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第9章〜転生王子の休日(ピクニック編)

湖で食べて遊んで

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 「うっっ!!…………まぁい!」
 レイは右手にサラダを乗せたバゲット、左手にコロッケを掲げながら叫んだ。
 「美味いよこれ!」
 ビックリした。うっっ!てなったから、喉詰まらせたのかと思った。
 それくらいレイの口は、ずっとモゴモゴ動いている。ようやく咀嚼し終えたのか、お茶を流し込んで息をひとつ吐いた。

 「この肉団子もコロッケって言うのも、すっげー美味いっ!こんなの食べたことねーよ」
 レイの言葉に、トーマが頷く。
 「うん、すごい美味しいね。肉団子なんか形ちゃんとしてるのに、とっても柔らかいよ」
 「本当、肉汁溢れて絶品よねぇ」
 ライラはうっとりと肉団子を見つめ、アリスはそれを見てクスクスと笑う。
 「ライラは肉団子気に入ったみたいね。私はこのコロッケが好きよ。食感が楽しいわ」
 「それは良かった」
 嬉しくなってにっこりと微笑む。
 男子寮で死守したかいがあったよ。

 俺がしみじみとコロッケを食べていると、俺の服をちょいちょいと引くものがあった。見るとザクロとロイが、キラキラとした顔で見上げている。
 「どうしたの?」
 俺が聞くと、ロイが後ろ手に隠していたものを見せてくれる。それはザクロのミニフィギュアだった。

 これって……前にロイが作っていた、砂で出来たフィギュア?
 ロイに初めて会った時、砂で造形物を作れると、ホタルのミニフィギュアを作ってくれたことがあった。可愛かったので、あのフィギュアは机の上に飾っている。
 これも良く出来ているなぁ。
 小さいながらも、お奉行ザクロが甲羅を見せているシーンをよく切りとっている。不思議なことに甲羅は、ニスを塗ったかのように光っていた。
 今にも動いて例の台詞を言いそうだ。

 「ロイに作ってもらったの?」
 ザクロは頷いて、得意満面に甲羅を見せる。
 【オイラの甲羅のピカピカの良さを、わかってくれたんでさぁ!】
 【ザクロ正義の味方、かっこいい】
 そう言ってザクロを見るロイの瞳には、ヒーローが映っている。
 いいのか、ロイ。そのヒーローは名奉行ならぬ、迷奉行でもあるんだぞ。

 だが、それは言うまい。だってこんな純粋な瞳でザクロ見てるんだよ?……言えないよ。
 【フィル様、あっちで遊んできやす!】
 見せて満足したのか、ザクロはぺこりと頭を下げる。
 【行くぜぇ!ロイ!】
 ザクロの呼びかけに、ハイっとロイが手を挙げる。
 【また新しい格好の作る!】
 【おう!】
 マジか……また新しいの作っちゃうのか。
 仲良く歩いていく2匹を、遠い目で見つめる。
 ロイがザクロから変な影響受けなきゃいいが……。


 【待ってです〜〜っ!】
 ん?今度は何だ。
 ザクロ達から湖の方に視線を向けると、ホタルが勢いよく転がっていた。
 今まで部屋の中で運動不足だったから、思う存分転がるのは喜ばしいことだが……。
 【いぃーーーやぁーーーっ!!】
 ホタルの前で叫びながら、必死に逃げているエリザベスが気にかかる。
 「エリザベス、ホタルと追いかけっこしてるね。楽しそうだなぁ」
 その様子を見て、トーマが微笑ましげに言う。
 え、そう?楽しそうか?

 ワンピースを脱いで身軽になったことで、どうにか逃げているが……あれ本気で嫌がってない?
 【すごいっす!エリザベス早いっす!
ホタルと追いかけっこして負けてないっす!】
 【すーごいっ!すーごいっ!】
 テンガとコハクがやんやと飛び跳ねていると、その2匹の前を通り抜けざまエリザベスが怒鳴る。
 【そんなもんやってないわよっ!ついてこないでよ〜っ!】
 あ、やっぱりやってないんだ?何故あんな事態になったかわからないが、止めなきゃエリザベスが可哀想だ。

 「ホタルっ!追いかけるの止め……ん?」
 叫びかけた時、ホタルの前方にコクヨウが現れた。
 【喧しくて昼寝もできん】
 忌々しそうに言うと、その小さな足で転がってくるホタルを、バレーボールのアンダーサーブの要領で湖に打ち返した。ホタルは放物線を描いて、湖にボチャンと落ちる。

 「ほ、ホタルーーっ!?」
 思わずポカンとしてしまった俺は、慌てて腰を上げる。
 「ろーしたの?フィル」
 肉団子を頬張りながら、トーマが振り返る。アリスたちも突然叫んだ俺に驚いているようだ。
 「ホタルがどうかしたの?」
 あの瞬間を見ていたのは、俺だけだったらしい。
 「いや……今ホタルが」
 俺は波立つ湖を指差す。
 ちょうどプッカリと、ホタルが浮かび上がったところだった。
 「え、あれホタル?」
 「いつの間に泳いでたんだ?」
 ライラとレイが首を傾げる。
 「救出しますか?」
 「うん……あ、待って!」
 救出に向かおうとするカイルを止めた。
 すでにホタルは何事もなかったように、パチャパチャと岸に向かって泳ぎだしている。

 【今のもう1回やって欲しいです〜っ!】
 岸に上がった第一声が、楽しそうなそれだった。
 ……大丈夫そうだな。てか、元気そうだな。
 あんな勢いよく飛んでって、ノーダメージとは。前にコクヨウに噛まれた時は痛がってたのに、衝撃には強いのだろうか?ホタルはゴム毬か何かで出来てるのか?

 【もう一回やって欲しいです〜】
 水に濡れぺしょりと一回り小さくなったホタルが、コクヨウの近くまで寄って行ってねだる。
 【やらん】
 あっちへ行けと足で示して、面倒くさそうにあくびをした。
 【コ・ハ・クも〜!やる〜!】
 コクヨウの前でぴょこぴょこと飛び跳ねるコハクの横で、テンガは頭を抱えている。
 【あぁ〜楽しそうなのに水に濡れるのはイヤっす!究極の選択っす!】
 【話を聞け、やらんと言っておるだろうが】
 何やってんだ……。
 事故かと思いきや、何時ものやり取りが始まった。ホタルたちのマイペース加減に脱力する。
 
 「フィル、何があったの?」
 アリスに心配気に聞かれ、俺はゆるく首を振った。
 「いや……大丈夫。遊びの延長みたい。気にしないで、お弁当食べよう」
 再度腰を下ろしたところに、エリザベスはプリプリと怒りながらトーマの元へやってきた。
 【まったく!何て野蛮なの!】
 その言葉……至極最もです。

 「そう言えば明日何でお休みになったのかな?明日は語学、調理、史学だから……マット先生とゲッテンバー先生とサイモン先生だよね?先生がそんなに一気に外出なんてことあるの?」
 エリザベスを愛しそうに撫でながらトーマが言う。
 「あぁ、その3人は1、2、3年の担任だからな。剣術のワルズ先生も一緒だってさ」
 膨れたお腹を叩いて、レイが言う。その口ぶりから、レイは外出理由を知っているようだ。

 「レイ理由知ってるのか?」
 カイルの問いに、レイは少し肩をすくめる。
 「俺史学とってるからさ。サイモン先生に聞いたんだけど。ドルガド国に学校対抗戦の話し合いで行ったんだって」
 学校対抗戦?
 言われて思い出した。
 3年に1度ステア王国・ドルガド国・ティリス国の、学校3校でやるって言うあれか。学校それぞれで選抜グループを作り、3種目の対抗戦をやるらしい。
 ドルガド国は学校に来る道中、温泉に入ったあの火山国。ティリア国は織物の有名な国で、ステラ姉さんがお嫁に行った国だ。
 ドルガド国もティリア国もステア王国の隣国で、昔からこの対抗戦は行われていたのだと言う。

 「あぁ、入学の説明の時、何か聞いたね。今年がそうだって。でもまだ先でしょ?」
 冬が終わって雪が溶け、暖かくなった頃にやるって話だったけど。
 「毎回何の種目やるのか決まってないからな。早く話し合いをして、選抜決めなきゃ」
 「だけどそんなに多い人数で行くものなのか?学校代表1人でも良いんじゃ?」
 首を傾げるカイルに、レイはチッチッチと舌打ちした。
 「種目選びは勝敗を決める重要な部分だぞ。1人で行って、押し切られたらどうするんだ。自分の学校の生徒にとって、有利な種目勝ち取らなきゃなんだからさ」

 「じゃ、ワルズ先生が担任でもないのに行ったのも、そう言うことか?」
 「そう。ドルガドで威圧的な先生がいるらしいんだけど、その人ワルズ先生のこと苦手なんだって」
 ワルズ先生のことが……。まぁ、好き嫌いは分かれそうな先生ではあるよな。俺は面白い人だと思うんだけど。
 「話し合いから対抗戦は始まってるってことかぁ」
 トーマは凄いなぁとばかりに、大きく息を吐く。

 ライラは「そう言えば……」と、思い出したように呟いた。
 「私も先輩に聞いたわ。対抗戦の種目って年によっては美意識に特化してたり、智に特化していたりするんだって」
 「花を飾ったり、歴史問題出したりって言うあれね?私も聞いたときビックリしたわ」
 笑うアリスの言葉に、俺は「へぇ」と声を出した。
 対抗戦って言っても、本当に勝負は様々なんだ?面白そう。
 
 「ドルガドは体力重視で、ティリスは手先が器用で美意識が高い。うちは頭の回転いいから謎解き系が得意だな」
 指を一本ずつ立てながらレイが説明し、俺は感心したように息を吐いた。
 「へー。どうせ1年は関係ないだろうし、観戦楽しそうだね」
 
 すると急に皆の視線が俺に集まった。
 ん?な……何?
 「他人事みたいに言うけどな。多分お前選抜組に推薦されるぜ」
 「えっ!!なんでっ!?」
 全学年が対象だろう?何で1年生が推薦されるんだ。
 「当たり前だろ。お前頭の回転よく、発想も奇抜、手先器用で、召喚獣とエナ凄いんだぞ?むしろ何で入らないと思うんだよ」
 呆れたようなレイの言葉に、皆も頷く。
 「それ自然よねぇ」
 「うん」
 至極当然と言うライラとトーマに、カイルはため息を吐いて俺を見る。だがその瞳は俺を通して、どこか遠くを見ている。
 「確かに……何やかんやで選ばれそうです……」
 「な、何でそんな諦めの表情するわけっ?!言われても断るよ?」
 「だってフィルだもの」
 アリスのにっこりと微笑む顔に、思わず脱力する。


 あ、アリス……。


 「断固拒否してやる」
 これ以上目立ってたまるか……。


 
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