トップ>小説>素材採取家の異世界旅行記
41 / 126
第4章

対峙・剽悍無比

しおりを挟む



「そっちじゃねぇよ。葉の先が赤いほう。あれのほうが甘い」
「葉っぱの色で熟成度を測るのか。へえ」

山の中腹を目指し道々に採取合戦をしながら進んでいます。
ワイムスは急に大人しくなり、黙って俺の後について来ていた。しかも時々採取するものの蘊蓄を語ってくれたりする親切っぷり。今更槍が降ったりしないだろうな。

昨夜あげた結界バリア魔道具マジックアイテムの効果を知るや否や、こんなすごいもん簡単に渡すなとかお前何考えてんだとか散々俺を罵倒した後、くれるっていうなら貰ってやるよ、返せなんて言うんじゃねぇぞ、べっ、別に感謝なんかしてやんないんだから!
とまあ、最後のは俺の妄想だが急にデレを発動した。

ワイムスのアドバイスはなかなか勉強になる。本にも書いていない、調査スキャンでもわからない些細な事をよく知っていた。一番需要のある薬草、エプララ草は茎についている小さな緑の虫ごと採取したほうが薬効成分が多いなんて、流石の調査スキャン先生でも教えてはくれなかった。
調査スキャンで知り得た情報は改めて調べたりしないからな。

「これは知らなかった」
「お前、知らないことばっかりじゃねぇか。そんなんでよく採取家を名乗れるな」

嫌味は相変わらずだが、それは彼の性格。何か一言余計に言ってしまうのは無意識であり、癖になっているのだろう。
この余計な一言でイライラしてしまうのだが、いちいち受け止めてやるほど俺は若くない。こういう疲れるヤツの相手は前世で経験済み。

「そうなんだよな。いつのまにか採取専門家って言われているんだよな」
「ハッ、なんだそれ」
「なんだそれ、だよなー。いろんなものを拾って売っているって言っただけなんだけど」
「それが採取家っていうんじゃないのか?」
「そうなのかー」

ワイムス本人は悪い人間ではない。ただ、性格が悪いだけ。育ちが云々と言ってしまうのは野暮ってものだ。
彼の知識は本物だ。字は書けないし読めないと言っていたから全部独学なのだろう。彼の性格的に誰かに大人しく教えを乞うといった真似はしないだろうし、臨時でチームを組んだ時になど先輩の技を盗み見て勉強したのではないかな。

20代半ばで冒険者ランクBというのは驚異的な早さだ。彼がどれだけ努力してきたのか想像すら出来ない。どれだけ悔しい思いをし、どれだけ涙を呑んできたのだろう。罵倒され、邪魔にされ、殴られ蹴られることもあっただろう。それでも歯を食いしばり、上位冒険者を目指し続けたのだ。
そういった彼の尊敬できるところが一つでもあれば、イラつくこともない。妥協ってだいじ。

俺は便利な魔法がアレコレあるから、努力と言えるものはしていない。
かといってそれが恥だとは思わないし、やらなくてもよい努力をするつもりはない。
俺は俺だからな。前世での経験と知識を精一杯利用するだけだ。

互いに必要な採取をしつつ山頂を目指す。どんどんと急勾配になる道にワイムスは多少息が切れているようだ。たぶん空気が薄くなっているんだろう。俺はいろいろと恩恵があるから疲れもしないし苦しくもない。

「おまっ…、なんでそんな余裕なんだ!」

吠える元気があるならちゃっちゃと登れよと思いつつ、岩山を軽々と飛び跳ねる。木々が次第に少なくなり、吐く息も白い。薬草や野草も見つけ辛くなってきた。
その代わり、黄色い草があちこちに見られるように。

「ワイムス君、あの黄色い草だろ」
「アモフェル草だ」
「生花ははじめて見た」
「開けた場所にレインボーシープがいるぞ」

森が抜けた先は広々とした草原。斜面にぽつぽつと咲くアモフェル草。菜の花に似た黄色の小さな花を咲かせている。急勾配な坂を隠すように咲き乱れる様は、まるで春の野原を眺めているようだった。チョウチョが飛んでいないのが残念なくらい。
息を切らしながらも歩みを止めないワイムスの様子を伺いながら進む。生き物の気配が殆どしないのは何故だろう。

「探査(サーチ)……うん?」

確かに黒い点滅反応が見られる。ここから離れた場所だが、数個の黒点滅が灰色点滅を追いかけまわしているような?黒点滅はモンスター。灰色点滅は動物。
モンスターが何かの動物を狩っているのだろうか。

「なにボサッと突っ立ってんだ!勝負は勝負だからな、俺が絶対に勝つ!」

勝負なんてすっかり忘れていたんだけど、ワイムスの声で我に返る。しかし得体の知れないモンスターがいるから警戒をしたほうが。
ワイムスは嬉々として走り出してしまった。

「いや、ちょっと、ワイムス君!そういうことすると絶対にピンチに陥るモブAになっちゃうんだけど!」

斜面を必死に駆け上るワイムスに俺の声は届かない。黒点滅の動きは早いが、灰色点滅も負けじと逃げている。ここまで素早い動きを見せるモンスターは、サーペントウルフ?だがあのモンスターはこんな高地で生息していないはず。だったら、俺が知らないモンスター?
クレイがいればその特徴を教えるだけで正体がわかるんだけどな。

ここにあるアモフェル草はところどころに齧られたあと。てことは、レインボーシープが生息している確率は高い。他にもアモフェル草を好んで食べる動物は居るかもしれないが、ともかく灰色点滅を追えばレインボーシープが見つかるかもしれない。

「ぎゃああああああーーーーー!」

やだなあもう予想的中なんて面倒くさい。
だから先を急ぐなとあれほど言ってはいないが、もうちょっと警戒とかしてくれないかな。ワイムスは俺より先輩で知識も豊富なはずなのに、なんで巨大な角を生やした巨大な牛みたいなのに追いかけられているのあの子。騒々しいったら。

「タッ、タッ、タケルゥゥゥーーーーッ!!」
「はぁい」
「のんびり手ぇなんか振ってんじゃねえぇぇぇーーー!」

あのでかい牛、牛っていうよりも…。



--------------------------


ガロノードバッファロー ランクC

高地に住まう獰猛なモンスター。草食動物の天敵。その巨大な角には猛毒が含まれており、パレシオン毒と呼ばれている。群れで狩を行い、一度獲物と決めたものは息の根を止めるまで追いかける。

補足:お肉は煮込み料理に最適。パレシオン毒はアルツェリオ王国で生成を禁じられている。


--------------------------


なんですと。
煮込み料理に最適…。

いやそうじゃなくて、このモンスターの名前、聞いたことあるな。確かガレウス湖にまかれた毒っていうのが、パレシオン毒。その毒はナントカってモンスターの角から生成されるって。こいつなのか。
それならば向かってくる個体の角が欠けていたり片方折れていたりする説明がつく。きっと闇市場に出すため誰かが刈り取ったんだ。そうやって角だけを求めて後は捨ててしまう馬鹿者がいるのだろう。命を絶つのなら、全て残すことなく利用するつもりで狩れよ。
いや、ご禁制の毒を生成されたら困るんだが。

「助けろバカーーーーッ!」
「助けてくださいってアタマ下げろよバカタレ!ビー…いないんだった。クレイ…、も、いない!」

猛烈な速さで真っすぐ向かってくる敵はその速さゆえに急に止まることは出来ない。真っすぐこっちに来るとなると、正面から魔法を叩きこめばワイムスも巻き添えに。いっそのことアイツごと吹っ飛ばしちゃおうかと考えながらもユグドラシルの枝を取り出した。

「ユグドラシル覚醒!速度上昇(クイック)展開!軽量(リダクション)展開!ついでに飛翔(フライ)!」

素早い動きで空を翔け、3匹のガロノードバッファローの後方に移動。最後尾が気付く前に硬化(ハード)をした拳でケツに一発。

「うりゃああ!」
「ギョヒアアア!」

尾てい骨が砕けのか、一匹は走る勢いのまま転げ落ちて岩山に激突。派手に血しぶきをまき散らして絶命した。
残る二匹はたたらを踏み急激な方向転換。矛先を俺に変えた。

「ワイムス君!結界(バリア)を発動させるんだ!」
「えっ?」
「えじゃねーよ!昨日やったろがバカタレ!アホ!とんま!俺が作った魔道具(マジックアイテム)!」
「ああっ?テメェどさくさに紛れて何言ってやがる!」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!早くしろ!」

鋭い切っ先の巨大な角を俺に向け、二匹のガロノードバッファローは真っ赤な目で新たなる獲物を補足。絶対に食い殺してやろうという気まんまんで俺を睨んでいる。生きるための糧としての狙いなのか、それとも角を刈り取られたことへの恨みからか。ともかく、その殺気は凄い迫力だ。

「えっ、えと、確か、起動(すたーと)?」

ワイムスの手に握られた小さなガラス瓶。
合言葉に反応し中の純白の砂が膨大な魔力を発揮、コンマ数秒で透明な膜が光と共に一気にワイムスを包んだ。

「すげぇ…」

ほんとだすげえ。
ミスリル魔鉱石から削り出した砂に過ぎないというのに、その威力は目を見張るものがある。俺自身が作り出す結界(バリア)よりも規模が大きく、魔力も強く感じられた。
これでワイムスの心配はしなくていい。あの結界膜は危険が去るまで威力を発揮してくれるから、俺は俺で美味しいお肉を狩るまでだ。

「ワイムス!そこでじっとしていろよ!」
「あ、ああ!だけどお前は!」

ちびっこドラゴンや栄誉の竜王に頼ってばかりじゃないってところ、証明してやるよ。
正直言って狩も戦いもまだまだ慣れていない。クレイに言わせれば村の子供の戦いごっこよりも下手くそらしい。ユグドラシルの杖をぶん回して突き刺し、ゲンコツでパンチしたりビンタしたりするしか出来ない。戦い方としては格好悪い上に無様だろう。

だが俺は戦士ではない。

「氷結槍(アイシクルランス)展開っ、待機!行動停滞(ストップモーション)展開!それいけ!」

偉大な魔法使いでもない。

「タケル!後ろだ!」

採取専門家としても腕は未熟で。

「おりゃあああー!」

ただ日々を精一杯生きる人間に過ぎない。


効率的に戦うことが出来ればもっとラクなんだろうが、今は頼りになる仲間がいるし、頼れるところは全面的に頼る。戦闘訓練なんて受けたくない。適材適所ってあるんだよ。
俺には色々と恩恵があるらしいから、この力を知って上手いこと利用すればとんでもないことが出来てしまうのだろう。だが、やらない。俺の根本はあくまでも人間でありたい。

世界なんか征服したところで維持するのは自分だろ?そんなの面倒じゃないか。

「ギュヒュア!ギュヒュア!」

残り一匹になったガロノードバッファローは怒り心頭で巨大な角を振り回した。
猛毒の角に刺されたらきっと一瞬で死んでしまうのだろう。だがしかし俺には各種免疫やら耐性やらが。

「だが痛いのはいやだ!」
「ギュアアアアアヒャアア!」

独特の叫び声で突っ込んでくるでかい牛に恐怖など感じない。


硬化させた両手を構え、腰を落とし、力を込めた。






+++++++

第4章は短いです。
もうちょっとお付き合いください。

しおりを挟む