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第4章

終幕:局面打開

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「これがFBランクのギルドリング」
「ほう、なるほどな」
「ピュイィ」

ベルカイム屋台村のイートインスペースにあるいつもの定位置。
机の上に置かれた白金のギルドリング。美しい細工が刻まれたそのリングは、アルツェリオ王国内でたった五つしか作られていない。
装飾された小さな青い宝石は魔石であり、所有主以外にこれを所持しようとすると身体に電撃が走るという危険仕様。なんとこのリングを見せれば大金すら借りることが出来るのだ。どんだけ信用されているんだ。

冒険者と言えば問題児揃いの人間であるから、AR(オールラウンダー)認定というのは余程のことがない限り与えられることが無い。つまり、アルツェリオ王国内で認定されているAR達は余程信頼されている、腕も良いギルドが認めたお墨付きの冒険者だということだ。
俺にそこまでの価値があるのかはわからないが、信頼面においては自信がある。
嘘も誤魔化しもしないからな。

「AR冒険者は保証人(パトロン)がおらずとも信用面で保障された冒険者のことを言うのだ。このギルドリングは俺のAランクリングよりも貴重なのだ」
「なんだか恐れ多いな。俺よりもクレイにあげればいいのに」
「俺はもともと竜騎士であるからして、冒険者登録をしたときにはCランクであったのだ。お前と違って率先してランクアップ審査を受けたしな。ギルドもARにする必要はないと踏んだのであろう」

信頼されるのは有り難いことだが、ギルドお墨付きっていうのは少々荷が重い。
義務とか責任とか増えると、いくら自由人冒険者でも動きにくくなる。

「お前は加護を受けしものであるのですよ?お前の秘めたる力はわたくしをも凌駕するほど。普通のつまらぬ人間であろうとしても無駄なことです」

白金のギルドリングをつまらなそうに見下すプニさんは、俺お手製の水餃子に舌鼓を打っている。ちなみに、今日の昼飯はこの水餃子スープです。
ワイムスはあれ以来トゲトゲしさを少しだけ控え、淡々と依頼をこなしつつ文字の読み書きを教わっている。時々俺にこの本読んでくれ、なんて頼んでくるようになったのだから見事な進歩としか言えない。エリルーのほうが飲み込みが早いらしくて、負けるものかと切磋琢磨しているようだ。

そのワイムス。俺が作った水餃子がまた食べたいと口を滑らせた。クレイの怖い顔が真剣に「俺は食べたことがないぞ」と言い出し、ビーはずるいずるいとピーピー抗議し、プニさんは「今すぐにお作りなさい」と命令した。

「普通のつまらん人間でじゅうぶんなんだよ」
「ピューイ?」

余りある魔力のおかげでこの世界でなんとか暮らしていける。もしもこの魔力がなく、ビーと出会うことがなかったら俺はもっと早くに死んでいたかもしれない。
だから日々何事にも感謝をしなければならないのだ。当たり前なことに慣れてしまうと傲慢になりがちだ。それだけは気を付けないと。

人が抱く欲というのは際限がない。
豊かな暮らしをしたい。美味しいものが腹いっぱい食べたい。綺麗な服が着たい。他の人が持っていないものを持ちたい。
そうして行きつく先は不老不死だの永遠の美だの。

俺はかなりの贅沢ものだと自負している。毎日三食うまい飯が食えて、風呂に入れて、暖かな布団で眠れる。頼りになる仲間がいて、頼りにしてくれるやつらがいる。贅沢だよな。
多すぎる欲というのは身を亡ぼす。あれもこれもと欲をかかないよう、平凡な日常に感謝して日々を着実に生きていきたい。
ただでさえ人間離れした力を持っているんだから。

「AR認定冒険者であることを誇りに思えばよかろう。お前は余計なことをごちゃごちゃと考える悪い癖がある。与えられたものを素直に喜べ」
「いや喜んではいるんですこれでも」

新入社員から突然部長クラスに昇進した気持ちなんて、きっと誰にもわからないだろう。
もちろん管理職とかそういう面倒なことは無いが、それでもやはり珍しいランクということで注目はされてしまうだろう。現にギルドからダダ漏れた俺のAR認定情報は狭くないベルカイムを駆け巡り、色々な人からお祝いの言葉をもらってしまった。

それだけギルドが、エウロパが俺を信じ俺の能力を買ってくれているということだろう。
これは素直に喜ぶべきなんだが、面倒そうなことは全部任されるような予感がするんだよなあ。とりあえずアイツにやらせておけ、みたいな。

「栄誉の旦那!タケルさん!大変っす!モンスターが出たっす!」

ほらあ。



*****



屋台街のイートインスペースにギルド職員のスッスが第一報を伝えたのが正午。
直ぐにギルドに行くぞとやる気満々で立ち上がったクレイに着いていくと、ギルド前には腕に覚えのある冒険者たちが集っていた。
突発的なモンスターの襲撃には報奨金が出される。それ目当てなのだろう。

「おう、タケルじゃねぇか。お前も呼ばれたのか?」

顔見知りのDランク冒険者に声をかけられ、頷く。

「スッスに呼ばれた。モンスターが出たってことしかわかっていないんだけど、具体的にどんな?」
「ははっ、あの小人、慌てやがったな。モンスターってもフォレストワームなんだよ」

フォレストワーム?
って、なんぞや?
知らないモンスターはクレイに聞け。教えてクレイ先生。

「ふむ、このような場所に現れるとは珍しいな」
「凶悪なモンスターなわけ?」
「深き森に現れる温和なモンスターでな。その姿はおぞましく巨大なのだが、荒れ狂うほど人を襲うことはない」

モンスターと言っても全部が凶悪で肉食というわけではないのか。温和なモンスターというのがどういうものなのか見てみたい気もする。

「で、なんでこんなに慌てているの?」
「フォレストワームは乾いた大地を肥沃にする特殊な糞を出すのだ。その糞を田畑にまけば収穫量が跳ね上がる」
「えっそれじゃあ」

みんなもしかしてうんこ狙い?
どおりでFランク冒険者もやる気満々でスコップ持っているわけだ。
うんこ採取はアリクイでじゅうぶんだからなあ。

「クレイ、この依頼(クエスト)受けるわけ?」
「糞はランクCに該当するぞ?お前はいらぬのか?」
「うんこは遠慮したいのだけど」

突発的なモンスターの出現は指名依頼を出すことが出来ない。なので俺に採取してこいという依頼は出ないだろうし、これだけ他にも冒険者が集っている中で俺が俺がと出て行ったら確実に恨まれる。お前は引っ込んでいろって言われる。

「斥侯が戻ったぞ!トバイロンの森に出たフォレストワームは真っすぐドルト街道を目指しているようだ!」

大門警備隊の一人がギルドに血相を変えて飛び込んできた。
ドルト街道はベルカイムに続く大きな道だ。一番需要がある道であり、遠くアルツェリオの王都まで続いている。

「おいおい、森を出ようとしていやがるのか?そんなフォレストワームは聞いたことねぇぞ」
「大丈夫なのか?魔素の影響で暴走しているんじゃないだろうな」

冒険者たちに不安が走る。
うんこ採取だけならまだしも、暴走したモンスターの対処までは聞いていないとばかりに尻込みしはじめた。
そして一通りざわついた後、それぞれの視線が一点に集まる。
栄誉の竜王に。

「栄誉の旦那、すまねぇが様子を見てもらえねぇか?」

静まり返ったギルド内にウェイドの声が響く。
この場にいるAランク冒険者はクレイストンのみ。他の高位ランク冒険者はベルカイムを離れ依頼(クエスト)に従事している。昼までのんびりとしているAランク冒険者はクレイぐらいだ。暇人ってわけじゃないぞ。ガツガツしなくても生活出来る余裕があるからだ。

「任されよう。害を成すような個体であるならば、始末するが良いか」
「貴重なモンスターだが仕方がない。街道の安全を優先してくれ」
「わかった」

さて俺は後方支援でもするかなと思っていると、警備隊員がまた一人飛び込んできた。

「駄目だ!勢いが止まらねぇ!ありゃあ、確実にドルト街道を目指しているぞ!」

呑気なうんこ採取だと思っていたらあっという間に街の危機。冒険者たちは一斉に外に出、各々戦闘態勢。ランクが強さがなどと言っていられない。
ゴブリンの襲撃以来の緊張がベルカイムに走った。
人通りのある街道にまでモンスターが現れるのは稀。それこそ単体で出てくることは滅多にない。現れたとしても団体で、繁殖の為や縄張り拡張のため決まった季節に現れる。今回のように突発的にモンスターが現れるのは稀らしい。

「タケル、行くぞ!」
「はいはい」
「ピュイ」

ギルドを飛び出した俺たちはベルカイムの大門を出、数人のC〜B冒険者を伴ってドルト街道を北上。トバイロンの森にはもともとCランクモンスターが出没する。と、いうことを知らなかった俺は普通に奥まで入って採取していた。
わたくしの背に!と、キラキラおめめで訴えていたプニさんには自重してもらい、ひたすら走る。クレイの足の速さになんとかついてくる冒険者たちと、斥侯の警備隊員らと合流した。

「おおお!栄誉の旦那か!助かった!」
「フォレストワームだと聞いた。大きさは」
「すっげぇでかいんだ!こう、ブロニ大木くらいあるんだ!」

ブロニ大木とは主に建築材に使われる杉のような樹木。とてつもなく、でかい。

「直ぐそこまで…!あああ!見えた!」

深い森の奥から木々をなぎ倒す嫌な音が聞こえてくる。
街道を背に、俺たちは警戒態勢。

「タケル」
「わかっている。クレイのでかい槍だと木が邪魔になるから、槍術より体術のほうが小回りが利く。速度上昇(クイック)と軽量(リダクション)かければいいだろ」
「頼んだ」
「ピュイイ!」
「ビーは炎禁止。派手な風精霊術も控えておけ。プニさんは」
「わたくしは馬ですよ?馬は戦いに参加するのですか?」

そんな偉そうに言わなくても…。
プニさんは他の冒険者と共に見学をさせ、近づいてくる巨大な何かを待ち構える。
ずるりずるり…という気持ちの悪い地を這う音。
大木が倒れる音とともに暗闇を引き連れてくる不気味な何か。

「探査(サーチ)」

視界に現れる一つの黒い点滅。
他のモンスター反応が見られないということは、他のモンスターを薙ぎ払っているかこの個体が恐ろしくて逃げてしまったか。

「タケル!来るぞ!」
「ピュイッ!」

おかしなことに嫌な予感とか一切無いんだよ。そこまで警戒する必要ないんじゃない?って言いたくなるのをこらえる。
威圧感はあるけど、なんだか…懐かしい気配がするのはなぜだろう。

「こっちなのか?間違いではないのか?そうか!ならば任せよう!」

遠くから元気な声が聞こえてくる。
あれどっかで聞いたことある声。
いやだなあ、気のせいかなあ。

「うん?あそこに居るのは…クレイストン!ビー!おおお!タケルか!!」

やだああ、
もうやだあああ、
あんなの知り合いって言いたくないい



なんで巨大ミミズにまたがっているかなブロライトさん。







第4章終







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お疲れさまでした。

第4章終わりです。

異世界ファンタジーなのに何で社会人あるあるとかOJTネタやってんの、という章だったと思います。
しかし書いていて楽しかった章でもあったりします。
生みの苦しみというのも経験することが出来ました。
万人に支持される話なんか書くことは出来ません。特定の誰かに合わせて書くことも出来ません。
でもなんか続きを読んでしまう、というお話が書けたらなと思います。

次回から第5章がはじまります。
宜しくお願い致します。

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