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第4章

決着・水到渠成

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ギルドから素材採取勝負の結果が発表された。

最高品質の七色ウールを両者ともに持ち帰った。それによって依頼主である領主は満足し、報酬に加えて報奨金も弾んでくれた。
依頼の品を忘れて戻ってきたワイムスに減点がついたことで勝負は俺の勝ち。

だが、ギルドマスターが発表する前にワイムスが自ら言ったのだ。


「俺の負けだ」

ベルカイムに戻った翌朝、ギルドに呼ばれて応接室に通された俺にワイムスが告げた第一声。
不貞腐れた顔で何言ってんだろと呆然と凝視していたら、ぎろりと睨まれた。

「いや、えっ?…えっ?……うえっ?!」
「何度も言わせるんじゃねぇよ!聞いてたんだろ!」
「うんはい、ええ、まあ、聞いてました、はいはい」

だけど耳を疑うのは当然だろ?
俺だけじゃない。招集されたウェイドもグリットも、勝敗の結果を知らせようとしていたギルドマスターすらも口をあんぐりと開けている。

「…昨日の夜、言われたんだよ。エリルーに。俺がこのまま勝負に勝ったとしたら、タケルの邪魔をしたことをギルドに言うって」
「あぁ?テメェ、そんなことしてやがったのか!」

ギルドマスターの激高が飛んだが、ワイムスは続けた。

「ちげぇよ!いや、その…邪魔をさせたのは、事実だ。それは…悪かった」

おやまあワイムスが頭を下げた。
あの、ワイムスが、まさか、素直に、謝って、

「くるとは!」
「うるせぇな!悪かったって言ってんだろうが!」

あれ
あまりの衝撃に思っていたことを全部口にしていたらしい。

俺の間抜けな驚き方にギルドマスターの怒りも萎えたようだ。あそこで無駄に威圧を飛ばされるとワイムスが委縮してしまい、言いたいことが言えなくなるじゃないか。
ギルドマスターの巨体を押しのけ、ワイムスに続けさせる。

「ほんとに悪かった。だがな、エリルーに言われる前に俺は負けたと思っていたんだ。アンタの仕事を見て、俺は絶対に敵わないって思い知った」
「荷物さえ忘れなかったらお前が勝っていたかもしれないだろ」
「それは…、そう、かもしれねぇけど。いや違う。それでもアンタに……勝てる気がしねぇ」

ワイムスは悔し気に、絞り出すように言った。

「負けたくねぇよ。勝ちてぇよ。でも、なんていうか……この勝負に勝っても嬉しくねぇんだ」

圧倒的な力の差ってのが世の中にはある。
こういうことは俺が言うべきことじゃないから黙っているが、これ勝てないな、って本能でわかることがあるんだ。
それはワイムスにとってどれだけ悔しいことか。負けたくないと、妨害を企んでも勝ちたいと思っていた勝負。自分の全てを懸けていたのだろう。認めてもらいたくて必死になったんだ。

俺は俺に出来ることをやっただけ。特別に手を抜いていたわけではない。そりゃ全面的に魔法を頼れば勝負にすらならないのはわかっていたが、それだとワイムスの未来すら潰してしまうことになる。

ワイムスもただのおバカなわけではない。おバカだけど。
狡賢いやつは頭の回転もそこそこに速い。動物的直観と言うか、それこそ本能で悟ったんだろう。俺には何をやっても勝てないと。
そして、学んだんだ。俺相手にズルをして勝利を収めても、己の実績にはならないと。満たされるものは無いのだと。

「アンタ言ったろ。俺が、俺でいるかぎり…指名依頼は増えないって」

言いました。
傲慢自己中で短気のままじゃ贔屓にしてくれる人なんて一生現れない。腕に自信がどれほどあっても、その腕を生かしてくれるのは全て顧客なんだ。その顧客を大切にしないやつは自滅するのが関の山。

「俺は頭悪いからよくわかんねぇ。でも、なんかわかった気がする。アンタに勝ったとしても、俺の指名依頼は減っていくんだろうって」

うん減る。あっという間に減る。むしろ後ろ指刺されまくる。

「……タケルさん、そんなはっきり言わなくても」

また心の声を口にしていたか。グリットが顔を引きつらせながら俺を宥めるが、俺は止めない。

「あのさ、俺が見たり聞いたりした範囲でしかわからないが、冒険者の大半が仕事に対して誠実じゃないんだよな。そりゃ自分の命が第一なのはわかるが、身の丈に合わない依頼を受注して偽物を納品するヤツがいる。しかもそれが当たり前のようにやっている。危険な仕事をしてくれているのだから、そのくらい我慢をするべきだと客は黙認するだろ?でもな」

そこで偽物を納品しない、拘るべきところはとことん拘る冒険者が現れてみろ。しかも依頼料は定価。
当たり前な話だが、客はそっちに流れるだろ?

なるべくわかりやすく説明をした。
だがワイムスはもう反抗しない。すでに理解しているかのように、黙って聞いていた。
そして暫くの沈黙の後、ぽつりと呟く。

「俺が依頼主だったとしたら…仕事を選ぶ俺よりも、アンタを選ぶ」

完全に納得するには時間がかかるだろう。自分の信念とか貫いてきたものを一度否定して見直す作業というのはとても辛い。間違いは認めたくないものだ。
領主の娘にも言ったことがあるが、間違いに気づくことこそ立派なんだ。もしかして?という些細な疑問だけでもいい。些細なことにすら気付かずにいたワイムスは今、ようやく自分と向き合うことが出来ている。

「自分が出来る範囲でいいんだ。背伸びなんてしなくていい。無理もする必要はない。だが、依頼主には常に真摯でいろ。嘘はつくな。誤魔化すな。望みの品が手に入らなかったら、正直に言え」
「だけど」
「何事も地道に、ゆっくりとな。焦るな。お前が仕事をしっかりとこなす採取家だと知れ渡るには時間がかかるかもしれないが、それでも継続していけば必ず結果が出る」

自分にも嘘をつかず、誤魔化さず。

「お前を信じてついてきてくれる人は必ずいる。エリルーだってお前のことを考えてくれている。グリットさんやチェルシーさんもだ。その人たちを決して裏切るな」

必ず出来る。チェルシーさんのためにダンゼライまで行って花を探せる熱意があるのなら、その熱を仕事に向けるだけでいい。
少なくとも俺の話に耳を傾け、己の負けを認めたワイムスは前進した。一歩も二歩も前に進むことが出来た。
だから大丈夫。ワイムスはきっとランクB冒険者にふさわしい男になれる。

「俺のことも絶対に裏切るな」

頬を紅潮させ、目を輝かせるワイムス。深く何度も頷いた。

「俺のこと騙そうとしたらゲンコツ一発じゃ済まさねえからな。足の小指をタンスの角にぶつける呪いをかけてやる。それも延々と!」
「やめろ!」

聖人君子でいろとは言わない。
仕事に関して誠実でいろってだけ。そういう冒険者が少ないのなら、これから需要はどんどん増える。悪に染まるな。流されるな。

きっとなんとかなるって。


***( ゚Д゚)***


ワイムスの敗北宣言により素材採取勝負は俺の勝利となり、ギルドから大々的に発表された。
俺を指名依頼してくれているやつらは喜んでくれたようだ。賭け金の行方がどうなったかは知らないが、ギルドマスターに一喝されてうやむやにされたとかなんとか。
祭りにかこつけて騒いでいたベルカイム民も翌日には日常を取り戻し、採取勝負大会なんてなかったかのように日々は過ぎていった。

盗賊に遭遇したことはワイムスからギルドに報告が行った。まさかそこまで危険な目にあっていると知らなかったギルドマスターは、珍しく頭を下げてきた。盗賊どころじゃなくガロノードバッファローも出てきたんだけど、対モンスターについては心配していなかったと言われ、俺の腕をどんだけ買っているのだと呆れた。
盗賊については正直に報告。ダンゼライ所属の竜騎士がやってきて、二人を連れて行ったと。これまた嘘はついていない。それだけじゃないだろうと追及されたが、まさか安らかな睡眠を与えましたとは言えずに黙っておくことに。
報酬に関してはダンゼライに戻った竜騎士に一任しているため、あっちでなんとかするだろうとのこと。エウロパに報告されるのは半年後だけどな。

俺は蒼黒の団に戻り、クレイに説教されつつプニさんの我儘に翻弄されビーの全身を風呂で磨きまくるいつもの毎日。
Aランクの依頼を手伝い地味依頼をこなし、指名依頼を片付けていた。

ワイムスは性根を叩きなおされ、グリットの指導のもと文字の読み書きを教わっているらしい。エリルーも一緒になって毎日頑張っているのだと。まだまだ反抗的だし憎まれ口は止めないらしいが、それでも逃げ出すことなく勉強を続けているのだとか。
タンスの角に小指をぶつける痛さは想像するだけで恐ろしいからな。脅しが効いたのかはわからないが、このまま頑張ってほしい。

チェルシーさんには七色ウールで編んだひざ掛けをあげる予定だ。なんとペンドラスス工房の看板猫娘、リブさんが編み物の名人らしく、立候補してくれた。報酬は七色ウールでいいと言われ、ふわふわの塊をまとめてあげたら喜んでくれた。可愛い。


ルセウヴァッハ領はそろそろ晩夏。街道の小麦畑が黄金色の海に変わる。



「え?」

肉厚のパンにバターと目玉焼きと醤油で朝食を楽しんでいた俺に、ギルドからの招集命令。俺の食事を邪魔するものは何人たりとも許しはしないと思いつつも、黙って従ってしまう所詮は社畜。ワイムスに偉そうなことを言っていた俺が上の命令を無視するわけにもいかない。

「で、あるからしてお前はこれからFBランクになる」
「は?」
「ピュー?」

呼び出されたギルドマスターの執務室で突然言われた謎の言葉。
えふびーランクってなんぞそれ。
フェイスブッ…

「マスター、説明が足りないようです」
「おっ?そうなのか?いやしかし、オールラウンダー認定は誰もが知っていることだろうが」
「少なくともタケルは知らないかと」

呆れ顔のウェイドに説明を促されたギルドマスターは、巨体を揺らめかせ俺にのっしのしと近寄ってきた。
ローブの下で俺の腹に巻き付いているビーに緊張が走る。爪立てんな。

「これは説明を聞く前に、俺が質問したほうが早かったり?」
「そうだな。タケル、わかんねぇことはまず聞いてくれ」

言われ、

「フェイスブッ…FBランクってなんでしょか」

はじめて聞くランクについて教えてもらうことにした。
FBランクというのは、通称オールラウンダー認定者と言われ、下は最低ランクのF依頼から、上は高ランクのB依頼まで幅広く受注することが出来る冒険者のことを言うらしい。
冒険者の中でもオールラウンダー認定を受けられるものは稀であり、各ギルドの采配で決められる特別なランク。ちなみにFAランクは存在しない。

そもそもギルドというのは国から完全に独立した組織。ギルドという小さな国のようなものだ。エウロパはアルツェリオ王国に所属しているが、国や王からの指示や命令には一切応じる必要のない特権がある。その代り、冒険者から徴収した税を各国各領に納める義務はある。所属している国に重大な危機があれば所属冒険者を派遣する義務もある。しかし、第三者の介入を許さない。
そのため、俺のオールラウンダー認定もギルドの独断。王様や領主の許可は必要ない。

「ええと、つまり…俺は地味依頼もBランク依頼も…その中間ランク依頼も受けられるってわけ?」
「そうだ。テメェがさんざんランクアップしないと言うていたからな、それならばランクFのままランクBまでの依頼を受注出来るようにしてやれとな」

うわあ。
なんていうかうわあ。
それってつまり、俺の仕事が数十倍にも増える可能性があるってことだろか。
それよりも、そんな都合のいいランクが存在していたことに吃驚だ。

「お前の仕事に対する姿勢が依頼主の中にも伝わったようでな、アイツを最低ランクにとどまらせてしまうのが自分たちのせいならば、追加料金を支払ってもかまわぬからタケルのランクアップをしてくれと嘆願された」

まじか。
ワイムスに絡まれたとき大通りで仕事について言ったこともあるが、あの時のことが伝わっていたのか。わざわざ宣伝したわけではない。しかし、結果としてそうなってしまったようだ。

「依頼主のことを考えてランクアップしねぇ冒険者なんて他にいねぇんだよ。言っておくがな、シリウスのザンボからしつけぇくれぇテメェのランクアップを懇願されていたんだ」
「ザンボさんまで?!」
「あのやろう、テメェの腕をFランクのままくすぶらせておくギルドにこそ、問題がありやがるとまでぬかしやがった」

まさか俺の我儘でギルドにまで迷惑がかかっているとは。
おまけにドワーフ王国の受付主任まで巻き込んで。

「オールラウンダー認定冒険者の依頼料は据え置きにすることは出来ない。多少割高ではある。だが、依頼主と金銭の直接交渉が出来る。ギルドには一定の税を納めてもらえりゃあとは自由にしやがれ」
「そんなこと出来るのか」
「それだけ信頼されているってことだ。オールラウンダー認定冒険者は世界に数十人しかいねぇ。テメェはアルツェリオ王国内で五人目だ。テメェの我儘を叶えるにはこの手しかねぇと思ってな」

それって、ランクS冒険者よりも数が少ないってことじゃないか。
最低ランクからBランクまでの依頼を受注できる冒険者。そんなのギルドからよっぽど信頼されていなければなれない。

「テメェは採取専門家だがランクAが率いるチームの一員だ。特別措置ってことで今回の采配となった。採取専門家でオールラウンダー認定者はお前だけだ。これは俺の独断じゃねぇぞ。エウロパ職員の同意と民の願い、それからルセウヴァッハ卿からの推薦もある」

領主までも!

「どうする、タケル。テメェのことを考えていやがる奴らの気持ちを裏切ってFランクのままでいるか。それとも、誰もが願う結果を選ぶか」

そんなこと言われて絶対にランクFがいいと言い張れる度胸は俺に無い。
少なくともベルカイムは気に入っている。チームの本拠地はここでいいんじゃないかと思えるほど、この街が好きだ。
俺はチームに所属している身だから、俺の判断一つでチームの存続すら危うくなるかもしれない。クレイやプニさんなら俺がどんな決断をしても受け入れてくれるだろうが、もうそんな問題ではないんだ。

「ギルドマスター、ウェイドさん、本当にいいわけ?」
「何がだ」
「俺って得体わかんないままだろ?出身地だって正直言って誤魔化しているし、ほら、俺をそんな特別な冒険者にして後で困ったことになったりとか」
「黙りやがれ!!」

ガッと怒りを露わにしたギルドマスターの威圧で、強風が突き抜けたかのような感覚に陥った。ウェイドは慣れたもので両耳を塞いで目を閉じている。正面から罵声を浴びた俺の顔にはマスターの飛び散ったツバ。うへえ。
俺は腹に深く刺さったビーの爪に静かに耐えていた。

「俺を舐めんじゃねぇ!テメェの厄介ごとの一つや二つ、この俺が払い落せなくて何がギルドマスターだ!」
「舐めてはいないんですけど」
「テメェの得体が知れねぇのは今にはじまったこっちゃねぇだろうが!」
「ええまあそうですね、はいそうです、あ痛ッ!」
「誰しも触れられたくねぇもんはあるもんだ。そんなちっけぇことでこのエウロパが傾くとでも思ってやがったら、ぶっ叩くぞ」
「ぶっ叩いてから言うな…」
「ピュイィ」

巨人族の小突きは常人の全力殴りに匹敵する。クレイのひっぱたきにも似たギルドマスターのゲンコツに頭を抱え、睨み上げた。

「俺は所属会社…じゃない、世話になっているところになるべく迷惑がかからないようにって」
「ケツの穴のちいせぇことぬかすな!」
「やだお下品」
「うるせぇ!テメェの迷惑なんざほかの冒険者やろうどもに比べちゃガキのままごとなんだよ!」

ギルドマスターが再度拳を振り落とすが、今度はそれを余裕でかわす。
出てきて対抗しようと暴れるビーをなんとか宥め、さてどうするかと考えていると。

「マスター、頭ごなしに叱りつけてどうするんですか。マスターが怒鳴りつけたところでこの男が従順になるもんか。タケルも、もう俺たちに遠慮なんかすんじゃねぇ」

ウェイドに言われ、ああと気付く。
遠慮なんてしているつもりはなかった。だがやっぱり不安ではあった。
俺の力のせいで誰かに迷惑がかかるのは御免だし、俺の知らないところで誰かが困ったことになるのも嫌だ。
この考えがギルドに対しての遠慮だとしたら、遠慮しまくってたな。

「遠慮というか、面倒なことになるのがめんどくさい」
「ああ、わかっている。アンタの口癖だからな、それは。ギルドは所属冒険者の自由を重んじる。アンタが嫌がる仕事はなるべく……引き受けなくていいし、アンタを余計なことに巻き込むつもりもない。そうでしょう?マスター」

興奮して顔を真っ赤にしていたギルドマスターが次第に落ち着いていく。
巨大な椅子にどすんと腰掛け、長く長く息を吐き出した。

「タケル、テメェがどんなヤツでもかまやしねぇ。テメェの達者な口は正直ムカつくが、テメェの冒険者としての腕は一流だ。だからその腕をエウロパに貸せ。今以上に」


真剣に言われ、俺はただ黙って頷いた。






+++++++

FBランクはエフビーランクと読みます。
もっとかっこいい名づけが出来たらと頑張りましたがこの結果でした。
そんな都合のいいランクがあったら最初っから提案しとけというお話ですが、それはまた次回で捕捉。

異世界なのに英語なの?という疑問は愚問です。
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