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第4章

遭遇・義勇任侠

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夕暮れ間近の霊峰トコルワナ。
天を突き刺すように聳え立つ雄大な姿は、物語の挿絵に描かれているような不思議な形をしていた。神様が地面をつまんで作り上げたという説はあながち間違っていない気がする。どの神様だかわからんが。
裾野に広がる木々は空を覆い隠すほどではない。そこそこに明るくて歩きやすい。地面はぬかるんでいないし、湿気が酷いわけでもない。白樹の森とは違う雰囲気だ。

「探査(サーチ)」

視界に現れる無数の光。赤白緑青の点滅とその奥に黒点滅。獰猛なモンスターもいるわけね。美味しいお肉になるモンスターがいれば狩る。
さて、腰痛に効く薬草はあっただろうか。腰痛って筋肉の消耗とか劣化とか、ともかく長年酷使していると神経に触るようになって痛みになるんだよな。
元上司が椎間板ヘルニアになって緊急手術という大変な目にあっていた。生まれつきの骨格でも影響が出てくるらしいが、そこまで重体ではないだろう。俺に大量の焼き菓子を作ってくれているしな。

回復薬(ポーション)をあげるのが一番いいのだが、そうしたらまた焼き菓子を大量に作ってしまうだろう。恩にならないように、さりげなくあげられたらいい。状態の良い薬草をいくつか採取して、ムンス薬局のリベルアさんに調合してもらうのもいいな。


ぎゃあああ…


そもそも俺ってさりげなくプレゼントをあげるなんて真似、したことねーわ。そんな性格イケメンだったらもっとモテていたはず。そりゃ女性の些細な変化に気付くよう努力はしたが、毛先をミリ単位で整えてなんで髪の毛切ったのに気付いてくれないのよと叱られたときは泣きたくなった。知るかよ。知るかよ。


ぎゃあああ…


やっぱり感謝とかそういうさ、相手を気遣う気持ちって大事だと思うの。やってもらって当然って考え方は危険。チェルシーさんの腰痛に気付くべきだったよなあ。俺もまだまだだなあ。


「何ボケッと突っ立っていやがんだ!助けろ馬鹿!!」


ほら、ああいう脳足りんな無謀なヤツとかさ。俺ほんとまじ苦手。
牙剥いて今にも御馳走に噛みつこうとしている巨大なイノシシっぽいモンスターに追いかけられているのは、件のワイムス君。ベルカイムから足の速いレンタル馬でも借りたのか、俺が足止めされている間にここまで来ていたわけね。
俺に妨害工作しておいて助けろですか。へえ。
しかし足速いな。あそこまで逃げ足が速いとなると、立派な技能(スキル)になるんじゃないか。

「なあ、そのモンスターって食えるー?」
「呑気に言ってやがんじゃねぇ!テンペストボアーはランクCのモンスターだぞ!」

あのやろう、俺のことを完全に巻き込むつもりでこっちに走ってきたな。
調査(スキャン)先生、あのモンスターは食用ですか。


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テンペストボアー ランクC

焼き肉が理想

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よし!
色々はしょられた気がするが食えるんならお肉になってもらうまでだ。

「ビー、足止めするから…」

ああああ、いなかったんだ。つい癖でビーに頼ってしまう。ビーの精霊術は万能だったからなあ。足止めするために風精霊で巨体を弾いてもらいたかったが、致し方ない。

「ワイムス君!そこから左に走れ!」
「はああっ?!何でお前の命令なんて!」
「ほんとまじぶっとばすぞこのガキ!このまま無視して行ってもいいんだからな!」

命の危機に助けてじゃなくて命令がどうのとか、意外と冷静だなと思いつつ両手に硬化(ハード)を展開。でかいイノシシだろうと凶悪だろうと、カニほど頑丈じゃないんだよ。
ワイムス君は悔しげながらも観念したのか、方向転換。身体のあちこちから鋭いツノが生えている凶悪な巨大イノシシはワイムスを完全にマーク。御馳走を食べるのだとヨダレ撒き散らしながら追いかけた。

「ヒイイイイッ!」
「行動停滞(ストップモーション)展開!」

イノシシの横っ腹に魔法をぶちこむ。正面からだとワイムス君にもかかってしまうから、そういう意味での方向転換。まとめてやっつけてもよかったんだが、一応バカタレでも人命救助。

「なっ?!なんだ?お前、いま何を…っ」
「おんどりゃああああ!!!」

ばごーん

ちょっと積み重なった鬱憤を拳に込めてイノシシに振り下ろした。
身体が動き辛くなったイノシシは振り下ろされた拳を避けられず、カニをも黙らせる強烈な打撃を眉間に受けた。その衝撃は巨体を地面に打ち付けるほど。
眉間というのは全ての生き物の弱点でもある、と教えてくれたのはクレイだ。やみくもに殴るのではなく、的確に弱点を狙えと。
それじゃあ目が四つも五つもあったらどうすんの、と聞いたら便利な魔法で何とかせいと頭ぶたれた。なんで怒ったんだろうか。理不尽。

イノシシは悶絶し、口から泡を吹いて暴れた。
なるべく苦しまず逝けるように調査(スキャン)で大脳位置を確認。ユグドラシルの杖で思い切りそれを貫く。

「ギャアアアア!」

巨体を暴れさせ木々をなぎ倒し、やっとのことで絶命した。
巨大熊であるドルトベアよりは小さいが、まるまると太っている。うちのチームは俺以上に食うやつが居るうえ、あの妙ちくりんな馬神様の美女も大食漢なんだよな。しかもかなりの美食家。
これでしばらく肉には困らないだろう。解体はクレイに任せる。

「お前の全部は残すことなく全て有難くいただく。安らかに眠れ」

生き物を己の糧とする為に狩るさいは、感謝を忘れるなとクレイが言っていた。なので狩ったあと、食べるときは必ず感謝をすることにした。
スーパーで売られているバラ肉に感謝したことなんて無かったからな。加工したものを食って、それが当たり前だと思っていた。

腰を抜かしたワイムス君を立たせ全身をチェック。擦り傷切り傷はあるが、打撲や骨折は無さそうだ。
巨大イノシシをわし掴んで鞄に入れる。何でも受け入れる懐の広い鞄はどれだけ大きなものでもするりと飲み込む。
その光景は初めて見る者にとってはまさに異様。

「ア、ア…アイテム…ボックス」

ぽつりと呟いたワイムス君は、頬を赤らめて嬉しそうだった。うんうん、そういうツラしてたらまだ可愛げがあるんだけどな。少年の目って言うんだろうか。素直に凄いと思える気持ちが彼にはあるってことだろう。

「いつまでも惚けているんじゃないよ。言うことがあるだろうが」
「は?」
「おまえほんとにぶつぞ?」
「ヒッ!」

あの巨体を一撃で落とした拳だ。ワイムス君もぷるぷるさせている俺の右拳に恐れを成したのか、顔色を変えた。

「す、すまなかった…」
「そうじゃない。感謝の気持ちを伝える言葉が他にあります」
「ぐっ……あ、ありがとよ…」

とても小さな声だったが確かに聞こえた。
言えるじゃないか。

さて。



***( *´Д`)***



「わかってる?わかってんのお前。ギルド公認領主依頼の真剣勝負で不正行為を働いたと知られたらお前冒険者資格剥奪されんだよ?そこしっかり考えたわけ?考えてないんだろ。俺にいちいちいちいちつっかかってきた理由は究極くだらねぇけど可愛らしいボクちゃんの嫉妬、っていうことは理解した。うんうん、そこについては俺も詫びようチェルシーさんに勝手にネブラリの花を渡したのは悪かったです。はい、もーうーしーわーけー」
「やめろバカやめろーーーっ!」

高地を目指すため森をざくざくと進みながらお説教。
他にも獰猛なモンスターがあちこちにいるとわかったワイムスは俺についてきた。彼が想像している以上の戦闘能力があった俺についていくほうが無難だと思ったのだろう。感情よりも命が大事だと理解しているところは、流石のランクB冒険者。
ワイムスは顔を真っ赤にして怒鳴った。この子よく吠えるな。

「ほらほらそんな叫ぶんじゃない。せっかく気配を消す魔法をかけてやってんのに台無しになるだろうが。アホ。このアホ」
「おっまえ、いちいち俺を怒らせるな!」
「いちいち突っかかるからです。でかい声出しているとクラウンバードが飛んでくるぞ」

音もなく近寄り獲物を鋭いツメで刺し殺す空の狩人。開けた野原に出没するモンスターだったが、脅かすには充分。
ワイムス君は上空をキョロキョロと見渡し、ぶすくれた顔で黙って歩き出した。

もくもくと歩き続けながら木々の根元を確認。こういう高い針葉樹林の下には独特の香りを放つ香草が生えている。その香草は煮込み料理や焼き料理に使われ、肉を柔らかくする作用もあるのだ。
幹が茶色いものではなく、真っ黒に近い色をしたものが良い。そしてなぜか椎茸の匂いがするのだ。草なのに何で椎茸かなと思ったが、細かいことはどうでもいい。

「なにやってんだ?」

突然しゃがんで香草を採取する俺に、ワイムス君は小声で話しかける。

「シーラさんがマデリフ草を欲しがっていたんだよ。せっかくだから採取していく」

屋台村代表であるウェガさんの奥さんは香草焼き肉を売りにしている店の女将。指名依頼でちょくちょく香草を頼まれるが、そろそろ次の採取依頼を頼まれる頃だ。
世話になっている身としては頼まれる前に用意しておきたい。そうして気が利くヤツだと思ってもらえれば次の仕事へと繋がり、美味い香草焼きをオマケしてもらい、俺の評判も上がるのだ。

「依頼されたわけでもないんだろ?何でそんな道草を食うんだ」
「余計な道草食わせたヤツがよく言うな。言われただけのことをやっていたら、そいつの仕事はそれまでだ」

客っていうのは欲が出るものだ。
言われた通りの仕事で満足をするものもいれば、より良いものをと望むものもいる。向上心や野心があるものは現状に満足することが無い。より高みを目指すにはより良いものを望む。そういった依頼主ってのはケチらないのだ。自分への投資のために妥協をしない。
その望みの手助けをするのが冒険者だ。俺は、そう思っている。

「お前…俺に負けるかもしれねぇんだぞ」

生えている香草を全て採取し鞄に入れると、ワイムス君は不貞腐れながら言った。
俺のやり方に納得が出来ないって顔だな。そりゃそうだろうな。命をかけてまで依頼を受注する冒険者に何の文句があるだろうと。文句はないよな。危険な仕事なんだから、受けて貰うだけで有難く思わないと。

「あのさ、正直言って勝負の勝ち負けはどうでもいいんだよ」
「なんだと!」
「怒るなって。大体お前が勝ったところでどうなる?お前がお前でいる限り、何も変わらない」
「俺が、俺?…何言ってんだよ。お前の言っていること、わかんねぇ」

かいつまんで事細かく話さないとならないわけ?俺はそこまでお優しくないんだけどなあ。
ワイムスは前世で相手をしたことのある新人に似ている気がする。アイツには大変な思いをした。いくら説明しても右から左にスルーされ、俺は悪くないと言い訳大会。それでいて大間違いをやらかして知らん顔。ほんともう、ほんともう胃袋痛めた。
しかし根は悪いヤツじゃないのだ。悪気が無いのが一番悪いとも言うが、そこは俺が大人にならなくてはならない。

ワイムスのほうが先輩のはずなんだけどねえ。




「うっめぇ!なんだこれ、すげぇうめぇ!」

とっぷり日も暮れた森の中、俺とワイムスは焚火を囲んで夕飯にした。
と、言っても俺が用意した薪に俺が用意した結界石に俺が用意した食事。ワイムス君を助けた時点でこうなることは予想が出来た。今更勝敗に拘るつもりはない。この機会に彼の性根を少しでも正すことが出来ればいいと思っている。
それはきっとグリットやチェルシーさんへの恩返しに繋がるんじゃないだろうか。

「海翁亭の料理長に作って貰ったスープの素だ。んで、これがなんちゃって水餃子」
「す、い、ぎょうざ?なんだそれ」
「小麦粉で作った皮にひき肉と野菜ときのこ、各種調味料を刻んで入れた食い物だ」
「んんっ、うまい!こんなうめぇもん、初めて食った…」

餃子の皮は大きさも薄さもまちまちで味にバラつきがあるが、スープが美味いから気にならない程度。連日一人でちまちまと作っておいて良かった。ビー達にも食わせようと作ったつもりだが、また後でちまちまと作ろう。しかしワイムスもよく食べるな。

「アンタの…作る飯が、美味いって、ウェガが言っていたのは本当だったんだな」
「うん?屋台村のウェガさん?」
「ああ。じゃがばたそうゆー…っていう食いもんを作ったのは、アンタだって」

ふふふん。ワイムスも知っているだなんて、知名度あるじゃないか。
確かに美味いからな、あれは。バターもさることながら醤油の実の汁が抜群に美味いんだよ。このスープにも水餃子にも隠し味として醤油を入れているから、いつもより美味く感じる。

「アンタ変わってんな。勝負している相手に…こんな美味いもん食わせるなんて」

どんぶりに三杯もお代わりして今更何を言う。
恥ずかしそうで、悔しそうで、でも満たされた顔。
俺はさ、学んだんだよ。飯を無償で食わせてくれる人に悪いやつはいない。そして、飯を食わせてもらった人は警戒心が薄れる。暖かくて美味い飯ってのは何よりの贅沢であり、手軽に幸せを感じられる手段でもある。
男は胃袋を掴まれると弱いと言うが、性別は関係ないんだよな。
美味い飯を腹いっぱい食ったワイムスは少しだけ尖った部分をひっこめたようだ。

「ふん…野営でこんな美味い飯食ったの初めてだ」
「クレイも同じこと言っていたな。かったいパンとかったい干し肉、冷たい酒飲んで無理やり寝るなんて翌朝の目覚め最悪だ」

ただでさえ地べたに寝るのを我慢しているのだ。立派なテントが欲しいところだが、生憎とベルカイムでは扱っていない。忘れそうになるがベルカイムはあれでも地方都市。ものが溢れているようで実は不足しているものがある。それは、嗜好品や最新の魔道具(マジックアイテム)など。そういうのはもっと王都などの都心部に近いところにあるらしい。

「ワイムス君は野宿するとき、テントとか張らないのか?」
「なんでそんな面倒な真似をするんだ」
「えっ面倒なの?」
「えっ。いや、モンスターとか、襲ってきたら直ぐに逃げられないだろうが」
「ああそうか」

俺には結界石があるから夜中の奇襲なんて考えていなかった。
言われてみれば、朝目覚めたら結界を破ろうとサーペントウルフの大群が囲んでいた時があったが、クレイに肉すいとん肉大盛りを約束したらあっという間に蹴散らしてくれた。あのおっさん、食い物のことになると行動が早いのです。

「それじゃあ、これをワイムス君にあげよう」

鞄から人差し指ほどの小さなガラスの容器を取り出す。これは硝子工房の店先で売られていた香水入れだ。プニさんが気に入って買えと強請ったくせにその存在を忘れて放置されていたもの。ベルカイム見物に連れまわされてアレコレ大量に買わされたっけ。そんなのいらないだろうと言うと紫紺色の綺麗な瞳を潤ませて拗ねるんだから卑怯だ。

ガラスの容器に別の陶器の小瓶から白く輝く砂状のものを少量入れ替える。
これはミスリル魔鉱石を砂にしたもの。ミスリル魔鉱石とミスリル魔鉱石を二つ重ねてごりごりすると砂になりました。
小指の先っちょしかない粒でさえトンデモ威力を発揮したのだ。しかし便利なので使いたい。それなら砂にすればいいんじゃね?ってことで。

「…何を、して」
「んー?結界バリア魔道具マジックアイテムを作るんだ」

ガラス容器に入れたミスリル魔鉱石の砂。それに魔力を込める。
俺の両掌から放たれる淡い黄色の光。この光を初めて見た時は興奮しすぎて力を維持するのが難しかった。光を維持するコツはいわゆる思い込み。『俺はこんなの簡単だ。直ぐに作れる。出来るに決まっている。ハハッ、ちょうかんたーん』って思い込みながら強く念じる。

獰猛なモンスターだろうと小賢しい山賊だろうと、悪意を持って近寄るものを決して侵入させない、命を守る強い結界。

加工(ビアス)魔法で形を整え、強度を増す。踏んづけようと叩き落とそうと、壊れないように。
ずっとずっと、その威力を発揮するように。

「……すげえ」

ワイムスの呟きが遠くで聞こえる。
集中して魔法を操り形なきものを形作る作業は面白い。夢中になって欲張り、あれもこれもと効果をつけそうになるのを懸命に抑え、集中。


小憎たらしい相手でも、俺と関わった以上他人ではない。
同情?慈悲?哀れみ?そんなのどうだっていい。


知らないところで死なれちゃ俺が困るんだよ。






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ついったーフォローありがとうございます。
たまにネタバレしていたりするのでお気を付けなんし。
大体がアホなつぶやきです。

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