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第11章〜転生王子と秘密基地

番外編 もふもふパーティー(ハロウィン編 おまけ)

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 未だ盛り上がるパーティーから抜け出し、いつもの6人でこっそりと来たのは、例の秘密基地。
 飲み物や食べ物を抱えて、俺たちは扉を開ける。
 中には皆の召喚獣たちが、のんびりくつろいでいた。
 ホタルがいるせいか、室内はとても暖かかい。

 ヒスイがふわりと飛んできて、俺たちの前に降り立つ。
 【お帰りなさいませ】
 「ただいま」
 ヒスイは踊り子の衣装に、身を包んでいた。
 レイが「おぉぉ!美しい!」と声をあげ、ライラとアリスも「綺麗」とうっとり見つめる。
 エメラルドグリーンの衣装は、ヒスイのライトグリーンの髪や瞳にとても合っていた。
 別れた時に着ていたチャイナ服のような、タイトなワンピースも似合っていたけど……。
 自分の意志で衣装替えが出来るヒスイは、この仮装パーティーを誰よりも楽しんでいるようだ。

 【フィル様〜っ!待ちくたびれたっす!】
 トテトテとテンガがやってきて、俺の足元にまとわりつく。
 召喚獣たちも仮装をしている。
 衣装はすべてベイル先輩が、縫ってくれた。
 他の人のサイズ直しで忙しかっただろうに、お礼だからと作ってくれたのだ。
 袋鼠フクロネズミテンガは、狼の着ぐるみを着ていた。コクヨウをアニキと慕い、憧れを抱く本人たっての希望である。
 だがいかんせん、姿がワラビーなので、直立状態だと狼に見えにくいのが難点だ。
 【フィル様、お疲れ様です〜】
 毛玉猫のホタルは、虎の着ぐるみを着ていた。同じ猫科として、これまた強いものに憧れがあるのだろう。
 だが、フォルムのせいだろうか?
 ホタルの場合、丸い虎にぱっくり食べられているだけに見える。
 でもやっぱ、着ぐるみは最強だな。すごく可愛いや。
 机に持ってきた荷物を置いて、2匹を撫でてやる。

 【フィル〜!コハクも!】
 光鶏コウケイのコハクが足を駆け上がり、俺の膝を羽でペシペシと叩く。
 どうやら自分も撫でろとの要求らしい。
 撫でろって言ってもなぁ。
 カボチャにふんしたコハクには、出ている部分が少ない。布と綿で立体的に作られているオレンジ色のカボチャは、コハクの顔と羽と足だけしか出ていなかった。
 「わぁ!コハク、ポクムの仮装なんだ?可愛いね」
 トーマがクスクスと笑う。
 こちらの世界でカボチャは、ポクムと呼ばれている。
 ベイル先輩には何でポクムの仮装なのか不思議がられたが、ハロウィンと言ったらこれしかないもんな。
 「ねぇ、エリザベス。あんな格好も可愛いかったかもね」
 トーマはそう言いながら、長耳兎ナガミミウサギのエリザベスを抱きかかえる。
 トーマが着ている羊の着ぐるみの白いモコモコと、エリザベスの白い毛が一体化していた。今日のエリザベスは、純白のウェディングドレスなのでより一層だ。
 【絶対イヤ!冗談じゃないわよ!】
 ゲシゲシとトーマを蹴る。いつもは痛がるのだろうが、今日はモコモコがクッションとなり、ノーダメージらしい。
 エリザベスを抱き締めながら、トーマはのほほんと笑う。
 「エリザベスは、どんな格好もきっと似合うと思うんだぁ」
 【そ、そんなに言うんだったら、着てやらなくもないけど!】
 そう言って、プイッとそっぽを向く。
 エリザベス、相変わらずのツンデレだなぁ……。
 そんなことを思いながら、コハクを手のひらに乗せ、指で撫でる。ポクムの着ぐるみの重みでころりと転がった。
 コハクはそれもまた楽しいらしく、ジタバタしながら遊んでいる。

 【フィル、戻ってきたなら、これをどうにかしろ】
 俺がコハクを転がしていると、コクヨウが俺の膝に乗ってきた。
 【動きにくくてかなわん】
 そう言って、タンタンと足踏みする。
 「か、可愛いぃっ!」
 アリスとライラが口を押さえて、コクヨウを見つめた。
 今日のコクヨウは、茶色のくまちゃんぬいぐるみバージョンだ。可愛らしくにっこり笑うくまちゃんの顔の下で、不機嫌満載の顔になっている。でもその顔も、またギャップがあって可愛かった。
 「可愛いのに。ねぇ、カイル」
 カイルに同意を求める。コクヨウがジトリとカイルを睨むと、カイルは顔を引きつらせた。
 「え、いや……俺からは何とも……」
 コクヨウはフンと鼻息をつく。
 【可愛いと言われても、嬉しくないわ】
 コクヨウはそう言って、着ぐるみの足をカジカジと噛む。俺は慌ててそれを止めさせた。
 「せっかくなんだから、もうちょっと着ていようよ。ほら、今日はポクムのプリンあるんだよ」
 にっこり笑って、オレンジ色のプリンを差し出す。一瞬にして、コクヨウの視線はそれに釘付けになった。
 【……流されるのはしゃくだが、食うまで我慢しやってもいい】
 そう言って胸を張ると、カボチャプリンにがっつき始める。
 
 それを合図に、俺たちも持ってきた食べ物を食べることにした。
 皆に注目されて、飲食出来る感じじゃなかったからな。
 「ポクムのプリン美味しいっ!これもグレスハートのプリン?」
 ライラがキラキラとプリンの容器を見つめる。
 「うん。新作。たまにはいいでしょ」
 「あぁ、テンガくんがいたら、世界に手広く商売できるのに」
 残念そうなライラの言葉を聞いて、テンガは俺の足に張り付いた。
 【袋壊れちゃうっす!】
 「ライラ、テンガが袋壊れるって言ってるぞ」
 カイルがテンガの言葉を通訳すると、ライラは慌てた。
 「ごめんごめん!冗談だから……いいなとは思ってるけど」
 後半の呟きが聞こえたのか、テンガは震えた。
 それ、本気じゃん。
 
 「フィル、お茶どうぞ」
 着物を着たアリスが、そっとマクリナ茶を出してくれる。
 サラサラの黒髪に藍色の瞳が、着物と合って何とも可愛らしい。
 そうしていると、本当に日本人形みたいだ。
 「ありがと」
 渋みと甘みが口に広がる。ホッと息を吐くと、俺はお茶を一気に飲み干した。
 「パーティーは楽しいけど疲れたね」
 それを聞いて、カイルが苦笑した。
 「フィル様は特に……ですよね」
 その言葉に、他の皆がコックリと頷く。
 「デュラント先輩はかっこ良くて、マクベアー先輩は迫力あったけど、やっぱりフィル君が一番目立ってたわ」
 腕を組んで息をつくライラに、レイがうっとりと遠くを見る。
 「すっげー可愛かったもんなぁ」
 俺は拗ねたように、口を尖らせる。
 「皆だって目立ってたじゃないか」
 俺ひとりだけではない。
 だが、レイはそんな俺に向かって、ニヤリと笑った。
 「それだって、フィルには敵わないだろう?何せフィルは、着替えたあと、皆に……」
 「やめてっ!それ言わないでっ!」
 叫ぶと「わぁっ!」と両手で顔を覆った。
 そんな様子に、ホタルが心配そうに俺を見上げる。
 【フィル様どうしたです?】
 【何があったっすか?いじめられたっすか?どうしたっすか?】
 テンガは俺の顔を窺うためか、右に左にと移動しながら覗き込んでくる。テンガの反復横跳びを眺めながら、先ほどあった出来事を思い出していた。

 お姫様の格好から、着替えていた時の話だ……。
 予想だにしなかった。
 ベイル先輩の用意した服が、王子様の衣装ではなく、王様の衣装だったとは――。
 会場に王子様の恰好をした生徒は数多くあれど、さすがに王様は俺だけだった。
 でも不眠不休でわざわざ用意してくれたベイル先輩の気持ちを考えると、着ないわけにもいかなくて……。
 結局レイの勧めるまま、小さな王冠を頭にのせ、ファーの付いた臙脂色のマントを着て会場に出たのだった。

 そのざわめく会場で、さざ波のように広がっていった単語ーーー『少年王』。

 いくら仮装パーティーだからって、恥ずかしいネーミングっ!
 「うぅ……ご大層な名前付けられるくらいなら、まだ『ちびっこ王』のが良かった……」
 そう嘆くように呟くと、氷亀のザクロが俺の足を叩いた。
 【フィル様っ!安心してくだせぇ!フィル様を悲しませるやからは、このザクロが許しはしねぇ】
 そう言って、足元でポーズを決める。
 今日のザクロの格好は、お奉行様コスプレだ。ベイル先輩が、俺のイメージ通りに細部まで作ってくれ、チョンマゲカツラにかみしもを着ている。
 ザクロはお奉行の何たるかを知らないのだが、正義の味方だと伝えたらいたく気に入ったようだった。
 オーバーリアクションの言動が、何だか動物時代劇でも見ているみたいだ。
 【ロイも手伝うっ!】
 レイの召喚獣である砂猿のロイには、同心の恰好をしてもらった。未だにザクロを心酔していて、仲間の恰好がいいと言うのでそれにしたのだ。やはりお奉行の手足になると言ったら、同心だろう。
 反復横跳びのテンガに動物時代劇……。見ていたら、何だか可笑しくなってしまった。
 【フィル、元気でた〜?】
 コハクが俺を見上げる。他の召喚獣たちも、心配げに様子を窺っていた。
 「皆、心配してくれてどうもありがとう。元気でたよ」
 にっこり微笑むと、カイルたちもホッとしたように笑う。

 しかし、そんな中トーマがしょんぼりと肩を落としていた。そうしているのは珍しい。
 「どうしたんだ?トーマ」
 レイが首を傾げると、トーマは唸る。
 「んー……、妖精のようなライラ、お人形のようなアリス、黒の王子カイルとキンキラ王子レイ……って言われてたじゃない?」
 「……そのキンキラって悪口じゃないよな?」
 レイの質問が聞こえているのかいないのか、トーマは無視してフゥと息をつく。
 「フィルなんかお姫様と少年王……」
 だからその呼び名やめて。
 「そう考えると、今日の仮装、僕だけ地味なんだなぁと思って……」
 
 は?

 「トーマ……フィル様の次に目立ってたぞ」
 「え?」
 カイルの言葉にトーマがキョトンとした。「本当だ」というように、俺たちは深く頷いた。
 トーマのモコモコ羊、すごく目立っていたよ。クオリティハンパなくて。
 本物の羊が紛れ込んだんじゃないかって、ちょっとした騒ぎが起こってた。

 【確かに……モコモコしていて、本物の羊ぽいな】
 プリンを食べ終わったコクヨウは、トーマを見ながら呟いた。
 「これあげるから、食べちゃダメ!」
 俺はすぐさま、自分のプリンを差し出した。
 【わかっておるわ】
 
 ……本当か?


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