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第4章

無謀・意気軒昴

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抱えるほどの色とりどりな虹色ウールが手に入った。
俺とワイムスはギルドの思惑にまんまとハマり、仲良く共同作業をやりのけたわけだ。俺は便利な魔法があるから単独でも虹色ウールを手に入れることは出来た。しかしギルドは『俺ならなんとかするんじゃね?』というふんわりとした可能性に懸けたのではないだろうか。
流石にギルドは俺の採取方法までは把握していないと……思っていたんだけど…。

「カリストのザンボさんから…情報漏れちゃった?」
「何のことだ?」
「いや、独り言」

ドワーフの国の元気な受付主任は坑道探査で俺の採取のやり方を間近で見ていた。いちいち質問をしてきたが、なんでしょうね〜ふしぎですね〜わかんなぁい〜とのらりくらり誤魔化したのだが、大まかな流れというか採取方法は知られている。全て魔法を利用しているのだということを。
それをグリットに知らせたのかもしれない。ギルドとしての情報を共有する名目で。
職業柄、グリットは俺に聞きたいことがたくさんあるのだろう。だがそれをあえて聞かないのは、煩わしいことを苦手としている俺に考慮したのだ。

巨大なカラフルわたあめを袋に詰め込んだワイムスは、さながらサンタさん。抜け毛そのものは綿よりも軽いのだが、量が量だけにしっかりとした重さがありそう。
同じだけの抜け毛の塊を鞄にするするとしまい、見た目も重さも全く変わらないそれをワイムスが凝視。この鞄は流石に作れませんよ?

「これで目的のものは手に入れたな。後はどっちが先にベルカイムに戻れるかだ」

ワイムスは晴れ晴れとした顔で笑った。いちいち突っかかることは無くなっただけでも俺としては万々歳。後は誰彼構わず喧嘩を売らないことを教えてやらないと。
山に入る手前の村で借り馬を置かせてもらったワイムスは、その馬に乗って帰るようだ。俺はまた走るしかない。
何かあった時のために転移門(ゲート)拠点(ポイント)は宿屋の自室にあるが、それを使うのはやめておこう。後々の為にどっちが先だどっちが後だとか言われないよう、同時ゴールっていうのも有りかもしれない。

「うん?」

さて帰ろうかと腰を上げると、久しぶりに感じるうなじのぞわぞわ。
嫌な予感がする時にこれが出るんだけど、今まではビーが先んじて警戒をしてくれていたからうなじも大人しかった。
獰猛なモンスターが出てくる様子はない。だが、確かに嫌な予感がする。

「むーむー」
「むーむーむー」

俺とワイムスを取り囲むように休んでいたレインボーシープ諸君が、俊敏な動きでその場を去ってしまった。この目に見える異変にワイムスも何かを感じ取ったのか、地面に置いていたサンタ袋を急いで背中に担ぎ上げた。

「どうしたんだ?」
「なんだろな」

無詠唱で探査(サーチ)を展開する。
レインボーシープの灰色点滅がたくさんと、その反対方向、つまり坂の下から茶色点滅が三つ。
茶色点滅って確か…。

「あん?どうなっていやがる。前はこの開けたところに何匹かいやがっただろう」
「知らねぇよ。それよりも毒矢の用意はいいんだろうな」
「うるさいなあ。文句言うならお前が持ちやがれ」

わいわいと登って来たのは見るかに素行が宜しくなさそうな男たち。
ベルカイムでは見たことのない悪人面、いや失敬、お顔だな。毛皮のちゃんちゃんこを着ているからといってマタギではないだろう。

「どっかの冒険者が来たみたいだ」
「お前、この距離でアイツらの様子がわかるのか?」

俺ってば視力も聴力も宜しいんですよ。
異常五感のクレイやビーと行動を共にしていたから自分も異常だってことを忘れがちになるが、たぶん「普通の人」よりかは優れているんじゃないかな。
ドヤる間もなくワイムスに巨石の影に隠れるよう指示し、俺は自らのでかい図体に隠伏(フォシュ)の魔法をかけて姿を消した。へたに関わって時間を無駄にするわけにはいかないし、何より面倒くさい。

同じ素材を目的としていたとすれば、申し訳ない。目ぼしいレインボーシープの毛皮はすっきり抜け落ちて、今ではとてもスリムになっているのだ。坂の上のほうに行けば地面に落ちて汚い色になっちゃっている抜け毛が大量にあるだろうが、価値としてはどうかな。

しかし物騒なことも言っている。毒矢?

「オイ本当にここなのかよ!いねぇじゃねぇか!」
「おっかしいなあ。確かにアイツの縄張りに入っているんだよ。ほら、そこに角で削った痕があるだろ?まだ新しい」
「ガロノードバッファローは縄張りを荒らすと怒り狂って襲い掛かるモンスターだと聞いていたが…」

うーんと?
ガロノードバッファローの縄張り?さっき三頭いたね。全部食材になったけど。
彼らはもしかしたらガロノードバッファローを狩りに来たのだろうか。だとしたら悪いことを…したとは思わない。俺だって冒険者なんだ。譲り合いのどうぞどうぞ精神はこの場合発揮するべきではない。早い者勝ち。先手必勝。

対象物がいなくなったことで彼らは怒りを露わにしている。気持ちはわかるよ。そこにあるはずだと思って必死こいてやってきたというのに、目的のものは無かったんだから。
だからって自生しているアモフェル草をむやみやたらと刈らないでくれないかな。

「ちっきしょう!テメェ、どうなってやがんだ!」
「俺だって知らねぇよ!以前に来たときはいたんだよ!」
「おいおい、どうするよ。てめぇが言ったんだろうが、パレシオン毒が高く売れるってよお」
「それは本当のことだ。ガウリー商会が竜騎士の査察に入られて統領もろとも全部処刑されたって聞いただろ」
「ああ。それはゾッとした。誰がチクッたんだ」

どきーん。

「ガウリー商会が扱っていたパレシオン毒が市場で品薄になっているらしいから、今や前回の売値の三倍らしいぜ」
「それは本当か?クッソ、こうなりゃ何が何でも角だけ持って帰らねぇとよ!」

俺の存在を知る由もない悪人面の三人はまあよくぺらぺらと喋ってくれた。
話を聞くに彼らはパレシオン毒を売るために採取しにきたわけだ。パレシオン毒はガロノードバッファローの角から作られる猛毒。その生成方法はわからないが、パレシオン毒は毒として、もしくは解毒薬を作る為にしか作られることは無い。他に利用方法が無いため、基本的に生成してはならない決まり。

それをあえて作るっていうことは、そりゃ宜しくないことに使うためだろうな。
湖にまきちらすとか、誰かを暗殺するとか。

正義の味方だったらこの場合「そうは問屋が卸さないぜ」とか言って彼らを退治するのかもしれないが、残念俺は面倒くさがり屋でした。
そういう闇市場は需要があるからこそ成り立つ。アシュス村の住人のようにただ巻き込まれただけの人にとっては迷惑極まりないが、だからといって悪党根絶と闇市場を完全に消し去ってやるなどとは思わないしやりたくない。

俺の正義は押し付けるものではない。悪いからやっつけよう、という考えに至らない。
俺の正義は日常を平穏に生き続けるためだけに発揮される。
だからこの場合ひっそり静かにひっそりこっそりかさこそとこの場を去るにかぎ

「ふざけんな!パレシオン毒は生成してはならない決まりだろうが!」

あれえええええ?!
ワイムス君なにやってんのおおお??
岩場の影から正義感もりもりに飛び出したのはワイムス。

「あぁ?テメェ、なんだ?冒険者か」
「アニキ、あの野郎、ランクBですぜ」
「ケッ、御大層な得物一つ持っていやがらねぇ。どうせ回復職か採取家だろうよ」

三人組は一瞬警戒をしたが、ワイムスの装備を確認すると鼻で笑った。ワイムスは素早く動き回れるよう甲冑などの重たい装備は身に着けていない。武器と言えば採取用の短剣や逃げるための煙幕など。見れば直ぐに腕に覚えのある戦士では無いということがわかる。
つまり、でかいオノやら長剣やら弓やらを装備している彼らに分があるのだ。

「お前ら盗賊だな!」

まじか。
マタギではないと思っていたが、盗賊でしたか。盗賊ってはじめて見た。
盗賊っていうのはまさしく盗みや殺しを生業とした、闇世界の職業。ゲームとかだと洞窟や遺跡といったダンジョンの罠を見抜く特殊職業だが、マデウスでは名前の通りの盗む賊。
元冒険者とか罪を犯したものが最終的にいきつく先だとも言われている。つまりが彼ら三人とも前科者。若しくは…指名手配犯だったり?

教えて調査(スキャン)先生。彼らに賞金とか、じゃない、どんな悪いことをしたんですか。


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マハル・チョバカ ランクC 毒蜘蛛の戦慄団員

アルツェリオ王国発令グラン・リオ大陸指名手配犯。ズビシェク在住。
殺人・強盗・恐喝・窃盗・違法薬物所持
賞金額50万レイブ

備考:マティアシュ領ミロスラフ地方ズビシェクは盗賊団『毒蜘蛛の戦慄』の本拠地


クヴェル・アホルヌス ランクB 毒蜘蛛の戦慄団員

アルツェリオ王国発令グラン・リオ大陸指名手配犯。ズビシェク在住。
殺人・強盗・恐喝・窃盗・違法薬物所持
賞金額120万レイブ

 
アルトン・マル・モトーラ

マティアシュ領カジョ地方ダンゼライ在住
ほか隠匿


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…バカとアホとトンマか。
これ笑うところ?いや笑うのは流石に失礼だよな。うん。たまたま日本語の悪口なだけだ。

悪党は二人で残りの一人は案内係か何かか?住んでいるところしかわからない。隠匿っていうことは、特殊な魔法で隠しているものがあるのだろう。鑑定(アバルス)されたくない秘密があるのだ。
彼をもっと追調査すればわかるだろうが、そこまで興味はない。

かっこいいなまえの盗賊団に所属しているという情報は有難い。エウロパに報告するときに役立つ。
盗賊って冒険者の仕事を妨害したり依頼品を盗んだり、場合によっては殺したりする集団だから迷惑なんだよな。しかも意外と賢い。敵わないとわかると絶対にその姿は見せないし、関わり合いになりたくないと逃げてしまう。

盗賊討伐の依頼(クエスト)が幾つかあったはず。ランクAのクレイだったら受注出来るだろうし、ついでに賞金とか貰っちゃえばいいんじゃなかろうか。

既にワイムスは姿を見せているし、やっぱごめんねで見逃してくれるほど奴らは間抜けではないだろう。姿を見られたからには証拠隠滅、つまりワイムスを殺しにかかる。
ああもう余計なことに首突っ込みやがって。誰がフォローすると思っているんだ。

盗賊だと言われた男は顔色を変え、背中に担いでいた巨大なオノを手にした。
続いて他二人も武器を構える。

「だったらどうするんだ坊ちゃん」
「違法毒物を作られたらたまったもんじゃない!ギ、ギルドに報告して」
「どうやって報告するんだい」

そうそう。
多勢に無勢なんだよ?
しかもワイムスは戦闘能力が無い。強い結界(バリア)が纏えると言っても、それだけ。でも結界(バリア)魔道具(マジックアイテム)を発動させたまま全力で逃げるって手もあるな。うんうん、そのまま一気に坂を転がり落ちればうまく逃げられるとおも

「タケル!こいつらなんとかしろ!」

ええええええええええええええええええええ

なんで急に俺にふるわけ?!
まさか最初からそのつもりで恰好つけたの?
全部俺にまる投げするのかよ!

「ケッ!他にも仲間がいやがるのか!」

いませんいません。彼の勘違いですよハハッ。

「出てきやがれ!ボウヤをブチ殺すぞ!」

いっそのことブチ殺してもらって…
悪い考えが脳裏をよぎったがグリットさんやチェルシーさん、エリルーが哀しむだろうからそれは止めます。
岩陰からのろのろと出、ワイムスに近づく。

「うもー…。なんで飛び出すんだよ」
「さっさと出て来い!」
「あっ、そうか」

隠伏の魔法をかけたままだった。
自分にかけた魔法を解除するには集中力を切らせばいい。身体を隠す以外のことを考えて叫ぶ。

「とうふ!!」

ちなみにはんぺんでも可。
豆腐は真っ白で頭の中を真っ白にするには丁度良いフォルムってなだけ。
間抜けな叫びと同時に俺の身体が現れると、男たちは盛大に驚いた。ちなみにワイムスはあんぐりと口を開けている。その顔おもしろい。

「テメェ!いまどっから出てきやがった!」
「どうもどうもすみませんね、うちの小生意気な坊主が出しゃばりやがりまして」

いやいやすみませんと頭を繰り返し下げ、ワイムスを立たせてからその後頭部をひっぱたく。

「痛っ!なにすんだよ!」
「バカタレ。頭に血が上るとイノシシみたいに特攻するのは止めなさい。どう考えても多勢に無勢だろうが」
「だからってアイツら盗賊だぜ?賞金首かもしれないじゃないか!」
「賞金首だからって何で無謀に飛び出すんだよ。あのなあ、俺にまる投げしようとしているかもしれないが、俺だって都合ってもんがさあ」

都合というか面倒なだけなんだけど。
明日の夕方までにベルカイムに帰らないとならないの、覚えてんのかな。

「おうおうっ、ふざけたことをぬかしやがって!どっちにしろアンタらにはここで死んでもらう!」
「あらあ。やっぱりそうなります?困ったなあ」

これっぽっちも困っていない顔で笑ってやると、男たちは多少怯んだ。彼らも腕に覚えがあるのだろう。あのガロノードバッファローを狩りに来たのだから、俺たちを確実に仕留められる自信があってこその啖呵。俺のこの態度は彼らにとって不気味に思えるはずだ。

まさかの時代劇のような展開にちょっとだけ胸を熱くしているが、油断は禁物。なぜなら俺は対人戦は一度も経験したことがない。いつも同行しているランクA冒険者を狙う盗賊はいなかったからだ。もしかしたら知らないうちにクレイやビーが対処してくれていたのかもしれないな。
ともかく獰猛なモンスターはたくさん倒してきたが、対人ともなると勝手が違う。
相手がどれだけの悪党だとしても、自らの手で成敗するのは元日本人として避けたいところ。
気絶させるだけじゃ駄目かな。それとも強制的に眠ってもらうとか。


どちらにしろ、彼らの存在をギルドに報告しないと。






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ポッキンナベイベーの日ですね。

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