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第9章〜転生王子の休日(ピクニック編)

お弁当

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 「コクヨウ〜。隠れてないで出ておいで〜」
 ヒスイの後ろにいたコクヨウを、優しく引っ張り出す。俺が抱き上げると、コクヨウはブンブンと頭を振って、犬の顔がついたフードを後ろに落とした。
 あぁぁ、可愛かったのに。

 「コクヨウです」
 コクヨウの小さな手を持って、左右に手を振る。
 「か……可愛いぃぃぃぃっっ!!」
 アリスとライラのハモった声が、湖に響き渡った。
 「何これ何これー!可愛いすぎるっ!」
 「イテ!イテーって!」
 ライラは興奮気味に叫びながら、隣にいたレイをバシバシと叩く。
 「子狼のコクヨウも可愛いけど、この服着ると、もっと可愛いわっっ!」
 アリスも珍しく興奮気味のようだ。愛らしくてたまらないと言うように、コクヨウを見つめている。
 おぉ。エリザベスの対抗意識から、着せた着ぐるみ。可愛いと思ってくれたらいいなとは思ったけど、すっごい好評だ。良かったぁ。

 「ど……どうしたんですか?これ……」
 まだ信じられないと言うように、カイルはコクヨウを覗き込む。コクヨウは面白くなさそうに、プイッとカイルから顔を逸らした。俺はそんなコクヨウの頭を撫で、着ぐるみのフードを再度かぶせる。

 「ベイル先輩が前に作っていたやつで、余っていたものを貰ったんだ。」
 「昨日貰ってたやつだよね。こう改めて見ると、ベイル先輩さすが縫い目綺麗だなぁ」
 トーマが「うーん」と唸って、エリザベスの着ているワンピースと見比べる。
 そんな俺たちの言葉に、レイはギョッとした。
  「え、ベイル先輩が作ったのか?」

 「実家が服を作るお仕事で、先輩も縫物上手なんだって……。レイ知らないの?」
 俺と違ってレイは情報通だから、てっきり知っているかと思っていたのだが……。
 するとレイはフンと鼻息をついて、キッパリと言い切った。
 「俺は男の噂に興味はない!」
 それ……自信満々に言うことか。
 俺やライラが呆れたように見る。

 そんな俺へ、カイルが言いにくそうに口を開いた。
 「フィル様、あの、すみません。俺が聞きたいのは、この服の入手方法ではなくて……。何故この服を着ているのかと言う質問で……」
 「ん?コクヨウもともと可愛いから、着たらもっと可愛いかなって単純に思っただけなんだけど……。可愛いくない?」
 着ぐるみ越しにコクヨウを撫でながら小首を傾げると、カイルは困ったように目を彷徨わせた。そしてチラリとコクヨウを見る。
 「そ、それは、確かに、か……可愛……い…ムグ……」
 言いかけてコクヨウの瞳が剣呑になっているのに気付き、慌てて口元を手で抑える。

 【何が可愛いか!動き辛くて敵わぬわっ!】
 ブンブンと頭を振って再びフードを落とすと、抱っこしている俺の腕をテシテシと叩いた。気持ちが収まらないのか、ガウ!と鳴く。
 怒ってるのかもしれないけど、正直それさえめっちゃ可愛いよ?

 「コクヨウ何て言ってるの?」
 背を丸めてコクヨウを間近で見ていたトーマは、首を傾げて俺を仰ぎ見る。
 「動き辛いってさ。コクヨウには不評みたい」
 ため息をついて言う俺に、ライラとアリスは残念そうに眉を下げる。
 「そうなんだー?可愛いのに」
 「ねぇ」

 【あのディアロスにこんな格好させるなんて、人間って怖いわ……】
 トーマの腕の中エリザベスがプルプルと震え、レイにしがみつくようにロイが頷く。
 伝承の獣っぽくないから忘れていたけど。確かに伝承の獣に、子犬着ぐるみはダメかな?
 
 「わかったよ」
 そう言って着ぐるみを脱がし、コクヨウを地面に降ろしてやった。ブルブルブルと体を振り、開放感からか手足を伸ばす。
 【全くとんでもない目にあった】
 二本のしっぽを揺らして、忌々しげに着ぐるみを睨む。その姿を見て、ふむ…と考え込んだ。
 やはり着ぐるみなら動きやすくないとダメだなぁ。冬に着せたら暖かそうだし、その問題点をクリアすればいける気がするんだけど。機動性考えるなら、タンクトップとか普通の服の方がいいかな。
 【フィル……何を考えておる】
 考えていた俺の心を読むかのように、コクヨウはジトリと見上げる。
 勘がいいな……。
 「ん?何もないよ。さぁ、コクヨウも湖行っておいで。おやつの時に呼ぶから」
 ニコッと笑って空とぼける。

 「じゃあ、召喚獣の紹介も終わったことだし、そろそろお弁当にしない?ここまで歩いてくるので、すっごいお腹減っちゃった」
 ライラは先ほど広げた敷布の上に、靴を脱いで上がり手招きをする。その様子にレイはため息を吐いた。
 「いやはや、この美しい景色より食い気とはな……」
 嫌味なのか頭を振って大げさに嘆く様を見せると、ライラはムッとして睨んだ。
 「何よ。じゃあアンタはいらないのね?お弁当。せっかくアリスと一緒に朝早起きして作って来たのに」
 お弁当は人数も多いので、女子側と男子側とで持ち寄ることに決めていた。女子側は主食となるものをお願いしている。

 「アリスちゃんのっっ?!」
 レイは物凄い速さで敷布に滑り込み、早く来いと俺たちに合図する。その動きについて行けず、ロイが肩から振り落とされ、慌てて追いかけて行った。
 何だその変わり身の早さ。
 「アリスちゃんの手作りお弁当なら、すぐ食べますっ!アリスちゃんのお弁当を食べながら景色を見る!あぁ!きっとより一層美しく輝くだろうっ!」 
 その舞台のようなオーバーリアクションに、アリスは困ったような顔をし、ライラ、は舌打ちせんばかりの顔つきをする。
 「一緒にって言ってんでしょうが!私も一緒に作ってんのよ!」
 「うん。私だけじゃなくて、ライラも頑張ってるから…」
 
 するとレイは急に真顔になって、ライラをジッと見つめる。 
 「…大丈夫か?」
 レイ、いくらなんでも失礼過ぎる……。
 ライラはレイの足をつねった。
 「イッタタター!っ何すんだよ!」
 相当痛かったのか足をさすりながら涙目で訴えると、ライラは晴れやかに笑った。
 「あぁ、ごめんなさい。何か衝動が抑えきれなくて。壊滅君に言われたのが、きっとそうさせたんだわ」

 「レイが悪い」
 カイルは敷布に上がりながら呆れたように言い、俺とトーマも敷布に座りながら頷いた。
 「せっかく作ってもらってるのに、確かにひどい」
 「だよねぇ。レイには言われたくない言葉だよね」
 全員に責められて、レイが「うぅぅ」と唸る。
 「ちょっとした確認じゃないか…」

 「大丈夫よ。ちゃんと女子寮のコックさんにも、味見してもらったんだから」
 ライラはお弁当ボックスと、大きなバゲットを包んだ袋を取り出す。アリスはバゲットを切るナイフと小さなまな板、お皿などを広げた。
 こちらの世界の主食は、固めのバゲットだ。お弁当の場合、これを薄く切って、おかずを乗せて食べるのが主流となっている。
 その為蓋を開けたお弁当ボックスには、手作りジャム、野菜と肉の煮込み料理、塩漬けの薄切り肉、サラダなど、乗せて食べやすいおかずが入っていた。

 「この煮込み料理懐かしいなぁ」
 匂いを吸い込んでニコッと微笑むと、アリスは嬉しそうに微笑み返す。
 「前に作った時好評だったから」
 この煮込み料理はグレスハートでピクニックをやった際、アリスが作ってくれて食べたことがある。野菜の旨味と甘味が出て、とても美味しいおかずだ。固めのバゲットを程よくしんなりさせてくれるので、子供の歯にも優しい。

 「フィルも作ってくれたのよね?」
 おしぼりを差し出すアリスに頷いて、荷物からお弁当箱を取り出した。
 「アリスやライラに主食頼んだから、おかずになりそうなの少しだけ」
 「そうそう!俺すっげー楽しみだったんだ!」
 レイが俺のお弁当箱近くまで躙り寄る。
 「うん、僕たち作れないからフィルとカイルに頼んじゃったんだけど。男子寮の厨房から凄くいい匂いしてて」
 それを思い出して刺激されたのか、クルルゥゥとトーマのお腹がなる。
 その様子にアリスはクスクスと笑った。
 「この時点でもうすでにいい匂いしてるものね。男子寮の皆、食べたがったんじゃない?」

 俺とカイルはコックリと頷く。
 あれには、参ったよな……。匂いにつられ飢えた男子生徒が、何処からともなくやってきて。厨房から出待ちされたあげく、よこせよこせと……。
 まるでゾンビ映画みたいだった……。
 「お弁当用だって言うのに、危うく奪われそうだったよ」
 「死守できたのが不思議なくらいでしたね」
 俺がため息をつき、カイルは疲れた声を出す。

 「わぁ、それ聞いたらますます楽しみ!早く見たい!開けて!」
 ライラはワクワクと手を叩く。
 俺が蓋を開けると、俺とカイル以外がわぁっ!と声を上げた。
 「美味しそ〜う!!」
 「なぁに、これ?」
 「玉子焼き、コロッケ、肉団子、キノコと野菜の串焼き」
 玉子焼きは砂糖を入れた甘い味付け。コロッケとあんかけの肉団子は食べやすい一口サイズに。キノコと野菜の串焼きは、何種類かの大きめキノコと、赤、黄、緑の野菜を串に刺し彩りを加えた。その串を溶かしバターを塗りながら焼いて、ハーブ入りの塩をふっている。

 「フォークで刺して、食べやすいおかずにしたよ。串は持って食べたら手は汚れないから。あとおやつは後で、テンガにプリン出してもらう予定」
 にっこりと微笑んでフォークを配ると、レイは心底悔しそうに拳を握った。
 「フィルが女なら嫁にしたのにっ!!」
 ライラとアリスも悔しそうに頷く。
 「こう言ったら、女の子として負けてる気がするけど……同意」
 「お嫁さんに欲しい」


 え…………嫁?婿でなく?
 
 
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