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第4章

発見・発人深省

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五日分…いや、六日分にはなるな。
テンペストボアーとガロノードバッファローをやっつけたおかげで、チーム蒼黒の団のための食糧が確保出来た。
俺も人並み以上に食うほうだが、プニさんもあの身体でかなり食う。クレイは俺の数倍。ビーはクレイ並み。エンゲル係数がトンデモ係数になるため、食料は多めに確保しておいたほうが良いのだ。

「ワイムス君、生きてる?」

目の前で大立ち回りというか、巨大な暴れ牛を三匹撃破した俺を唖然とした顔で見上げていたワイムス。うんうん、わかるわかる。俺のこと図体デカイだけのぼんくらだとでも思っていたのだろう。実はちょっと戦えるんですよこれでも。

「おまえっ…、お、ま、おまえ…」
「漏らしてないだろうな。近くにモンスターは……いない。もう大丈夫だ」

灰色点滅が遠巻きに固まっている以外に反応が無い。もっと広い範囲を探せばモンスターの一匹や二匹いるだろうが、今すぐに警戒しなければいけないこともなくユグドラシルの杖を枝に変えた。
ワイムスはかたかたと震えながらやっとの思いで上体を起こす。

「モンスターの襲撃なんて珍しくないだろう?」
「ば、ば、馬鹿言うんじゃねぇ。あんな…デカくて凶悪なモンスターに襲われることなんて滅多にないんだ。さっきのテンペストボアーだって…」

そもそも素材採取家というのは単独で遠出をすることは滅多に無い。臨時でもパーティーを組んで護衛をしてもらい、その報酬を分け合うのが通常。
それならもっと警戒しながら動くべきだったんじゃないか?勝負に目が眩んで見境無くなったな。

「お前…戦士だったのか?」
「違う。さっきの無様な戦い方を見てどうして戦士だと思えるんだ。戦士ならもっと戦略とか考えて効率よく動けるだろう」
「……それもそうか。だけどお前、無茶苦茶強いんだな」

それは昨日の段階で気付いていただきたかった。
強いという表現は語弊がある。俺は強いというよりも、便利な魔法のおかげでなんとか抵抗出来ているといった程度だ。さっきの戦いっぷりをクレイに観られたら無謀だと叱られゲンコツ一発にくどくど説教がはじまるに違いない。

「それにこの魔道具(マジックアイテム)…。こんなのはじめて見た。何なんだよこれは」
「そんなことよりレインボーシープがあっちに居るんだけど」

急斜面の坂の上、目を凝らしてよく見ると、色とりどりのもふもふとした何かが蠢いているのがわかる。


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レインボーシープ ランクD

高地にのみ住む希少な草食動物。その身に纏う毛皮は美しく、そして柔らかく防寒に重宝されるため乱獲をされ数を激変させた。あえて空気の薄い立地条件の悪い場所を選んで巣を作るのは外敵から身を守るためである。警戒心が強く素早い動きで敵を翻弄する。

備考:お肉は固くて美味しくありません。

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調査(スキャン)先生に親しみを感じるようになってきた…。
動物を可愛い可愛くないで食う食わないを決めることは絶対に無いが、お肉としてカウントするのは止めておこう。ただでさえ希少だというのなら、無駄に殺してはならないよな。
どうにかしてあの毛をいただきたいものだ。

「あいつか!」
「いやちょっと待ちなよワイムス君。レインボーシープは警戒心が強くてすばしっこいからなかなか捕まえられないって」
「誰に聞いたんだ!」
「誰にも聞いてねぇっての。図書館の本に書いてあった」
「本?くっそ、アンタ字が読めるのかよ。だったらどうするってんだ。ここまで来て諦めるわけにはいかないだろうが!」

ああもうまた走り出しちゃって。
こんな急斜面で、しかも空気が薄い高地ではしゃいだらあっという間に疲れるじゃないか。ほらもうヘロヘロになっている。学習能力ほんと無いんだなあの子。
彼は勝敗に拘っているようだが、そもそも『素材採取の勝負』の意味、わかっているのかね?

如何に早く顧客のニーズに応えられるかも大切だが、何よりその品質の良さにも拘るべきなのだろう。早けりゃどんな品でもいいというわけではない。ましてや今回の依頼は貴族様で領主様。日頃から品質の良いものに囲まれた生活を送っているのだから、ちょっとやそっとの品じゃ満足しないはずだ。いくら採取が難しいものとはいえ、金さえ出せばなんでも手に入る御身分。
採取して早く帰ったものが勝ちというわけではないのだ。

「ワイムス君ワイムス君、まあちょっと落ち着きなよ」
「な、な、な、はあ、はあ、はあ、なんだ、よ!」
「元気があるんだかないんだかわからんな君は。やみくもに追いかけまわしてどうするんだよ。抜け毛だからって地面に落ちている汚いもさもさを拾っていくわけじゃないだろうな」
「えっ」
「こら馬鹿。アホ。ぬけさく。あんな黄色だか緑だか青だかの色が全部混じってうんこ色になっちゃっている毛を領主に渡すつもりか?」

レインボーシープは一匹が七色の毛をしているわけではなく、個体によって色が違うファンシーな生き物。遠目で見ればカラフルなわたあめが蠢いているようにも見える。まるまるもっふりとしたわたあめに小さな四本脚がついてちょこちょこ走っている様はなんとも癒される光景だ。
抜け毛が所望と言っても地面に落ちて汚くなっている毛じゃないだろう。やはり直接表皮を撫でて抜け毛を梳い取るのが良い。若しくは、羊の毛刈りのようにして刈るのが理想ではないだろうか。

と、言っても羊の毛刈りもやったこと無いのだが。
櫛は持っている。自分の髪の毛を梳かす用に購入したが、けっきょく手櫛でパパッと整えてしまうから無駄になっていた。

「動物の毛を採取する場合はどうしていたんだ?」
「そういう依頼はあまり無ぇ。牧場のホースシープの毛刈りなら手伝ったことはあるけどよ、ホースシープはあんなにすばしっこくねぇし、一人が捕まえて一人が毛を狩るんだ」
「つまりは俺とワイムス君が協力しなけりゃならないってことじゃないのか?」
「ぐうううう…っ」

一人でわーわー追いかけてもわたあめ達は必死で逃げるだけ。無駄に体力を消耗するだけだし、時間の無駄。
ギルドが何を思ってレインボーシープの抜け毛を勝負の対象にしたのかはわからないが、その思惑はなんとなく見えて来た。
グリットのやつ、ちゃっかりしているよな。この機会に素材採取家同士、協力し合って依頼を達成しろってことだろ?ワイムスの面倒な性格を知った上で俺に預けたわけだ。

「これから先もこういう依頼は来るかもしれない。俺はチームに入っているから協力してくれる仲間がいる。だがお前は基本的に単独行動ソロなんだろ?」
「動物の毛なんて、そんな依頼を受けなけりゃいいんだ」
「ほら、そうやって仕事を選り好みしているから指名依頼が減っていくんだ。考えてもみろ。いくら冒険者としてのランクが高く、採取家としての腕が確かだったとしても、仕事を選り好みしているようなヤツに誰が依頼をする?」

頼んだところでどうせ受けてくれないだろう。
それだったらなんでも引き受けてくれるヤツを最初から指名する。

「出来ないからやらないじゃ駄目だ。出来ないなら出来る方法を考えるんだ」
「……」
「方法がわからなければ誰かに聞く。教えを乞うことは恥ずかしいことじゃないし、屈辱でもなんでもない。自分が成長するための手段と考えればいいじゃないか」

1人でなんとかしようと奮闘するのも手だ。しかし、それだと目的まで遠いだろう。

「わからなけりゃ聞けばいいんだよ。簡単なことだろう?」
「…グリットも同じことを言っていた」
「グリットはアンタのことが大事だと思っているからこそ、クドクドと説教じみたことを言ってしまうんだ。だけどそれはとっても有難いことなんだ」
「ハッ、うるせぇのに?」

あれだけ反抗的だったワイムスが俺の話に耳を傾け始めた。いい傾向だ。
俺が思っていた以上に戦えたことと、仕事に対する考え方を出来るだけわかりやすく説明しているからだろうか。ともかく、今なら彼の心に響くかもしれない。

「ワイムス君、うるさくしてくれるうちが花なんだよ。君に期待しているからこそ、グリットはうるさく言ってくるんだ。君が大切だから。もっともっと立派な冒険者になってほしいからこそだ」
「立派な冒険者?この、俺が?」
「なれるさ。その若さでランクBだろ?どれだけの苦労をしてきたんだ。人に嫌われても信念を貫き通してきたんだろ?その意志の強さは誇れることだ。ただ、もうちょっと人の話を聞くべきだとは思うがな」

不貞腐れていたワイムスの頬に赤みが差し、口元がうずうずとにやけそうになっている。こうやって褒められたことも恐らくないんだろうな。何か言うたびに噛みついてくるようなヤツ、関わり合いにすらなりたくないものだ。

「じゃあ、アンタはこの場合…どうするんだ」

お。
ついに質問さえしてきたな。

「俺も動物の毛刈りは初めてだ。だがな、一つ強みがある」
「強み?」
「俺はどうやら動物に好かれる体質らしい」
「なんだそれ」

一角馬で証明済みだ。ベルカイムをうろついている野良動物らにも好かれている俺です。広場でぼけっとしていると鳩やらスズメやらの鳥が集まってくるから気を付けないとならない。はじめはビーのせいかな?とも思ったが、ビーが空中散歩をしている時でも鳥は容赦なく群がってきたのだ。
これもきっと恩恵とやらなんだろう。あの青年に頼んだような頼んでいないような、そんなのすっかり忘れてしまったが、ともあれ便利な体質ではある。

「俺がレインボーシープを宥めて集めてみるから、そのうちにワイムス君が毛を梳いてくれないか。この櫛で」

鞄から取り出した櫛を手渡すと、ワイムスは訝しげに俺を睨む。その目やめなさい。

「どうやって集めるんだよ。あんなに遠くにいるのに」

それはそれ。
やってみないとわからない。
俺は肺に息を溜め、思い切り大きな声で叫んだ。


「るーるるるるるるるる!!」


遠巻きにこちらを伺っていたわたあめたちが一斉にビクッと反応。そりゃそうだ。いきなりるるる叫ぶ人間なんて俺くらいなものだろう。

「おまっ、なにやってんだ?!」
「るーるるるるるる!いや、以前にこうやって動物をおびき寄せていたプロが居た気がしてだね」

動物王国のゴロウさんか北の国のゴロウさんかは忘れたが、ともかくレインボーシープの気を引くことには成功している。いやもっとやり方とかあるかもしれないけど。

「るーるるるる、ほれほれこっち来てみ、るるるー」

やってはみるものだ。
もふもふしたわたあめ達は警戒しながらも一匹、また一匹とそろそろ近づいてくる。

「…冗談だろ」
「急に動いたりでかい声を出したりするなよ。ゆっくり動いて、優しく身体を撫でるんだ」

「むーむーむー」

こちらの羊らしき生き物はメェメェじゃなくてむーむー鳴きます。

「るるるるーるーるるー、はいはいおいでおいでー」
「むーむー」
「むー」

青、黄、緑、赤、どれもこれもパステルカラーのような淡い色の毛を纏った不思議な生き物たちは、むーむー言いながら俺にゆっくりと近づいてきた。
羊よりは小さい。柴犬より大きいくらいか。どちらにしろ、可愛いぞ。

「レインボーシープ諸君、少し頼みごとがある。今から君たちの柔らかく暖かそうな毛を少しずついただきたい」
「むーむー」
「抜ける毛だけをいただければいいんだ。もしくは、抜いてほしい場所の毛があったらそこの毛をいただきたい」
「むーむーむー」

話が通じない動物相手に何を馬鹿なことを、という顔をして口をぱっかー開けていたワイムスだったが、水色のレインボーシープが群れから離れ俺の前にやってきた。

「むーむー」

つぶらな瞳を瞬かせ、俺の目の前にお座り。なにこれたまらん。

「ワイムス君、こいつの首の下の毛を櫛で梳くんだ」
「は?」
「はじゃねーよ。ここ、この毛が気になるから梳いて欲しいんだって」
「なんでわかるんだ…」

なんとなく?
ワイムスは俺に言われるまま恐る恐る櫛で毛を梳く。レインボーシープは暴れることなく、大人しく首を伸ばした。
もっふりとした水色の毛が櫛にからまり、力を入れずともかなりの量が抜け落ちた。

「すっげぇ。はははっ、なんだこれ、本当にすげぇ」

撫でるように櫛で毛を梳かすワイムスはそのまま優しく手を動かした。
水色のわたあめがみるみると櫛にからまり、手のひら大の塊になる。アンゴラとかカシミアとか、そういう肌触りの良い毛。
そうか、これを紡いで毛糸にするのか。これだけ手触りのいい毛だ。編めば暖かな防寒具になるだろう。

「むーむー」
「むーむーむー」

無防備に腹まで出して毛を梳かれている水色わたあめを見ていたほかのやつらも、そろりそろりと近寄って来た。
気付けば周りはレインボーシープの大群になっており、色とりどりのわたあめに取り囲まれてしまっていた。

「あははっ、すげえ。お前すげぇんだな、タケル」

ワイムスは笑いながらレインボーシープを撫で続けた。


その顔には憎しみも妬みも無い、心からの笑顔。





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キタキツネも野生動物もるるるで呼び寄せることは出来ません。
うかつに野生動物に触れてはなりません。

※このお話はすんごいフィクションであることをお忘れなきよう。

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