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第4章

急転・邂逅相遇

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「ここ…これは…!」
「内緒ですよ、ここだけの話にしてくださいね?」
「いやしかしてめぇ…こりゃ…」
「わぁかってますって、ヤバイ代物だってことは。ですから、極秘裏に、ね?」
「へへっ…こんだけの代物を俺に任すたぁ…」
「信頼している証ですよ…」
「へへへっ…」
「ふひひ…」

ベルカイム商業区にあるペンドラスス工房。
工房の入り口には燦然と輝く黄金色の獅子が刻印されたエンブレム。店先には噂を聞きつけた大勢の冒険者たちが詰めかけ、工房の職人などもその対応に追われているようだ。

そんな猫の手も借りたい最中、俺とグルサス親方は応接室の隅で極秘談合。

ドワーフの武器鍛冶職人、グルサス・ペンドラススはこの度アルツェリオ王都で開催された第ナン回全国武器鍛冶武具品評会なるものに出場。俺がリュハイ鉱山で採取した最高の状態のイルドラ石とイルドライトを惜しみなく使った美しいロングソードは、武器・剣部門の最優秀賞作品に選ばれた。
美しく輝く青と白銀の剣は王や専門家を大いに魅了し、銘を『覇者の業雷』と成して国宝とする、とかなんとか。
わあ格好いいお名前、と噴き出さなかった自分を褒めてやった。いや確かに雷っぽいイナズマ模様が入っていたけどさ。誰だ名付けたヤツ。

ペンドラスス工房はこのたびアルツェリオ王家のお墨付きである黄金獅子のエンブレムをいただき、名実共に国内最高の武器鍛冶工房として認められることとなった。
しかしグルサス親方は相変わらずのようで、気が乗らなければ武器を作らない。妥協をしない。貴族から次々舞い込む見せ掛けだけ豪奢な剣は決して作らないスタンスを変えなかった。

そんな優秀な腕を持った親方に採取用の鋏を造らせるなんて、という戸惑いもあった。これでも遠慮しいなんですよ。
だが親方がベルカイムに帰還しても工房を訪れない俺に業を煮やし、ギルドで美味しいほうじ茶の淹れ方講座を開いていた俺の腕を掴んで工房まで拉致したわけで。
開口一番に怒声で「なにチンタラしてやがる!」だったのには目が覚める思いでした。

「親方だからバラすけどさ、このミスリル魔鉱石も魔素水も古代竜エンシェントドラゴンに貰ったんだ」
「この手にするまで…こんな恐ろしいモンがこの世にあるだなんて……信じられねぇところだ。なんでおめぇ、古代竜なんかと知り合った。ありゃ、世界を守る神様だぞ?」

それは成り行きってやつです。

「まさか、そのチビっこいドラゴン…」
「ピュ?」
「まあまあまあまあ、そういう細かいことはどうだっていいじゃないか。で、このミスリル魔鉱石と魔素水とトワンゴ・クラブの甲羅とイルドライトを使って鋏は造れそうか?」

鞄から取り出した輝く鉱石の数々。そしてアダマンタイト並みに硬い青い蟹の甲羅。
親方は難しそうな顔をしていたが、大きな鼻がひくついているのがわかる。造り手として未知の鉱石を渡されたら試したくなるのが職人としての本能。組んでいた腕を外して怪しく輝くミスリル魔鉱石を手にする。そしてニヤける顔。

「こんなとんでもねぇもん…試さねぇだなんて俺の名前が廃らぁ。もしかしたら鍛冶職人の憧れでもある…神器が造れるかもしれねぇじゃねぇか」
「あ、そういうトンデモ作品はいらないです」

持っていることで命を狙われる鋏とか勘弁してくれ。

「任せろタケル!俺が一世一代の、これ以上ほかに絶対にねぇってモンを造り上げてみせるからな!!」

いやその意気は品評会の時に出して欲しかったかな。
一流の職人が一流の材料で造り上げる一流の鋏。これは楽しみ以外の何者でもないが、少しの不安が残る。
アルツェリオ王国一腕の良い武器鍛冶職人に、妥協という言葉は通じないだろうから。

「腕が鳴るぜぇぇぇーーーー!!」

親方の気合の入ったデカい声は狭い応接室を震わせた。

俺の手の型を取ってもらい、その日の極秘談合は無事に終了。親方は鋏を造る全ての工程を全て独りでやりきると言っていたので、一月以上は鋏にかかりきりになるだろう。
国が認める最高の職人が採取用の鋏に夢中だなんて、親方の腕を必要としている人に言わせればふじゃけんじゃないと怒るところだろう。
俺は急いでいないし出来上がりはいつでもいいって一応遠慮したからな。時を見てじゃがバタ醤油でも持っていってあげよう。

「終わりましたか?」
「ああ、出来上がりが楽しみだ」
「それはようございますね」

工房の裏口から出た俺を待っていたのは、白銀の髪に紫紺色の瞳の美女。
優しくふんわりと微笑む姿は道行く誰をも振り返させる。背も高くてすらりとしているし、肌も白くて滑らか。元気満点のブロライトとはまた違った、清楚な女性。

「急がせるように鞭を打ってやりますか?ひひん」

黙っていれば。

ガレウス湖を守っていた聖なる獣であるホーヴヴァルプニル。略してプニさん。
魔素停滞の影響で力を失い、大地を守護することが出来なくなった神様。湖を守るために自己犠牲で石化までしたのに、それでも守りきれず湖は汚されてしまった。
俺が湖に落っこちたことでなんでだか魔素停滞が解消され、毒素が無くなった湖には力が戻り、プニさんも元気になった。
元気になったは宜しいのだが、世界を旅したいと俺についてきたわけで。

「鞭は打ちません。好きなように造ってくれればそれでいい」
「そうですか。お前がそう言うのならば楽しみに待ちましょう」

穏やかな笑顔は本当に綺麗なんだけど、コレの正体は馬だからな…。しかも、でっかいクレイを易々と運べるくらいでっかい天馬。大きさは自在に変えられるけど、基本的に一角馬くらいのサイズ。
神様ってもっと神々しくて恐れ多くて近寄るのすら滅相も無い、っていうイメージだったんだけどなあ。

「ささ、それでは屋台でじゃがばたそうゆーを食べましょう」
「さっきも食ったろ?」
「人の子はよく言うではないですか。それは、それ。これは、これ」

コレ本当に有難い神様なのかな…。

「ピュピュイ!ピューイッ!」
「あらあらまあまあ、ヴォルディアスの和仔はお腹がいっぱいなのかしらね?」
「ピュッ?!ピュイィ!ピューイ!」
「わたくしは食べますよ?さっき食べたのは気のせいです。ぶるる」

美女とちびっこドラゴンのガチ喧嘩なんてしょうもなくて見たくない。
神様と神様候補は何でだか犬猿の仲。ビーのほうが至極まともに見えるのはプニさんがものすごいズレているからだろう。賑やかなベルカイムに来て相当ウカレていたからな。アレ見せろコレを買えと三日くらいはうるさかった。なかでもじゃがバタ醤油が気に入ったらしい。
俺も小腹が空いたところだし、ギルドでクレイを拾って屋台散策でもいいかな。

そんなことを考えながら美女に急かされ職人街を出たらば。


「お前か!最低ランクの素材採取家ってのは!!」


誰かがなんか叫んでいた。
最低ランクの素材採取家って俺以外にもいるのかー。そうかー。頑張ってー。

「おいっ!聞いているのか!」

呼んでいますよ誰かさん。え?俺?いやいや俺のわけないですよー。やだなー。

「ふざけるなっ!」

強引に腕を取られ、無理やり振り向か、すことなど出来るわけが無い。俺、でかいから。

「くっそ!なんでこんな、でかいんだ!!」

俺の腕を掴んでわめくのは、俺の胸より下にある茶色い頭。人間の青年だった。
人の顔を覚えるのは得意。少しでも交流があれば以前どんな会話をしたか多少なりとも記憶しているものだが、彼に関する記憶は一切無かった。つまり、見ず知らずの他人。

「どなたですか?この、小煩い猿は」
「えっ獣人だった?俺、てっきり人間だと」
「ピューイー」

人間そっくりの猿獣人もいるのか、なんて感心していたら青年の顔が真っ赤になった。

「うるさいうるさいっ!おい、お前っ!俺の縄張りで勝手なことしやがって!」
「獣人ってマーキングするの?!それは知らなかった」
「まーきんぐとは何ですか?」
「自分の縄張りを主張するためにアチコチにおしっ…」
「いい加減にしろーーーっ!」

青年が怒鳴った。
賑やかな中央通りだからたくさんの視線を独り占め。
何でこんなに怒るんだ?そもそもなんで俺が怒られる?彼の縄張りなんて知らないし、彼自身を知らない。

「ええと猿さん、落ち着いて」
「俺は猿じゃねえっ!リンド・ワイムスだ!エウロパに所属しているんなら、俺の名前くらい知ってんだろう!」

知っていないとならないくらい有名な人なのか?いやでも全く知らない。これっぽっちも知らない。そもそも他の冒険者に一切興味が無い。失礼な真似をしてくるヤツらの顔は覚えているが、猿…彼の名前にも聞き覚えがない。どうしよう。

「冒険者ランク、B!の、素材採取専門家ってのは、俺のことだ!」

あーあーあーあーあーはいはいはいはい、わかったわかった!!
やっと理解できた。コイツが誰なのかわかりさえすれば、後は容易く考えられる。

ベルカイムのギルド、エウロパに所属している冒険者で素材採取を専門としているものは少ない。
豊富な専門知識と経験が必要だからだ。学問が必須ではないこの世界で文字を読み書きできるものは稀。素材採取家は先人が残した学術書や専門書などから取り入れた知識を応用して探査をする。専門家に師事するものもいるが、それでもやはりある程度の教養は必須。

俺はほら、色々とたっぷりと恩恵受けているから上手くこの仕事が出来ているわけで、ものすごい苦労して努力して必死こいて仕事をしているわけではない。
ただし、顧客を満足させるために奔走することは忘れない。信用を得られるために自分が納得出来るまで探査を止めない。それが俺のプライドであり、他の採取家と違う俺だけの売り。何か一つでも特化していないと、顧客から指名依頼を貰い続けることは難しいだろうからな。

冒険者ランクBの素材採取専門家がエウロパに所属しているとは聞いていたが、この青年なのか。俺よりは年上だろうが、きゃんきゃん吼える様を見ていると度量の深い男とは到底思えない。

面倒なことだが、ここは話をしてやらなけりゃならない。



ほんとまじ面倒。




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