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第11章〜転生王子と秘密基地

番外編 その時フィルは・・・(ハロウィン編 後編)

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 ただ飲み物を取りに来ただけなのに……。
 俺は憂鬱な気分で、男子生徒たちに囲まれていた。
 「あ、あのっ!な、名前なんて言うのっ?」
 「何年生っ?」
 「俺とお友達になってくださいっ!」
 「あっ!お前ずるいぞっ!俺とも友達に!」
 「僕ともっ!!」
 次々上がる手に、俺はじんわりと冷や汗をかいた。
 おかしい。ライラに言われて変装したのに。この事態は何なんだ?
 変装すれは騒がれないんじゃなかったのか?だから、あえてこの格好にしたのに…。
 俺は自分の恰好を見下ろす。
 俺は今、水色のふんわり可愛いドレスを着ていた。
 肩と胸元に若草色の大きなリボンがついていて、ふんわり広がったスカートには小さな鉱石がちりばめられている。
 ……そう。俺は、プリンセスになっていた。
 髪の毛も金髪のウィッグをつけており、薄く化粧もしているので完璧俺だと分からないと思っていたのだが……。
 よもや、その俺だとわからない男子生徒たちによって、素性を問い詰められるはめになろうとは……。
 しかも、これ、明らかにナンパだよね。
 彼らの勘違いを思うと、ここで俺の変装だとばれるのは良くない気がする。
 意外に男の子はデリケートで傷つきやすい。ナンパしたら男だったなんて、変なトラウマになったらかわいそうだ。
 鋼鉄のハートを持つレイならいざ知らず。

 どうにかして穏便に抜け出す方法はないものだろうか?
 俺がそう思っていると、男子生徒の壁の向こうからある人の声が聞こえてきた。
 「お前たち、何でここに固まってるんだっ?先輩方も邪魔じゃないですか!」
 プリプリしながら入ってきたのは、寮長のルーク・ジャイロ先輩だった。
 今日の彼の仮装は、近衛隊が着るような青い制服だ。
 「いったい何に集まって―……」
 そう言いかけて、俺とバッチリ目が合う。寮長はポカンとした顔になったまま、動かなくなってしまった。
 ……やばい。俺だってばれたかな。
 俺は口を引き結ぶ。
 「お、おい、ルーク。寮長!」
 動かなくなった寮長の体を、先輩が揺らす。するとハッとして、夢でも見ていたかのように辺りを見回した。
 「あ、すみません。あの…彼女はいったい?」
 「だから今、俺たちが名前聞いてるんだけど…。教えてくれないんだよ」
 口を尖らす男子生徒に、寮長は納得したように頷いた。
 「こんなか弱そうな女の子、皆寄ってたかってじゃ怖がるのも当然ですよ」
 寮長は生徒達をひと睨みすると、俺に向かってにっこり微笑んだ。
 俺はぎこちなく微笑み返す。
 よし!俺が誰だかわかってない。
 逃げよう。ばれる前にさっさと逃げよう。
 「あの……友達に飲み物持っていきたいのですけど」
 ぶっちゃけもう飲み物どころではなくなってしまったが、口実としてお願いしてみる。出来れば早く帰りたい。
 もし逃げる隙があったら、トーマには悪いが飲み物は諦めよう。

 「その前に、せめて名前だけでもっ!」
 そう言って、取り囲んでいた男子生徒が皆で拝み始める。
 聞かない方が絶対にいいってぇー。
 俺だっていくら仮装パーティーとは言え、女装していたなんて変な噂立ちたくないんだから。
 俺は「お願い助けて」と、強い意志でもって寮長を見上げた。寮長は動揺したように目を彷徨わせる。
 「わ、わかりました。俺…僕が責任をもって、お友達の所へ送り届けます。ただ…それではここにいる生徒を納得させることは出来ないと思うので…な、名前を教えてあげたらどうかな?」
 頬を紅潮させて、ぎこちなく微笑む。
 そんな寮長を前に、俺は心の中で地団太を踏んだ。
 何故、俺の意図を読み取ってくれないっ!

 「お前ら、どうした?」
 見上げると、そこにはマクベアー先輩がいた。
 その姿を見て、皆あんぐりと口を開ける。
 グラディエーターがそこにいた。
 上半身裸で、下は布を巻きつけ。皮と鉄の混在した防具を身に着けている。
 似合いすぎて、何も言えない。
 「何か問題でもあったのか?」
 武器も持っていないのに、素手で充分強そうなのはなんでだろうか?
 盛り上がった筋肉には、誰も逆らえそうにない。
 「あ、いや、別に…何も……」
 近くにいた男子生徒たちは、そそくさと逃げ出した。
 残されたのは俺と、マクベアー先輩と、寮長。
 「何だ?お前も騒ぎの中にいたのか?珍しいな」
 寮長を見て、マクベアー先輩が意外そうな声を出す。
 何か言い返そうと、寮長は口をパクパクさせていたが、やがてガクリと首を落とした。
 「……すみません」
 ミイラ取りがミイラになった自覚はあったのだろう。
 2時間サスペンスで捕まった犯人のように、シュンと背を丸めて小さくなった。 
 もう、今しかない。
 俺はこの隙に抜け出すことにした。
 去り際に寮長に気付かれたが、ギリギリで何とか脱出する。
 これ以上そばにいて、正体がばれたくないからな。飲み物は後で改めて取りにこよう。
 ドレスの裾をつまみながら、足早に歩く。
 とりあえず、ベイル先輩捕まえて着替えよう。
 ベイル先輩には万が一に備え、別の服を用意しておいてくれる約束になっていた。
 変装したって騒がれるなら、俺のままだって同じことだ。
 
 そんなことを考えていたら、急に前につんのめる。
 「うわっ!」
 気を付けてはいたが、スカートさばきが上手くできなかったようだ。
 誰かの服の金具が、スカートに引っかかったらしい。それはすぐ取れたが、そのまま体勢を崩す。
 やばっ!
 その時、転ぶかと思った俺を、誰かが受け止めた。
 「大丈夫?」
 「あ、すみませ…」
 顔を上げて固まる。
 デュラント先輩だーーーーっ!!
 間近で瞳が合って、デュラント先輩は驚いたように目を見開く。それから、彼は呟いた。
 「あれ…?フィル君?」
 ……………すぐばれたし。
 支えてもらった体勢から元の位置に戻ると、俺はガックリと肩を落とし頭を下げる。
 「助けて…いだいて…ありがとうございます」
 この人だけには、ばれたくなかった。
 「君のことを探していたのだけど。まさか、そんな格好していると思わなかったな」
 口元を手で隠し、幾分か笑いを含んだ声で言う。
 「変装のつもりだったんですけど…。これから、ベイル先輩探して着替えます…」
 「可憐で可愛いのに」
 さっきから肩を震わせといて、言う言葉じゃないよね?

 それにしてもと、改めてデュラント先輩を見た。
 「デュラント先輩も意外です。その恰好」
 「ベイル先輩に遊ばれてしまってね」
 薄く笑うデュラント先輩の恰好は、海賊の格好だ。
 こちらの世界の海賊服も、前世の大航海時代の海賊服とそう恰好は変わらない。
 だが、ベイル先輩のこだわりを盛り込んでいるらしく、相当手の込んだものだった。
 模様の入った三角帽をかぶり、白いシャツにダークブラウンのズボン、ズボンと同色のロングブーツを履いている。太めのベルトには臙脂のロングスカーフを垂らし、黒のロングジャケットは、着ずに肩に羽織るようにしていた。
 デュラント先輩と言えば、『カリスマ王子』『品行方正な生徒総長』というイメージだから、この海賊服はちょっとダークな感じで面白い。
 少しシャツをくつろげていたり、ゆるい感じに着こなしているのに、やはり品性を隠しきれないのは王子ゆえか。
 「今日はメガネしてないんですね?」
 「ベイル先輩のこだわりだそうだ。まぁ、文字を読むときは必要だが、もともとそこまで悪くはないから」
 出来れば俺の顔が判別できないくらい、悪かったら良かったのに。
 「でも、こういったパーティーも楽しいね。フィル君の案にはいつも驚かされる」
 「そうですか?」
 まぁ、それも前世ありきだと思うんだけど。
 唸る俺を、デュラント先輩が笑う。 
 「さて、もっと話をしたかったが、お友達がやって来たようだから、私は行くとしようか」
 デュラント先輩の視線の先を見ると、カイルがやって来るところだった。
 「ベイルはあの衝立の向こうにいるよ。不眠不休で頑張っていたからね。休憩させているんだ」
 そう言って室内訓練場の隅にある衝立を指さす。
 そっかぁ。ベイル先輩、今朝会った時も寝不足のせいか、顔色悪かったもんな。
 「ありがとうございます」
 俺はペコリと頭を下げた。

−◇◇◇−

 「やっぱり俺信じられないっ!」
 レイが嘆くように叫ぶ。
 「シッ!声大きいよ。目立っちゃうじゃないか」
 俺は眉を顰めて振り返る。
 ただでさえ、目立つ格好のカイルとレイを従えているんだから。
 「だって、こんな可憐ですっげー可愛いお姫様が、フ…もがっ!」
 レイは俺の名前を言おうとする寸前で、カイルによって口がふさがれた。
 「ばれるようなことを言うな」
 カイルに釘をさされて、レイはこくこくと小刻みに頷く。解放されたレイは、大きく息を吐いた。
 「しかし、ライラの案を採用するとは……。俺は逆の発想だな。仮装パーティーなんだから、盛大に目立っちゃった方がいいと思うんだけど」
 肩をすくめるレイに、俺は息をつく。
 「目立つのやなんだよ」
 「でも、すでに可愛いくて目立ってるじゃん」
 笑うレイに、俺は「ウッ」と言葉を詰まらせる。それから、プイッと顔をそらして足を早めた。
 「とりあえず、ベイル先輩のとこで着替えよう」
 衝立の所に行くと、ベイル先輩が簡易的な椅子に腰掛けていた。
 どれだけ頑張ったのか、うつらうつらとしている。
 「ベイル先輩大丈夫ですか?」
 「あ……あーフィル君。一瞬天使がお迎え来たかと思った」
 気だるい様子で目を擦る。
 本当に大丈夫か。
 ベイル先輩の顔は、疲れ切っていた。目の下に、濃いクマを作っている。
 「あぁ……着替えに来たのかい?それならそこに服が……」
 そう言って、またうつらうつらし始めた。
 俺が仮装パーティーしようなんて言ったばかりに……。
 ちょっぴり後悔しながら、服を取り出す。
 黒のズボンに、青いジャケットだ。
 王子っぽい衣装だろうか?
 金糸の刺繍や、付いている装飾も見事だが、レイの衣装より大人しめでホッとする。
 
 着替え終わって、ベイル先輩に声をかけた。
 「服ありがとうございました」
 夢と現の間にいるベイル先輩が、へらっと幸せそうに笑いながらムニャムニャと呟く。
 「ありがとうね……フィル君。仮装パーティー開こうって言ってくれて……」
 そう言って、寝息を立て始めた。
 少しは役に立てた…のかな?
 ベイル先輩の寝顔を見ながら、小さく笑う。

 「じゃ、アリス達迎え行こうか?」
 だが、レイはそんな俺を手で制止する。俺とカイルが首を傾げると、レイはチッチッチと舌を鳴らした。
 「まだ、その衣装完璧じゃないぜ」
 見ると、先ほど置いてあった服の脇に、何か置いてあった。
 気付かなかったな。
 えっと、縁に白のファーがついた臙脂色のマントと……おうか……王冠っっ?!
 レプリカらしく、軽かったが、小ぶりのそれは確かに王冠の形をしていた。
 「え。いや、これは、さすがに……」
 あわあわとする俺に、レイはニヤリと笑った。

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