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連載

二週間の間……

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 それからリアルで二週間が経過した。この二週間中に、戦闘は一回も行っていない。その理由だが、自分が居る=ピジャグ肉の高級料理である角煮が食える期間であるとこの街に住む皆さんが認識してしまったからである。ちなみに、角煮という料理名はこちらの世界には浸透しなかった。魔族の皆さんは角煮を『とろけるピジャグ肉』と呼ぶ。略して『とろビグ』。なので注文の時にはとろビグ一つ頼む、といった言い方をされる。

 角煮……今後はこちらの世界の呼び方に合わせてとろビグと呼ぶか……は、作り方自体は店主さんや次男さんにも教えているのだが、両者ともに味がまだ製作評価で言うと六前後なのでお店には出せない。こういった飲食関連についた事のある方なら特に分かるかもしれないが、味が落ちればお客さんはあっさりと見限って店から離れてゆく。お金を出すのだから、その期待に応える料理を出してほしいと言うお客さんの要求にこたえきれずに潰れて行ったお店なんて、リアルでも数えきれないほどある。ましてや生姜焼きよりもとろビグは値段が一・五倍ほど高く設定されている。その値段に見合うだけの味を要求されるのは、当然の事だろう。だからせめて七、欲を言えば八レベルの品質が安定して出せないとここを任せて旅立つことは出来ない。

 そんな訳で、自分がお店に入っているとき以外は生姜焼き系統の料理しか出せないので、とろビグを食べたい人は自分が厨房内に居ると分かると詰めかけて来るのだ。お蔭でダンジョンどころかフィールドの狩りすらいく余裕がない。店の前に出るのぼりの中にも、今日は黒衣の料理人が入ってます何て宣伝が混じってしまった。黒衣の料理人何て少々どころではないアレな呼び方も、魔族の皆さんから言われてしまって定着してしまったので覆せない。しかし、この外套は脱ぐ訳にはいかないからなぁ。

「とろビグの注文入りました!」「こちらもとろビグの注文です!」

 そしてお店は戦場と化している。次男さんと店主さんの奥さんが注文や出来上がった料理の配膳を担当し、ひたすら自分が料理を上げていく。汗は流れるし、息も荒くなる。アクアはさすがに厨房入りさせられないので、お店の別室でのんびり昼寝してもらっている。ルエットも手伝いには使えない。幸い今までに手に入れてきた装備のお蔭で、随分と疲労の蓄積する速度は軽減されているのだけれど。それらが無かったらもう投げ出していたかもしれない……リアルの料理人の皆さんはこんなことを毎日やってるんだから頭が下がる。

「はい、とろビグ豪華セット一つととろビグ定食上がったよ!」

 一つ上げれば注文が二つ入ると言う感じで、とろビグがものすごい勢いで消費されていく。不人気肉だったビジャグ肉がここまでもてはやされる様になるとは、他のビジャグ肉を取り扱っていたお店の人達は全く言予想していなかったとの事で、店じまいした後にこちらにも何かしらの逆転する方法が無いかと店にまで相談にやってきた事もある。さすがにこのたれの情報などは教えられなかったが、ピジャグ肉を他のお店から買い付けると言う形である程度の手助けをする事になっている。まあ実際、他からお肉を買わないと消費に追いつかないと言う一面もあったのだが。

「今度は生姜焼きです!」「こっちはとろビグです!」

 時々混ざる生姜焼きの注文が油断ならない。ごっちゃにならないように注意しないといけないと言うのは、この戦場ではかなり怖ろしい物に化ける。泣き言は言えない、注文を取り、出来上がった料理をお客さんの所にもっていっている次男さんと奥さんも汗を浮かべて働いているのだから。忙しい時間帯の時の店主さんはレジとトラブル解消に動く。たまに帰ってくる長男さんは臨時の店員。そして長男さんが帰ってきて余裕が少しある時に、次男さんの調理指南を現場で教えている。それでもここを旅立てるまでにはもうしばらくの時間が必要となりそう。

「あがったよ、お客さんの所にお願い!」「はいよ!」

 今はとにかく料理に没頭するしかない。調理器具は常時フル回転だ。リアルの仕事よりもある意味ではきっついかも知れない……この世界には遊びに来ているはずなのに、自分は何をやっているんだろう……なんて、今更だな。

「あ、このお店だと思う。アース君が言ってたのは」「うお、すごい混んでるな」「これは期待できますね」

 む、ブルーカラーの面子がやって来たか。実は先日またダンジョンに一緒に行かないかと誘われたのだが、このお店の手伝いがあるから当分は無理だと返した。そうしたら食べに行きたいと言われたのでここを教えたのだが、今日来たのか。何を頼むのやら。

「へえ、生姜焼きと角煮がメインで、後はそれにオプションでいろんなものをつける形なのか」「こっちなら何の気兼ねも無くお肉を口にできるからいいよねー。何を頼もうかな」

 そんなやり取りが僅かに耳に入る中、次々と自分は注文をこなす。えーっと次は、とろビグの定食か。

「おい、兄ちゃん達。今日ここに来たのなら絶対とろビグを頼むべきだぜ。今日は黒衣の料理人が厨房に入ってるからな」「そうそう、数日に一回しか入らないあの料理人が居る時じゃないと口にできない凄い料理よ? まさかあんな硬いピジャグ肉があんなトロトロになるなんて思わなかったわ」「お忍びで食べに来たこの街の領主さまも絶賛してたらしいからな。絶賛したおかげでお忍びがばれたらしいけど」

 ああ、この二週間の内にはそんな事もあったな。あれは一週間が過ぎたあたりだったか。ちょっと身なりの良さそうな三人組がお店に入ってきて、黒衣の料理人が今日はいるかどうかを聞いてきたんだった。で、店主さんが今日はいますよと答えたらならばこのとろビグを頼むと注文を出してきた。声がよく通る渋い声だったので記憶に残っている。で、とろビグを出した所、最初の一口は落ち着いた様子であったが、その後はかき込むようにお召し上がりになられた。で、その後に「実に見事、あのビジャグをここまで美味な料理に仕上げた事、驚嘆に値する!」と大きな声で言われちゃったんだよねえ。その声で領主さまだってばれちゃったらしくて……ちなみに、領主さまと一緒に来たお二人もものすごい勢いでお召し上がりになられていた。おそらく領主さまの子供だったんだろうけど。

 そしてこの一件の後に、のぼりに黒衣の料理人が厨房にいるかどうかをお知らせする専用の物が追加された。自分がここを立ち去った後、これをどうしようかと悩みの種の一つとなってしまっている。

「へえ、じゃあそのお勧めに従っておくか。すみませーん、注文お願いします!」

 そんなツヴァイの声が聞こえる。ツヴァイ達もとろビグをご注文か。さて何人分だ? 声は聞こえるが人数は把握できてない。

「すみません、注文入りました。とろビグの定食を八人前です!」

 八人か、そうすると大体いつものメンバーか。とっとと仕上げてしまおう。でもその前に。

「はい、とろピグ三人前上がったよ、配膳宜しく!」

 注文が三件残っている。そっちが先だ。とにかく今は一つ一つの注文を確実に仕上げる事に専念しよう──


 ツヴァイ達も食事を終えて立ち去ってからしばらく後。ついにこの時が来てしまった。

「今のお客さんの注文でとろピグの注文をストップかけて! 在庫がもうない!」

 自分の声に次男さんが頷き、すぐさま「とろピグ完売です、先程の注文を受けた方で終了します!」と店の中に大きな声で伝えた後に、店の外で並んでいる人達にも告げに行く。外から「出遅れたかっ!」「そ、そんな……」などの声がかすかに聞こえる。申し訳ないとは思うが、仕込める量に限りがある以上仕方がないのだ。意地悪をしている訳ではないのだけれど、こればっかりは早い者勝ちになってしまう。次男さんが仕込んでいる物がもう少し形になってくれれば、もっと量を提供できるのだが……それに、この漬け込みは《料理促進》で全ての漬け込み時間を終わらせようとすると上手くいかない事も判明している。ある程度の短縮ならいいが、せめて半分はきちんと時間をかけてじっくりと漬けこまないとゴミにしかならないのだ。

「申し訳ない話ですが、不出来な物を出してお金を頂くわけにはいかないので……ご理解を」

 店主さんの声も聞こえる。そう、お金を頂く以上、変なものを出す訳にはいかない。これだけは譲れないし、絶対に譲ってはいけない所だ。そこを譲ってしまったら、その瞬間自分は料理人からただのクズに成り下がる。世界がどうとか、仮想現実がどうとかではない。これは心の問題だ。心のありようは必ず行動に現れる。ならば心が腐れば? その行きつく先は碌なものではないだろう。そこに仮想だのリアルだとの論争は無意味でしかない。

 その後は生姜焼きの方も売り切れ、無事に店を閉める事が出来た。ツヴァイ達からはメールで美味かったとのメッセージが届いていた。しかし、あとどれぐらいここから動けないんだろう? とにかく今は次男さんの料理の腕があと少し伸びてくれることを待つしかないな。


スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv39 技量の指Lv68 ↑2UP 小盾Lv42  蛇剣武術身体能力強化Lv18 ダーク・スラッシャーLv9 義賊頭Lv60 隠蔽・改Lv7 妖精招来Lv22 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv4  偶像の魔王 2.31

控えスキル

木工の経験者Lv14 上級薬剤Lv47  釣り LOST!  料理の経験者Lv47 ↑ 5UP  鍛冶の経験者LV31  人魚泳法Lv10

ExP 24

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主  無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者  魔王領名誉貴族  NEW!

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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