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ブレイクタイムのキャラ紹介2と番外編

それぞれの思うこと(ハロウィン編 中編)

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 ※この度のお話のみ、リレー方式です。
 トーマ→カイル→レイ→ライラ→アリス
 と視点が変わります。ご注意下さい。

ー◇◆◇ートーマ

 仮装パーティーの会場は、中等部の室内訓練場を飾り付けて行われていた。
 自由参加と言うことだったが、ほぼすべての中等部の生徒が集まっているみたいだ。
 「うわっ!トーマ、すっごいもふもふだ!」
 フィルが僕の服を触りながら、にっこりと微笑む。
 僕はふわふわの羊毛で全身おおわれていた。
 頭から足先までモコモコしている。出ているのは顔と、手だけだ。
 フィルは「おぉ〜」と言いながら、僕のフードについている偽物の羊耳をつまむ。
 「……羊の着ぐるみだな」
 唸りながら、僕をもふもふする。
 「キグルミ?」
 僕が首を傾げると、フィルは誤魔化すように笑った。
 「いや、何でもない。…しかし、これ何の衣装なの?」
 「毛刈りの時、羊を捕まえるのに、警戒させないように近付くためのものだって」
 くるりと一回転してしっぽも見せる。フィルはその細かい出来栄えに、可笑しそうに笑った。
 「へぇ、確かにこれだったら、羊か人間かわからないや」
 「うん。僕も一目見て気にいっちゃったんだ。でも暑いんだよねぇ、これ」
 肌寒い季節だと言うのに、僕はすっかり汗をかいていた。
 「でも、もふもふ可愛いよ」
 心からそう思っているらしく、フィルは頬を紅潮させる。
 「フィルのほうこそ可愛いけど」
 僕が正直な感想を言うと、フィルは途端に渋い顔付きになった。
 「それは言わないで……変装なんだよ…」
 それからため息を吐き、キョロリと会場を見渡した。
 「それにしてもカイル達遅いなぁ。トーマ汗かいて喉乾いたでしょう?僕、飲み物でも貰ってきてあげるよ」
 フィルはにこっと微笑んで、軽やかに歩いて行った。
 フィル…一人で大丈夫かなぁ?
 心配げに見送っていると、ふと女の子の「きゃ!カイル君よ!」と言う声が耳に入ってきた。
 見ればこちらに向かってやってくる。
 さっき噂してる子もいたけど、カイルは今日もモテモテだ。
 僕は手を上げて名前を呼んだ。

ー◇◆◇ーカイル
 
 「カイル!」
 トーマの呼びかけに返事をしようとして、もこもこした羊を見つけた。
 思わず言葉に詰まる。
 服ばかりかと思ったら、こういう物もあったのか。
 ついいつものように全身黒い服を選んでしまったが……。
 やはりフィル様の言っていたように、普段着られないような恰好を選ぶべきだったかもしれない。
 トーマの元へ行き、辺りを見回す。
 いるのはトーマ一人で、フィル様の姿が見えなかった。
 おかしいな。少し前、トーマと話すフィル様の声が、聞こえたかと思ったんだが…。
 「フィル様は?」
 聞くと、トーマは自分をあおぎながら答える。
 「僕に飲み物取ってきてくれるって」
 なるほど。確かにトーマの衣装は暑そうだ。
 「もう少し早く来ればよかったな」
 事もあろうか、フィル様に取に行かせてしまうとは…。
 自分のふがいなさに眉を寄せる。
 「仕方ないよ。女の子たちに捕まってたんでしょ?」
 トーマはくすくすと笑った。笑うたびに羊のモコモコが揺れる。
 確かにトーマの言うとおりだ。
 ここに来るまでに、やたらと呼び止められた。
 いつもはそう話しかけられる方じゃないのだが、パーティーという空気が人を気安い気分に変えるのだろうか。
 「しかし、よく分かったな。捕まっていたと」
 トーマは当然とばかりの顔で、微笑んだ。
 「さっき噂してる女の子たちが通ったんだよ。カイルが黒の王子様みたいで、すっごくかっこいいって」
 黒の…王子様?
 長めの黒の上着に黒のシャツ、黒のズボンと黒のロングブーツ。所々金糸のラインが入っている以外、いたってシンプルなものだ。
 いつも着ている服とそう変わっていないと思っていたが、どこか違って見えるのか?
 やはり服はよくわからないな。
 すると、突然トーマが、へたばったような声を出した。
 「あー我慢してたけど駄目だ。やっぱり暑いや。僕、ちょっと外に涼みに行ってくる。カイルはフィルが来るまでここにいて。レイももうすぐ来ると思うから」
 「わかった」
 俺が頷くと、トーマはモコモコと動きながら外へと向かった。
 あの恰好は似合うが、敷地外では危険だな…。本物と間違われそうだ。
 ジッとしていると、人の喧騒が頭に響く。俺は息をひとつついた。
 早くフィル様、戻ってこないだろうか…。

ー◇◆◇ーレイ

 壁際にいて、黒の地味な格好をしているくせに、やたらと目立つ奴がいた。
 少年でありながら影を背負っているような、そんな雰囲気をかもし出している。
 「あ〜カイル君カッコイイっ!勇気出して声かけちゃおうかな」
 「今日の仮装、黒の王子様なのね!あの物憂げな様子が素敵っ!」
 そんな女の子の声が聞こえた。
 女の子たちは、勘違いをしている。
 あれ絶対、フィル早く来ないかなぁとかなんとか、ボーっと考えているだけだぞ。
 しかし、黒の王子様か…。確かに……な。
 黒一色で一見地味そうだが、上着は立て襟で斬新だし、生地に少しだけ光沢がついていて、カイルのスマートなイメージにあっている。
 上着とシャツの胸元を少し開けて、微妙に着崩してるのもまた格好いい。
 俺だって初等部の時には、そこそこモテていたのになぁ。
 カイルもフィルも、カッコイイし可愛いし、性格もいいし、すごいのはわかってるけどさ。もうちょい俺の評価上がらないものかね?
 俺は若干拗ねるような気持で、カイルの所へ向かった。
 「あぁ、レイ。フィル様に会わなかったか?」
 ほらな。何をおいてもフィル一筋。
 「会ってないけど。トーマは?」
 「羊の恰好して、外に涼みに行った」
 肩をすくめるカイルに、俺の口から「あぁ…」と声が漏れた。
 トーマ、嬉しそうにベイル先輩の部屋から持って帰ったけど。あれ、本当に選んだのか。
 「レイはそういう格好似合うな」
 カイルが俺を褒めるとは珍しい。俺はちょっと浮かれて、ふふんと笑った。
 「だろ?俺くらいになると、何でも着こなしちゃうけどさ。こういう王子服は、特に似合うだろ?」
 俺の今着ている服は、オーソドックスな王子様スタイルだ。赤い上着に白いズボン。金糸の刺繍や飾りがふんだんに施されている。
 どっかの王子様用に作ったらしいけど、まるで俺の為にしつらえたみたいだ。
 「今日はレイ王子様って呼んでもいいぜ」
 そう言った途端、ため息が聞こえた。
 「黙りなさいよ、馬鹿王子」
 聞きなじんだ呆れ声に、俺は眉を顰める。
 その声は…ライラか……。

ー◇◆◇ーライラ

 2人の姿は遠目からでも目立った。『黒のシックな王子様と、華やかな王子様』そんな女の子たちの声が、耳に入ってくる。
 カイル君は当然かっこいいけど、レイだって黙ってればちゃんと王子様っぽいのよね。顔のつくりは悪くないんだから。
 ただ言動が残念って言うか…。
 「今日はレイ王子様って呼んでもいいぜ」
 得意満面に言う姿は、本当におバカだ。
 思わずため息が漏れる。
 「黙りなさいよ、馬鹿王子」
 私が声をかけると、嫌そうな顔でこちらを見た。
 だが、私の姿を確認すると、驚いたように目を瞬かせる。
 私はレトロなパーティードレスを着ていた。
 胸の所で切り替えしになって、あとはくるぶしまでストンと真っ直ぐな淡い黄緑のドレスだ。薄く柔らかい素材を重ねているので、ボリュームはないが動く度に風をはらんで動く。
 肩の丸く膨らんだ袖には、同色の布で出来た花があしらわれている。
 いつもは三つ編みを上にまとめているが、今日は髪を下ろし生花を飾っていた。
 「ライラ…お前どうしちゃったの?」
 そう言って、上から下まで眺める。
 ……言われると思った。
 レイとは母親同士が親友で、付き合いが長いので、パーティーで会うこともある。
 だがいつもは華やかなドレスを着ることが多く、こういう夢見る少女のようなドレスは着たことがなかった。
 「似合わないって言うんでしょ。どうせ」
 口を尖らせて言うと、カイル君が微かに微笑む。
 「いや、とても似合っている。髪もそうしていると印象が違うな。見違えた」
 なっっっ!!!
 口をパクパクさせて、思わず固まる。
 全身の血が、一気に蒸発するかと思ったっ!
 カイル君の褒め言葉の、何て破壊力っ!
 いつも一緒にいるから少しは慣れたかと思ったけど、全然だったわっ!
 「天然だから真に受けるなよ」
 そう言うレイを、ジロリと睨む。
 わかってるわよ。それ以上でも以下でもないって。まったくいい気分だったのに。
 するとふとカイル君が、会場の何かに反応した。レイもそんなカイル君の様子に気が付いたらしい。
 「どうした?」
 「あ…いや。ちょっと遅いから、フィル様に何かあったのかもしれない」
 何か…。
 そう言われて、ハッとした。
 フィル君ならあるかもしれない。今日は特にっ!
 「カイル君行って!すぐさま行って!」
 私が言うが早いか、カイル君は頷いてあっという間に人の波を抜けていく。
 「何?何かあるのか?」
 レイが訝しげに私を見る。私が誤魔化すように笑うと、何か察したらしい。
 「お前ここでトーマとアリスちゃん待ってろよ」
 レイはそう言ってカイル君の後を追いかけた。私は小さく息を吐いた。
 フィル君無事だといいけど……。
 
ー◇◆◇ーアリス

 カイルに続いて、それを追いかけるようにレイが足早に歩いていくのが見えた。
 それを見送るライラも、息をひとつついている。
 何かあったのかしら?
 首を傾げ、ライラの元へ行く。
 今日の彼女の服は、まるで花の妖精のようだ。優しい色遣いは、いつものイメージとは違うが、とても可愛らしかった。
 こういう格好もっとすればいいのに。でも、本人は柄じゃないって言うのよね。
 「ライラ」
 呼びかけるとライラは振り返り、私を見て微笑んだ。
 「わぁ、アリス素敵っっ!」
 感嘆の声に、少し照れてしまう。
 「そう?」
 「よく見せて」
 ライラに言われて、私は手を広げる。長い袖がひらりとひらめいた。細かい花の模様が入った布は、金糸が入っていてひらめくとキラキラと輝く。
 「これって、この前衣装探しの時に見た民族衣装よね?形が違うと思うんだけど」
 首を傾げて、長く垂れる袖を見る。
 「フィルがアレンジ画を描いて、ベイル先輩が直してくれたの」
 「フィル君が?何でもやるわね、本当に」
 驚くライラに、私はコクリと頷いて笑った。
 「もともとの衣装が、フィルの知っている『キモノ』っていう民族衣装に似ていたらしくってね。そのキモノって言うのに近付けてくれたの」
 お腹に巻いている帯が少し苦しいけど、帯を使って作られたリボンがとても可愛い。フィルが作ってくれたこのゾウリと言うのも可愛いし。
 「真っ直ぐな黒髪に、華やかな生地が合ってるわ。まるで人形みたいね」
 「ありがとう」
 ライラに向かって、にっこりと微笑んだ。
 そう言えば、フィルに見せた時も『すっごい可愛いよー!ニホン人形みたい!』と喜んでくれたっけ。
 思い出して小さく笑う。
 「え、何?思い出し笑い?どうせフィル君絡みでしょう」
 ニヤリと笑って指摘され、カァッと頬が紅潮する。
 もう、ライラったらそういうところ鋭いんだから。
 「そ、そう言えば、さっきカイルとレイがどこかに向かったみたいだったけど。何かあったの?」
 ライラは唸って、息を吐く。
 「それが、フィル君に何かあったかもって…」
 私は小さく息を飲んだ。
 「フィルに?」
 私は不安な気持ちで、ライラを見つめた。ライラは慌てたように、私の手を握る。
 「ごめん!まだ何かあったって、決まってないから!でも…」
 「でも?」
 珍しく口ごもるので、私は先を促すように彼女の顔を覗き込んだ。
 「私…フィル君にすすめた服あるのよ。ほら、ファンクラブとかしつこいじゃない?だから、ある意味変装にって思ったんだけど…。フィル君じゃ、変装にならなかったかも……」
 腕を組んだライラは、考え込むように唸り、天井を見上げて大きなため息を吐く。
 すると、そこへモコモコとした物体がやって来た。
 「と……トーマ……?!」
 ビックリした。本物の羊かと思った。
 「あれ?まだフィル戻ってきてないの?」
 トーマはモコモコさせながら、目を瞬かせて首を傾げた。

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