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第4章

疑惑・慎始敬終

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いやいやいやいやいや、なにその衝撃展開。
盗賊だと思っていた男が正体を隠した竜騎士。誰も想像もしなかった展開に俺も動揺を隠せない。
男はビシリと敬礼をしてみせた。いや敬礼されてもそれが竜騎士の敬礼かなんてわからん。

「はい、質問」
「はい!なんでしょう!」

そんな元気よく返事されてもな。さっきの悪人面どこへやったの。ほんと別人。

「えーと、トン…マ…じゃなくて」
「モトーラ上等兵でありますっ!」
「ああ、はい、モトーラくん。ちょっと敬礼やめようか。ええと、なおれ?」
「はいっ!」

やだ従順。
モトーラ君はほっぺた赤らめて、休めの姿勢をとる。その姿勢もシャキッとしている。
竜騎士って言ったよな。まじか。

「うーんとね、いますっごく混乱しています」
「はいっ!」
「うん、そう、はい。ご禁制のガロノードバッファローの角を狩に来た盗賊団の一員が実は竜騎士という、このスパイ映画によくあるパターン。あれかな。あれだろ。潜入捜査員!」
「貴殿の仰ることは若輩者の私にはさっぱりわかりませぬが、潜入…そうさ?という意味合いと同じようなことです!」

彼はアルツェリオ王国に所属する竜騎士の一員。しかも盗賊とか闇商人とか、そういった国に仇なす組織への潜入、情報調査を主とした専門の騎士なのだそうだ。組織の一員となって内部の情報を得、内部から組織を崩壊させていく重要な存在。

やっべぇ格好いい…

しかし彼の言い分を全面的に信用するわけにはいかない。なんせ彼が竜騎士であり、潜入捜査をしていたという証拠がないのだから。
竜騎士である証拠を持っていたとしても、それが本物なのか俺には見分けが……
つくか。

「はい、もうひとつ質問」
「はいっ!なんなりと!」
「あのですね、俺にはちょっとだけ…鑑定(アバルス)スキルがあるんですね、ええ」
「はいっ!あっ、でしたら私の身分が隠匿されているのもご存知ですか!」
「名前と、ダンゼライに住んでいるってことくらいしか」
「えっ」
「えっ?」
「私の名前と、しょっ、所在地までもわかってしまったのですか?!まさか!」

そんなに驚かなくても。
それ以外はわからなかったんだから、隠匿は優秀だったはずだ。きっと俺以外の鑑定士が見たら偽りの名前と所在地しかわからなかっただろう。

そうか、彼を調査(スキャン)すればいいのか。もっと詳しく。
教えて先生。彼は本当に竜騎士なんですか。

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アルトン・マル・モトーラ ランクA 23歳 上等兵

マティアシュ領カジョ地方ダンゼライ在住
アルツェリオ王国第二十七騎士団第四偵察隊ダンゼライ支部所属。
カール・リラウス・モトーラ子爵の次男。体術・剣術・弓術に長けた優秀な潜入調査竜騎士。

備考:清潔好き 甘いものが好き

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どうやら本物の竜騎士のようだ。実は二重スパイってところまで考えたが、貴族のご子息さまでした。
そういえば貴族の次男や三男坊っていうのは家督を継ぐわけではないから、竜騎士になるか他の貴族の令嬢の婿入りをするか、将来を決めると聞いた。なかには専門機関に進んだり冒険者になったりと、一般市民より選択肢が多い。

「共にダンゼライまでご一緒していただければ、支部長に私にかかっている術を解いていただけますし、私の確かな身分も明かすことが出来ます」

ダンゼライか。
今がただの採取中だったら帰りに寄り道も考えたんだが、勝負中なんですよこれでも。ワイムス伸びているけど。

「残念だが俺はベルカイムに戻らないとならない。明日の夕方までに」
「ベルカイムですか!そういえばこちらはルセウヴァッハ領でしたね。ということは、貴殿はエウロパに所属されておられるのですか?」
「そうです。申し遅れました、わたくしこういう…。名刺ないんだった。えーと、俺はタケルって言います」
「タケルさんですね!さきほどは見事な魔法の数々、恐れ入りました!」

踵を鳴らしてビシリと敬礼。
いや、俺に敬礼されても困るんだけどね。それに、そのキラキラした目で見るの止めて。モトーラは憧れの何かを見つけた少年のようになってしまっている。

「私は、私は、貴殿のような魔法を扱う冒険者と逢うのははじめてなのです!さきほどの不可思議な魔法はどのように編み出したのでございますか?どなたか御高名な御方に御師事されたのでありますか?よろ、よろしければその御方の御名前を是非!」

両腕をぶんぶん振っちゃって、チョコレート工場見学の小学生のように騒ぐ竜騎士。
竜騎士のイメージってもっとお高く偉そうで、庶民や冒険者なんて格下に見ているのだと思っていた。いや、ほかの冒険者が竜騎士とはそういうものなのだと教えてくれたのだ。
一人二人が勝手に言っているだけかと思えば、大多数の冒険者が同じことを言っていた。実際に逢ったことあるのかと聞いたらこんな地方都市までわざわざ来ないと。たまに来たとしても極悪人を捕まえに来るくらい。話に信憑性が無かったから話半分に聞いていたけど。

竜騎士全てがそんなのばかりではないと思っていた。人の噂なんてあてにならないものだ。しかも、冒険者の口にする噂なんて殆どが妬み。竜騎士になれるのは貴族、若しくはその血筋に近いもののみと決まっているからな。庶民がいくら憧れてもなれない職業。
俺が一番よく知っている竜騎士がクレイだからなあ。あのおっさんを見ていれば、本当の、本来の竜騎士っていうものがどういうものなのかわかる。

「はい、落ち着こうかモトーラ君」
「はいっ!私が内偵を進めていた盗賊団の一員をあっという間に倒してしまった貴殿の腕前、御見逸れいたしました!」
「それさ、俺が勝手な真似をしたんだけど大丈夫?」
「なあに、こいつらを捕縛して情報を引き出せばいいだけです!」
「情報って?名前とか所在地?」
「はいっ!」

と、いうことは彼はここまで案内しただけで内偵調査はこれから、ってところだったのか。
ガロノードバッファローをおとなしく狩らせ、それを何処に持ち帰るのか、誰に売るのか、調べるつもりだったのだろう。だとしたら悪いことをしたな。

「お気になさらず。危険なガロノードバッファローを退治するのも私の任務でしたので、手間が省けました。感謝致します!」
「ああ、ええ、ハイ。トンデモゴザイマセン」

モトーラは鞄からロープを取り出し、安眠中の盗賊をするすると捕縛していく。モトーラよりも重量感ある二人の男を慣れた手つきで縛り上げると、首から吊るしていた笛のようなものを取り出した。

「こいつらの首にかかった賞金は貴殿にお渡しいたします。ギルドを通じて受け取れるよう、手配させていただきますのでご安心を」
「え。いいの?」

きっと時間をかけて計画を練り、慎重に潜入していたのだろう。で、その計画の途中で俺がブチ壊したわけだからモトーラ君の責任は重いだろう。この盗賊らが口を開かなければ計画は頓挫してしまう。まあ、竜騎士っていうんだから悪党の口を割らせる手段なんてたくさんあるのだろうけど。
俺だけが美味しいとこ取りしてしまうようで、気が咎める。

「もちろんです。盗賊は貴殿が瞬く間に倒されましたからね。それに、竜騎士は賞金首を捕縛しても賞金は貰えないんですよ」
「それはそれはお疲れ様でございます…。貰えるなら貰っておくよ。でも、…半年後くらいにしてくれるかな。今すぐにギルドに報告されると、ちょっと困るんで」
「ご事情がおありなんですね」
「そうそう」

あまり俺の内情を話す気はない。身元が確かだとはいえ、相手は潜入捜査を仕事とする人間。にこやかに話をしているが、この彼が本来の姿とも思えないからな。全て芝居だとしたら、俺は何かの陰謀に巻き込まれてしまうかもしれない。
って、考えすぎだとは思うが。

伸びているワイムスを背中に背負い、彼のサンタ袋も担ぐ。モトーラの前でアイテムボックスの存在を明かすのは止めておいた。信用出来るかわからない。

「ずいぶんと力持ちなんですね…。巨人(タイタン)族ですか?」
「人間族です。そういえばモトーラ君、このワイムス君に戸惑いも無く矢を放ってくれたっけ」
「あれは擬似矢です」

そう言って地面に落ちていた矢を拾い、見せてくれた。
確かに矢じりは硬そうに見えるが、モトーラが切っ先を岩に押し付けると直ぐに引っ込んだ。マジックで使う偽者のナイフのような仕組み。岩には何かの液体が滲んでいて、それが即効性の睡眠薬になっているらしい。

「彼が何らかの結界(バリア)を張ったことは直ぐに気づきました。ですから先ず、彼から死んだようにみせかけようと思いまして。まさか弾かれるほど強い結界だとは思いませんでした」

モトーラの判断は正しいのだろう。しかし、眉間を狙って打ったのが恐ろしい。少し間違えれば失明していた。

「もしもワイムスに結界(バリア)が成されていなかったとしても、同じところを狙った?」
「確実に仕留めねば、私が疑われてしまいますので」

このやろう。
冒険者の命を軽んじやがって。
人のよさそうな笑顔の下に隠れているだろう暗い闇。悪党の心理を理解できるからこそ、悪党に潜入することが出来る。ミイラ取りがミイラになってしまうこともあるだろう。彼がそうではないと言われても、彼の放たれた弓は確実にワイムスを仕留めようとしていた。
そりゃ潜入中なんだから他に情けをかければ自分の命が危うくなる。そりゃわかるが、腹を狙うとか足を狙うとか、もっと考えてくれてもいいのに。

俺がここで不満を訴えたところで無駄だ。彼はそう教育されてきたのだから。彼と俺の価値観について語り合う時間は無い。
これ以上関わるのは面倒なので早いところ移動してしまおう。

「それじゃあ、俺は行く」
「はい。ご協力を感謝致します」

ビシリと再度敬礼され、「またお逢いしましょう」という言葉に返事をせずその場を後にした。

急な坂を気をつけながら降り、モトーラの姿が完全に見えなくなってからサンタ袋を鞄の中にしまった。盗賊二人組みはどうするのかなと思ったが、相手は竜騎士だ。どうとでもなるだろう。
と、考えていたら高らかな笛の音が聞こえてきた。彼の首に下げていた笛なのかなと思いつつ坂を見上げると、大空を過ぎる黒い影。

竜だ。

空を舞う竜ははじめて観た。いや、もっと高い上空を何かが飛ぶ姿は見たことがあるが、ここまで低空飛行をしているのは珍しい。
大きな翼で空を泳ぐように飛ぶ姿は見事。ファンタジー世界の代名詞でもあるドラゴン。あの巨体がどうやって空を飛べるのだろうかと妙な疑問を持ち、飛行機だって鉄の塊なのに空を飛ぶんだからどうにかして飛ぶんだろうな、と妙な納得をする。

ジュラ紀の空はこんな感じだったのだろうか。


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ライラ・モトーラ 飛竜(ワイバーン)種 エグラリー産 雌

アルトン・マル・モトーラを同格とする竜騎士の盟友

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なるほどな。
モトーラの絆の竜ってわけだ。
緑色の鱗を纏った雄大な姿はとても綺麗だ。


いつかビーもあんな姿になるのかなと思いつつ、澄み切った青空を眺め続けた。






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