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第4章

帰還・勇往邁進

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山を無事に降りた俺と、俺の背中で熟睡するワイムス。
もうここで置いて行っちゃおうかなと何度も思ったが、眠ったままモンスターに食われてしまいました、では俺の目覚めが悪い。ここまで面倒を見たんだ。最後まで付き合って、ワイムスからの信頼を得たほうがいい。今後二度と噛み付かせないように。

トコルワナ山から一番近い村に寄り、一晩明かした。ワイムスは心身ともに相当疲れていたのか、朝まで一切起きなかったらしい。
だが俺が目覚めたころには先に出てしまったと宿の人に言われ、あんにゃろふざけんじゃねぇぞこんにゃろと憤慨。猛烈ダッシュで後を追った。

硬くてもベッドで眠れるって幸せよね、なんて昼過ぎまで寝ていた俺が悪いんだけど。


「ふっざけんなワイムスーーーーッ!」
「ぎゃああああ!なんでそんなに早く走れんだよ!」
「走るのが得意なのはお前だけじゃないんだよ!うらあっ!恩を仇で返しやがってこのおたんちん!」
「勝負は勝負だろうがーーーっ!」
「昼過ぎまで放置するとかひでぇんだよ!」
「知るかよ!起きなかったアンタが悪いんだろうが!」
「言ったな??言ったなーーーーっ!」
「ぎゃああああああああ!」

そうして俺とワイムスはベルカイムに戻るまで、馬とマラソンで互いをののしり合いながら走り続けた。ワイムスが借りたという馬は駿馬。なかなか素晴らしい走りを見せている。
日が傾き始めたころ、ベルカイムの高い壁が見えた。このまま走り続ければ俺の勝ちだが、前方から黒い塊が猛スピードでこっちを目指してやってきた。
あの塊には見覚えがある。

「ピュイイイィーーーッ!」
「お?ビーか!」
「ピュイ!ピュイィッ!ピュピューイ」
「いやちょい待て、うべっ、まだ、決着がついていないから、邪魔しないっ!」
「ピュイィィ!ピュイイィィ〜〜〜ッ、ブピーッ」
「あーもー泣かない、泣かないの。鼻水拭くな!」

顔面に飛びついて再会の喜びを全身で表現するのは嬉しいが、生臭い腹を押し付けるんじゃない。コイツ、昨夜は風呂に入らなかったな。思わぬ妨害に走る速度が落ちる。

「ドラゴンの協力はナシだからな!」
「生臭いのを我慢しているだけの俺に何を言ってんだよ!ビー、アイツに生臭攻撃だ!」
「ピュイイッ?!」

ベルカイムの大門が近づく。
ワイムスは未だ早く戻ったほうが勝ちだと思っているらしいが、素材採取勝負の勝敗のつけ方は早さではない。いかに顧客を満足させられるかだ。
きっと彼は先に戻ったほうが勝ちだと思い込んでいる。ギルドがあえて勝敗のつけ方を言わなかったのは、それすらも自分で考えろってことなんじゃないかな。

いやしかし、目の色変えて馬を急かしているワイムスにそんなことを考えている余裕はない。とにかく先にベルカイムに戻ることしか考えていないんだろう。

「俺は、絶対に、負けたくないんだ!!」

その意気込みは素晴らしい。
俺はワイムスにいろいろな技を披露した。凶悪なモンスターにだって倒したし、盗賊だってなんとかすることが出来た。盗賊の捕縛についてはうやむやにしたが、それでもワイムスが気絶したあと対処したのは俺。
単細胞だが決して愚か者ではない彼も、悟っているはずだ。俺には勝てないと。

それでも勝ちたいと、何とかして勝ちたいと戦っている。
これは矜持だけでは無いのだろう。

勝たなくてはならない理由があるんだ。



纏わりつくビーを宥めながらベルカイムに戻ると、俺の帰りを案じていただろう面々が大門で迎えてくれた。
栄誉の竜王が同行しないだけでこれほど心配されるなんて、俺ってばそんなに軟弱そうに見えるわけ?カニ退治ならクレイよりも得意なのに。

「タケル!おう!無事に戻ったか!」

大門を塞ぐように仁王立つのは巨人のギルドマスター。出迎えは有り難いが、あのひとほんとに仕事してんのかな。
その巨人に頭を捕まれているのは、ぶすくれた顔をしたワイムス。無事にベルカイムまで先に帰れたようだが、彼は肝心なものを忘れていた。

そう。
依頼の品だ。
あの巨大なサンタ袋は、俺の鞄の中にあるのだ。

「ただいまー」
「タケルさんお帰りなさい!お怪我はありませんぴゃッ」
「アタシすっごい心配だったんですよ!タケルさんに何かあったらどうしよぷっ」
「見え見えな嘘つくんじゃありませんよ、アリアンナ、エトナ。私こそ一番タケルさんを案ジョッ」

ビャッとひっついてきたギルド三人娘の頭を小気味よく叩いたのはウェイド。
ウェイドは困ったように笑いながら俺の足元から頭までをくまなくチェックする。彼はこうやって所属冒険者が帰還する度に大きな怪我をしていないか調べるのだ。

「どうだ、成果は」
「上々ですよ。ワイムスが一緒に居たので思った以上の成果を得られました」

俺一人でも何とかなった。
ギルドもそれは想定していただろう。ワイムスに構わず、自分の仕事を淡々とこなせばいいのだと。
しかし俺はそれをしない。自分さえ良ければ後はどうでもいい、という考え方がどうしても出来なかった。手助けできる余裕があるのなら、手を差し伸べたいと思うのは災害大国に住んでいたものなら誰しも考えることだろう。実際にやるやらないは別。

もしもワイムスが本当に、心の底から憎らしくて、もう救いようなくてコイツ駄目、嫌い、と諦めるような人間だったら、俺もきっとそうしていた。ワイムスのことを早々に見放した。

だが、違った。
彼にも彼なりの矜持があり、守りたいものがあった。
ワイムスこそ目的のものを手に入れたら俺を置いて山を下りれば良かったんだ。だけど、そうしなかった。レインボーシープの群れに癒されたとも言うが、七色ウールの利用方法なんて教えてくれたんだ。
薬草の効能も教えてくれた。俺に新しい知識を与えてくれた。

「タケルさん…あの、私…」

申し訳なさそうに俯きながら近寄ってきたのはグリット。大きな尻尾をしゅんと垂れ下げている。
グリットの思惑もギルドの真意も全て理解している今、文句なんて言えるわけないって。

「グリットさん、アイツはすごいですね」
「えっ?」
「ワイムスですよ。そりゃ性格は最悪ですよ?直ぐにキレるし、短気だし、怒りっぽいし、誰かのせいにして文句ばっかり。彼ほど扱いにくい人間はちょっと珍しいくらい」
「……なんかすみません」

まるで問題児を保護者に報告する教師の心境。俺も出来が良いとは言えない生徒だったから、当時の担任がどれほど大変だったのか思い知る。

「だけど彼の知識は凄い。俺が知らなかった細かいことをよく知っているんだ」

俺は状態が良ければいいだろうという考えで採取をしていた。調査(スキャン)すればわかることかもしれないが、無数にある素材をいちいち細かく調べることはしない。気まぐれに図書館で図鑑を読む程度。

「口も悪いし小狡い。だが、彼の知識だけは本物だ。依頼(クエスト)を選り好みしてしまう悪い癖さえ直せば、もっと凄い採取家になるんじゃないかな」

出来ればそうなってほしい。
エウロパが誇る高位ランクの採取家になってくれれば、グリットやチェルシーさんの心労は減る。それに下位ランクの採取家の育成にも繋がる。

「グリットさん、ベルカイムに文字の読み書きを教えてくれるところはありますか?」
「えっ?ええと、一応あります」
「それならワイムス君に文字の読み書きを教えてやってください。彼が図書館にある素材図鑑などを読むことが出来れば、もっともっと採取家としての幅が広がる」

彼だけじゃない。冒険者には文字の読み書きを教えるべきなんだ。
本にはモンスターの対処法だって生息地だって書いてある。先人の教えを聞かずとも読むことが出来る。基礎的な知識があれば、あとは応用をすればいい。ワイムスのように本には載っていない知識を持っている人に聞けばいいし、基礎知識を利用して交渉だって出来るだろう。
自分はこういった情報を持っているから、そのかわりに貴方の知っていることを教えてください、ってなかんじで。

俺は恩恵があるから世界のどんな言語も理解することが出来る。だが、教えることは出来ない。感覚で言語の違いしかわからないから、その言語をどう理解すればいいのか俺自身もわからないんだ。
本の読み聞かせは出来るが…音読は苦手なんだよ。ポラポーラの日記が軽いトラウマです。

「タケルさん、それは本当ですか?」
「まあ、誰かに何かを教えてもらうっていうことを苦手としているだろうワイムス君に、それが耐えられるかはわからないが…」

やってもらうしかない。
むしろやれ。
頭ひっぱたいてでもやらせろ。

鞄から巨大なサンタ袋を取り出すと、周りのやじ馬がどよめいた。

「おいおいタケル、まさかそれが七色ウールなのか?」

ウェイドがつぶらな瞳を輝かせてサンタ袋を指さす。
彼らが驚くのも無理はない。七色ウールは希少価値が高い。レインボーシープがすばしっこく逃げ足が速く警戒心が強いため、採取できる七色ウールも極わずか。
俺とワイムスのようにタッグを組んでどうにかして採取するしか術がない為、希少とされているのだ。

「これはワイムス君のぶん。俺のは、こっち」

同じ大きさのサンタ袋を更に取り出すと、やじ馬は更に驚き歓声を上げた。

「こりゃあすげえな!テメェならどうにかして採取してくるたぁ思ったが、こんな大量だとは想像すらしてなかったぜ。しかもなんだよ、ワイムスの荷物をテメェが持っていたのか?」
「うるせぇ。り、理由があるんだよ!」
「どっちにしろワイムス、依頼の品を忘れてテメェだけが戻ってくるなんてのは冒険家としてありえねぇ失態だ。それはわかっているんだろうな」

ギルドマスターの威圧にワイムスは震えている。
蛇に睨まれたアリンコ状態のワイムスはギルドマスターを睨み上げた。流石に反論など出来ないのだろう。ワイムスも自分の失態は認めているようだ。

「でもまあ、危険地帯だと言われているトコルワナに行って無事に戻って来られたんだ。依頼(クエスト)も大切だがな、お前ら冒険者はテメェの命も大切にしないとなんねぇ。それはわかっているよな!」
「「「「うおおおおお!!」」」」

いやこんな街の大門でお祭り騒ぎとかやめて。
ギルドマスター、いいこと言っているのはわかるんだけど、ベルカイムに入りたい人たちが何してんのコイツらって目でこっち見ている。

「こ、これは…!とんでもなく素晴らしい品ですよマスター!」

サンタ袋からグリットが取り出した七色ウール。
二人で出来るだけ汚い部分を取り除いた、美しい毛並みのかたまり。なんでもかんでも袋に詰めようとしていたワイムスを叩き、この素材を受け取る依頼主のことを考えろと説教した。
領主だから、貴族だからということだけではない。この品は金銭に繋がる。報酬を得るためには最高の状態で品を届けなければならない。

「ワイムスさん、タケルさん、私は長いこと鑑定士をやっておりますが、ここまで見事な七色ウールを見たのは初めてです」
「本当か…?」

凹んでいたワイムスがグリットの喜ぶ声で顔を上げた。耳も尻尾もヒゲすらもピンと立てて大興奮。

「ええ、ええ、マスターもご覧なさい!一つ一つの塊の色は違いますが、こうやって日に照らして見ると一本一本が七色に輝いて見えるのです。これが七色ウールと呼ばれている所以です。これに文句をつける者が居たとしたら、例え王様であろうと私は許しませんよ!」
「おいおい、そりゃあ物騒だな。だがしかしこりゃあ…。うん、すげぇな。量もさることながら毛の状態もいい。どうやってこんな大量に採取できたんだ」

俺は黙っていた。
ギルドマスターと視線が合ったが、その視線をワイムスに移す。ワイムスは俺の視線に気づき、慌てて言葉を探した。

「……俺は、俺は一人じゃ採取できなかった。レインボーシープはおそろしくすばしっこくて…捕まえることなんか出来なかった。でもアイツが、タケルが…妙な技でレインボーシープを集めて、毛を抜いたんだよ」

妙な技って言うな。
るるるで集めて許可を貰って毛をすいただけだ。
やじ馬の視線が一気に俺に集まる。

「俺がレインボーシープを宥めている間、ワイムス君が毛をすいてくれたんだ。俺一人の力じゃない。コイツがいたからこれだけの成果を上げられたんだ」

ワイムスのことを知っている冒険者達からどよめきが上がった。『そんなまさか』とか『信じられない』とか。
俺は世辞なんか言わない。社交辞令は顧客相手のみ発動する。嘘をつくことも良しとしていない。誤魔化すことなんて絶対にしない。それが素材採取家としての俺のセールスポイント。
そうして信用できる人間として仕事を続けていたおかげで、俺の言葉は信頼度が高い。

「言っておくけど、俺は嘘をついていないからな」

念を押すと、俺を疑っていた連中が次第に『そうなのかもしれない』と思い始めている。
これは洗脳じゃない。事実を言っているまでだ。

「素材採取勝負って言っても、どっちが多く依頼の品を集められるか、早く帰って来られるか、ってことじゃないんだろう?」

ギルドマスターに面と向かって指摘してやると、マスターは気まずそうに頭をがしがしとかいた。

「ううむ、まあ、そうだな。くそ、お前にはお見通しってわけかよ」
「俺も最初は速さ勝負かなって思った。だけど依頼の品がレインボーシープの七色ウールってことで気付いた」

単独では決して採取することが出来ない品。
それが対象なら、どうにかして協力し合わないとならない。
レインボーシープに行動不能の魔法をかけて一人で毛を採取することも出来た。ギルドとしては俺がその判断を選んでも何も言わなかっただろう。
だけど、賭けた。

俺の良心に。

「言っておくけどこういったことは今後二度としないからな」
「ふんっ、テメェはもっとギルドに貢献しやがれ」
「さんざん貢献しているだろうが」
「ピュイイイ」

ギルドマスターの腹を叩き、ギルドマスターに頭を小突かれ、涙を流して喜ぶグリットを見た。
そのグリットの姿を見たワイムスの心に何が芽生えたのか。



勝負の結果は翌日発表されることになった。







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OJT編は次の次で終わります。
ほんとお疲れ様でございます…
冒険したい旅行したい

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