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連載

ピジャグ肉、完成品お披露目(前半)

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 あれから数日間、ピジャグの肉の改良は完全に停滞した。あの手この手でピジャグの肉をいじってみたが、いまいちこれと言った成果が上がってこない。製作評価も四以上にはなってくれないし、味見もしたがどれもイマイチ。とてもじゃないが人からお金を貰って店に出せると言うレベルではない。料理をしているからスキルの方はちまちまとレベルが上がってはいるがこれじゃなあ、と日々思っていたが、突破口は意外な所で見つかった。それはある日の晩御飯……職場の先輩が何かいいことがあったとかで、それなりに高いお寿司屋さんに同僚を数名誘ったのだ。その同僚の中に自分も含まれていたわけなのだが──


「──っかぁ、うめえ!」

 御猪口をくぃっと煽って息を大きく吐き出す先輩。非常に上機嫌で、誘った同僚に「ほれ、どんどん頼め、今日は何十万でも払ってやるから気にすんな!」なんて剛毅な事を言っている。宝くじでもあたったのかね? まあいいけど……とはいってもみんなバカ高い『時価』なんてついているネタは頼まずに、そこそこのネタを頼んでいる。まあ高級な物だけが上手い寿司ネタって訳でもないから。

 それにいくらおごってくれると言ったって、それにゴチになりまーすと乗っかってやみくもに高いネタだけを頼むような事をする奴はここにはいない。

「っと、大将。アナゴを一つ握ってくれ」「あいよ、任された。それにしても旦那はアナゴが好きだねえ」「大将、それは違うぜ。俺はアナゴが好きなんじゃなくて大将が握るアナゴが好きなんだ。ここのアナゴは本当にうめえからよ」

 何て先輩とここの寿司屋の対象の会話が聞こえてきた。そのやり取りに自分も興味を持ち、アナゴを頼んでみた。なるほど、これは美味しい。味はもちろんだが、アナゴの柔らかさがとてもいい。

「いかがですか?」「とても、美味しいです。それに柔らかくて」

 アナゴって滅多に食べないんだけど、確かにこれは美味しいな。先輩が頼む理由が良く解る。

「おっ、大地は分かるか。ここのアナゴは、煮汁が良いんだ。大将、アナゴの煮汁ってのは管理が大変なんだろう?」「ええ、そうですな。ですがそれでもお客様に最高の一品をお出しするためには必要な事ですからね。煮汁の管理は一年通して休みがありませんが、だからこそこの味等が出せるわけです」

 煮汁か……そう言えばアナゴの煮汁って、使っては継ぎ足し、使っては継ぎ足しを何年もかけてやるんじゃなかったっけか? そうする事でその寿司屋ならではのアナゴの煮汁が出来上がっていく──なんてのをどっかの雑誌か何かで見た記憶がちょっぴりよみがえってきたな。

「ま、そんな話は軽く覚えておく程度で良いがな。大将、次はサバを頼む」「任されました」

 と、また先輩は注文を始めたが、自分はアナゴを頼んだ後の台の上を見つめていた。煮汁という方法、もしくは漬け込むと言う方法。ピジャグの肉にも適用できるんじゃないか? と考えていたからだ。

(よし、ここの食事が終わったら早速試してみよう。どんどん挑戦だ)

 方向性を決めた所で、その後は美味しくお寿司を頂く事だけに集中した。こんなお寿司屋さんに入る機会なんてそうそうないのだから。


 そしてその後、煮汁タイプと漬け込みタイプの二種類を試行錯誤を繰り返してベースを完成させ、それからさらに時間を置いた。特に漬け込みタイプの方は宿屋のご主人に協力を仰ぎ、宿屋の調理場の隅っこに場所を借りて陶器製の瓶を置かせていただいた。何回もピジャグの肉を漬け込み、ピジャグの油や美味さのエキスと言う物を念入りに溶け込ませたのだ。ここまで来るのにリアルで二週間が経過しており、宿屋の主人だけではなく従業員の皆さんにまで自分のピジャグ肉の試行錯誤する姿は一種の名物みたいな形で知られるようになってしまった。

 知られるようになって、返ってくる反応は大まかに分けると二つ。つまり、『ピジャグ肉をいくらいじっても意味は無い。ビーランフの肉が比較的手に入りやすくなった今では無駄な努力』と見る派と『もしかしたら、俺達の知らないピジャグ肉の味を引き出してくれるかもしれない』と考える派だ。いや、それだけならまだいい。この二派、最近金まで賭けだしたってのをこっちは知ってるからな? 幸い少額に留めているようだが、なんかイライラする。こっちは賭けの対象になる為に始めたわけじゃないってのに。まあそんな背景もあったが、この漬け込んでから調理すると言う方法で製作評価の上昇も、味見した時の味も確実に向上していた。

 そうして色んな人の注目を浴びてきたピジャグ肉改良の成果が、いよいよ今日ではっきりと自分以外の人達の目の前に出る。そして作る物も決めていた。煮汁タイプは生姜焼き。そして漬け込みタイプは角煮。どちらも厳密に言えばもどきと最後につけなければならないだろうが……早速調理開始。まずは生姜焼きだ。前もって煮汁の中で一定時間煮込んでおいたピジャグの肉を取り出し、皿に移す。煮汁はある程度瓶に戻し、残った煮汁の中に玉ねぎと生姜、ちょっぴりの調味料を煮汁に混ぜ合わせる事でタレして、その中にピジャグ肉を一定時間放置する。今回は漬け込み時間短縮のためにアーツを使用するが。

 後はフライパンで焼くだけだ。ここはリアルの生姜焼きと変わった所は一切ない。このピジャグの肉は『調理方法よりも、調理前の仕込みにより時間をかける必要がある』タイプだと言う事を自分はやっとつかんでいた。恐らく料理関連をメインにやっているプレイヤーであれば、この答えにたどり着くまで遅くても数日で気が付いて即座に実行に移せたんだろうなぁ。しかし、自分はここまで食材を長時間漬け込んだりすると言った手法はほぼやってこなかった。そのため、この答えにたどり着くまでに相当な時間がかかってしまったと言う事になる。経験の差からくる発想力の違いはデカいな……。

 それにしても、やっぱりこの肉を焼く時のじゅわーという音は人を引き寄せる物である様だ。今日は宿屋の主人と、ピジャグ肉を扱っている店主さん(店主さんで間違いなかった)を宿屋内の調理場に呼んで居たのだが、それ以外の従業員の皆さんも入れ替わり立ち代わりでちらちらと様子をうかがっている。仕事をするために常時同じ人が見ていると言う訳ではないが……ようやく、一品目の生姜焼きが出来上がった。

「お待たせしました、これがピジャグ肉の改良を図った成果の一品目となります、ピジャグ肉の生姜焼きです。どうぞお試しください」


 ピジャグ肉の生姜焼き

 ピジャグ肉を特定の煮汁に付け込み、味をしみわたらせつつピジャグ肉の特性繊維を弱め、調理後に食べやすくした一品。元となる煮汁を作るために大量のピジャグ肉をレッドエキスを始めとした多数の調味料を用いて煮出している為、この一品を作る為には多大な時間と手間、何より根気が必要となる。

 製作評価 8

 一定時間耐寒能力付与 一定時間最大体力上昇 一定時間空腹鈍化


 完成したピジャグ肉の生姜焼きから漂う香りに、誰かがごくりとつばを飲んだ。良くできた肉料理に香りってどうしてこうも暴力的なんだろうな。恐る恐ると言った感じで、宿屋の主人と店主さんがピジャグ肉にナイフとフォークを入れる。──箸が無いんだからしょうがないのだが、ちょっとだけずれを感じるなぁ。そんなどうでもいい事を考える自分の目の前で、ついにお二人の口の中にピジャグ肉が運ばれる。そして咀嚼。周囲に居る人は誰も言葉を発せず、シーンと静まり返る。その静寂を破ったのは宿屋の主人だった。

「これは……これは! 味でピジャグの肉である事は分かります、分かりますが! それでも訪ねたい、これは本当にピジャグの肉なのですか!? この柔らかさ、そして肉にしみこんだ味の深さ、そして何より何という柔らかさと噛み切りやすさ! 依然食べさせて頂いた試作品からここまで変わる物なのですか!?」

 宿屋の主人の絶叫に近い問いかけに、自分は静かに「はい、これはピジャグの肉を使った料理です。他の肉は一切使っていません」と返答しておいた。使ったのはいくつかの調味料や香辛料、ピジャグの肉、そしていくつかのお酒だ。レッドエキスだけではなく、複数のお酒をほんの少しずつ入れてより味を殺さずに柔らかさを追求した研究の成果も十分に発揮されたな。今回の素材は本当に難物だったんよ……最適の回答を引き当てるのは本当に嫌になる作業だった。市販されてる各種ソースなんかの偉大さを今回も思い知ったね。

「これは売れますよ! 最高級ならともかく、一般の人が口にしているビーランフの肉なんかじゃ太刀打ちできない。後はパンや龍の国から流れて来る米と一緒に食べればよりおいしく感じる事は間違いないでしょう!」

 ふむ、そう言った組み合わせがすぐ思い浮ぶか。宿屋の主人はそう言った食べ物の味をより生かす組み合わせを考えられる頭の回転の良さがあるようだ。さて、もう一方のピジャグ肉を扱っている店主さんはどうしたんだろう? 随分と静かだけど……と思って視線を向けると、店主さんの頬には光る物が流れ落ちていた。

「──同業者が次々と辞めて行った。どんなに意地を張ってももうどうしようもないとも思っていた。だが現実は違った。ピジャグの肉が悪かったんじゃない。俺が、俺達がピジャグ肉の味を引き出す努力を怠っていただけだったんだ。その事に気がつくのに、長い時間がかかり過ぎた。俺は、努力をしたんじゃない。努力をしているつもりでしかなかったんだ……」

 泣きながら次々とピジャグ肉の生姜焼きを口に運ぶ店主さん。色々と思う所があるのだろうな。しかし、自分が作った料理はもう一つあるんだ……そっちで泣き崩れないといいけどな。


スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv39 技量の指Lv68 ↑2UP 小盾Lv42  蛇剣武術身体能力強化Lv18 ダーク・スラッシャーLv9 義賊頭Lv60 隠蔽・改Lv7 妖精招来Lv22 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv4  偶像の魔王 2.31

控えスキル

木工の経験者Lv14 上級薬剤Lv47  釣り LOST!  料理の経験者Lv41 ↑ 14UP  鍛冶の経験者LV31  人魚泳法Lv10

ExP 24

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主  無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者  魔王領名誉貴族  NEW!

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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