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連載

賊達の顛末と、お店の今後

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 そして翌日。相変わらず仕事が早いリーダーからの報告書を読んでいたのだが……

「ああ、うん。何というか、ただの馬鹿だったんだな」「へい、あっしも調べている最中にただの馬鹿としか言いようがねえなこいつはと思っていやした」

 先日の義賊と名乗った強盗四名に、その前に現れた難癖をつけてきた連中は、ある人物の依頼を受けて行動を起こしていた。そいつはつい最近ピジャグの肉の扱いを止めて、ビーランフの肉を取り扱う店に鞍替えした精肉店の店主だった。なんでも、ビーランフの肉に乗り換えてから(こっちの世界で)数週間後にピジャグ肉を大々的に売り出す店が現れた。もちろんこれは店主さんの店の事だが。最初は最後の悪あがきだと思っていたが、日が経つにつれて徐々に客は増えていく。

 その光景が面白くなくて、暇そうにしていた数人に小銭を渡して難癖を付けるように要請した。そしてそれは行われたわけだが……逆に店主さんの呼び込みを行うチャンスを与えただけになった。その日からさらにピジャグ肉に需要は高まり、青息吐息だった元・同業者が今は生き生きと仕事をしている。それを妬んだ犯人は、もっと大きな事を起こして、営業その物を止めてしまえばいいと短絡的に考えた。そうしてあの義賊を名乗る強盗四人を金を払ってこちらに差し向けた……というのが顛末か。恐らくピジャグ肉に再び目が向けられるようになった波に乗れなかった事も、蛮行に及ぶ原因の一つになったのかも知れんが……それを考慮しても情状酌量の余地はないだろう。

「で、この阿呆はすでに領主様が率いている治安目的の部隊に拘束されて今は牢の中、か」「へい、例の強盗どもがあっさりと口を割りやしたからね。所詮は金でだけで一時的につながっていただけの小者同士、依頼を振った奴をわざわざ隠したり守ったりするなんて考えはハナっからありやせん。拷問など掛けられる前に全てを話したそうで」

 また何ともあっけない終わり方だな。ま、それならそれでいい。面倒事に発展しないのが一番だ。

「全ての始末がついているならそれでいい。俺達の様な義賊ってのは表じゃどうしようもねえ悪党にだけ動くもんだからな……こうやって表の者達できちんと始末をつけるのが本来の形であり、一番好ましい事だ。その好ましい形で終わったのだから、今回の一件に関しては何の問題もねえな」

 義賊があれこれ常時暗躍しないといけない、なんてのは勘弁願う。義とはついてはいるが所詮は賊の一部でしかない。そんな賊が働き詰めで仕事をしないと悪事を働いた者に罰が下されないなんて事になってしまう方が異常事態なのだ。そんなところでは、一般住民が安心して暮らしていけないだろう。

「へい、あっしも頭と同じ意見で。あっしらの様なはみ出しモンは、出来るだけ活躍しねえほうがいいってもんです。それだけお天道様の御威光がしっかりしているって事になりまさあ」

 ああ、それが一番良い事だからな。そうすりゃ、こっちの賊の技術はあくまでダンジョン攻略の為だけに使える。それが一番健全な話だ。──逆に言うと、健全じゃない事に技術を使えるようになっているワンモアが少々どころではなくおかしいのだけれど。海外のゲームでも、鍵開け技術などがあれば一般の人の家なんかに上がり込んで、お金やらアイテムを頂戴できる犯罪プレイなんてのもあったが。日本? 日本はほら、勇気ある人が無断で押し入ってタンスを調べたり、ツボを叩き割ったり、ブロックの中に隠されてる貴重品を持ちだしたり、箱を開けて明らかに貴重品だと分かるものを持ち出してもなーんにも言われないようになってるからさ……

「なんにせよ、今回の顛末は理解した。良くやってくれた」

 自分の言葉に無言で一礼した後に、義賊リーダーは姿を消した。面倒な事になるかと少々覚悟していたのだが、今回はそうはならずに済んでくれてよかった。正直料理の方が忙しいからな、そこに義賊仕事まで追加で入ったら厳しいなとは思っていたのだ。その可能性が完全に消えてくれたのでほっとしている。さて、それではさっさとお店の方に出ないとな。

「店主さん、今回は災難だったねえ」「本当だぜ、せっかくこんなうまいピジャグ肉を出してくれる店を潰そうなんて、ふざけた野郎だぜ」

 お店が普段通りにを開かれ、やってきたお客さんの話は殆どが先日の強盗に関する話だった。領主様が今回の一件の犯人をすでに抑えたと言うのはすでに広まっていたようで、店主さんや次男さんに投げかけられる話の内容もほとんどそれ一色だった。

「こちらこそ、お客様を危険にさらしてしまって申し訳ありませんでした」

 店主さんはそう返しながら頭を下げていた。まあこれはしょうがないだろう……何か大きな問題があれば、そこのトップが頭を下げるのはどこの世界でも大体同じだ。ある意味トップとはそう言う時の為に居る。そう言った重い責任を抱えるからこそ、給金も高いのだ。このお店の給金はどうなっているか知らないけどね……ちなみに、蛇足ながらこのお店で働いている自分の給料は日給と言う形で貰っている。

「しょうがねえよ、あんなアホがやって来るのを予想しろとか無理だし」「そういや、ビーランフの肉を取り扱っているお店が恨み言を言ってたよ、『あんなごろつきを使って浅はかな真似をしてくれた。お蔭でこちらにも悪影響のとばっちりが来てる』とか、『ビジャグ肉の新しい境地を開くには苦労が多々あったはず。それを妬んであんなことをするのは魔族の面汚しだ』とかね。どんな刑が執行されるのかは知らないけど、アイツはもう牢屋から出て来ても居場所は無いわね」

 そんなお客さんの言葉も聞こえて来る。ああ、やっぱりと言うかなんというか、他のビーランフの肉を取り扱ってるお店にもある程度の影響は出てしまうか。そう言った事も、全く考えなかったんだろうな。本当に短絡的な愚か者の暴走と表現するしかないな。

「それにしても、黒衣の料理人さんってあんな芸当もできる人だったんだね。なんで黒衣を常時身につけているのかが分からないけど」「素顔が見たいわね、やっぱりこう、かっこいいんじゃないかしら?」「気になるわよねー」

 ──ごめんなさい、自分の顔はモブ顔です。別段格好良くありません、魔族の皆さんの方が美男、美女でございます。ご期待には沿えそうにありません。それにこの黒衣……マントは魔王様からの贈り物故、状に身につけておかないと。もちろん性能もぶっ壊れているのでそちらの意味でも手放せない。ワンモアがゲームじゃなくて本当の異世界であったなら、このマントはまさに勇者様が身につけるレベルの物だよね。

 今日はとろビグだけではなく、生姜焼きの注文もそこそこ入った。とろビグばっかりだとあっという間に在庫が付きつからこちらとしてはありがたい。それでも残念なことに全てのお客様に料理を提供することは出来なかった。とろビグはもちろん、生姜焼きの方も奇麗に完売してしまい、並んでいたお客様に店主さんが今日も頭を下げる形になってしまった。何とか仕込める量を増やしたい所だが……やはり次男さんの仕込んだ物を出していく形にするしかないか。味が落ちる分安価にする形で量を補う……それでも評価七に値する味だから、自分の作ったとろビグを口にしてなきゃ美味しいと感じられるとは思う。その事を、営業が終わった後の店の中で話し合う。

「──やはりそうするしかないか。一日経つごとに、とろビグや生姜焼きを求めて店に並ぶ行列の長さは伸びる一方だ。実は貴方が居ない時に領主様からも手紙でもう少し販売できる量を増やせないか? と頼みも受けている。それらを少しでも解消するために、こいつを実戦投入するしかないかとは思っていた。正直に言えば、もう少しあなたに叩いて伸ばしてほしかったが……ここからは実戦で叩き上げるしかないのだろう」

 店主さんの言葉で、翌日からは次男さんも調理を専門にする事に決定する。足りなくなった手は、ピジャグ肉の同業者の中で、暇を持て余している面子の中から数人引っ張って来る事にするらしい。売れるようになったとはいえ、全盛期から比べれば遠く及ばない状況下なので、そう言う人が多少いるらしい。なので手を借りるのは難しくないそうだ。

「お前の作るとろビグは、『黒衣の料理人の弟子作』とつけるぞ。私でもわかるぐらい明確に味の差があるのだから、これは仕方がない。その差を無くしたいのであれば、お前が修行を重ねるほかない、というのは分かるな?」

 店主さんの言葉に、次男さんが頷く。これによってある程度の状況改善がされることになったのだが──やはり、お客様全員の口に勝利を提供できない日はもうしばらく続くことになる。
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