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連載

円花の・・・

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 そう慎重に考えていたのだが……ここまで武器の能力頼みで来るとすがすがしい気分にすらなりそうだ。何も考えず、ただひたすら剣先を自分に対して我武者羅に飛ばしてくるだけなのだ。自分を壁際に追いつめていくとか、避けずらい様にタイミングをずらしてくるとかそう言った事は一切なしで、本当にただただ連射してくるだけ。もう目も慣れてしまったので余裕でこちらは対処できる。そもそも慣れてしまえば、ブルーカラーのメンバーの振るってくる攻撃速度よりはるかに遅いし。

「なんでだ、なんでこんなに攻撃してるのにあたらねえ!? くそが!」

 悪態をつきながら攻撃してくる剣の持ち主だが、今の自分ならあたりゃしないってのこんな稚拙な攻撃。それにむやみやたらと攻撃を続けているせいで、男の息が上がってきている様子もうかがえる。もういい、これ以上付き合う理由も無い事だし、見るべき所もなさそうだ……行くか。

「円花」

 円花を具現化させて、速度が落ちてきた剣先を一閃。その一撃で、相手のスネークソードの刀身の半分ほどが簡単に砕け散る。剣は良い物だったんだが、扱う人間がこれじゃな。刀身が砕けた事により、ほぼ使い物にならなくなったスネークソードを男が呆然と見つめる。

「──、あ? え? なにが?」

 ふむ、目の前の現実を受け入れられないか。その隙だらけの姿を見て、追撃する気も失せる。ちらりと地面に転がったスネークソードの刀身を見てみると、あまり手入れをされていないように感じた。まあスラム街で剣の手入れを十分に行うのは難しいのかも知れないが。

「何だ、そのお前の剣は……いつ抜いた? どこにあった? 今まで多くの剣や槍をぶった切って来た俺の剣を斬り裂くだと……? よこせ、それを俺に寄こせ! そいつがあれば俺はもっと奪える! 殺せる! 楽しめる!」

 意識が戻った途端にこれか。詰め寄ってきたので蹴りで迎撃。カウンター気味に蹴りが入って男がふらついたので、ここで一発アーツをぶち込むことにした。

「エルフ流蹴術、《風華蹴》」

 ロー、ミドル、ハイキックと連続攻撃を決めて、とどめの飛び蹴りで男を壁に叩きつけた。もうこの詰まらない戦いを終わりにしようか。それに、こいつは今まで早々の人間から色々と物と命を奪ってきたことは、その言動から容易に想像がつく。おまけにこいつは円花を手に入れて、もっと強奪と殺戮を続けるつもりでもあった様だから生かしておくと他の人をもっと傷つけるだけだろう。ここまで来ると、どうやっても救いようがない。

「なん、で、俺がこんな目に……」

 そんなつぶやきが男から聞こえてきたが、自業自得に因果応報って所だろう。この手の人間は死ぬまで理解しない。いや、死んでも理解しない。リアルにも時々いるからな……他者に散々迷惑をかけておいて、その復讐とか反撃を食らったら『俺が何をしたんだよ』って言ってくる奴が。そしてそいつに迷惑をかけられていた人達が理由を述べても『俺は悪くない、お前達が悪いんだ』と責任転嫁。自分がどれだけ暴力や暴言、行動で迷惑を周囲に掛けているのかを全く理解できない無知さという罪を背負っている事自体を当人が全く自覚できないのだ。

「理解できないか? じゃあ聞いてみようか? さっきからこっちを見ている連中、こいつに死んで欲しくない奴が居たら手を上げろ」

 こいつを斬る前に少しだけ現実を見せてやろうと思った自分は、戦いが始まってからこっちの様子をうかがっている連中にそう声を投げかけた。──そうして少し時間を置くが、手を上げる人は一人も居なかった。

「ではもう一回だけ質問だ、こいつは死ぬべきだと思う奴は手を上げろ」

 自分が言葉を言い終えるよりも、周囲にいる人々の行動の方が早かった。何せ一斉に全員が手を上げたのだから。

「俺の金を奪いやがって」「私の子供を遊び半分で殺したアイツに生きていてほしいなんて思わない!」「ワシの数少ない着物を奪った」「いっつもいっつも言いがかり付けて殴って来るし、剣をちらつかせて必死で稼いだお金を奪ってく! あんなやつ消えちゃえ!」「何も迷惑をかけていない妻を一方的な言いがかりで殺された! あいつは死んで当然だ!」

 と言った感じで、周囲の人達が呪いの呪詛を倒れている男に投げかける。やっぱりこの手の奴ってのは大半がこういうあくどい事をやらかしてるんだよな。だから、きちんとここで斬っておくべきだと再認識。ここで変に生かしたら、この周囲に入り人達に絶対襲い掛かるのは火を見るより明らか。ではやる事をやってしまおうと自分は手を上げて周囲の声を抑える。

「だ、そうだ。お前が今そんな目に合っているのも、お前が今までやってきた行いが原因であると理解……できないだろう。出来る奴はまずやらないし、な。まあこれから理解する事はたった一つだけでいい。それは──」

 ここで自分は言葉を一回区切り、男の頸動脈付近を円花で切り付けた。当然ながら男の首から大量の血が──ある程度グロ過ぎないように修正されてはいるが──噴き出す。

「ここでお前が死ぬって事だ。即死なんてさせてやらない。死ぬまでの間、少しでも周囲の人々に与えてきた痛みや苦しみの十万分の一でもいいから味わっていけ」

 男は反射的に首を手で押さえようとするが、円花で手をほどほどに切りつけてそれを阻止する。残虐行為そのものであるし、他のプレイヤーには見せられない光景なんだが……こういう手合いには容赦をしない。そして目も逸らさない。たとえどんな世界であっても、自分のやった行為から目を逸らせば、今のたうち回って苦しんでいる男と同類になってしまう。それだけは絶対にお断りだ。そしてそのまま男は苦しんだ後に息絶えて光となって消える。それと同時に湧き上がる歓声。その歓声を聞きながら、自分の意識は突如急激に薄れて行った──


「ここ、は?」

 目を開けると、そこには昨日ログアウトした宿屋の天井があった。えっと、さっきまで自分はスラム街にいたのでは。

(マスター、どうしました? 何か問題がありましたか?)「ぴゅい?」

 聞こえてきたのはルエットの念話とアクアの鳴き声。ん? ルエット? ベッドから上半身を起こし、装備やアイテムボックスの中を確認する。──すべてのアイテムが正常に表示されている。お金もきちんとあるし、左手の指輪もある。反射的に右手も確認したが、そこにもちゃんを魔王様から貰った指輪がはまっていた。武器はもちろん弓もあるし、足の補助具であるマリン・レッグセイヴァーもちゃんとあった。

(さっきまでのは、もしかしなくても、夢?)

 夢落ちとするにははっきりと覚えているし、そもそも夢なんてワンモア世界では見た事も無かった。それに、あの男から受けた殺気とかもただの夢で片付けるにはちょっと……と考えていた所に、インフォメーションからお知らせが届く。


INFO

貴方はその身に取り込んだ魔剣・円花のトラウマの一つを破壊しました。これによって円花を実体化させたときのMPコストが25%軽減されるようになりました。


(トラウマを、破壊?)

 トラウマって……つまり、あの夢? は円花が辿って来た過去の一部分で、あの男にああやって使われていた時期があったって事になるのか。そして、その時の円花を破壊して使い手の男を斬った事により、その忌まわしい記憶の一つが消えた、って事で良いのか? 想像するに、あの男は本来ならあのスラム街でもっと大勢の人を傷つけ、物を奪っていたんだろう。その後何かがあって円花は他の奴の手に渡ったんだろうけど、さすがにそこから先は現時点では確かめようがない。

(マスター、本当に何がありました? あまり顔色が良くない様にも見受けられますが)

 ルエットの言葉に首を振る。とりあえず、この一件は保留だな。もし第二、第三の同じような夢を見る様な事があればその時は何か考える必要があるとは思うが、それはそうなった時に対策というか行動指針を決めればよいか。それにしても、円花の過去か。あんまり他者の過去を覗くってのは悪趣味に感じるからやりたくはないのだが、円花が見せたいと感じたのであれば付き合う必要がある。それが取り込んだ者の義務だろう。

「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事があったのは事実だが……もし事が大きくなる時はルエットにも相談するよ」

 とルエットに返事を返してベッドから出て身支度を整える。さてと、嫌な物を見てささくれだった心を落ち着かせてくれるようなイベントは無い物かなーっと。


 ***

 書籍化関連の作業の為、更新が少なくなっております。申し訳ないです。

 それは別として、ドラゴン○ールゼノバースの1&2に出て来る魔人族の女の子って結構かわいい子が居ませんか? ぜひ一度握手してみたい所です。
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