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連載

望まぬ客でも利用する

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 それから数名ほど、外ののぼりで興味を抱いたのかぽつぽつとお客さんが入った。そのなかにはプレイヤーも居たが、彼も「こいつはうめえ!」と声を出していたから味の方は受け入れられているな。しかし、やっぱりこういう時にはあまりお呼びしたくない客ってのも来るもので……

「おいおい、アンタはこんな嘘をついてまでピジャグに拘ってんのかよ?」

 そんな声が聞こえてきた。ああ、やっぱりこの手の人種がいるのはどの世界でも変わらないか。

「ピジャグ肉が昨日とは違うって言ってもな、所詮はピジャグ肉だろうがよ? 固い、噛み切りにくすぎる、そして美味くねえ。それでも確かにビーランフが普及するまでは貴重な食える肉の一つだったから我慢して食ってたけどよ、もう今はピジャグ肉何てごみを食わなくても良い時代だろうが。それをまあ、こんなのぼりをおっ立ててまで売るか? 大量の不良在庫の処分をしたいってのが見え見えだぜ?」

「そうそう、今じゃ外からやってきた色んな奴らのお蔭でいろんな肉が食えるようになってる。こんなピジャグ肉に拘ってるアンタの様な馬鹿の考えは、理解に苦しむぜ」

 そんな言葉の後に、ゲラゲラと下品な笑い声が聞こえてきた。まあ、発言者のいう事も分からんでもないけどな──なんて考えながらも包丁を洗った後に拭いていたら、手伝ってくれている店主さんの次男さんの手がプルプルと震えている。ん、ちょっとまずいかな。

「わりい事言わねーから、さっさと店畳んだ方が良いぜー? 借金まみれになっちまうのが見え見えだろうが? こっちは親切心から言ってんだぜ? さすがに借金で夜逃げ何て笑い話にしかなんねえからよう?」

 この声が外から聞こえてきた直後、次男さんが拳を握りしめて厨房から出て行きそうになったので、すかさず左腕を掴んでその行為を阻止する。

「何で止めんだよ!」

 止められた次男さんは殺気交じりでこっちに言葉を投げつけてきたが、自分はゆっくりと首を左右に振る。

「出ていくのは殴り合いになってからでも遅くはない。それに、あんたの親父さんはお前さんよりはるかに長く客商売をやって来てるんだ。だったら、あの手の人間に対する対処もそれなりに学んでるはずだ。むしろここであんたが出て行ったら、変な話に展開する可能性が高い。──それにきっと、あんたの親父さんは良いカモがやって来たなんて内心では考えていると思うぞ? だから今は様子を見るんだ」

 この自分の言葉に、次男さんの腕から力が抜けるのを感じる。それを感じ取った自分はゆっくりと掴んでいた手を放して開放する。

「分かった、とりあえずあと少しは様子を見る。でも、うちの親父はあんまり頼りにならねえからなぁ……即座に出ていける準備をしてるぐらいは良いだろ?」

 まあ、そこが妥協点か。あれもこれもだめだと雁字搦めにしてしまうと予想外の形で爆発する物だ。だからある程度力というか感情の逃げ場を用意しておく方がよい。でも、多分そんな準備をする必要はないと思うんだがな……そろそろ店主さんの反撃タイムだろう。

「言いたい事は分かったが、全部的外れだな。不良在庫の処分でもないし、自信をもってうまいと自分の舌で感じたから出してるんだ。すでに数人のお客さんが食っていったが、それなりに満足してもらえたようだしな。こんな不味ければ無料にすると言うのぼりをでかでかと出しているにもかかわらず、食べて行ったお客さん達には気持ちよく金を払って貰えたからな」

 どれぐらいの人数がつまらないケチを付けに来てるかはちょっとこの場からでは判断しずらいが、その店主さんの声で急に静かになる。

「これ以上うちの目の前でぎゃあぎゃあ騒ぐようなら、とっとと消えて貰えねえかな? 外を歩く皆様の邪魔になる。大声を出した上に他の皆様に邪魔になるような形で道を塞ぐような真似をするようなご迷惑をかけるような連中は客じゃない、チキンはお帰りねがおう」

 おっと、店主さんがお返しとばかりに挑発した? 当然、外が一気に騒がしくなる。

「チキンたあどういう意味だ!?」

 なんて言葉も聞こえてきた。その言葉に、店主さんは静かに……だがはっきりと聞こえる声で返答する。

「新しい物に挑戦する度量が無い奴をチキンと呼んで何が悪い? それだけならまだしも、こうやって大勢の人の前で他者を侮辱する行動も愚かすぎる。その上俺一人に対してそちらは数名。一人じゃ文句を言うのも挑発するのも怖くて怖くてしょうがねえんだろ? そんなお前らはやっぱりチキンだろうが。文句を言うにしたって、一人で言ってくるならまだ感心もできるんだがな? まぁそんな度胸がある様な奴なら、こんなつまらねえ真似はしねえだろ」

 この店主さんの言葉に、言葉に詰まったようなうめき声が聞こえて来る。容赦なくバッサリだねえ……その通りではあるのだが。要は数人がかりで、大衆の力も借りなきゃ行動に移せない連中って所か。ピジャグ肉の不味さは魔族の皆さんにとっては常識。だからこんな事を遊び半分でも騒ぎ立てれば愉快な事になるだろう何て浅い考えで、連中はこの場にやってきたのかも知れないが。そしてさらに店主さんの反撃は続く。

「さて皆さん、こいつらの言っている事が本当なのかどうかを自分の口を使って試したくなっては来ませんか? こののぼりにある通り、美味しくないと感じたり今までのピジャグ肉と大差ないと感じたならば、お代はお支払いいただく必要はございません! どうでしょう? ピジャグ肉は本当にただの不味い肉なのかを、いまだに何の進歩も無いのかを、ぜひ皆様の舌で試してみませんか?」

 ああ、イチャモンをつけてきた連中を逆に使って、大きく宣伝する切っ掛けにしてしまった。良い手だな、人の目を集めるのはギャースカわめいてきた連中が十分にやってくれた。ならばその集まった人の目を、よりこちらに有利になるように誘導してやれば──

「へえ、そこまで言うのなら試してみようじゃないか」「そうね、ピジャグ肉が本当においしくなったと言うのなら嬉しい話よ。個人的には、私はビーランフのお肉ってあまり好きになれないのよね」「そうだな、美味いか不味いかは食ってみなきゃわからねえよな」「時間もあるし……一つ挑戦するか」

 と、お客さんを呼び込める。その様子を見ていた次男さんは先程の勢いはどこへやら……目を回していた。

「え、マジか? 親父がかっこいい……? あんな親父の背中が、大きく見える? これは錯覚なのか?」

 こんな言葉を漏らすって事は、家の中に居る父親の一部分しか見てこなかったんだろう。だからこそ、困った連中をいなして客を呼び込むと言う気転を効かせた見た事のない働く姿の父親に混乱したんだろう。とはいえ、そのまま惚けたままという訳にもいかない。美味い客寄せでお客さんがわんさか来るのだから、今度はこちらが動かないといけない。

「ほら、しっかりしてくれ。注文を取ってきてくれないとこちらが困る。それとも、良い姿を見せた父親の前でお前さんが無様な姿を見せるのかい?」

 背中を軽く叩きながらそう声をかけると、あたふたしながらも注文を取りに行ってくれた。後はこちらが受けた注文をこなすだけ。みるみる席が埋まっていくから注文を取るだけでも大変だろうが、そこは頑張ってもらうしかない。調理するこちらも忙しくなるから忙しいのはお互い様だ。ちなみに、イチャモンをつけてきたと思われる連中は退散した様子だ。その姿を見ていたお客さん達が、「言い返されてろくに反論できずに逃げていく姿は、かっこ悪すぎるよな」「ま、お蔭でこんなうまいピジャグを食えたんだからある意味感謝はするけどよ」と言っていたから間違いはないだろう。

 そうしてこの日、ログアウトする直前までひたすら厨房で格闘することになった。生姜焼きだけではなく角煮の注文もそれなりに出て、フライパンや鍋を全力で振るわないと注文に対応できない状態に。これは何としても、次男さんに調理を覚えて貰わないと厳しいな。それに注文を取りに行く人も増やさないと……店主さんにこの点は相談しないと。

スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv39 技量の指Lv68 ↑2UP 小盾Lv42  蛇剣武術身体能力強化Lv18 ダーク・スラッシャーLv9 義賊頭Lv60 隠蔽・改Lv7 妖精招来Lv22 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv4  偶像の魔王 2.31

控えスキル

木工の経験者Lv14 上級薬剤Lv47  釣り LOST!  料理の経験者Lv42 ↑ 1UP  鍛冶の経験者LV31  人魚泳法Lv10

ExP 24

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主  無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者  魔王領名誉貴族  NEW!

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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