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第4章

理解・意気投合

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「どんな理由があろうとも、協力なんかしたら不正行為とみなされて即行で失格になるのわかっている?俺が黙っていれば問題ないかもしれないが、俺だって真剣勝負を放棄するほど能天気じゃない。今後の仕事に関わってくるからな」

ドルト街道の端っこで、不貞腐れる女性に説教する大男。しかも正座。
街道を行く人々は多くは無いがそれでも行き来はある。そんな往来で素っ頓狂な光景だとは思うが、けじめはけじめだ。

彼女の名前はエリルー。俺の予想通り、ワイムス君の知人。彼の頼みで対抗馬である俺の妨害を試みたらしい。今現在無駄な時間を消費しているわけだから、その目論見は成功していると言えよう。
ちなみに色仕掛けだったらしい。あれが色仕掛けなのか。なるほどな。

「それに、君だって罪に問われるかもしれないんだからな」
「えっ?!なんで!」
「これはギルド公認だし、領主であるルセウヴァッハ伯爵の依頼でもある。てことはだぞ?その公認された勝負ごとに水を差すような真似をしたら非難轟々どころじゃない。ギルドマスターなんかは目くじら立てて怒るんじゃないか?」

そもそもギルド職員一同、曲がったことや不正を憎むまっとうな人が多い。冒険者がマナー知らずの無法者であるから、ギルド職員は冒険者の監視も兼任している。特にベルカイムのギルドエウロパ職員は不正を嫌う。領主が不正を嫌悪しているからだ。
広い世界、なかには不正が蔓延した腐ったギルドも存在するらしいが、そんなギルドに依頼をする人は少ない。依頼料を水増しされるようなところに誰が仕事を頼むんだ。
真面目なエウロパ公認だぞ?不正行為をしたらどうなるかくらい想像できるだろうが。

「あの野郎…そんなこと一言も言わなかったじゃないか!」
「予想するに詳しい内容は聞かされないまま、俺の特徴だけ言われてとにかく足止めしておけって言われたんだろう」
「なんでわかるんだ!アンタすげぇな!」

いや簡単に想像できるけども。
きっとワイムスはそこまで考えていないのだ。単純に俺の妨害すれば自分の勝率が上がるっていう。正々堂々って言葉は無いのか?無いんだろうな…。

「ともかく、これ以上俺の妨害をしないでくれ」
「でも…アタシ、あいつに借りがあるんだよ」

時間が惜しいがエリルーの話を聞いた。
彼女が困っていた時に助けてくれたのがワイムス。本当に有難かったから、いつか恩返しをと考えていたらしい。その結果がコレってなんだかなーという気がするが、彼女なりの誠意だったのだろう。

「借りなら別の形で返すべきだ」
「例えばどういうので?」
「うーん、ワイムス君が本当に困ったときに助けてあげるとか」
「今だって困っているんじゃないのか?」
「でも俺の邪魔をしたら彼も咎められる」

悪いことをしているのだという意識がないのは、そういう教育を受けていないからだ。
日本だと9年間の義務教育で善悪や社会性の基本を学ぶことが出来る。人のものは盗んではいけません、騙してはいけません、嘘をついてはいけません。そういう基本的なやってはいけないことが、この世界では損をするという考えにつながる。

そうしなければ生きていけないものもたくさんいるのだろう。それがこの世界での現実。お綺麗なことばかり言うつもりはないが、かといって染まるのも嫌だ。

俺は人を騙したりするのは苦手なんだよ。貶めたりしたことも無い。
損得以前に嫌われたらどうしよう、って考えてしまう臆病者なんだ。

「受付主任のグリットさんが言っていたんだ。ワイムス君は問題行動を起こしたらギルドから除名処分も有り得るって」
「そんな!アイツ、すっげぇ頑張ってんのに!チェルシーさんが欲しがっていたネブラリの花だってダンゼライまで行って探して」
「チェルシーさん?グリットさんの奥さんの?」
「あっ」

慌てて口を塞いだがもう遅い。
何故にここでチェルシーさんの名前が出てくるのかとエリルーをじと見。彼女は目を泳がせながらも俺の視線に耐え切れなかったのか、観念してぽつぽつと話してくれた。

ワイムス君とエリルーは幼馴染であり、共に孤児。幼い頃に両親に先立たれ、ベルカイムの養護施設で育ったそうだ。その施設で働いていたのがチェルシーさん。優しくて世話焼きの彼女は子供たちから慕われていたらしく、母親のような存在だったらしい。
近年腰を悪くして仕事を辞め養生をしていると聞き、なんだよ言ってくれたらどうにかして治せないか考えたのにと思う。腰が痛いのに俺に大量の焼き菓子を作ってくれるなんて、優しいというか、義理堅いというか。

ともかくこれでグリットとワイムス君の関係がわかった。
グリットが彼に必要以上に目をかける理由は、彼が問題ある冒険者ってだけではないのだろう。血はつながらないが、我が子のような感覚なのかもしれない。彼より問題のある冒険者なんて山ほどいるしな。

「……チェルシーさんが欲しがっていたネブラリの花って」
「そうだよ。アンタがえらく綺麗な状態の花をあげちまったって、アイツ怒っていた」
「怒るっていうかそれって拗ねているんじゃ」
「それは言わないでやってくれ!二十も半ばになるってのに、アイツほんといつまでたってもガキなんだよ!」

まさかワイムス君が俺に絡んできた大本の理由って、それ?
母親のような存在であるチェルシーさんを、俺が喜ばせてしまったから?

知らんがな!!

「どうしようエリルーさん。アイツのことぶちたい」
「……殺さない程度にしてくれ。アタシも色々と考えてわかった。とんでもなくくだらないことに巻き込まれているんだって」

冷静になったであろうエリルーは中空を眺めて力なく笑った。
いくら借りがあるからとはいえ、些細な嫉妬に巻き込まれて利用されるのは迷惑極まりない。おまけに罪に問われると知り、そこまで尽くすことはないのだと気づいたのだろう。
エリルーが話のわかる人で良かった。

「ワイムス君が俺に対して噛み付く理由がわかった。だが勝負は勝負だ」
「うん。今更だけどアンタの邪魔をしてごめんよ。アンタが負けたら、アタシがギルドに証言するから」
「いや、それは大丈夫」

負ける気がしないから。

へろへろ状態だったエリルーの馬に回復(ヒール)をかけ、ベルカイムに戻るよう告げた。彼女は何度も深く頭を下げ、謝罪を繰り返し、トコルワナ山を眺めながら『ワイムスを頼む』と言った。
エリルーが馬に乗って去るのを見送り、先を急いだ。時間にして30分も経過していないだろうが、無駄な時間を食ってしまった。

ワイムスは何処まで行っているのだろうか。


***( ・∀・)ノ***


その頃ベルカイムでは。


「ピュィ…ピュィ…」
「いつまでも嘆くのはお止めなさい。お前の魔力はわたくしが補っているのですから、眠ることもないでしょう」
「ピュイ!ピュピュイ…」
「加護ありし者に何の不安があるのです。まあ、走るのはわたくしのほうが早いでしょうけどねひひん」
「ピュイー!」
「真実を述べたまででしょう?所詮人の子、馬であるわたくしの足に勝てるものなどありません」
「ピュ!ピュイイイィ!」
「ぶるるっ、幼き身で妙な意地を!良いでしょう良いでしょう、わたくしの本気を見せてあげます!」

屋台村のイートインスペースで口論する美女とドラゴン。
その席で顔を顰めるリザードマン。
大柄の男の姿が見えないが、これはいつもの光景。新鋭のチーム、蒼黒の団。
栄誉の竜王の二つ名で有名なAランク冒険者、クレイストンは神様と神様候補のくだらない喧嘩に辟易としていた。ちょっとしたことでつっかかるのだから、クレイストンにとってはいい迷惑だった。

「ホーヴヴァルプニル神よ、どうか落ち着いてくれぬか。ビーも。あまり興奮するとタケルを心配させるだろう」
「ピッ」

げんなりとした顔で一人と一匹を落ち着かせ、クレイストンは大判焼きを差し出した。
何故か水と油のように仲違いをする一人と一匹を仲介するのは、というか話を流して場を取り持つのはタケルの仕事であった。あの男は常に眠たそうな顔で他所事を考えているようで、場の空気というものをよく読む。そうして口が達者なものだから、くだらない諍い事は瞬く間に終わってしまうのだ。

「わたくしとしたことが。少し大人げなかったようです」
「貴殿の足が何よりも速いのは周知の事実。証明などなさらずとも良いではないか」
「あら。まあ?お前の言う通りですから?うふっ、わたくしが怒ることもないでしょう」
「左様。ビーもそう急くな。お前より素早く大空を舞えるものなどおるまい」
「ピュイ!」

アイツらが揉めたらそれぞれの良いところを褒めてやればいいと言っていたが、見事に静かになった。しかし、平穏がいつまで持つかはわからない。

「なあ栄誉の旦那よ、タケルは勝てると思うかい?」

大判焼きをまとめて4つ咀嚼していると屋台村代表のウェガが話しかけてきた。
元冒険者でもあるウェガは恰幅がよく、それでいて料理の腕がよい。タケルが発案する新商品の相談に乗っては大々的に売り出し、庶民を喜ばせている。
向かいの席に座ったウェガはエプル茶を差し出した。

「うむ、すまんな。俺としてはあやつの負ける姿など想像することが出来ぬ」
「だよなぁ。俺もよ、疑っているわけじゃねぇんだよ。しかしな、対戦相手のワイムスって野郎は…なんてぇか狡猾でよ」

伊達にBランクまで登り上げた冒険者というわけではない。リンド・ワイムスという男は恐ろしく悪運が強いのだ。そして何より足が速く、勘が鋭い。
ワイムスと臨時に組んだ者たちは、口は悪いし性格も悪いが、採取家としての腕は認めざるを得ないと。しかし金にうるさいため誰からもチームに誘われないのだとか。

「採取家としての腕はタケルのほうがいいのかもしれねぇが、あの野郎はなんてぇか…お人好しじゃねぇか。もっと小狡く動きゃいいのによ。だからよぉ、なんか不安なんだよなぁ」

そもそも屋台村で評判になっている大判焼きもじゃがバタ醤油もスイートポテトも、全てタケルの発案なのだ。発案したのだから報酬をよこせと強請っても良いものを、面倒くさいの一言で済ませてしまう。食べられればそれで良いのだと。
その人の良さがベルカイムの人々に受け入れられているのだが、常に眠たそうでもっさりとしている姿にはどうも不安にさせられる。人の良さそうなところに付け込まれて騙されるんじゃないだろうか、と。

「……」

それはない。
決してない。

飄々として見えて実は誰よりも物事を考え、自分の面倒にならないよう立ち回るのがあの男だ。何度腹黒いと思ったことか。
クレイストンは思うのだ。タケルのいた世界とやらは、相当殺伐とした恐ろしい世界に違いないのだと。あのような性格でなければ生き抜くことが出来ぬ為、年齢のわりに何か達観しているような貫禄を見せるときがある。

「ふふ。何をたわけたことを」

大判焼きにかぶりつく美しい女性がふわりと微笑んだ。

「余計な心配をする必要はありません。加護を受けし者が人の子ごときに遅れを取るなど有り得ないことです」
「ピュゥーイ」
「狡猾というのはあやつのことを言うのだ。面倒だの何だの言うてはおるが、己の損になるような事態にはせぬであろう」
「そんなことよりもじゃがばたそうゆーをお持ちなさい」
「ピュイピュイ」

これは信頼なのか、それとも絶対的な勝利への確信なのか。
ウェガは呑気に構えているチーム蒼黒の団を眺め、こちらが心配するだけ無駄だなと苦く笑った。
あの男が落ち込む姿が想像できない。悔しがって涙を流す姿を想像できない。
むしろ膝をついて涙を流す姿を見てやりたいとさえ思ってしまうほど。

きっと大丈夫なのだ。
勝っても負けてもあの男の日常は何ら変わらないだろう。負けたとしても笑い飛ばしてしまいそうだ。

しかし、やはり負ける姿は見たくない。
ウェガは晴れ晴れとした大空を見上げ、眠そうな顔をしながら採取をしているだろう男にエールを送った。


負けるんじゃねぇぞ、と。



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