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ピジャグ肉料理、いざ出陣

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 それからピジャグ肉の店主さんの店で生姜焼きと角煮を売り出すまでにリアルで五日が経過した。肉自体の調理には大きな問題が発生しなかったのだが、店主さんの家族からの反対が最初にあったせいでかなり遅れた。店主さんの家族構成は、店主さんとその奥さん。そして二人の兄弟だった。で、ピジャグ肉を使った料理を出すと話を店主さんが奥さんと次男さんに持ちかけた所、奥さんと次男さん(次男さんは大体二十歳後半位だと思われる)が猛反対した。むしろピジャグ肉の取り扱いをやめて、ビーランフの肉を扱う方向に商売の方針を切り替えてほしい。一人で古いピジャグ肉の販売を続けるような意地を張っても意味何か無い、という意見を主に出して反対した。

 初日はそんな感じで店主さんが二対一で反論も上手くできず、自分は部外者に近いのでこれと言った意見も言えず。後は自分の身に纏っている黒い外套もうさん臭さを増幅したらしく、こんな人間が料理人の訳がないと決めつけられてしまい、試食してもらう事すらできなかった。この流れが変わったのは二日目。長男さんが仕事から帰って来てからである。長男さんは帰って来て、中にいた自分を見た直後にこちらに向かって突如頭を深く下げた。その理由はというと。

「これは! ようこそこのような所にいらっしゃいました! 貴方様のお蔭で我々は命を拾い、街の平穏を護る事が出来ました事、改めてお礼を言わせていただきます」

 そう、あの日同行していた魔王軍の兵士の一人だったのである。そして、ピジャグ肉の話についても「父だけではなくこのお方が言うのであれば、試すべきだ。こうしていつもと変わらぬ日々を送れているのは、この方あっての事なのだぞ? これ以上詳しくは言えないが、この型はこの街における恩人の一人。その恩人の話を頭から跳ね除ける事はたとえ親兄弟であっても許さない」とまあこちらを持ち上げる持ち上げる。居心地がかなり悪かったが、この長男さんのお蔭で奥さんと長男さんと次男さんの三人に生姜焼きと角煮の味見をしてもらう事が出来た事には感謝しないといけないだろう。そして試食してもらうと、

「そ、そんな!? これがあのピジャグの肉なの!?」
「流石だ、武勇だけではなく料理にまで長けていらっしゃるとは、やはり素晴らしいお方だ」
「──兄さんがやたら持ち上げるから食べてみたけど……この味とこの柔らかさを味わってしまったら、ビーランフの肉では物足りなくなってしまったよ……」

 とまあ、三名からも高い評価を頂き、このお店でピジャグ肉を用いた料理を出すことについては賛成一致で許可してもらった。そこから肉の仕込みを始めて、ある程度の技術も店主さんに伝授した。自分はあくまで冒険者、ここに永住するわけじゃない。此処を護るのはここに住む店主さん達家族だ。そして技術全部を教えないのは、自分なりの創意工夫を重ねて新しい味や料理を作ってほしいという考えからだ。店主さんもその辺はこちらの考えを察したのか突っ込んだ質問をせず、メインの仕込みが終わった後に小さな瓶で、色々なバランスや入れる物を変えて自分なりの味を研究する様だ。

 そんなこんなで時間が予想以上にかかったが、何とか開店にこぎつけた。ただ、店主さんと長男さんが予想以上に張り切ってしまい、店の前にはなぜかのぼりが複数立ち並び、そこには『ビーランフを超えたピジャグ肉の姿を見よ!』とか『昨日までのピジャグ肉は偽物だ。今日からのピジャグ肉は三味ほど違う』とか『食えばわかる。不味いと感じたならばお代は貰わない。それだけの覚悟と自信がこちらにはある!』なんて文字が舞っている。大丈夫かなぁ、コレ。

 まあ、お店を開けてのぼりが立って、注目は集めてる。ただ、「ピジャグ肉だろ? あれが変わるとは思えんよなぁ」や「ビーランフの肉を食べた方が良いよなぁ、あんな言葉を並べても説得力がねえ」って感じで、やはり魔族の皆さんからしてみれば長く付き合ってきたピジャグの肉に対するイメージというのは定まりすぎてて、大半の人は挑戦する気すら起きない様だ。しかし、どこの世界にも新しい物が好きだったり、十中八九罠だと分かっていても飛び込む人ってのも居る訳でして……

「ずいぶんと景気が良い言葉が躍ってるね大将? しばらく店を開けてなかったから、いよいよ大将も諦めたんじゃないかって噂もたってたのに……ここまで強気の言葉を躍らせるってのは、何があったんだい?」

 と声をかけて来る魔族の方が一名。話しかけ方からして、店主さんの知り合いなんだろうが。

「色々あった。その中には今までの正直常識がぶっ壊されたと言っても良い出来事も含まれる。だからこそ、こうやって店を開き直したんだ。食って貰えればわかる、そして絶対にこう言うだろうな……これは今までのピジャグの肉を使った料理ではない、と」

 店主さんがそう返す。まあ自分の舌で味わってそう思ったからこそ言える言葉なんだろう。自分は基本的に裏方だから、お店の前に顔は出さない。注文が入ったらすぐに出せるようにスタンバイしておかなければならないから……ついでに次男さんもそばに置いている。調理方法を見てもらって、やり方を学んでもらう。開店前にも基本的な動きは見せたがやはり実践での動きも見せないと勉強にならない。

「──そりゃまた、随分と大きく出たもんだね大将。あの煮たら膨らみ焼いたら固く。食べる姿は見苦しいとまで悪評が立ったピジャグの肉の常識をぶっ壊すか……ならその言葉が本当か、試してみようじゃないか」

 なにその、立てば芍薬座れば牡丹。歩く姿は百合の花みたいないい方は。表現する物って言うか方向は真逆だけどさ。まあいい、それは横に置いといて。どんな形であろうとお客様第一号なのは間違いない。どちらの注文を受けても良い様にしておかないと。

「んじゃ店の中に入ってくれ……後は注文を。と言っても肉は二種類でそれにオプションを付けると言った形だがな」

 店主さんの言う通り、基本は生姜焼きと角煮の二種類しかない。そこにパンとかスープとか野菜とかをプラスアルファしていく形で販売する。さすがに肉オンリーでは辛いと言う人もいるからね。

「うーん、生姜焼きと角煮っつーモンがメインか。気にはなるが、体を温める為にも生姜が入ってそうなこっちが良いか。生姜焼きにパンとスープのセットで頼む!」「了解しました!」

 始めて受ける注文は生姜焼きか。肉の準備はもう整っているので、後は焼くだけだ。キャベツの千切りの上に焼いたピジャグの肉を乗せ、パンと野菜のスープを添えて出す。他にお客さんも居ないから、対して待たせる事なくお出しすることが出来た。一応言っておくと、料理を運んだのは次男さんだ。さて、反応はどうだかな?

「こいつが新しいピジャグ肉の料理ってか……けど結局焼いてるじゃねーか。これじゃ硬いわ噛み切れないわの繰り返しじゃないのか?」

「不味い、食いにくいと思えばその場で代金は頂かない事にしている。とにかく一口で良いから食って欲しい、食えばわかる」

 不安げなお客さんと、その不安に対する返答を行う店主さん。お客さんは「無料とはまたデカく出たな」なんて言いながらも、早速生姜焼きに仕立てたピジャグ肉を口に運ぶ。そしてそのまま咀嚼……していたと思ったらいきなりがっつきだした。ものすごい勢いで肉、パン、スープ、キャペツの千切りがお客さんの口の中に消えてゆく。

「すまねえ! 生姜焼きお代りだ!」「了解です」

 おそらくそう言われるだろうと思って、すでに用意はできていた。すぐさま次の生姜焼きをお客さんの所へ運ぶ。

「ありがとよ! 大将、俺の負けだ! 味は確かにピジャグ肉だが、その旨さは三味違う! あんなのぼりを立てて大丈夫かと思ったが、納得いった! うめえ、本当にこいつはうめえぞ! 今までのピジャグ肉じゃねえ!」

 その勢いのまま、このお客さんはお代りを三回もしていった。よし、この調子を維持出来ればいいのだが。
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