んじまう!」
「こんなところで死んでたまるか!あ、あ、アレを持ってこい!」
「だがエンガシュさん、アレは使えるかどうかわからねぇって言ったじゃねぇか!」
「うるせぇ!!」
「エンガチョさん、村の子供はどうしやす?」
「そんなの構っていられるか!」
「別のところに移しやす?どこにいるんでやす?」
「別棟の奥の部屋だ!それよりアレを!…???なんだ今のは」

別棟の奥の部屋オッケー。
クレイは元気よく暴れてくれている。気絶している男は無視。歯向かう男は…いないようだな。へっぴりばかりで良かった。例え高位冒険者が居たとしても、あの大魔王っぷりを見れば逃げ出すだろう。口から火とか稲妻とか噴かないかな。

さてはてあっちはまる投げして、俺は外へ。
砦の別棟があったのか。さすがに気づかなかった。別棟に通じる回廊は何処だろうか。

「灯光(ライト)!」

巨大な光の玉を四つ作り、砦を囲うように明るくさせる。これで敵には一目瞭然だが、クレイや俺が動きやすくなるほうが大切。

「おまえっ!そこで何ブッ!」
「ピュイイィーー!」

見張りらしき男が剣を構えるが、ビーが猛烈な勢いで男の鳩尾に突っ込んだ。男は白目を剥いて卒倒。あれ痛い。絶対に痛い。

「両手に硬化(ハード)!」

走った勢いのまま別棟に続く扉を発見。そのまま突進。鍵を壊すのが面倒だから扉ごとブチ壊す。発泡スチロールみたいにもろく感じる扉をいくつか薙ぎ倒し、奥を目指した。

「ゴンザー!何処だゴンザーーッ!」

「あんちゃん?あんちゃーんっ!」

返事あり!
一番奥の部屋の前まで行き、扉を叩く。

「ゴンザ、そこにいるな?」
「あんちゃん!あんちゃん!!」
「扉を壊すから放れていろよ!隠れられるところはあるか?」
「ふええっ、ふえっ、わ、わかったずらぁ!」

探査(サーチ)を展開してゴンザの位置を確認。よし、思ったより大きな部屋のようだ。一応加減をして扉を破壊。鉄格子をぐんにょりと曲げて出口を確保。
部屋の中には簡易ベッドが1つあるだけだった。その影から泣きはらして顔面ぐっしょりの子供が飛び出した。

「あんちゃ、あんちゃーーんっ!」
「おぶフッ!」

ゴンザの脳天が鳩尾に突進。加減を知らない子供の勢いって時々最強だよなと思いつつ、震えるゴンザを抱きとめる。
こんなに細くて小さいのに、無理やり連れ去るなんて。

「よく頑張ったな、村の皆は大丈夫だからな!」
「ふえええええ!うええええええっ!」
「よーしよしよしよし。すぐ帰ろうな、村に帰ろう」

ゴンザを宥めている暇は無い。泣いて震えるゴンザを背負い、その場から脱出。
別棟から出ると砦は赤々と燃えていた。この数分に何が起こったわけよ。

「あんちゃん燃えてるずら!」
「赤いねー」

しかもこの振動。どんだけ暴れているんだクレイ。

ズズン…
ズズン…

クレイの足音にしては酷く響く気がする。
砦から逃げ出す男達は後ろを振り返りつつその顔は恐怖に怯えている。さっきの魔王クレイに対する怯えとはまた違うような。
逃げ惑う男達の一人を呼び止め、状況を聞く。

「なあなあ、どうしたの?」
「ヒイッ!な、なん、何言ってんだ!早く逃げろ!」
「中で何があったんだ?」
「化け物が!二匹!」
「一匹はでかいドラゴン?もう一匹は?」
「エンガシュが呼び出しやがった!湖の、悪魔だ!!」

なんですと?
男は顔を真っ青にし、俺の制止を振り切って逃げてしまった。

「湖の悪魔?って、イーヴェルの花の神話のアレか?」
「神様がふういんしたっていってたずらよ」
「そうだよなあ。封印したのになんでわざわざ呼び起こす?」
「ピュー」

そりゃあ身の保身のためだろうが、神様が自己犠牲で封じた悪魔をどうやって呼び覚ましただのろうか。この短時間で怪しげな儀式をやって封印解いて、なんてこと出来ないだろう。それとも本当にそんな悪魔がいたのか?

ギョアアアアア!!

背後の燃え盛る砦から聞いたことも無い怪獣の叫び声。
これはクレイの雄叫びじゃない。確かに別の何かが中にいるんだ。

「ゴンザ、ちょっとそこらへんに隠れていて…」
「やーーーっ!おいら、おいら、あんちゃんからはれないずらよ!」
「置いていかないからちょっと待ってろってば」
「やだああ!!」

泣き止んだ子がまた泣いてしまった。
連れ去られて独りにされたのがよほど堪えたのだろう。俺だって拉致監禁されたら完全なトラウマになる。置いていかれるのは不安でたまらないだろうからな。仕方が無い。

「わかった、俺の背中から絶対に離れるなよ、これからこの燃えている砦の中に入るからな!」
「あいっ!」
「ビー、雨雲呼べるか?消火しないと」
「ピュイッ!」

ビーが天高く飛び立った。雨雲を呼ぶのは数分かかる。その間俺は謎の悪魔の確認と、怒れる魔王の補助。ついでにエンガチョの捕縛。

「結界(バリア)展開!」

盾(シールド)よりも結界(バリア)のほうが暑さ寒さを感じずに済む。背中のゴンザを包み込むように光の膜を張った。

「ゴンザ!行くぞ!」
「ずらーっ!」

砦の中はあちこち壊れ、今にも階上が崩れてきそうな有様だった。柱がいくつか折れている。このままじゃ砦が壊れるのも時間の問題。

「ええい忌々しいっ!」

クレイの叫び声が轟いた。何処で何してんだあのおっさん。

「ギョガアアアッ!」
「我の前に立ちはだかりしその勇気、褒めてやろうっ!」

どがーん。

目の前の壁をブチ破って飛び出てきたのは、青色から黒色に変色しつつある大魔王クレイストンと。

なにあれ。

幾つもの触手?らしきものがウネウネとウネウネしている謎の。

「イソギンチャク?」

赤や青や黄色の鮮やかな色をした、巨大なイソギンチャクがいた。クレイの全身に触手が絡まりとんだプレイになっている。
いやたぶんあれ、猛毒の触手とかだと思うんですよ。クレイの皮膚のあちこちが変色しているのは、たぶん毒に侵されているから。それでも元気良く暴れているってことは、クレイにも免疫力とか耐性力とかあるのだろう。

それにしてもこんなモンスターもいるのか。これが伝説の悪魔だとは到底思えない。ちょっと強いモンスターにしか見えないし、悪魔と呼ばれるほど恐ろしくもない。どうやってこんなところまで来たんだ?


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ダークアネモネ ランクB

海に住むレッドアネモネの上位種。触手に毒を持ち、獲物を刺して痺れさせてからじっくりと殺す。

備考:食用には不向き。

召喚者:エンガ・シャイトン

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召喚者ぁ?!
なんだよコイツ、あのエンガチョが召喚したわけ??そんな芸当できるの?どうやって召喚ってやるんだよ。

「あわわっ…あわわわ」
「お前かエンガチョこのやろうっ!」

崩れかけた広間から這い蹲って出てきたボロボロのエンガチョを捕まえ、出口まで放り投げる。

「ぎゃあああ!!」
「何をしたんだ!あんな化け物呼びやがって!」
「俺は、俺は、違う!」
「違うじゃねぇよ!召喚者アンタになってんだよ!お前が呼んだんだろうが!」
「ヒイイ!これは、これは、強いモンスターが召喚出来るって聞いて!」
「どうやって召喚ってするんだよ。ちょっとやり方教えて」
「召喚符に自分の血を垂らして呼ぶんだ!」
「へえー。召喚符って何処かで売ってんの?」

「男爵がよこしたんだっ!いざとなったら使えって!!」

あー。
なるほどね。
今ので理解した。

「ギョギャアアアアアッ!!」
「ヒイイイッ…」

イソギンチャクの咆哮によってエンガチョは泡を吹いて気を失った。これはこれで都合がいい。鞄から縄を取り出してぐるぐる巻きにしてやる。そのまま担いで砦の外にブン投げた。落ちる衝撃であちこち折るかもしれないが仕方が無い。人命救助。

エンガチョが男爵と呼ぶのはシャイトン男爵のことだろう。その男爵にいざとなったら使えとよこされた召喚獣、イソギンチャク。ランクBのモンスターで人の言うことなんて聞きそうに無い化け物。
シャイトン男爵はエンガチョが追い詰められたら殺すつもりだったのだろう。この化け物によって。
トカゲの尻尾切りのつもりか?証拠隠滅なんかしてやるかよ。エンガチョさえ生きていれば男爵を今度こそフィジアン領から追放できる。もしかしたら極刑かもしれない。

腐った領主なんていらないんだ。
領民にとっては領主だろうと国王だろうと、誰でもいい。自分達の生活さえ守ってくれるのなら、それこそ血筋なんて関係ない。

「ゴンザ、大丈夫か?」
「あいっ!」
「よし、これからクレイの援護に行くからな。怖かったら目ぇ瞑っていろよ」

煙に混じって水の匂いがする。雨が降ってきたんだ。
これで多少は鎮火するだろう。後はイソギンチャクをなんとかしないと。

「クレイ!待たせた!!」
「このぬるぬるとしたものを何とか出来るか!」
「ドラゴンの触手プレイなんて見たくないからな!触手ごと全部凍らせる!ちょっと頭避けてー、氷結風(アイス・ブレス)展開っ!」

頭?から幾重にも生えたぬるぬるの触手めがけて極寒の風を吹きつける。素早い動きのサーペント・ウルフにも有効だったこの魔法は、全ての生き物の熱を奪う。熱を奪われたイソギンチャクは次第に触手の動きが鈍くなり、瞬く間に凍りついた。

「ええいっ!」

バキンッ!!

クレイが力を込めると触手はあっという間に弾け飛ぶ。イソギンチャクの動きは鈍いまま。寒すぎて動きづらくなっているのかもしれない。

「調査(スキャン)!……脳みそ2つあんの?!うっわ面倒。ええとええと、クレイ!顔?の赤いポッチあるだろ!」
「赤いぽ、ぽっち??」
「赤い丸いやつ!」
「ああ!それがどうした!」
「その二つの下が脳みそ!槍で貫けるか!」
「表皮は柔らかく貫きにくいのだ!」
「それならもっとカチコチに凍らせる!いくぞ!氷結槍(アイシクルランス)!」

ゴブリン討伐の時に放った魔法だったが、あの時よりも威力が増している。俺が魔法を操ることに慣れたのか、それとも放てば放つほど強くなるのか。それはわからないが、ともかくイソギンチャクは凍りながらも必死に暴れて抵抗する。残った触手が天井や壁を強く叩き、もろいレンガを壊し始めた。

「クレイ!砦が壊れる!」
「ぬおおおおおおっ!!」

クレイの鋭い槍がイソギンチャクの大脳を1つ貫いた。

「ギョガアアアアッ!!」
「先ずは1つ!」

青緑の体液を散らばせ、イソギンチャクは最後の足掻きを見せる。勝手に呼ばれて勝手に殺すなんて気の毒なんだけど、君の身体は余すことなく全部利用するからな。生まれたことを決して無駄にしない。

「とどめだ!!」
「ギャオオオオオッ!!」



あっ



触手の1つが俺を目掛けて突進。
それをぎりぎりで避けたと思ったら、背中にいたゴンザに直撃。
結界(バリア)効果で無傷だったゴンザだったが、その軽い身体がくるくると宙を舞い。
大きな穴の開いた壁の向こうへ。
その壁の向こうは。


「ゴンザーーーーッ!!」



考えるよりも先に身体が動くことなんてあるんだと、頭のどこかが妙に冷静になってそんなこと思っていた。
小さなゴンザの身体は穴の開いた壁の向こうへ吸い込まれ、その先の毒の湖へ。
ただ、身体が動いていた。

ゴンザの身体を中空で受け止め、勢いのまま砦の中に投げる。その先にクレイが受け止めることを確認して。
命を賭けるなんてこと、したくない。
俺はヒーローじゃないんだ。
出来ることと出来ないことをわきまえ、余計なことはしないよう上手に立ち回っているつもりだったのに。

本能ってあるんだな。



俺の身体は毒の湖へと勢い良く落ちた。





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