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連載

お肉の改良、一歩前進

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 それから数日かけて、魔王領で気軽に手に入るお酒類やジュース類を偏見無しで全部試してみた。酒類だけでなくジュースを試したのは、コーラでスペアリブを煮ると言う手段を知っていたからだ。ちなみに魔王領で気軽に手に入る物に限定したのにも、もちろん理由がある。それは、今後あのお店が店をたたまずに済む未来を作りたかったからである。もし他の国から取り寄せないと作れない材料をメインに使った料理を完成させてしまった場合、それを作るためにかかるコストが跳ね上がってしまう。取り寄せるだけでも特定の国、人族の国と最低でも二つを経由しなければならず、運送費も手間賃もバカにならない金額になってしまう。そうなると一部の人しか口にできない高級品となってしまうので、ピジャグの肉を見直すきっかけとするにはあまりにも弱すぎる。出来る限り多くの人が気軽な金額で口にできなければ……

 そうして色々なお酒とジュースを試した結果、ようやく一品だけだが膨らまず、固くなく口にできる物が出来た。味も試作品という考え方をすればまあまあ、か?


 ピジャグのレッドエキス煮込み

 ピジャグの肉をレッドエキスで煮込んだ一品。ピジャグの肉の欠点をほぼ打ち消した一品ではあるが、物足りない点がいくつかあるのも否めない。

 製作評価 4


 製作評価がまだ四なのだが、大きく一歩前進したと言って良い品ではある。煮込みに使ったレッドエキスというのは、魔王領で販売されている『一番の安物』の赤ワインである。まさか一番の安物が一番マッチするとは予想外だったが、コストを抑えたい自分としては非常にありがたかった。だがこの料理、やはりピジャグ肉の美味しさを完全に引き出しているとはいいがたい出来でもある。ピジャグ肉のうまみがレッドエキスで煮込んでいるうちに逃げ出してしまうらしいことに加えて、レッドエキスで煮込む事でしみこみ過ぎるらしく、ちょっと赤ワインの味が前に強く出すぎたのだ。とはいっても他の試作品だと評価が一とか二ばっかりの不味い物しかでき上らなかったので、このレッドエキスで煮込むと言う方針は変更できない可能性が高い。

(とはいえ、そこの問題さえ解決できれば……このピジャグの肉はもっとおいしく食べる事が出来るようになる。リアルで食べている豚肉並みの柔らかさと噛み切りやすさとほぼ近い感じになって来た。まずは普通に食べられると言う点はクリアできたと言うのは大きい。後はいかにピジャグの肉の味を生かしつつ食えるようにするかなんだが)

 そう考えつつ、魔族の皆さんにとってお酒で食材を煮て食べるなんて方法が受け入れられるかという問題がある。ここは宿屋の主人とピジャグ肉の店主? に食べて貰って感想を貰った方が良いなと考えた。このお酒で煮ると言うやり方が万が一嫌われる方法だとしたら、また一から出直しになってしまうのだがら、余計な手間を増やさないためにもしっかりと確認を取っておこう。

「すみません、いま少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 宿屋の主人に声をかけ、数分だけ時間を貰ってピジャグのレッドエキス煮込みを口にしてもらう。もちろん、事前にお酒を使って煮込んだことは伝えた。さて、どんな感想が返ってくる事か……

「──これは本当にピジャグの肉なのですか? いや、味からあなたが嘘を言っている訳ではないのは分かりますがね、今までのピジャグの肉に関係する常識がここまで見事に壊された事に驚きが隠せません」

 そう言いつつ、試食として出したピジャグ肉を宿屋の主人は完食した。良かった、まずは掴みはそこそこ良かったと見て良い様だ。さて、ここからが肝心だ。

「しかし、驚きました。まさかお酒を煮込み料理の水代わりに扱うとは。お酒と言えば飲むものでしかないと言う考えしか持っていなかった私ですが、外からやって来た皆様は料理にも使われるのですね。確かに最初は驚かれるでしょうが……お酒は常に料理と共に口にされてきたものでもあります。禁止されるような事ではないですね。是非このやり方をこちらにも教えていただきたいぐらいです」

 よかった、特にこれと言った問題は無い様だな。宿屋の主人には「もう少し手を加えてみたい点がありますので、もうしばしお待ちください」と断りを入れてから宿屋の外へ。次は色々店主? の元へ向かおう。長くピジャグ肉を扱って来たと思われるあの人が、この一品にどういった意見をぶつけて来るか。楽しみでもあり、怖くもある。店の前で相変わらず湿っぽい表情を浮かべていた店主に挨拶をし、早速試作品を口にしてもらった。

「凄いな、着眼点が違うと言うのか? この難物をここまで変えるか……ただ、やはり肉の味がかなり薄まってしまっているな。それが実に惜しい」

 そして食べさせてみた所、返ってきた言葉がこれだ。やっぱり味が薄まってしまっている所を指摘されたか。いや、いいんだ。その点は自分も物足りないと言う意見に同意できる。やっぱりお肉を食ったら、たっぷりの肉汁、その肉汁から感じられるいかにもお肉! というあの味を感じたい。しかしこのピジャグのレッドエキス煮込みにはそのいかにも肉を食った! と来るような衝撃がどうにも弱いのだ。それに赤ワインであるレッドエキスの味もちょっと強すぎるのも困る。このレッドエキスのせいで、ピジャグの肉の味が薄まってしまっているのはマイナス点でしかないよなぁ。

「ええ、自分もそこは大きな問題点であると感じています。ですが今回は膨らませずに煮込んで、柔らかく噛み切れるピジャグの肉が出来たと言う点から一度試食をしてもらいたいと考えたのでお邪魔させていただきました」

 が、一番の問題である『硬さ』と『噛み切りにくさ』が改善したのは大きいだろう。後は味が整えば、十分売りに出せる品質になる。

「まさか水を使わずに赤ワインで煮込むとは……やはり様々な経験を積んできた人には発想力も豊かになる。振り返れば、俺は肉の売れ行きが下がる事だけを嘆き、新しい世の中の流れを受け入れた上でどう前進すればいいのかを忘れてしまっていた。世の中は常に動いているのだから、守るべき部分は守り、変えていかなければいけない部分は変えていくべきなのにだ。こうして煮込みに適さないと言われ続けてきたピジャグ肉の煮込み料理を出された事で、やっとそんな基本的な事を思い出した」

 そうだな、世の中は常に動いているし、今を生きている人は常に歴史の最先端を歩いているんだ。だから、古きにとらわれ過ぎてもいけない。逆に新しきばかりを受け入れて古きを否定してもいけない。古き時代が無ければ、今の時代が存在していないのだから。そしてその二つを持って未来を歩くための杖として進むのが、生きている人の責務なのではないだろうか、と自分は考えている。

「自分ももう少しいじってみます。この煮込みピジャグ肉にある問題をどうにかできる方法はきっとあるはず。そして、問題を乗り越えれば今まで誰もが口にした事のない美味しいピジャグ肉を使った料理が作れる。それは楽しい事でしょう?」

 自分の言葉に、店主? さんも力強くうなずく。せっかく触った以上、とことんやらなきゃあ面白くないからね。さて、明日はどこからいじろうかな?




 ──食べ物ネタ、生産ネタは本当に難しいです。自分はたまに書く程度なのでまだ良いですけど、食べ物メインで作品を書いていらっしゃる方には本当に尊敬の念を覚えます。
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