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第11章〜転生王子と秘密基地

番外編 思いつきは突然に(ハロウィン編 前編)

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 「わぁ!これどうしたんですか?」
 ベイル先輩の部屋に呼ばれたので、カイルとレイとトーマの4人で行ってみると、部屋中は服で溢れていた。
 よく見れば積み上がっている箱の隙間からも、布が見えたりはみ出したりしている。
 あの箱の中身も服なのだろうか?だとすると相当な枚数だ。
 「うちの実家代々服を、つ、作ってるって言っただろう?時々売れない服を、れ、練習用に送って貰ったりするんだ。り、リメイクやアレンジするのに」
 へぇ、すごいなぁ。
 将来は実家を継ぎたいと言っていたけど。ベイル先輩が裁縫上手なのは、努力の賜物だったんだな。
 それにしても、すごい量…。ベイル先輩の実家はそうとう規模の大きい店なんだな。
 だが、いくら練習とは言え、この量さばききれるんだろうか?
 「じゃあ、これはその練習用に?いつもこんなに送ってもらうんですか?」
 俺が首を傾げると、困ったように眉を下げた。
 「いいや。いつもは少ないよ。こ、今回は、正確には数えてないけど3〜400はあるかな?店舗を広げるのに倉庫の荷物を整理していたら、む、昔に作った服が大量に出てきたらしいんだ。そ、それで…邪魔だからって…皆にあげてって送ってこられた」
 そう言ってガックリと頭を下げる。
 なるほど。俺たちが呼ばれたのはそう言うことか。

 「確かに、これなんか相当型が古い服ですもんね。こっちはまだひとつ前の型かな」
 レイは両手に持った服を掲げる。
 だけど、俺にはそんなに違いが判らなかった。
 「そうなの?全然わからない」
 掲げられている服を見ながら、俺がうーんと唸る。そして、トーマとカイルがそれに同調した。
 「僕もわからないなぁ」
 「俺もあまり興味ないからな」
 「はぁ?嘘だろ。全然違うじゃないか。この刺繍の模様とか、襟の形とか」
 信じられないと言うように、眉を寄せられる。
 「だって、あんまり服の流行に詳しくないからさぁ。ぶっちゃけ、着心地良ければ何でもいい」
 俺が言うと、カイルも嬉しそうに頷いた。
 「俺もです」

 「むー!何でこんな奴らが女の子に人気なんだ」
 口を尖らせ拗ねるレイに、カイルは少し困ったように息をつく。
 「レイは随分詳しいんだな」
 「そりゃあ、男たるもの身だしなみは大事だからな。清潔感とさりげないお洒落が、今時男子には重要なんだよ」
 前髪を撫でつけ、ふふんと笑って胸を張る。
 中身も大事だぞ…とは思うが。まぁ、確かに。俺なんか時々寝癖ついてたりするけど、レイの身だしなみはいつも完璧だもんなぁ。寮や休日の時の服だって、お洒落な感じするし。
 そう言えばこの学校に来る時の、レイの荷物すごかったもんな。そうか、あれ服か。
 「じゃ、じゃあ、やっぱりいらないかな?こ、こんなにあっても直しきれないし、着られそうなものがあったら、持っていってもらえないかと思ったんだけど……。や、やっぱりたくさん処分しなきゃだよな」
 しょんぼりと肩を落とすベイル先輩に、俺は慌てる。
 「何言ってるんですか。もったいないですよ!こんなに素晴らしい服なのに」
 前世の時の俺なんか、服もほとんど買えなくて、ほぼ似たようなローテーション。おかげで着回しのきくシンプルな物ばかりだった。
 清潔感こそ気を付けていたものの、伸びたTシャツは必ず部屋着まわす節約具合だ。
 こんなに手間暇かかってそうな服、捨てるなんてもったいなさすぎる。

 「とは言っても…。フィル、普段使い出来なさそうなの結構あるよ」
 トーマが箱を開けて、キンキラの服を取り出した。
 マジか……すごいなそれ。物語に出てくるアラブの王様か。
 「あ、あぁ、その辺りはオーダーで作ったけど、お気に召さなかったやつだね。うちは一般の既製品も作るけれど、き、貴族や王族の品物も作るからね。気に入られなかったらその段階で、だ、駄目なんだ。だからと言って、それを別の人に納品するわけにもいかないから……」
 困ったような顔で笑うベイル先輩に、レイは嘆くように首を振る。
 「あぁ、貴族とかってころころ気分変えるからな。のくせにそれが、他人の手に渡るのも嫌がるんだ」
 「わかります。僕の家も金物加工やってますが、買い手が気に入ってくれないと売れ残るんで、困っちゃうんですよねぇ」
 トーマの共感を得て、ベイル先輩は少し微笑む。
 「普段に着られないのは、わ、わかってるんだけど。せめて一度でも誰かに着てもらいたいって、思っちゃうんだ」
 「確かに、これだけ手が込んでいれば。そう思うのも当然ですよね」
 カイルの言葉に、俺も頷く。
 きらびやかな上着には細かい刺繍が入っていた。これを作るのに相当時間を要したはずだ。この縫製の細やかさを考えると、なかなか捨てる気になれないだろう。

 使ってあげたいけど。どうしたものか…。
 部屋にある服を見回し、腕を組んで唸る。 
 よほど手広い店なのか、服は多種多様だった。民族衣装みたいなものから、華やかなドレスから、王子様が着そうな服もある。
 手が凝ったものほど、普段使うのには窮屈だ。
 仮装パーティーならいざ知らず……。
 ふいに、前世でやっていたハロウィンのにぎわいを思い出す。
 お化けや幽霊なんかもあったが、仮装やコスプレも多かったよなぁ。
 懐かしさにフッと小さく笑って、そのまま固まる。
 ん?仮装?
 俺はポンと手を打った。
 「仮装パーティーしませんか?」

 「かそう?」
 服をあさっていた皆が動きを止めて、俺に注目する。
 「普段着ないような服を着て楽しむんです。例えば、王子様が近衛兵みたいな格好したり、平民が王子様みたいな格好したり」
 「何それ、スッゲー楽しそう!」
 レイが嬉しげな声をあげた。
 「あ、まさか…」
 仮装の意味に思い当ったベイル先輩に、俺はコックリと頷く。
 「そう。その時にこれを衣装として貸すんです」
 にっこり笑って手を広げる。
 「ドレスもありますから、女子に声をかけたら、きっと喜びますよ。一度はお姫様になりたい子っていると思うので」
 「フィル君…」
 感動したような目で俺を見つめるベイル先輩の周りを、レイがクルクルと踊る。
 「フィル!いいよ!いい考えだよ!お姫様のような女の子!俺の心は期待に満ちている!」
 そ、そうなの……?
 「じゃあ、小規模になるとは思いますが、仮装パーティーしましょうか?」
 そう言った時、後ろでキィッと音がして、部屋の扉が開かれた。 
 「何やら面白そうな話をしているね。パーティーと聞こえたけれど」
 振り返ると、デュラント先輩がにっこり微笑んでいる。
 「何だ?いらない服くれるって言うから来たんだが、パーティーやるのか?」
 マクベアー先輩も一緒に入ってきて、頭をかきながらキョトンとしている。
 ベイル先輩は、焦りつつもデュラント先輩に説明を始める。
 「あ、あの…日常に使えそうにないのは、処分しなくちゃと思って生徒総長をお呼びしたんですけど。フィル君がその服をパーティーで使えばと」
 だが、その説明では不十分だったようで、デュラント先輩は不思議そうに首を傾げた。
 「服を?それはどういったパーティーなのかな?」
 ベイル先輩に「説明助けて」という目で見られた俺は、デュラント先輩の前に立って口を開いた。
 「えっと、普段着ない服を着て楽しむんです。機会がなければ、一生着ないであろう服ってあるじゃないですか。女の子が男の子の服着たり、平凡な子が山賊の恰好してみたり。日常とは違うのを楽しむんです」
 「おおお!面白そうだなっ!それはぜひ俺も参加してみたいっ!」
 マクベアー先輩の言葉に、俺は笑った。
 「今決めたばかりなので、人数多ければ楽しいと思います」
 小規模でと言っても、数人着たところで何も変わらないだろうし。
 すると、その会話を聞いていたデュラント先輩が、にっこりと微笑んだ。
 「さすがフィル君。素晴らしい考えだ。この学校の『学問の前に身分なき』と言う理念にも通じる所がある」
 ……え?理念?どういうこと?
 「君は『身分など、ただ服が違うのと一緒だ』と、そう言いたいんだね。中身は同じ人間なのだと」
 え、いや、確かに中身は同じ人間だって考えには賛同するよ。でも、仮装パーティーに、そんな御大層なこと意味含めてはいないんだけど。
 「それぞれの服を着て、それぞれの気持ちになることも、とてもいいことだ」
 デュラント先輩は頷くと、嬉しそうに微笑んだ。
 「じゃあ、中等部全体でやろう」
 「え!全体?!」
 規模いきなり大きくなったんだけど!
 「ベイル先輩。普段使いが難しそうなものは、全て学校で引き取りましょう。その中から生徒に選んでもらいます。使い終わったら、学校で保管すればいい。行事として学校長に進言すれば、毎年使えますから」
 デュラント先輩が、どんどん話をまとめていく。
 毎年っ?!俺の思いつきがっ!小規模仮装パーティーの予定がっ!今、年間行事に組み込まれたーっ!
 あっという間の判断に俺があわあわとしていると、ベイル先輩が嬉しそうにデュラント先輩に頭を下げる。
 「あぁ、ありがとうございます。職人が手間暇かけた服だから、古くても捨てるには忍びなかったんです。そうしてくれると助かります」
 「じゃあ、他の人が取る前に、俺を引き立てるカッコイイの探さなきゃっ!」
 レイは浮かれたように手を叩き、マクベアー先輩も腕まくりをしながら服をあさる。
 「俺の着られそうなものはあるか、探さないとな」
 
 「え……えぇぇ」
 思ってもみなかった事態に俺が取り残されていると、デュラント先輩は俺に向かってにっこり微笑んだ。
 「楽しみだね」

 しょ…小規模仮装パーティーが……。

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