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第5章

桃山茶の再来

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*ももやまちゃのさいらい*



残念

いや失敬。エルフのはっちゃけお嬢様、ブロライト嬢。
満面の笑みを浮かべてぶんぶんと手を振り、巨大ミミズの上からこんにちは。
ベルカイムからさほど離れていないトバイロンの森で久しぶりの再会となったのだが、色々と、それはもう色々と突っ込みたいところがたっぷりこんもりあるのだけど、とりあえず今は呆然とさせてもらおう。何してるのあの子。

「ブロライトか!久しいの!」
「クレイストン!首を洗って待っておったか!」

だからそれ敵に言う台詞だっての。
見上げるほどの巨大ミミズの正体はフォレストワーム。なるほどうんこが貴重と言っていた意味がわかった。
ミミズっていうのはそのグロテスクな見た目に反して土壌を肥沃に変える大切な虫。梅雨の時期になると何故かアスファルト上に出てきて干からびてしまう運命だが、ここまで巨大だとそのうんこの量たるや想像したくない。

「ピュイィ!ピュイーッ!」
「ビーも息災にしておったようじゃな!はははっ、相変わらずめんこいの!」
「ピュピュイ、ピュイ、ピュイィィ」

感動の再会は喜ばしいんですけどね。この巨大ミミズどうしたの。

「おいおい、タケル、あのエルフと知り合いなのか?」
「えれぇべっぴんさんだな!」

同じく呆然と立ち尽くしていた冒険者たちが次々と我に返り、大人しくなった巨大ミミズに近寄る。
巨大ミミズには暴れる気配など全く無く、ブロライトの指示に従っているようだ。首を下げ、ブロライトが降りやすい体制を取る。

「タケル!貴殿を探しておったのじゃ!」
「いやいや、感動の再会はとても嬉しいんだが少し待て。近づくな!」
「なにゆえ!!」
「臭いんだよ!」

あっ
言っちゃった

という心の声が聞こえる。薄汚い格好をしている冒険者たちも、さすがのブロライトの姿に目をそらした。ミミズのせいなのか全身土まみれで謎の粘液まみれ。綺麗なハニーブロンドはくちゃくちゃのもじゃもじゃ。生ごみを数日放置したようなやばい匂いをまき散らし、まさしく歩く汚物と化している。
だから、エルフの爽やかで神秘的なイメージを、よくもここまで壊してくれるな!

清潔クリーン展開ぃぃっ!」
「ぎにゃああああ!!」

腹に力を込めて特大の清潔クリーンを叩きこんでやった。



ベルカイムに戻った俺はギルドに一連の事情を報告。
ゴブリンの襲撃以来の緊張が走ったベルカイムだったが、幽霊の正体見たり枯れ尾花。その正体はブロライトが俺を探してベルカイムに来ただけだった。巨大ミミズをお共に。
しかもその立派なフォレストワームは俺にあげるために使役したのだと言われ、呆気にとられた。

「貴殿は一角馬を探しておったじゃろう?わたしは必死に探したのじゃが、どうしても見つけられなかったのじゃ。しかし移動手段は必要になるじゃろうと思ってじゃな、わたしの住処で仲良うしていた伽羅煤きゃらすすを連れて参ったのじゃ!」
「きゃ、きゃらすす?」
「フォレストワームの名じゃ!」

ドヤるな。

「ブロライトさん、ブロライト、あのな?いくら移動手段がほしいとはいえ、あんなでかいのは遠慮させてもらいたいんですよ」

でかい上にヌメッててヌルッてて妙な匂いまき散らしている、そんなミミズに乗って移動って、絶対に不審者だ。俺はまだ世捨て人にも変態にもなりたくない。

「なんじゃ。伽羅煤はとても賢いのじゃぞ?」
「賢いとか賢くないとかの問題じゃないの」

どうしようエルフ族って皆こんななの?ブロライトに悪気は一切ないとわかっているんだが、どうも価値観というか美的センスというか、そういう何かがズレまくっている。
ドワーフ王国ヴォズラオにあった大魔王クレイストン立像も、格好いいと連呼していたからなあ。純真な中学二年生が内側にいらっしゃるのか、それともエルフ族皆さんがこんな感じなのか。

「せっかく連れて来てくれたが、フォレストワームで移動するのは遠慮する」
「そうか。やはり一角馬のほうが良かったか」

あまり一角馬を推さないでくれないかな。
ブロライトは事情を知らないから仕方がないが、馬のことを言い出すと面倒くさいのが若干一名。

「一角馬なぞ所詮は血肉を持つただの馬ではありませんか。わたくしの足元、つま先にも及ばぬ存在」

ほら面倒なの来た。
大人しく串焼き肉を食っていたプニさんが声を上げた。プニさんは馬の神様だけど、その正体は一応秘密にしている。冒険者に憧れているイイとこのお嬢様という設定。
プニさんは豊満な胸を張ってブロライトを睨み上げる。ブロライトのほうが若干背が高いため、少しつま先立ちになっているのが可愛…とか言ってやらない。その串焼き誰から貰った。

「ぬ?これなる女人は如何した」
「あーーーーー、先ず説明するよ。俺とクレイストンはチームを結成したんだ」

そうして話したチーム結成に至るまでの流れ。
ヴォズラオから帰還して直ぐ、クレイストンをチームリーダーにエウロパ所属のチーム『蒼黒の団』を結成したこと。領主の依頼を受けてアシュス村まで行ったこと。そこで湖を守る馬の神様と出会い、なんでだかこの神様がついてきてしまったこと。

「神獣!」
「シーーーッ!それは一応秘密にしているんだよ」

まさか神様がチームメンバーだとは言えないだろ?
ブロライトはきらきらした目でプニさんを見ている。プニさんも満更じゃなさそうだ。

ギルドに併設された酒場の隅で、こそこそひそひそと話しを続けた。
突然現れた麗しのエルフに他の面々は興味津々だが、クレイが睨みを利かせるテーブルに近寄ろうとするものは現れない。ギルド三人娘の視線がとても痛いが。

「なるほどな。それならばわたしもチームに入れてはくれぬか」
「ああ。俺もブロライトに逢えたらチームに入らないか誘うつもりだったんだ」
「おおお!それはありがたい!若輩者ではあるが、貴殿らと再び相見える時のためにわたしなりに努力をしたつもりじゃ!」

そうしてブロライトが無造作に見せたローブの下。
しっかりとした上腕二頭筋に燦然と輝く黄金色のギルドリング。

「え。これって」
「わたしの所属はカリストであったのじゃが、あのギルドはわたしの住処から些か遠い。所属をダイモスに変えて精進したのじゃ」

ダイモスとはグラン・リオ・エルフ族の郷にあると言われているギルドらしい。エルフ族が運営しているギルドであり、他のギルドと一線を画す。依頼内容がとんでもなく困難で、通常Fランクで受注出来る依頼クエストがエウロパならDランク並み。Dランク受注はBランク並みと、レベルがとても高い。そのため、ランクアップ審査も厳しく、審査に通ったものは早々に上位ランクになる。
高みを目指す冒険者はダイモスを目指すのだが、いかんせんエルフの郷は許可された者しか近寄ることが出来ない。幻のギルドと呼ばれているらしい。
そんなギルドで日々精進しているとなれば、ランクアップも早い。もともとブロライトの潜在能力も相まって、最短でAランクに到達したのだとか。凄いな。

「チャスティアラ渓谷に生息するレオンシーザーの討伐五十体は流石に骨が折れたが、肉がなかなかに美味かった。じゃがやはりタケルの作る飯がいっとう美味い」

ちなみにレオンシーザーというのはAランクモンスターであり、獰猛かつ不死に近い肉体を持つライオンのような生き物。魔力が高く、傷を負っても即座に修復してしまうのだが。
それを五十体だって。

「うむ。ブロライトも精進したのだな。近く手合わせをしよう」
「おおお!栄誉の竜王との手合わせ!それは願ってもないことじゃ!」

ランクA冒険者が二人も所属するチームって他にあったかな…。
実はチーム『蒼黒の団』ってものすごく…ものすごい…チームなんじゃなかろうか。

「お前の纏う清浄なる気はわたくしの心地を穏やかにします。…なるほど、お前は」
「ホーヴヴァルプニル神よ、その先はここで口にせぬよう頼み申す」

ブロライトの動向を静かに串焼き肉を食いながら見ていたプニさんが、ふと口にしようとしていた言葉。それをブロライトが制する。
何を言おうとしていたのか気になるが、大したことは無いだろう。

「ひひん。隠し通すわけではないようですね。追々話すと良いでしょう」
「それは有り難い。無論、わたしの頼みを聞いてくれるのであれば何も隠すつもりはない」

そう。
それだよ。
巨大ミミズに乗ってベルカイム住民を不安に陥らせてまで、俺を探していたとか。

「ブロライト、頼み事ってなんだ?何かあるのか?」
「ピュゥーイ」

ブロライトはビーの顎を指で撫でると、パッと満面の笑みを浮かべて話した。

「タケルならばわたしの願いをかなえてくれると思うたのじゃ!」
「うん、内容によるが俺に出来ることなら」
「我が郷から出奔しゅっぽんしたわたしの姉、リュティカラを探してほしいのじゃ!」
「うん。うん?えっ?」

お姉さんが出奔。出奔って、いなくなったってこと?行方不明?

「リュティカラは郷の巫女。次世代の長を育むため選ばれた大樹の贄。ゆえに郷のものと婚儀を上げ、子を成す尊い役目を帯びたのじゃが、逃げてしもうた!」

なんかさらっと重たいことを元気よく言われた気がする。巫女とか…贄?贄って生贄とかの贄?

「お前の姉は巫女であったのか」
「うむ。わたしの一族は、所以ゆえあってエルフとしての血脈が濃くてな。なかでもリュティカラの魔力は一族を凌駕するほどに強いのじゃ」

エルフ族というのはもともと人間やドワーフよりも魔力が高い。その高い魔力を利用して大陸の何処かでひっそりと息づく種族。噂によるとエルフの郷には便利な魔道具(マジックアイテム)がたくさんあると聞いた。是非行ってみたいが、選ばれたものしか行くことが出来ない聖なる地。
そのエルフ族の中でも特に魔力の強いものは巫女とされ、一族を率いる次世代の長を育む役目があるという。
ブロライトのお姉さん、リュティカラさんも今世代の巫女であり、次世代の長を生む役目があったらしい。だが。

「好みでない男子おのこと契りをかわしたくないと駄々をこねてな。婚儀を上げるには条件があると言うたのじゃ」
「条件?」
「天空に瞬く燃える星の玉、深き海の底で輝く白き玉、この世のものとは思えぬ美しき白い天馬を所望した」

それってどこのかぐや姫。

「郷の若き男子おのこらは目の色を変え、躍起になって姉の所望する珍しき宝を探した。じゃが、流石に天高きところで燃える星は手に入らぬ。泳ぎを得意とするエルフでも深き海の底までは潜れぬ。ならばと、誰もが美しき白い天馬を探したのじゃ」

そういえばブロライトも探していたな。お姉さんが欲しがっていると言っていたが、そういう理由があったのか。
ヴォズラオのリュハイ鉱山に巣食うモンスターを討伐した報酬で綺麗な天馬が手に入り、意気揚々と郷に帰ったら郷の男たちに非難されたらしい。
そりゃそうだ。ブロライトは実の妹。なぜ婚儀の条件である天馬を連れ帰ってしまったのだと。

「姉は無理難題を押し付け、婚儀を諦めさせるつもりであったのじゃ。しかしわたしが…天馬を連れ帰ってしまったじゃろう?」

その天馬を譲ってくれと男たちの醜い争いが勃発。ブロライトがランクアップに夢中になっている間に天馬争奪戦がはじまり、気付けば天馬は何処かに逃げ姉も逃げ郷は大混乱。
いやいや、人が連れ帰った馬を譲れって、なんだそれ。そりゃそんな男とは結婚したくないだろうな。何を思ってお姉さんが逃げたのかはわからないが、行方がわからないというのは不安だ。

「巫女たるリュティカラが消えたことで郷を守る大樹が枯れ始めてしまったのじゃ。大樹には膨大な魔力を与えねばならぬ。膨大な魔力と言えばタケルを思い出してな」

そしてブロライトは巨大ミミズにまたがり、一路ベルカイムを目指して俺を探したというわけだ。
理由はわかった。要は逃げてしまったお姉さんを探せばいいんだろ?簡単な依頼ではないが、たぶん出来ないことではないと思う。俺の探査サーチは特定の人物を探すことは出来ないが、望むものを探し出す力がある。逃げたエルフというのなら、離れた場所にいるエルフの反応を追えばいい。

「お姉さんは結婚が嫌で逃げ出したんだろう?それなのに連れ戻してもいいのか?」
「連れ戻すわけではない。なにゆえわたしに何も言わず行方をくらませたのか、その理由を知りたいのじゃ」

ブロライトの大きな耳がしゅんとショゲる。
お姉さんにも理由があるんだろうけど、ブロライトの頼みにも応えてやりたい。ドワーフの国では世話になったからな。
それに、行ってみたいと思っていたエルフの郷!
映画やゲームの世界ではとても神秘的な場所として描かれていた。ブロライトの性格を思えばエルフ族に若干の不安があるが、それでもやはり神秘の種族。
これは是非ともブロライトの依頼を受けなくてはならない。

「わかった」
「おおお!ありがたい!」
「クレイはどうする」
「ブロライトが困っておるのだろう。仲間の危機を救わぬで何がチームだ」
「プニさんは?」
「馬がおらずして何処へ行くというのですか。わたくしの足ならばエルフの郷など容易き道のり」
「ピュー」
「よし。それなら、次の依頼クエストはブロライトのお姉さんを探すってことで」


「報酬は伽羅煤きゃらすすの糞でどうじゃ?」



それは遠慮する。







++++++

第5章開始です。うぇーい

ちょっとだけ長くなるかわかりませんが、お付き合いをお願いいたします。
脳内で妄想している世界をどうやったら読み手さんに具体的に伝えられるかが、今回の課題。


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