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第3章

待てば海路の日和あり

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はあ…

ほんとに嫌になる

君さあ、余計なことに首突っ込みたくない、面倒くさいって言いながら、助けているじゃない

ボクなら放っておくのに

まあ、そのおかげで世界は良い方向へ向かっているよ

そのかわり、異変もあちこちで出ているけどね?





そんな君に贈り物をあげるよ

ボクだってこの世界を愛しているんだ

助けてよ

大切なんだよ


だから 君の望みを 叶えてあげる







「ごぼぼがぼぼぼぼぼ…」

生意気な青年が笑っていた気がする。
俺、どうなったんだ?確かゴンザを助けて…クレイが受け止めたところまでは見た。それから直ぐに脳天と背中に硬い何かがぶつかって、一気に苦しくなった。

「ごぼぼぼぶぶぼばばば…」

ああこれ水か。どうりで呼吸が苦しいと。水ね、水。

―――――水?

「ごべっ!ぼっばばっばば!ぼばば!ばばばば!!」

毒の湖じゃないかこれ!毒まみれの水飲み込んでるってこと?!死んじゃう死んじゃう!

え?俺って各種免疫力あったよな?でもそれって毒にも効くのかな…。今は呼吸が出来なくて苦しい程度。毒にやられてアチコチ痛いってことはない…と思う。毒に侵されたことないからわかんねーよ。

「タケル!どこだ!!」
「あんちゃーんっ!」

水上からクレイとゴンザの叫び声が微かに聞こえる。ええと、水上はどっちだ?砦が燃えているのが下だから…。

「ごぽぽ…」

駄目だ。
空気が足りない。
いろいろと強くなった俺だけど、流石に呼吸しないでも生きられるほど化け物じゃなかった。
口の周りに空気をつける魔法とか…空気…エアー…?


駄目だ。考えられない。




『 我を 呼ぶものは たれぞ 』

俺死ぬの?死ぬのやだなあ。
まだまだ遣り残したこといっぱいあるんだけど。

せっかく見つけた醤油。あれをベルカイムで流行らせればアシュス村の名産品になる。そうしたら村おこしにもなるだろ?それに醤油の実の花は蜜が甘いっていうなら、ハチミツだって採れるはず。ベルカイムの領主に養蜂家って紹介してもらえるかな。そうしたら美味しい蜂蜜が手に入るのに。

『 加護を受けし ものよ 』

じゃがバタ醤油もっと食べたかった。蟹を醤油で食べたかった!!
……それが一番の悔いって流石にどうかと思うので訂正。

ええと。

ビーの成長を見守りたかった!!よし、これでいい。

『 ううむ 純粋なる 魔力 』

ブロライトがしつこく推していたナントカの弓も一目見ておくんだったかな。それからクレイの魔王化もなんとかしないとなあ。勇者に討伐されたらどうするよ。

『 我の力が 蘇る 』

鋏ぃぃぃ!!
最強無敵の俺の鋏ぃぃぃ!!!

『 加護を受けし ものよ 』

せっかく材料そろえているのにいいい!!!
爺さんの渾身の鋏が使ってみたかったあああ!!!


ブチッ


『我の 話 を 聞けええええいっ!!! 』


「はいいいっ!!??」


心地よい眠りから急に叩き起こされたような。
いつの間にか息苦しさは消え、身体を圧迫する水も無くなった。目の前には湖。だがぷかぷかと空を飛んでいる。
これはビーが助けてくれたのか?と上を見ると。

『 ぶるるるる… 』

馬でした。

「えっ?」
『 勝手に くたばるでは ない 』

馬が。白い馬が、空を飛んで、喋っている。
俺の身体を口に銜え、大きな翼をはためかせ、馬が空を飛んでいた。馬が。

「ペガサス!」
『 やかましいわ 加護を 受けし ものよ 』

この脳内に直接語りかけてくる感覚。ボルさんと一緒だ。

「あの、申し訳ありません、お手間をおかけしまして?」
『 我の力を 浄化せし 加護を 受けし ものよ 』
「籠?」
『 ヴォルディアス の 気 を 感じる 』

あーあーはいはいはいはい、やっぱりボルさん関係ね!
ってことは、この馬…神様的な馬はボルさんのお仲間?

「えーと、俺の名前はタケルって言います。馬、貴方、様の湖ってもしかして御自宅でしたか?」
『 我は ホーヴヴァルプニル 』

聞いたことあるな。
ヘンな名前って思ったことある。

『 ぶるるる… 』
「ご自宅に勝手に落っこちまして申し訳ありませんでした。なんといいますか、イソギンチャクがですね、こう、触手をぶおんとふりまして」
『 お前が 我の 地を 清めたのだ 』

え?

バサッと馬の翼が勢い良く羽ばたくと、澱んでいた湖の水は一気に輝き出した。
なにこの怪奇現象と叫ぶ間もなく水は瞬く間に清らかな水に変わっていった。こう、俺と馬を中心にして水が透明になっていく感じ。

「すげえ!!」
「ピュイ!」
「あれっ?ビー、いたのか!」
「ピューイーッ!!」
「ああ、俺はだいじょぶぉっ!!」

ビーの顔面抱きつき攻撃に生臭い思いをしながらも、心配させてしまった為に詫びとして洗礼を甘んじて受けた。中空に浮いているから暴れるわけにもいかない。生臭っ…
それよりもこの状況を誰か説明してくれ。
俺が溺れて、馬が出てきて、湖が綺麗になって?

「あんちゃーん!」
「タケル!無事であったか!」

崩落した砦を背にしたクレイとゴンザが手を振っている。良かった、二人とも無事で。クレイも元のサイズに戻っているということは、魔王は終わったのか。ほんと良かった。
神様の馬は翼を羽ばたかせ、俺の身体をゆっくりと湖の畔へと連れて行ってくれた。ビーのアクロバット飛行よりも穏やかです。

「ゴンザ、クレイも無事か?」
「ああ、ダークアネモネは退治した。後で亡骸を回収するが良い」
「あんちゃん!ドラゴンのおっちゃんかっこよかったずら!」
「よしよし、良かった良かった」

二人とも酷い傷は無いな。
砦は見事に壊れていたが、死亡者はいないようだ。周りには気絶している傭兵たちが散らばっている。ぐるぐる巻きにしたエンガチョも転がっていた。

鞄から桃に似ている果物を1つ取り出し、ゴンザに渡す。それから丼に魔素水を汲み、クレイへ。二人とも無言でむさぼった。
ビーにも魔素水を飲ませ、本題へ。

「で。この馬神様はどうしたんだ?」
「うむ。お前が湖に落ちて暫くすると対岸が光り出してな。眩い光の中からそこなる御仁が現れたのだ」
「あんちゃん、かみさまずらよ」
「ああ、イーヴェルの花を作り出したホー…ホーバー……プニさんだ」
『 … … … 』

馬の神様、プニさんは教えてくれた。
この湖はプニさんの御自宅で、何千年もずっとずっと見守ってきた聖なる湖だった。それが数百年前から魔素の流れが変わり、いわゆるボルさんの御自宅状態に。清らかな水を維持するために身を挺して湖を守ったが、それでも力及ばず自らは石化。水は邪悪なる人の子によって毒の水へと変えられてしまった。

本来プニさんの力があれば水の浄化など容易かったが、その力すら失っていたのだという。
大地を守る神としての力が無い故に湖は毒され、雨雲さえも近寄らなくなった。

「イーヴェルの花が毒草になったのも、魔素の影響なのか」
『 そうだ 我は 大地を 浄化する 美しい 花を 作り出した のだ 』

魔素停滞の影響がこんなところにも出ていたわけだ。
ごめんよボルさん、全ての影響をボルさんのせいにして。
魔素の動きが変わった原因はわからないが、ともかく俺が湖にどっぼん落っこちて、停滞していた魔素を吸い込み、プニさんに力が戻ったのだと。

…毒の湖に落ちても無傷って、凄いな俺の身体。
これで俺の身体には毒に対しても免疫があるとわかった。クレイもイソギンチャクの毒にけろっとしているし、これから先も毒殺だけは免れることが出来るだろう。

「これからこの地は枯れることはないのか?」
『 我の 守りし 地は 緑 豊かな 地と なろう 』
「それは良かった」
『 タケルよ 加護を 受けし ものよ 』
「はい」
『 永久の 感謝を 』

そんなのいらないから、アシュス村を救ってやってくれ。

今後飢えることなく、枯れることなく。
誰もが笑える生活を。


プニさんは嘶きと共に光となった。




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